決意をこの胸に――(前編)◆14m5Do64HQ


夜か。
真っ暗な夜か。
全身が、今にも吸い込まれていきそうな深淵の夜。
そして自分達の世界ともいえる甘美な香りを漂わせる夜の闇。
自分が幾度もなく経験した真っ暗な夜がもう一度、目の前にある。
あの時、確かに自分の自動人形としての働きは終えたはずなのに。
自分を動かす歯車はキッチリと止まり、また、噛み合う事はなかったはずなのに。
いいようのない、驚嘆、疑問、矛盾。
それら全てを機械仕掛けの身体に宿し、彼は歩き続けていた。
錬金術師、白金によって作られし自動人形(オートマーター)の一体。
“真夜中のサーカス”の“最古の四人(レ・キャトル・ピオネール)”が一人。
“深緑の手(レ・マン・ヴェール・フォンセ)”の使い手であり、愉快な球乗り師。
パンタローネが歩き続けていた。

「フゥム、なかなか出会えないものだ。どうせなら、精一杯、このゲームとやらで遊んでやろうと思ったのだがな。だが――」

ふと立ち止まり、パンタローネは愚痴っぽい事を漏らす。
急に動きを止めたパンタローネの機械仕掛けの身体。
パンタローネの身体全身を駆け巡る歯車が噛み合う音、軋む音はハッキリとギシギシと音を立てる。
しかし、パンタローネは嫌な顔はしない。
何故なら、その音こそが、パンタローネが再びこの地で活動を行っている証拠。
ハーレクインに破れ、新たなフランシーヌ、才賀エレオノールの笑顔を見た刹那、停止した自分の歯車。
その歯車が恐らく、白金ことフェイスレスにより今、再び動いている。
嬉しいと思う反面、既にエレオノールの笑顔を見るという悲願は達成され、特にやる事もない。
エレオノールは加藤鳴海に任せれば、全く問題はないので彼女の元へ戻る必要もない。
そのため、パンタローネはこの殺し合いに乗った。
しかし、パンタローネには気にかけている事がある。

「人間は駄目だ。人間を殺すコトはエレオノール様の意思に強く反する。
先程の男はイマイチ判別できなかったが……まぁ、今度確かめればいいだろう」

それは先程出会った少年、R・田中一郎が人間であったかどうかという事。
パンタローネを含む、最古の四人はフランシーヌ人形によって、彼女を笑わせるために造られた。
フランシーヌ人形の創造主、白金。
自分が笑う事が出来れば、きっと白金は喜んでくれるという、フランシーヌ人形の願いが最古の四人に命を吹き込む結果となった。
しかし、フランシーヌ人形はパンタローネ達の知らぬ場所で壊れ、彼らはエレオノールを新たなフランシーヌ人形として崇める。
そして、その時パンタローネ達はエレオノールによって言いつけられたのだ。

――これ以上、人間を傷つけることは許さない

パンタローネには何よりも、自分自身の存在よりも優先するものがある。
それはフランシーヌ人形の、新たなフランシーヌ人形であるエレオノールの望み。
その定義はいかなる場合でも崩れない。
自分達とは違い、朱の血液が全身に流れ、やわらかな肉と皮に覆われ、筋肉や神経により身体を動かす存在。
不可思議な愛という感情に揺れ、悲しみ、喜び、そして笑顔を見せる存在。
エレオノールと同じ存在である人間はもう、傷つけない。
それがパンタローネにとって譲れない目的。
エレオノール、鳴海、阿紫花英良、生方法安と触れ合い、自分の生き方を見つめなおしたパンタローネ。

「さて、それでは行くとするか。そう――」

だが、パンタローネはこの殺し合いというゲームに乗る事にした。
勿論、人間は殺さない。

「人間ではない者達を破壊するために、このパンタローネの芸。とくと見せようではないか」

人間であらざる者。
機械仕掛けの身体を持つ者達の機能を停止、破壊するために。
パンタローネは再び、軽い足取りで歩き始める。

◇  ◆  ◇

夜だ。
綺麗な夜だ。
太陽エネルギーを力とする自分にはあまりいい気候とは言えない。
けど、このひんやりとした冷気はとても心地良く感じる。
そんな事を思う男、いや、少年が一人。
その少年の身体は機械で出来ていた。
パンタローネやこの殺し合いの主催者、シグマのように。
少年は青いボディアーマーを纏い、そして同じく青いヘルメットを被っていた。

