兄弟/姉弟/家族 ◆2Y1mqYSsQ.



 雪に晒されるタンクローリーが一台、鋼鉄のシャトル空港へと止まっている。
 中に人は確認されず、空港へと中の人物が降り立ったのであろう。
 車が通る道路に、本来なら軍用車がいくつか止まっているだろう駐車場。雪原コロニー帯であるため、容赦なく雪が施設に降り積もっている。
 生物も存在ができるか怪しい冷たい白い世界の中に、白いシャトルが鎮座していた。
 施設の一つに雪に刻まれた足跡が伸びている。
 大小、形共に不揃いの足跡であり、施設に人がいることを示していた。


「ヒーターは効いているみたいだな」
 燃えるように赤いショートカットに、気の強そうな金色の瞳を持つ少女が呟く。
 身体にぴったりとフィットする青いボディスーツが身体の線をはっきり示し、年の割にはグラマーな肢体を惜しげもなく晒していた。
 9のナンバーを持つ戦闘機人・ノーヴェである。彼女が室内を探索中に、外と違って中が暖かいことを伝えた。
「うん、無人なのに、気が利いているね」
 ノーヴェに同意するように告げるのは、水色のセミロングの髪と瞳を持つ少年。
 黒と紺のゴシックロリータ服に身を包む姿は美少女と見間違えるほど似合っている。
 その中身は悪魔。ネオ生命体ドラスである。
「まあ、これで風邪を引く心配もないな。ここに来て正解だった」
「ブサイクもたまにはいいこと言うよね」
「たまに言うな。あと、ブサイクも」
「ブサイクー」
 ドラスがからかった相手は、ドラム缶のような銀の身体を持つ自称男子高校生。
 学ランを風になびかせた彼の名前はメカ沢新一。ごく普通の青年……だと思っている。
「フム、危険はないようデスネ」
 時折片言が混じるブリキの玩具のようなロボットが安全を確認して、三人を誘導する。
 かすかにドラスに対する不審の瞳を向けながらも、決定的な証拠は見つけ切れていない。
 呉越同舟、四人は一緒に行動をしている。
 ドラスは究極の生命体になるべく、三人は脱出を目指すべく。
 思惑も策謀も疑惑も飛び通う中で、彼等は基地へと辿り着いたのだ。


「なあ、ドラス。お前の両親はどうしているんだ?」
「……いきなり何さ、ブサイク」
「いや、親御さん心配しているだろうなってな」
 ごく普通に近所の子供を心配するように、メカ沢は答える。彼が平和な―― とはいってもいささかシュールだが ――世界から来たことを示していた。
 ノーヴェもドラスがどうやって生まれたか興味あるためか、口を挟まない。
 スバルに告げたことを同じ内容を伝えればいい。やや投げやりにそう考える。
「まあ、パパは僕を心配しているだろうね」
「父ちゃんがいるのか」
「うん、最高の科学者さ。それに、まだ培養液にいた僕を大切にしてくれたもの」
「培養液……?」
 ノーヴェが疑問を呟く。彼女ら「戦闘機人」はクローン培養と純粋培養の二種類の培養方法がある。
 クローン培養はオリジナル人物の細胞を採取、特殊なスキルを得ることができる。
 ノーヴェはこの方法で、IS「ブレイクライナー」を生まれながら持っていた。
 純粋培養は適性遺伝子をかけ合わせた人工授精児を元に、戦闘機人の量産を可能にする培養方法だ。
 狙った特殊スキルができることは少ないが、稀にセインのようにレアスキルを得ることもある。
 もしや、ドラスはセインのISの研究のために開発された戦闘機人ではないか?
 ノーヴェはそう疑っていた。
 ドラスを作り出したのは、スカリエッティ博士なのか、それとも別の科学者なのか。
 確かめる術は、本人しかない。もっとも、ドラスは本人も気づかずこの姿でいたと説明してる。
 製作段階の戦闘機人だろうか?
 その存在は聞いたことがないが、もともとノーヴェに重要な情報が明かされることは少なかった。
 ノーヴェの視線がジッとドラスに注がれる。その視線を受けて、ドラスは謳うように続けた。
「そうさ。パパは僕を作り上げた。だからきっと僕を愛してくれる。
パパはちょっと混乱して、僕を失敗作だとか言って壊そうとしたけど、愛してくれているって分かっている。
だから僕は帰る。パパがいるあの場所に、愛してもらうために」
 ドラスの言葉に、真実と狂気が混じる。醸し出す雰囲気が少し怪しくなったことに、ノーヴェは気づいた。
 同時に、目の前の少年の悲惨さにも気づく。ドラスはいわゆる『捨てられた子供』だ。
 実は本人も気づいていないが、そのことを必死に否定している。愛されていないことを自覚して、必死に愛されているのだと自己を騙しているのだ。
 だからこそ、目の前のドラスは容易に痛々しさを演出した。それを策に使おうとするドラスは、歪んでいた。
 スカリエッティは自らが作った戦闘機人を捨てたりはしない。彼なりの愛情を持っていた。
 たとえ間違っていたとしても、それだけは真実だ。ゆえにノーヴェは言葉をなくす。
 ドラスの痛みを理解できない。どうすれば和らげれるのか、知らない。
「ドラス」
「なに?」
「父ちゃん、お前を愛していねえよ」
 メカ沢の一言に、空気が凍った。


