雷電激震 ◆wyyQrXyi3I



 連絡通路を抜けると、そこは――。

「……ふざけてやがる」

 テントローを一旦停止させ、城茂は思わず声に出して呟く。
 一面の銀世界。
 茂とテントローが佇んでいる車道の外には、月光を受けて仄かに光る雪原がどこまでも続いていた。
 最初に転送された住宅街から北上し、せいぜい1km程度しか移動していないにも関わらず、この景色の変わり様だ。
 おまけに車道の上だけは、結晶の一片も残さず綺麗に除雪されている。
 まるで、うず高く積もった雪の上に後から舗装材をかぶせて車道を造りましたとでも言うように。
 先刻までいた住宅街も、深夜とはいえまるで人の生活する気配を感じさせない、大いに不自然な場所ではあった。
 しかし、現在茂の目の前にある風景は、それに輪をかけて不自然なものだ。
 極めつけは、茂の向かって左手側にそびえている継ぎ目一つない白塗りの壁である。
 光沢の無いその壁は、どこまでも高くそそり立ち、上端は夜の空と溶け合って見出すことはできない。
 スペースコロニーの壁面――それ自体は住宅街付近でも既に視認していたものではあるが、自然の風景と隣り合うことで、異物感を一層強めている。

 つぎはぎだらけの不恰好な世界。
 その奇妙さに一瞬呆気にとられてしまった茂であるが、心のうちから湧き出す異なる種類の感情が、すぐにそれを上書きした。
 ここが、シグマの手で人工的に造られた舞台の上なのだという事実を思い起こして。
 鉄の壁に覆われた、殺し合わせることだけを目的とした舞台――歪な風景が、改めてそれを認識させる。
 そして、続けて脳裏に浮かぶのは、セインの無惨な亡骸と、嘲るようなシグマの表情。
 忘れようもない、まだ新しい記憶の中の映像が、茂の内にある怒りと正義の意志を燃え滾らせる。

「待ってろや……この不細工な箱庭も、てめえの不細工なツラも、まとめて叩き潰してやるからよ」

 シグマの言によれば、この場に集められた者達は皆機械の身体を持っているらしい。
 つまり、茂や本郷達が持つ改造人間の力を知った上で、この場に連れてきたということだ。
 そこまで調べているならば、仮面ライダーが悪を挫く正義の戦士であることも、おそらく分かっているだろう。
 にも関わらず、四人ものライダーをこの『壊し合い』とやらに巻き込んだ。
 それは、シグマはライダーを障害とすら見ていないということに他ならない。
 四人程度で『壊し合い』を潰すことなどできはしない、自分の下に辿り着くこともないのだと。

「ムカつくことこの上ねえが、いいさ。精々なめくさっていやがれ。
 仮面ライダーの前に立って、五体満足でいられた悪党なんざ一人もいねえ。
 その慢心が命取りだってことをたっぷり教えてやるぜ、これからな!」

 仮面ライダーに不可能などという言葉は存在しない。
 茂も、本郷達も、これまで数え切れないほどの壁に行き当たり、そして乗り越えてきた。
 不可能を可能にし、どこまででも強くなる――仮面ライダーを名乗る者は、生ある限りそれを体現し続ける。
 ここまで大掛かりな真似をしてみせるのだ。シグマが強大なことは間違いない。
 ブラックサタンやデルザー軍団、ネオショッカーにも劣らない、あるいはそれ以上の相手と見なければならない。
 だが、それでも四人のライダーは力を合わせてそれに立ち向かい、打ち勝ってみせるだろう。
 いや、必ず打ち勝つ。
 そのためにも、まずは仲間と合流することだ。
 先輩であり、戦友であり、同志である仲間と。
 そして、シグマと戦う意志を持つ者が自分達だけとは限らない。
 勇気をもって不条理に立ち向かう、新たなライダーとなり得る者もいるかも知れない。
 そうした者達と巡りあい、協力することができれば、シグマを恐れる理由など何もない。
 もっとも、ただ一人きりであったとしても、茂が悪に対して恐れを見せることなど決して無いが。

 自らの決意を再確認し、茂が再びテントローのアクセルを踏み込もうとした、その時。
 前方に自動車のヘッドライトらしき二つの灯明が浮かび上がる。


(ファーストコンタクトってわけだ。鬼が出るか蛇が出るか、ってか?)