「ねぇ、キッド。君の世界はどんな世界だったのかな?」

少年の名はロックマン。
創造主、Drライトにより造られ、戦闘用に改造され、守るべきものを守る力を与えられた少年。
悪の科学者、Drワイリーが造り出した、凶暴なロボット軍団。
ワイリーの野望を打ち砕くために、闘い続けたロックマン。
そんなロックマンがふと、少し身体を屈めて、口を開いた。
エリアH-5北東部、森林内を共に歩く自分の小さな同行者に向かって。

「んーそうだなー。学校はだるかったけど、面白かったぜ! 王ドラやみんなも居たからな」

ロックマンの言葉を受け、ドラ・ザ・キッド、通称キッドが口を開く。
身体の色は明るく、透き通ったような黄色。
派手なテンガロンハットを被り、これまた派手な装飾を施したネコ型ロボット。
耳のパーツがなければタヌキとも思える微妙なデザイン。
その足取りは勇ましく、見る者に彼の意思の力強さを印象づかせる。
地を踏みしめる時に聞こえる、気の抜けるような擬音が何処となく緊迫感を失わせるが。
互いの世界や身の上の話をしながら、ロックマンとキッドは暫く歩き続ける。

「ふーん。なるほどなぁ! ロックマンは21世紀から来たのか。
俺は22世紀から来たんだけど……やっぱ、あのシグマってヤツは……」
「うん。きっとタイムマシンを使って僕達を連れてきたんだね」

互いの世界の相違などから、シグマが自分達を此処へ連れてきた理由を推測する二人。
タイムマシンという非現実的な代物を、直ぐには連想する事は難しい事と思える。
だが、ロックマンもキッドも直ぐにタイムマシンの存在を思い浮かべる事は出来た。
何故なら、ロックマンとキッドがそれぞれ住んでいた世界。
ロックマンの世界ではワイリーが造ったタイムマシン、キッドの世界では秘密道具によるそれ。
二人にとってタイムマシンなど別に、突拍子もない代物ではないからだ。
それゆえにすんなりと推測を行える事が出来たのは幸運な事といえるだろう。
そんな時、ふとキッドが口を再び開く。

「なぁ、ロックマン。ロックマンのコト、ロックって呼んでもいいか?
ロックマンよりロックの方がカッコいいし、俺と同じ三文字で丁度いいしさ」

ロックという愛称で呼んでいいかとロックマンに訊ねるキッド。
大きく開かれた瞳にジッと見つめられるロックマン。
キッドが投げかける視線には、一寸の蟠りもなく、只、純粋にロックマンの返答を待つ。
ロックマンはキッドと同じくお手伝いロボットの時に、Drライトにロックと呼ばれていた。
未だワイリーの脅威に世界が脅えなくてもよかった懐かしき過去。
その時の記憶が、キッドが言ったロックという言葉により鮮明に蘇り、ロックマンは柔らかな笑顔を見せる。

「勿論だよ、キッド。だって僕達は友達だからね」

その笑顔は当然、肯定の意を示すもの。
未だ出会って、あまり時間は経っていないものの、キッドの人柄がロックマンには心地良かった。
大らかな性格に、まるで勇気を与えてくれるようなキッドの笑顔。
聞けばキッドは自分と同じタイプの仲間が、友情の輪で繋がった仲間が何人も居るらしい。
そんなキッドが、ロックマンには少し羨ましかった。

「ああ! じゃあよろしくな、ロック! いつか王ドラ達にも紹介してやるよ!」

――その瞬間。
ロックマンの方を見上げたキッドの顔面に、弾丸が音を立てながら迫った。

◇  ◆  ◇

「おい! 大丈夫か、ロック!?」

転倒した身体を必死に起こし、キッドが叫ぶ。
幸いキッドには、転倒した時についた掠り傷しか損傷はなく、行動になんら支障はない。
だが、キッドにはとても手放しで喜べる状況ともいえない。
必死の形相で見つめるキッドの視線の先に存在するもの。
キッドの同行者であり、自分を友達だと優しげな笑顔で言った少年。
その少年、ロックマンが膝を地に屈し、一点を見つめ続けていた。

