そいつは人情派サイボーグ ◆hqLsjDR84w



 ――夜の戦場で行動する際、注意すべきことを幾つかあげてみろ。

 そう言われて、何よりも先に口から出てくるのは、『光を照らすことを控えろ』ということ。

 暗闇においては、ほんの少しの光だろうと遠距離から視認することができる。

 そのため、戦地に赴いた者は通常ならば、極力灯りをともすことは慎むものである。

 戦地にて、他の何者かに存在を知られてしまうことは、かなりの確率で危険を招くからだ。

 さらに居場所までバレてみろ。交戦開始までのカウントダウンの始まりだ。

 いや、カウントダウンなどする暇もなく、すぐさま狙撃されるかもしれん。或いは爆撃か、はたまた気付かぬうちに接近されるか。

 っと書いてきたが、こんなことは一般的な知識……要するに常識というものがあれば、誰だって分かるものだ。

 戦地に初めて出向いたものでも、何らかの力で意図せずに呼び出されたものでも、たとえ子供でも。

 とはいっても、だ。

 常識の欠片も無い輩ってのも、稀にとはいえ存在するワケでして……――――

 ◇ ◇ ◇

 襲撃者ギンガ・ナカジマが逃走し、一応目的を同じくする灰原が去ってから数刻が経つ。
 クロと広川武美の二人――人という数え方が適切とは思えないが、とりあえずこう呼ぶ――は、南へと歩いていた。

 理由は二つ。
 一つは、当初から目的としていた市街地へ向かうため。
 もう一つは、灰原と逆方向へ行くことを武美が望んだため。
 二つ目の方には、クロは気付いていない――――と武美が思い込んでいる。
 実際にはクロは察しているのだが、そのことに武美は気付いていない。

 ある程度歩いたところで、クロが武美に一度止まるよう指示する。
 少し疑問を覚えながらも、武美は足を動かすのを止める。
 それを確認したクロは木に飛びつき、そのままいとも容易く木の頂点を目指して登っていく。

「ねえ、クロちゃん、何やってるの?」

 クロが何をやっているのか理解できずに、尋ねる武美。
 言葉をかけられたクロは、既に武美からは既に枝や葉っぱにより見えない場所にいる。

「周りを確認してんだよ。
 またさっきみてーに、どっかから狙撃されちゃ困るからな」

 上方からのクロの返答に武美は納得する――と同時に、脳内に次の疑問が湧き上がる。
 一切思案すること無く、その疑問を口から出す。

「クロちゃん、夜目は利かないんじゃなかったっけ?」

 瞬間、大気が凍った。
 プチン、と。
 何かが切れるような音が響いた気がした。

「んなこったァー、分かってんだよ!!」

 クロが大声を上げ、凍った大気を溶かしていく。
 唐突に叫んだクロに武美は驚き、「え? え?」などとマヌケな声をあげている。
 それを気にも留めず、或いは視界に入ってすらいないのか、クロの口の動きは加速していく。

「んのヤロォ……確かに夜目は利かねーけど、何もしないよりマシだろ!
 さっきの女みてえな銃の素人じゃなく、玄人ににいきなり襲われたら、それこそどうしようもないってんだ!
 灰原とかいうのみたいにライフルの扱いに長けたヤツが、他にいねえとは限らないし!
 別にオイラは丈夫だから一発くらい大丈夫だけど、お前に当たったらと思うと――――ん?」

 ただ一方的にまくし立てていたクロが、唐突に静かになる。
 急に黙ったクロの瞳には、煌々と光を放つ何かが映っていた。
 月? 否、それはありえない。
 確かに夜明けまでそこまで時間はないだろうが、あそこまで低い位置に月が存在するわけがない。

「なあ、武美」

 暫し黙りこくって光を見つめていたクロが、再び口を開ける。
 その口調は、既に普段の彼のものへと戻っていた。
 怒るとすぐにそれを発散するタイプのため、普段の調子に戻るのも速いのだろう。

