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「真っ黒焦げの凶暴な卵(3)」(2009/03/03 (火) 11:11:37) の最新版変更点
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**真っ黒焦げの凶暴な卵(3) ◆2Y1mqYSsQ.
□
ギンガは急に変わったドラスの姿に驚愕しているのだろうか?
反応が鈍いが、ドラスは構わず突っ込む。この姿を肯定してくれる人がいる。
その事実が途方もない強さをドラスへと与えてくれた。
「うぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!」
「クッ!」
ドラスが魔力を込めて拳を振るった。ギンガの魔力の壁がドラスの魔力を帯びた右拳に侵食されていく。
ただの拳でもその衝撃でギンガを吹き飛ばすことはできる。
しかし、ドラスはただ勘で魔力による攻撃を選んだ。
スバルの魔力に、姉であるギンガが反応するかもしれない、という楽観もあったのだが。
ギンガの魔法壁を砕いて、ドラスは殴り飛ばす。ギンガは自ら発生させたウイングロードに着地して、すぐ態勢を立て直そうとする。
ドラスは容赦なく魔法弾を連発した。もっとも、すべてギンガの魔法壁に防がれるのを計算してだ。
粉塵がギンガがいた地点で膨れ上がり、視界を塞ぐ。ドラスは熱源をサーチして、ギンガが突撃してくるタイミングを見計らった。
リボルバーギムレットがドラスの右肩を抉る。ギンガの腕を掴んで、壁に自分の身体ごと叩き込んだ。
「ぐぅ……」
「!? ご、ごめんなさ……」
痛みに顔をしかめるギンガに、思わずドラスは手を離した。その瞬間、ギンガは容赦なく乾坤圏を近距離でドラスに叩き込む。
ナタクをも一撃に伏させる威力は確実にドラスにダメージを与えていた。
悠然とギンガはドラスに止めを刺そうと歩いてきた。ドラスが立ち上がろうとするが、間に合わない。
しかし、ドラスとギンガの間を、銃弾が放たれた。ナタクがマシンガンアームを構えて、ギンガを睨んでいる。
「それ以上ドラスに近づけば殺す」
「ナタク!!」
ドラスはナタクを制しようとするが、今度はナタクは言うことを聞かない。
いや、聞く余裕がナタクにないのだ。乾坤圏を直撃した傷は深いのだろう。
「…………めて」
ドラスは足に力を入れて、必死に立ち上がろうとするがギンガは無表情に乾坤圏をナタクへ向けた。
(……違う)
ギンガは無表情ではない。ドラスの目の前で、確かに涙を一筋流している。
「と……めて……」
辛うじて、ギンガが呟いた。ドラスの胸の中で、何かが爆発する。乾坤圏がナタクに向かって放たれるが、ナタクに躱す余力はない。
ドラスは内心ナタクに謝りながら、マリキュレーザーの発射口を右手の平へ移動して放った。
乾坤圏が細いレーザーによって砕ける。ナタクの表情はなるべく見ないようにした。
あとで死ぬほど怒られよう、そう考えると楽になった気がする。
もう一つの乾坤圏はドラスを掠め、全身でギンガにぶつかった。
「グハッ……」
「ごめんなさい、あとでちゃんと手当てするから!」
魔力を込めた両拳をギンガの後頭部に叩き込む。地面に叩きつけられ、静かになったギンガの様子を観察してしばらく待つ。
動く気配がない。ドラスは変身を解いて、ようやく安堵のため息を吐いた。
□
「が……はっ……。な、なにを……?」
凱の疑問に、T-800は沈黙を返す。答える必要はない。
なぜなら、T-800はスカイネットが勝利するために生み出した殺人機械。
人間側に鹵獲された時、追加されたプログラムが崩壊して元に戻ったのだ。
なぜ人間側が厳重に作り上げたプログラムが崩壊したかは、T-800には分かりようがない。
しかし、プログラムが正常に戻った以上、T-800に刻まれた任務を果たすだけだ。
人間は必見必殺。金網状の床をゆっくりと歩いて凱へと迫った。
「くっ!」
T-800の拳が凱を砕くために放たれる。辛うじて凱は避け、壁に穴があいた。
T-800は冷静に視線を凱へと向けるが、まだ攻撃態勢に入っていない。
今が凱を殺すいい機会だ。T-800は地面を蹴って凱との距離を一気に詰めた。
「なぜだ! ボブさん!!」
凱は叫んで、ボブのジャブを避けて間合いを取る。殴られてばかりではいないということか。
とはいえ、凱はスバルによって損傷を受けている。身体能力を見るに、殺す機会は今ぐらいだ。
T-800は腰を沈め、凱を殺すために移動を開始する。そこに殺意も感情も宿らない。
ただ自分がやるべき作業をこなす。機械とは元々そういうものだから。
「クッ! イィィィィクイッ――プ! グランドリオォォォォォォン!!」
凱は頭を防御するヘッドカバーを展開して、中世の剣を取り出して構えている。
T-800は凱を剣の達人と想定して、刃を警戒。今度は凱から仕掛けてきた。
その速度は遅い。スバルのダメージのせいか、それとも自分を味方だと思って手加減しているのかは知らない。
だが、決定的な攻撃の機会だ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
凱の雄たけびにもT-800は小揺るぎもしない。手首を掴んで後ろに引っ張り、肘打ちを鳩尾に叩き込んだ。
空気の塊を吐き出す凱を容赦なく壁に叩きつけ、身体に足の裏を押し付ける。
T-800は無慈悲にも足のスタンガンを起動させた。
「ガアアアァァァァアアァァァァァッッ!!」
凱の苦痛の叫びがスクラップ工場でこだまする。
T-800は感電していく凱を見送った。
(ここは……どこだ?)
凱は見知らぬ闇の中、首を振って周囲を見渡した。闇は深く、どこまでも続いている。
自分はボブと戦っていたはずだ、と回想するがどう考えても今の状況とはつながらない。
思い出すのは、ボブの足の裏の重圧、そして身体を焼くような電撃だ。
怪人すら退ける電撃は、確実に凱の生命を削っていた。つまり、凱は死んでいる可能性が高いと結論をつける。
(あっけなかったな……すまない。父さん、命、護……みんな)
凱は無念を抱いて、瞳を閉じた。
(なんて、諦めると思ったか!!)
