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「運命交差点(前編)」(2008/06/25 (水) 00:04:48) の最新版変更点
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**運命交差点(前編) ◆DNdG5hiFT6
(――柔らかい)
頬に触れた手は子供の持つ質感と温かみをノーヴェの手のひらに伝えてくる。
目の前で失ったはずの姉に良く似た顔立ち。
サファイアのような蒼いの瞳に吸い込まれるような錯覚を感じた。
それは甘美な夢。ナンバーズの姉妹がみんなそろって、笑っている夢。
ナンバーズだけじゃない。ドクターも、スバルも、ギンガもみんな笑っている。
ああ、それはどんなに幸せな世界だろう。
「ノーヴェ!」
だが何処か電子音じみた片言によってノーヴェは現実に引き戻される。
声の主はタンクローリーの後部座席から降りてきたロボは
重たい足音を立てて2人に近づくと、ブリキじみたレトロなボディをその間に割り込ませた。
その行動はどこかノーヴェを庇っているようにも見える。
「アナタノ、オ名前ハ?」
「……僕はドラス。お姉ちゃん達は?」
「ワタシはロボ、落ち込んでイルのがメカ沢、この子はノーヴェといいマス」
「な、なあ……お前、セインって奴を知ってるか?」
ロボの体越しに恐る恐る目の前の存在に問いかける。
「さぁ? 僕も良くわからないんだ。
目が覚めたらここにこの姿でいたってわけ」
その答えにがっかりすると同時に、どこかほっとする。
これが“他人の空似”って奴なのだろうか?
「……情報の交換ヲ行いたいのデスがいいデスカ?」
未だに落ち込んでいるメカ沢を尻目に、ロボが主体になって情報交換を始める。
と、いっても互いに大した情報を持ち合わせているわけではなかった。
ドラスは戦闘を避けてきたというし、こちらにしても大して人と接触したわけではない。
直に情報は途切れ沈黙が降りるが、その沈黙に乗りかかるようにドラスは笑顔を浮かべる。
「そうだ、僕も一緒に連れて行ってくれない?」
天使のような微笑を浮かべて、ドラスは畳み掛けるように口を開く。
「それに急いでるんじゃないの? 何処か急いでたみたいだけど?」
ドラスのその言葉に思い出す。
そうだ、こうしている間にもゼロがピンチに陥っているかもしれないのだ。
何でもいいから早く駆けつけないと――
「おい、誰か来るぞ!」
だがその焦りは立ち直ったメカ沢の声に遮られることとなった。
緊張を含んだメカ沢の声に、彼の視線を追って3人は南方に目を向ける。
そこにいたのは高速でこちらに向かってくるボードで中空を滑る隻腕の少女。
ロボとメカ沢は警戒の色を見せるが、ノーヴェはその姿を確認し、目を見開く。
彼女の姉妹の持つ特殊武器・ランディングボードに乗って短い髪をなびかせるのは見覚えのある蒼い髪。
それはかつての仇敵であり、もう一つの“姉妹”でもある彼女の姿。
そしてこの場所で初めて会えた顔なじみであるのだ。
「スバル!」
「ノーヴェ!?」
ノーヴェの姿を認めたスバルは器用にボードを操り、急停止した。
スバルは顔をほころばせ、地上に降り立つ。
「良かった無事だったんだねノーヴェ。心配したんだよ!」
「べ、別に心配なんかされる覚えは無い!」
照れくさくて思わず口を突いて出た悪態に軽い自己嫌悪に陥るノーヴェ。
また、素直になりきれない。だがスバルは笑って許す。
そこで右腕が無いことに気付き、目を見開く。
「お前、その腕いったい……」
「大丈夫。だから――」
自分を安心させようと微笑むその笑顔は自分の知る少女のものだ。
だが、
「下がっててノーヴェ。今、片付けるから」
そう言った少女の顔は自分の知らない顔だった。
元々敵同士。そんなに仲が良いわけでもない。
だが、こんな冷たい表情を浮かべる少女だったか?
「ス、スバル……?」
恐る恐る呼びかける。
だがスバルはそれに答えず、そのままメカ沢たちの方へと突き進んでいく。
メカ沢も何かを感じ取ったのか腕を構え、再び警戒の色を濃くする。
「おい、どういうつもりだ?」
「決まってる……お前達を全部壊す」
そして少女の口から放たれたのは過激すぎる一言だった。
その言葉に誰よりも驚いたのはノーヴェだ。
もしかして襲われてると誤解したんじゃないだろうか?
「だ、大丈夫だって! 確かにちょっと変な格好だけどこいつら悪い奴じゃないし!」
ノーヴェは慌てながらスバルの前に回り込む。
だが自分を見返したスバルの瞳を見て恐怖する。
そこに映っていたのは何処までも広がる虚無の闇。
自分の知るスバル・ナカジマが決して持ち得なかった暗い影。
「ああ、そっか……ノーヴェも本物って保障は無いんだっけ。
だって、ドラス君と一緒にいるんだもんね」
視線に本物の殺意を乗せて黄金の瞳で睨みつけられる。
戦闘機人モード。それはスバルが本気だと言う事の証。
「ス、スバル……どうしたんだよ……」
敵対していた時だってここまで冷徹な目を向けられたことはない。
恐怖と、そして幾らかの悲しみに自分でも知らない間に後ずさるノーヴェ。
だがそのノーヴェを庇うようにメカ沢のドラム缶のような体が割ってはいる。
睨みつられるが、ガンの付け合いなら負けたことは無い。
「オイ、“壊す”だと!? テメェ、人の命を何だと思っていやがる!」
「人命は大切だよ? だから偽者は倒さなきゃならないじゃないか!」
――ダメだ、話が通じねえ。完全に頭に血が上ってやがる。
メカ沢の辞書に敗走という文字は無い。
本来ならここで一発ヤキを入れて、目の前の少女の目を覚まさせてやりたいが
ここで自分が無闇に突っ込んで、ノーヴェやドラスに何かがあれば後悔しきれるものではない。
メカ沢は歯噛みし、苦渋の決断を下す。
「ちっ……一度引くぞ!」
「で、でもゼロが!」
チンクも救う、ゼロも救う。その覚悟が逆にノーヴェの足を止める。
それにおかしくなってしまったスバルに対しても未練が残る。
だが迷うノーヴェの瞳をメカ沢の一見無機質な瞳が真正面から覗き込む。
「おい、アイツは、ゼロは弱い野郎か!?」
「――違う!」
その答えだけは迷うことなく、即座に口を突いて出た。
仮面の怪人との激闘を間近で見た自分は知っている。
ゼロの強さを。どんな逆境でも諦めないその強さを。
「だったら信じろ! 奴は死なねえ、生きて絶対に再会するって信じるんだ!」
「負けない……生きて……再会……」
ノーヴェは自分に言い聞かせるように繰り返す。
その言葉は希望となって、ノーヴェの心を強くする。
だが、その刹那の隙を狙って蒼い弾丸となったスバルが踏み込んでくる。
その踏み込みの疾さにその場の誰もが反応できなかった。
いや、たった一人だけ狙われたメカ沢だけが反応することが出来た。
だがメカ沢ができたのは精々誰かを守ること。つまりノーヴェを突き飛ばすだけで精一杯だった。
そして拳の進む先にはメカ沢の無防備な体が残された。
――やべえ。
背筋に冷や汗が流れる。
喧嘩に明け暮れてきた日々が、眼前に迫る拳のヤバさを知らせている。
タフさには人一倍自信があるつもりだが、あの一撃はケタが違う。まさに必殺の一撃だと悟る。
だがメカ沢の辞書に“諦め”の2文字は無い。
ハカイダーとの戦いで分かっている。
自分みたいに“ケンカ慣れしている”程度、この場所では何のメリットにもなりはしないのだ。
だが、だからといって自分を曲げることなど出来はしない。
なんといっても自分は不良なのだ。そして不良には通すべき“スジ”ってものがある。
例え自分が無力な存在としても腹の底から声を張り上げ、想いを、生き様を叩きつけてやる!