 この場で自動車を走らせているということは、シグマに集められた者達の一人であることは疑いない。
 茂にとって、初めてとなる『参加者』との接触機会だ。
 住宅地でセインの仮の墓をこしらえていた際、目と鼻の先にいたミーと接触するチャンスも無いわけではなかったのだが、それは茂の知るところではない。
 闇の中から、徐々に自動車のシルエットが現れる。
 形状からして、いわゆるジープというやつだろう。
 運転手は『壊し合い』に乗った者か、そうではないか。
 どちらにしても、茂は運転手と接触するつもりだ。
 前者ならば、この場で粉砕しなければならない。後者ならば、共に行動する。
 いかなる対応を取るべきか見極めるため、茂はテントローに跨ったまま自動車を待ち構える。
 が……

(どうも、すんなり仲良くって訳にもいかなそうだな)

 ジープの時速は明らかに百キロをオーバーしている。
 既に車体の輪郭をはっきり視認できるほど近づいているが、一向に減速する気配はない。
 むしろ、速度を増しているのだ。どう見ても。

(こりゃあ、前者か? それともパニクって暴走してるだけか?)

 何時でも発進できるよう、テントローのハンドルに手をかけたまま、茂は真正面からジープを睨む。
 さらに加速するジープの運転席に、男の顔が見える。
 ごく平凡な、欧米人の若い男だが、その面貌は一切の感情を宿していない。
 無表情のまま、男はなおもジープを加速していく。
 間もなく両者の距離がゼロとなる……その寸前で茂はテントローをターンさせ、迫る鉄の塊をマタドールのように回避する。
 視線の先では、突進をかわされたジープがタイヤを焦げ付かせながらUターンしている。
 そして再び茂へと狙いを定めると、猛然と突っ込んできた。
 その行動から見出されるのは、明確な殺意。
 運転席の男の無感情な眼は、獲物を捕食せんとする昆虫の眼だったというわけだ。

「問答無用ってかい。よぉく分かったぜ……なら、こっちも遠慮はナシだ」

 不敵な笑みと共にテントローから降り立つと、茂は猛進してくるジープを見据えたまま黒い手袋を脱ぎ捨てる。
 鉄色の無骨なコイルに覆われた、改造人間の証たる両手が露になる。
 そしてその両手が、力を引き出すための形――闘う為の姿を呼び起こすスイッチを作り出す。

 真直ぐ右に伸ばした両腕を時計周りに旋回させてゆき――
 左斜め上方で右手を伸ばし、左手に添え、一気に胴の方向へ引く――
 二本のコイルアームが擦り合い、火花を散らし――
 腰に現れたベルトに閃光が明滅し、茂の身体にエネルギーを充填していく――

「変・身――ストロンガー!!」

 電光の中から現われたるは、仮面ライダー第七の男。
 天を衝かんとする額の角と、胸にSの一字を刻む装甲は、茂の熱き血潮と同じ真紅を映す。
 首にたなびくマフラーは、一点の曇りもない正義の純白に染め抜かれている。
 大地を踏みしめ、仮面ライダーストロンガーは自らを轢き潰さんとする男を両眼で射抜く。

「エレクトロファイヤーー!」

 叫びと共に、ストロンガーは右拳を車道へと打ちつける。
 拳を通じて放出された電流が地面を伝い、猛スピードで直進するジープへと走っていく。
 次の瞬間には、電光と正面から衝突したジープが爆炎に包みこまれていた。
 コントロールを失ったジープはストロンガーへと向かう軌道を逸れ、赤い炎を纏ったまま雪原へと突っ込み、動きを止めた。


 燃え盛る炎が闇夜を照らす。
 ストロンガーは、煙を上げるジープの残骸から意識を反らさず、じっと眼を向ける。
 この場にいるということは、今の男も改造人間であるはずだ。
 ならば、この程度で息の根が止まったとは思いがたい。

 やがて、ストロンガーの予想通り、炎の中から人影が現れる。
 人の形であることを示す最低限の凹凸しか持たない、全裸のマネキンのような姿。
 磨きぬかれた鏡のような光沢を放つ全身に、背後の炎が映り込む。
 マネキンはゆっくりと、一定の歩幅を保ったままストロンガーへ歩み寄る。
 その身体に顔と衣服のディテールラインが刻まれたかと思うと、次の瞬間には、もはや銀色のマネキンではない人間の姿へと変化する。
 先刻、ジープの運転席にいた男の姿へと。