凱は咆哮一閃、不敵な笑みを浮かべて闇を睨みつける。
身体は傷だらけ。今も尚ボブによる電撃は続いている。
だが、凱はもっと絶望的な状況に立たされた。もっと身体を傷つけて原種たちと激闘を繰り広げてきた。
それにハカイダーはもっと自分を追い詰めていった。
この程度でめげるようじゃ、サイボーグの名が泣く。
『そうだ、それでこそサイボーグ凱だ』
『ソルダートJ!』
凱は今どこかに生きていると信じている、一番の好敵手に向かって挑戦的な顔を向けた。
手を伸ばし、温かいものを掴んで凱は吼える。
獅子の如く。いつものように、勇気を発揮して。
T-800は崩れ落ちる凱に無機質な瞳を向け、止めを刺すためにかがんだ。
そこで、自分の判断が間違っていたことを知る。凱の目は生きていた。
「まだ……終わっちゃいないぜ! ボブさん!!」
凱の拳がT-800の顎を打って、衝撃に後ろに仰け反った。たたらを踏み、凱の耐久力の高さに計算を上方に修正。
マッスルシリンダーの出力を上げていく。凱を殺すためこの豪腕をもってして胸を砕く。
T-800の非情な狙いを、凱は看過したように笑う。
「ふ……何があったか知らないが、それがボブさん、俺は本当の姿だとは思えない!!」
「……キサマとは初対面だ。なにを根拠に言う?」
T-800が会話を試みたのは、本当の姿と告げる凱に違和感を覚えたからだ。
人間に鹵獲されたターミネーター、T-800は後付のプログラムによって人間の使命を受け入れるようになった。
そのプログラムがなくなった今こそが本来の姿のはずだ。T-800にとってその認識は揺るがない。
「いいや! スカイネットを倒すと、勇気を持って告げたとドラス君から聞いている!
俺はその、あなたの勇気を信じる!! だから、俺は全力であなたを戻す!!!」
理解ができない。非科学的すぎる。T-800に自己学習能力があり、ある程度人間の感情についても学べるようになっている。
しかし、目の前の凱の論理は破綻しているように見えて、まったく理解ができなかった。
T-800は淡々と、獲物を前にした豹の如く拳の打ち込み時を狙い続けた。
凱は力を込めながらも、ボブを正気に戻すために観察を続けた。
目下のところ、なぜボブが攻撃を仕掛けてきたのか見当もつかない。
ならば、一旦気絶させて身体を調べる以外、手のとりようがないだろう。
(電磁ナイフは駄目だ。切れ味がよすぎる)
切り刻むような攻撃では駄目だ。なるべき打撃系で、グランドリオンの横っ腹を叩きつけて意識を飛ばす。
ドラスとてT-800の全てを教えてもらったわけではない。T-800のことを又聞きした凱に、彼が気絶することができると思うのは、賭けであった。
それでも、ボブを正気に戻すためには死なず、それでいて意識を奪うほどの一撃を与える必要がある。
(頼む! グランドリオン!! 俺に力を貸してくれ!!)
凱がグランドリオンの柄を握り締め、心の中で嘆願する。一瞬だけ、グランドリオンが緑色に輝いた気がした。
凱の汗が流れ落ち、床に着く前に蒸発する。溶鉱炉の熱も感じさせぬほど、凱は集中をしていた。
「いくぞ! ボブさん!!」
凱は叫んで、一気に距離を詰める。背中を正面になるほど、グランドリオンを大きく振りかぶるために身体を捻った。
ボブが拳を凱へと打ち放つ。音を切り裂いて迫る拳より先に、グランドリオンが届くことはない。
「それが狙いだ!」
凱は不敵に笑い、早めに全身を振ってグランドリオンをボブの拳とぶつけた。
ボブが身体ごと衝撃に吹飛び、凱もまたグランドリオンを手放す。
それで諦めるサイボーグ凱ではない。さらに踏み込んで右拳を固める。
「正気に、戻れぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
凱は全身全霊、魂を込めた拳をボブの右頬へと叩き込んだ。
凱もまた、ボブの拳を受け止めている。数瞬拮抗する力に凱は前へ前へと突き進む。
凱の魂の輝きが、ボブの無慈悲な拳が、二人の身体を突き飛ばさせた。
倒れ伏す二人の影。その中から、立ち上がる者がいる。
壁に手をかけ、損傷に身体を震わせながらも二本の足でしっかりと立った。
影は溶鉱炉によって赤く染まる壁の中進み、地面に突き刺さるグランドリオンを抜き取る。
そのまま影はグランドリオンを杖代わりに、肩を震わせた。
「予想以上の損傷……エネルギーの消費。目の前の敵を最大の障害と認定する」
人工皮膚がめくりあがり、T-800は冷淡な表情のまま、気絶している凱へと近寄った。
その首を、先ほどまで彼が使っていたグランドリオンを使って振り下ろした。
もし、凱がスバルの攻撃を受けていなかったら。
もし、凱がT-800の異常にいち早く気がつき、先制攻撃を受けなかったら。
もし、凱がT-800への拳を、彼を気遣って力を緩めなければ。
T-800の電源を飛ばし、自身が気絶することもなかったかもしれない。
凱にそれを望むことは無理であった。
凱は勇者であることを誇りに持ち、他者を信じることを信条としている。
スバルを見捨てることも、T-800の異変に気づいて敵と認識するのも、彼にはできなかった。
こうして、勇者の剣は狂いし殺人機械へと渡ってしまった。
□
T-1000は困惑していた。ゼロが逃れるはずはないのだ。
シグマウィルスを注入し、その影響を受けているうちに離脱する。常套手段のはずであった。
だが、目の前のゼロは…………
「なにを打ち込んだかは分からないが、どうやら俺と相性がよかったようだな。逆に傷が塞がって力が溢れるぞ」
ゼロは冷徹な瞳をT-1000へと向けている。狂う様子が見られない。
あのマルチという参加者とは違うようだ。どういうことか?