「……どういうことさ」
「そのままの意味だ。お前は父ちゃんに愛されちゃいねー」
「違う!!」
 ドラスは吼えるように告げて、一瞬でメカ沢との距離を詰める。荷電ナイフをメカ沢の頬に当たる部分に突きつけた。
 誰も反応する暇を与えなかった。ロボでさえも。
「僕は強い。誰よりも! パパがそう望んで僕を作り上げたんだ。
だからパパは強い僕を愛してくれるんだ! 何も知らないくせに適当なことを言うな!!」
「何度でも言ってやる。お前は愛されていない! 絶対にな!」
「ブサイク……ッ!!」
 ドラスの殺気が膨れ上がる。怪人の、ネオ生命体の尋常でない殺気をメカ沢は受け止める。
 まるで、そよ風を受けているかのごとく、静かに。
 外見はともかく、中身はただの一学生、一不良であるはずだが、メカ沢はドラスの視線を強靭な精神力を持って確かに返していた。
「取り消せよ……取り消せ!」
「嫌だね! お前分からないのか!」
 二人の意地を張り合った声があがると同時に、ドラスの怒気が膨れ上がる。
 目が鋭くなり、荷電ナイフを握る手に力を込めた瞬間、拳が横切った。
 見覚えのある腕。振り向くと、肘先から煙を出すロボがいた。
「二人とも、そこまでデス」
 二人とも、といいながらも視線はドラスに向けている。相変わらず勘のいいメカだと内心毒づき、ドラスはメカ沢から離れる。
 疑惑をもたれては不味い。今ならまだ、感情的になったとか言い訳できる。もっとも、実際に感情的になったのだから、言い訳も何もないのだが。
「分かったよ。ちょっと頭を冷やしてくる。向こうにシャワー室あったしね」
「待てよ、ドラス。一人じゃ危険……」
「大丈夫だよ! 僕は強いんだから! パパにそう作ってもらったんだから……しばらく一人にさせて!」
 ノーヴェにすらも当り散らし、ドラスは地面を蹴った。
 苛立ちと恐怖―― 望月博士が自分を一生愛してくれないという ――を知らず抱えて。


 ドラスが去った後、ノーヴェは怒りのままメカ沢に視線を向ける。
 歩みは感情に合わせて、乱暴になった。
「ちょっと無神経じゃないのか! メカ沢」
「ノーヴェさん、シカシ……」
「…………じゃあお前は、子供に『失敗作』とか言う奴が、ドラスを幸せにできると思っているのか?」
「メカ沢……?」
 メカ沢の声に、ロボが不思議そうに見つめる。ノーヴェは戸惑ったまま動きが止まった。
「俺は認めねえぞ。自分のガキを自分の都合で作っときながら、失敗作でポイッだあ? ふざけんじゃねえ」
 声はメカ沢にしてはそれほど荒げていなかった。彼にしては珍しく、静かで淡々とした怒りが沸いている。
 メカ沢は外見からは感情を読むことは不可能だ。とはいえ、外見に反して熱い男であることは充分理解できた。

「決めた! ここから帰ったら、あいつは俺の家に住ませる! 糞みたいな親ん所に帰してたまるか」

 メカ沢の宣言が無機質な鉄の壁に包まれた室内に響く。
 彼がドラスを嫌っていったわけでなく、ドラスを思って告げたのだと理解して、ノーヴェは微笑んだ。
「ばーか。あいつが承知するわけないだろ。あいつはあたしたちと一緒に帰るんだ」
「へっ、いってな。こっちにはベータっつうかわいい弟がいるんだ。
あいつとは真逆に素直だから、きっと気が合うぜ。性格が反対なもの同士ほど、仲が良くなると言うしな」
「それを言うなら、こっちにはいっぱい姉妹がいる。全員、あいつをかわいがってくれるよ」
 和気藹々とメカ沢とノーヴェはドラスを取り合う。本人が承知するかどうかは関係なかった。
 二人は『捨てられた』ドラスが心配でたまらなかった。
 その共通の想いが、互いに共感を生んだ。


 暖かな空気を持つ二人を前に、ロボは複雑な気分であった。
 ドラスがメカ沢に向けた荷電ナイフの柄を強く握る瞬間、電子頭脳が僅かに蠢いた。
 思わず、ロケットパンチで割り込むほどに。その判断が正しいかどうかはいまだ分からない。
 それにしても……
「お前、弟がいたのか。兄貴って柄じゃねえな」
「そういうお前も、妹って柄じゃない。妹ってのは、こう、甘えん坊な感じで……」
「どこの漫画の世界だよ」
 兄弟の話で盛り上がる二人を尻目に、ドラスの言葉を思い出す。
 ロボにとっても苦い、『失敗作』として処分されそうになった、との一声。
 ロボもかつては、多くの兄弟や恋人と共にマザーブレインの下に集った。
 人間を処分するというマザーブレインに反発をする決意をしたのは、支配から逃れた自分と、クロノたちとの絆のおかげだと思っている。
 ドラスを見ていると、マザーブレインの支配から逃れることのできなかった恋人……アトロポスを思い出す。
 もし、彼が父親に自分たちがマザーブレインと同じような暗示を受けたのなら、メカ沢やノーヴェを待ち受ける運命は過酷だ。
 彼らの手で、肝心のドラスを殺さざる得ないかもしれない。
(ソウはさせるわけには、イキマセン……)
 ロボは静かに決意する。ドラスがアトロポスと同じく、支配を脱っすることができず二人に刃を向けようというのなら、自分が汚名を被ろうと。
 仲間たちに、自分が味わった悲しみを迎えさせるわけにはいかないゆえ。
 鋼のボディが光を反射する。僅かに、悲しみが混ざっていたような気がした。