「ッ! 君の方こそ、大丈夫かいキッド!?」

キッドから弾丸を守るために、少し手荒ながらも彼を突き飛ばしたロックマン。
ブルースシールドを使う手もあったが、弾丸に気づくのが遅く、それは叶わなかった。
更に、キッドはロックマンより小さく、脚で蹴り飛ばす事も勿論、出来るわけもない。
そのため、ヘッドスライディングの要領でキッドを突き飛ばしたため、ロックマンの体勢は崩れていた。
咄嗟に右腕のロックバスターを展開し、弾丸を防ぎながら。

「バカヤロー! 俺のコトより、自分のコトを心配しろ! それよりも――」

あくまでもキッドの身を案じ、己の事について何も言及しないロックマン。
そんなロックマンに怒声を浴びせながら、キッドは走る。
左腕には既に支給されたガトリング砲を装備済み。
一歩一歩の間隔はロックマンに較べて、キッドのそれは格段に狭い。
だが、キッドは両眼を見開いて、ガトリング砲に手をかけ、ロックマンの傍まで走り寄る。
キッドの意図を直感的に理解したロックマンも、直ぐに立ち上がり、ブルースシールドを掲げる。
やがて、完全にロックマンの傍まで近づいたキッドが、ガトリング砲の砲身を上げる――

「何しやがる! このヒキョーヤローがッ!!」

ついさっきキッドに弾丸を放ち、今は何処に立っているのかもハッキリ確認出来る程、近づいてきた影。
不気味な笑みを浮かべ、キッドとロックマンの方へ近づいてくる影。

「ほぅ。なかなか楽しませてくれそうだな」

奇妙な道化師風の衣装を纏いし人形、パンタローネがキッドへ言い放つ。


ああ、楽しいな。
やはりこの空気は素晴らしい。
この空気こそ、このゲームを楽しむ時の感覚は忘れる事は出来ない。
だから、私はこの身体がもう一度止まる、その時まで。
精々、踊り続けよう。

「おい! てめぇ、なんで俺達を襲ったんだよ!?」
「僕達にはあなたと争うつもりはありません! 話を聞いてください!」

キッドはガトリング砲を、ロックマンはブルースシールドを構えながら、パンタローネに叫ぶ。
有無を言わさず、攻撃を仕掛けてきたパンタローネに二人は、直ぐに反撃は行わない。
積極的に他者とは争わずに協力し、共にシグマを打ち倒す事が目的の二人。
そのため、出来るだけシグマ以外の者とは交戦を行いたくはないからだ。
だが、パンタローネは二人の言葉を尻目に歩を進め続ける。
一向に止まる気配を見せないパンタローネに二人は緊張に身を僅かに震わせる。
パンタローネの口元が歪む。
対峙する二人の表情に、更なる緊張が走る。
そして――

「では、闘いを始めよう。少々手荒いが、まぁ我慢してもらおうかな」

パンタローネの歩みが、急速に速まり、弾丸のように駆けた。
キッドとロックマンの二人へ向かって。


「くそ! 俺達の話を聞けってんだ!」
「仕方ない……キッド! 僕があの人を止めてみせる。だから君は後方で援護してくれ!」
「おお! 任せろ、ロック!」

ブルースシールドを背中に背負い、スレッジハンマーを両手に握りしめ、走り出すロックマン。
ロックマンの後方にはガトリング砲で狙いを定めるキッド。
勿論、狙いは一向に自分達の話を聞かずに、攻撃を続けようとするパンタローネ。
自分達は充分にパンタローネと話し合うように持ち掛けた。
だが、結果としてパンタローネは、それらを全て無にした。
憤りに似た思いに駆られ、同時にやるせなさを覚えながらも、キッドはガトリング砲の引き金を引く。

「おおおおおおおおおおっっっ!?」

ガンマンであるキッドは普段、秘密道具である空気砲を用い、ガトリング砲など扱った事はない。
空気砲が撃ち出す空気の塊とは違い、充分な殺傷能力を秘めた実弾。
しかも撃ち出される弾の数は一発ではなく、その数は数えきれない程の数。
当然、弾を撃ち出す際の反動も大きい。
そのため、初めてガトリング砲を扱った事による衝撃にキッドは驚き、体勢を崩し、足取りがフラつく
だが、銃弾は無事、発射された。
普段から空気砲での射撃を得意とするキッドの正確な狙いによって、無数の銃弾が軌跡を描く。
対象はパンタローネ。
今、現在、一刻も早く強引な手段を使ってでも、沈黙させなければならない相手。
崩れ行く体勢の最中、無数の銃弾がパンタローネに吸い込まれる光景を、キッドはその機械仕掛けの瞳にしっかりと焼き付ける。