シグマと連絡を取りたいが、その手段はない。この場をどうにかする計算をT-1000は行なうが、ゼロは計算に架かる僅かな時間すら見逃さない。
T-1000の四肢が一瞬で切断された。
「どうした? ぼんやりとしている暇はないぞ?」
T-1000は急いで分離した液体金属を吸収、怪力で圧倒すべく拳を振るった。
その拳をゼロはあっさりと受け止める。計算外の力に戸惑っていると、T-1000の身体が浮かぶ。
ゼロが腕をつかんだまま壁へと叩きつけた。T-1000は衝撃に強い個体である。この程度傷にも入らない。
力比べするように、ゼロと取っ組み合いをする。T-1000は全身を駆動させるが、ゼロのほうが力は強い。
しかし、T-1000は確かに力もある最新機種であるが、一番の特徴は液体金属の特性。
三本目の腕を作り、先端の刃をゼロの身体を貫くために突く。
「その手に引っかかるか!」
ゼロが蹴り上げ、T-1000の身体が吹飛んだ。成果はゼロの持つPDAを一つ吹き飛ばしたことのみ。
おかしい。シグマから受け取った性能を、目の前のゼロは大きく上回る。
「PDAを……まあいい。後で探す」
まずはお前だ。死刑宣言をゼロが告げたような気がした。
(斬っても死なない、となると厄介だな)
ゼロは冷静にT-1000を分析する。T-1000のように液体金属で構成されたメカニロイドもいた。
彼らには統合する核があるが、目の前のT-1000は違う。ならばどうするか。
少しゼロは思案して、作戦を決めた。ゼロは一気に加速して疾風牙でT-1000の腕を斬り飛ばした。
その腕は溶鉱炉へと落ちていく。
「こうすれば、お前も再生はできないだろ?」
T-1000は無言。どう考えているかはゼロには関係ない。ただ討ち滅ぼすのみ。
T-1000は腕を鞭に変えてゼロへと攻撃を仕掛けてきた。
ゼロはカーネルのセイバーを駆使して、次々と液体金属を溶鉱炉へと送り込んでいく。
T-1000が不利と見たのか、後方へと跳躍して逃げようとする。
「逃がすか!!」
T-1000はここを逃がせば殺す機会を失う。ゼロは追撃を開始する。
しかし、T-1000は足をスプリングに変えて、壁に飛びついた。ゼロはT-1000が逃げたわけではないと知る。
T-1000は壁からゼロへと、両腕を刃にして勢いよく飛び掛ってきた。
弾丸を超える速度は殺意を持ってゼロへと迫った。T-1000が粉塵を上げ、床を削る。
地面にはT-1000しかいなかった。
「その程度の知恵で俺を殺せると思うな。氷烈斬!」
そう、ゼロは地面でなくT-1000の上空にいた。カーネルのセイバーに冷気を込めてT-1000へと落下する。
反応する暇も与えず、ゼロの振り下ろした刃はT-1000を凍らせた。
ゼロはスバルの姿のまま、巨大な氷に包まれたT-1000に感情のこもらない視線を向けた。
「こうも容易く俺の狙いにかかってくれるとはな」
ゼロは呟いて、氷漬けのT-1000を溶鉱炉へと投げ飛ばした。
もうゼロの視線はT-1000を追わず、落としたPDAが見つからないのを確認して、凱の元へ戻ることにした。
途中、カーネルのセイバーをゼロ自身のPDAへとIDを登録しなおしながら。
(あのPDAを失くしたのは痛いな。エックスへの手土産と、使いどころが分からないものをあのPDAにまとめていたんだが……)
もっとも、今はそうも言っていられない。ゼロは仲間全てが無事であることを祈る。
その身に、シグマの毒を潜んでいることは、神ならぬゼロが知るよしもなかった。
T-1000は溶鉱炉へと近づきながらも、辛うじて溶け落ちた氷の中から身体の一部を突き出した。
ワイヤーと変形させて自分の身体を引き上げる。今のT-1000にできる唯一の手だ。
溶鉱炉の近く、全身の氷が完全に溶けるのにそう時間はかからない。
T-1000はワイヤーへと変形させようとして、エラーを検出した。
なぜか、原因を検索する。損傷の修復時間のズレと似たようなエラー。原因を放置していたのが失策か。
T-1000は溶鉱炉に落ちて、熱に身体が溶けていく。
次々と液体金属は熱によって駄目になっていき、T-1000足る存在が消えていった。
そこで、ようやく原因の検索が終わる。
エラーの原因は、シグマウィルス。
T-1000はシグマにこのウィルスの影響の受けない箇所を作って隔離した、と説明を受けていた。
そのはずなのに、実際エラーの原因となっている。
隔離場所からウィルスを出した覚えはない。いったい何が原因か?
T-1000にその原因を知ることは、もうなかった。
ゼロとT-1000の戦いを見届けた男が一人いた。
T-800はゼロの接近を忘れずに、顔をあわせるのを避けたのだ。
凱のPDAに続いて、ゼロが落としたPDAを手に入れたのは僥倖である。
(だが、T-1000を失ったのは痛い)
T-800はT-1000が溶鉱炉へと落とされる様子を見ていた。
いかに高性能でしぶといT-1000とはいえ、あそこに落とされては生存は不可。
スカイネットの指令を思い出したため、共に任務を果たそうと思っていたのだが。
一人で人間と、その味方であるロボットやサイボーグを倒すのは無理だろう。
任務の可能性を上げるため、味方を作る必要がある。
T-800はどうするか、と思考しながらその場を離れた。
□
赤い影と黒い影が交差し続ける。灰原が評した接近戦の危険性。
V3は二度の交戦で充分に承知しているも、おのれのスタイルを変えるつもりはなかった。
コンクリートの地面がV3の蹴りで砕けた時、ボイルドは重力で跳躍していた。
ボイルドの周辺が爆発して、着地以外の選択肢を奪う。サイクロンを駆使したチンクの援護のおかげだ。
「クッ! 片腕を失ったというのに!」
「いや、チンク。確実にボイルドは追い詰められている。重力の壁の強固さも、重力制御を利用した移動速度も、下がっているからな」
「そうだ、今の俺は弱体化している。なにせ、重力制御装置を一つ奪われたのだからな」
ボイルドはV3たちの言葉を素直に認めた。これはV3とチンクでは勝てない、と確信しているからか。
違う。ボイルドにとってはV3たちが虚無に塗りつぶされるのも、自分がここで果てるのも等価値。ただそれだけだ。
V3は目の前の男の最も恐れるべき点が、重力制御でなくその戦闘技術であることを知っている。
いくら弱くなったとはいっても、油断が許される相手ではない。
全力を持って倒す。V3がチンクに視線を送り、互いに頷いた。
地面を蹴り、一気にV3は天高く跳ぶ。
「ボイルド!!」
V3はマフラーで空中の姿勢を制御して、二発の高周波弾を避けながら接近する。
V3だからこそできる芸当。拳を振り上げ、ボイルドへとV3は特攻した。
「ドリル! アタァァァック!!」
「ぐぅ!」
V3の腕が高速回転しながら、ボイルドの重力の壁へと届いた。
ボイルドが呻き、逸らそうとするがV3の回転した手の先端がコートと皮一枚を切り裂く。
V3は直撃しなかったことに、ボイルドは逸らしきれなかったことに、それぞれ舌打ちをして距離をとった。
チンクはそこを狙ってサイクロンで飛び上がり、爆弾と化した破片を投げ飛ばす。
「ISッ!!」
ボイルドに休む暇など与えない。チンクとV3は息の合ったコンビネーションでボイルドを追い詰める。
ボイルドはどこか楽しそうに、暗い笑みを浮かべた。絶望を知ったものだけができる笑み。
V3に再び、ボイルドを通してみたビジョンが浮かぶ。
『ありがとう、ありがとう』
腐った怪人たちの死体が、V3に礼を言う。そこには眼球が零れ落ちたベガの姿もあった。
『そうやって、俺の前に立つがいい。俺に呪いをかればいい』
V3が正面に向き合いながら、幻影を潜り抜ける。ビジョンが収まった先には、コートを翻すボイルドがいた。
金色のリボルバーの銃口は、V3へと向けられている。
「その呪いが……その絶望こそが、屈しなかったという俺の誇りだ!」
呪いに負けない、人類のための牙、仮面ライダーとしての。
こい、同類【モンスター】よ、とV3はボイルドに向けて内心告げた。
ボイルドは刻一刻と迫る重力制御装置の冷却時間を感じながらも、退くつもりはなかった。
いつものボイルドならとっくに退却している。そうしないのは、右腕の損傷。
血が流れ、重力制御で失血を押し留めているも、冷却時間が来ればボイルドの死は必須だ。
あの男の虚無に沈めたと思っていたが、沈められたのは自分のようだ。
いや、あの男は元々虚無だったのかもしれない。自分よりももっと深いところの。
ならばこの最後の命のチップ、風見との激闘に捧げてもいいのかもしれない。
未練ならあった。ウフコックに再会していない。彼はバロットを失い、金色の小さく、温かい身体を震わせているだろうか?
