漆黒と紅の零地点 ◆2Y1mqYSsQ.


 暗闇がはれていき、徐々に赤紫色に染まる空を見つめ、バイクを走らせる漆黒の男が一人。
 風を切る感覚を、体内の触感制御装置によって反応が起きるサブローは、先ほどの仮面ライダーZXとの戦いの心地よさに身を委ねていた。
 全力での技のぶつかり合い、キカイダーとの戦いでは望んでも叶えれなかった戦い。
 サブローは仮面ライダーZX・村雨良に感謝をしている。最期の望みを叶えてやりたいほどに。
 とはいえ、サブローの目的はあくまでもキカイダーの破壊。
 仮面ライダーとの死闘は心が躍り、己が存在意義を満たしてくれるが、あくまでも過程にすぎない。
 全ては宿敵キカイダーとの再戦のために。
 それ以外は、シグマが何を企もうとも、誰がどのように死のうとも、サブローの知ったことではない。
 仮面ライダーへの伝言とて、サブローと全力の戦いを楽しませてくれた村雨に対する礼でしかなかった。
「……安心するんだな。仮面ライダーZX。たとえ仮面ライダーを俺が破壊したとしても、バダンとかいう連中は俺が破壊してやる。
この俺に、キカイダーとの戦い並みの楽しさを教えてくれた礼としてな」
 サブローは口角を持ち上げて、アクセルグリップを捻ってバイクを加速させる。
 次の戦いは、次の仮面ライダーとの戦いは、自分を満足させてくれるはずだと、確信を持ってサブローは道路を駆け続けた。
 サブローの人工眼球が周囲を見渡すと、遥か前方にタンクローリーが停車している。
 人がいる。なら、仮面ライダーの居場所を聞きだす絶好の機会だと、サブローは思考した。
 バイクの排気音がいっそう高く響き渡った瞬間、サブローの身体が漆黒の機械に覆われていく。
 地面を跳んで、瓦礫を乗り越えたサブローの身体が変化を始める。
 黄色い稲妻の走るハカイダーの黒い機械の身体と、人を模したサブローの身体が入れ替わる。
 その顔に機械のマスクが被るように顕在して、頭頂部がクリアになり、ハカイダーの唯一の生体部品、脳が透明なフードに包まれて現れた。
 バイクを横滑りにブレーキをかけながら、左手の二連キャノンを装着して、銃口を正確にタンクローリーの扉に向け、引き金を引く。
 少女とタンクローリーのドアを間を正確に撃ち抜いた。
「ノーヴェ!」
「答えろ」
 ハカイダーのカメラアイが並ぶ四人を見つめる。
 赤い装甲を身にまとう、人間に似た人造人間の戦士。
 少女の姿をした、人と機械の混ざった改造人間。
 ブリキ人形のようなロボットたち。
 ハカイダーが四人を制し、問いかける。ハカイダーの求める答えは一つ。

「お前たち、仮面ライダーを知っているか?」


 突然の乱入者をゼロは見つめる。
 いきなり銃を撃ち、殺気を放つ。どう見ても敵にしか見えない。
 殺し合いに乗っている可能性は高いが、ゼロには一つ疑問があった。
 探し人がいるということである。「仮面ライダー」という名は名簿にはない。
 目の前の敵が名簿を未確認だと考えにくい。何らかのコードネームかもしれない。
 ゼロは思考をめぐらせる。下手に答えれば戦闘が起こるだろう。
 あの変身タイプのレプリロイドを相手にし、傷も疲労も残っている。
 そして、傍には姉が殺し合いに乗ったと知ってしまったノーヴェがいる。
 どうにかあしらおうとゼロは思考をし続け、目の前のハカイダーとの交渉に入ろうとした。
「仮免ライダーだか、仮面ライターだか、超人ノリガーだか知らんが、いきなり鉄砲をぶっ放しやがって! 覚悟は出来てんのか!? ああん!」
 だが、ドラム缶のようなレプリロイド――おそらく旧タイプのレプリロイドなのだろう――が台無しにする。
 調子が崩れ、体勢がカクッ、となったゼロがメカ沢を睨みつける。
 もっとも、メカ沢はそんな空気知ったことかとメンチを切るのをやめない。
「おうおうおう、だいたいお前は仮面ライダーとどういう関係だ?」
「俺は仮面ライダーを一人殺した。奴らとは、殺し、殺される。それだけだ」
 ハカイダーの答えに、周りが凍りつく。敵はすでに一体、壊しているのだ。
 交渉など甘かった、とゼロは思考し、刀を握り締め、右前方にいるノーヴェを逃がす方法を考える。
 一番無難な手は、目の前の二人のレプリロイドにノーヴェを託す、という線だろう。
 しかし、出会ったばかりの二人をゼロはいまいち信頼し切れていない。
「あなたは……この壊しあいに参加するのデスカ?」
「俺はキカイダーを破壊するために生まれた。破壊することこそ、俺の存在意義!!」
「てめ……」
 メカ沢が怒りを持って、ハカイダーの前に立つ。ハカイダーが興味深そうにメカ沢に視線を移し、笑った。
「やるのか? 俺は構わんぞ」
「おおよ、お前みたいのは許せねえんだよ。鉄砲でも何でも使いやがれ。
俺は素手でお前に焼きを入れてやる!」
 メカ沢が前に出ると同時に拳を振り上げた。
 ギュィィィィンという音がゼロの……いや、その場にいる全員の耳に入る。
 その拳は……ドリルが唸っていた。

