She may get happy.後編


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―――――――









 数時間後。
 ひとしきり泣きじゃくったわたしは気が付いたら眠ってしまっていて。
 もうあたりは暗くなりかけてるけど、澪の行ったであろう場所へ向かうことにした。


「澪……」


 いた。
 場所は、やっぱり最初に赤ちゃんを見つけた川原。
 澪の立っている場所へと小走りに駆けてゆく。

 あれ、あの子を抱いてない……?


「あ、律」
「うん……赤ちゃんは?」
「私、律に『親がいなきゃ駄目だ』って言われて、
 自分の過ちに気が付いて警察に届けを出そうと思ったんだけど」
「うん」
「『もしかして、あの場所に親がいるかも』って思って、ここに来たんだよ」
「……」

 まさか……。

「そしたら、予想通りで、母親がいてさ。必死な顔で『わたしの子を返せ!!』って言われちゃって」
「は……?」
「なんで捨てたんですか、って聞いたらさ。
 『育児に疲れて、魔が差したけど、もう2度とこんなことしない』、だってさ」
「それで、どうしたの?」
「絶対ですか、って言ったら思い切りうなづかれて、土下座までされたよ。だから、返してあげた」



 澪は少しだけはは、と笑ってみせた後、ちょっとだけまじめな顔をして、

「……これで、良かったんだよな」
「うん。えらいな、澪は」
「わがまま言っちゃってて、ゴメンな、律」



 なんか、澪は一皮むけたようで、とても清清しい雰囲気を漂わせている。
 赤ちゃんの一件を振り切ったのはわたしにとっても嬉しい。





「ね、澪。ここ、座ろ。コンクリートだから汚れないよ」
「そうだな」




 わたしが橋を支えている柱に背中をもたれるようにして座ると、そのすぐ横に澪は座った。
 肩が触れ合う程近い。
 わたしの手の甲に澪の手のひらが重なる。




「ね、澪……?怒ってるよね?」
「怒ってないよ」
「だって、わたし……ひどいこと言っちゃったし」
「……」

「あのね」



 やば、また涙が……。
 澪の前で、涙なんか見せたくない。
 けど、伝えたいことがあるから。



「あの、ね……」
「うん」




「みおの、きもち、を……ね」
「うん」




「わか、って、な……ひぅ、いって」
「うん」




「わかり、ぅぐ、たく……な、い……って」
「うん」




「ひぐ、いっ、た、ぅ」
「うん」




「じゃ、ん……?ぅぅ」
「うん」




「ほんと、は……、ね」
「うん」




「すっごく……す、ご、ぅく、ね」
「うん」




「わかって、て……ひぅ、ぐぅぅう……ね?」
「うん」



「ひ、ぅうう……」
「……」




 こんな泣き顔、見せたくない。澪の方を向けない。
 目の前を流れている川が、ゆらいで、にじんで。
 隣で頷いてくれる澪が、優しすぎて。その声が暖かすぎて。
 溢れるものを抑えられない。




「二人で、そだて、よ、って……ぅうぅ」
「うん」




「うれし、く、て……」
「うん」




「でも、」
「分かってる」
「え……?」




 頷いているだけだった澪が、口を割り込んできた。



「ゴメンな。わたしがわがまま言ったせいだ。律が正しかったよ」
「う、ん……」





 よかった……。
 あと、一番ききたかったことをきかなきゃ。



「で、ね……?」
「うん」




「み、お……が、わたしの、こと……」
「……」





「きらいに、なった……んじゃな、ぃ、かって……」
「……」





「おもっ、ちゃっ、て……く、ぅぐ」
「……」





「ぅぅっ、こわ、く、なっ、て」
「……」






 ふいに澪はわたしの肩に体重を預けて、頭をこちらに倒してきた。
 なんか、澪の重さが少しだけ感じられて、目を閉じていても存在を認識できる。
 これってけっこう嬉しいかもしれない。

 澪と出会って、こんな風に喧嘩したことはそんなになかった。
 少なくとも、わたしが涙を見せたのはいままででも片手で指折り数えられるほどしかない。
 そんな自分だったからこそ、怖かったんだ。 

 澪から嫌われたら、と考えるだけで指先が震える。肩口が不安定になる。
 その心を取り戻そうとして唇が何も言えないクセに勝手に動こうとする。
 肺の奥が、まるで砂埃を吸い込んだ時のように苦しくなる。

 あぁ、情けないな、わたし。


 そんなわたしを、澪は何事も無かったかのような澄んだ美しい声で諭す。





「いつもは元気いっぱいで、悩みなんて皆無って感じの律だけど」








「たまには泣いてる顔もいいね」







 澪はわたしの方を向いて、指を顔に差し出してきた。
 突然のことだったので、つい目をつぶって体を硬直させてしまった。

 直後、頬に感じる澪の指。左手の指。
 目を開けると、その指はわたしの流した涙を拭っていて、
 それはまるで『泣かないで』とわたしに訴えかけているようだった。






「でもさ、やっぱり私が見たいのは――」







「いつもの律の笑顔なんだよ」





「……みお」






「だから、さ。笑ってほしいんだ、律に」







 なんてセリフだ。
 まるで澪の書いた詩みたいだ。



 けどさ、やっぱり。

 澪が笑ってほしいっていうなら。






















 ねぇ、今、涙で目真っ赤だろうし、ひどい笑顔かもしれないけど。


 笑えてるかな、わたし。
















「澪、だいすき……」


















―――――――





 翌日。

 思い出のベビーカーを持ち主に返したり、唯達の前であえて澪に抱きついてみたり。
 落ちたイメージはとりあえずは回復したと言っても過言ではない。
 ともかく、面倒ごとはすべて終わったのだ。
 あっぱれ!わたし!
 特に澪との友情は以前にも増して深まった気がする。
 雨降って地なんとやら。



「それにしても、澪はあんなに子供が好きだったんだな」
「可愛いものは可愛いんだ」
「そうだよぉー、ギー太2号可愛かったよぉ」
「だから、女の子だっての!」
「あはは」


 と、ムギの淹れてくれたおいしい紅茶を飲みながら談話、談笑。
 あぁ、この空気が好きなんだなぁ。安心する場を求めるさわちゃんの気持ち、わかる。おおいにわかる。
 昨日のあの雰囲気はもう一生味わいたくない。
 唯の本気で怒った顔も、梓のひどく冷たかった目も、ムギの哀れみを含んだ表情も。
 もう二度と見たくない。




 やっぱり、わたし達っていうのはさ。
 いつまでも、こんな風に笑顔で過ごすのがいいんだよな。
 澪や唯、ムギや梓達と一緒なら、この楽しいのが一生続くんじゃないかって、思ってしまうよ。

 ありがと、みんな。

 ありがと、澪。






















「澪ちゃん、赤ちゃんがほしいの?りっちゃんに妊娠させてもらえば?」
「だから、わたしはなんなんだー!!」



                         END
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