Take me higher!(前編)  ◆DNdG5hiFT6



「時空管理局に平行世界ね……どれも信じがたい話だな」

ノーヴェから一通りの話を聞いたゼロは正直な感想を漏らした。

綱渡りのような危い接触から数時間後……『1のへ』と書かれた教室内で、
2人はそれぞれの支給品の確認を行い、その後、情報交換を行っていた。
他人と接することに慣れていないノーヴェと決して愛想が良いほうではないゼロとの情報交換は効率的とは言いがたかったが、
それでもノーヴェは時空管理局、魔法、平行世界、そして姉・チンクのことナカジマ姉妹のことを、
ゼロはイレギュラーとイレギュラーハンター、エックス、そしてシグマのことを互いに説明していた。

「……信じられないなら、信じなくていい」

事実、平行世界を知らない者に信じろと言っても絵空事にしか聞こえないだろう。
そのぐらいはノーヴェにだって想像がつく。
だがゼロは大きくかぶりを振る。

「誰が信じないと言った。
 信じにくいのは事実だが……ここまで状況証拠がそろっていれば信じざるを得ないだろう」

自分はレプリフォース、そしてシグマとの戦いの末に宇宙要塞を脱出し、地球に帰還した。
そしていつも通りハンター本部に出向して……気が付いた時にはあの会場にいたのだ。
自分に気付かせずあれだけのことが出来るならば、今更何があっても不思議ではない。
それに何よりノーヴェ自身の対人関係の拙さに反して、世界などについての会話は一定のリアリティがある。
彼女がよほどの誇大妄想狂でもない限り、嘘をついている可能性は低いとゼロは見ている。

「それで、お前はその時空管理局に所属している……それでいいんだな」
「……ああ」

その表現は、限りなく嘘に近い。
ノーヴェたちナンバーズは時空管理局に逮捕され、現在更生プログラムを受けている最中なのだ。
『時空管理局に所属している』というのはある意味事実ではあるが、決して真実ではない。
だがノーヴェとて『自分は過去にテロ行為を行い、更生施設に入れられていました』などと話して
わざわざ不信感を買うほど馬鹿ではない。

「そして専用武器が無ければお前はその力を十分に生かせない、と。
 なるほどな、さっきの矛盾だらけの動きはそういうことか」

ゼロとしては事実を言っただけなのだが、ノーヴェにしてみれば『専用武器が無ければ役立たず』と
遠まわしに馬鹿にされているように感じ、苛立ちをぶつける。

「うるさい! それよりも教えろ!
 シグマってヤツは何でこんなことをするんだ!」
「……分からん。 はっきり言って行動も、その規模も今までの奴とは大きく異なる。
 それで目的を推察しようにも情報が少なすぎる」

突如、この人数をさらってくる力があるなら、そのまま洗脳して手駒にすればいいだけの話だ。
一つの場所に閉じ込め殺し合いをさせるなど、一体何の得があると言うのだ。
とにかく現状ではその目的は憶測すら出来そうにない。
――だが、しかし、

「……だが、たった一つだけ分かることがある。
 少なくとも俺の世界、そしてお前の世界、そして少なくとも一つ以上のそれ以外の世界から
 これだけのレプリロイド……もといサイボーグを集めるなんて奴一人で出来るとは思えない」
「……つまり協力者がいるってことか?」
「ああ、事実、シグマはあの偽シグマのことを『協力者』と呼んでいたしな。
 あれ以外に協力者がいても何も不思議じゃない」

それも少なくとも『平行世界』という概念を持ちえるものが、だ。
しかしゼロが情報をより吟味しようとした時、思考を遮るようにノーヴェが立ち上がる。

「とにかく……あたしはチンク姉を探させてもらう」

ノーヴェはそう言って教室を出ようとする。
彼女にとってまず大切なのは自身の“姉”であるチンクのことだ。
姉を失うと言う恐怖感に背中を押されるように歩き出すノーヴェ。
だが、それを押し留める声があった。

「待て、ノーヴェとか言ったな」

苛立ちと共に振り返る。
こうしている間にも姉の身に何かが起こっているのかもしれないのだ。
これ以上邪魔する様なら、例えぶん殴ってでも――
だがゼロが言った言葉はノーヴェにとって想定外のものであった。

「俺も同行させてもらう」
「……なんでだ。お前はお前でエックスってやつを探せばいいだろう」

不信の篭った目で見るノーヴェ。
当然だろう。ゼロがノーヴェに同行する理由は見当たらない。
ノーヴェにも先ほどの戦闘で痛いほど分かっている。
自分よりもゼロのほうが強いということが。そして見ず知らずの弱い奴と組む理由なんて何処にもないはずだ。

