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「兄弟/姉弟/家族(中篇)」(2008/08/25 (月) 12:36:58) の最新版変更点
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*兄弟/姉弟/家族 ◆2Y1mqYSsQ.
□
「はぁ、はぁ、はぁ……」
あれからどれほど経ったのだろうか?
ドラスには時間を確認する余裕すら残っていなかった。
人間の子供のように膝を抱え、かすかな物音にすらおびえる姿。
そこには究極の生命体としての姿はない。
(……もしかして、試作品……未完成品は僕の方じゃ……?)
ドラスに一つの疑問が沸きあがった。自分より先にZOが完成された、という知識はある。
だが、ZOが先にできたかどうかは、未完成か否か、真実なのか疑問が湧き出てきた。
ZOはドラスを倒している。そして、同じく『仮面ライダー』である仮面ライダーXは自分を圧倒した。
つまり、ネオ生命体『ドラス』を踏み台に、究極の生命体『仮面ライダー』を望月博士は作り出したのではないか?
ドラスの脳裏に恐ろしい答えが上がる。
(だから……パパは完成品が……お兄ちゃん『仮面ライダー』ができたから、僕を失敗作だといって捨てようとしたの?
あんなに僕のことを愛していたのに、あっさり手の平を返したのも、『仮面ライダー』が完成したから?)
欠けたパズルが完成したかのように、ドラスの中に真実が作られていく。
それが現実と違う答えであっても、ドラスの中ではそれ以外望月博士が豹変した理由を得ることができなかった。
ドラスはその事実を必死に否定しようとする。それも無駄な行為となる。
仮面ライダーZOの蹴りを、仮面ライダーXの猛攻を思い出し、身体が震えた。
(嫌だ……僕は死にたくない……。何でもするからパパに愛してもらうんだ。
絶対捨てたりしないようお願いするんだ……)
悪魔の面影も欠片も残らないドラスは這い出て、基地を離れることを選択した。
策略も、これからの展望も何もない。ただ絶望を抱き続け、逃げ惑うだけ。
「X……」
現実は無情をドラスに突きつけた。ドラスが振り返ると、ライトを背に逆光の仮面ライダーXが冷たく見下ろしていた。
「キック……」
砲弾のように迫る仮面ライダーXのキックがドラスの腹を強打する。
身体をくの字に曲げたドラスは鉄柱に叩きつけられた。ずるずると芋虫のようにドラスは這って、少しでも仮面ライダーXから逃れようとする。
ドラスの表情は、恐怖に満ちていた。
それでも、暗闇の種子に支配されている仮面ライダーXには関係ない。静かに終わりを告げる。
「ライドル……」
仮面ライダーXが地面を蹴って跳躍する。
黒い瞳は、ドラスに狙いを定めて長ドスを振り上げた。
「脳天……」
急降下する勢いを得て、多くの怪人を死を与えた技を繰り出さんと迫る。
そこに容赦など一切ない。ドラスはその姿を目撃して、必死に腕をかきだした。
「割「メカ沢ビィィィィィィィィム!!!」りッ……!?」
仮面ライダーXの胸部に太い閃光の筋が飛び込んでいく。爆発音が聞こえたと思ったら、ドラスは浮遊感を感じていた。
ドラスの腰を抱き抱える、見覚えのある単純な構造の腕。顔を上げると、見慣れたドラム缶に似た体型の男が仮面ライダーXを睨みつけていた。
「いよ、待たせたな。わりい、遅れた」
息を切らせながらも、学ランをなびかせてメカ沢がドラスを助けた。
ドラスは、驚愕に満ちた視線を送った。
□
ドラスの異形の姿を目撃した三人に訪れたのは沈黙だった。
三人が三人、戸惑いが感情を支配して、どう動いていいか分からなかったのだ。
いや、一人だけ違った。ドラム缶に似た身体を持つメカ沢はいの一番に動いた。
「おい、ノーヴェ、ロボ。ドラスを助けるぞ」
「メカ沢……? デスガ……」
「どんな姿だろうと関係ねえ。……それに、気づかなかったか? あいつ、ボロボロだったぞ」
メカ沢の指摘に、ノーヴェがハッとする。対照的にロボの態度は厳しかった。
「エエ、あの爆音から察スルに、戦っていたのはドラスデショウ」
「だろ! あいつは誰かに追われているんだよ! 助けなきゃやばいだろうが!!」
「……なら、ナゼワタシたちを呼ばなかったのデショウカ?
アレほどの危険な目に遭っていナガラ。ワタシたちに助けを求めないのは不自然デス。たとえ強くテモ」
理路整然とメカ沢にロボは反論する。もともとドラスにいい印象を持っていなかったためか、口調も厳しくなった。
メカ沢はうつむいて、静かになった。ロボの意見を理解してくれたのだろうか。
「…………ロボ」
メカ沢は静かに仲間の名前を呼ぶ。ロボはメカ沢を見つめた。
その無機質な目からは感情を読み取るのは困難だった。
「見損なったぜ」
ゆえに、返ってきた言葉に、怒りを押さえ込んだような静かに漏れる声に、ロボは驚いた。
怒りに任せたまま、メカ沢は乱暴にロボに背を向ける。
「ドウいうことデスカ!? メカ沢!!」
「……あいつが、俺たちを巻き込まないように一人で戦っていたかもしれないじゃないか……」
ロボはメカ沢の言葉に驚いた。
ドラスの性格からして、それは可能性が低い。そのことを告げようとして、遮られる。
「それに、子供がおびえて追われているんだぞ! 放っておくのは男が……不良がすることじゃねえ!!
ロボ、俺はお前を男として見込んでいた。けどな、子供を見捨てるように言うようじゃ、俺の見込み違いだったようだな。ポンコツ野郎!!
ここでてめえとはお別れだ。あばよ! 俺一人でドラスを助ける!!」
「メカ沢!!」
ロボの制止の声を振り切り、メカ沢はドラスの消えた方向へと走り去っていく。
虚空を掴むロボの手が、置き場所もなくさまよった。
メカ沢を見つめるロボの隣に、ノーヴェが並んだ。そのノーヴェも瞳に決意が宿っている。
「ノーヴェさん……」
「……あたしさ、ドラスのあの姿に似た召喚虫……ガリューっていうんだけどな、見たことあるんだ。
あれみたいな姿になれるのは驚いたけど……それでも、ドラスを守りたいって気持ちは変わらなかった……」
ロボに向かってノーヴェは微笑を向けた。
どこか達観したような、それでいて強い意志をはらんだ笑みを。
「あいつ、メカ沢も言っていたけど、どんな姿になれてもドラスは子供なんだ。
怖くて、捨てられたことが悲しい子供。あたしだって、チンク姉に捨てられたと思ったときは辛かった。
だから、ドラスを絶対捨てたりしない! それじゃ、ドラスを捨てた奴と同類になっちまう!!」
ノーヴェの言葉に、ロボはハッとする。マザーブレインは自分の意に沿わないとして、ロボを排除しようとした。
今の自分の行動は、ドラスが危険分子だと勝手に判断して排除しようとしている。
マザーブレインと自分の行動、同じではないか?