「その体……もしかしてテメエは!」
「……」

 男――T-1000が垣間見せた能力から、ストロンガーは男の正体を理解する。
 最初の大広間で見た、液体金属の体を持つシグマの影武者。
 つまり、セインの仇の片割れだ。
 ストロンガーの問いに対し、T-1000はただ無言で睨み付けるのみである。

「そうかい。わざわざ手下を送り込んでおくたぁ、念の入ったこった。
 だが嬉しいぜ……今二番目にブン殴りてえ奴に、こうも早く出くわせたんだからな!」

 T-1000の立つ雪原へと、ストロンガーが駆ける。
 対するT-1000はストロンガーへ向け、ゆっくりと右手を上げる。
 そこには何時の間にかレーザーガンが装着されていた。
 放たれる光の束を回避するべく、ストロンガーが側方に跳ぶ。
 それを追うように、レーザーが次々と夜の闇を貫いていくが、ストロンガーには届かない。
 ストロンガーはそのまま回り込むような動きで間合を詰めていく。

「電チョップ!」

 左の手刀が、レーザーガンを構えるT-1000の腕を斬り飛ばす。
 それでもなお、T-1000の表情はぴくりとも変化しない。
 続けて、ストロンガーは大きく腰を廻し、右の拳を固く握る。
 身体の内から迸る電光が、その拳に纏わっていく。

「電……パァー-ンチッ!」

 ストロンガー渾身のストレートパンチが、金色の閃光と共に撃ち出される。
 まさに電光石火の勢いをもって放たれた豪拳は……T-1000の頭部を「貫通した」。
 文字通りの串刺しに、である。

(……おいおい、ちと脆すぎじゃねぇか?)

 致命の一撃があまりに簡単に決まったことに、ストロンガーが呆気にとられてしまった――その一瞬の間。

「何ィ!?」
「……」

 風穴を空けられていたT-1000の頭部が左腕へと変化し、ストロンガーの手首を握り締める。
 そして先程まで右肩であったはずの場所がせり上がり、T-1000の頭部が現れたのだ。
 相変わらずの、昆虫のように無表情な顔がストロンガーを見やる。
 刹那の間に、両者の体勢は逆転していた。

(姿を真似るだけじゃねぇ……自由自在に打撃を受け流せるってわけかよ!)

 相手の力を読みきっていなかったことを悟り、ストロンガーは心の中で舌を打つ。
 T-1000はそんなストロンガーの手首を万力のような力で締め上げ、そして腕一本で投げ飛ばした。
 宙を放り出されたストロンガーに向け、T-1000が更に右腕を突き出す。
 切断されたはずのその腕が、長大な白刃を形作り、ストロンガーの体を抉らんとする。
 空中で体を捻りそれをかわすストロンガーだが、完全に避けきることはできず、肩口を切り裂かれてしまう。

「チィィッ!」

 ストロンガーは肩を押さえ、片膝立ちの姿勢で着地する。
 バックステップし、一旦間合をとろうとするが、今度はT-1000の方が近づいていく。
 呼応するように、地面に転がるT-1000の右腕が溶けて銀色の液体となり、レーザーガンをその場に残して雪の上をのたくる。
 T-1000へと這い寄る銀の液体は、その爪先に触れた瞬間、吸い込まれるように同化して、消えた。
 足早に歩を進めながら、やはり無言のまま、T-1000が再び両手を刃に変形させる。
 そして標的を射程内に捉えると同時に、高速の突きを繰り出していく。
 上から。下から。左から。右から。
 ストロンガーは急所を精密に狙う刺突のラッシュに晒される。
 腕のガードと体捌きで凌ぎつつ、ストロンガーが反撃の拳を放つが、先程と同様、液体金属の体にいなされるのみであった。
 T-1000は無傷のまま。いや、正確には傷ができてもたちどころに塞がってしまうのだ。
 対するストロンガーの体には確実に傷が刻まれていく。
 ストロンガーは、いまや防戦一方に追い込まれていた。
 その事実に苛立ちながらも、ストロンガーは状況を打開すべく考えを巡らせる。