「不良を……なめんじゃねえええええっ!!」
だが、その時不思議なことが起った。
先ほどまで唸りを上げ迫っていた拳が空中に縫い付けられたように停止している。
それどころかロボも、ノーヴェも、ドラスも、まるで時が本当に止まっているかのようにすべてが静止していた。
――どこかで聞いたことがある。
一流のスポーツ選手は150kmを超えるボールがとまって見える時がある、と。
脳内のアドレナリンだかなんだかが関係しているらしいが学の無い彼にはわからない。
それにそんなことはどうでもいいことだ。今の彼にとって重要なのは目の前に決定的な隙が出来たということ!
「う、おおおおおおおおおおおお!!!」
千載一遇のチャンスにありったけの力を込めて右腕を振るう。
想いのこもった重く、深いその一撃は唸りを上げてスバルの腹部へと叩き込まれる。
カウンターを喰らった形になったスバルの体は工場の瓦礫の中へ突っ込んでいった。
「へっ……ざまあ見やがれ。おい、ノーヴェ、大丈夫か?」
突き飛ばしたノーヴェの方を見る。
だがノーヴェは狐につままれたような表情でメカ沢を見ている。
「お、おまえ、今、瞬間移動しなかったか?」
「は? 何言ってやがる? 夢でも見たか?
それよりも今のうちにズラかるぞ、ロボ、嬢ちゃん!」
言うや否やタンクローリーに乗り込んだメカ沢はギアを切り替えると、工場に突っ込んだ先頭部分を道路に引き戻す。
「みんな、乗れ!」
「……了解デス」
「嬢ちゃん? 僕、男の子だよ?」
「お、そりゃわりぃわりぃ。……と全員乗り込んだな! しっかり捕まってろ、とばすぞ!」
平たい足がアクセルを乱暴に踏み込み、激しく揺れながらもタンクローリーは発進する。
その車体の中で4人は思考する。
――ロボは遭遇時のメモリーを呼び覚ます。
ドラスに対して何故、こうも警戒しているのか……実はロボ自身も良くわかってはいない。
だがドラスにノーヴェが触れた瞬間、上手く言語化できない感覚がロボの中から湧き上がってきたのだ。
ロボはクロノたちと共に古代から未来まで多くの時間を旅してきた。
平行世界といっても差し支えないほど変貌した幾多の世界を。
その多彩な経験はどんなセンサーよりも雄弁に危機を伝えた。
あえて言語化するならば人間が悪寒と言うべき感覚を持って。
(気のせいならばいいのですが……)
だが子孫や兄弟ならともかく、ノーヴェの姉とここまで似ているのは不自然だ。
さらにスバルという少女の言葉の意味を考えるに、変貌にこの隣の少年は関わっているのではないだろうか?という疑念が生まれる。
だがその不審を口にすればノーヴェたちに動揺を与えてしまうかもしれない。
だから気付かれぬよう、隣に座る少年に注意を向ける。
――ドラスは心の中で舌打ちする。
隣に座るこのポンコツは案外優秀なセンサーを積んでいるみたいだ。
取り込んでもおいしくなさそうだし、隙を見て壊さないとね。
だけどそれ以外の2人には利用価値がある。
スバルお姉ちゃんが魔法という力を持っていたみたいに、このノーヴェお姉ちゃんも何かの力を持っている可能性は高い。
それに目の前で運転する不細工なロボットも瞬間移動をしていた。
瞬間移動……あのZOでさえ持ち得なかった力。
それを手に入れれば僕は神の座に近づくことが出来る。
かくて一人の科学者の狂気が作り出したネオ生命体は哂う。
より神に捧げられた供物に舌なめずりをしながら。
彼にとって、世界の全ては贄でしかないのだから。
――ノーヴェは変わり果てたスバルの姿に動揺していた。
スバル自身の変貌も勿論気になるが、ノーヴェの脳裏に浮かんだのはこちらを冷たい表情でみるチンクの姿。
馬鹿な考えだと分かっていてもその想像はとんでもない恐怖を呼び起こした。
「おい、また馬鹿なこと考えてるんじゃねえだろうな」
隣に座るドラム缶は視線を前に固定したまま、こちらの心を見透かすような一言を投げかけてくる。
「べ、別に馬鹿なことなんて考えてない!」
「こうなったら2人も3人も同じだろうが! あのスバルって女も救うって決めて見せろ!」
「分かってる! そうだ、チンク姉も、ゼロも、スバルもあたしが救う! 助けてみせる!」
大言壮語だ。それを為すにはノーヴェの力はあまりにも小さい。
だけどやらなきゃいけない。彼らの力を借りて。
(チンク姉……ゼロ……)
今にも消えそうな勇気を、ここにはいない2人の姿を思い起こすことで奮い立たせる。
そしてスバル以外にも今のノーヴェには守るべきものがある。
ミラー越しに見えるのは失った姉に似た少年の姿がある。
(今度こそ、守って、見せる……!)
