「受け継がれる魂」(2010/02/28 (日) 22:33:21) の最新版変更点
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**受け継がれる魂 ◆9DPBcJuJ5Q
とある世界、とある時代の日本。
日本は、世界征服を企む悪の秘密結社『BADAN』と、仮面ライダーとその支援組織であるSPIRITSによる熾烈な戦いの最中にあった。
全世界への同時攻撃から数ヵ月後に、BADANは突如として日本に進軍し、事実上日本の全土を支配下に置いたのだ。
しかし、それに抗う力も存在した。それこそが、BADANより以前に存在した11の組織を壊滅せしめた、人類の自由と平和を求めて戦う仮面の戦士、仮面ライダーである。
仮面ライダーとBADANの戦いは、北海道の下位組織『ネオショッカー』をスカイライダーが撃破したのを皮切りに、続く仮面ライダー2号が近畿地方の下位組織『ゲルショッカー』を撃破し、徐々に仮面ライダーと人類が盛り返し、反逆の機運が高まっていった。
だが、四国での決戦から戦況は一変した。
四国で画策された大首領復活作戦は仮面ライダーV3と仮面ライダーZXの活躍によって阻止されたものの、その2人が帰ってくることは無かった。
命と引き換えの最後の技、火柱キックを放ったV3は死亡したと見做され、BADANの転移魔法陣に飛び込んだZXもまた消息不明のままとなっていた。
V3とZXの活躍により大首領の復活は阻止され、Xライダーの奮戦もあり四国地方と中国地方がBADANの支配から脱したものの、彼らが消失した影響は多大だった。
2人の仮面ライダーの死に、残る8人の仮面ライダーは戦いの中にも嘆かずにはいられず、立花藤兵衛や一条ルミら仮面ライダーの支援者達は悲しみに暮れた。またSPIRITS内部では大幅の士気の低下が、特に第10分隊で顕著に見られた。
そして、2人の仮面ライダーの消失が齎した影響は、それだけでは留まらなかった。
▽
「ぐっ……ガ、ハ…………」
変身も保てなくなり、人間の姿のまま、胸部から内部の機械部品を露出させながら、1人の男が富士の樹海をさ迷い歩いていた。
男の名は城茂、又の名を仮面ライダーストロンガー。
仮面ライダーの中でも屈指の実力者として一目置かれているこの男が、息も絶え絶えのボロボロの姿であることには、多くの者が瞠目を禁じえないだろう。
仮面ライダーの中でもアマゾンと同じかそれ以上に血気に溢れ、本郷猛にも劣らぬほどの気迫を漲らせる男が、変身すら維持できていないほどの重傷を負っているのだから。
「へ……ざまぁ…………ねぇ、よなぁ……」
呟きながら、遂に茂は膝を折り、木に背中を預けてその場に座り込んだ。
茂に重傷を負わせた張本人は、BADANによって再生されたブラックサタンの再生怪人。テントウムシをモチーフに、ストロンガーと同時期に作られた奇械人。
その名は、電波人間タックル。かつての茂の相棒であり、パートナーであり、唯一愛した女性――岬ユリ子の改造人間としての姿だった。
再生タックルとの戦いを思い出し、茂は堪えきれず苦笑を漏らす。
「へへ……。ホントによぉ……俺も、ヤキが回ったもんだぜ…………お前に、なら……倒されても……いいか、なんてよぉ……」
ストロンガーはタックルと対峙し、電波投げをものともせず間合いを詰め、片手でその首を締め上げた。だが、その時に仮面の下に覗いた顔を、岬ユリ子の目を見た時、茂は動けなくなってしまった。
そして、その隙にタックルの捨て身の技、ウルトラサイクロンを受けてしまい――御覧の有様、ということだ。
「探せぇ! ストロンガーはまだ近くにいるはずだ!! 探し出して確実に息の根を止めろ!!」
すると、そう遠くない距離から聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえてきた。どうやら、感傷に浸っている暇は無いようだ……が、どうやら、もう動くことさえもできないらしい。