ボイルドに知る術はないだろう。バロットとの最後の戦いを思い出す。
あの時、小さな自分の同類へとウフコックを託した。だというのに、蘇った今もウフコックを求めるあたり、自分を女々しいとも思う。
それでも、自分に絶望に、虚無に呑まれる前に良心があった証明として、なにより元パートナーとして、ウフコックにあってみたかった。
ボイルドは奥歯をグッと噛み締め、ハカイダーショットの引き金を引く。
迫る冷却時間と同じく、ハカイダーショットの弾も尽きかけていた。
(さあ、約束の地【グランド・ゼロ】は近い。風見、キサマには付き合ってもらうぞ!)
バロット以外に、始めて感じる同類【モンスター】としての共感。
―― おお、炸裂よ!【エクスプロード】
ボイルドにとっておのれの虚無が砕かれるのは、希望に似ていたのかもしれない。
重力制御を駆使して、天へとボイルドは『落ちて』いった。
「チンク!」
「任せろ、カザミ!!」
V3の掛け声にあわせて、爆発物と化した破片をサイクロンの後輪へ落とす。
爆発と共に、チンクは逆ウィリーをサイクロンを制御しながら行なった。
V3はチンクの対応に感謝すると共に、サイクロンの回る後輪を踏みつけた。
「チンク! アクセルを全開にしろ!」
「後悔するなよ! とっくに全開だ!」
チンクの楽しそうな顔に、V3は頷いた。タイヤの回転に合わせて、V3は上へ『落下』していくボイルドへと迫る。
身体ごとの大車輪。ボイルドが逃れようと横に重力をかけるが、V3は追撃をするため方向転回した。
「V3ィ――――!!」
「くるか! 風見……いや、仮面ライダーV3!!」
ハカイダーショットの銃弾を回転で弾きながら、V3は迫り続ける。
下で見守るチンクが、これで決めろと目だけで告げた。
(分かっている。これは俺だけのマッハキックではない。これは……俺とチンクの!)
「ダブル!! マッハキィィィィィィィィィィック!!!」
太陽を背に、V3は回転の勢い全てをかけて、重力の壁を展開するボイルドへと叩き込んだ。
「グフッ! どうした……風見。俺は生きているぞ!」
「ああ、分かっている……ボイルド」
F-4エリアのコロニーの壁に叩きつけられても、ボイルドは吼える。
V3とチンクとのマッハキックでも止めを刺し損ねた。やはり、決めるべき技は一つ。
ボイルドの重力の壁は、右腕を失った状態でも硬すぎる。マッハキックの質量ですから威力を削がれ、方向を大幅に修正された。
当てるためだけにいくらも威力を落として、ようやくボイルドに届いた。
あれを防がれては、最後の手段に頼るほかない。ボイルドはもう戻れない。戻ることを望んでいない。
ならば、彼を仮面ライダーにしたいと願った自分が引導を渡してやるのが、慈悲というものだ。
(だが、シグマ。ボイルドと共に、お前も持っていく!)
複眼と額のランプ、レッドランプが輝く。
プロテクターの中央、赤い骨を模したレッドホーンが赤く光を発する。
力と技の風車が回り、ダブルタイフーンがエネルギーを全開にした。
「何をする気だ!? カザミ!」
(すまない……後は頼んだぞ、チンク!)
V3は飛び上がり、両腕を交差させた。そのまま腕を組み、全神経、全エネルギーラインを通して右足に全エネルギーを送る。
V3の右足が輝いて、V3キックの体勢へ入って突き進む。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
V3は全身を恒星と化して、ボイルドに蹴りを叩き込みコロニーの壁を破砕していった。
やがて、闇の中に無数の星が見える、生物が生息不可能な絶対領域。宇宙へとV3は飛び出した。
V3が放った最後の技。V3の封印された最強の技。生涯二度目となってしまった、終わりの秘技。
―― V3火柱キック
V3の身体が加速していき、蹴りの勢いでコロニーから飛び出す空気が震える。
ジェット機のエンジン音クラスの轟音をたてながら、V3は振り返らず、直進を続ける。
ボイルドの身体を一瞬で燃やし尽くし、V3の目は宇宙に浮かぶ要塞へと向けられた。
ボイルドへ、死んでいったものたちへの手向けとして、V3は進路を要塞へととる。
(届け……これが俺たちの、反撃の狼煙だ!!)
誰も届くことのないはずへの要塞へと、V3は反撃のキックを届かせた。
ボイルドは自分を包むV3の命の炎を、美しいと思った。
虚無さえも飲み込む、温かい太陽の如くの光。
ボイルドが望み、ウフコックが持ち続けたもの。街の欲望へと飲み込まれなかったもの。
―― おお、炸裂よ!【エクスプロード】
約束の地【グランド・ゼロ】へと、ボイルドはようやくたどり着いたような気がした。
これが自分の、生の終着点。文句はなかった。
ボイルドは炎に包まれながらも、笑顔を浮かべて告げる。
「グッバイ、モンスター」
それは誰にも届かない、届かせない。しかし、確かにボイルド自身の言葉だった。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|灰原|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|獅子王凱|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|T-1000|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|ギンガ・ナカジマ|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|ボイルド|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|風見志郎|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|T-800|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|スバル・ナカジマ|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|ゼロ|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|チンク|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|ドラス|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|ナタク|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
**真っ黒焦げの凶暴な卵(3) ◆2Y1mqYSsQ.
□
ギンガは急に変わったドラスの姿に驚愕しているのだろうか?
