「血塗れの指先3」(2009/06/26 (金) 16:22:28) の最新版変更点
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**血塗れの指先3 ◆2Y1mqYSsQ.
溢れる緑色のエネルギーによってハカイダーの右腕が宙に舞う。
右太ももが深く切れ、オイルが流れ出す。右太ももだけではない。脇腹、胸部、肩、脚、無事でない箇所は一つもない。
顔に大きな横傷を作りながらも、ハカイダーは拳をさらに押し込んだ。
エネルギーの絶対量では負けている。ハカイダーの持つべきすべてのエネルギーを回し、赤いエネルギーをさらに増やす。
焼け石に水か。だとしてもハカイダーのすることは変わらない。
このゼロを認めない。
かつての自分を否定するように、かつて戦ったゼロを肯定するように、ハカイダーは前に進むのを諦めない。
別にゼロと戦うためでも、仮面ライダーとの戦いのためでもなかった。
単に意地。ゼロがかつて見せたキカイダーの影を、今のゼロに否定させないがための行動。ただそれだけ。
(そうだ。俺にとってはキカイダーがすべてだ。キカイダーとの戦いこそがすべてだ!)
ゼロと戦うのも、仮面ライダーと戦うのも、凱と戦うのも、その過程に過ぎない。
だからこそ、キカイダーに誇れる己であり続けるために、決してこのゼロに負けるのだけは認められない。
以前のゼロなら、凱なら、仮面ライダーなら自分は殺されても構わないと考えていた。
だがこのゼロにだけは、自分の幻影にだけは負けてはやれない。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉっっ!!」
赤く光る左拳をさらに深く食い込ませる。同時にハカイダーの全身をあふれ出た緑色の刃が貫いた。
全身に穴が開き、傷だらけになりながらもハカイダーの拳は止まらない。
負けてしまえば自分が求めた正義の味方も、その果てのキカイダーも否定される。
全身を動かすエネルギーを最小限にして、すべて左拳に預ける。まさに全身全霊の一撃。
こいつに負けるのだけは、ハカイダー自身が認めなかった。
ハカイダーの喉が破れんとばかりに咆哮が轟く。
緑色の巨大な刃はひびが広がり、砕け散った。
中心にいたハカイダーは全身を刻まれながらも、
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ば、馬鹿な……ぐぅっ!?」
拳をゼロの額に届かせた。
□
(ああ、そうか)
自分が勝ったと確信した瞬間、ハカイダーの視界が暗転して何も映さなくなる。
無理をしたのだ。しばらくは動けまい。
(ようやく……分かった。キカイダーのなにが、キカイダーとなすのかを……)
よくある答えだが、ハカイダーには最期の最期まで気づけなかったもの。
それは心だ。
ごく当たり前なそれを、今まで考えもしなかった。何より、キカイダーはともかく自分に心があるとは考えもしていない。
しかし、戦い、悦び、そして意地を張る自分こそ心が存在するものだと認識した瞬間、ハカイダーに答えが満ちる。
キカイダーの信念を宿した心に、ハカイダーは惹かれていたのだ。
自分が決して手に入らないもの。それをもっていたキカイダーだからこそ、ハカイダーは拘ったのだ。
それは凱もゼロも仮面ライダー達も持っていた。
ハカイダーがキカイダーに拘ったのは、そいつを持った者で最初に出会い、拳を交わした相手だからか。
(いや、それ以上に俺は……お前に……――――かっただけ……かもな……。キカイダー……キカイダー……)
胸を焦がす想いは、口から漏れず。
呟きながらもキカイダーの影を求めて、手を伸ばす。空を切ったその手を最後に、ハカイダーの思考が止まった。
一度目の死とは違って、答えを見つけた満足感に満ちたハカイダーは気づかない。
それが二度目の死であることに。
□
武美は暗闇が広がる中にポツン、と立っていた。周囲には星のように光が点在している。
地面がないようなどことも分からない場所。ここはゼロの心の中だった。
「ここがゼロの中なのか?」
「多分そう。周りがこんななのは、あたしがイメージしやすい風景に変えているだけ」
ちょっとした遊び心だよ、と現実世界ではアダプターに変身しているだろう金色ネズミに告げる。
ウフコックは感心したように大きくため息を吐いた。
「武美は凄いな」
「ありがとう。大神グループにとっては失敗作だけどね」
「これほどの能力の有用性を分からないとは……」
呆れるウフコックをよそに、武美はさらに歩みを進める。
ハカイダーがあの技を破り、ゼロを殴り飛ばし大きなダメージを与えた。
現実世界ではゼロを本郷とイーグリードが組み伏せて抑えている。
もしその拘束が解けて武美たちに刃を振るものなら、一貫の終わりだ。
「早く本物のゼロを探そうっか。ウフコック」
「了解だ。鼻でゼロの心を探す。指示に従ってくれ」
了解、と武美は返して闇の中を進んだ。
「この光の中だ」
「ふーん。一番古い記憶か……」
光り輝く星の一つに、ウフコックが鼻でゼロを見つけたらしい。
武美の能力を使って中身を確認すると、ただの古い記憶以外に情報はない。
武美が入り込むと、一気に景色が変わった。
「ここがゼロの一番古い記憶か……宇宙戦略研究所の実験室を思い出す」
「あたしも似たようなところにいたけどさ」
武美は苦笑を浮かべながら、脚を進めた。知らないロボットの残骸が目にはいる。
これが古い記憶とは、どれほどバイオレンスな過去をもっているのだろうか?
「武美、止まるんだ」
「いたの?」
「ああ。出て来るんだ、ゼロ。俺たちは敵じゃない」
ウフコックの言葉により、全然気配を感じなかった暗闇から赤いアーマーを着た金髪の青年が浮かび上がる。
武美は内心驚きながらも、平静さを装って話しかけた。
「あなたがゼロ……さん?」
「その通りだ。よくこれたな……」
「それってどういう……」
意味なのか問おうとした瞬間、部屋に爆炎があがる。武美が振り返ると、紫色のアーマーを着たゼロがいた。
武美が戸惑う中、ウフコックが冷静に解説を始める。
「落ち着け、武美! そいつは凶暴なほうのゼロだ! こっちのゼロとは違う匂いがするから、あえて避けていたんだ」
「そ、そういうことは早くいってよ!」
「こっちだ、こい!」
ゼロの導きで武美たちは離れて、後ろで暴れるもう一人のゼロに振り返る。
もう一人のゼロはこれ以上侵入できないらしく、忌々しげにこちらを見つめていた。
武美はゼロに引かれるままに任せた。
「しばらくは無事だ。その間にやって欲しいことがある」
「え?」
一息を吐いた時に、ゼロが急に切り出してきた。
真剣でとても断れる雰囲気ではない。武美はゼロの次の言葉を待った。
「俺を殺してくれ。ここまで来た君の力なら出来るはずだ」
ゼロの言葉に、武美は目を見開く。今なんといったのだろうか?