「ちっ……この、俺としたことが……こんな、ところで……!」
終わるのか、と、続く声はなかった。
何故なら、目の前に奇械人が現れてしまったのだから。
「ち、ぃぃ……!」
真夜中の森林であることに加えて、ダメージが五感全てを鈍らせている。この状況では、敵を視認することすら出来ない。
茂は知る由も無いが、本来の歴史ならばここに風見と立花の2人が間一髪のところに駆けつけてくれた。
だが、歴史は変わってしまった。彼らが駆けつけてくれることは、決してありえないのだ。
ここまでか、と思った、直後だ。
不意に、横合いからバイクの排気音が聞こえてきた。
▽
時間は、少し巻き戻る。
▽
今や無人と化した富士の自衛隊演習場の一角で異変が起きていた。
その異変というのが、驚くべきことではあるのだがそれ以上に珍妙なもので、施設の一角が民家――写真館に入れ替わっている、という怪奇現象だった。
もしもこの自衛隊基地が放棄されていなければ、多くの隊員が「バダンの仕業か」と慌てふためいたことだろう。
やがて、その写真館から4人の人影が現れた。3人の男性と1人の女性だ。
彼らは自分達の置かれている状況を数分で大体理解すると、外の状況を確かめるために1人は基地の車を拝借して、残る3人はそれぞれバイクに跨って移動を開始した。
外に出て、彼らはすぐに大規模な戦闘の気配を察知し、バイクに乗って移動している3人は現場へと急行し、残る1人は自分だけ距離を置いて状況を傍観していた。
やがて一行の前に、倒れ込んで動こうとしない男性とそれに襲い掛からんとする怪人を発見した。
バイクを運転する2人は視線を交錯させて頷き合うと、女性を後ろに乗せている男は一旦その場にバイクを停車させ、もう1人の男はある言葉を叫びながら怪人に突撃した。
「変身!!」
怪人に己の愛車――トライチェイサーを激突させ、己の身体を異形へと姿を変えた男は怪人を男性の傍から弾き飛ばした。
それを確認するとすぐにバイクを停め、赤い異形の戦士は男性へと駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
呼びかけられた男性は答えず、ただ驚愕に目を見開いていた。
「お、お前……何者だ!?」
「俺ですか? 俺達は――」
「おっと、その台詞はまだお前にゃ早いぜ、ユウスケ」
すると、ユウスケと呼ばれた赤い異形――否、赤い鎧と赤い複眼の仮面の戦士に、腰にはベルトを巻き、右手には何かのカードを持っている男が歩み寄った。
同時に、別の方向からも敵が来た事を、男性――城茂は察知した。
「ここにいたか、城茂!――って、な、なんだ貴様は!?」
茂を追い詰めていたブラックサタン幹部のデッドライオンは、予想外の状況に狼狽した。
当然だろう。彼の考えでは、そこにいるのは城茂だけのはずだったのだ。しかし、実際にはそこにいたのは城茂と、そして――
「き、貴様! まさか、新しい仮面ライダーか!?」
――未知の赤い仮面ライダーと、その傍らには行方不明となった村雨と同じ服装で腰にはベルトを巻いている男がいたのだから。
デッドライオンの狼狽振りを見てか、カードを持っていた男が、ふっ、と笑った。
「その通り。俺達は通りすがりの仮面ライダーだ。覚えとけ」
言うと同時に、男はカードをベルトにスライドさせる。
――KAMEN RIDE――
「変身!」
――DECADE!――
ベルトからの電子音声が止むと同時に現れたのは、顔面に幾つもの縦線が入った奇怪な面貌の――――仮面ライダーだった。
彼らの名は門矢士、そして小野寺ユウスケ。又の名を仮面ライダーディケイド、そして仮面ライダークウガ。
更に、茂に駆け寄り肩を貸してこの場から離脱しようとしている女性は光夏海。又の名を夏ミカン。
そして、遠くから状況を見守るバイクの無い仮面ライダーは、自称怪盗の海東大樹。又の名を仮面ライダーディエンド。
本来の歴史ならばありえぬ、新たな3人の仮面ライダーがこの世界に現れたのだ。