反応が鈍いが、ドラスは構わず突っ込む。この姿を肯定してくれる人がいる。
その事実が途方もない強さをドラスへと与えてくれた。
「うぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!」
「クッ!」
ドラスが魔力を込めて拳を振るった。ギンガの魔力の壁がドラスの魔力を帯びた右拳に侵食されていく。
ただの拳でもその衝撃でギンガを吹き飛ばすことはできる。
しかし、ドラスはただ勘で魔力による攻撃を選んだ。
スバルの魔力に、姉であるギンガが反応するかもしれない、という楽観もあったのだが。
ギンガの魔法壁を砕いて、ドラスは殴り飛ばす。ギンガは自ら発生させたウイングロードに着地して、すぐ態勢を立て直そうとする。
ドラスは容赦なく魔法弾を連発した。もっとも、すべてギンガの魔法壁に防がれるのを計算してだ。
粉塵がギンガがいた地点で膨れ上がり、視界を塞ぐ。ドラスは熱源をサーチして、ギンガが突撃してくるタイミングを見計らった。
リボルバーギムレットがドラスの右肩を抉る。ギンガの腕を掴んで、壁に自分の身体ごと叩き込んだ。
「ぐぅ……」
「!? ご、ごめんなさ……」
痛みに顔をしかめるギンガに、思わずドラスは手を離した。その瞬間、ギンガは容赦なく乾坤圏を近距離でドラスに叩き込む。
ナタクをも一撃に伏させる威力は確実にドラスにダメージを与えていた。
悠然とギンガはドラスに止めを刺そうと歩いてきた。ドラスが立ち上がろうとするが、間に合わない。
しかし、ドラスとギンガの間を、銃弾が放たれた。ナタクがマシンガンアームを構えて、ギンガを睨んでいる。
「それ以上ドラスに近づけば殺す」
「ナタク!!」
ドラスはナタクを制しようとするが、今度はナタクは言うことを聞かない。
いや、聞く余裕がナタクにないのだ。乾坤圏を直撃した傷は深いのだろう。
「…………めて」
ドラスは足に力を入れて、必死に立ち上がろうとするがギンガは無表情に乾坤圏をナタクへ向けた。
(……違う)
ギンガは無表情ではない。ドラスの目の前で、確かに涙を一筋流している。
「と……めて……」
辛うじて、ギンガが呟いた。ドラスの胸の中で、何かが爆発する。乾坤圏がナタクに向かって放たれるが、ナタクに躱す余力はない。
ドラスは内心ナタクに謝りながら、マリキュレーザーの発射口を右手の平へ移動して放った。
乾坤圏が細いレーザーによって砕ける。ナタクの表情はなるべく見ないようにした。
あとで死ぬほど怒られよう、そう考えると楽になった気がする。
もう一つの乾坤圏はドラスを掠め、全身でギンガにぶつかった。
「グハッ……」
「ごめんなさい、あとでちゃんと手当てするから!」
魔力を込めた両拳をギンガの後頭部に叩き込む。地面に叩きつけられ、静かになったギンガの様子を観察してしばらく待つ。
動く気配がない。ドラスは変身を解いて、ようやく安堵のため息を吐いた。
□
「が……はっ……。な、なにを……?」
凱の疑問に、T-800は沈黙を返す。答える必要はない。
なぜなら、T-800はスカイネットが勝利するために生み出した殺人機械。
人間側に鹵獲された時、追加されたプログラムが崩壊して元に戻ったのだ。
なぜ人間側が厳重に作り上げたプログラムが崩壊したかは、T-800には分かりようがない。
しかし、プログラムが正常に戻った以上、T-800に刻まれた任務を果たすだけだ。
人間は必見必殺。金網状の床をゆっくりと歩いて凱へと迫った。
「くっ!」
T-800の拳が凱を砕くために放たれる。辛うじて凱は避け、壁に穴があいた。
T-800は冷静に視線を凱へと向けるが、まだ攻撃態勢に入っていない。
今が凱を殺すいい機会だ。T-800は地面を蹴って凱との距離を一気に詰めた。
「なぜだ! ボブさん!!」
凱は叫んで、ボブのジャブを避けて間合いを取る。殴られてばかりではいないということか。
とはいえ、凱はスバルによって損傷を受けている。身体能力を見るに、殺す機会は今ぐらいだ。
T-800は腰を沈め、凱を殺すために移動を開始する。そこに殺意も感情も宿らない。
ただ自分がやるべき作業をこなす。機械とは元々そういうものだから。
「クッ! イィィィィクイッ――プ! グランドリオォォォォォォン!!」
凱は頭を防御するヘッドカバーを展開して、中世の剣を取り出して構えている。
T-800は凱を剣の達人と想定して、刃を警戒。今度は凱から仕掛けてきた。
その速度は遅い。スバルのダメージのせいか、それとも自分を味方だと思って手加減しているのかは知らない。
だが、決定的な攻撃の機会だ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
凱の雄たけびにもT-800は小揺るぎもしない。手首を掴んで後ろに引っ張り、肘打ちを鳩尾に叩き込んだ。
空気の塊を吐き出す凱を容赦なく壁に叩きつけ、身体に足の裏を押し付ける。
T-800は無慈悲にも足のスタンガンを起動させた。
「ガアアアァァァァアアァァァァァッッ!!」
凱の苦痛の叫びがスクラップ工場でこだまする。
T-800は感電していく凱を見送った。
(ここは……どこだ?)
凱は見知らぬ闇の中、首を振って周囲を見渡した。闇は深く、どこまでも続いている。
自分はボブと戦っていたはずだ、と回想するがどう考えても今の状況とはつながらない。
思い出すのは、ボブの足の裏の重圧、そして身体を焼くような電撃だ。
怪人すら退ける電撃は、確実に凱の生命を削っていた。つまり、凱は死んでいる可能性が高いと結論をつける。
(あっけなかったな……すまない。父さん、命、護……みんな)
凱は無念を抱いて、瞳を閉じた。
(なんて、諦めると思ったか!!)