(いくら殴っても無駄ってのは面倒だが、それならそれで手はあるはずだぜ。例えば……)

 T-1000の右腕の剣が、ストロンガーの心臓めがけて突き出される。
 が、風を切り裂き迫る鋭鋒が何かに受け止められる。
 ストロンガーの左手であった。

 刃が掌を貫き、血が流れ落ちるが、ストロンガーは構わず手に力を込め、その動きを封じる。
 即座にT-1000が左の剣を繰り出すが、今度はストロンガーの右手がそれを掴み、握りこんで静止させる。

「捕まえたってわけだ……そして……」

 T-1000の刃を捕らえたまま、強引に腕を動かし、胸の前で交差させる。
 そして両の拳を擦り合わせると、火花が散り、ストロンガーの肉体に電気エネルギーが満ちていく。
 仮面の向こうで、ストロンガーが会心の笑みを浮かべる。

「これならどうだ……エレクトロファイヤーーッ!!」

 ストロンガーの掌からT-1000へと、すこぶる付きの超高圧電流が流れ込む。
 輝く電子の奔流に飲まれ、T-1000は体を引き攣らせ、激しく痙攣する。
 顔に苦痛や驚愕が浮かぶことはないが、電撃に撃たれるに任せ、攻撃動作は停止してしまっている。
 その様子は、エレクトロファイヤーがT-1000へ初めて有効なダメージを与えていることを確かに示していた。
 当然T-1000も耐電性は有しているだろう。
 事実、インパクトの瞬間にのみ電流を送り込む電パンチでは、T-1000を怯ませることもできなかった。
 だが、この電撃が生む熱に絶え間なく灼かれ続けても、無事でいられるのか?
 ストロンガーはその可能性に賭け、そしてそれは間違ってはいなかった。
 しかし――

「このままくたば――ガッ!?」

 しかし、それでもT-1000を倒すには至らない。
 唐突に、ストロンガーの脇腹に鋭い痛みが走る。
 そこに突き立てられているのは、T-1000の腕が変化した剣。
 T-1000の両腕は、ストロンガーに封じられているにもかかわらず、それは確かにストロンガーを貫いていた。
 刃で貫かれたままの傷口から血が滴り、白一色の雪原の上に染みを作っていく。

 ある筈のない腕の、ある筈の無い刃。
 その腕は、その刃は――T-1000の右脇の下から生えていた。
 T-1000の両腕の下から、更に一対の腕が出現しているのだ。
 ご丁寧にも、服の袖までもが四本になっている。
 定形のない液体金属の体を持つT-1000。
 彼には『四本腕の人間』の姿をとる程度、造作もないことなのである。

「ガハッ!」

 四本目の刃で身体に新たな穴を穿たれ、ストロンガーがクラッシャーから血を吐き出す。
 T-1000は獲物の身体を串刺したまま持ち上げ、そしてそのまま無造作に放り捨てる。
 ストロンガーの身体が力なく宙を舞い、雪上に落ちて、動きを止めた。


(……こうまで通じねえとはな……)

 ぼやける視界に、T-1000の姿が映った。
 雪上に転がるレーザーガンを転送機能で送り返すと、PDAをズボンのポケットにしまいながらこちらへと歩み寄ってくる。
 仰向けに倒れ伏したままのストロンガーの脳裏に呼び起こされるのは、かつての戦いの記憶。

(あの時みてぇだな、こりゃ)

 ブラックサタンの壊滅後、ストロンガーの前に現れたデルザー軍団の改造魔人達。
 電気の技を全く受け付けない新たなる敵にストロンガーは圧倒され、追い詰められた。
 敗北を喫したことも、一度や二度ではない。
 死を間近に感じる瞬間を何度も経験しながら、機転と運でどうにか勝ちを拾う苦しい戦いが続く。
 そんな劣勢の中で、ストロンガーのかえがえのない相棒――タックルこと岬ユリ子は命を落としたのだ。
 敵に己の力が通じない無力感。
 闘う意志こそ折れはしなかったが、そんな感情が無かったと言えば嘘になる。
 そして今また、ストロンガーの攻撃をことごとく無効化する脅威が――T-1000がストロンガーにゆっくりと迫っている。

(だがよ――昔の話さ)