自己嫌悪が電子頭脳に浮上した。
「だから、あたしも行かせてもらうぜ。心配してくれて、ありがとう。またな」
二ッ、とノーヴェが笑って、メカ沢に待つよう告げながら走っていく。
その背中を見送り、ロボの胸中にもやもやしたものが生まれでた。
クロノたちなら、確かに子供を見捨てるような真似はしない。なぜなら、見捨てる自分を決して誇れないからだ。
ロボは遠のいていくノーヴェの背中を見つめ続けた。
□
「な……んで…………?」
「へっ、水くせえじゃねえか。変身できるなら、最初に言っとけって」
「そう……じゃないよ……。メカ沢……」
ボロボロのドラスの額に、メカ沢はデコピンをする。軽くて、優しい、突っつくようなデコピン。
ドラスはキョトンとした表情で、メカ沢の顔を見つめた。
「ブサイクでいいって。いつもの元気なお前はどうした? いきなり媚を売るだなんて、寒気がする」
「一言……多いんだよ……ブサイク……」
鼻を鳴らすメカ沢の前で、仮面ライダーXが不気味に近寄ってきた。
ドラスを抱えてどこまでできるか。いささか不安がメカ沢によぎる。
火薬が破裂する音が響いて、弾丸が仮面ライダーXの体表を跳ねるのを目撃する。
首を発射点に向けると、ノーヴェが銃を構えて走ってきた。
「ドラス! 大丈夫か……?」
「ギリギリだったぜ……何とか間に合わせた」
「そうか……」
ホッとするノーヴェを前にして、ドラスは不思議に思った。
怪人の、異形の姿を晒したのに、この二人はなぜ自分を庇おうとするのか。
それどころか、守るために仮面ライダーXと対峙している。理解ができない。
それでも、そんなに悪い気分じゃなかった。知らず、ドラスはメカ沢の袖を握っていた。
「こいつ……あたしとゼロを襲った奴だ!」
「ってことはやばい相手ってことか……」
メカ沢が冷や汗を流しながら、じりじりと後退する。
仮面ライダー相手では、二人は分が悪かった。
仮面ライダーXは一瞬で距離を詰めて、メカ沢に拳を振るった。どうにかドラスを庇いながら、拳を受け止めるが力が半端ではなかった。
メカ沢の身体が浮き、ノーヴェがフォローのために間に割って入る。
すると、仮面ライダーXはあっさりと後退した。メカ沢とノーヴェが一直線に並ぶ。
仮面ライダーXが長ドスを構えた。その狙いを察して、ノーヴェとメカ沢が互いに行動に移そうとする。
しかし、間に合わない。
すべてを貫かんと仮面ライダーXが突きを繰り出す。
メカ沢がせめてドラスだけはと身を捻った。
仮面ライダーXが急停止をする。メカ沢たちが疑問に思う暇もなく、彼らの間にレーザーが横凪に放たれた。
白い巨躯が仮面ライダーXの眼前に立ち、その拳をいくつも胸部に吸い込ませる。
ロボの『マシンガンパンチ』が仮面ライダーXに放たれて、五メートルほど宙を舞わせた。
轟音を立てて吹飛ぶ仮面ライダーXを尻目に、ロボはメカ沢たちに近づく。
「……来たのかよ」
「エエ、来マシタ。ドラスさん、ちょっといいデスカ?」
ロボは傷だらけのドラスを覗き込み、緑の血を流しているが、瞳に恐怖があるのを確認する。
この恐怖は演義じゃない。ロボのレーザー発射口から、淡い光が放たれ、ドラスを包んだ。
「すげえ……ドラスの怪我が治っていく……」
ノーヴェの呟きどおり、ドラスの身体の傷がふさがっていく。
全快とまではいかないが、それでもケアルビームでドラスはだいぶ楽になったのだろう。
「スイマセンネ、ドラスさん。でも、助けに来ましたから、もう大丈夫デス」
「へっ、ロボ。お前、心まではポンコツじゃないようだな」
「当然デス。ワタシは、ワタシの仲間に誇れる自分になりたいのデスカラ」
互いに笑顔を交わした二人は、表情は変わらなくても、確かな信頼を確かめ合った。
ロボは振り返り、仮面ライダーXがいた地点を睨みつける。視線の先には、立ち上がる仮面ライダーXがいた。
「ドラスさん、これだけは言ってオキマス。ワタシはマザーに人を殺すように作られマシタ。
けれど、ワタシはクロノたちのように、人間の仲間を得てイマス。だから、ワタシはマザーに反発をシマシタ」
ロボはドラスに、祈るような気持ちで告げる。かつての自分の、恋人の二の舞にならないように。
自分の警戒がただの空振りなのを祈って。
「デスカラ、あなたの存在意義が、父親に認められるだけだと思わないでクダサイ。
あなたの価値を認める仲間は、こんなにもいるのデスカラ」
ロボは仮面ライダーXに向かって疾走する。
祈りを、愛を抱えたロボに迷いはない。仮面ライダーXを道連れに、隣の部屋へと駆け込む。
その間に逃げろということだろう。ノーヴェはロボの思惑を無視して、駆けていった。
「ドラス、ここに隠れていろ」
「だ、大丈夫……僕も……戦う……」
「震えているだろうが。無理はするな」
「た、戦わないと! 強くないと! ぼ、僕は最強の生命体として……」
メカ沢はドラスの言葉を遮り、頭を乱暴に撫でた。
くしゃくしゃな髪になったドラスが、不安げな瞳を向ける。
「気にすんな。強かろうが、弱かろうが俺もノーヴェもロボも嫌ったりはしない」
「で、でも、それじゃあ僕は何のためにいるのさ!」
「そんなの決まっているだろ」
メカ沢が再度、ドラスの頭を撫でる。今度は優しく、赤子をあやすように。
「お前は、俺と口喧嘩して、ノーヴェにお姉ちゃんと甘えて、ロボと遊んでいりゃいいんだよ。
誰かがボケたのなら、『それはギャグでいっているのか?』とかいってツッコメばいい。
だってお前は、俺の弟だからな」
「弟…………?」
「ああ、俺は兄貴だから、弟を守る。ベータの時もそうした。お前の時もそうする。
強さなんて関係ねえ。だから、お前は大人しくここで俺らの帰りを待っていな」
戸惑いを見せるドラスに、メカ沢は学ランを脱いで肩にかけてやった。
ヒーターが効いているとはいえ、雪に包まれた雪原地帯コロニーである。
寒さが身に染みるが、メカ沢はやせ我慢をする。
「身体を冷やすんじゃねえぞ。俺らが、すべてを片付けて戻ってきてやるからな」
そういい残して、メカ沢は地面を蹴る。ロボやノーヴェ、いずれも失いたくない仲間だ。
そして、ドラスが心を痛める状況など、作りたくない。
強固な決意をするメカ沢の背中に、ドラスの声がかかった。
「死なないで! メカ沢……お兄ちゃん……!」
メカ沢は内心驚きながらも、気恥ずかしさをごまかすように鼻頭をこすった。
右手を上げて、応えてやる。振り返らず、先ほどよりも速い速度でロボたちのもとへと駆け出した。
□
横凪に振るわれる長ドスに、ロボとノーヴェは後方に跳んで避ける。