( ( (てか、素手じゃない(デスヨ)!!!)))

 三人同時に同じことを思ったが、そのことを知るものは誰一人いなかった。


「ほう……素手で勝負か。いいだろう、俺も銃は使わない」
「へ……根性は認めてやる」
 素手じゃないだろ、という周りの心のツッコミを無視して、ハカイダーは一瞬でメカ沢との距離を縮めた。
 ハカイダーの右回し蹴りが、メカ沢が反応する暇もなく神速で決まり、廃ビルの壁に叩きつける。
「グッ……」
「フン、威勢だけで、硬さだけで俺に勝てると思うな」
「この程度、屁でもねえ!」
 震える身体を必死に持ち上げ、メカ沢はハカイダーに告げる。
 ハカイダーは、目の前の黒いロボットは、殺し合いに乗ったのだ。
 弱い奴が、戦えないような奴がいるこの場で。
 そいつを倒さず、そいつを見逃して、何がクロ校の不良か。
 マヌケだが、気のいいクロ校の奴らに申し訳がない。
 メカ沢は全身に力を入れて、震える身体を無理矢理立ち上がらせる。無意識に口は叫び声をあげていた。

「ウオォォォォォォオォォォォォォォォォォ!!」

 立ち上がって走るメカ沢に、ハカイダーは無慈悲な踵落としで頭部をへこませる。
 地面を軽くバウンドするメカ沢をさらに蹴り上げて、そのドラム缶のような身体を宙に浮かせた。
 続けて、拳の連打をメカ沢の胸に当たる部分に打ち込む。
 ハカイダーは拳の跡がくっきり残ったメカ沢の学ランを引っつかみ、肩に乗せて投げ飛ばす。
 この間、三秒。誰の反応をも許さない、暴力の嵐だった。
「メカ沢! あなた、ヤメナサイ!」
 ハカイダーに向けてロボが右手を向けるが、メカ沢が制止する。
 なぜ、と呟くロボにメカ沢はハカイダーを睨みつけながら、ボロボロの身体で立ち上がった。

「男と男のタイマン、水をさすんじゃね……!」

 メカ沢の不屈の姿に、ハカイダーは内心ニヤリと頬を緩める。
 ハカイダーはロボに対応できるよう身構えていた銃を、腰のホルダーに収めてメカ沢に向き直った。
「いい覚悟だ。いくぞ!」
「おう! こいや!!」
 ハカイダーは神速でメカ沢に迫り、突き手でメカ沢に迫った。
 ロボすらも反応できない速さ。フラフラのメカ沢には反応しようがない。
 速度と角度から推測するに、メカ沢の胴部を貫くには充分な速さだ。
 金属を打ち据える甲高い音が響き、廃ビル群に響いて消える。
 ハカイダーの右腕は、メカ沢を貫いていない。
「……選手交代だ」
 ゼロが赤い風になり、メカ沢とハカイダーの間に割って入ったのだ。


 ゼロの手に握る刀がハカイダーの凄まじい力に僅かにひびが入る。
 目の前の男の技を受けるには、頼りないと言わざるを得ない。
「おい、てめえ……」
「タイマンの邪魔をしたのは謝る。だが、お前たちには別に頼みたいことがある」
 言い切ると同時に、ゼロは刀を振り切り、ハカイダーを突き飛ばす。
 この間、ハカイダーは無言。敵は自分たちに一撃加えることも出来たはずなのに、たいした余裕である。
 ゼロはとりあえず、敵に対する正義感を見せたメカ沢たちを信頼することに決めた。
「ノーヴェを頼む」
「てめえで面倒見やがれ!」
「…………頼む。お前たちは、あいつの姉の情報を持っているんだ。
一刻も早く、あいつを姉に再会させてくれ。あいつの姉が、殺し合いに乗っているならなおさらな」
「ふざけるな! あたしはお前なんかに心配される必要は……」
「いいから行け! こいつは……俺が食い止める!」
 ゼロは叫ぶと同時に、ハカイダーに向かって刀を横凪に振るう。
 受け止められるが、予想通り。そのまま力任せにハカイダーを押し込んでいく。
 ここでは、ノーヴェたちを巻き込みかねない。精神が不安定なノーヴェは、目の前のハカイダーに敵わないだろう。
 移動させねば。その思考を嘲笑うかのように、ハカイダーが声をかけてくる。
「移動しようというのか。構わん。この先の工場に向かうぞ。
溶鉱炉があったが……戦うには困らないだろう」
 あっさりとこちらの意図を理解し、むしろ率先するように移動を始めた。
 どういうつもりか知らないが、ゼロにとっては都合がいい。
 ハカイダーの後をゼロは駆けていった。


 脅威的な速さで離れていく二人を、残された三人は見送ることしか出来なかった。
 悄然としているノーヴェ、ボロボロのメカ沢を前に、落ちていた二つのPDAを拾ってロボは一人奮闘せねば、と決意をする。
 さっそく二人にメカ沢の表面を探り、酷い損傷がないか確認する。
「ちっ……結局、ボロ負けかよ……」
「いいえ、メカ沢、あなたはよくやりマシタ」
 納得いかない表情でメカ沢はそっぽを向く。それぐらい元気があるのなら、当分の間は問題ないのだろう。
 ロボはメカ沢に手を貸して立ち上がらせ、今度はノーヴェに近寄る。
「ダイジョウブデスカ?」
 ノーヴェは無言。反応がないことに、どこか怪我をしたのか、ロボは心配をする。
 姉が殺し合いに乗っているかもしれないのだ。仕方がない。
 そう思って気を使うが、メカ沢はそんなのお構い無しだった。


「……おい、何とか言えよ」
「メカ沢……」
 制止するロボの手を、メカ沢が乱暴に払いのける。
 そのままノーヴェの襟元をメカ沢は掴み上げ、顔の高さを合わせた。
「てめ……姉貴が殺し合いに乗っているのに、うじうじするだけか?」
「なんだと……」
 ノーヴェが凶悪な殺気をメカ沢にぶつける。
 メカ沢とノーヴェの二人を心配してロボは仲裁に入ろうとするが、二人が無言で拒んだ。
「お前に何が分かるんだ! あいつは、ゼロはあたしたちを庇って一人で行った。
そして、あたしは、あたしは……チンク姉に…………」
 捨てられたかもしれない。小さいが、確かにメカ沢の耳に届く。
 それでも、メカ沢は聞こえないような振る舞いをやめない。
「へっ、分からねえよ」
 言い切ると同時に、メカ沢はノーヴェの襟首から手を離す。
 ノーヴェの瞳をメカ沢は真正面から睨みつけ、腕を振り上げて拳を作って、ノーヴェの眼前に突き出す。
「いつまでもうじうじ悩みやがって。悩んだってな、後悔したってな、時間を無駄にするだけなんだよ!」
「だったらどうしろっていうんだ!」
「決まっているだろ! あの金髪のキザ男を助ける。お前の姉ちゃんの目を覚ます。両方やるんだよ!」
「どうやってだよ!」
 自慢でないが、メカ沢は頭のいいほうではない。
 引き算さえ出来ればゴリラでさえ入れるクロマティ高校の学生なのだ。
 機械の扱いも駄目で、体内に仕掛けられた爆弾をどうにかする手段などない。
 腕っ節もそこらの素人には負けないが、先ほどのハカイダーのようなプロには手も足も出ない。
 だが、悩みはしない。後悔もしない。
 己の男気に従って、不良としての誇りを胸に突き進むだけだ。だからこそ、即答する。
「知るか、そんなもの! 会ってから何とかするしかないだろ! 俺は考えんのが苦手なんだよ! 馬鹿だから!!」
「うるさい! あたしだって難しいこと考えるのは嫌いだ!」
 その一言を聞き逃さず、メカ沢は目を光らせる。
 右手をノーヴェへと差し出した。
 キョトンとした様子で、ノーヴェは単純な構造のメカ沢の右手を見つめている。

「だったらよ……行動するしかないだろ。俺らは馬鹿だからな」

 だいたい、俺たちクロ高生に知性を求めるな。
 メカ沢は内心呟きながら、面倒を見なければならない少女へと、不良として、男として、手を差し出した。


 差し出された右手をノーヴェは見つめて、ノーヴェは俯いた。確かに、メカ沢の言うとおり、ここで後悔しても始まらない。
 チンクが殺し合いに乗り、自分を見捨てたかどうかなど、後で考えればいい。ゼロを助ける。その後で、チンクを説得する。
 不細工なロボットに諭されて、ようやく気づく単純な答え。やはり、自分は考えることが苦手な方のようだ。
 礼を言おうとして、メカ沢の顔を見ると、笑いがこみ上げてきた。
「ハハッ!」
 頭が冷えて、あらためて見るメカ沢の顔がおかしくてしょうがなかったのだ。
 ノーヴェは堪えていた、笑い声をあげる。
「お、おい……どうした?」
「わりい……あたしとしたことが、ちょっとテンパっていたみたいだ」
 ゆっくりとメカ沢の右手を掴み、引き上げてもらう。
 立ち上がって、ノーヴェはゼロが消えた先を見つめた。
「まずはあいつを助けたい。けど、一人じゃ無理だ」
 ノーヴェはハカイダーの動きと、Xとの戦いを思い出す。
 先ほどの敵、Xの能力は凄まじく、ゼロのサポートに回るのが精一杯だった。
 軽く見せただけだが、ハカイダーはおそらく、Xに負けず劣らず戦闘能力に長けているだろう。
 ノーヴェ一人ではゼロを助けることは不可能だ。だからこそ、目の前の二人を、ノーヴェに叱咤した相手を、仲間と認めて助けを求める。

「だから、あたしに力を貸してくれ。頼む!」

 両手を合わせて、ノーヴェは二人に拝みこんだ。ゼロは自分を助けてくれたのだ。
 その恩人を見殺しには出来ない。あのハカイダーと戦えなど、特に痛めつけられたメカ沢に助けを求めるのは理不尽かもしれない。
 数秒頭を下げたままにするが、反応がない。無理もないか、と思ったノーヴェが顔を上げると、タンクローリーから半身を出すメカ沢がいた。
「おい、追いかけんぞ。とっとと乗りやがれ」
「ノーヴェさん、行きましょう。さっきの人……ゼロさんという方を、タスケニ」
 ノーヴェは少し、涙が出そうになった。
 乱暴に腕で拭いながら、笑みを浮かべてタンクローリーに駆ける。
「分かっているって!」
(待っていろよ、ゼロ。あたし達が今行くからな!!)
 ノーヴェは心の内でゼロに語りかけ、地面を蹴る。
 仲間を救うために、チンクを止めるために。


 ゼロは開けた部屋のコンクリートの床に着地して、ハカイダーを睨みつける。
 血のように真っ赤に染まる壁は、下方にある溶鉱炉の色を反映させた結果だ。
 緑色の鉄柱が無数に並び、鉄を運ぶアームが上部に存在して、金網が周囲に張り巡らされている。
 スクラップが点在している周囲は、ここが全てを無にする空間であることを主張していた。
 並の人間ならあまりの熱さに汗だくになるような空間に、ゼロは涼しげに金髪を流してハカイダーと対峙している。
 もっとも、レプリロイドであるゼロにとっては、熱さは自分の耐久可能温度程度にしか認識していない。
「そろそろいいか?」
「ああ……待たせたようだな」
 余裕たっぷりに告げるハカイダーに、ゼロは事も無げに返す。
 ノーヴェやメカ沢たちのような守るべき存在は遠ざけた。特A級ハンターと同等の……いや、それ以上の敵を前に、ゼロは先日の戦いを思い出す。
 レプリフォースの反乱を。軍の誇りにかけて、人間に反乱し、命を懸けたカーネルたちのことを。
 目の前のハカイダーは、キカイダーとか言う相手との決着を目的にしているといっていたが、なぜかゼロにはレプリフォースの彼らに似た雰囲気を感じていたのだ。
 とはいえ、戦うことに変わりないのは、レプリフォースたちの反乱事件と同じだ。
 ゼロは真っ直ぐ、日本刀を構えてハカイダーに対応できるように準備を整える。
 呼応するようにハカイダーも肩幅に足を広げ、脱力して両手をぶら下げる。
 ゼロとハカイダーが十数秒睨みあい、まったく同じタイミングで地面を蹴った。
 疾風のごとく二人は激突し、耳をつんざくような轟音が響きながら、発せられた衝撃に垂れ下がっている鎖が揺れる。
 ゼロはチャラチャラと鳴る鎖の音を耳にしながらも、ぶつかった力のベクトルに身を任せるように後方へ跳ぶ。
 ハカイダーは逃がすものかと、身体ごと突進して追跡をしてくる。ゼロの予想以上にハカイダーは速い。
 ハカイダーの右回し蹴りが鞭のようにしなり、ゼロの肩を目掛けて迫る。
 ゼロはとっさに刀を掲げ、ハカイダーの蹴りを受け止めるが、刀のひびが広がっていく。折れる前に、ゼロは宙に舞った。
 その途中、ハカイダーの突き手に脇腹を抉られる。ゼロは顔を顰めるが、得物を失うよりはマシだともう一度空を蹴り上げ、一段高く跳ぶ。
 空円舞。ゼロの空中での機動力を上げる、二段ジャンプの技である。
「子供だましのような技で、俺から逃げられると思うな!」
 ハカイダーが吠え、馬鹿の一つ覚えみたいに迫ってくる。
 チャンスだ、と思考しながら、ハカイダーに向けて刀を振るう。
 ゼロは剣先に力を集中し、身体を丸め刀を振り下ろす。空円斬と呼ばれる、ゼロの回転斬りがハカイダーの剥き出しの脳へと狙いをつける。
 ギィンと、金属に物がぶつかる音が反響する。
 ゼロの空円斬がハカイダーの右腕に食い込んでいる。しかし、数センチが限度でしかなかった。
 ハカイダーの強度が並でないことと、インパクトの瞬間刃筋をずらしたことが原因である。
「この程度か?」
 ハカイダーの冷たい声に、怖気を感じたゼロは両腕を交差する。
 交差した点へと、ハカイダーの右拳が叩き込まれた。ゼロの赤い両腕にひびが入り、痛みが沸き起こる。
 ゼロは勢いよく後方へと飛んで行き、壁に激突した。目の前が電灯の点け消しのようにチカチカして、迫り来るハカイダーを辛うじて認識する。
 刀により生み出されるリーチを活かすため、ゼロは下よりすくい上げるように刀を振り上げる。
 苦し紛れの一撃は、ハカイダーの胸部を僅かに斬り裂いただけだ。
 舌打ちをするゼロの視界がハカイダーの拳で埋まる。ゼロの右腕で、ハカイダーの拳を受け流し、顎へ向けてアッパーカットを放った。
 宙に浮くハカイダーの様子を認め、たたみかけようとチャージキックの用意をするゼロへ、死角からの蹴りが跳んでくる。
 ゼロはとっさに刀でハカイダーの蹴りを受け止め、距離をとった。ゼロの上方を金属片が舞って、くるくると回転しながら地面に乾いた音をたてて落ちる。
 ハカイダーの蹴りに、日本刀がついに折れたのだ。短くなった刀を手に、ゼロは歯噛みする。悠然とハカイダーは迫ってきた。

 ハカイダーは目の前の敵が意外と……いや、それ以上に戦えるのに喜びを覚える。
 村雨良……仮面ライダーZXと勝らず劣らずの敵がすぐに現れた。
 ここは強敵に事欠かない世界だと、ハカイダーの闘争心を刺激する。
(キカイダー、お前は知らないだろ。お前と同じく、正義を志す男たちがこんなにもいる。
お前と同じくらい、正義を貫ける力を持つものがいる。
俺の使命はキカイダー、お前を殺すこと。こいつらは、そのための過程にすぎない。だが!!)
 ハカイダーはZXのつけた痛みに心の奥が燃え上がる感覚を思い出す。
 互角の戦い。どちらが負けるか、分からないしのぎを削る激闘。
 キカイダーを相手にしか、キカイダーとの戦いでしか感じ得ない感覚、得れない感情であるはずだった。
 なのに、仮面ライダーZXや目の前の男との戦いは、ハカイダーにキカイダーとの激闘並みの充実感を与えてくれる。

(俺は今、充実している! キカイダー……俺は充実しているぞ!!)

 ハカイダーはキカイダーとの戦うこと以外、自分の存在意義を知らない。
 事実、キカイダーが死んだと思ったとき、ハカイダーは自我が崩壊しかけた。
 ハカイダーは殺す相手に依存する、珍しい存在である。己の力に、破壊の力にキカイダー打倒以外に意味を見出せずにいる。
 しかし、今のハカイダーは己が力をぶつけれる相手を見つけ、心底喜びに震え、自分の新たな存在意義を無意識ながら見出してきたのだ。
 もっとも、キカイダーがいないのなら他人で代用する、というある種逃げに似た存在意義ではあったが。
 それでも、ハカイダーはただ一つの目的のため、キカイダーとの決着のために戦い続ける。
 宿命、使命、生きがい、言い方は一つではない。
 ただ一ついえるのは、キカイダーとの決着、それに全てを捧げた男。
 その名が、ハカイダーであるというだけだった。

 ハカイダーは冷たいコンクリートの床を蹴って驀進し、抉りこむようなストレートをゼロのボディに向かって放つ。
 ガードしたゼロのボディが浮くほどの衝撃を与え、コマのように回転してソバットを叩き込む。
 ゼロは壁に叩きつけられると思いきや、蹴り上げて天井へ向かって蹴り昇っていく。
(身軽な奴だ)
 ハカイダーは軽く笑いながら、左腕にニ連キャノンを装着してゼロへ向かって放つ。
 ゼロは一発背中にもらいながらも、昇るのをやめない。
「グッ!」
「どうした? 逃げてばかりでは、俺には勝てんぞ!」
「心配しなくても……今向かってやる!」
 ゼロは言い終わると同時に、壁を力強く蹴ってハカイダーへと向かってくる。
 空円斬、先ほどと同じく回転斬りの技がハカイダーへと迫る。先ほどと違うのは、リーチが短くなっていること。そして、勢いが増していること。
 ハカイダーは銃口を向けているが、彼の早撃ちを持ってしてもゼロの空円斬が先に到着するだろう。
 結果を予測したハカイダーは冷静に動き、ひびが広がる刀身へと、突きを繰り出す。
 金属に硬いものがぶつかる甲高い音が轟いた。
 ハカイダーの突きは正確にひびに当たり、さらに折れて短くなった刀を手に、回転運動をやめたゼロはハカイダーの頬に向けて左拳を叩き込んだ。
 ハカイダーの身体が僅かに揺れるが、意に介さずカウンター気味にハカイダーの前蹴りがゼロの鳩尾に決まる。
 ゼロは痛みに耐えながら、後方に跳んで手に持つ、柄だけになった刀をハカイダーの顔へ投げつける。
 柄は虚しい音を立てながらハカイダーの顔面を跳ね、下方にある溶鉱炉に落ちた。ゼロは地面に着地する前に、空を走る。
 飛燕脚。宙で前方にダッシュが出来る、ゼロの技の一つ。
 飛燕脚はそのまま後方に止まるだろうというハカイダーの予測を打ち崩し、ゼロの接近を許してしまった。

「オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 ゼロの叫びが木霊して、ハカイダーの胸が強打された。
 短く呻いたハカイダーの身体が壁にぶつかる。ゼロはその隙を逃さないと、さらに加速して迫った。
 だが、ハカイダーは一瞬で体勢を整える。ゼロの右回し蹴りをハカイダーは右腕で受け止め、そのまま右脚を捕まえて壁に叩きつけた。
「ぐう!」
 ゼロの呻き声を耳にして、ハカイダーは今度はゼロの身体を振り回す。
 ジャイアントスイングの要領でゼロを振り回し、一回転、ニ回転と回す速度を上げていく。
 そのまま勢いを加速させたゼロを、ハカイダーは一際大きい鉄柱へと投げ飛ばした。

 ゼロの身体が鉄柱に叩きつけられ、衝撃に鉄柱が僅かに曲がり、ゼロの身体がズルズルと崩れ落ちる。
 再び近付くハカイダー。ゼロは迎撃をすべく、立ち上がって左肩に手をやる。
 何かを掴もうとして、空を切る手の平に舌打ちをするゼロをハカイダーは確認していた。
「どうした?」
「別に……なんでもないさ」
「そうか。……一つ聞こう。キサマの本来の得物は剣か?」
「答える必要はない」
 ゼロはハカイダーを拒否するように答えを返すが、ハカイダーは顎に手をやり頷く。
 答えは返ってきたも同然だ。村雨のPDAを取り出し、目的のものを探り出す。
 ハカイダーのPDAには村雨のPDAからバイクを転送してある。中にあるのは、ハカイダーには無用の物のみ。
 PDAより取り寄せたものが宙で具現化した。それを認めた瞬間、ゼロの表情が変わる。
「カーネルのセイバー…………」
「ほう、この武器を知っているようだな。なら話は早い」
 ハカイダーは呆然とするゼロに、PDAとカーネルというレプリロイドが使ったとされるセイバーを放り投げる。
 放り投げだされたPDAとセイバーをゼロは受け取った。しかし、ハカイダーを見つめる瞳には、疑惑が浮かんでいる。当然だろう。
 もっとも、ハカイダーは気にするつもりはないが。
「どういうつもりだ?」
「知れたこと。この俺に負けたとき、本来の武器がないと言い訳されてはたまらないからな」
「そんな言い訳をするわけがない!!」
「……それもそうだな。失礼だった。その点は謝ろう」
 ハカイダーは目の前のゼロが、そんな安い台詞を告げる男だとは思っていない。
 武器がないのなら、素手でも活路を見出そうとする。そんなタイプの男だとは理解している。
 だからこそ余計に、ハカイダーはゼロの全力を見たくなったのだ。

「だがお前の全力を見ずに勝つなど、本来の力を発揮できない相手を倒すなど、俺のプライドが許さない!!
名も知らない男。俺の名はハカイダー! キカイダーを殺すためだけに生まれた、悪の改造人間!!
俺はキカイダーを倒すために、元の世界へ戻るために、この殺し合いですべての敵を倒す!!
死にたくなければ、守りたい者がいるのならば、その俺を倒すために全力を見せろ!!」

 弱っている相手を、全力を出せない相手を倒すことはハカイダーにとって許しがたいこと。
 ゆえに、常に全力全開。ハカイダーの叫びが、信念がゼロを貫いた。


(ああ……こいつは……)
 ゼロは受け取ったカーネルのセイバーを起動させ、赤い閃光で形成される刃を生み出す。
 カーネルが、レプリフォースに誇りを持ち、信念を貫かんと握ったセイバー。
 それを持っていたのは、同じく信念を持って立ちふさがるハカイダーという男。
 巡り合わせの妙に、ゼロは一瞬だけ瞼を閉じて、カーネルとアイリスの姿を思い浮かべる。
 レプリフォースが反乱の嫌疑をかけられたとき、真っ先に誇りと共に戦う決意をした親友、カーネル。
 そして、その妹で自分をサポートしてくれたアイリス。
 二人とも自分が斬った。人間のために、仲間のために、二人を斬った。二人もまた、『仲間』であったはずなのに。
 ゼロにとってこのセイバーは重すぎる。それでも、ゼロは手に取った。シグマが、ハカイダーが立ちふさがるのだから。
 ゼロはハカイダーを見据えて尋ねる。
「なぜ、自分のことを悪だと断定する?」
「産み親は選べない……だが、俺はそれでいい。キカイダーと戦う、それだけで……」
「そうか…………」
 産み親は選べない。その言葉はゼロの脳裏に時々悪夢として蘇る、老人の笑い声が思い出された。
 薄々自分がどういう目的で生み出されたか、理解はしてきた。
 目の前のハカイダーは、もしかしたらもう一つの自分の可能性なのかもしれない。
 ゼロは泣き声のように唸るカーネルのセイバーを掲げて、ハカイダーに向き直る。

「ハカイダー。俺の名はゼロ! 覚えておけ。キカイダー以外に、お前に負けをもたらす俺の名を!!」
「フ…………面白い!! 行くぞ、ゼロ!!」

 答えは要らない。二人は同時に地面を蹴って、再度激突した。

「オォォォォォォォォォ!!」
 ゼロの叫びと同時に、刃を振り下ろす。身を逸らしたハカイダーの胸元を数ミリだけ切り裂いた。
 ハカイダーの見切りの能力は高い。修羅場をくぐり抜けた証拠である。ゼロは突進する勢いを利用して、前方に飛ぶ。
 ハカイダーの二連キャノンより発射された銃弾がゼロの身体を掠めるが、二段目のジャンプと共に避け、ハカイダーへと接近する。
 先ほどとは威力が違う空円斬、回転斬りをハカイダーに向けて迫らせる。
 ハカイダーが銃を撃った瞬間にタイミングを合わせて、技を仕掛けたのだ。
 確実に命中するという確信を持って攻撃を仕掛けた。手応えが、装甲を斬り裂く感触がゼロの手に宿る。
 同時に、火薬が爆ぜる音が鳴り響く。
「グゥ……」
「ガッ……」
 二人が呻き、それぞれの傷を見つめる。ゼロの身体には、二連キャノンの銃弾が穿った穴が脇腹に出来ていた。
 ハカイダーはゼロの空円斬で出来た、胸部を斜めに走る切創に触れる。
 二人はよろよろと後方にさがり、ニヤリと笑みを浮かべる。もっとも、ハカイダーの表情は変わらないが。
「強いな……強いぞ、ゼロ!!」
「負けるわけには行かないからな……ハカイダー!!」
 ゼロは歯を食いしばり、ダッシュを仕掛け、高速でコンクリートの床を蹴る。
 横凪に払ったセイバーは、鉄柱ごとハカイダーの脇腹を斬り裂く。
 ハカイダーの反応の速さにゼロは感心しながらも、打ち放たれた右ストレートを受け止める。
 腕が痺れて硬直するゼロの前に、ハカイダーは両腕を交差する。
「地獄五段返し!!」
 ハカイダーの声と共に、ゼロの身体が掴まれる。刹那の瞬間、ゼロの身体が宙を舞った。
 ハカイダーがゼロの身体を縦に一回転させ、さらにゼロを投げ飛ばす。
 ゼロを掴む手は離さず、ハカイダー自身も身体を回転させ、さらに勢いを得た回転と共にゼロを射出する。
 鉄柱を一つ、二つ砕いてゼロが地面に叩きつけられながら、壁にぶつかってようやく勢いが止まった。

 ゼロの全身が軋み、悲鳴をあげて立ち上がるのも困難だ。
(けどな……あいつなら、エックスならこの程度で諦めない…………)
 あの根性の塊の、優しいレプリロイドなら、自分の親友であるエックスなら、この程度の傷で折れはしない。
 震える身体、覚束ない視線。力を抜けば崩れ落ちそうになる全身に力を込めて、ゼロは立ち上がる。
 手にしたサーベルをハカイダーへ、絶対に倒れないと想いを込めて向ける。
 ハカイダーはただゼロを観察しているだけだった。
「どうした? ハカイダー。俺はまだ倒れていない。負けていない……」
「そのようだな」
 ハカイダーの床が爆ぜて、突撃してくる様子をゼロは冷静に見つめる。
 その距離が五メートルまで迫ったとき、ゼロは刃を握る手に、力を込める。
 握るセイバーの刃が電撃を帯びて、ゼロはそのまま振り下ろした。電撃をまとった刀身が伸び、鞭のようにハカイダーに迫る。
「ヌゥ……おおおお!!」
 ハカイダーは叫び声と共に、電撃に身体を焼かれていく。刃に電撃をまとわせた技、雷神撃。
 ゼロの持ち技で一番リーチが長く、威力も高めの技であるが、一番隙の大きい技でもある。
 ハカイダーの速度と、反射能力を把握した今だからこそ、タイミングを計れたのである。
 動きの止まったハカイダーに目掛けてゼロは疾風のごとく駆け抜けていく。
 そのまま赤い風となるゼロの斬撃が、ハカイダーの身体を斬り裂く。
 風の牙、疾風牙がハカイダーの身体を、左太腿から左肩まで一直線に傷を作り上げた。


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054:想い人は復讐者? ゼロ 059:漆黒と紅の零地点(後半)
054:想い人は復讐者? ハカイダー 059:漆黒と紅の零地点(後半)
054:想い人は復讐者? ノーヴェ 059:漆黒と紅の零地点(後半)
054:想い人は復讐者? ロボ 059:漆黒と紅の零地点(後半)
054:想い人は復讐者? メカ沢 059:漆黒と紅の零地点(後半)





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