 そう、ストロンガーはあの頃とは違う。
 今のストロンガーには『切り札』がある。
 ユリ子の死と引き換えにするようにして手に入れた『切り札』が。
 仮面ライダーに不可能などという言葉は存在しない。
 どんな壁も乗り越え、何者が相手だろうと立ち向かい、打ち勝ってみせる。
 不可能を可能にし、どこまででも強くなる。
 ストロンガーの『切り札』は、そのことを証するものだ。

「……」

 T-1000が、ストロンガーを見下ろす。
 その腕が変形し、長い注射針のような形を成す。
 仕留めた獲物の身体に侵入し、シグマウィルスを植え込むための形状だ。
 尖った針の先端が、ゆっくりと近づいていき……

「電チョップ!」

 ストロンガーの体へと触れる寸前、鋼の刃より鋭い手刀が閃く。
 注射針となったT-1000の腕が粉々に砕かれ、銀の破片となって夜の闇を舞う。
 虚を突かれたT-1000が、一瞬動きを止める。
 間を置かず飛び起きたストロンガーは、その隙を逃がさず直蹴りを放つ。
 制限下でなければ戦車の装甲も易々引き裂く威力を持った、砲弾のような蹴りがT-1000の胴にクレーターを作り出す。
 完全に体を液化し打撃を散らす暇を与えられなかったT-1000は、仰け反りながら吹き飛ばされる。

「勝ち誇るにゃまだ早かったなマヌケ……ここからが本番だ! トォッ!!」

 ストロンガーが後方へと吹き飛ばされたT-1000を追い、夜空へと飛翔する。
 そして、自らの『切り札』の名を叫ぶ。

「チャーージアップ!!」

 雷鳴のような叫びを号令として、ストロンガーの胸の刻印が高速で回転する。
 再改造によって体内深く埋め込まれた超電子ダイナモが鳴動し、ストロンガーの全身へと力を満たしていく。
 流れ巡る超電子のエネルギーが胸の装甲に銀のラインを描き出し、そそり立つ額の角も同じ色に染める。
 これこそが、デルザーの改造魔人達を打ち破るために得た『切り札』。
 強靭なストロンガーの肉体ですら完全に抑え込めないほどのエネルギーによる、僅か六十秒間の超絶的なパワーアップ。
 だがその六十秒間は、何者をもってしても止められない絶対的なストロンガーの時間である。

「打撃も効かねえ、電撃もダメだってえなら……百倍の打撃と百倍の電撃で木っ端微塵にしてやるぜ!
 二度と再生できねぇくらいにな!!」

 空を駆けていたストロンガーが、地上のT-1000目がけ運動ベクトルを急転させる。
 頭から一直線に、獲物に狙いを定めた猛禽の勢いをもって突き進む。
 ストロンガーは一本の矢となり、蹴りの衝撃がもたらした一時的な機能不全の影響から未だ逃れられないT-1000を猛襲する。

「超電……急降下パンチ!!」

 脳天に叩きつけられた鉄槌のような拳がT-1000の頭部をひしゃげさせ、胸部もろとも体の内側へと沈下させる。
 激突の余波が烈風を生じさせ、周囲の雪が爆ぜるようにして吹き飛ぶ。
 ストロンガーは止まらない。
 チャージアップからの息もつかせぬ大技のラッシュこそが、ストロンガーの本領だ。

「オォォォォォォォォォォォォォォッ!」

 腕と下半身だけの奇妙な格好となったT-1000を両手で掴むと、その場で回転し、ジャイアントスイングの要領で振り回す。
 回転の速度は徐々に増していき、それに伴い、冷たく静謐な雪原の中に乱気流が吹き荒ぶ。
 ストロンガーの身体から発せられる超電子が渦巻く旋風に乗り、放電する。
 風圧と、うねる超電子がT-1000の身体を打ち据え、その間にも回転の速度はさらに上昇していく。
 ストロンガーを中心として、雷音轟く巨大な風の柱が生み出される。

「超電子ジェット投げ!!」

 雄叫びと共に、渾身の力をもってT-1000を放り投げる。
 T-1000の体は天高く舞い、凄まじいスピードで遥か彼方へと飛ぶ。
 間髪置かず、ストロンガーは己の奥底から電気の力、そして超電子の力を引き出し、集束していく。
 ストロンガーの狙いは、電流を束として叩きつけ、T-1000を焼き尽くすこと。
 T-1000を倒すためには、欠片も残ず消滅させるしかないと考えたのだ。
 宙で錐揉みするT-1000に向け、電光を帯びた腕をかざす。
 そして大気中へと破壊のエネルギーを解放しようとした、その時。

 ストロンガーの身を彩る銀の縁取りが消え去る。
 同時に、それまで漲っていた超電子の力も霧散した。

(バカな……俺の意志に関係なくチャージアップが解除されただと!?
 まだせいぜい三十秒しか経ってねえってのに!?
 力が抑えられているのと関係あるのか?)