四方を鉄の壁に囲まれた巨大な部屋にて、仮面ライダーXと二人は対峙を続ける。
仮面ライダーXの圧倒的な強さに、二人はじわじわと追い詰められていくのを実感した。
そう考えると、巨大な部屋が監獄と錯覚してしまう。ごくり、とノーヴェがつばを飲み込んだ瞬間、仮面ライダーXが大降りに長ドスを振る。
構えるノーヴェとロボの眼前で、銀色の影が飛んできた。
「ちょっと待てー!!」
弾丸のごとく仮面ライダーXに迫るメカ沢を、あっさりと避けられる。
しかし、仮面ライダーXが後方に飛びのく隙をロボは見逃さず、右腕を発射した。
敵の脇腹を砕きながら、戻ってくる腕を装着するロボと共に、ノーヴェはメカ沢を助け起こす。
「メカ沢! ドラスはどうしたのデスカ!?」
「ちょっと待ってもらっている。寂しがっているだろうから、とっとと倒して迎えにいくぞ」
「たく、急がなくちゃいけない理由を増やしやがって……」
「……ノーヴェ」
「ん?」
「俺、あいつにお兄ちゃんって、呼ばれたぜ。羨ましいだろ?」
自慢するような口調のメカ沢を前に、ノーヴェは僅かな間キョトンとする。
やがて微笑んだかと思うと、メカ沢の頭をポン、と叩いた。
「あたしはいつも、ノーヴェ『お姉ちゃん』って呼ばれているぜ。羨ましいか?」
「へっ、俺はこれからも呼び続けてもらうんだよ」
「言ってろって」
メカ沢とじゃれながらも、対峙している仮面ライダーXから視線を逸らさない。
どう攻め込むか。思考を続けるノーヴェに、ロボの声が聞こえてきた。
「ワタシも……『お兄ちゃん』って呼んでもらえるデショウカ?」
ロボから告げたと信じられないような言葉に、二人は一瞬驚く。
しかし、すぐに微笑を浮かべて、答えを返した。
「当たり前だろ」
「へ、ロボ。その前に、こいつを倒さなくちゃな」
「もちろんです。メカ沢」
三人が並び、殺気を放つ仮面ライダーXを睨みつける。
その決意、鉄よりも硬い。一歩も通してなるものか。三人は心を一つに、飛び掛った。
「うりゃぁぁぁぁぁ!!」
ノーヴェは吼えて、仮面ライダーXの頭部に向かって回し蹴りを放つ。
全力をかけた、懇親の一撃だった。ノーヴェの疾風のような蹴りを、仮面ライダーXはそよ風のごとく受け止める。
悔しさに顔を歪ませたノーヴェに、仮面ライダーXの右腕がゆっくりと狙いを定めた。
鋼鉄をも砕くXパンチ。ノーヴェの鳩尾をめがけて、打ち放たれる。
「させるかよぉぉぉぉぉ!!」
メカ沢が間に入り、Xパンチを受け止める。メカ沢のボディが衝撃にへこむが、辛うじて耐えた。
メカ沢の瞳が、爛々と輝いて仮面ライダーXを捉える。
「俺は……頑丈なんだよ!!」
強がりながら、仮面ライダーXの胸部の、赤いプロテクターを殴りつける。
あまりの頑強さに、逆にメカ沢の拳が痛んだ。
「メカ沢! 伏せてクダサイ!!」
その言葉にメカ沢は素直に従い、上半身を即座に沈める。背中を高速で飛ぶロボの腕が掠めた。
激突音が鋼鉄の部屋に響く。
耳をつんざくような音を発し、十メートルほど後退しながらも、仮面ライダーXは長ドスでロケットパンチを受け止めきった。
だが、ロボたちの攻勢はまだ衰えてはいない。
仮面ライダーXの身体に次々と銃弾が撃ちこまれていく。
ノーヴェがエネルギーを帯状に固めた地盤―― エアライナーを昇りながら、手持ちのスタームルガーの弾丸を撃ちつくす。
昇りきった後に、エアライナーを蹴り降りて、両足を仮面ライダーXに向ける。ゼロと開発した、絆の証の技。
「ブレイクライナーキィィィィィィック!!」
目下の仮面ライダーXに向かって、己の持てる力を解き放つ。
それに対応しようと仮面ライダーXが動くのを目撃した。
(間に合え……間に合え!!)
祈るように心が叫ぶ。仮面ライダーXが跳躍しようとした瞬間、
「行かせるかよ!」
メカ沢が体当たりで、姿勢を崩した。切り離されたロボの腕が、メカ沢の背中を押している。
ゆえに、仮面ライダーXでさえも避けれない状況を生み出した。
(サンキュ……)
ノーヴェの限界突破が、仮面ライダーXに届いた。
「嘘……だろ?」
ノーヴェが絶望を込めて呟いた。限界突破の一撃は、仮面ライダーXの片腕によって止められていた。
そのままノーヴェは横凪に振るわれ、メカ沢を巻き込んでロボのもとへと投げ飛ばされた。
「ぐ……強い……」
ノーヴェの呟きに、ロボが同意する。無茶苦茶な強さだ。
頑強にも程がある。耐久力が並ではない。どちらもメカ沢以上だ。
速さも、この中で一番身軽なノーヴェと同じか、それ以上。
力も、ロボと同等か、それ以上にある。
何より、いなし、捌く巧みさ。技量がまるで違う。戦闘経験の差だ。
すべてにおいて、三人よりも圧倒的に上の実力を持つ仮面ライダーXを前に、ノーヴェたちはなす術もない。
もっとも、それで諦めるような三人ではなかったが。
「おい、次ぎ仕掛けるぞ!!」
「エエ、二人とも、ワタシの後についてきてください」
「次こそ、完全にあたしの蹴りをぶちかます!!」
闘志の衰えない三人の声。ここで負けてしまえば、次はドラスだ。
負けるわけにはいかない。三人の想いは一つとなる。
その瞬間、ロボの持つ「ぎんのいし」が光り輝いた。
「なんだ、そりゃ!」
「コレハ……」
ロボが輝くぎんのいしに、希望を見出す。溢れるエネルギーを手に持ちながら、メカ沢とノーヴェに声をかけた。
「メカ沢、ワタシに合わせてクダサイ!! ノーヴェさん、あのキックを、もう一度オネガイシマス」
「なんだかわからねえが、任せろ!」
メカ沢の返事を得て、ロボは駆け出す。メカ沢が後に続いた。
ぎんのいしのエネルギーがロボとメカ沢に宿る。
もっとも、仮面ライダーXも見ているだけではなく、迫ってきた。
「ちきしょう! ちょっとは待ちやがれ!」
「クッ……!」
ロボの悔しげな声は、現状が絶望的であることを教えた。
(もうちょっとなんだよ……もうちょっとだけ、時間を……)
メカ沢が祈るように思う。それは本当に、僅かな時間の思考だった。
神速の速度で迫る仮面ライダーXを前に、メカ沢は悔しげな視線を向けるだけだった。
(頼む! 神様、少しだけ俺らに時間をくれ!! あいつを……)
『死なないで! メカ沢……お兄ちゃん……!』
(あいつを、守るんだ! でなきゃ、不良の筋が……兄貴の筋が立たねえ!!)
メカ沢の想いに応えるように、体内のタイムストッパーのチップが起動する。
瞬間、メカ沢は周囲の動きが止まったように思えた。
(またあの時の感覚! 神様、愛しているぜ!!)