ゼロから出た言葉を噛み砕けなくて武美は少しの間、思考停止をした。
「奴が俺を殺せず、屈しようとしているのは理由がある。俺と奴は一心同体。
俺が死ねば奴も死ぬ。だが、俺の手で俺が死ぬことはなかった……」
「だから……あたしに殺してっていっているの?」
「その通りだ。今の俺に奴を止める手段はない。君が持ってきたワクチンプログラムをもってしても、奴を消すことは出来ない。
そいつを持ってきたイーグリードや君は悪いが……俺を殺してすべては終わりだ。頼む、時間がない」
ゼロの真摯な表情から、彼の言葉が真剣なのが分かった。
武美の頭の中でさまざまな言葉が駆け巡る。別にゼロが死ぬのは構わない。
それで本郷たちが助かるのなら。だが、頭のどこかでその行動を否定していた。
浮かび上がるのはエックスの鬼の瞳。そいつを思い出した瞬間、武美の顔に怒りが溢れて声が喉元まで昇ってきた。
「ふざけ……」
「悪いが、自殺のために武美の力を使わせるわけにはいかない。断らせてもらう」
その武美の声を代弁するように、ウフコックの冷静な声が研究所に響いた。
声色には確かに怒りが滲んでいる。今の彼は煮え切らないまま【ウフコック】でなかった。
「だが、あいつは次々領地を俺から奪っていく。俺まで奴に取り込まれればそれで終わりだ!」
「だからといって武美に君を殺すことを頼むのか? 俺は認めない」
ウフコックは珍しく憤慨していた。説教するつもりはない。
ゼロが抵抗を諦めているのも怒りを覚えるが、もっとも許せないことがある。
「なにを迷う。俺はフランシーヌを殺して、いま本郷猛という風見や神の先輩を殺そうとしている。
一刻も早く止めることこそ、君や俺が取れる最良の手段だ」
「いいや、最悪の選択肢だ。現状に対してじゃない。彼女にとってだ」
ウフコックは頑としてゼロの言葉を否定する。
ゼロの幾多の戦場を潜り抜けた力強い視線を真っ直ぐ受け止め、赤いつぶらの瞳に力をこめた。
潜り抜けた修羅場の多さはウフコックだって負けていないのだから。
「彼女はエックスに襲われた」
「……ッ!? そうか」
「別にそのことで君を責める気はない。エックスがとった行動と、君に関しては何の因果関係もないからな。
知って欲しいのは、エックスの行動で武美が憎悪を抱いた結果だけだ」
ウフコックの言葉にゼロが目を見張る。他人の心情をずけずけ話すのは心苦しい。
それでも黙っていられない。黙っちゃいけない。
ここで言わなければ、ウフコックが武美についてきた意味がない。
「俺は彼女に、エックスに関する感情への決着を着けさせることへ賛成してここに来た。
だからこそ、君を武美が殺す結末は認められない。彼女がここで着ける決着は、俺が持てる力を持って幸せな結末にする義務があるからだ。
それが……俺がクロから、草薙さんから与えられた委任事件担当捜査官としての任務だ」
お前も意地を見せろ。饒舌に喋って、最後の言葉だけは瞳にこめた。
ゼロは一度だけ目を伏せて、武美に視線を向ける。もうウフコックに告げる言葉はなかった。
「俺は…………」
「あたしは風来坊さんに行ったことがある。正しい生き方をしている人間なんて、そんなにいないって」
ゼロがまだ迷いを示していると、武美が話しかけてきた。
風来坊とは彼女の大切な相手だろうか? 発音が少しだけ優しくなっていた。
「けど、風来坊さんはそのことを受け止めていた。きっとあの人も正しく生きれなかったことがあると思う。
……そうだったらいいな、っていうあたしの願望かもしれないけど」
武美の声は穏やかなままで、ゼロの胸元を急に掴んだ。
武美の瞳が鋭くなり、ゼロの顔を正面から除きこむ。
「あたしがここにきた理由はきっと正しくない。なにを犠牲にしても、あたしはこれ以上仲間を失わない覚悟がある。
あんたを殺すことで本郷さんやソルティが助かるなら、最後はそうする。けど、それじゃあたしが役に立ったことにはならない。
だから戻ってよ! あたしに本郷さんたちの役に立たせて!!」
武美の叱咤を耳に、ゼロは脱力した。頭の中に響く武美の言葉。
正しい生き方をしている人間なんて、そんなにいない。ゼロの生まれは正しくないといえる。
だからこそ、ゼロは今までの自分を含めて否定をしていた。
(ああ、そうか……)
ゼロの脚に血塗れのエックスが絡みつく。幻影だ。武美やウフコックには見えない。
親友を殺したという罪から、ゼロは逃れたがっていたのだとやっと自覚できた。
その罪の意識があるから、もう一人の自分に勝てなかったのだ。いや、勝とうとしなかった。
「すまない、エックス。俺は前に進む」
瞬間、エックスの幻影は消える。逃れられたわけではない。
エックスを殺した罪は一生向き合いながら生きていかねばならないのだから。
武美に意思を伝えるため真っ直ぐ向けられる視線を受け止め、正面から頷き返す。
武美はすべてを悟ったように、光り輝くワクチンプログラムを差し出した。
「戦って、自分を取り戻して」
「そうする」
ゼロにもう迷いはない。武美のワクチンプログラムを手にして、踵を返した。
傷だらけの研究室に紫色のアーマーを着るゼロが現れる。そのもう一人の自分を前に、ゼロは静かに拳を前に構えた。
自分の姿を見て、もう一人のゼロが笑みを浮かべる。
自分を吸収し、一つになることへ悦びを示しているのだろう。
「ハハッ、ようやく覚悟を決めたか!」
凶暴な笑みを浮かべたもう一人のゼロがセイバーを掲げて、ゼロへと迫る。
もう一人のゼロの刃の軌道を冷静に見極め、ゼロは拳を振るった。
「こんな拳など、俺たちに効かな……なッ!?」
もう一人のゼロが拳を左胸に受け、盛大に転がって壁にぶつかる。
予想外の攻撃に目を剥くもう一人の自分に、ゼロはゆっくりと近づく。
「こ……こいつは?」
「ワクチンウィルスだ。こいつがあればお前もひとたまりもない」
「チィッ! だがお前に俺は殺せない! お前は俺なんだからなッ!」
もう一人のゼロが吼え、がむしゃらにセイバーを振り回した。
ゼロはその攻撃に怯えない。振り下ろす右手を受け止め、閃光が起きてもう一人のゼロの右腕が完全に消失する。
「な、なにをしたッ!?」
「簡単なことだ。お前がしようとしたことを、俺がしたまでだ」
「なんだと? 俺を取り込む気か!?」
「いや、そもそもお前を否定しようとしたのが間違いなんだ」
「捻じ伏せられただと……? そんな馬鹿な」
ゼロはもう一人の自分の左手を重ね、同化させていく。
もう一人の自分が恐怖を示すが、脚も吸収し終えていた。
「くるなッ!」
「俺を否定するな! 俺たちは一つなんだ。一つにならないといけないんだ。
暴力的な使命を持って生まれた俺と、イレギュラーハンターとしてエックスと共に生きた俺は別れちゃいけなかったんだ!