 何らかの理由で能力が制限されているらしいことは、既に確認している。
 これもその一貫ということなのか。
 だが、あれこれ考えている暇はない。
 T-1000はここで仕留めなければならないのだから。
 残された力をあらん限り絞り出し、電流へと変えて空に放つ。

「エレクトロ……サンダァーー!」

 閃光が凝縮され、一筋の、しかし極大の雷へと変わる。
 そして大気を揺るがす轟音と共に天から下り、T-1000へと炸裂する。
 闇の中に巨大な爆風の花が咲き、その姿を呑みこんでいった。


「やった……か」

 ストロンガーは、既に城茂の姿へと戻っていた。
 ふらつく体を支えながら、遠く爆発の方向を見やる。
 最後の一撃は思わぬ形で威力を削られてしまったが、大抵の相手ならば確実に葬り去れる必殺の技であった筈だ。
 茂の心に僅かな不安が残るが、それを振り払う。

「……確認しようもねぇからな」

 あの爆発だ。T-1000の身体は粉微塵だろう。
 闇の中、それも雪原の中に埋もれているだろう残骸を確認することは難しい。

「しかし、厄介なヤロウだったぜ」

 危険な敵だった。
 仮に逃がしていたら、必ずまた他の者達に襲い掛かり、命を奪おうとしていただろう。
 この場にいる者が皆改造人間かそれに類する存在ならば、全く無力な者はそう多くはないのかも知れない。
 だが、T-1000の液体金属のボディには、ストロンガーの力をもってしても苦戦を免れなかったのだ。
 あの不定形の殺戮者と戦えた者が、果たして他に何人いるだろうか。
 早い段階で自分が遭遇し、撃破することができたのは僥倖だったと、茂は思う。

 チンクという名の少女の顔が浮かぶ。
 茂は彼女を救わなければならない。
 理不尽な死を与えられた彼女の妹のためにも、チンクを生き延びさせ、正しい道を歩ませなければならない。
 チンクだけではない。他者の命を奪うことを躊躇わない悪党は別として、この場に囚われた者達は、残さず救う。
 仮面ライダーとしての茂の使命――そのためにも、茂は再び歩き出す。
 T-1000のような脅威が、まだ何体いるとも知れないのだから。

「あのヤロウみたいのが、まだいやがったら……その時は『アレ』を使うしかねぇかもな。なあ、ユリ子……」

 呟きながら、茂は路上に停められたままのテントローへと向かう。
 が、その足はよろめき、雪原の上に崩れ落ちる。
 戦闘で受けた傷もあるが、肉体にリミッターをかけられた状態で超電子の力を行使したことが、茂を著しく消耗させていた。
 自らの身体を叱咤するが、茂の意志に反し、徐々に視界が暗くなっていく。
 制限のためとはいえ、思うように動かない自らの体に不甲斐なさと苛立ちを覚えずにはいられない。

(チッ、情けねえ……こんな所で寝てる場合じゃねぇだろうが)

 自分自身に向けた心の中の悪態は、茂の意識が途絶えるまで絶え間なく続いた。

【A-4 北東部・雪原/一日目・黎明】
【城茂@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:気絶、腹部に刺し傷、全身に小ダメージ、重度の疲労
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:殺し合いを潰す
1:本郷猛、風見志郎、神敬介と合流する
2:チンクと呼ばれた少女に会い、保護する
3:全部終わったらセインのちゃんとした墓を作る

※参加時期は仮面ライダーSPIRITS本編開始前より
※制限は攻撃の威力制限、回復速度制限です
※チャージアップに課せられた制限は効果時間短縮、および使用後の疲労増大です
※自身にかけられた制限(威力制限・チャージアップ制限)には気がつきました
※テントロー@仮面ライダーSPIRITSはA-4北部の路上に停められています