そして、これは『この世界』に限った話ではなかった。
▽
BADANとの激戦の最中、突如として行方を晦ましてしまった本郷猛――仮面ライダー1号。
仮面ライダーのリーダーであり、他の後輩たちの精神的な支えでもあった彼の謎の失踪は後輩ライダーたちに大きな影響を与えていた。
なにより悪影響が現れているのは、彼が守っていた関東地方、特に東京だ。
東京は地獄大使率いるBADANの下位組織『ショッカー』の進攻に対して成す術が無くなりつつあった。SPIRITS第1分隊も仮面ライダー1号を欠いた状況では、なんとか防戦一方で自らの身を守るのが精一杯であった。
故に、ショッカー戦闘員や怪人が街を襲い、人々を攫って行っても、それを阻める者は誰もいなくなっていた。
僅かでも抵抗する者は容赦なく殺され、抵抗しない者も拉致されて洗脳されるか改造手術を受けるかの選択肢しかなかった。
絶望が、首都・東京を包んでいた。
そして今日も、怪人が街に現れ、人々を攫おうとしていた。
「やめろぉ、カイジン! お父さんをかえせ!!」
「ひ、ヒロシ……だめだ、浅生くんと一緒に逃げるんだ……!」
怪人・蜂女に捕まった父親を助けようと、少年が蜂女に石を投げつけ、その前に立ち塞がった。
「ギ」
だが、怪人と人間の子供の間にある差は天地の開きよりも絶大であり、圧倒的だ。
蜂女は抵抗する少年を今迄の人間と同じように、蹴りの一撃で屠ろうとした。
「危ない!」
しかし、その蹴りが少年に届くよりも先に、どこからか現れた男が少年に飛びつき、その危機から救った。
「君、大丈夫かい」
男は起き上がると、すぐに少年の安否を気遣った。幸いにして、少年に目に見えるような外傷はないようだ。
「う、うん。……ねぇ、オジさん」
「なんだい?」
少年が無事だったことに安堵しつつも、男は少年の暗い表情と声色に弛緩しかかっていた緊張を取り戻した。
「どうして? どうして仮面ライダーは来てくれないの? 今までは、ずっと僕らを助けてくれたのに……」
言いながら、少年は目に涙を浮かべ、遂に声を殺して泣き出してしまった。
それを見た周りの人間達は誰もが何も言えず、ただ俯くだけだった。
自分達を傷付きながらもたった1人で守り、戦い続けてくれていた戦士は、もういないのだと、誰もが諦め、絶望していた。
だが、少年を助けた男だけは違った。
彼の目からも、顔からも、希望は何一つとして失われていない。
「大丈夫だよ。仮面ライダーは絶対に来る。……そうだ。仮面ライダーがこの世界にいる限り、悪に生きる道など無い」
言うや否や、男は背後に迫っていた蜂女に裏拳を叩き込み、怯んだ隙に少年の父親を助け出し、たたらを踏ませて後退させた。
「ギギィ……!?」
これを見て、誰もが我が目を疑った。怪人に殴りかかり、あまつさえダメージを与えられる人間がいるとは思わなかったのだ。
……いや、たった一つだけ例外となる存在を、彼らは知っている。
まさか、と、誰かが呟いた。
それに応えるかのように、男は体勢を立て直した蜂女とどこからか沸いて出てきたショッカー戦闘員の前に仁王立ちし、数の不利に寸毫も怯まずに睨み付けた。
「おのれ大ショッカー。俺がこの世界を離れている隙に侵略しているとは、なんて汚い真似を! だが、この俺が戻って来たからには、もうこれ以上……貴様らの好きにはさせない!!」
男は怒りのままに啖呵を切り、そして構えを取った。
その動きは、他のどのライダーとも違えども、紛れもなく――“スイッチ”を入れる動作に相違ない。
「変んん――――――身ッ!」
叫ぶと同時、男――南光太郎の身体は腰に現れた変身ベルト【サンライザー】から放たれた奇跡の光によって、人間とは異なる姿に変わっていた。
それを見守っていた人々は、一瞬だけ息を呑んで――すぐに歓喜の声を力一杯叫んだ。
自分達の知る戦士の姿とは違うが、あの黒と緑の身体に、赤い複眼は……彼の姿と、そして先程語られた志は間違いない!
仮面ライダーに間違いないのだ!!