もう二度と失わないためにノーヴェは決意を新たにする。
その対象が悪魔だと気付かぬままに。
――メカ沢はハンドルを握りながら、横目でノーヴェの顔を見る。
その顔に浮かぶ決意の色を見て表情には出さずに笑う。
(へっ……いい顔になってきたじゃねえか)
それにこの世界だって捨てたものじゃない。
念じればさっきみたいな奇跡は起きるのだ。
……彼は知らない。
それは奇跡などではなく、飲み込んだチップが発動しただけだということに。
(彼の用いた運用方法からすれば、それは十分奇跡と呼べるのかもしれないが)
ともあれ、タンクローリーの運転にも慣れてきた。
ここはあのゼロって奴の強さを信じて、少し時間を置いてから助けに行くべきだ。
そうすれば6人の大所帯。仲間がコレだけ集まれば反抗の狼煙を上げることも可能な気がしてくる。
その想像にメカ沢は心躍らせる。
(待ってやがれシグマ……今に俺が、俺たちがヤキいれてやるぜ!)
誰よりも無機質な表情でありながら、その心は誰よりも熱く燃えていた。
4人を乗せてタンクローリーは走る。
4つの心はバラバラなままで、疑心と悪意と決意をないまぜにして。
そして最初の放送まであと、わずか――
【D-1 コロニー間道路/早朝(放送直前)】
【ノーヴェ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:疲労(中)、精神的動揺(弱)
[装備]:スタームルガー レッドホーク、装弾数4/6@ターミネーター2
[道具]:支給品一式、不明支給品0~1(未確認)
[思考・状況]
基本:チンク姉と会って話しをする
1:ドラスを守る! チンク姉を救う! ゼロを助ける! スバルを救う! 全部達成する!
2:メカ沢、ロボを信頼。
※本編終了後の参戦です。
※ゼロからゼロの世界及びシグマに関する知識を得ました
※メカ沢の力を瞬間移動と誤解しています。
【メカ沢新一@魁!クロマティ高校】
[状態]:全身打撲。疲労小
[装備]:タイムストッパー@ロックマン2in体内
[道具]:
[思考・状況]
基本思考:シグマにヤキ入れる!
1:とりあえず離れて作戦会議だ!
2:ゼロとか言うキザな金髪男を助けに行く
3:チンクに軽い失望。だが、正気に戻させる!
[備考]
※携帯端末の使い方を全く理解していません。よって現在位置、参加者、支給品を把握していません
※メカ沢の携帯端末が修理工場内のどこかに落ちています。
※タイムストッパーは使用できるようです。
ただし本人は使えることに気付いていません。
【ロボ@クロノトリガー】
[状態]:健康
[装備]:液体窒素入りのタンクローリー@ターミネーター2
[道具]:支給品一式、PDA×3(ロボ、アラレ、シュトロハイム)、ぎんのいし@クロノトリガー
HARLEY-DAVIDSON:FAT BOY@ターミネーター2(E-3道路に放置):ロボのPDA
はちゅねミクのネギ@VOCALOID2(E-3道路に放置)
メッセージ大砲@ドラえもん(E-3道路に放置)、アタッチメント@仮面ライダーSPIRITS(シュトロハイムの右腕)
拡声器@現実(E-3道路に放置):アラレ、及びシュトロハイムのPDA。転送可能
[思考・状況]
基本思考:打倒シグマ。
1:ドラスを警戒
2:メカ沢と共に行く
3:協力できればストライクスピンが撃てるかも……
[備考]
※少なくともクロノ復活以降からの参戦です。
※現在位置、参加者名簿を確認しましたがメカ沢も把握済みだと思い伝えていません。
※メカ沢が携帯端末を失くしたことを知りません。
※ロックマンの武器チップの使い方を誤認しています。
※メカ沢の力を瞬間移動と誤解しています。
【ドラス@仮面ライダーZO】
[状態]:健康 右腕がスバルのもの。
[装備]:荷電磁ナイフ@マルドゥックスクランブル。ラトゥーニのゴスロリ服@スーパーロボット大戦OG。
セインを四、五歳幼くした状態に擬態。ただし、生えている(両方ついているかは、お任せします)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本思考:自爆装置とリミッターを外す。その後参加者を全員殺す。優勝したあとシグマも殺す。
1:怪しまれずにロボを排除する
2:ノーヴェ、メカ沢を利用尽くす。
3:T-800の排除。悪評を広める。
4:仮面ライダーとおよぼしき参加者の排除、もしくは吸収。
5:自爆装置、リミッターの解除。
※メカ沢の力を瞬間移動と誤解しています。
スバルが目を覚ました時、タンクローリーはすでに視界から消え去っていた。
立ち上がろうとする、がたまりに溜まった疲労は休養を訴える。
暗闇の中で彼女の脳裏に甦るのは彼女を“こう”してしまった出来事。
たった数時間前にあった、ある出来事を。
* * *
雪原の中を一人の少女が行く。
だがそのシルエットには何かが足りない。
そう、右腕である。
超磁圧ナイフで切り取られた右肩は血の一滴も見せず赤黒い傷口を晒している。
ドラスに裏切られた直後、スバルはビルから全力で逃げ出していた。
何故ボイルドが周囲にいるという危険性を無視してまで飛び出したのか、それは彼女にも分からない。
ただ無我夢中で走り出して、気付いたら周囲に広がっていたのは雪原だった。
そう、いつの間にかスバルは最初に自分が飛ばされたコロニーまで移動していたのだ。
そこはマップで言う【D-3】ブロック、雪原コロニーの町の端だった。
町外れから見る人気の無い建物の群れは雪に包まれ、沈黙を保っている。
雪に包まれた世界に戻ってきて、最初に出会った筋骨隆々の男を思い出す。
ボブという男の言うとおり、ドラスは裏切った。
だがスバルは心のどこかでドラスをまだ信じたいと言う気持ちが残っていた。
(そう、だって“殺したいわけじゃない”って言ってたし……)
絶望の中に希望を見出す。
本来なら美点であるそれも狡猾な悪魔にとっては格好の餌でしかない。
そして疑心暗鬼という悪魔は
だから聞こえてきた雪を踏みしめる足音に、反射的に物影に身を隠してしまう。
物影から足音の主を伺えば、そこにいたのは緑色の髪の少女。
あれがドラスが姿を変えたモノでないという保証は無い。
そう疑うと少女の姿がどうしようもなく恐ろしいものに見えてくる。
だがスバルは自分に言い聞かせる。人を信じなくて何になるのか、と。
これまで培ってきた世界が、15年間の人生が彼女の勇気を後押しする。
「す、すみませ「ははわわわわわわわ!?」
物陰からいきなり出てきたスバルに驚いたのか、
少女はしりもちをついたままで、こちらを見上げている。
「え、あ、あの……驚かせてしまったのならごめんなさい!
私は時空管理局局員のスバル・ナカジマといいます!」
慌てていつもの癖で自己紹介してしまった自分を恥じる。
時空管理局なんて単語は管理世界の人には分からない人たちもいるというのに。
「あ、はい! わざわざありがとうございます!