 エレクトロサンダーが落ちた地点よりさらに北、雪原に連なる廃鉱山の麓。
 静寂に包まれた雪原の中に蠢くものがある。
 銀色の光沢を放つ、水滴のような何かが雪の上を這いずっていく。
 一つではない。大小無数の銀の雫が、一つ所を目指して移動しているのだ。
 その先――雪化粧された岩陰の向こうにあるのは、人間の頭ほどの大きさをした銀色の球体。
 銀の水滴が一つ、また一つとその球体に飲み込まれ、その度に球体が小さく波打つ。
 T-1000であった。

 ストロンガーの雷撃によって、確かにT-1000は焼かれ、粉砕された。
 しかし、それでもT-1000を機能停止に追いやることはできなかったのである。
 T-1000のボディを構成する金属分子は、その全てが感覚器官と思考能力を有している。
 たとえバラバラに吹き飛ばされようとも、飛散した身体の破片それぞれが自らの意思で寄り集まり、結合することでボディを再構成することができるのだ。
 何度でも蘇り、与えられた任務を終結させる――それが“TERMINATOR”のコードを持つT-1000の存在意義の全てである。

 やがて、やや大きめの銀の雫が、背にT-1000のPDAを乗せて現れる。
 あれだけの爆発を受けながら、PDAには傷一つない。
 PDAを球体の傍らに置くと、その銀の雫も球体に呑まれ、一体となっていく。
 その間にも銀の雫は続々と集まり、球体は僅かずつ大きさを増す。
 しかしT-1000の頭脳は、再構成の完了にはまだかなりの時間を要すると予測していた。
 原因の第一は、ボディの破片を広範囲にばら撒かれたこと。
 第二の原因はストロンガーのたび重なる猛攻によって受けた衝撃により、形体維持能力には一時的な障害が発生していること。
 そして第三に、他の『参加者』と同様T-1000にも課せられている制限が、回復に必要な時間を長引かせている。

 この場にいる他の者がT-1000の立場なら、手駒である自分になぜ制限を施したのかという疑問を持つことだろうが、T-1000は違う。
 スカイネットは、T-1000にとって絶対の存在だ。
 そのスカイネットが、シグマへ協力することを命じた。
 ならばシグマの意図が何であろうと、T-1000は自らの唯一の主に従うだけである。
 T-1000が任務外の何かについて考えることなど、ない。

 必要なのは、与えられた使命を遂行することのみ。
 爆発の地点から離れ、岩陰に身を隠しているのもそれを確実にするためだ。
 今は、ただボディの再構成を待ち、完了次第任務を再開する。
 そしてその時に備えるべく、T-1000である銀の球体が波立ち、少しずつ何かを形作っていく。
 これもまた、任務遂行をさらに円滑にするための行動。
 球体が形作るのは長く突き出した額の角、巨大な一対の眼、口部を覆うクラッシャー。
 ――それは、仮面ライダーストロンガーの頭部であった。

【A-3 東部・山麓の岩陰/一日目・黎明】
【T-1000@ターミネーター2】
[状態]:五体バラバラ(再生中)
[装備]:シグマウイルス(残り2回分)
[道具]:支給品一式、レーザーガン@メタルギアソリッド、高性能探知機
[思考・状況]
基本:バトル・ロワイアルが円滑に進むように行動する。シグマとスカイネットの命令には絶対服従。
1:身体の再生を待つ。回復次第、2以降の行動を再開する。
2:他の参加者に出会ったら容赦なく攻撃。
3:可能ならば他の参加者にシグマウイルスを感染させる。不可能ならば破壊する。
4:ただし、T-800は最終的に破壊する。
5:仮面ライダーストロンガーの姿をコピーする。コピー元のストロンガーは破壊する。
【その他】
※シグマウイルスはT-1000の体内に装備させられた状態で存在し、T-1000の体が相手の体内に侵入した際に感染させることが可能



時系列順で読む


投下順で読む

Back:ギタイ Next:A/B LIVED


027:突っ走れ 城茂 050:狂えし少女は何思う
016:マルチ、遭遇、軍事基地にて、ターミネーターと。 T-1000 060:強者をめぐる冒険





| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー