死体を前に、灰原は問う ◆2Y1mqYSsQ.





「死体か」
 紫色に染まる空のもと、静かに呟く男が一人。
 視界を遮るほど生え並ぶ樹林の中に、サイボーグと思わしき死体が一つ。
 空港へと向かう途中に発見し、灰原は身をかがめて周囲の状況を確認しているのだ。
 茶の髪をなびかせて、何かのユニフォームらしき赤い衣服を着て、黄色いマフラーをなびかせている。
 身体調査をしたところ、奥歯の裏側に何かのスイッチらしきものが見える。
 そのスイッチが何をもたらしたのか、このサイボーグの青年が壊しあいの舞台を壊す戦力になったのか、灰原には知るよしもない。
 しかし、死人は死人。
 この殺し合いには役には立たない。あくまでも、何かしら残したものがないか、それが自分に活用できるものか、知るための調査だ。
 結果としては芳しくない。隣に眠るロボット――いや、自動人形(オートマータ)と呼んだ方が適切だろう――も同じだ。
 とはいえ、自動人形は明らかに、科学技術以外のものが活用されている。
 活動記録があるのは、周辺の様子を見れば察することができる。
 砕けた木々、抉られた大地、ここで戦闘があったのは明らかだ。
 しかも、一対一ではない。一対複数……あるいは三つ巴、四つ巴。
 この壊しあいの舞台、戦闘が起きることは珍しくない。
 なにより、先ほど自分は戦闘に加わった。
 理由はクロという猫のサイボーグの戦闘能力が惜しいから。
 モバイル・レディによって接触は達成できなかったが、シグマを殺すために行動していき、お互い生きていれば顔を会わすこともある。
 そう焦ることでもない。
 それに、クロ以上の戦力を誇る、主催シグマに反乱を示すこの殺し合いの参加者に出会うこともあるだろう。
 灰原にとっては何事も関心があり、関心がない。
 己が目的、今はシグマを始末することだが、それを達成するためには手段を選ばない。
 そう、たとえ仲間となったものが死んでも、己に死が迫ろうとも。


 灰原が死体を検分して十数分。


 誰かが去った跡を二つ発見した。どちらかが戻るかもしれない。
 そう判断して待っていたのだが、無駄足のようだ。
 ここに向かう前に轟いた、いくつかの戦闘音もなく、現在森は無音。
 大きな戦闘がいくつか起き、今は小康状態なのだろう。
 灰原はそう判断し、結果的に幾人かの犠牲があったであろうことを予想した。
 しかし、灰原の表情はピクリとも動かない。
 あるいは、彼の部下なら怒りを示し、感情的になっていたであろう。
 身体能力は合格。精神面は冷徹さが足りず、おちこぼれ。
 灰原の部下はそういう男だった。
 なのに、その男は灰原のたくらみを気づき、撃破した。
 彼がCCRに、自分に反乱を起こした理由は感情からだ。
 サイボーグを作っているものが、失敗作を処分するためにできた組織。それがCCR。
 部下は、CCRをサイボーグの暴走を防ぐ、警察のような存在だと認識していた。その前提が崩され、彼は牙を剥いた。
 灰原の部下は倫理観、正義感などという理解できない感情を持って、いままで表れなかった洞察力で自分とCCRの裏を見抜いた。
 それだけでなく、生身の身体でサイボーグである自分に勝ったのである。
 何一つ、理解ができない部下であった。野球などという、偽装のために紛れ込んだスポーツに入れ込むあたりも含めて。
 ここにいたって、彼を思い出すのは、灰原にこの状況だと彼がどう反応するか、微かだが興味があるからだ。
 もっとも、予測なら簡単にできる。
 感情を持って、奴はこの殺し合いに、シグマに反抗を示すだろう。
 バッチの裏表関係なく。
 灰原の思考がそこまで進むと、風が吹き木の葉が舞い落ちる。
 空が紫から赤へと徐々に変化していき、朝が訪れるのを知らせている。
 長居しすぎたか。
 かけているサングラスのズレを直し、灰原は仕込み杖をしっかりと握る。


 奇襲を受けても、最初の一撃さえ避ければ次に対処できる可能性はグンと上がる。


 奇襲に二度目はない、とはどこの言葉だったか。
 正面からなら、渡り合う自信は灰原にはある。一対一なら、そう負けることはないだろう。
 もっとも、自分の身体能力が上から数えたほうが早い、と仮定してだ。
 常人と比べるなら、自分は圧倒的上回っている。
 戦闘指揮官用アンドロイドとして生まれ、戦闘力付加のためにサイボーグへと再強化したのは彼にとって当然の出来事。
 大神の判断が正しいか、間違っているかが問題ではない。
 自分が与えられた使命をまっとうできる存在か否か。
 ゆえに、この力は常人とかけ離れて当然である。

 その力すらも、この殺し合いにおいては凡庸のものであるとすれば。

 クロの戦闘力は、傍目から見てもエージェントと同等かそれ以上。
 下手をすれば灰原すらも屠れる実力者である。接触できなかったことが悔やまれる。
 それをおいておくとしても、クロの実力がこの殺し合いの平均だと考えると、自分が勝てる相手は減る。
 モバイル・レディのように戦闘力を持たない者の方が少ないかもしれない。
 シグマはロボットであるか、身体に機械を組み込んでいる者を参加者として選んだようだ。
 目の前で倒れている二つの死体からも、モバイルレディの存在からも、クロというネコ型サイボーグからも、その言葉が真実である裏づけになる。
 つまり、相応の性能を持つサイボーグ、及びロボの性能テストを行っているのだろうか?
 分からない話でもない。大神グループでも開発したサイボーグのテストを行うために、互いに殺し合わせたこともある。
 生き残った一人を元にデータを採取、さらに実験を重ねる。
 それこそ、壊れるまで。
 ここが大神グループの実験場として存在し、己が性能データを取らせるためだというのなら、灰原は殺し合いに迷わず乗ったであろう。
 自分を開発したのは大神グループだ。
 データが欲しいというのなら、期待以上のデータを送る。

 架空の組織の指揮をして欲しいというのなら、犠牲を出してでも維持してみせる。
 ただ、それだけだ。

 しかし、シグマは大神グループの一員ではない。
 シグマは自分に指令を送るべき人物ではない。
 ゆえに、仕込み杖の刃で僅かな光を反射させ、その顔を浮かべる。
 シグマのデータ、これほどのサイボーグやロボットを集める超技術を、大神グループへと持ち帰るためにシグマを殺す。
 そのためにはまず、シグマの元へと向かわねばならない。
 もっとも、身体に仕組まれた爆弾もあるため、それだけでは解決しないのだろうが。
 それでも、場所を知っていると知らないでは、他の者と組んだときのアドバンテージが違う。
 上手くいけば、爆弾の解除に成功した参加者との取引に使える。
 今のうちに、シグマの目的、そこから察することのできる居場所を推察しておくのも悪くはない。

 一番最初に考えておくべきことは、この殺し合いで、シグマは何を得るか?
 シグマを知るものは二人。
 エックスと呼ばれた男と、赤い男。
 シグマという人物像を知るには、彼らとの接触が不可欠。
 大神グループの実験場のような殺し合いは、データを取るために行っているのか?
 それとも、優勝者を選出することが必要なのか?
 はたまた、特定の参加者を殺すことが目的なのか?

 まず第一に、データ習得はどうだろうか?
 前提として必要になるのが、集められた参加者五十人はシグマにとってデータを取る価値があるのか、という事実だ。
 CCRですら潜んでいるサイボーグ同盟の一員を探し当てるのに、膨大な人員と時間が必要となる。
 シグマがどれほどの人員を持っているかは知らないが、五十人からなる実力者も含めたサイボーグを集めるのに、どれほど時間と資金がかるのか。
 大きな失費をしても、そのデータに価値はあるのか?

 灰原はデータには価値がないと断じる。
 大神グループの過酷な実験には『方向性』がある。
 頑丈さを確かめるために、痛みを感じる実験場へと放り込んだり、モバイル・レディのようなタイプには、さまざまな電波を一週間ひたすら受信させたり。
 この殺し合いは、実験にしては『方向性』がない。
 そして、何より参加者が『自由』すぎる。大神グループのサイボーグたちに、今の灰原のような反抗する自由など、あるはずがなかった。
 ゆえに、目的が何らかの『実験』である可能性は低い。

 第二に、優勝者を選出する、というのはどうだろうか?
 エックスと呼ばれた男、彼はシグマに敵意を抱いていた。
 そんな人物が勝ち上がる可能性のある、この殺し合いにて優勝者はどれほどシグマにメリットがあるのだろうか?
 第一、爆弾を仕込んでおくような輩を信用でききる奴がいるとは思いにくい。
 優勝を目指すような人間でも、シグマの『褒美』に期待している奴はいないだろう。
 刃向かうような相手がいるのに、シグマが優勝者を選出するのはなぜだろうか?
 優勝者が出る点については、考えれば考えるほど、意味を見出せなくなる。
 シグマは果たして、優勝者に何を見出すのか。

 第三に、特定の参加者を殺すため、というのはどうだろうか?
 シグマと縁の深い参加者がいることは、最初の広間で全員に伝わっている。
 かの参加者を殺すためにこの殺し合いを開いたとすれば?
 灰原は首を横に振る。
 余りにも効率が悪いのだ。こんな殺し合いで命を落とすことを期待するより、刺客を送りつけるほうが確実だ。
 余りにも馬鹿げた話ゆえ、灰原はこの線を斬って捨てる。

 少し推察しようと頭を動かしたが、結果は情報不足による袋小路。
 もっとも、予想はしていたが。

 現状、灰原自身は他参加者との接触が少なすぎる。
 死体により、大神グループが保持しいている技術を上回る能力を持つ参加者がいる可能性がある、程度の情報しか手に入れてない。
 自分がここに来て、会話をした者は多少なりとも戦力や人柄を知っているモバイル・レディのみ。
 この六時間近く、情報が手に入る機会を逃し続けた。
 これは致命的だ。情報は何より、戦場に必要なもの。
 運が悪いとは言え、これほど人に会う機会がないとは。
 灰原はPDAを操作して、マップを取り出す。四つのコロニー。
 宇宙を舞台にするというとは、シグマは大神グループ以上の技術力があるのだろうか?
 ますますその技術を手に入れる価値が上がる。
 ならば、接触する優先順位で優先なのはエックスなる人物。そして、隣にいた赤い鎧の戦士。
 現在いるコロニーから移動できるのは、市街地エリアが凝縮された西のコロニー。
 工場が多く存在する、工業エリアが恐縮された北のコロニー。
 どちらも人が集まることが予測されている。
 それこそ、この殺し合いに反逆をする者たちも、喜々として殺し合いに乗る者も。
 その中にエックスなる人物がいれば幸い。
 そうでなくとも、情報を得るためには動かねばならない。
 灰原は再び、バッチを取り出す。
 表が出れば北へと向かう。
 裏が出れば西へと向かう。
 どちらに向かうも等価値なら、運命をバッチに再び委ねるのもよいだろう。

 灰原の指が、バッチを弾いた。

 明るくなっていく空から漏れる朝日の光。
 コロニーの生み出した擬似的な光が、バッチに反射される。
 勇者が装備していたといわれるそのバッチは、灰原にシグマへの反抗の道を示した。
 それは輝きながら空へと昇り、やがて運動エネルギーを失って、灰原の手の甲へ舞い落ちる。
 裏か、表か。
 灰原の行くべき道は――

【F-5/一日目・早朝】
【灰原@パワポケシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:リシュウの仕込み杖@スーパーロボット大戦シリーズ
   スタームルガーミニ14(残弾29)@現実
[道具]:支給品一式、ゆうしゃバッジ@クロノトリガー
[思考・状況]
基本思考:シグマとその協力者達の捕獲、不可能であれば破壊して本社に帰還する。
     未知の技術の情報収集、及び回収して大神に持ち帰る。
1:バッチの裏表の結果で、西のコロニー(市街地)か北のコロニー(工場地帯)に向かう。
2:空港を目指し、情報を集める(優先順位は低い)
3:使えそうな人材の確保、油断はしない
4:この戦場からの脱出
※本編死亡後からの参戦です
※武美にあるのはせいぜい保険程度の価値だと思っていますが、クロはそれなりに高く評価しています。


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038:モバイル・レディ 灰原 074:真剣勝負





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