エックスを殺す使命を持っても、俺はハカイダーのようには生きれなかった!」
自分の告げた言葉と共に、ゼロはなぜハカイダーを更生させようと自分が行動したか理解する。
自分の生まれを記憶でなく、本能で知るゼロはハカイダーが自分と同じ使命を持って生まれたのを感じていたのだ。
だからこそ凶暴性を秘めた自分を否定したく、ハカイダーに更生の道を示そうとした。
凱のように誰かを重ねたわけではない。自分の悪を重ねたのだ。
今だから分かる。その感情は否定するべきものじゃないと。
「や、やめ……」
「逃げるなッ! あいつと過ごした俺もまた、お前なんだ! お前と俺にハカイダーのように誇り高く生きることは出来なかった。
その代わりエックスと、多くの仲間と共に戦い続けた誇りがある! 俺たちはそれを胸に生きていくべきだ!」
「誇りを……胸に……」
ゼロの言葉がもう一人の自分に浸透する。声が届いたのか、もう足掻くことはない。
穏やかな気持ちになる中、ゼロはもう一人の自分に告げた。
「一つに戻ろう、ゼロ(おれ)」
その言葉は、もはやどちらのゼロが告げたのか判別つかなくなっていた。
ゼロの視界が光に満ちて、やがて彩を取り戻した。
□
偽の月が覗く、穴が開いた天井を見つめてゼロの意識が覚醒した。
風を肌に感じ、焼け焦げた匂いが鼻をつく。現実世界に戻ったのか。
ゼロはそう認識して上半身を起こした。
ライダースーツを着た本郷が確かめるように顔を覗き、ゼロは頷いた。
イーグリードがいつもと変わらず、笑みを浮かべてゼロを見下ろしている。
「目を覚ましたか」
「相変わらず心配をかける奴だ、お前は」
「すまない、イーグリード」
「気にするな」
「はー、疲れた。もう二度と暴れないでよ、ゼロさん」
「同感だ。俺も他人の心に入るのはこれで最後にしたい」
現実世界に戻ったのだろう。ゼロと近い位置で武美とウフコックが笑みを返している。
ゼロはすまない、と目を伏せて礼を言った。フランシーヌはこの場にいない。
ゼロ自身の手で殺したのだから。ソルティという子は本郷の傍で寝息をたてている。
雷神撃の電撃は彼女に深いダメージを与えたのだろうか。目を覚ましたら、許してもらえるとは思わないが謝罪をしなければ。
「そういえばハカイダーはどうした? 奴にまた借りが出来てしまった」
「ゼロ……ハカイダーは……」
イーグリードが言いよどみ、ゼロは呆気にとられた。あの男が死ぬなど考えられなかったからだ。
本当がどうか確かめようとゼロが立ち上がったとき、瓦礫が破裂した。
全員が驚く中、立ち上がる影がある。
「ハカイダー!」
生きていたか。ゼロが安堵の笑みを浮かべる。本郷たちも生存を確認したのか、笑顔が広がっていった。
ゼロが礼を言うために、多少癪ながらも近づく。すると、ハカイダーが振り向いた。
「キ……カイダー……キカ……イダー……倒す……」
瞬間、ゼロたちの笑顔が凍りつき、足が止まる。目の前のそれはハカイダーであって、ハカイダーではなかったからだ。
ハカイダーは装甲が剥がれ回路がむき出し。右腕は切られて隻腕となり、また残った左腕も拳が破裂してコードを垂らしている。
左太ももから先はなく、右足も機能していないのか引きずっていた。
仮面は剥がれ、カメラアイがそのままゼロの顔を覗く。
「キカイ……ダー……倒……す……」
もはや視界に入るものはすべて、キカイダーと認識しているらしい。
メイン回路と思わしき箇所を破壊されながらも、キカイダーを求め戦おうと必死に足掻いている。
凄まじい執念。しかし、ゼロはそれを執念だけとは思わない。
「ゼロ……もう眠らせてやろう」
本郷がゼロにそう告げて前に出ようとした。本郷の優しさからだろう。
ゼロの罪の意識を軽くするため、これ以上殺させないと汚れ役を買って出たのだ。
その本郷をゼロは腕で制した。
「いや、俺がやる。……やらせてくれ」
ゼロは懇願して、一度の跳躍でハカイダーの眼前に立った。
ハカイダーは半壊しながらも、拳をゼロへと打ち込んでくる。
まったく力の入らない拳。それがかつてのハカイダーの姿を重ねるゼロには辛かった。
「キカイ……ダー、キ……カイダー」
「ハカイダー。俺はお前と同じ使命を受けてこの世に生まれた。だが、俺にお前のようには生きれない」
「キカイ……イダー……。……カイダー」
ノイズ交じりにキカイダーを求めるハカイダーを前に、ゼロは敬意を表してカーネルのセイバーを起動した。
何度も殴りつけるハカイダーの拳が悲しい。その原因は自分だ。罪から逃げてはならない。
「だからこそ、お前が望んだ道をいく。俺は迷わない。それが殺した者達への誓いだ」
だから地獄で自分を待っていろ。ゼロはそう心の中で呟いて、ハカイダーの胸の中央を貫いて動力炉を破壊した。
ハカイダーが機能を停止して、崩れ落ちる。ゼロはハカイダーを抱きとめて、結局道が交わることのない相手だと心で理解した。
ゆえに敬意を込めて、ゼロは血塗れの指先でその男の名を読んだ。
【D-3 シャトル基地内部/二日目・黎明】
【ゼロ@ロックマンX】
[状態]:健康、T-800を敵視。ハカイダーとフランシーヌを殺したことを後悔。
[装備]:チャージキックの武器チップ@ロックマンシリーズ、カーネルのセイバー@ロックマンX4
[道具]:支給品一式、PDA(ゼロ)、空っぽの平凡なデイバッグ@ゴミ処理場、サイクロン号@仮面ライダーSPIRITS
謎の金属片(マルチの残骸から回収)
[思考・状況]
基本:シグマを倒す。イレギュラーに容赦はしない。
1:ハカイダーと同じ道を歩まない。彼が望んだゼロの道を行く。
2:凱を殺したボブ(T-800)を最大の敵と認識。
3:ドラスと合流。
4:メガトロン、グレイ・フォックス、ボブ(T-800)は警戒。
5:シグマ、何を企んでる?