「な、なあに、クロちゃん?」

 言葉を返す武美。
 少しろれつが回っていないのは、クロが急に態度を変えたことに驚いているためか。

「さっき地図見たから知ってると思うけど、近くに湖あるよな?
 そんで湖に孤島が浮かんでて、その中心に小屋があったはずだけど……その小屋、なんか電気点いてるんだよな」

 暗闇の中でカーテンも閉めずに蛍光灯を照らしていれば、いくら夜目が利かないクロだってさすがに視認できる。
 言い終えると、クロは木から飛び降りて、武美の足元に着地する。

「さっき市街地に行きたいって言ってたけどよ。先にあそこにいるヤツんとこに行かねえか?
 あそこにいるヤツが、俺達みたいにあのハゲをどうにかしようと思ってるかもしれねえし、いい武器を持ってるかもしんねー。
 何よりこの状況で電気を点けっぱなしにするヤツなんて、とても放っとけねえ」

 ――ジーさんとバーさんみてえでな。
 そう、クロは胸中で付け足す。

「でも、もしかしたらわざと目立つ真似をして、近付いて来た人達を殺そうとしてるのかも……」

 武美がそう呟く。
 ありえない話ではない。
 実際、クロもそのケースは考えた。
 しかし、

「そんときゃ、そいつをぶっ飛ばす」

 今から向かおうとしている場所にいるのが、殺し合いに乗っている可能性があるのにかかわらず、クロは決して恐怖していなかった。
 いや、恐怖どころかむしろ……

「どちらにせよ他人を殺して生き残ろうとするやつなんて、気にいらねえ。
 そいつをボコボコにするのが、少ーし早くなるだけだ」

 彼の心は熱く燃えていた。
 殺し合いに乗った参加者など、自分がブン殴ってやる、と。

 今の彼は、言うなれば熱血ハートのサイボーグ。

「まあ、無理について来いとは言わねぇさ。
 もしかしたら、スッゲェ危ねえヤツがいるかもしれねーしな」

 言い終わらぬうちに、クロは武美に背を向けて歩き出す。

「すぐに戻るからその辺に隠れとけよ。
 別に動くなってことじゃないけど、たぶん動かないほうが安心だと思うぜ」

 武美はクロの小さな背を見つめて、ほんの一瞬だけ思案すると、駆けた。前を行くクロの元へ。
 自分に追いついた武美に視線を投げると、すぐに視線を前方に戻し、どうでもよさそうに呟いた。

「っんだよ、ついて来んのか? まっ、別にいいけど、自分の身は自分で守れよ」

 クロの背が低いのと前にいるため、武美には見えなかったが、クロは微笑を浮かべていた。
 そのことには、クロ自身も気付いていなかったが。



「ねえ、クロちゃん」
「何だよ?」

 暫く歩いたところで、武美が横を歩くクロに声をかけ、クロがそれに答える。

「あの孤島、湖の真ん中にあるけど、どうやって行くつもりなの? まさか――」

 クロは、武美が言わんとすることを即座に理解する。
 そしてニィと笑みを浮かべると、武美が言い終えるよりも早く口を開く。

「泳ぐ」
「ええー!?」
「いや、冗談だ。つーか、そんなに驚くなよ!」

 ボンボン的に考えてツッコミを期待していたクロは、武美の反応に逆に自分が驚いてしまう。
 そしてPDAを少しいじると、武美に渡す。

「それ見てみろ」
「こんなのも支給されてるんだ……」
「あのハゲ、ワケわかんねーな」

 そう吐き捨てると、跳躍して武美の手からPDAを掠め取るクロ。
 彼のPDAには、こう書かれていた。

『【風船いかだ】
 風船のように膨らませれば、人が数人ほど乗れるいかだとなる。
 膨らませなければ手のひらサイズなので、持ち運びに便利』

「……本当にあんな説明、信じていいのかな?」
「強くて喋れるネコ型サイボーグもいるんだぜ? 科学の力ってすげー」

 何でもないことのように言い放ったクロに、武美は反論しようとして溜息。それを諦めた。
 確かに二本の足で闊歩するクロを見ていると、とても反論の言葉が思いつかなかったのだ。