「エックスは……あいつは強い。俺がいなくてもどうにかなるだろう。
 だがみすみす死にに行く奴を放って置くわけにもいかないんでな」
「! あたしが弱いってのか……!
 あたしは一人でもチンク姉を守ってみせる!
「質量兵器の扱い方も知らなかったヤツが、か?」
「ぐ……」

言葉に詰まる。
それはまったくの事実であるし、専用武器のない自分でははっきり言って実力を生かせない。
ノーヴェにとってこの申し出は渡りに船。
ゼロを信用するならば殆どデメリットのない申し出なのだ。

「……わかったよ。だけどお前のことを信用したわけじゃないからな」

僅かな時間に損得計算を行い、ゼロの提案をしぶしぶ承諾する。

「ああ、それでいい。よろしく頼む」


   *   *   *


(信用していない、か。それはこちらも同じだがな)

時空管理局とイレギュラーハンター。
破壊者を取り締まると言う観点から見ると、これら二つの組織は酷似している。
そしてそのハンターを統括していたこともあるゼロはノーヴェの嘘を見抜いていた。

彼女の話を聞いて感じた違和感は大きく3つ。

――ノーヴェのあまりにも近接の攻性に特化したピーキーな性能
――Aランクに匹敵する身のこなしと、それに矛盾するかのような純粋な戦闘経験の少なさ
――“チンク”という姉妹機に対するあまりにも高い依存性

これらの違和感から、ゼロはノーヴェの正体に一つの推測を立てる。

(恐らくノーヴェは時空管理局と敵対する……言わばイレギュラー側のレプリロイド。
 しかもその攻性特化の能力と経験値の少なさから見て、最初から軍用に作られた可能性が高い)

だがそれはゼロにとって特に問題ではない。
経歴で言うならばゼロ自身も元々“そちら側”だった、というのだから。
それに見たところ積極的に破壊活動を行う性質でもなさそうだ。
だから彼が問題と捕らえているのは一つ。『絶対にゲームに乗らない』と言った彼女の言葉の重さだ。

(彼女の心の支えである“チンク”が万が一ゲームに乗っていた場合……
 チンクとやらを守るために、ノーヴェが誰かを傷つける可能性は高いと言わざるを得ない。
 もしくはすでに死亡していた場合、プライドも何もかもを捨てて“ご褒美”目当てでイレギュラーと化す可能性もないわけじゃない)

僅か0.01%の特Aクラスハンターに分類されるゼロは、常に最悪の状況を想定して動く。
彼は知っているからだ。兄弟や姉妹の情というものは、尊い故に誰かを狂わせるものだと。
――脳裏によぎる儚い面影。
ノーヴェの生意気そうな顔と“彼女”の清楚な面影は似ても似つかない。
だがチンクという姉の話をしたときの顔だけは、ゼロに一人の少女を思い出させる。

『……兄さんと……戦わないでとあれほど言ったのに!』

アイリス……心優しい少女。
共に力をあわせ、レプリフォースの反乱を抑えた。
だがその優しさ故、図らずも兄を倒してしまったゼロと敵対せざるを得なかった。

『でも、信じてみたかった。レプリロイドだけの世界で、あなたと……』

最後にそう微笑んで彼女は機能を停止した。
――それは、彼のメモリーに残る小さな瑕。
彼女を手にかけたときに叫んだ言葉。

『俺は……一体何の為に戦っているんだぁぁぁぁぁぁ!!』

ゼロはあの時の自分自身に対する問いの答えを、まだ出せていない。
そんな迷いのある自分は“最悪の事態”に直面した時どうするのだろう、と。

……と、自己の世界に没頭していたためだろうか。
そこでやっとノーヴェが自分を覗き込んでいることに気付く。

「おい! 行かないんだったら置いてくぞ!
 あたしは早くチンク姉と合流しなきゃならないんだ」

自分を覗き込むトパーズの瞳。
ゼロは大きく息をつくと、ノーヴェの瞳を真正面から見つめ返す。

「……な、何だよ……」
「……一つ、アドバイスしてやる」
「え?」
「大出力の質量兵器を扱う際は体重移動を上手く行え。
 大地に足を着け、反動をそこに流すようにな」