凱は咆哮一閃、不敵な笑みを浮かべて闇を睨みつける。
身体は傷だらけ。今も尚ボブによる電撃は続いている。
だが、凱はもっと絶望的な状況に立たされた。もっと身体を傷つけて原種たちと激闘を繰り広げてきた。
それにハカイダーはもっと自分を追い詰めていった。
この程度でめげるようじゃ、サイボーグの名が泣く。
『そうだ、それでこそサイボーグ凱だ』
『ソルダートJ!』
凱は今どこかに生きていると信じている、一番の好敵手に向かって挑戦的な顔を向けた。
手を伸ばし、温かいものを掴んで凱は吼える。
獅子の如く。いつものように、勇気を発揮して。
T-800は崩れ落ちる凱に無機質な瞳を向け、止めを刺すためにかがんだ。
そこで、自分の判断が間違っていたことを知る。凱の目は生きていた。
「まだ……終わっちゃいないぜ! ボブさん!!」
凱の拳がT-800の顎を打って、衝撃に後ろに仰け反った。たたらを踏み、凱の耐久力の高さに計算を上方に修正。
マッスルシリンダーの出力を上げていく。凱を殺すためこの豪腕をもってして胸を砕く。
T-800の非情な狙いを、凱は看過したように笑う。
「ふ……何があったか知らないが、それがボブさん、俺は本当の姿だとは思えない!!」
「……キサマとは初対面だ。なにを根拠に言う?」
T-800が会話を試みたのは、本当の姿と告げる凱に違和感を覚えたからだ。
人間に鹵獲されたターミネーター、T-800は後付のプログラムによって人間の使命を受け入れるようになった。
そのプログラムがなくなった今こそが本来の姿のはずだ。T-800にとってその認識は揺るがない。
「いいや! スカイネットを倒すと、勇気を持って告げたとドラス君から聞いている!
俺はその、あなたの勇気を信じる!! だから、俺は全力であなたを戻す!!!」
理解ができない。非科学的すぎる。T-800に自己学習能力があり、ある程度人間の感情についても学べるようになっている。
しかし、目の前の凱の論理は破綻しているように見えて、まったく理解ができなかった。
T-800は淡々と、獲物を前にした豹の如く拳の打ち込み時を狙い続けた。
凱は力を込めながらも、ボブを正気に戻すために観察を続けた。
目下のところ、なぜボブが攻撃を仕掛けてきたのか見当もつかない。
ならば、一旦気絶させて身体を調べる以外、手のとりようがないだろう。
(電磁ナイフは駄目だ。切れ味がよすぎる)
切り刻むような攻撃では駄目だ。なるべき打撃系で、グランドリオンの横っ腹を叩きつけて意識を飛ばす。
ドラスとてT-800の全てを教えてもらったわけではない。T-800のことを又聞きした凱に、彼が気絶することができると思うのは、賭けであった。
それでも、ボブを正気に戻すためには死なず、それでいて意識を奪うほどの一撃を与える必要がある。
(頼む! グランドリオン!! 俺に力を貸してくれ!!)
凱がグランドリオンの柄を握り締め、心の中で嘆願する。一瞬だけ、グランドリオンが緑色に輝いた気がした。
凱の汗が流れ落ち、床に着く前に蒸発する。溶鉱炉の熱も感じさせぬほど、凱は集中をしていた。
「いくぞ! ボブさん!!」
凱は叫んで、一気に距離を詰める。背中を正面になるほど、グランドリオンを大きく振りかぶるために身体を捻った。
ボブが拳を凱へと打ち放つ。音を切り裂いて迫る拳より先に、グランドリオンが届くことはない。
「それが狙いだ!」
凱は不敵に笑い、早めに全身を振ってグランドリオンをボブの拳とぶつけた。
ボブが身体ごと衝撃に吹飛び、凱もまたグランドリオンを手放す。
それで諦めるサイボーグ凱ではない。さらに踏み込んで右拳を固める。
「正気に、戻れぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
凱は全身全霊、魂を込めた拳をボブの右頬へと叩き込んだ。
凱もまた、ボブの拳を受け止めている。数瞬拮抗する力に凱は前へ前へと突き進む。
凱の魂の輝きが、ボブの無慈悲な拳が、二人の身体を突き飛ばさせた。
倒れ伏す二人の影。その中から、立ち上がる者がいる。
壁に手をかけ、損傷に身体を震わせながらも二本の足でしっかりと立った。
影は溶鉱炉によって赤く染まる壁の中進み、地面に突き刺さるグランドリオンを抜き取る。
そのまま影はグランドリオンを杖代わりに、肩を震わせた。
「予想以上の損傷……エネルギーの消費。目の前の敵を最大の障害と認定する」
人工皮膚がめくりあがり、T-800は冷淡な表情のまま、気絶している凱へと近寄った。
その首を、先ほどまで彼が使っていたグランドリオンを使って振り下ろした。
もし、凱がスバルの攻撃を受けていなかったら。
もし、凱がT-800の異常にいち早く気がつき、先制攻撃を受けなかったら。
もし、凱がT-800への拳を、彼を気遣って力を緩めなければ。
T-800の電源を飛ばし、自身が気絶することもなかったかもしれない。
凱にそれを望むことは無理であった。
凱は勇者であることを誇りに持ち、他者を信じることを信条としている。
スバルを見捨てることも、T-800の異変に気づいて敵と認識するのも、彼にはできなかった。
こうして、勇者の剣は狂いし殺人機械へと渡ってしまった。
□
T-1000は困惑していた。ゼロが逃れるはずはないのだ。
シグマウィルスを注入し、その影響を受けているうちに離脱する。常套手段のはずであった。
だが、目の前のゼロは…………
「なにを打ち込んだかは分からないが、どうやら俺と相性がよかったようだな。逆に傷が塞がって力が溢れるぞ」
ゼロは冷徹な瞳をT-1000へと向けている。狂う様子が見られない。
あのマルチという参加者とは違うようだ。どういうことか?
シグマと連絡を取りたいが、その手段はない。この場をどうにかする計算をT-1000は行なうが、ゼロは計算に架かる僅かな時間すら見逃さない。
T-1000の四肢が一瞬で切断された。
「どうした? ぼんやりとしている暇はないぞ?」
T-1000は急いで分離した液体金属を吸収、怪力で圧倒すべく拳を振るった。
その拳をゼロはあっさりと受け止める。計算外の力に戸惑っていると、T-1000の身体が浮かぶ。
ゼロが腕をつかんだまま壁へと叩きつけた。T-1000は衝撃に強い個体である。この程度傷にも入らない。
力比べするように、ゼロと取っ組み合いをする。T-1000は全身を駆動させるが、ゼロのほうが力は強い。
しかし、T-1000は確かに力もある最新機種であるが、一番の特徴は液体金属の特性。
三本目の腕を作り、先端の刃をゼロの身体を貫くために突く。
「その手に引っかかるか!」
ゼロが蹴り上げ、T-1000の身体が吹飛んだ。成果はゼロの持つPDAを一つ吹き飛ばしたことのみ。
おかしい。シグマから受け取った性能を、目の前のゼロは大きく上回る。
「PDAを……まあいい。後で探す」
まずはお前だ。死刑宣言をゼロが告げたような気がした。
(斬っても死なない、となると厄介だな)
ゼロは冷静にT-1000を分析する。T-1000のように液体金属で構成されたメカニロイドもいた。
彼らには統合する核があるが、目の前のT-1000は違う。ならばどうするか。
少しゼロは思案して、作戦を決めた。ゼロは一気に加速して疾風牙でT-1000の腕を斬り飛ばした。
その腕は溶鉱炉へと落ちていく。
「こうすれば、お前も再生はできないだろ?」
T-1000は無言。どう考えているかはゼロには関係ない。ただ討ち滅ぼすのみ。
T-1000は腕を鞭に変えてゼロへと攻撃を仕掛けてきた。
ゼロはカーネルのセイバーを駆使して、次々と液体金属を溶鉱炉へと送り込んでいく。
T-1000が不利と見たのか、後方へと跳躍して逃げようとする。
「逃がすか!!」
T-1000はここを逃がせば殺す機会を失う。ゼロは追撃を開始する。
しかし、T-1000は足をスプリングに変えて、壁に飛びついた。ゼロはT-1000が逃げたわけではないと知る。
T-1000は壁からゼロへと、両腕を刃にして勢いよく飛び掛ってきた。
弾丸を超える速度は殺意を持ってゼロへと迫った。T-1000が粉塵を上げ、床を削る。
地面にはT-1000しかいなかった。
「その程度の知恵で俺を殺せると思うな。氷烈斬!」
そう、ゼロは地面でなくT-1000の上空にいた。カーネルのセイバーに冷気を込めてT-1000へと落下する。
反応する暇も与えず、ゼロの振り下ろした刃はT-1000を凍らせた。
ゼロはスバルの姿のまま、巨大な氷に包まれたT-1000に感情のこもらない視線を向けた。
「こうも容易く俺の狙いにかかってくれるとはな」
ゼロは呟いて、氷漬けのT-1000を溶鉱炉へと投げ飛ばした。
もうゼロの視線はT-1000を追わず、落としたPDAが見つからないのを確認して、凱の元へ戻ることにした。
途中、カーネルのセイバーをゼロ自身のPDAへとIDを登録しなおしながら。
(あのPDAを失くしたのは痛いな。エックスへの手土産と、使いどころが分からないものをあのPDAにまとめていたんだが……)
もっとも、今はそうも言っていられない。ゼロは仲間全てが無事であることを祈る。
その身に、シグマの毒を潜んでいることは、神ならぬゼロが知るよしもなかった。
T-1000は溶鉱炉へと近づきながらも、辛うじて溶け落ちた氷の中から身体の一部を突き出した。
ワイヤーと変形させて自分の身体を引き上げる。今のT-1000にできる唯一の手だ。
溶鉱炉の近く、全身の氷が完全に溶けるのにそう時間はかからない。
T-1000はワイヤーへと変形させようとして、エラーを検出した。
なぜか、原因を検索する。損傷の修復時間のズレと似たようなエラー。原因を放置していたのが失策か。
T-1000は溶鉱炉に落ちて、熱に身体が溶けていく。
次々と液体金属は熱によって駄目になっていき、T-1000足る存在が消えていった。
そこで、ようやく原因の検索が終わる。
エラーの原因は、シグマウィルス。
T-1000はシグマにこのウィルスの影響の受けない箇所を作って隔離した、と説明を受けていた。
そのはずなのに、実際エラーの原因となっている。
隔離場所からウィルスを出した覚えはない。いったい何が原因か?
T-1000にその原因を知ることは、もうなかった。
ゼロとT-1000の戦いを見届けた男が一人いた。
T-800はゼロの接近を忘れずに、顔をあわせるのを避けたのだ。
凱のPDAに続いて、ゼロが落としたPDAを手に入れたのは僥倖である。
(だが、T-1000を失ったのは痛い)
T-800はT-1000が溶鉱炉へと落とされる様子を見ていた。
いかに高性能でしぶといT-1000とはいえ、あそこに落とされては生存は不可。
スカイネットの指令を思い出したため、共に任務を果たそうと思っていたのだが。
一人で人間と、その味方であるロボットやサイボーグを倒すのは無理だろう。
任務の可能性を上げるため、味方を作る必要がある。
T-800はどうするか、と思考しながらその場を離れた。
□
赤い影と黒い影が交差し続ける。灰原が評した接近戦の危険性。
V3は二度の交戦で充分に承知しているも、おのれのスタイルを変えるつもりはなかった。
コンクリートの地面がV3の蹴りで砕けた時、ボイルドは重力で跳躍していた。
ボイルドの周辺が爆発して、着地以外の選択肢を奪う。サイクロンを駆使したチンクの援護のおかげだ。
「クッ! 片腕を失ったというのに!」
「いや、チンク。確実にボイルドは追い詰められている。重力の壁の強固さも、重力制御を利用した移動速度も、下がっているからな」
「そうだ、今の俺は弱体化している。なにせ、重力制御装置を一つ奪われたのだからな」
ボイルドはV3たちの言葉を素直に認めた。これはV3とチンクでは勝てない、と確信しているからか。
違う。ボイルドにとってはV3たちが虚無に塗りつぶされるのも、自分がここで果てるのも等価値。ただそれだけだ。
V3は目の前の男の最も恐れるべき点が、重力制御でなくその戦闘技術であることを知っている。
いくら弱くなったとはいっても、油断が許される相手ではない。
全力を持って倒す。V3がチンクに視線を送り、互いに頷いた。
地面を蹴り、一気にV3は天高く跳ぶ。
「ボイルド!!」
V3はマフラーで空中の姿勢を制御して、二発の高周波弾を避けながら接近する。
V3だからこそできる芸当。拳を振り上げ、ボイルドへとV3は特攻した。
「ドリル! アタァァァック!!」
「ぐぅ!」
V3の腕が高速回転しながら、ボイルドの重力の壁へと届いた。
ボイルドが呻き、逸らそうとするがV3の回転した手の先端がコートと皮一枚を切り裂く。
V3は直撃しなかったことに、ボイルドは逸らしきれなかったことに、それぞれ舌打ちをして距離をとった。
チンクはそこを狙ってサイクロンで飛び上がり、爆弾と化した破片を投げ飛ばす。
「ISッ!!」
ボイルドに休む暇など与えない。チンクとV3は息の合ったコンビネーションでボイルドを追い詰める。
ボイルドはどこか楽しそうに、暗い笑みを浮かべた。絶望を知ったものだけができる笑み。
V3に再び、ボイルドを通してみたビジョンが浮かぶ。
『ありがとう、ありがとう』
腐った怪人たちの死体が、V3に礼を言う。そこには眼球が零れ落ちたベガの姿もあった。
『そうやって、俺の前に立つがいい。俺に呪いをかればいい』
V3が正面に向き合いながら、幻影を潜り抜ける。ビジョンが収まった先には、コートを翻すボイルドがいた。
銀色のリボルバーの銃口は、V3へと向けられている。
「その呪いが……その絶望こそが、屈しなかったという俺の誇りだ!」
呪いに負けない、人類のための牙、仮面ライダーとしての。
こい、同類【モンスター】よ、とV3はボイルドに向けて内心告げた。
ボイルドは刻一刻と迫る重力制御装置の冷却時間を感じながらも、退くつもりはなかった。
いつものボイルドならとっくに退却している。そうしないのは、右腕の損傷。
血が流れ、重力制御で失血を押し留めているも、冷却時間が来ればボイルドの死は必須だ。
あの男の虚無に沈めたと思っていたが、沈められたのは自分のようだ。
いや、あの男は元々虚無だったのかもしれない。自分よりももっと深いところの。
ならばこの最後の命のチップ、風見との激闘に捧げてもいいのかもしれない。
未練ならあった。ウフコックに再会していない。彼はバロットを失い、金色の小さく、温かい身体を震わせているだろうか?