固定された仮面ライダーXをめがけ、メカ沢は全身を弾丸に変えて、吹き飛ばす。
周囲が色を取り戻し、正常に戻った時の流れの中、カウンター気味に決まったメカ沢の頭突きが仮面ライダーXを吹き飛ばした。
よろめく仮面ライダーXを中心の沿え、舞台は整う。
仮面ライダーXを挟んで、メカ沢とロボが並ぶ。ボディをゴリラのドラミングのごとく鳴らすロボの周囲に、エネルギーが生み出された。
同時に、メカ沢の身体からも、ロボから放出されているのと同種のエネルギーが飛び出してきた。
その二人に間に、ノーヴェが飛び込む。
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
重なる三人の声。エネルギーに乗ってノーヴェが上昇していく。
中央の仮面ライダーXはぎんのいしの発するエネルギーに抑えられ、身動きが取れない。
上昇しきったノーヴェは、エネルギーの渦の中央に吸い込まれれ、両足をそろえて仮面ライダーXを捉える。
エネルギーによって上に昇るメカ沢とロボと入れ違いに、ノーヴェは先ほどとは比べ物にならないほどの速度で落下していった。
本来なら、カエルがジャンプ斬りで決める締めに、ノーヴェのブレイクライナーキックが代わりを務めた、擬似ストライクスピン。
しかし、その威力は本家ストライクスピンにも劣らない。
落雷が起きたかのような轟音が響く。
粉塵の中、目にも留まらない速さで仮面ライダーXが壁に激突して、瓦礫に埋まった。
「はぁ、はぁ、くそ。もう二度と立つんじゃねえぞ……」
「へっ、活躍だったじゃないか。ノーヴェ。女にするには勿体ねえ」
「……褒めているのか? それ」
「あ? 当たり前だろ」
「このやろう……あたしに色気がないってか! 悪かったな!!」
「んなの知るか!」
危機が去ったと判断してじゃれ合う二人に呆れながらも、メカ沢はホッとしつつ手元のぎんのいしを見つめる。
あの一度、ただ一度だけ、エネルギーを感知した。今は沈黙しているそれを、ロボは不思議そうに見つめる。
カエルもエイラもいない。なのに応えてくれたのは、二人の想いに反応をしたからだろうか?
答えは返ってこないが、それいいとも思う。ロボは静かにため息をついて……地面を蹴った。
不思議がるメカ沢を突き飛ばした瞬間、瓦礫が飛び散り、仮面ライダーXが舞い降りた。
ため息をついた瞬間、僅かに瓦礫が動くのを目撃していたのだ。
仮面ライダーXがロボを掴んだ。
仮面ライダーXが胸部にエックスのチャージショットを受けて以来、沈黙しているものがあった。
マーキュリー回路。
マーキュリーパワーを生み出す、先輩ライダーの風見志郎から受け取った力の源だ。
チャージショットの衝撃で沈黙していた装置が、危機を前にして、ブレイクライナーキックを前にして、ついに目覚めたのだ。
身体を正常な状態にする生命の水。
時間をかけて、ようやくマーキュリー回路まで届いたのだ。
暗闇の種子を撃退するには、生命の水が足りない。
僅かな時間で回復するには、生命の水が足りない。
されど、時間をかければ、万全の状態の殺人鬼へと戻れる。
ゆえに、タイミングよくマーキュリー回路が作動した仮面ライダーXは、三倍の身体能力をもってしてぎんのいしのエネルギーの拘束を振りほどいたのだ。
身をずらして、ストライクスピンの直撃を避け、全身にマーキュリーパワーを漲らせた仮面ライダーXはロボを掴んだ。
「真空…………」
掴んだロボの身体を持って、仮面ライダーXは地面にロボの頭を叩きつけた。
凄まじい衝撃がロボに走る。
「地獄…………」
さらに上昇して一回転追加、落下後再び叩きつけられる。
ロボの体内はもうぐしゃぐしゃであろう。それでも、ロボの瞳に諦めはない。
(使えマス…………)
何度も何度も叩きつけられながらも、ロボは最後の力の使いどころを計算し続ける。
これは外すわけにはいかない。凄まじい力の本流の中、ロボは思考を続ける。
(ワタシは……アトロポスと同時期に開発されマシタ……)
「車ぁぁ…………!!」
一際大きく、仮面ライダーXが叫び、ロボが投げ飛ばされる。天井に穴が開くほどの衝撃。
それで猛攻は終わらず、仮面ライダーXが天へと跳躍する。好都合。
(だから、ワタシはアトロポスと同ジク……)
ロボの姉妹機アトロポス145、彼女はロボが本来の任務を拒否したため、互いに争わねばならなかった。
ロボはその戦いを拒み、ひたすら彼女の攻撃を受け続けるだけだった。
だが、狂気に支配されているはずだった彼女に異変が起きる。
ロボとの戦いの結末は、彼女の……
「X……キィィィィィック……」
向けられた右足が激突する瞬間、ロボの体内の炉が燃え上がる。
「メカ沢、ノーヴェさん、ドラス……後はオネガイシマス!!」
瞬間、空に爆発の華が盛大に開く。自爆、彼らが取れる、最後の道。
吹雪に晒された爆発は、基地全体を揺らした。
「ロボォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」
メカ沢の咆哮が轟く。穴よりはいる雪が冷たさをメカ沢に伝えるが、悲しみに満ちた彼はそのことを気にかける余裕はなかった。
空より落ちてくるロボのパーツが、メカ沢の心を抉る。
そして、仮面ライダーXも全身くすぶりながら舞い降りてきた。
「あいつ……!」
「ロボに蹴りが到達する瞬間、あの怪人はドスを振り回して耐えたんだよ……」
怒りに燃えるノーヴェとは対照的に、メカ沢が静かだった。
彼の言うとおり、仮面ライダーXは蹴りが到達する瞬間ロボの行動を予測して、キックを中断した。
そのまま長ドスをまわし、ライドルバリアを仕掛けて、爆発に耐えたのだ。
マーキュリー回路が蘇ったからこそ、取れる行動だった。
「くっ、けど!」
「ノーヴェ、ドラスを頼むわ」
「メカ沢、お前何を……!」
ノーヴェが吼える瞬間、メカ沢が突き飛ばし、シャッターを閉じるボタンを押した。
戻って来れないよう、タイムストッパーでできるだけ遠くに運び、内部に戻る。
仮面ライダーXなら、このシャッターを破壊するのはたやすい。そう判断して、足止めを覚悟したのだ。
降りていくシャッターを見つめ、ノーヴェが驚いた。急に大距離の移動、それはメカ沢が行ったことを察知する。
「聞け! ドラスは、あいつを助けた場所のコンテナの傍に隠している。そこに迎えにいってやれ。寂しがっている」
「お前、格好つける気かよ! ロボもお前も、自分勝手だ!!」
「そりゃそうだ。俺もロボも、男だからな」
「ふざけるな! あたしの方がお前より強いんだぞ!!」
「知っている。だが、ドラスにも言ったけど、強いも弱いも関係ねえ。お前は女、俺は男。
だから俺が守る。メカ沢新一、最後の喧嘩だ。華を持たせてくれや」
ノーヴェは歯を食いしばり、閉じていくシャッターを見つめていた。
涙をこぼしながら、メカ沢に告げる。
「……あいつの『お姉ちゃん』を独り占めするぞ……?」
「そいつは、ちょっと悔しいな……」
その一言を残して、シャッターが完全に閉じた。部屋の向こうでは轟音が聞こえる。
ノーヴェは踵を返して、駆けつづけた。ドラスの前で涙は見せてはいけない。
それでも、彼のところに辿り着くまでは、仲間の死を悲しみ続けたかった。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|089:[[兄弟/姉弟/家族(前編)]]|ノーヴェ|89:[[兄弟/姉弟/家族(後編)]]|
|089:[[兄弟/姉弟/家族(前編)]]|ドラス|89:[[兄弟/姉弟/家族(後編)]]|
|089:[[兄弟/姉弟/家族(前編)]]|メカ沢|89:[[兄弟/姉弟/家族(後編)]]|
|089:[[兄弟/姉弟/家族(前編)]]|ロボ|89:[[兄弟/姉弟/家族(後編)]]|
|089:[[兄弟/姉弟/家族(前編)]]|アルレッキーノ|89:[[兄弟/姉弟/家族(後編)]]|
|089:[[兄弟/姉弟/家族(前編)]]|神敬介|89:[[兄弟/姉弟/家族(後編)]]|
*兄弟/姉弟/家族 ◆2Y1mqYSsQ.
□
「はぁ、はぁ、はぁ……」
あれからどれほど経ったのだろうか?
ドラスには時間を確認する余裕すら残っていなかった。
人間の子供のように膝を抱え、かすかな物音にすらおびえる姿。
そこには究極の生命体としての姿はない。
(……もしかして、試作品……未完成品は僕の方じゃ……?)
ドラスに一つの疑問が沸きあがった。自分より先にZOが完成された、という知識はある。
だが、ZOが先にできたかどうかは、未完成か否か、真実なのか疑問が湧き出てきた。
ZOはドラスを倒している。そして、同じく『仮面ライダー』である仮面ライダーXは自分を圧倒した。
つまり、ネオ生命体『ドラス』を踏み台に、究極の生命体『仮面ライダー』を望月博士は作り出したのではないか?
ドラスの脳裏に恐ろしい答えが上がる。
(だから……パパは完成品が……お兄ちゃん『仮面ライダー』ができたから、僕を失敗作だといって捨てようとしたの?
あんなに僕のことを愛していたのに、あっさり手の平を返したのも、『仮面ライダー』が完成したから?)
欠けたパズルが完成したかのように、ドラスの中に真実が作られていく。
それが現実と違う答えであっても、ドラスの中ではそれ以外望月博士が豹変した理由を得ることができなかった。
ドラスはその事実を必死に否定しようとする。それも無駄な行為となる。
仮面ライダーZOの蹴りを、仮面ライダーXの猛攻を思い出し、身体が震えた。
(嫌だ……僕は死にたくない……。何でもするからパパに愛してもらうんだ。
絶対捨てたりしないようお願いするんだ……)
悪魔の面影も欠片も残らないドラスは這い出て、基地を離れることを選択した。
策略も、これからの展望も何もない。ただ絶望を抱き続け、逃げ惑うだけ。
「X……」
現実は無情をドラスに突きつけた。ドラスが振り返ると、ライトを背に逆光の仮面ライダーXが冷たく見下ろしていた。
「キック……」
砲弾のように迫る仮面ライダーXのキックがドラスの腹を強打する。
身体をくの字に曲げたドラスは鉄柱に叩きつけられた。ずるずると芋虫のようにドラスは這って、少しでも仮面ライダーXから逃れようとする。
ドラスの表情は、恐怖に満ちていた。
それでも、暗闇の種子に支配されている仮面ライダーXには関係ない。静かに終わりを告げる。
「ライドル……」
仮面ライダーXが地面を蹴って跳躍する。
黒い瞳は、ドラスに狙いを定めて長ドスを振り上げた。
「脳天……」
急降下する勢いを得て、多くの怪人を死を与えた技を繰り出さんと迫る。
そこに容赦など一切ない。ドラスはその姿を目撃して、必死に腕をかきだした。
「割「メカ沢ビィィィィィィィィム!!!」りッ……!?」
仮面ライダーXの胸部に太い閃光の筋が飛び込んでいく。爆発音が聞こえたと思ったら、ドラスは浮遊感を感じていた。
ドラスの腰を抱き抱える、見覚えのある単純な構造の腕。顔を上げると、見慣れたドラム缶に似た体型の男が仮面ライダーXを睨みつけていた。
「いよ、待たせたな。わりい、遅れた」
息を切らせながらも、学ランをなびかせてメカ沢がドラスを助けた。
ドラスは、驚愕に満ちた視線を送った。
□
ドラスの異形の姿を目撃した三人に訪れたのは沈黙だった。
三人が三人、戸惑いが感情を支配して、どう動いていいか分からなかったのだ。
いや、一人だけ違った。ドラム缶に似た身体を持つメカ沢はいの一番に動いた。
「おい、ノーヴェ、ロボ。ドラスを助けるぞ」
「メカ沢……? デスガ……」
「どんな姿だろうと関係ねえ。……それに、気づかなかったか? あいつ、ボロボロだったぞ」
メカ沢の指摘に、ノーヴェがハッとする。対照的にロボの態度は厳しかった。
「エエ、あの爆音から察スルに、戦っていたのはドラスデショウ」
「だろ! あいつは誰かに追われているんだよ! 助けなきゃやばいだろうが!!」
「……なら、ナゼワタシたちを呼ばなかったのデショウカ?
アレほどの危険な目に遭っていナガラ。ワタシたちに助けを求めないのは不自然デス。たとえ強くテモ」
理路整然とメカ沢にロボは反論する。もともとドラスにいい印象を持っていなかったためか、口調も厳しくなった。
メカ沢はうつむいて、静かになった。ロボの意見を理解してくれたのだろうか。
「…………ロボ」
メカ沢は静かに仲間の名前を呼ぶ。ロボはメカ沢を見つめた。
その無機質な目からは感情を読み取るのは困難だった。
「見損なったぜ」
ゆえに、返ってきた言葉に、怒りを押さえ込んだような静かに漏れる声に、ロボは驚いた。
怒りに任せたまま、メカ沢は乱暴にロボに背を向ける。
「ドウいうことデスカ!? メカ沢!!」
「……あいつが、俺たちを巻き込まないように一人で戦っていたかもしれないじゃないか……」
ロボはメカ沢の言葉に驚いた。
ドラスの性格からして、それは可能性が低い。そのことを告げようとして、遮られる。
「それに、子供がおびえて追われているんだぞ! 放っておくのは男が……不良がすることじゃねえ!!
ロボ、俺はお前を男として見込んでいた。けどな、子供を見捨てるように言うようじゃ、俺の見込み違いだったようだな。ポンコツ野郎!!
ここでてめえとはお別れだ。あばよ! 俺一人でドラスを助ける!!」
「メカ沢!!」
ロボの制止の声を振り切り、メカ沢はドラスの消えた方向へと走り去っていく。
虚空を掴むロボの手が、置き場所もなくさまよった。
メカ沢を見つめるロボの隣に、ノーヴェが並んだ。そのノーヴェも瞳に決意が宿っている。
「ノーヴェさん……」
「……あたしさ、ドラスのあの姿に似た召喚虫……ガリューっていうんだけどな、見たことあるんだ。
あれみたいな姿になれるのは驚いたけど……それでも、ドラスを守りたいって気持ちは変わらなかった……」
ロボに向かってノーヴェは微笑を向けた。
どこか達観したような、それでいて強い意志をはらんだ笑みを。
「あいつ、メカ沢も言っていたけど、どんな姿になれてもドラスは子供なんだ。
怖くて、捨てられたことが悲しい子供。あたしだって、チンク姉に捨てられたと思ったときは辛かった。
だから、ドラスを絶対捨てたりしない! それじゃ、ドラスを捨てた奴と同類になっちまう!!」
ノーヴェの言葉に、ロボはハッとする。マザーブレインは自分の意に沿わないとして、ロボを排除しようとした。
今の自分の行動は、ドラスが危険分子だと勝手に判断して排除しようとしている。
マザーブレインと自分の行動、同じではないか?
自己嫌悪が電子頭脳に浮上した。
「だから、あたしも行かせてもらうぜ。心配してくれて、ありがとう。またな」
二ッ、とノーヴェが笑って、メカ沢に待つよう告げながら走っていく。
その背中を見送り、ロボの胸中にもやもやしたものが生まれでた。
クロノたちなら、確かに子供を見捨てるような真似はしない。なぜなら、見捨てる自分を決して誇れないからだ。
ロボは遠のいていくノーヴェの背中を見つめ続けた。
□
「な……んで…………?」
「へっ、水くせえじゃねえか。変身できるなら、最初に言っとけって」
「そう……じゃないよ……。メカ沢……」
ボロボロのドラスの額に、メカ沢はデコピンをする。軽くて、優しい、突っつくようなデコピン。
ドラスはキョトンとした表情で、メカ沢の顔を見つめた。
「ブサイクでいいって。いつもの元気なお前はどうした? いきなり媚を売るだなんて、寒気がする」
「一言……多いんだよ……ブサイク……」
鼻を鳴らすメカ沢の前で、仮面ライダーXが不気味に近寄ってきた。
ドラスを抱えてどこまでできるか。いささか不安がメカ沢によぎる。
火薬が破裂する音が響いて、弾丸が仮面ライダーXの体表を跳ねるのを目撃する。
首を発射点に向けると、ノーヴェが銃を構えて走ってきた。
「ドラス! 大丈夫か……?」
「ギリギリだったぜ……何とか間に合わせた」
「そうか……」
ホッとするノーヴェを前にして、ドラスは不思議に思った。
怪人の、異形の姿を晒したのに、この二人はなぜ自分を庇おうとするのか。
それどころか、守るために仮面ライダーXと対峙している。理解ができない。
それでも、そんなに悪い気分じゃなかった。知らず、ドラスはメカ沢の袖を握っていた。
「こいつ……あたしとゼロを襲った奴だ!」
「ってことはやばい相手ってことか……」
メカ沢が冷や汗を流しながら、じりじりと後退する。
仮面ライダー相手では、二人は分が悪かった。
仮面ライダーXは一瞬で距離を詰めて、メカ沢に拳を振るった。どうにかドラスを庇いながら、拳を受け止めるが力が半端ではなかった。
メカ沢の身体が浮き、ノーヴェがフォローのために間に割って入る。
すると、仮面ライダーXはあっさりと後退した。メカ沢とノーヴェが一直線に並ぶ。
仮面ライダーXが長ドスを構えた。その狙いを察して、ノーヴェとメカ沢が互いに行動に移そうとする。
しかし、間に合わない。
すべてを貫かんと仮面ライダーXが突きを繰り出す。
メカ沢がせめてドラスだけはと身を捻った。
仮面ライダーXが急停止をする。メカ沢たちが疑問に思う暇もなく、彼らの間にレーザーが横凪に放たれた。
白い巨躯が仮面ライダーXの眼前に立ち、その拳をいくつも胸部に吸い込ませる。
ロボの『マシンガンパンチ』が仮面ライダーXに放たれて、五メートルほど宙を舞わせた。
轟音を立てて吹飛ぶ仮面ライダーXを尻目に、ロボはメカ沢たちに近づく。
「……来たのかよ」
「エエ、来マシタ。ドラスさん、ちょっといいデスカ?」
ロボは傷だらけのドラスを覗き込み、緑の血を流しているが、瞳に恐怖があるのを確認する。
この恐怖は演義じゃない。ロボのレーザー発射口から、淡い光が放たれ、ドラスを包んだ。
「すげえ……ドラスの怪我が治っていく……」
ノーヴェの呟きどおり、ドラスの身体の傷がふさがっていく。
全快とまではいかないが、それでもケアルビームでドラスはだいぶ楽になったのだろう。
「スイマセンネ、ドラスさん。でも、助けに来ましたから、もう大丈夫デス」
「へっ、ロボ。お前、心まではポンコツじゃないようだな」
「当然デス。ワタシは、ワタシの仲間に誇れる自分になりたいのデスカラ」
互いに笑顔を交わした二人は、表情は変わらなくても、確かな信頼を確かめ合った。
ロボは振り返り、仮面ライダーXがいた地点を睨みつける。視線の先には、立ち上がる仮面ライダーXがいた。
「ドラスさん、これだけは言ってオキマス。ワタシはマザーに人を殺すように作られマシタ。
けれど、ワタシはクロノたちのように、人間の仲間を得てイマス。だから、ワタシはマザーに反発をシマシタ」
ロボはドラスに、祈るような気持ちで告げる。かつての自分の、恋人の二の舞にならないように。
自分の警戒がただの空振りなのを祈って。
「デスカラ、あなたの存在意義が、父親に認められるだけだと思わないでクダサイ。
あなたの価値を認める仲間は、こんなにもいるのデスカラ」
ロボは仮面ライダーXに向かって疾走する。
祈りを、愛を抱えたロボに迷いはない。仮面ライダーXを道連れに、隣の部屋へと駆け込む。
その間に逃げろということだろう。ノーヴェはロボの思惑を無視して、駆けていった。
「ドラス、ここに隠れていろ」
「だ、大丈夫……僕も……戦う……」
「震えているだろうが。無理はするな」
「た、戦わないと! 強くないと! ぼ、僕は最強の生命体として……」
メカ沢はドラスの言葉を遮り、頭を乱暴に撫でた。
くしゃくしゃな髪になったドラスが、不安げな瞳を向ける。
「気にすんな。強かろうが、弱かろうが俺もノーヴェもロボも嫌ったりはしない」
「で、でも、それじゃあ僕は何のためにいるのさ!」
「そんなの決まっているだろ」
メカ沢が再度、ドラスの頭を撫でる。今度は優しく、赤子をあやすように。
「お前は、俺と口喧嘩して、ノーヴェにお姉ちゃんと甘えて、ロボと遊んでいりゃいいんだよ。
誰かがボケたのなら、『それはギャグでいっているのか?』とかいってツッコメばいい。
だってお前は、俺の弟だからな」
「弟…………?」
「ああ、俺は兄貴だから、弟を守る。ベータの時もそうした。お前の時もそうする。
強さなんて関係ねえ。だから、お前は大人しくここで俺らの帰りを待っていな」
戸惑いを見せるドラスに、メカ沢は学ランを脱いで肩にかけてやった。
ヒーターが効いているとはいえ、雪に包まれた雪原地帯コロニーである。
寒さが身に染みるが、メカ沢はやせ我慢をする。
「身体を冷やすんじゃねえぞ。俺らが、すべてを片付けて戻ってきてやるからな」
そういい残して、メカ沢は地面を蹴る。ロボやノーヴェ、いずれも失いたくない仲間だ。
そして、ドラスが心を痛める状況など、作りたくない。
強固な決意をするメカ沢の背中に、ドラスの声がかかった。
「死なないで! メカ沢……お兄ちゃん……!」
メカ沢は内心驚きながらも、気恥ずかしさをごまかすように鼻頭をこすった。
右手を上げて、応えてやる。振り返らず、先ほどよりも速い速度でロボたちのもとへと駆け出した。
□
横凪に振るわれる長ドスに、ロボとノーヴェは後方に跳んで避ける。
四方を鉄の壁に囲まれた巨大な部屋にて、仮面ライダーXと二人は対峙を続ける。
仮面ライダーXの圧倒的な強さに、二人はじわじわと追い詰められていくのを実感した。
そう考えると、巨大な部屋が監獄と錯覚してしまう。ごくり、とノーヴェがつばを飲み込んだ瞬間、仮面ライダーXが大降りに長ドスを振る。
構えるノーヴェとロボの眼前で、銀色の影が飛んできた。
「ちょっと待てー!!」
弾丸のごとく仮面ライダーXに迫るメカ沢を、あっさりと避けられる。
しかし、仮面ライダーXが後方に飛びのく隙をロボは見逃さず、右腕を発射した。
敵の脇腹を砕きながら、戻ってくる腕を装着するロボと共に、ノーヴェはメカ沢を助け起こす。
「メカ沢! ドラスはどうしたのデスカ!?」
「ちょっと待ってもらっている。寂しがっているだろうから、とっとと倒して迎えにいくぞ」
「たく、急がなくちゃいけない理由を増やしやがって……」
「……ノーヴェ」
「ん?」
「俺、あいつにお兄ちゃんって、呼ばれたぜ。羨ましいだろ?」
自慢するような口調のメカ沢を前に、ノーヴェは僅かな間キョトンとする。
やがて微笑んだかと思うと、メカ沢の頭をポン、と叩いた。
「あたしはいつも、ノーヴェ『お姉ちゃん』って呼ばれているぜ。羨ましいか?」
「へっ、俺はこれからも呼び続けてもらうんだよ」
「言ってろって」
メカ沢とじゃれながらも、対峙している仮面ライダーXから視線を逸らさない。
どう攻め込むか。思考を続けるノーヴェに、ロボの声が聞こえてきた。
「ワタシも……『お兄ちゃん』って呼んでもらえるデショウカ?」
ロボから告げたと信じられないような言葉に、二人は一瞬驚く。
しかし、すぐに微笑を浮かべて、答えを返した。
「当たり前だろ」
「へ、ロボ。その前に、こいつを倒さなくちゃな」
「もちろんです。メカ沢」
三人が並び、殺気を放つ仮面ライダーXを睨みつける。
その決意、鉄よりも硬い。一歩も通してなるものか。三人は心を一つに、飛び掛った。
「うりゃぁぁぁぁぁ!!」
ノーヴェは吼えて、仮面ライダーXの頭部に向かって回し蹴りを放つ。
全力をかけた、懇親の一撃だった。ノーヴェの疾風のような蹴りを、仮面ライダーXはそよ風のごとく受け止める。
悔しさに顔を歪ませたノーヴェに、仮面ライダーXの右腕がゆっくりと狙いを定めた。
鋼鉄をも砕くXパンチ。ノーヴェの鳩尾をめがけて、打ち放たれる。
「させるかよぉぉぉぉぉ!!」
メカ沢が間に入り、Xパンチを受け止める。メカ沢のボディが衝撃にへこむが、辛うじて耐えた。
メカ沢の瞳が、爛々と輝いて仮面ライダーXを捉える。
「俺は……頑丈なんだよ!!」
強がりながら、仮面ライダーXの胸部の、赤いプロテクターを殴りつける。
あまりの頑強さに、逆にメカ沢の拳が痛んだ。
「メカ沢! 伏せてクダサイ!!」
その言葉にメカ沢は素直に従い、上半身を即座に沈める。背中を高速で飛ぶロボの腕が掠めた。
激突音が鋼鉄の部屋に響く。
耳をつんざくような音を発し、十メートルほど後退しながらも、仮面ライダーXは長ドスでロケットパンチを受け止めきった。
だが、ロボたちの攻勢はまだ衰えてはいない。
仮面ライダーXの身体に次々と銃弾が撃ちこまれていく。
ノーヴェがエネルギーを帯状に固めた地盤―― エアライナーを昇りながら、手持ちのスタームルガーの弾丸を撃ちつくす。
昇りきった後に、エアライナーを蹴り降りて、両足を仮面ライダーXに向ける。ゼロと開発した、絆の証の技。
「ブレイクライナーキィィィィィィック!!」
目下の仮面ライダーXに向かって、己の持てる力を解き放つ。
それに対応しようと仮面ライダーXが動くのを目撃した。
(間に合え……間に合え!!)
祈るように心が叫ぶ。仮面ライダーXが跳躍しようとした瞬間、
「行かせるかよ!」
メカ沢が体当たりで、姿勢を崩した。切り離されたロボの腕が、メカ沢の背中を押している。
ゆえに、仮面ライダーXでさえも避けれない状況を生み出した。
(サンキュ……)
ノーヴェの限界突破が、仮面ライダーXに届いた。
「嘘……だろ?」
ノーヴェが絶望を込めて呟いた。限界突破の一撃は、仮面ライダーXの片腕によって止められていた。
そのままノーヴェは横凪に振るわれ、メカ沢を巻き込んでロボのもとへと投げ飛ばされた。
「ぐ……強い……」
ノーヴェの呟きに、ロボが同意する。無茶苦茶な強さだ。
頑強にも程がある。耐久力が並ではない。どちらもメカ沢以上だ。
速さも、この中で一番身軽なノーヴェと同じか、それ以上。
力も、ロボと同等か、それ以上にある。
何より、いなし、捌く巧みさ。技量がまるで違う。戦闘経験の差だ。
すべてにおいて、三人よりも圧倒的に上の実力を持つ仮面ライダーXを前に、ノーヴェたちはなす術もない。
もっとも、それで諦めるような三人ではなかったが。
「おい、次ぎ仕掛けるぞ!!」
「エエ、二人とも、ワタシの後についてきてください」
「次こそ、完全にあたしの蹴りをぶちかます!!」
闘志の衰えない三人の声。ここで負けてしまえば、次はドラスだ。
負けるわけにはいかない。三人の想いは一つとなる。
その瞬間、ロボの持つ「ぎんのいし」が光り輝いた。
「なんだ、そりゃ!」
「コレハ……」
ロボが輝くぎんのいしに、希望を見出す。溢れるエネルギーを手に持ちながら、メカ沢とノーヴェに声をかけた。
「メカ沢、ワタシに合わせてクダサイ!! ノーヴェさん、あのキックを、もう一度オネガイシマス」
「なんだかわからねえが、任せろ!」
メカ沢の返事を得て、ロボは駆け出す。メカ沢が後に続いた。
ぎんのいしのエネルギーがロボとメカ沢に宿る。
もっとも、仮面ライダーXも見ているだけではなく、迫ってきた。
「ちきしょう! ちょっとは待ちやがれ!」
「クッ……!」
ロボの悔しげな声は、現状が絶望的であることを教えた。
(もうちょっとなんだよ……もうちょっとだけ、時間を……)
メカ沢が祈るように思う。それは本当に、僅かな時間の思考だった。
神速の速度で迫る仮面ライダーXを前に、メカ沢は悔しげな視線を向けるだけだった。
(頼む! 神様、少しだけ俺らに時間をくれ!! あいつを……)
『死なないで! メカ沢……お兄ちゃん……!』
(あいつを、守るんだ! でなきゃ、不良の筋が……兄貴の筋が立たねえ!!)
メカ沢の想いに応えるように、体内のタイムストッパーのチップが起動する。
瞬間、メカ沢は周囲の動きが止まったように思えた。
(またあの時の感覚! 神様、愛しているぜ!!)
固定された仮面ライダーXをめがけ、メカ沢は全身を弾丸に変えて、吹き飛ばす。
周囲が色を取り戻し、正常に戻った時の流れの中、カウンター気味に決まったメカ沢の頭突きが仮面ライダーXを吹き飛ばした。
よろめく仮面ライダーXを中心の沿え、舞台は整う。
仮面ライダーXを挟んで、メカ沢とロボが並ぶ。ボディをゴリラのドラミングのごとく鳴らすロボの周囲に、エネルギーが生み出された。
同時に、メカ沢の身体からも、ロボから放出されているのと同種のエネルギーが飛び出してきた。
その二人に間に、ノーヴェが飛び込む。
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
重なる三人の声。エネルギーに乗ってノーヴェが上昇していく。
中央の仮面ライダーXはぎんのいしの発するエネルギーに抑えられ、身動きが取れない。
上昇しきったノーヴェは、エネルギーの渦の中央に吸い込まれれ、両足をそろえて仮面ライダーXを捉える。
エネルギーによって上に昇るメカ沢とロボと入れ違いに、ノーヴェは先ほどとは比べ物にならないほどの速度で落下していった。
本来なら、カエルがジャンプ斬りで決める締めに、ノーヴェのブレイクライナーキックが代わりを務めた、擬似ストライクスピン。
しかし、その威力は本家ストライクスピンにも劣らない。
落雷が起きたかのような轟音が響く。
粉塵の中、目にも留まらない速さで仮面ライダーXが壁に激突して、瓦礫に埋まった。
「はぁ、はぁ、くそ。もう二度と立つんじゃねえぞ……」
「へっ、活躍だったじゃないか。ノーヴェ。女にするには勿体ねえ」
「……褒めているのか? それ」
「あ? 当たり前だろ」
「このやろう……あたしに色気がないってか! 悪かったな!!」
「んなの知るか!」
危機が去ったと判断してじゃれ合う二人に呆れながらも、ロボはホッとしつつ手元のぎんのいしを見つめる。
あの一度、ただ一度だけ、エネルギーを感知した。今は沈黙しているそれを、ロボは不思議そうに見つめる。
カエルもエイラもいない。なのに応えてくれたのは、二人の想いに反応をしたからだろうか?
答えは返ってこないが、それいいとも思う。ロボは静かにため息をついて……地面を蹴った。
不思議がるメカ沢を突き飛ばした瞬間、瓦礫が飛び散り、仮面ライダーXが舞い降りた。
ため息をついた瞬間、僅かに瓦礫が動くのを目撃していたのだ。
仮面ライダーXがロボを掴んだ。
仮面ライダーXが胸部にエックスのチャージショットを受けて以来、沈黙しているものがあった。
マーキュリー回路。
マーキュリーパワーを生み出す、先輩ライダーの風見志郎から受け取った力の源だ。
チャージショットの衝撃で沈黙していた装置が、危機を前にして、ブレイクライナーキックを前にして、ついに目覚めたのだ。
身体を正常な状態にする生命の水。
時間をかけて、ようやくマーキュリー回路まで届いたのだ。
暗闇の種子を撃退するには、生命の水が足りない。
僅かな時間で回復するには、生命の水が足りない。
されど、時間をかければ、万全の状態の殺人鬼へと戻れる。
ゆえに、タイミングよくマーキュリー回路が作動した仮面ライダーXは、三倍の身体能力をもってしてぎんのいしのエネルギーの拘束を振りほどいたのだ。
身をずらして、ストライクスピンの直撃を避け、全身にマーキュリーパワーを漲らせた仮面ライダーXはロボを掴んだ。
「真空…………」
掴んだロボの身体を持って、仮面ライダーXは地面にロボの頭を叩きつけた。
凄まじい衝撃がロボに走る。
「地獄…………」
さらに上昇して一回転追加、落下後再び叩きつけられる。
ロボの体内はもうぐしゃぐしゃであろう。それでも、ロボの瞳に諦めはない。
(使えマス…………)
何度も何度も叩きつけられながらも、ロボは最後の力の使いどころを計算し続ける。
これは外すわけにはいかない。凄まじい力の本流の中、ロボは思考を続ける。
(ワタシは……アトロポスと同時期に開発されマシタ……)
「車ぁぁ…………!!」
一際大きく、仮面ライダーXが叫び、ロボが投げ飛ばされる。天井に穴が開くほどの衝撃。
それで猛攻は終わらず、仮面ライダーXが天へと跳躍する。好都合。
(だから、ワタシはアトロポスと同ジク……)
ロボの姉妹機アトロポス145、彼女はロボが本来の任務を拒否したため、互いに争わねばならなかった。
ロボはその戦いを拒み、ひたすら彼女の攻撃を受け続けるだけだった。
だが、狂気に支配されているはずだった彼女に異変が起きる。
ロボとの戦いの結末は、彼女の……
「X……キィィィィィック……」
向けられた右足が激突する瞬間、ロボの体内の炉が燃え上がる。
「メカ沢、ノーヴェさん、ドラス……後はオネガイシマス!!」
瞬間、空に爆発の華が盛大に開く。自爆、彼らが取れる、最後の道。
吹雪に晒された爆発は、基地全体を揺らした。
「ロボォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」
メカ沢の咆哮が轟く。穴よりはいる雪が冷たさをメカ沢に伝えるが、悲しみに満ちた彼はそのことを気にかける余裕はなかった。
空より落ちてくるロボのパーツが、メカ沢の心を抉る。
そして、仮面ライダーXも全身くすぶりながら舞い降りてきた。
「あいつ……!」
「ロボに蹴りが到達する瞬間、あの怪人はドスを振り回して耐えたんだよ……」
怒りに燃えるノーヴェとは対照的に、メカ沢が静かだった。
彼の言うとおり、仮面ライダーXは蹴りが到達する瞬間ロボの行動を予測して、キックを中断した。
そのまま長ドスをまわし、ライドルバリアを仕掛けて、爆発に耐えたのだ。
マーキュリー回路が蘇ったからこそ、取れる行動だった。
「くっ、けど!」
「ノーヴェ、ドラスを頼むわ」
「メカ沢、お前何を……!」
ノーヴェが吼える瞬間、メカ沢が突き飛ばし、シャッターを閉じるボタンを押した。
戻って来れないよう、タイムストッパーでできるだけ遠くに運び、内部に戻る。
仮面ライダーXなら、このシャッターを破壊するのはたやすい。そう判断して、足止めを覚悟したのだ。
降りていくシャッターを見つめ、ノーヴェが驚いた。急に大距離の移動、それはメカ沢が行ったことを察知する。
「聞け! ドラスは、あいつを助けた場所のコンテナの傍に隠している。そこに迎えにいってやれ。寂しがっている」
「お前、格好つける気かよ! ロボもお前も、自分勝手だ!!」
「そりゃそうだ。俺もロボも、男だからな」
「ふざけるな! あたしの方がお前より強いんだぞ!!」
「知っている。だが、ドラスにも言ったけど、強いも弱いも関係ねえ。お前は女、俺は男。
だから俺が守る。メカ沢新一、最後の喧嘩だ。華を持たせてくれや」
ノーヴェは歯を食いしばり、閉じていくシャッターを見つめていた。
涙をこぼしながら、メカ沢に告げる。
「……あいつの『お姉ちゃん』を独り占めするぞ……?」
「そいつは、ちょっと悔しいな……」
その一言を残して、シャッターが完全に閉じた。部屋の向こうでは轟音が聞こえる。
ノーヴェは踵を返して、駆けつづけた。ドラスの前で涙は見せてはいけない。
それでも、彼のところに辿り着くまでは、仲間の死を悲しみ続けたかった。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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