いきなりのアドバイスに戸惑いの表情を浮かべるノーヴェ。

「……何でそんなことを教えるんだ」
「さあな。ただの気まぐれだとでも思え。
 移動を開始するか――エックスや、お前の仲間を探すために」


  *     *     *


学校のリノリウム張りの廊下。
ノーヴェは歩きながら、目の前を歩く赤い背中を見つめ、思案する。
――ゼロと名乗った目の前の男について。

一言で言うならよく分からない奴、である。
と言っても現在ノーヴェが関わったことのある他人はあまり多くない。
生みの親であるドクター・スカリエッティ。
ナンバーズの姉妹。そしてスバルとティアナ、ギンガ、ゲンヤ……
そしてそのどれとも目の前の男は違う。

冷静に考えればシグマという男の仲間だと言う可能性だってあるのだ。
でもセインが自分の姉だと告げた時、僅かに見せた表情。
よくは分からないが、あの表情を見る限り最低限は信用してもいいかもしれない、とも思う。
その顔は少しだけ管理局のあいつらに似ていたからだ。

それにあの身のこなし……かなりの実力者だ。
チンクを助けるための戦力になるなら、同行させてもいい気がする。
でも――

(チンク姉を助けるためだったら、
 あたしはこいつを見捨てたり――殺したりするのだろうか)

以前だったら、ドクターの指揮下にいた頃だったら間違いなくそうした。
だけど今は? セインの死を思い出すたび、言いようのない悲しさと“死”に対する恐怖がせり上がってくる。
他人にそれを与えると知って、あたしにそれが出来るのだろうか?
僅かな期間だったが時空管理局の更生プログラムは確かな効力を発揮していた。

「わぷ!」

だが、考え事をしていた彼女は、立ち止まった背中に思いっきり顔をぶつける。

「おい、いきなり止まるな!」

ぶつけた鼻を押さえながら、ノーヴェは声を荒げる。
だがゼロはそれには答えずにある一点をじっと見ている。
その視線の先、グラウンドの中央にいるのは一人の男だった。
血に塗れた格好をしており、右手には古めかしい西洋剣を携えている。
見るからに怪しいその風貌に2人は警戒心を露にし、ノーヴェはスタームルガーを転送、ゼロも夕凪に手をかける。

「……一つ訊いておく。お前はこの闘いに乗っているか?」

対する返答は無言。
そして左手に握られた剣に力が篭るのが見て取れた。
血に染まったLUCKの剣が月光を反射し、鈍く光る。

「……話す余地すらない、といったところか。ノーヴェ、下がっていろ」
「なんでだよ!?」
「お前は同タイプと連携を取ったことは少ないだろう。
 そんな奴にうろつかれても邪魔なだけだ。それに――」

見れば男はこちらに向かって走り出している。
ゼロも対抗するように加速し――

「手加減して勝てる相手でもなさそうだ!」

校庭のトラックの外周あたりで激突を開始した。
――1合目は共に真正面から。
甲高い金属音を上げて退魔の剣と英雄の剣は激突する。
そしてそのまま鍔迫り合いに移行。
力比べは互角と判断し、そのまま数合、刃を交えながら校舎沿いに移動を開始する。

敬介の振るう剣が轟音を上げながら、ゼロをメットごと脳天から叩き割ろうとする。

「甘いっ!」

校舎の壁を蹴り、空高く舞い上がる真紅のレプリロイド。
特A級ハンターで無ければ出来ない三角跳び。
剣をかわし、死角である頭上を取ったゼロは、夕凪を大上段から振り下ろす

「……!」

だが敬介も瞬時に対応し、剣で刀を防御。
すぐに体勢を立て直し、ゼロに匹敵する高さを跳躍する。
だがゼロはそのまま中空で回転斬り、“空円斬”に移行。
ゼロの持つラーニングシステムによって、
スプリット・マシュラームとの戦いで会得したその一撃は、通常の一撃を上回る鋭さを持って敬介に襲い掛かる。
対する敬介は横薙ぎ。
黒騎士ブラフォードの剣自体の重量を遠心力と合わせ、破壊力へと変化させる。

そして接触。
耳障りな音と共に二人の体に走る衝撃。
その衝撃を逃がす大地のない中空にいた2人は、その反動を利用し互いに距離をとる。
数秒後、2体の機械人間は再び接近し、嵐のような激突を繰り返す。