ボイルドに知る術はないだろう。バロットとの最後の戦いを思い出す。
あの時、小さな自分の同類へとウフコックを託した。だというのに、蘇った今もウフコックを求めるあたり、自分を女々しいとも思う。
それでも、自分に絶望に、虚無に呑まれる前に良心があった証明として、なにより元パートナーとして、ウフコックにあってみたかった。
ボイルドは奥歯をグッと噛み締め、ハカイダーショットの引き金を引く。
迫る冷却時間と同じく、ハカイダーショットの弾も尽きかけていた。
(さあ、約束の地【グランド・ゼロ】は近い。風見、キサマには付き合ってもらうぞ!)
バロット以外に、始めて感じる同類【モンスター】としての共感。
―― おお、炸裂よ!【エクスプロード】
ボイルドにとっておのれの虚無が砕かれるのは、希望に似ていたのかもしれない。
重力制御を駆使して、天へとボイルドは『落ちて』いった。
「チンク!」
「任せろ、カザミ!!」
V3の掛け声にあわせて、爆発物と化した破片をサイクロンの後輪へ落とす。
爆発と共に、チンクは逆ウィリーをサイクロンを制御しながら行なった。
V3はチンクの対応に感謝すると共に、サイクロンの回る後輪を踏みつけた。
「チンク! アクセルを全開にしろ!」
「後悔するなよ! とっくに全開だ!」
チンクの楽しそうな顔に、V3は頷いた。タイヤの回転に合わせて、V3は上へ『落下』していくボイルドへと迫る。
身体ごとの大車輪。ボイルドが逃れようと横に重力をかけるが、V3は追撃をするため方向転回した。
「V3ィ――――!!」
「くるか! 風見……いや、仮面ライダーV3!!」
ハカイダーショットの銃弾を回転で弾きながら、V3は迫り続ける。
下で見守るチンクが、これで決めろと目だけで告げた。
(分かっている。これは俺だけのマッハキックではない。これは……俺とチンクの!)
「ダブル!! マッハキィィィィィィィィィィック!!!」
太陽を背に、V3は回転の勢い全てをかけて、重力の壁を展開するボイルドへと叩き込んだ。
「グフッ! どうした……風見。俺は生きているぞ!」
「ああ、分かっている……ボイルド」
F-4エリアのコロニーの壁に叩きつけられても、ボイルドは吼える。
V3とチンクとのマッハキックでも止めを刺し損ねた。やはり、決めるべき技は一つ。
ボイルドの重力の壁は、右腕を失った状態でも硬すぎる。マッハキックの質量ですから威力を削がれ、方向を大幅に修正された。
当てるためだけにいくらも威力を落として、ようやくボイルドに届いた。
あれを防がれては、最後の手段に頼るほかない。ボイルドはもう戻れない。戻ることを望んでいない。
ならば、彼を仮面ライダーにしたいと願った自分が引導を渡してやるのが、慈悲というものだ。
(だが、シグマ。ボイルドと共に、お前も持っていく!)
複眼と額のランプ、レッドランプが輝く。
プロテクターの中央、赤い骨を模したレッドホーンが赤く光を発する。
力と技の風車が回り、ダブルタイフーンがエネルギーを全開にした。
「何をする気だ!? カザミ!」
(すまない……後は頼んだぞ、チンク!)
V3は飛び上がり、両腕を交差させた。そのまま腕を組み、全神経、全エネルギーラインを通して右足に全エネルギーを送る。
V3の右足が輝いて、V3キックの体勢へ入って突き進む。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
V3は全身を恒星と化して、ボイルドに蹴りを叩き込みコロニーの壁を破砕していった。
やがて、闇の中に無数の星が見える、生物が生息不可能な絶対領域。宇宙へとV3は飛び出した。
V3が放った最後の技。V3の封印された最強の技。生涯二度目となってしまった、終わりの秘技。
―― V3火柱キック
V3の身体が加速していき、蹴りの勢いでコロニーから飛び出す空気が震える。
ジェット機のエンジン音クラスの轟音をたてながら、V3は振り返らず、直進を続ける。
ボイルドの身体を一瞬で燃やし尽くし、V3の目は宇宙に浮かぶ要塞へと向けられた。
ボイルドへ、死んでいったものたちへの手向けとして、V3は進路を要塞へととる。
(届け……これが俺たちの、反撃の狼煙だ!!)
誰も届くことのないはずへの要塞へと、V3は反撃のキックを届かせた。
ボイルドは自分を包むV3の命の炎を、美しいと思った。
虚無さえも飲み込む、温かい太陽の如くの光。
ボイルドが望み、ウフコックが持ち続けたもの。街の欲望へと飲み込まれなかったもの。
―― おお、炸裂よ!【エクスプロード】
約束の地【グランド・ゼロ】へと、ボイルドはようやくたどり着いたような気がした。
これが自分の、生の終着点。文句はなかった。
ボイルドは炎に包まれながらも、笑顔を浮かべて告げる。
「グッバイ、モンスター」
それは誰にも届かない、届かせない。しかし、確かにボイルド自身の言葉だった。
*時系列順で読む
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|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|T-1000|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|ギンガ・ナカジマ|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|ボイルド|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|風見志郎|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|T-800|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|スバル・ナカジマ|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|ゼロ|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|チンク|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|ドラス|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(2)]]|ナタク|127:[[真っ黒焦げの凶暴な卵(4)]]|
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