「ふっ、無駄なコトを。自動人形相手に武器を使うとはな」

しかし、パンタローネには一発の銃弾も当たらない。
幾らガトリング砲による、高い速度を伴った自動掃射でも距離が離れていては避けられる可能性もあるだろう。
実際、パンタローネとキッドの距離は軽く二十メートル以上は離れ、慣れない武器でもあり、キッドの挙動はわかりやすかった。
だが、パンタローネはその場で立ち止まり、銃弾を避けたわけではない。
疾走は緩めず、まるでガトリングの銃弾が自分へ向かっている事も気にせずに。
なおかつ、更に速度を速め、一瞬でキッドの元へと辿りつくために、パンタローネが一陣の風となる――

「は! 速えッ!!」
「ぬっ! この速度は……!?」

銃弾が全て避けられ、更に自分との距離を縮められ、思わず間抜けじみた声を上げるキッド。
だが、驚いた人物はキッドだけではなく、パンタローネも彼と同じように驚いている。
その理由は、パンタローネにとって、普段の自分から想像も付かない程の遅速さによるもの。
キッドにとっては充分に速いと思えたパンタローネの速度。
しかし、パンタローネには、いや彼だけではなく全ての自動人形にはある能力が備わっており、尋常ではない速度を出せる。

(何故だ、まさか……“黄金律”が動いているのか!?)

“黄金律”
通称“ゴールデン・ルール”といわれ、全ての自動人形に備わる力。
本来、自動人形とは人間達に恐怖と苦痛を与える道化として、造物主、白金によって造られた。
人間を自分の芸に対する『観客』に見立て、恐怖と苦痛を届ける役目を自動人形は担っている。
また、観客である人間に自分の動きを、演技をしっかりと見て貰わなければ意味がなく、恐怖や苦痛は生まれない。
そのため、自動人形は人間の目の前では、彼らと同程度の速さでしか動く事は出来ない。
だが、その定義には例外もある。
自動人形は何も武器を持たない人間を観客と見なし、黄金律は機能する。
そう。たとえば、ガトリング砲を装備したネコ型ロボット。
そんな相手には黄金律は機能せず、異常な速度で動き回る事が出来る。

「チックショー! もう、容赦はしねぇぜ!!」

だが、パンタローネの速度はシグマの制限により、多少は速くなったが普段通りではない。
そのため、一瞬で零距離までに接近を行われずに済んだキッドが、距離を取るため、後方へ飛び退く。
パンタローネに対し、一直線に向かれる、緑色の重厚なガトリング砲。
大袈裟な駆動音、銃弾が擦れ合う音、火花を撒き散らしながら暴力的な銃弾が再び空を切る。

(俺だって、出来ればこんなコトはしたくねぇよ……。でもな! こいつは危険だ! こいつはここで止める!)

本来は戦闘を目的ではなく、お手伝いロボットとして作られたキッド。
だが、キッドは今まで王ドラを含む友人と共に、数々の事件に巻き込まれる度に空気砲と仲間との友情の力で潜り抜けた。
しかし、その行動にはいつも友人や自分の身といった、何かを守る意思に基づいている。
決して、闘いでしか己の欲求を満たせない狂人とは違い、キッドは無駄に相手を傷つける気はない。
だが、パンタローネのような、問答無用で攻撃を仕掛けてくる奴は別だ。
パンタローネを放置すれば、王ドラだけでなく、自分と同じ志を持った人達にも危険が及ぶ可能性がある。
そのために、キッドは意を決し、再び引き金を引き続ける。

「ふん。だが、この程度ならば造作もないことよ!」

しかし、パンタローネは銃弾を避ける。
先刻、自分の速度の遅さに驚いたため、ガトリング砲の銃弾の速さのために、数発の銃弾はパンタローネの身体を僅かに掠める。
だが、決定打には成り得ない。
一瞬、表情を顰めるだけでパンタローネの地を駆ける走破には特に影響を及ぼさない。
非常なる現実に、キッドは背筋に悪寒のようなものが走るのを、何故だか確かに感じたような気がした。
機械仕掛けの身体であるにも関わらず、パンタローネの速度、反応性に、キッドは恐怖を覚える。
そして、パンタローネが右腕をキッドに向けるが。
一閃の軌跡により、大気が確かに揺れを起こす。

「だああああああああぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!」

気合一発、パンタローネに嫌でも響く咆哮。
パンタローネによるキッドへのこれ以上の接近、攻撃を防ぐために、ロックマンが二人の間に割り込む。
そう。ありったけの声を上げ、スレッジハンマーを大きく振りかぶったロックマンがパンタローネへ向かう。
異常ともいえる質量を誇るスレッジハンマーを片手で扱うのは難しい。
そのため、柄を両腕で握り締め、おもいっきり横方法へ振りぬき、パンタローネに決定的な沈黙を与える。
それが、ロックマンがひとたびの苦悶の末、下した決断。

(自動人形と言ったけど、この人もワイリーが造ったロボットみたいに、何も罪がない人達を狙うのか……?
だったら、見逃せない!)

お手伝いロボットとして作られたが、ワイリーの野望粉砕のために、戦闘用として改造されたロックマン。
だが、ロックマンには争いを好む心は持っておらず、心優しい少年型ロボット。
出来ることなら誰も傷つけずに、どんな相手とも手を取り合い、平和な世界を望んでいる。
しかし、話し合いではワイリーの野望を止める事は出来ずに、ロックマンは幾度もなくロックバスターで闘った。
本当は闘いたくない、壊したくない。
けど、闘わなければ、自分を敵と判断してくる者を壊さなければ、平和な時代を迎える事は出来ない。
いいようのない葛藤を抱え、その度に己の道を決断したロックマン。
勿論、今回も例外ではなく、パンタローネを止めるためにロックマンは武器を行使する決断をした。

「ぬぅ……しかし、まだまだ甘いぞ!」

キッドへ向けていた右腕を下げ、パンタローネが身体の重心を左へ向ける。
左から横殴りに迫り来るスレッジハンマーを一瞬で飛び越え、宙を舞うパンタローネ。
再びかざされたものは右腕。
掌、五本の指にポッカリと空いた計十個の空洞。
その空洞に大気中の空気を圧縮し、
先程キッドに撃った空気の弾丸を掌に空いた大穴から発射する“深緑の手”(レ・マン・ヴェール・フォンセ)。
深緑の手をロックマンに叩き込もうとするが、パンタローネは表情を顰める。
何故ならロックマンは既にスレッジハンマーは手放し、パンタローネの真下に迫っていた。
得意中の得意技、スライディングを行い、パンタローネを真っ直ぐと射抜く。
チャージは既に完了し、エネルギーを得る事に成功したロックバスターをパンタローネへ向ける――

「こしゃくな真似をッ! 深緑の手(レ・マン・ヴェール・フォンセ)ッ!」
「チャージショット! これならぁぁぁッ!!」

数発の空気の弾丸である深緑の手、そして太陽光エネルギーを光球として撃ちだすロックバスター・チャージショット。
二つの叫び、太陽光の力と空気圧縮の力がぶつかり合う。
今、現在太陽は沈んでおり、チャージショットは充分な威力は撃ちだす事は出来ない。
だが、深緑の手は一発を重視するものではなく、どちらかというと手数で勝負を決める攻撃手段。
瞬時に連射は行ったものの、不十分でありながらもチャージショットに押し負け、パンタローネの身体が被弾、体勢を崩す。
対するロックマンは確かな手ごたえを感じながらそのまま、パンタローネの下を潜り抜け、
しかし、深緑の手でチャージショットの威力は分散され、パンタローネの全身には然程ダメージはない。

「俺を忘れるなよ! 釣りはいらねぇから、 全部持ってけぇッ!」

再び火を吹き、鉛球を連射するキッドのガトリング砲。
薬莢が地に落ちる音がコロコロとこの場に場違いな音が響く。
パンタローネの不規則で、速さを伴った動きをキッドはガンマンとして培った動体視力で捉える。
狙いはドンピシャ、一寸の狂いもなし。
発砲する瞬間はロックマンのチャージショットが撃ちだされた瞬間と、ほぼ同一のタイミング。
チャージショットの未知なる力に驚いていたパンタローネに避ける術はない。
吸い込まれるように、パンタローネの全身を滅多打ちに叩く銃弾。
「キッド! ここで勝負をつけるよ!!」
「任せろ、ロック!!」
体勢を整え地を踏みしめ、立ち上がったロックマンがロックバスターを連射。
チャージを行っていないため、威力は大した事はない光球がパンタローネの背中に直撃。
それでも、勿論、ダメージがないわけではない。
確実にパンタローネのボディに損傷を与え、同じようにキッドのガトリング砲も彼に損害を与える。

「……なめるなぁ! この私がこれしきのコトでッ!」

だが、パンタローネも只では終わらない。
空中でパンタローネは深緑の手を発射。
圧縮された空気の弾丸が撃ちだされた反動により、ロックマンとキッドの射線上から身を逸らす。
まるで演舞を舞うかのように、身体を回転しながら、地へ着地し、二人と一旦距離を取る。
パンタローネの掴みどころのない動きに驚きながらも、ロックマンとキッドは銃撃を止める。
キッドは残りの銃弾の確認、ロックマンはスレッジハンマーを拾い上げ、二人は再び合流。
全身に銃弾と光球を貰ったパンタローネとは違い、さしたる損傷は二人には見受けられない。

「もう止めてください! これ以上は無意味です、降参してください!」
「そうだ、今なら許してやってもいいぜ!」

共に口を開くロックマンとキッド。
今回は運がよかったが、このまま戦闘を続けては、自分達もどうなるかわからない。
そのため、今一度ロックマンとキッドは休戦を呼びかける。
だが、パンタローネは答えない。
「なかなかやるな、ならば私が手に入れたこの遊び道具。未だ使い慣れてはいないが、相手になって貰おう」
ロックマンとキッドが期待する言葉を、パンタローネには全く言う素振りは見せない。
只、己に支給されたPDAを機械的に操作し――
「真夜中のサーカス、“最古の四人(レ・キャトル・ピオネール)”の一人。
“深緑の手(レ・マン・ヴェール・フォンセ)”、パンタローネの相手としてな」
己の名を呟き、支給された支給品を転送し、再びロックマンとキッドへパンタローネは。
突撃を開始する。

◇  ◆  ◇

夜だ。
正真正銘の、紛れもない夜。
今まで何度も見た事があり、特に新鮮さは感じない夜。
だけど、今日眺める夜はどうしようもなく、僕の心を騒ぎ立てる。
何故なのだろう?
真っ暗な空を見ると、いや、問題は空じゃない。
きっと僕は黒という色に脅えている。
漆黒の黒。
黒という色は僕にはきっと、この先ずっと忘れられない程に印象深いから。
だって、あの娘は黒色の服を着ていたから。
さっきまで一緒に行動を共にしていた少女。
時々、手痛い言葉を投げ掛けてきたけど悪い娘じゃない。
会ったばかりなのに悪い娘じゃないとわかった、あの少女。
守ってみせる、そう誓ったはずなのに……願ったはずなのに……僕が、僕が……

『ジョー!』

あの少女の最期の言葉。
自分を助けるため、果敢にも飛び込んできた少女。
一瞬の爆発により、見るも無残な破片と化してしまった少女。
彼女が死んでしまった原因はあの男のせいじゃない。
そう。全ては……全ての業の在処は……。

「……ドロシー…………」

僕にある。
だから、僕は償いをしなければならない。
理屈ではそう思う。
先ずは彼女の、ドロシーへのせめてもの償いとして彼女を手厚く埋葬する。
そう思っていた筈なのに……何故か僕は逃げてしまった。
ドロシーから、この世界に在る全てのものから、00ナンバーの誇りさえも捨てたかのように僕は走った。
僕がドロシーを殺した事実から、逃れられない罪から逃避するかのように逃げた。
自分でも嫌になる程、自覚できる
そうさ、僕は、僕は……

「ごめん…………」

僕は最低だ。

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047:人間でない者たち/されど、人間だった者たち 009(島村ジョー) 052:決意をこの胸に――(後編)
015:本件は拉致事件であってゲームではない パンタローネ 052:決意をこの胸に――(後編)
010:ELECTRICAL COMMUNICATION ロックマン 052:決意をこの胸に――(後編)
010:ELECTRICAL COMMUNICATION ドラ・ザ・キッド 052:決意をこの胸に――(後編)





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