6:イーグリードがなぜここにいるのか、問い詰める。
[備考]
※覚醒した影響でゼットバスターが使えるようになりました。
ただし、覚醒時より威力は低いです。
※真・滅閃光、真月輪、幻夢零は覚醒時のみ使える技のため、現在使えません。
【本郷猛@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労中、ダメージ大、胸部に包帯。応急処置済み。破損は生命の水により回復(ただし、しろがね化はまだしていない)。
爆弾解除。フランシーヌを守れなかったことによる後悔。
[装備]:白いカラス(全体に焦げ跡あり)@人造人間キカイダー
[道具]:支給品一式、トマト×97@THEビッグオー、謎の金属片(外装解除。解析は八割程度)、
PDA(グレイ・フォックス、ドロシー、草薙素子、ドラ・ザ・キッド)×4。
ロジャー・スミスの腕時計@THEビッグオー、ブルースシールド@ロックマン、ジローのギター@人造人間キカイダー
虹(ドクターケイトの毒が染み込んでいる)@クロノトリガー、ライドル@仮面ライダーSPIRITS、ラブラブビッグバンの音楽ファイル@パワポケシリーズ
[思考・状況]
基本思考:殺し合いには乗らない、打倒主催。
1:ミーとT-800と合流。
2:武美の寿命タイマーをどうにかする。
3:コロンビーヌにフランシーヌ人形のことを伝える。
4:パンタローネを倒した者を見つけ出し、この手で倒す。
5:シグマに関する情報を集めたい。『ラブラブビックバン』のファイルを解析する。
6:イーグリードの素性を尋ねる。
7:放送がないのに疑問
[備考]
※原作8巻(第32話 称号)から参戦。
※コロンビーヌの格好を旧式のものと勘違いしています。
※シグマは新兵器を作るために、自分たちのデータを収集していると推察しています。
※武美とは、一エリア以内なら通信が取れます。
※T-800への疑いが解けました。
※爆弾を解除するのに、一時間は必要です。
ただし、同時進行や武美の助けを借りれば、ある程度時間を短縮することも可能です。
また、手術跡の再生のため、生身部分のある人ははさらに一時間を回復ポッドで過ごす必要があります。
【ソルティ・レヴァント@SoltyRei】
[状態]:全身にダメージ(中)。疲労(中)。気絶中。爆弾解除
[装備]:なし。
[道具]:支給品一式、PDA×2(ソルティ、神 敬介)、ToHeartの制服@ToHeart スラッシュクローの武器チップ@ロックマン
紫の仮面@現実、K&S Model 501(7/10)@SoltyRei、予備弾各50発、LUCKの剣@ジョジョの奇妙な冒険
ミラクルショット@クロノトリガー、ガイアアーマー@ロックマンX5
[思考・状況]
基本思考:壊し合いに乗っていない参加者を守り、シグマを倒す
1:フランシーヌたちを守る。
2:武美を守る。
3:ロイさんやローズさんの元に帰りたい。
4:放送がないのに疑問
[備考]
※参戦時期はアニメ10話~11話です。
※戦い自体への迷いは消えましたが、相手を躊躇なく殺せるまでには至っていません。
※気絶のため、すべての思考が気絶前のままです。
気絶状態を回復するには、修理が必要になります。
【広川武美@パワポケシリーズ】
[状態]:健康。爆弾解除
[装備]:ウフコック@マルドゥックシリーズ
[道具]:PDA(武美、クロ)×2、ランダムアイテム0~1
アポロマグナム@仮面ライダーSPIRITS(弾切れ、発電所内にクロの右手と共に放置)、風船いかだ
[思考・状況]
基本思考:絶対に生き残り、ここから脱出する。
1:ミーとT-800と合流。
2:シグマの居場所を探る。シャトルの行き先を変更できるように干渉する。
3:軍事基地に行く機会があったら行ってみる。
4:元の世界のあの人のところに戻って、残り少ない人生を謳歌する。
5:イーグリードの素性を尋ねる。
6:放送がないのに疑問
[備考]
※A-1・軍事基地に『何か』があると考えています。
※本郷とは、一エリア以内なら通信が取れます。
※爆弾を解除する手順を、半分くらい理解しました。その技術を持ってエックスを殺す計画を立てています。
※ウフコックは、ターンした物を切り離すこと(反転変身【ターンオーバー】)が出来なくなっています。
※ウフコックの参戦時期は、ボイルド死亡後です。
【イーグリード@ロックマンX】
[状態]:全身にダメージ(中)。疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:PDA(イーグリード用通信強化Ver。ラミア)、サブタンク(満タン)×2@ロックマンX
[思考・状況]
基本:バトルロワイアルの真実を伝える。
1:皆にバトルロワイアルの真実を伝える。
2:シグマの自殺を止める。
3:来る途中で見た少女二人を助けに戻る。
【共通事項】
※サイドマシーン@人造人間キカイダー、ゼロバスター(半壊。使用不可能)@ロックマンX
ハカイダーのPDA(支給品一式)、風見志郎のPDA(支給品一式)、バタフライナイフ(刃がボロボロ)@現地調達
スズキ・GSX750S3 KATANA@仮面ライダーSPIRITSがD-3シャトル基地の一室で瓦礫の中に埋もれています。
&color(red){【フランシーヌ人形@からくりサーカス:破壊確認】}
&color(red){【ハカイダー@人造人間キカイダー:破壊確認】}
&color(red){【残り10体】}
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|149:[[血塗れの指先2]]|ゼロ|152:[[そして終焉【フィナーレ】へ……]]|
|149:[[血塗れの指先2]]|フランシーヌ|&color(red){GAME OVER}|
|149:[[血塗れの指先2]]|広川武美|152:[[そして終焉【フィナーレ】へ……]]|
|149:[[血塗れの指先2]]|ソルティ・レヴァント|152:[[そして終焉【フィナーレ】へ……]]|
|149:[[血塗れの指先2]]|本郷猛|152:[[そして終焉【フィナーレ】へ……]]|
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|149:[[血塗れの指先2]]|ハカイダー|&color(red){GAME OVER}|