「はあああああああっ!!」
「……!」

そしてまた白刃同士がぶつかり合い、火花を散らす。


   *    *     *


「……すげえ」

その光景にノーヴェは見とれていた。
稼働時間が比較的短いことに加え、ナンバーズの中で最強の突撃力を持つが故に常に戦いの真っ只中にいた彼女は、
他人の戦いを――それもここまで高レベルなものを傍から見る機会がなかったのだ。

日本刀を髪の毛1本分の見切りでかわす敬介。
返答のように放たれた剛剣を受け流すゼロ。
刃金が舞い踊り、金属同士がぶつかり合う音がリズムを取るそれはさながら一つの完成された芸術だ。

特にノーヴェの心を捉えたのはゼロの動きだ。
三角跳びに二段ジャンプ、空中ダッシュといったアクションを使いこなし男を翻弄するゼロ。
限定的な空戦を得意とするノーヴェには分かる。
単純に見えるそれがどれだけ困難であることか。

そしてその視線の先で均衡状態が徐々に崩される。
赤い旋風――ゼロの側に。
それは至極当然の結果と言えた。
無傷のゼロに対し、敬介は右腕に重症を負っている。
だがゼロはそれが卑怯だとは思わない。戦場では万全のコンディションで入れるほうが稀なのだ。
そして壊し合いに乗った相手に容赦する理由など、ゼロには欠片もない。

「悪いが俺はあいつほど甘くは無いんでな……破壊させてもらうぞ、イレギュラー!!」

このまま一気に切り伏せん、と夕凪を振りかぶる。
だが敬介の腹部に突如として巨大なバックラーが出現する。

――隠し武器か?
そう警戒し、ゼロは一旦距離を取ることを選択する。
敬介が隠し持っているのは兵器ではない。
隠されていたのはその機構。彼が彼である所以の一つ。

「大……」

両手を天に突き上げ、そのまま円を描くように腕を開く。

「変……」

そして腕が水平に達した時、腕を抜いて逆側に回す。

「……身! トォッ!」

一連の動作によって、体内のマーキュリー回路が作動する。
全身を包む銀のスーツ。首になびく漆黒のマフラー。
そして顔を包むのは額に輝く二つのVと赤い複眼を持った銀色の仮面。
光が収まった瞬間、そこにいたのは一人の異形であった。

「変型タイプ……!?」

異形――仮面ライダーXに変身した敬介は再び剣を構えゼロに向かってくる。
まるで最初の激突の焼き直しのように、その剣を正面から受け止めるゼロ。
だが激突したゼロの表情が驚愕に変わる。
スピード、パワー、すべてがさっきとは段違いだ。
威力を……殺しきれない!

歯噛みし、一旦距離をとることを選択。
だが、Xライダーは追撃するように剣による刺突を狙う。
先ほどから後手後手に回ることに舌打ちしながらも、回避のため体の軸をぶらす。

だがゼロの予想はまたも覆される。
突如その剣が途中で停止したのだ。

(フェイントだと!?)

目の前の異形は変身前は殆どフェイントを入れなかった。
したがってゼロは目の前の男をパワーによる剛の剣の使い手だと判断した。
だがそうではない。Xライダーが本来得意とするのは、ライドルを利用したトリッキーな柔の戦い方なのだ。
そう、自分はこの男の策略にまんまと引っかかってしまったのだ。

「おおおおおっ!」

後悔したときはもう遅い。異世界の英雄の使った名剣がゼロを襲う。
とっさに夕凪で防御するものの、あっさりと弾き飛ばされ、更に返す刃がゼロの首を狙う。
防御する手段はない。だが回避しようとするにも時間が足りない。
だが次の瞬間、一発の銃声と共にXライダーの身体が大きく横にずれた。
その隙に身を捻り、すんでのところで刃をかわすゼロ。
レッドアイザーの向いた先、その先には銃を構えるノーヴェの姿があった。
ゼロが教えた通り、腰を落し膝を使い、衝撃を足に逃がすようにしている。

Xライダーは一瞬迷った。
武器を持つもの、持たないものどちらを優先して倒すべきか、と。
とっさに視界に入ったそれをかわしたものの、あの銃弾の直撃を受ければ自分とてただではすまない。
それは僅かな――時間にすればゼロコンマ1秒にすら満たない迷いだった。
しかし勝負の世界では、それは致命的な隙となる。

「どこを見ている……貴様の相手は……この俺だ!」

ゼロは腰を落とし、低い体勢から蹴りを放つ。
その威力が大したものでないと踏んだXライダーは反撃のため、
あえて胸部装甲・ガードラングで受けきろうとした。
だが、それこそがXライダーの失策であった。

「そのまま吹き飛べッ!」
「!?」

Xライダーの瞳に映ったのは、ゼロの左足がオレンジ色のエネルギー波を纏う姿。
その一撃を喰らったXライダーは吹き飛ばされ、窓ガラスを突き破り教室へと叩き込まれる。

「ふぅ……」

机を巻き込みながら壁に激突するXライダーが、机に埋もれる姿を見て大きく息をつき、
あらためて自分に支給された品に感謝する。
ゼロに支給されたのは【チャージキックの武器チップ】。
ワイリーナンバーズ・チャージマンの武器チップである。
衝撃波をまとったスライディングを放てるようになるそのチップは、何故かゼロと規格が同じであった。
今回は空中ダッシュと組み合わせた変則的な使い方だったが、一応使用は可能らしい。
しかし斬撃を主体に戦う自分がキックを利用したのはいつ以来だろうか?
そんな風にして足の調子を確かめているゼロにノーヴェが駆け寄ってくる。



「……そんなのがあったなら、最初から出せよ」
「初めて使う武器だったんでな。
 どこのレプリロイドのものかは知らないが、俺向きのチップだ」
「チップ?」
「ああ、何だったらお前に……と、そういえばレプリロイドの規格が違うのか」
「だからそもそもあたしはレプリロイドじゃ……」

ふいに言葉を途切れさせるノーヴェ。
その視線はゼロの向こう側を、即ち校舎の中を驚愕の目で見ている。
そう、ノーヴェの視線の先、廃墟と化した教室内に佇むのは全身をボロボロにした銀仮面。
額に輝くV字アンテナは歪み、右腕の傷は一層広がっている。
……だというのに、その全身からみなぎる殺気は衰えるどころか激しさを一層増していた。

「チッ、まだやる気か……!」

――いいだろう、ならば確実にとどめをさしてやる。
迷うものならばともかく、完全にイレギュラーである者を倒すことに躊躇いはない。
二度と立ち上がれないように引導を渡してやる。

そう決めて一歩Xライダーに向かって踏み出し、その光の灯らぬ複眼を見据えた瞬間、
ゼロは形容しがたい悪寒を感じ取る。

「な、なんだあいつ……!?」

ノーヴェもその悪寒を感じ取っているが、その原因までは分からないようで戸惑いを隠せないでいる。
だがゼロはこの形容しがたい悪寒の正体を知っている。
空戦型レプリロイドに空中戦を、水中型レプリロイドに水中戦を挑んだとき、奴らはこういう殺気を放つ。
すなわち相手の領域に足を踏み入れてしまった時に放たれる狩人の殺気。

ゼロには感情を表さない銀の仮面が

――キックならば負けはしない。

そう、言っているかのように見えた。

そしてXライダーは天を仰ぐと、次の瞬間、窓を突き破り空高く跳躍する。
その体が頂点に達したとき、手足を大きく“X”のように広げた。

「お……おおおおおおおおおおっ!!」

満月を背にしての咆哮。理性を失ったかのようなそれはまるで獣の如く。
そして悟る。ゼロは経験から、ノーヴェは直感から。
今から繰り出される一撃は不可避にして、必殺の一撃なのだと。
回避は不可。そして恐らくは防御も不可。ならば対抗する手は……一つしかない!

「ノーヴェ……お前の命、俺に預けろ!」
「え?」
「多少の無茶は承知の上だが……やるしかない! お前の蹴りの威力を衝撃波に重ねる!」
「ああもう、下がってろって言ったり協力しろって言ったり、自分勝手過ぎるぞお前!」
「なら選べ! ここで死ぬか、それとも万が一に懸けるか、どっちがいい!」
「う……わ、わかったよ! あたしは……チンク姉と会うまでは死ねないんだ!」

それが答えだ。
だが死中に活を見出すにしても、分が悪すぎる。
ゼロ達はXライダーが何をしようとしているのか知らない。
だが生半可な技でないことだけは確かなのだから。

「タイミングを俺に合わせろ!!」
「ああっ、もう! どうなっても知らないからな!」

そして赤と青、銀の弾丸は一拍の溜めの後、

「いくぞ!」
「ああ!」
「X……キィィィィィィィック!!!」

グラウンドの上空で激突した。


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005:紅の出会い ゼロ 045:Take me higher!(後編)
005:紅の出会い ノーヴェ 045:Take me higher!(後編)
040:塗り潰された『PLUCK』 神敬介 045:Take me higher!(後編)





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