「俺は太陽の子! 仮面ライダーBLACK! RX!!」
この日、本来の歴史では決して現れることのなかった黒い太陽が、日本を覆う暗闇を切り裂き、光を齎す為に現れた。
些細な勘違いも、その内解けることだろう。
▽
これら2つの世界の他にも、奇跡が起きていた。
城茂がいなくなった世界には、まるで彼を継ぐかのように赤い兜の仮面ライダー――天の道を往き総てを司る男が現れた。
神敬介がいなくなった世界には、青い戦神の仮面ライダーと紫の騎士の仮面ライダーが現れた。
喩え1つの仮面が失われることになろうとも、それを補うように、支えるように、新たな魂が現れ、その仮面を受け継いでいく。
仮面ライダーの魂は、永遠に不滅なのだ。
▽
自らの修復を終えた茂はカブトローを呼び寄せ、戦場へ――自分が攻め落とすべき黒いピラミッドの鎮座するブラックサタンの根城と化した、自衛隊演習場へと向かった。
最早自己修復も不可能、自分自身でも自らの生を殆ど諦めていた茂が此処に立っていられるのは、運命の皮肉によるものだ。
その運命を仔細に語ることはしない。
今、ここで語るべきことは――受け継がれていく仮面ライダーの魂のみ。
「よっ。遅れちまったな、後輩」
黒いピラミッドの間近まで着くと、茂は気の抜けた声で2人の後輩に声を掛けた。
それも当然だろう。なにしろ後輩の2人ともが健在で、周囲にはブラックサタンの奇械人の残骸が屑鉄のように転がっているのだ。あの雷の牽制をしながら尚もこの戦果だ、茂であっても驚嘆に値することだ。
しかも、後輩の内の1人、仮面ライダークウガの小野寺ユウスケは茂を庇って雷の直撃を受けたにも拘らず、茂が復活の準備をしている横で何の処置も受けずに先んじて復活して、茂にエールを送るとすぐに門矢士の後を追って戦場へ向かったのだ。
茂は、ユウスケは病み上がりの身体で無理して笑ってまで自分を励ましたのだと考え、痛む体と心に鞭打ってやって来たのだが……実際は、どうにも絶好調に見えるとはどういうことだ。どこの不死身の超人だこのヤロウ。
「茂先輩! 来てくれたんですね!!」
「真打は遅れて登場、ってことか?」
今もこうして、仮面の上からでも喜んでいるのが分かるような、元気のいい声を聞かせてくる。ディケイドも、中々どうして気の利いたことを言ってくれる。
ああ、まったく……こうなっちまったら、先輩が無様を見せ続けるわけにはいかないよなぁ!
「甦ったか、ストロンガー」
すると、遥かピラミッドの頂上から聞き覚えのある――決して忘れられない声が聞こえてきた。
確かめるまでもない。この距離からでも分かる。
物言わぬ抜け殻と化した百目タイタンの奥にいる、あの白い魔人の名は――ジェネラルシャドウ。
「おうよ。地獄から這い上がってきたぜ、ジェネラルシャドウ。なんせ、てめぇらをぶっ潰すのは俺専門の仕事なんだからよう」
言いながら、茂はバイクに跨ったまま両手のグローブを脱ぎ捨て、変身の構えを取る。
すると、それを見てジェネラルシャドウは歓喜と狂気の笑みを浮かべた。
「ククク……それでこそ、我が宿敵!!」
そう言ってジェネラルシャドウは、トランプフェイド、と呟き姿を消した。
これ以上は見るまでもない、ということか?