「そーいや、何でついてきたんだ?」

 前後の会話も関係なく、急に発せられたクロの言葉。
 それを聞いた武美は、フッと笑みを浮かべる。

「一人でいるのも、危ない人がいるかもしれない場所に行くのも、同じくらい不安だった……けど――」

 武美が足を止めたので、クロも少し離れた場所でそれに気付いて足を止める。
 クロの視線と武美の視点が、交錯する――

「クロちゃんと一緒にいたら、安心できるから。
 私はこういう戦場って言うのかな? でどう行動すべきか分からないけど、クロちゃんは慣れてるみたいだし……
 それにクロちゃんは――――わざわざ私の為に、夜目が利かないのに木に登って周りを確認してくれるくらい、優しい子だから」

 そういい終えると、武美がクロに笑みを見せる。
 クロは数秒ほど硬直。硬直が溶けると、たどたどしい口調で返事をする。

「オイラ、武美の為、とか、言った……っけ?」
「言ってくれたよ。さっきクロちゃんが木に登ってたときに『私に銃弾が当たったらと思うと』って」

 クロがこれまでにないくらいのスピードで試案を巡らす。
 いくら考えても、クロにはそんなことを言った記憶がない。
 しかし、武美の言ったことは正しい。確かに一人でいたなら、わざわざ周囲を警戒するなんてしなかった。
 ――実際、先ほど理不尽に怒鳴った時に言っている。
 だが、クロは適当に武美にぶつけた言葉など大して覚えていなかった。
 故に、混乱する。

「……い、言ってねーよ!」

 混乱したクロから咄嗟に出た言葉がこれ。
 それに対し、ふざけていると判断した武美が近づいてくる。

「えー? 言ったよー」
「言ってねーって」
「言ったってー」
「夢でも見てたんじゃねーか?」
「そんなわけないよー。もしかして、照れてるの?」
「言ってねえって言ってんだろおおおおおおおおお!!」

 二つの足で地を踏みしめる黒猫の理不尽な叫びが、周囲の葉を揺らした。
 しかし、言ったという事実が変わることはないのである。
 また、次の号のボンボンでは無かったことになっていることもない。
 嗚呼、現実は非情である。





 ああ、そういえば。
 クロと武美が向かっている小屋には、現在バトル・ロワイアルの参加者はいない。
 嗚呼――――現実は非情である。



【E-7南部/一日目/早朝】

【クロ@サイボーグクロちゃん】
[状態]:装甲各所に軽い凹み
[装備]:アポロマグナム@仮面ライダーSPIRITS、
    ウィルナイフ@勇者王ガオガイガー(なんでも斬れる剣があった場所に収納)
[道具]:支給品一式、風船いかだ
[思考・状況]
基本思考:ハゲ(シグマ)をぶちのめす! その後剛を殴る。
1:F-7の湖内の孤島にある小屋へ向かって、内部を確認。その後、市街地へ向かう。
2:とりあえず、ハゲ(シグマ)の居場所を探る。そして暴れる。
3:ミーと合流して、爆弾を何とかする。
4:とりあえず、今は武美を深く追求する気はない。
※内臓ミサイルは装備されています。尻尾ミサイルは使用済み。
※ガトリングやなんでも斬れる剣が没収されていることに気づきました。
※参加時期は異世界編(五巻)終了後です
※クロが確認したF-7の小屋の照明は、Rが侵入した際に点けていったものです。

【広川武美@パワポケシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダムアイテム1~2(クロ好みの武器はないが武器は最低一つある)
[思考・状況]
基本思考:絶対に生き残り、ここから脱出する。
1:F-7の湖内の孤島にある小屋へ向かって、内部を確認。その後、市街地へ向かう。
2:シグマの居場所を探る。
3:元の世界のあの人のところに戻って、残り少ない人生を謳歌する。



【風船いかだ@ザ・ドラえもんズ】
風船のように膨らませれば、人が数人ほど乗れるいかだとなる。
膨らませなければ手のひらサイズなので、持ち運びに便利。


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038:モバイル・レディ 広川武美 082:モバイルレディ・Ⅱ





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