**血塗れの指先3 ◆2Y1mqYSsQ.
溢れる緑色のエネルギーによってハカイダーの右腕が宙に舞う。
右太ももが深く切れ、オイルが流れ出す。右太ももだけではない。脇腹、胸部、肩、脚、無事でない箇所は一つもない。
顔に大きな横傷を作りながらも、ハカイダーは拳をさらに押し込んだ。
エネルギーの絶対量では負けている。ハカイダーの持つべきすべてのエネルギーを回し、赤いエネルギーをさらに増やす。
焼け石に水か。だとしてもハカイダーのすることは変わらない。
このゼロを認めない。
かつての自分を否定するように、かつて戦ったゼロを肯定するように、ハカイダーは前に進むのを諦めない。
別にゼロと戦うためでも、仮面ライダーとの戦いのためでもなかった。
単に意地。ゼロがかつて見せたキカイダーの影を、今のゼロに否定させないがための行動。ただそれだけ。
(そうだ。俺にとってはキカイダーがすべてだ。キカイダーとの戦いこそがすべてだ!)
ゼロと戦うのも、仮面ライダーと戦うのも、凱と戦うのも、その過程に過ぎない。
だからこそ、キカイダーに誇れる己であり続けるために、決してこのゼロに負けるのだけは認められない。
以前のゼロなら、凱なら、仮面ライダーなら自分は殺されても構わないと考えていた。
だがこのゼロにだけは、自分の幻影にだけは負けてはやれない。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉっっ!!」
赤く光る左拳をさらに深く食い込ませる。同時にハカイダーの全身をあふれ出た緑色の刃が貫いた。
全身に穴が開き、傷だらけになりながらもハカイダーの拳は止まらない。
負けてしまえば自分が求めた正義の味方も、その果てのキカイダーも否定される。
全身を動かすエネルギーを最小限にして、すべて左拳に預ける。まさに全身全霊の一撃。
こいつに負けるのだけは、ハカイダー自身が認めなかった。
ハカイダーの喉が破れんとばかりに咆哮が轟く。
緑色の巨大な刃はひびが広がり、砕け散った。
中心にいたハカイダーは全身を刻まれながらも、
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ば、馬鹿な……ぐぅっ!?」
拳をゼロの額に届かせた。
□
(ああ、そうか)
自分が勝ったと確信した瞬間、ハカイダーの視界が暗転して何も映さなくなる。
無理をしたのだ。しばらくは動けまい。
(ようやく……分かった。キカイダーのなにが、キカイダーとなすのかを……)
よくある答えだが、ハカイダーには最期の最期まで気づけなかったもの。
それは心だ。
ごく当たり前なそれを、今まで考えもしなかった。何より、キカイダーはともかく自分に心があるとは考えもしていない。
しかし、戦い、悦び、そして意地を張る自分こそ心が存在するものだと認識した瞬間、ハカイダーに答えが満ちる。
キカイダーの信念を宿した心に、ハカイダーは惹かれていたのだ。
自分が決して手に入らないもの。それをもっていたキカイダーだからこそ、ハカイダーは拘ったのだ。
それは凱もゼロも仮面ライダー達も持っていた。
ハカイダーがキカイダーに拘ったのは、そいつを持った者で最初に出会い、拳を交わした相手だからか。
(いや、それ以上に俺は……お前に……――――かっただけ……かもな……。キカイダー……キカイダー……)
胸を焦がす想いは、口から漏れず。
呟きながらもキカイダーの影を求めて、手を伸ばす。空を切ったその手を最後に、ハカイダーの思考が止まった。
一度目の死とは違って、答えを見つけた満足感に満ちたハカイダーは気づかない。
それが二度目の死であることに。
□
武美は暗闇が広がる中にポツン、と立っていた。周囲には星のように光が点在している。
地面がないようなどことも分からない場所。ここはゼロの心の中だった。
「ここがゼロの中なのか?」
「多分そう。周りがこんななのは、あたしがイメージしやすい風景に変えているだけ」
ちょっとした遊び心だよ、と現実世界ではアダプターに変身しているだろう金色ネズミに告げる。
ウフコックは感心したように大きくため息を吐いた。
「武美は凄いな」
「ありがとう。大神グループにとっては失敗作だけどね」
「これほどの能力の有用性を分からないとは……」
呆れるウフコックをよそに、武美はさらに歩みを進める。
ハカイダーがあの技を破り、ゼロを殴り飛ばし大きなダメージを与えた。
現実世界ではゼロを本郷とイーグリードが組み伏せて抑えている。
もしその拘束が解けて武美たちに刃を振るものなら、一貫の終わりだ。
「早く本物のゼロを探そうっか。ウフコック」
「了解だ。鼻でゼロの心を探す。指示に従ってくれ」
了解、と武美は返して闇の中を進んだ。
「この光の中だ」
「ふーん。一番古い記憶か……」
光り輝く星の一つに、ウフコックが鼻でゼロを見つけたらしい。
武美の能力を使って中身を確認すると、ただの古い記憶以外に情報はない。
武美が入り込むと、一気に景色が変わった。
「ここがゼロの一番古い記憶か……宇宙戦略研究所の実験室を思い出す」
「あたしも似たようなところにいたけどさ」
武美は苦笑を浮かべながら、脚を進めた。知らないロボットの残骸が目にはいる。
これが古い記憶とは、どれほどバイオレンスな過去をもっているのだろうか?
「武美、止まるんだ」
「いたの?」
「ああ。出て来るんだ、ゼロ。俺たちは敵じゃない」
ウフコックの言葉により、全然気配を感じなかった暗闇から赤いアーマーを着た金髪の青年が浮かび上がる。
武美は内心驚きながらも、平静さを装って話しかけた。
「あなたがゼロ……さん?」
「その通りだ。よくこれたな……」
「それってどういう……」
意味なのか問おうとした瞬間、部屋に爆炎があがる。武美が振り返ると、紫色のアーマーを着たゼロがいた。
武美が戸惑う中、ウフコックが冷静に解説を始める。
「落ち着け、武美! そいつは凶暴なほうのゼロだ! こっちのゼロとは違う匂いがするから、あえて避けていたんだ」
「そ、そういうことは早くいってよ!」
「こっちだ、こい!」
ゼロの導きで武美たちは離れて、後ろで暴れるもう一人のゼロに振り返る。
もう一人のゼロはこれ以上侵入できないらしく、忌々しげにこちらを見つめていた。
武美はゼロに引かれるままに任せた。
「しばらくは無事だ。その間にやって欲しいことがある」
「え?」
一息を吐いた時に、ゼロが急に切り出してきた。
真剣でとても断れる雰囲気ではない。武美はゼロの次の言葉を待った。
「俺を殺してくれ。ここまで来た君の力なら出来るはずだ」
ゼロの言葉に、武美は目を見開く。今なんといったのだろうか?