そうだとしたら、そうだよなぁ。
「当然だよなぁ。なんせ、これから俺が……俺達が! 楽勝で勝つんだからよぉ!!」
吼えるように叫び、SPIRITS第6分隊と2人の後輩の援護を受けながら、茂は変身の動作を行い、スイッチを入れた。
「変身――STRONGERRR!!」
眩い雷光を放ち、その中に2つの幻影を見せながら、ここに正義の戦士、仮面ライダーストロンガーは復活した。
▽
ド派手な、初対面時の悲痛さも悲愴さも感じさせない見事な変身に、ディケイド――門矢士は思わず息を呑んだ。
これが、『栄光の7人ライダー』の末席に名を連ねる仮面ライダー、ストロンガー。
成る程、確かに先輩と呼ぶに相応しい男だと、士の平素を知る者からすれば驚くほど殊勝な思考と同時に、新たな仮面ライダーのカードが現れた。
無論、現れたのは言うまでもなく――。
「……成る程、ね。大体分かった。だが、そうなると――この格好じゃ不釣合いだ」
言うと、ディケイドは新たなカードを一度仕舞い、別のカードを取り出した。
――KAMEN RIDE.KABUTO!――
ディケイドライバーにカードをスラッシュし、その姿を仮面ライダーカブトのライダーフォームへと変えた。
この光景に、ストロンガーもデッドライオンも驚いていたが、すぐに気を取り直した。今はそのような些末な事よりも、一意専心すべきことがあるのだから。
それは、即ち――目の前の相容れぬ腐れ縁の宿敵を打倒すること。
「いくぜ、後輩。付いて来れるなら付いて来い」
「はい、茂先輩!」
「言われなくても、最初からそのつもりだぜ」
ストロンガーの言葉に、クウガとディケイドは即座に頷いた。それを聞き届けると、ストロンガーはカブトローを真っ直ぐに、ピラミッドへと一直線に走らせた。
それに続く形で、クウガと戦闘を繰り広げていたデッドライオンも吼えた。
「ぬかせぇぇぇ! だったらもう一度、無様にぶっ倒してやるぜ! やっちまえ、タイタン!!」
デッドライオンの号令に応じ、ピラミッドの頂上に君臨するタイタンが手を翳し、ストロンガーに雷を放った。
なんとも馬鹿な男だ。カブトローの真の力を失念しているとは。しかし、これこそが新たなカードを使う絶好の機会になる。
「条件は全てクリアしたな。ユウスケ、ちょっとの間こっちを頼むぞ」
言うと、返事を聞くよりも先にディケイドはカブトの特殊能力を発動させるカードをスラッシュした。
――ATACK RIDE.CLOCK UP!――
クロックアップの発動とカブトローの超加速の始動は、同時だった。
▽
「グ……ウウ…………」
雷のダメージに耐えながら、ストロンガーは仮面の下でにやりと笑った。
カブトローに乗った状態で雷を受けることこそ、ストロンガーの狙いだったのだから。
「タイ、タン……! この力、カブトローが頂くぜ!!」
仮面ライダーストロンガーの愛車、カブトロー。普段のマシンスペックは最高時速300kmというモンスターマシンだが、それ以外にも隠された力があるのだ。
それは、落雷を受けた時にそのエネルギーを得ることにより、最高時速を飛躍的に向上させることにある。
その速度、実に時速1010km。
もはや視認することすら叶わないその速度に、カブトローは至っていた。
ピラミッドの雷撃を受けるのは一種の賭けだったが、上手くいく確信はあった。
何故なら、自分は城茂で、仮面ライダーストロンガーなのだから。
「……へっ。周りが――……っ!?」
止まって見える、と言おうとして、思わずストロンガーは自分の目を疑ってしまった。
何故なら、時速1010kmのカブトローに平然と併走している赤い影があるのだから。
確か、コイツは……ディケイドが更に変身した姿だったか。
見てから1秒にも満たないうちに、感情は驚愕から歓喜に変わる。
「面白ぇ……本当に付いて来やがるとはなぁ! いいぜぇ。やるぞ、ディケイド!」
『ああ。俺達で……やってやろうぜ、ストロンガー先輩!』
クロックアップにより時間軸から切り離されているはずのディケイドからの返事が、ストロンガーには当然のように聞こえてきた。
そして、ディケイドは更に加速してストロンガーを先回りしてタイタンの懐に潜り込んだ。
ならば、自分のすることは一つ。
ただ、信じるのみ。
「いくぜ――――!」
今は亡き親友の名を叫びながら、その目は後輩の姿を捉えていた。
▽
ディケイドはストロンガーとの遣り取りを終えると同時に、新たなカードをディケイドライバーにスラッシュした。
――FINAL ATACK RIDE――
そして、2人の仮面ライダーの超加速に全く反応できていないタイタンの懐に潜り込むと、まずは拳の一撃を叩き込んで抵抗力を奪う。