こちらこそはじめまして。HMX-12マルチと申します!」
だが少女は向日葵のような笑顔で挨拶を行い、釣られるようにスバルの顔にも笑みが戻る。
と、そこで気付く。マルチの服が大きく破けてしまっていることに。
マルチはスバルの視線の先に気付き、照れくさそうな笑みを浮かべる。
「服が破けてしまって、代わり服を探しているんです。
町をず~っと見てきたんですけど、無いんですよね……。
でも良かったです。ちょうど服が見つかって!」
その言葉につられるようにマルチの視線の先を追うが、そこは自分の背後。
そこに広がるのは一面の銀世界。
「あの、どこに――?」
聞き返そうと振り向いた瞬間、スバルの視界を覆ったのは銀色の板。
そう、マルチは笑顔のままで、ランディングボードを思いっきり振り下ろしのだ。
「――がっ!?」
マルチが女子高生並みのパワーしか持たないとはいえ、無防備な状態でそれを受け、一瞬意識が飛びかける。
頭から流れる血を押さえて、数歩下がったスバルが見たのは先ほどと変わらぬ笑顔で、再び凶器を振り上げるマルチの姿。
「これだけだと寒いのでスバルさんの服をもらいますね~」
再び振り下ろされる合金板を地べたを転がるようにして回避するスバル。
ここで冷静に対処していれば、片腕だけとはいえ武装局員であるスバルがマルチを取り押さえるのは造作も無いことであっただろう。
だがドラスが植えつけた悪意の種は芽吹き、スバルの心を蝕んだ。
恐怖という名のレンズは自身より小柄なマルチを悪魔の如く歪んで映していたのだ。
「う……あ……あああああああああああああああああっ!!」
その結果、スバルは逃亡した。
恥も外聞も関係なく、こけそうになりながらも目の前の少女から一歩でも遠く離れようともがいた。
「はわわ、逃げないでくださいよ~」
声が後ろの方へ消えていく。
元々運動性能の違いだ。本気で走ったスバルにマルチが追いつける道理などあるはずが無い。
目の前に昆虫の複眼を持った異形が現れなければ。
目の前の存在に助けを求めるのか。それとも後ろから迫る少女に対しての注意を促すか。
疑心暗鬼に囚われたスバルは、たったそれだけのことができないかった。
それに目の前の怪人はドラスの話していた仮面ライダーに酷似しているのも原因の一つであった。
心のどこかでまだあの少年を信じていたいと願った心が、スバルから即座に行動すると言う選択肢を奪う。
そしてその結果、鋭い右フックがスバルの腹に突き刺さった。
「か……はっ……!?」
その運動エネルギーはスバルの人工心肺から無理やり息を搾り出すだけでは止まらず、
吹き飛ばされ、雪原へと投げ出される。
ストロンガーの姿を模したT-1000は冷徹に任務を遂行する。
ナタクの時と同様、シグマウィルスを仕込もうと右腕を巨大な注射針へと変貌させ、スバルに迫る。
「逃げるなんて酷いですよ~」
そこに物音を聞きつけたマルチも追いついた。
シグマウィルスに操られた彼女はT-1000に見向きもせず、ライディングボードを構えてスバルのほうへと向かってくる。
その光景にスバルは恐怖した。
戦いの恐怖とは違う、周囲の人間を信じれなくなる恐怖。
それはスバルが初めて感じる種類の恐怖だった。
何故ならば彼女の傍にいたのは信頼と言う絆で繋がった仲間たちだったのだから。
その恐怖は見えない鎖となって、スバルの動きを封じた。
そして繋がれた囚人に2つの処刑鎌が迫り、振り上げられた。
「い……やああああああああああああっ!!」
その結果、彼女は無意識のうちに力を解放した。
力の名は“振動破砕”。接触した機械に震動を叩き込み破砕する彼女の先天系特殊技能。
彼女の優しさ故に振るわれる事が殆ど無い、だが機械機構を持つものたちにとって最も恐るべき力の一つ。
突き出された左腕から暴虐の力は2体の体へと叩き込まれる。
唯のメイドロボであるマルチはプロテクションなど特殊な技能を持たない。
いや、むしろ“どんくさい”部類に入る彼女は、防御体勢を取ることすら不可能であった。
故に結果、粉々に破砕された。部品を撒き散らしながら。
断末魔も、最後の言葉すら残すことなく心優しいメイドロボは砕け散った。
そしてその一撃は攻撃の瞬間に移るところであったT-1000も直撃した。
震動は衝撃波を生み、T-1000を粉々に破砕し、水銀にも似た液体を雪原に散らばらせた。
雪原に散らばる瓦礫と銀の飴。
その光景はスバルの心に一つの闇をもたらした。
飛び散ったのは電子部品と液体金属の塊たち。
その中には生体パーツなど一片も含まれてはいなかった。
故に、スバル・ナカジマはその思い付きを肯定した。
目に映るのは訓練で、任務で散々壊してきた目標と同じ。
多少形が違うだけで、ガジェットドローンなどと同じただの機械なのだ、と。
その思い違いは正義感を歪ませ、目に映る全てを悪魔へと変貌させた。
「そうか、そうだったんだ……」
ぶつぶつと呟きながら、幽鬼のような足取りで走ってきた道を戻っていく。
その手にマルチが振りかざしていたランディングボードを抱えたままで。
* * *
「だから……全部壊すんだ」
誰に聞かせるでも無い呟きと共に意識を取り戻したスバルは、立ち上がりながらこれからの行動を思案する。
まだ周囲にいるであろうタチコマから破壊すべきか?