ゼロから出た言葉を噛み砕けなくて武美は少しの間、思考停止をした。
「奴が俺を殺せず、屈しようとしているのは理由がある。俺と奴は一心同体。
俺が死ねば奴も死ぬ。だが、俺の手で俺が死ぬことはなかった……」
「だから……あたしに殺してっていっているの?」
「その通りだ。今の俺に奴を止める手段はない。君が持ってきたワクチンプログラムをもってしても、奴を消すことは出来ない。
そいつを持ってきたイーグリードや君は悪いが……俺を殺してすべては終わりだ。頼む、時間がない」
ゼロの真摯な表情から、彼の言葉が真剣なのが分かった。
武美の頭の中でさまざまな言葉が駆け巡る。別にゼロが死ぬのは構わない。
それで本郷たちが助かるのなら。だが、頭のどこかでその行動を否定していた。
浮かび上がるのはエックスの鬼の瞳。そいつを思い出した瞬間、武美の顔に怒りが溢れて声が喉元まで昇ってきた。
「ふざけ……」
「悪いが、自殺のために武美の力を使わせるわけにはいかない。断らせてもらう」
その武美の声を代弁するように、ウフコックの冷静な声が研究所に響いた。
声色には確かに怒りが滲んでいる。今の彼は煮え切らないまま【ウフコック】でなかった。
「だが、あいつは次々領地を俺から奪っていく。俺まで奴に取り込まれればそれで終わりだ!」
「だからといって武美に君を殺すことを頼むのか? 俺は認めない」
ウフコックは珍しく憤慨していた。説教するつもりはない。
ゼロが抵抗を諦めているのも怒りを覚えるが、もっとも許せないことがある。
「なにを迷う。俺はフランシーヌを殺して、いま本郷猛という風見や神の先輩を殺そうとしている。
一刻も早く止めることこそ、君や俺が取れる最良の手段だ」
「いいや、最悪の選択肢だ。現状に対してじゃない。彼女にとってだ」
ウフコックは頑としてゼロの言葉を否定する。
ゼロの幾多の戦場を潜り抜けた力強い視線を真っ直ぐ受け止め、赤いつぶらの瞳に力をこめた。
潜り抜けた修羅場の多さはウフコックだって負けていないのだから。
「彼女はエックスに襲われた」
「……ッ!? そうか」
「別にそのことで君を責める気はない。エックスがとった行動と、君に関しては何の因果関係もないからな。
知って欲しいのは、エックスの行動で武美が憎悪を抱いた結果だけだ」
ウフコックの言葉にゼロが目を見張る。他人の心情をずけずけ話すのは心苦しい。
それでも黙っていられない。黙っちゃいけない。
ここで言わなければ、ウフコックが武美についてきた意味がない。
「俺は彼女に、エックスに関する感情への決着を着けさせることへ賛成してここに来た。
だからこそ、君を武美が殺す結末は認められない。彼女がここで着ける決着は、俺が持てる力を持って幸せな結末にする義務があるからだ。
それが……俺がクロから、草薙さんから与えられた委任事件担当捜査官としての任務だ」
お前も意地を見せろ。饒舌に喋って、最後の言葉だけは瞳にこめた。
ゼロは一度だけ目を伏せて、武美に視線を向ける。もうウフコックに告げる言葉はなかった。
「俺は…………」
「あたしは風来坊さんにいったことがある。正しい生き方をしている人間なんて、そんなにいないって」
ゼロがまだ迷いを示していると、武美が話しかけてきた。
風来坊とは彼女の大切な相手だろうか? 発音が少しだけ優しくなっていた。
「けど、風来坊さんはそのことを受け止めていた。きっとあの人も正しく生きれなかったことがあると思う。
……そうだったらいいな、っていうあたしの願望かもしれないけど」
武美の声は穏やかなままで、ゼロの胸元を急に掴んだ。
武美の瞳が鋭くなり、ゼロの顔を正面から除きこむ。
「あたしがここにきた理由はきっと正しくない。なにを犠牲にしても、あたしはこれ以上仲間を失わない覚悟がある。
あんたを殺すことで本郷さんやソルティが助かるなら、最後はそうする。けど、それじゃあたしが役に立ったことにはならない。
だから戻ってよ! あたしに本郷さんたちの役に立たせて!!」
武美の叱咤を耳に、ゼロは脱力した。頭の中に響く武美の言葉。
正しい生き方をしている人間なんて、そんなにいない。ゼロの生まれは正しくないといえる。
だからこそ、ゼロは今までの自分を含めて否定をしていた。
(ああ、そうか……)
ゼロの脚に血塗れのエックスが絡みつく。幻影だ。武美やウフコックには見えない。
親友を殺したという罪から、ゼロは逃れたがっていたのだとやっと自覚できた。
その罪の意識があるから、もう一人の自分に勝てなかったのだ。いや、勝とうとしなかった。
「すまない、エックス。俺は前に進む」
瞬間、エックスの幻影は消える。逃れられたわけではない。
エックスを殺した罪は一生向き合いながら生きていかねばならないのだから。
武美に意思を伝えるため真っ直ぐ向けられる視線を受け止め、正面から頷き返す。
武美はすべてを悟ったように、光り輝くワクチンプログラムを差し出した。
「戦って、自分を取り戻して」
「そうする」
ゼロにもう迷いはない。武美のワクチンプログラムを手にして、踵を返した。
傷だらけの研究室に紫色のアーマーを着るゼロが現れる。そのもう一人の自分を前に、ゼロは静かに拳を前に構えた。
自分の姿を見て、もう一人のゼロが笑みを浮かべる。
自分を吸収し、一つになることへ悦びを示しているのだろう。
「ハハッ、ようやく覚悟を決めたか!」
凶暴な笑みを浮かべたもう一人のゼロがセイバーを掲げて、ゼロへと迫る。
もう一人のゼロの刃の軌道を冷静に見極め、ゼロは拳を振るった。
「こんな拳など、俺たちに効かな……なッ!?」
もう一人のゼロが拳を左胸に受け、盛大に転がって壁にぶつかる。
予想外の攻撃に目を剥くもう一人の自分に、ゼロはゆっくりと近づく。
「こ……こいつは?」
「ワクチンウィルスだ。こいつがあればお前もひとたまりもない」
「チィッ! だがお前に俺は殺せない! お前は俺なんだからなッ!」
もう一人のゼロが吼え、がむしゃらにセイバーを振り回した。
ゼロはその攻撃に怯えない。振り下ろす右手を受け止め、閃光が起きてもう一人のゼロの右腕が完全に消失する。
「な、なにをしたッ!?」
「簡単なことだ。お前がしようとしたことを、俺がしたまでだ」
「なんだと? 俺を取り込む気か!?」
「いや、そもそもお前を否定しようとしたのが間違いなんだ」
「捻じ伏せられただと……? そんな馬鹿な」
ゼロはもう一人の自分の左手を重ね、同化させていく。
もう一人の自分が恐怖を示すが、脚も吸収し終えていた。
「くるなッ!」
「俺を否定するな! 俺たちは一つなんだ。一つにならないといけないんだ。
暴力的な使命を持って生まれた俺と、イレギュラーハンターとしてエックスと共に生きた俺は別れちゃいけなかったんだ!
エックスを殺す使命を持っても、俺はハカイダーのようには生きれなかった!」
自分の告げた言葉と共に、ゼロはなぜハカイダーを更生させようと自分が行動したか理解する。
自分の生まれを記憶でなく、本能で知るゼロはハカイダーが自分と同じ使命を持って生まれたのを感じていたのだ。
だからこそ凶暴性を秘めた自分を否定したく、ハカイダーに更生の道を示そうとした。
凱のように誰かを重ねたわけではない。自分の悪を重ねたのだ。
今だから分かる。その感情は否定するべきものじゃないと。
「や、やめ……」
「逃げるなッ! あいつと過ごした俺もまた、お前なんだ! お前と俺にハカイダーのように誇り高く生きることは出来なかった。
その代わりエックスと、多くの仲間と共に戦い続けた誇りがある! 俺たちはそれを胸に生きていくべきだ!」
「誇りを……胸に……」
ゼロの言葉がもう一人の自分に浸透する。声が届いたのか、もう足掻くことはない。
穏やかな気持ちになる中、ゼロはもう一人の自分に告げた。
「一つに戻ろう、ゼロ(おれ)」
その言葉は、もはやどちらのゼロが告げたのか判別つかなくなっていた。
ゼロの視界が光に満ちて、やがて彩を取り戻した。
□
偽の月が覗く、穴が開いた天井を見つめてゼロの意識が覚醒した。
風を肌に感じ、焼け焦げた匂いが鼻をつく。現実世界に戻ったのか。
ゼロはそう認識して上半身を起こした。
ライダースーツを着た本郷が確かめるように顔を覗き、ゼロは頷いた。
イーグリードがいつもと変わらず、笑みを浮かべてゼロを見下ろしている。
「目を覚ましたか」
「相変わらず心配をかける奴だ、お前は」
「すまない、イーグリード」
「気にするな」
「はー、疲れた。もう二度と暴れないでよ、ゼロさん」
「同感だ。俺も他人の心に入るのはこれで最後にしたい」
現実世界に戻ったのだろう。ゼロと近い位置で武美とウフコックが笑みを返している。
ゼロはすまない、と目を伏せて礼を言った。フランシーヌはこの場にいない。
ゼロ自身の手で殺したのだから。ソルティという子は本郷の傍で寝息をたてている。
雷神撃の電撃は彼女に深いダメージを与えたのだろうか。目を覚ましたら、許してもらえるとは思わないが謝罪をしなければ。
「そういえばハカイダーはどうした? 奴にまた借りが出来てしまった」
「ゼロ……ハカイダーは……」
イーグリードが言いよどみ、ゼロは呆気にとられた。あの男が死ぬなど考えられなかったからだ。
本当がどうか確かめようとゼロが立ち上がったとき、瓦礫が破裂した。
全員が驚く中、立ち上がる影がある。
「ハカイダー!」
生きていたか。ゼロが安堵の笑みを浮かべる。本郷たちも生存を確認したのか、笑顔が広がっていった。
ゼロが礼を言うために、多少癪ながらも近づく。すると、ハカイダーが振り向いた。
「キ……カイダー……キカ……イダー……倒す……」
瞬間、ゼロたちの笑顔が凍りつき、足が止まる。目の前のそれはハカイダーであって、ハカイダーではなかったからだ。
ハカイダーは装甲が剥がれ回路がむき出し。右腕は切られて隻腕となり、また残った左腕も拳が破裂してコードを垂らしている。
左太ももから先はなく、右足も機能していないのか引きずっていた。
仮面は剥がれ、カメラアイがそのままゼロの顔を覗く。
「キカイ……ダー……倒……す……」
もはや視界に入るものはすべて、キカイダーと認識しているらしい。
メイン回路と思わしき箇所を破壊されながらも、キカイダーを求め戦おうと必死に足掻いている。
凄まじい執念。しかし、ゼロはそれを執念だけとは思わない。
「ゼロ……もう眠らせてやろう」
本郷がゼロにそう告げて前に出ようとした。本郷の優しさからだろう。
ゼロの罪の意識を軽くするため、これ以上殺させないと汚れ役を買って出たのだ。
その本郷をゼロは腕で制した。
「いや、俺がやる。……やらせてくれ」
ゼロは懇願して、一度の跳躍でハカイダーの眼前に立った。
ハカイダーは半壊しながらも、拳をゼロへと打ち込んでくる。
まったく力の入らない拳。それがかつてのハカイダーの姿を重ねるゼロには辛かった。
「キカイ……ダー、キ……カイダー」
「ハカイダー。俺はお前と同じ使命を受けてこの世に生まれた。だが、俺にお前のようには生きれない」
「キカイ……イダー……。……カイダー」
ノイズ交じりにキカイダーを求めるハカイダーを前に、ゼロは敬意を表してカーネルのセイバーを起動した。
何度も殴りつけるハカイダーの拳が悲しい。その原因は自分だ。罪から逃げてはならない。
「だからこそ、お前が望んだ道をいく。俺は迷わない。それが殺した者達への誓いだ」
だから地獄で自分を待っていろ。ゼロはそう心の中で呟いて、ハカイダーの胸の中央を貫いて動力炉を破壊した。
ハカイダーが機能を停止して、崩れ落ちる。ゼロはハカイダーを抱きとめて、結局道が交わることのない相手だと心で理解した。
ゆえに敬意を込めて、ゼロは血塗れの指先でその男の名を読んだ。
【D-3 シャトル基地内部/二日目・黎明】
【ゼロ@ロックマンX】
[状態]:健康、T-800を敵視。ハカイダーとフランシーヌを殺したことを後悔。
[装備]:チャージキックの武器チップ@ロックマンシリーズ、カーネルのセイバー@ロックマンX4
[道具]:支給品一式、PDA(ゼロ)、空っぽの平凡なデイバッグ@ゴミ処理場、サイクロン号@仮面ライダーSPIRITS
謎の金属片(マルチの残骸から回収)
[思考・状況]
基本:シグマを倒す。イレギュラーに容赦はしない。
1:ハカイダーと同じ道を歩まない。彼が望んだゼロの道を行く。
2:凱を殺したボブ(T-800)を最大の敵と認識。
3:ドラスと合流。
4:メガトロン、グレイ・フォックス、ボブ(T-800)は警戒。
5:シグマ、何を企んでる?
6:イーグリードがなぜここにいるのか、問い詰める。
[備考]
※覚醒した影響でゼットバスターが使えるようになりました。
ただし、覚醒時より威力は低いです。
※真・滅閃光、真月輪、幻夢零は覚醒時のみ使える技のため、現在使えません。
【本郷猛@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労中、ダメージ大、胸部に包帯。応急処置済み。破損は生命の水により回復(ただし、しろがね化はまだしていない)。
爆弾解除。フランシーヌを守れなかったことによる後悔。
[装備]:白いカラス(全体に焦げ跡あり)@人造人間キカイダー
[道具]:支給品一式、トマト×97@THEビッグオー、謎の金属片(外装解除。解析は八割程度)、
PDA(グレイ・フォックス、ドロシー、草薙素子、ドラ・ザ・キッド)×4。
ロジャー・スミスの腕時計@THEビッグオー、ブルースシールド@ロックマン、ジローのギター@人造人間キカイダー
虹(ドクターケイトの毒が染み込んでいる)@クロノトリガー、ライドル@仮面ライダーSPIRITS、ラブラブビッグバンの音楽ファイル@パワポケシリーズ
[思考・状況]
基本思考:殺し合いには乗らない、打倒主催。
1:ミーとT-800と合流。
2:武美の寿命タイマーをどうにかする。
3:コロンビーヌにフランシーヌ人形のことを伝える。
4:パンタローネを倒した者を見つけ出し、この手で倒す。
5:シグマに関する情報を集めたい。『ラブラブビックバン』のファイルを解析する。
6:イーグリードの素性を尋ねる。
7:放送がないのに疑問
[備考]
※原作8巻(第32話 称号)から参戦。
※コロンビーヌの格好を旧式のものと勘違いしています。
※シグマは新兵器を作るために、自分たちのデータを収集していると推察しています。
※武美とは、一エリア以内なら通信が取れます。
※T-800への疑いが解けました。
※爆弾を解除するのに、一時間は必要です。
ただし、同時進行や武美の助けを借りれば、ある程度時間を短縮することも可能です。
また、手術跡の再生のため、生身部分のある人ははさらに一時間を回復ポッドで過ごす必要があります。
【ソルティ・レヴァント@SoltyRei】
[状態]:全身にダメージ(中)。疲労(中)。気絶中。爆弾解除
[装備]:なし。
[道具]:支給品一式、PDA×2(ソルティ、神 敬介)、ToHeartの制服@ToHeart スラッシュクローの武器チップ@ロックマン
紫の仮面@現実、K&S Model 501(7/10)@SoltyRei、予備弾各50発、LUCKの剣@ジョジョの奇妙な冒険
ミラクルショット@クロノトリガー、ガイアアーマー@ロックマンX5
[思考・状況]
基本思考:壊し合いに乗っていない参加者を守り、シグマを倒す
1:フランシーヌたちを守る。
2:武美を守る。
3:ロイさんやローズさんの元に帰りたい。
4:放送がないのに疑問
[備考]
※参戦時期はアニメ10話~11話です。
※戦い自体への迷いは消えましたが、相手を躊躇なく殺せるまでには至っていません。
※気絶のため、すべての思考が気絶前のままです。
気絶状態を回復するには、修理が必要になります。
【広川武美@パワポケシリーズ】
[状態]:健康。爆弾解除
[装備]:ウフコック@マルドゥックシリーズ
[道具]:PDA(武美、クロ)×2、ランダムアイテム0~1
アポロマグナム@仮面ライダーSPIRITS(弾切れ、発電所内にクロの右手と共に放置)、風船いかだ
[思考・状況]
基本思考:絶対に生き残り、ここから脱出する。
1:ミーとT-800と合流。
2:シグマの居場所を探る。シャトルの行き先を変更できるように干渉する。
3:軍事基地に行く機会があったら行ってみる。
4:元の世界のあの人のところに戻って、残り少ない人生を謳歌する。
5:イーグリードの素性を尋ねる。
6:放送がないのに疑問
[備考]
※A-1・軍事基地に『何か』があると考えています。
※本郷とは、一エリア以内なら通信が取れます。
※爆弾を解除する手順を、半分くらい理解しました。その技術を持ってエックスを殺す計画を立てています。
※ウフコックは、ターンした物を切り離すこと(反転変身【ターンオーバー】)が出来なくなっています。
※ウフコックの参戦時期は、ボイルド死亡後です。
【イーグリード@ロックマンX】
[状態]:全身にダメージ(中)。疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:PDA(イーグリード用通信強化Ver。ラミア)、サブタンク(満タン)×2@ロックマンX
[思考・状況]
基本:バトルロワイアルの真実を伝える。
1:皆にバトルロワイアルの真実を伝える。
2:シグマの自殺を止める。
3:来る途中で見た少女二人を助けに戻る。
【共通事項】
※サイドマシーン@人造人間キカイダー、ゼロバスター(半壊。使用不可能)@ロックマンX
ハカイダーのPDA(支給品一式)、風見志郎のPDA(支給品一式)、バタフライナイフ(刃がボロボロ)@現地調達
スズキ・GSX750S3 KATANA@仮面ライダーSPIRITSがD-3シャトル基地の一室で瓦礫の中に埋もれています。
&color(red){【フランシーヌ人形@からくりサーカス:破壊確認】}
&color(red){【ハカイダー@人造人間キカイダー:破壊確認】}
&color(red){【残り10体】}
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