――S――
次いで、強烈なアッパーカットを打ち込み、タイタンの体を上空に打ち上げる。
――S――
クロック・オーバーと同時に振り返ると、そこには、
――S――
カブトローから跳躍して空中でタイタンの体をまるでラグビーボールのように掴み取り、そのままピラミッドの頂に頭から叩きつけようとしているストロンガーの姿があった。
「――STRONGERRRRR!!!――」
ストロンガーの咆哮とディケイドライバーの電子音が重なる。
その瞬間に、ディケイドはカブトのライダーキックを放ち、見事にタイタンの頭部を粉砕した。
▽
ピラミッドの頂上で、大規模な――改造火の玉人間の破壊による爆発が起きた。
その光景に目を見張りながら、デッドライオンは倒された仲間の名を叫んだ。
「タイタン!!」
たとえ魂の無い、空っぽな存在だったとしても。彼が百目タイタンだったことは紛れも無い事実だ。
共にブラックサタンの理想のために戦った仲間に再び先立たれたデッドライオンは、しかし悲しみに暮れる暇もなかった。
「俺を呼んだかい?」
そう言って、クウガはタイタンソードを振るい、デッドライオンに斬りかかる。デッドライオンはそれを直前で、右手の爪で受け止めた。
「なにぃ!? お前もタイタンって名前なのか!?」
「正確には、仮面ライダークウガのタイタンフォームさ! 覚えとけよ!」
デッドライオンはワケが分からん、と舌を打ち、ユウスケは言いながら、自分の内から新たに漲る力を感じていた。
その力は、クウガのベルト【アークル】に収められた聖なる霊石【アマダム】を通じて全身に行き渡る。そして、紫の瞳に銀の鎧のタイタンフォームが、新たな力を宿した金色に縁取られた紫の鎧の戦士へと姿を変えた。
同時に、タイタンソードの形状も変化し、その力も向上しているのが振るうまでもなく理解できる。
突然のクウガの変化にデッドライオンは戸惑いながらも、しかし恐れずに攻撃を仕掛けた。
だが、新たな力に目覚めたクウガはそんなものなど歯牙にも掛けず紫の鎧で受け止め、タイタンソードを振り被った。
「ぅおりゃああああああああ!」
タイタンソードはまるで薄絹を斬るかのように、デッドライオンの左腕を切り落とした。
「ぎゃあああああ!? お、おのれぇ、仮面ライダークウガ! ストロンガーも、ディケイドってやつもだ! 貴様ら覚えてろよ!!」
そう言い残して、デッドライオンはBADAN幹部怪人の特権である時空魔法陣を発動させ、撤退していった。
「うわぁ……あんな捨て台詞言うヤツ、初めて見た」
ノリが昭和だな、と零しながら、ユウスケは新たに目覚めた力に手応えを感じて、拳を握り締めた。
そして、クウガがマイティフォームへ、ディケイドが元の姿へと変身した直後、ピラミッドの頂上でストロンガーが、未だに残っているブラックサタンの残党に向けて高らかに名乗りを上げようとした。
――その時、不思議なことが起こった――
ストロンガーが名乗りを始めようとした、正にその瞬間。
ストロンガーとディケイドの周囲にオーロラのような揺らぎが現れ、その向こうに新たな仮面ライダーの姿が映し出されたのだ。
時空を超える仮面ライダーの力か、キングストーンとアマダムの力が起こした奇跡なのか、それは定かではない。
その光景に、SPIRITSの隊員達も、魂の無いはずの再生怪人達も、一様に動きを止めて見惚れていた。
しかし、そんなことがどうしたと、ストロンガーはそのまま名乗りを上げた。
「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ! 悪を倒せと俺達を呼ぶ!! 聞け、悪人ども! 俺達の名は!!」
「お婆ちゃんが言ってた。俺達は、天の道を往き総ての正義を司る者」
「人々の希望と太陽の輝きがある限り、何度でも甦る不滅の戦士!!」
「たとえ絶望という暗闇があったとしても、その果てに希望という光明がある限り」
「闇を切り裂いて光を齎す、決して絶えることの無い正義の系譜!」
「どんな世界でも、どんな時代でも、仮面と共に受け継がれていく正義の魂!」
「それが俺達仮面ライダーだ! 覚えとけ!!」
未来人は言った。自分達は不幸な結末を迎える世界から『参加者』を選んだのだと。
――ならば、仮面ライダーよ。
全てを破壊し、全てを繋げ。
世界が滅びる未来を変えるために――
破滅の歴史を破壊し、懐かしい未来へ世界を繋げ!
仮面ライダーSPIRITS 第X部【イレギュラー・ストーリー】
『受け継がれる魂』
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