いや何よりも誰よりも――ドラスを放っておくわけにはいかない。
まだそんなに離れていないであろうタンクローリーに向かい、追跡を開始しようとする。
だが、そんな彼女の前に、
「おい、お前、大丈夫か!?」
新たな標的が現れた。
*時系列順で読む
Back:[[そいつは人情派サイボーグ]] Next:[[運命交差点(後編)]]
*投下順で読む
Back:[[そいつは人情派サイボーグ]] Next:[[運命交差点(後編)]]
|059:[[漆黒と紅の零地点(後半)]]|ノーヴェ|075:[[D-1どうでしょう]]|
|059:[[漆黒と紅の零地点(後半)]]|メカ沢新一|075:[[D-1どうでしょう]]|
|059:[[漆黒と紅の零地点(後半)]]|ロボ|075:[[D-1どうでしょう]]|
|059:[[漆黒と紅の零地点(後半)]]|ドラス|075:[[D-1どうでしょう]]|
|059:[[漆黒と紅の零地点(後半)]]|ゼロ|068:[[運命交差点(後編)]]|
|044:[[DEVIL A/Beginning]]|スバル・ナカジマ|068:[[運命交差点(後編)]]|
|060:[[強者をめぐる冒険]]|T-1000|068:[[運命交差点(後編)]]|
|060:[[強者をめぐる冒険]]|マルチ|&color(red){-GAME OVER-}|
**運命交差点(前編) ◆DNdG5hiFT6
(――柔らかい)
頬に触れた手は子供の持つ質感と温かみをノーヴェの手のひらに伝えてくる。
目の前で失ったはずの姉に良く似た顔立ち。
サファイアのような蒼いの瞳に吸い込まれるような錯覚を感じた。
それは甘美な夢。ナンバーズの姉妹がみんなそろって、笑っている夢。
ナンバーズだけじゃない。ドクターも、スバルも、ギンガもみんな笑っている。
ああ、それはどんなに幸せな世界だろう。
「ノーヴェ!」
だが何処か電子音じみた片言によってノーヴェは現実に引き戻される。
声の主はタンクローリーの後部座席から降りてきたロボは
重たい足音を立てて2人に近づくと、ブリキじみたレトロなボディをその間に割り込ませた。
その行動はどこかノーヴェを庇っているようにも見える。
「アナタノ、オ名前ハ?」
「……僕はドラス。お姉ちゃん達は?」
「ワタシはロボ、落ち込んでイルのがメカ沢、この子はノーヴェといいマス」
「な、なあ……お前、セインって奴を知ってるか?」
ロボの体越しに恐る恐る目の前の存在に問いかける。
「さぁ? 僕も良くわからないんだ。
目が覚めたらここにこの姿でいたってわけ」
その答えにがっかりすると同時に、どこかほっとする。
これが“他人の空似”って奴なのだろうか?
「……情報の交換ヲ行いたいのデスがいいデスカ?」
未だに落ち込んでいるメカ沢を尻目に、ロボが主体になって情報交換を始める。
と、いっても互いに大した情報を持ち合わせているわけではなかった。
ドラスは戦闘を避けてきたというし、こちらにしても大して人と接触したわけではない。
直に情報は途切れ沈黙が降りるが、その沈黙に乗りかかるようにドラスは笑顔を浮かべる。
「そうだ、僕も一緒に連れて行ってくれない?」
天使のような微笑を浮かべて、ドラスは畳み掛けるように口を開く。
「それに急いでるんじゃないの? 何処か急いでたみたいだけど?」
ドラスのその言葉に思い出す。
そうだ、こうしている間にもゼロがピンチに陥っているかもしれないのだ。
何でもいいから早く駆けつけないと――
「おい、誰か来るぞ!」
だがその焦りは立ち直ったメカ沢の声に遮られることとなった。
緊張を含んだメカ沢の声に、彼の視線を追って3人は南方に目を向ける。
そこにいたのは高速でこちらに向かってくるボードで中空を滑る隻腕の少女。
ロボとメカ沢は警戒の色を見せるが、ノーヴェはその姿を確認し、目を見開く。
彼女の姉妹の持つ特殊武器・ランディングボードに乗って短い髪をなびかせるのは見覚えのある蒼い髪。
それはかつての仇敵であり、もう一つの“姉妹”でもある彼女の姿。
そしてこの場所で初めて会えた顔なじみであった。
「スバル!」
「ノーヴェ!?」
ノーヴェの姿を認めたスバルは器用にボードを操ると、急停止。
スバルは顔をほころばせながら、地上に降り立った。
「良かった無事だったんだねノーヴェ。心配したんだよ!」
「べ、別に心配なんかされる覚えは無い!」
照れくさくて思わず口を突いて出た悪態に軽い自己嫌悪に陥るノーヴェ。
だがスバルは笑って許す。
ああ、いつものスバルだ。
チンク姉が自分をいらないなんて言ったのはきっと何かの間違いなのだ。
……と、そこまで考えて初めてノーヴェはスバルの右腕が無いことに意識が向き、目を見開く。
「!? お前、その腕いったい……」
「大丈夫。ノーヴェは何も心配しなくていいんだ。だから――」
自分を安心させようと微笑むその笑顔は自分の知る少女のものだ。
だが、
「下がってて。今、こいつらを片付けるから」
そう言い放った少女の顔は自分の知らない顔だった。
元々敵同士。そんなに仲が良いわけでもない。
だが、こんな冷たい表情を浮かべる少女では決してなかったはずだ。
「ス、スバル……?」
恐る恐る呼びかけるノーヴェ。
だがスバルはそれに答えず、そのままメカ沢たちの方へと突き進んでいく。
メカ沢もその様子に異常を感じ取ったのか腕を構え、再び警戒の色を濃くする。
「おい、どういうつもりだ?」
「決まってる……お前達を全部、壊す」
そして少女の口から放たれたのは過激すぎる一言だった。
その言葉に誰よりも驚いたのはノーヴェだ。
一瞬聞き間違えたかと思ったほどに、その少女には似合わない言葉だったから。
そうだ、もしかして自分がが襲われていると誤解したんじゃないだろうか?
「だ、大丈夫だって! 確かにちょっと変な格好だけどこいつら悪い奴じゃないし!」
ノーヴェは慌てながらスバルの前に回り込む。
だが自分を見返したスバルの瞳を見て恐怖する。
そこに映っていたのは何処までも広がる虚無の闇。
自分の知るスバル・ナカジマが決して持ち得なかった暗い影。
「ああ、そっか……ノーヴェも本物って保障は無いんだっけ。
だって、ドラス君と一緒にいるんだもんね」
視線に本物の殺意を乗せて、黄金の瞳で睨みつけられる。
黄金の瞳――戦闘機人モード。
それはスバルが本気だと言う事の証に他ならない。
「ス、スバル……どうしたんだよ……」
敵対していた時だって、ここまで冷徹な目を向けられたことはなかった。
恐怖と、そして幾らかの悲しみに自分でも知らない間に後ずさるノーヴェ。
だがそのノーヴェを庇うようにメカ沢のドラム缶のような体が割ってはいる。
一層強い視線で睨みつられるが、メカ沢とていっぱしのワルだ。ガンの付け合いなら負けたことは無い。
「オイ、“壊す”だと!? テメェ、人の命を何だと思っていやがる!」
「人命は大切だよ? だから偽者は倒さなきゃならないじゃないか!」
――ダメだ、話が通じねえ。完全に頭に血が上ってやがる。
メカ沢の辞書に敗走という文字は無い。
本来ならここで一発ヤキを入れて、目の前の少女の目を覚まさせてやるのが常道だ。
だが、ここで自分が無闇に突っ込んで、ノーヴェやドラスに何かがあれば後悔しきれるものではない。
故にメカ沢は歯噛みし、苦渋の決断を下す。
「ちっ……一度引くぞ!」
「で、でもゼロが!」
チンクも救う、ゼロも救う。その覚悟が逆にノーヴェの足を止める。
それにおかしくなってしまったスバルをそのままにしておくことに対しても未練が残る。
だが迷うノーヴェの瞳をメカ沢のが真正面から覗き込んだ。
「おい、アイツは……ゼロは弱い野郎か!?」
「――違う!」
信じられない出来事の連続に迷い、戸惑うノーヴェ。
だがその答えだけは迷うことなく、即座に口を突いて出た。
仮面の怪人との激闘を間近で見た自分は知っている。
ゼロの強さを。どんな逆境でも諦めないその強さを。
「だったら信じろ! 奴は死なねえ、生きて絶対に再会するって信じるんだ!」
「負けない……生きて……再会……」
ノーヴェは自分に言い聞かせるように繰り返す。
その言葉は希望となって、ノーヴェの心を強くする。
だが、その刹那の隙を狙って蒼い弾丸となったスバルが踏み込んでくる。
その踏み込みの疾さにその場の誰もが反応できなかった。
いや、たった一人だけ狙われたメカ沢だけが反応することが出来た。
だがメカ沢ができたのは精々誰かを守ること。つまりノーヴェを突き飛ばすだけで精一杯だった。
そして拳の進む先にはメカ沢の無防備な体だけが残された。
――やべえ。
背筋に冷や汗が流れる。
喧嘩に明け暮れてきた日々が、眼前に迫る拳のヤバさを知らせている。
タフさには人一倍自信があるつもりだが、あの一撃はケタが違う。まさに必殺の一撃だと悟る。
だがメカ沢の辞書に“諦め”の2文字は無い。
ハカイダーとの戦いで分かっている。
自分みたいに“ケンカ慣れしている”程度、この場所では何のメリットにもなりはしないのだ。
だが、だからといって自分を曲げることなど出来はしない。
なんといっても自分は不良なのだ。そして不良には通すべき“スジ”ってものがある。
例え自分が無力な存在としても腹の底から声を張り上げ、想いを、生き様を叩きつけてやる!
「不良を……なめんじゃねえええええっ!!」
だが、その時不思議なことが起った。
先ほどまで唸りを上げ迫っていた拳が空中に縫い付けられたように停止している。
それどころかロボも、ノーヴェも、ドラスも、まるで時が本当に止まっているかのようにすべてが静止していた。
――どこかで聞いたことがある。
一流のスポーツ選手は150kmを超えるボールがとまって見える時がある、と。
脳内のアドレナリンだかなんだかが関係しているらしいが学の無い彼にはわからない。
それにそんなことはどうでもいいことだ。今の彼にとって重要なのは目の前に決定的な隙が出来たということ!
「う、おおおおおおおおおおおお!!!」
千載一遇のチャンスにありったけの力を込めて右腕を振るう。
想いのこもった重く、深いその一撃は唸りを上げてスバルの腹部へと叩き込まれる。
カウンターを喰らった形になったスバルの体は、あまりにも軽く、工場の瓦礫の中へ突っ込んでいった。
「へっ……ざまあ見やがれ……おい、ノーヴェ、大丈夫か?」
突き飛ばしたノーヴェの方を見る。
だがノーヴェは狐につままれたような表情でメカ沢を見ている。
周囲を見渡せばドラスも似たような表情だし、ロボからも驚きの感情が見て取れる。
「お、おまえ……今、瞬間移動しなかったか?」
「は? 何言ってやがる。夢でも見たか?
っと、それよりも今のうちにズラかるぞ、ロボ、嬢ちゃん!」
言うや否やタンクローリーに乗り込んだメカ沢はギアを切り替えると、工場に突っ込んだ先頭部分を道路に引き戻し、
。
「みんな、乗れ!」
「……了解デス」
「嬢ちゃん? 僕、男の子だよ?」
「お、そりゃわりぃわりぃ。……と全員乗り込んだな! しっかり捕まってろ、とばすぞ!」
平たい足がアクセルを乱暴に踏み込み、激しく揺れながらもタンクローリーは発進する。
その車体の中で4人はそれぞれ思考する。
――ロボは遭遇時のメモリーを呼び覚ます。
ドラスに対して何故、こうも警戒しているのか……実はロボ自身も良くわかってはいない。
だがドラスにノーヴェが触れた瞬間、上手く言語化できない感覚がロボの中から湧き上がってきたのだ。
ロボはクロノたちと共に古代から未来まで多くの時間を旅してきた。
平行世界といっても差し支えないほど変貌した幾多の世界を。
その多彩な経験はどんなセンサーよりも雄弁に危機を伝えた。
あえて言語化するならば人間が悪寒と言うべき感覚を持って。
(気のせいならばいいのデスが……)
だが子孫や兄弟ならともかく、ノーヴェの姉とここまで似ているのは不自然だ。
さらにスバルという少女の言葉の意味を考えるに、変貌にこの隣の少年は関わっているのではないだろうか?という疑念が生まれる。
だがその不審を口にすればノーヴェたちに動揺を与えてしまうかもしれない。
だから気付かれぬよう、隣に座る少年に注意を向ける。
――ドラスは心の中で舌打ちする。
隣に座るこのポンコツは案外優秀なセンサーを積んでいるみたいだ。
取り込んでもおいしくなさそうだし、隙を見て壊さないとね。
だけどそれ以外の2人には利用価値がある。
スバルお姉ちゃんが魔法という力を持っていたみたいに、このノーヴェお姉ちゃんも何かの力を持っている可能性は高い。
それに目の前で運転する不細工なロボットも瞬間移動をしていた。
瞬間移動……あのZOでさえ持ち得なかった力。
それを手に入れれば僕は神の座に近づくことが出来る。
かくて一人の科学者の狂気が作り出したネオ生命体は哂う。
より神に捧げられた供物に舌なめずりをしながら。
彼にとって、世界の全ては贄でしかないのだから。
――ノーヴェは変わり果てたスバルの姿に動揺していた。
スバル自身の変貌も勿論気になるが、ノーヴェの脳裏に浮かんだのはこちらを冷たい表情でみるチンクの姿。
馬鹿な考えだと分かっていてもその想像はとんでもない恐怖を呼び起こした。
「おい、また馬鹿なこと考えてるんじゃねえだろうな」
隣に座るドラム缶は視線を前に固定したまま、こちらの心を見透かすような一言を投げかけてくる。
「べ、別に馬鹿なことなんて考えてない!」
「こうなったら2人も3人も同じだろうが! あのスバルって女も救うって決めて見せろ!」
「分かってる! そうだ、チンク姉も、ゼロも、スバルもあたしが救う! 助けてみせる!」
大言壮語だ。それを為すにはノーヴェの力はあまりにも小さい。
だけどやらなきゃいけない。彼らの力を借りて。
(チンク姉……ゼロ……)
今にも消えそうな勇気を、ここにはいない2人の姿を思い起こすことで奮い立たせる。
そしてスバル以外にも今のノーヴェには守るべきものがある。
ミラー越しに見えるのは失った姉に似た少年の姿がある。
(今度こそ、守って、見せる……!)
もう二度と失わないためにノーヴェは決意を新たにする。
その対象が悪魔だと気付かぬままに。
――メカ沢はハンドルを握りながら、横目でノーヴェの顔を見る。
その顔に浮かぶ決意の色を見て表情には出さずに笑う。
(へっ……いい顔になってきたじゃねえか)
それにこの世界だって捨てたものじゃない。
念じればさっきみたいな奇跡は起きるのだ。
……彼は知らない。
それは奇跡などではなく、飲み込んだチップが発動しただけだということに。
(彼の用いた運用方法からすれば、それは十分奇跡と呼べるのかもしれないが)
ともあれ、タンクローリーの運転にも慣れてきた。
ここはあのゼロって奴の強さを信じて、少し時間を置いてから助けに行くべきだ。
そうすれば6人の大所帯。仲間がコレだけ集まれば反抗の狼煙を上げることも可能な気がしてくる。
その想像にメカ沢は心躍らせる。
(待ってやがれシグマ……今に俺が、俺たちがヤキいれてやるぜ!)
誰よりも無機質な表情でありながら、その心は誰よりも熱く燃えていた。
4人を乗せてタンクローリーは走る。
4つの心はバラバラなままで、疑心と悪意と決意をないまぜにして。
そして最初の放送まであと、わずか――
【D-1 コロニー間道路/早朝(放送直前)】
【ノーヴェ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:疲労(中)、精神的動揺(弱)
[装備]:スタームルガー レッドホーク、装弾数4/6@ターミネーター2
[道具]:支給品一式、不明支給品0~1(未確認)
[思考・状況]
基本:チンク姉と会って話しをする
1:ドラスを守る! チンク姉を救う! ゼロを助ける! スバルを救う! 全部達成する!
2:メカ沢、ロボを信頼。
※本編終了後の参戦です。
※ゼロからゼロの世界及びシグマに関する知識を得ました
※メカ沢の力を瞬間移動と誤解しています。
【メカ沢新一@魁!クロマティ高校】
[状態]:全身打撲。疲労小
[装備]:タイムストッパー@ロックマン2in体内
[道具]:
[思考・状況]
基本思考:シグマにヤキ入れる!
1:とりあえず離れて作戦会議だ!
2:ゼロとか言うキザな金髪男を助けに行く
3:チンクに軽い失望。だが、正気に戻させる!
[備考]
※携帯端末の使い方を全く理解していません。よって現在位置、参加者、支給品を把握していません
※メカ沢の携帯端末が修理工場内のどこかに落ちています。
※タイムストッパーは使用できるようです。
ただし本人は使えることに気付いていません。
【ロボ@クロノトリガー】
[状態]:健康
[装備]:液体窒素入りのタンクローリー@ターミネーター2
[道具]:支給品一式、PDA×3(ロボ、アラレ、シュトロハイム)、ぎんのいし@クロノトリガー
HARLEY-DAVIDSON:FAT BOY@ターミネーター2(E-3道路に放置):ロボのPDA
はちゅねミクのネギ@VOCALOID2(E-3道路に放置)
メッセージ大砲@ドラえもん(E-3道路に放置)、アタッチメント@仮面ライダーSPIRITS(シュトロハイムの右腕)
拡声器@現実(E-3道路に放置):アラレ、及びシュトロハイムのPDA。転送可能
[思考・状況]
基本思考:打倒シグマ。
1:ドラスを警戒
2:メカ沢と共に行く
3:協力できればストライクスピンが撃てるかも……
[備考]
※少なくともクロノ復活以降からの参戦です。
※現在位置、参加者名簿を確認しましたがメカ沢も把握済みだと思い伝えていません。
※メカ沢が携帯端末を失くしたことを知りません。
※ロックマンの武器チップの使い方を誤認しています。
※メカ沢の力を瞬間移動と誤解しています。
【ドラス@仮面ライダーZO】
[状態]:健康 右腕がスバルのもの。
[装備]:荷電磁ナイフ@マルドゥックスクランブル。ラトゥーニのゴスロリ服@スーパーロボット大戦OG。
セインを四、五歳幼くした状態に擬態。ただし、生えている(両方ついているかは、お任せします)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本思考:自爆装置とリミッターを外す。その後参加者を全員殺す。優勝したあとシグマも殺す。
1:怪しまれずにロボを排除する
2:ノーヴェ、メカ沢を利用尽くす。
3:T-800の排除。悪評を広める。
4:仮面ライダーとおよぼしき参加者の排除、もしくは吸収。
5:自爆装置、リミッターの解除。
※メカ沢の力を瞬間移動と誤解しています。
スバルが目を覚ました時、タンクローリーはすでに視界から消え去っていた。
立ち上がろうとする、がたまりに溜まった疲労は休養を訴える。
暗闇の中で彼女の脳裏に甦るのは彼女を“こう”してしまった出来事。
たった数時間前にあった、ある出来事を。
* * *
雪原の中を一人の少女が行く。
だがそのシルエットには何かが足りない。
そう、右腕である。
超磁圧ナイフで切り取られた右肩は血の一滴も見せず赤黒い傷口を晒している。
ドラスに裏切られた直後、スバルはビルから全力で逃げ出していた。
何故ボイルドが周囲にいるという危険性を無視してまで飛び出したのか、それは彼女にも分からない。
ただ無我夢中で走り出して、気付いたら周囲に広がっていたのは雪原だった。
そう、いつの間にかスバルは最初に自分が飛ばされたコロニーまで移動していたのだ。
そこはマップで言う【D-3】ブロック、雪原コロニーの町の端だった。
町外れから見る人気の無い建物の群れは雪に包まれ、沈黙を保っている。
雪に包まれた世界に戻ってきて、最初に出会った筋骨隆々の男を思い出す。
ボブという男の言うとおり、ドラスは裏切った。
だがスバルは心のどこかでドラスをまだ信じたいと言う気持ちが残っていた。
(そう、だって“殺したいわけじゃない”って言ってたし……)
絶望の中に希望を見出す。
本来なら美点であるそれも狡猾な悪魔にとっては格好の餌でしかない。
そして疑心暗鬼という悪魔は
だから聞こえてきた雪を踏みしめる足音に、反射的に物影に身を隠してしまう。
物影から足音の主を伺えば、そこにいたのは緑色の髪の少女。
あれがドラスが姿を変えたモノでないという保証は無い。
そう疑うと少女の姿がどうしようもなく恐ろしいものに見えてくる。
だがスバルは自分に言い聞かせる。人を信じなくて何になるのか、と。
これまで培ってきた世界が、15年間の人生が彼女の勇気を後押しする。
「す、すみませ「ははわわわわわわわ!?」
物陰からいきなり出てきたスバルに驚いたのか、
少女はしりもちをついたままで、こちらを見上げている。
「え、あ、あの……驚かせてしまったのならごめんなさい!
私は時空管理局局員のスバル・ナカジマといいます!」
慌てていつもの癖で自己紹介してしまった自分を恥じる。
時空管理局なんて単語は管理世界の人には分からない人たちもいるというのに。
「あ、はい! わざわざありがとうございます!
こちらこそはじめまして。HMX-12マルチと申します!」
だが少女は向日葵のような笑顔で挨拶を行い、釣られるようにスバルの顔にも笑みが戻る。
と、そこで気付く。マルチの服が大きく破けてしまっていることに。
マルチはスバルの視線の先に気付き、照れくさそうな笑みを浮かべる。
「服が破けてしまって、代わり服を探しているんです。
町をず~っと見てきたんですけど、無いんですよね……。
でも良かったです。ちょうど服が見つかって!」
その言葉につられるようにマルチの視線の先を追うが、そこは自分の背後。
そこに広がるのは一面の銀世界。
「あの、どこに――?」
聞き返そうと振り向いた瞬間、スバルの視界を覆ったのは銀色の板。
そう、マルチは笑顔のままで、ランディングボードを思いっきり振り下ろしのだ。
「――がっ!?」
マルチが女子高生並みのパワーしか持たないとはいえ、無防備な状態でそれを受け、一瞬意識が飛びかける。
頭から流れる血を押さえて、数歩下がったスバルが見たのは先ほどと変わらぬ笑顔で、再び凶器を振り上げるマルチの姿。
「これだけだと寒いのでスバルさんの服をもらいますね~」
再び振り下ろされる合金板を地べたを転がるようにして回避するスバル。
ここで冷静に対処していれば、片腕だけとはいえ武装局員であるスバルがマルチを取り押さえるのは造作も無いことであっただろう。
だがドラスが植えつけた悪意の種は芽吹き、スバルの心を蝕んだ。
恐怖という名のレンズは自身より小柄なマルチを悪魔の如く歪んで映していたのだ。
「う……あ……あああああああああああああああああっ!!」
その結果、スバルは逃亡した。
恥も外聞も関係なく、こけそうになりながらも目の前の少女から一歩でも遠く離れようともがいた。
「はわわ、逃げないでくださいよ~」
声が後ろの方へ消えていく。
元々運動性能の違いだ。本気で走ったスバルにマルチが追いつける道理などあるはずが無い。
目の前に昆虫の複眼を持った異形が現れなければ。
目の前の存在に助けを求めるのか。それとも後ろから迫る少女に対しての注意を促すか。
疑心暗鬼に囚われたスバルは、たったそれだけのことができないかった。
それに目の前の怪人はドラスの話していた仮面ライダーに酷似しているのも原因の一つであった。
心のどこかでまだあの少年を信じていたいと願った心が、スバルから即座に行動すると言う選択肢を奪う。
そしてその結果、鋭い右フックがスバルの腹に突き刺さった。
「か……はっ……!?」
その運動エネルギーはスバルの人工心肺から無理やり息を搾り出すだけでは止まらず、
吹き飛ばされ、雪原へと投げ出される。
ストロンガーの姿を模したT-1000は冷徹に任務を遂行する。
ナタクの時と同様、シグマウィルスを仕込もうと右腕を巨大な注射針へと変貌させ、スバルに迫る。
「逃げるなんて酷いですよ~」
そこに物音を聞きつけたマルチも追いついた。
シグマウィルスに操られた彼女はT-1000に見向きもせず、ライディングボードを構えてスバルのほうへと向かってくる。
その光景にスバルは恐怖した。
戦いの恐怖とは違う、周囲の人間を信じれなくなる恐怖。
それはスバルが初めて感じる種類の恐怖だった。
何故ならば彼女の傍にいたのは信頼と言う絆で繋がった仲間たちだったのだから。
その恐怖は見えない鎖となって、スバルの動きを封じた。
そして繋がれた囚人に2つの処刑鎌が迫り、振り上げられた。
「い……やああああああああああああっ!!」
その結果、彼女は無意識のうちに力を解放した。
力の名は“振動破砕”。接触した機械に震動を叩き込み破砕する彼女の先天系特殊技能。
彼女の優しさ故に振るわれる事が殆ど無い、だが機械機構を持つものたちにとって最も恐るべき力の一つ。
突き出された左腕から暴虐の力は2体の体へと叩き込まれる。
唯のメイドロボであるマルチはプロテクションなど特殊な技能を持たない。
いや、むしろ“どんくさい”部類に入る彼女は、防御体勢を取ることすら不可能であった。
故に結果、粉々に破砕された。部品を撒き散らしながら。
断末魔も、最後の言葉すら残すことなく心優しいメイドロボは砕け散った。
そしてその一撃は攻撃の瞬間に移るところであったT-1000も直撃した。
震動は衝撃波を生み、T-1000を粉々に破砕し、水銀にも似た液体を雪原に散らばらせた。
雪原に散らばる瓦礫と銀の飴。
その光景はスバルの心に一つの闇をもたらした。
飛び散ったのは電子部品と液体金属の塊たち。
その中には生体パーツなど一片も含まれてはいなかった。
故に、スバル・ナカジマはその思い付きを肯定した。
目に映るのは訓練で、任務で散々壊してきた目標と同じ。
多少形が違うだけで、ガジェットドローンなどと同じただの機械なのだ、と。
その思い違いは正義感を歪ませ、目に映る全てを悪魔へと変貌させた。
「そうか、そうだったんだ……」
ぶつぶつと呟きながら、幽鬼のような足取りで走ってきた道を戻っていく。
その手にマルチが振りかざしていたランディングボードを抱えたままで。
* * *
「だから……全部壊すんだ」
誰に聞かせるでも無い呟きと共に意識を取り戻したスバルは、立ち上がりながらこれからの行動を思案する。
まだ周囲にいるであろうタチコマから破壊すべきか?
いや何よりも誰よりも――ドラスを放っておくわけにはいかない。
まだそんなに離れていないであろうタンクローリーに向かい、追跡を開始しようとする。
だが、そんな彼女の前に、
「おい、お前、大丈夫か!?」
新たな標的が現れた。
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|044:[[DEVIL A/Beginning]]|スバル・ナカジマ|068:[[運命交差点(後編)]]|
|060:[[強者をめぐる冒険]]|T-1000|068:[[運命交差点(後編)]]|
|060:[[強者をめぐる冒険]]|マルチ|&color(red){-GAME OVER-}|
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