 シャワーより流れ出るお湯に水色の髪と陶磁のような白い身体をドラスは晒していた。
 全身泡だらけなのは備え付けられていたシャンプーを使ったからだ。
 別段、ネオ生命体であるドラスがシャワーを本当に浴びる必要はなかったのだが、これはこれでストレス発散になる。
 白く細い指で水色の髪を撫で回し、泡を広げていく。
 目にかかろうとした泡に、思わず左目を瞑る。少しシャワーに顔を向けて、泡を洗い流した。
 水に流れる泡はドラスの白い肢体を頬から首、幼さを残す胸から脚に流れ、やがて排水溝へと落ちた。
 少年というよりは、少女と形容した方が似合うほど、柔らかい線を有する顔に水がはねる。
 子供特有の、柔らかい肉付きに、キュッと引き締まった全身から泡が引いていくのをドラスが確認して、シャワーを止める。
 ポタポタと髪から落ちる水滴を見て、ドラスは鏡に全身を映した。
 どこからどう見ても人間だ。改めて自分の姿を確認してほくそ笑む。
 いや、笑おうとした顔が、微妙に引きつっていた。
『父ちゃん、お前を愛していねえよ』
 メカ沢の低く、意外と渋い声が耳に蘇った瞬間、ドラスの拳が鏡を割った。
 右手から、緑色の血が流れ落ちる。そこで、右手はスバルから奪った、人間の手だったことを思い出した。
 胸糞が悪い。今すぐメカ沢からワープの原理を解明して、己の力にするのをやめようかと、一瞬思う。
 首を軽く振る。
 それはあまりにも軽率だ。しかも、ロボは自分を警戒している。
 白いタイルの中、愚作だと却下。しかし、積もる苛立ちの処理を求める。
(今の状態なら、誰か来たら殺そうかな。お姉ちゃんたちが気づく前なら、すぐに済むだろうし。……冗談だけど)
 同時に、ノーヴェの語ったことを静かに分析する。
 彼女たちが敵とみなしている……仮面ライダーのことを。
 ノーヴェが襲われたことは耳にしている。彼女が相手にしたのはタチコマを襲った、銀の仮面の仮面ライダーだ。
 仮面ライダーが相手なら、言い訳がある程度効くし、何より彼らの脅威は身をもって知っている。
(仮面ライダーを吸収できて、赤くなれば楽なんだけどねぇ……)
 悪魔のごとく笑みが鏡に浮かぶ。
 やはり、自分は静かに策を練るほうが向いている。
 着慣れたゴシックロリータ服に袖を通し、ドラスはシャワー室を後にした。


 鉄の要塞を歩く白い帽子を被った、長髪の男。フリルがところどころついている道化衣装に身をまとい、周囲を見渡す。
 道化、アルレッキーノは独房がないか、基地内を探索していた。
 もうすぐスモールライトによる効果が切れ、彼は動き出すだろう。
 その前に、行動を制限しておきたい。エレオノールの命令に背くわけには行かないし、かといって自由にしておくのも危険だからだ。
 アルレッキーノが歩みを進めていくと、目の前に人影が現れる。警戒して手を構えると、ゴスロリ服の少女が現れた。
「ふーん、こんなところに人が来たんだ」
「それはこちらの台詞だ。ここに一人だと、危ないぞ」
「……そう」
 ドラスがアルレッキーノを不審に満ちた視線で見つめる。それもそうだろう。
 ここは壊しあいの場。自分を警戒するのは正常な証だ。
「君以外の人はいるのか?」
「そうだよ。僕はみんなと一緒にここに来たんだ」
「そうか」
 アルレッキーノはドラスの答えを知り、ホッとする。
 エレオノールの命令とは別に、心を通わせたリョーコと年の変わらない少女に、守ってくれる存在がいることで安心をしたのだ。
 とはいえ、ここに一人にするのはどこか居心地が悪い。仲間のいる場所に送ろうと提案をしかけて、帽子の中の違和感を察知した。
 予想よりも早い。
「逃げるんだ……」
「ほえ?」
 ドラスが怪訝な表情をした瞬間、アルレッキーノの帽子が落ちる。
 中より飛び出した小人……いや、徐々にその姿を元の身長へと伸ばしていった。
 黒髪に意思の宿らない瞳で、アルレッキーノを見下ろす日本人らしき男は、銀の仮面を模したレッドアイザーをかざした。
「セッタップ……」
 敬介の身体に銀の強化スーツと赤い胸部アーマーがまとわりつく。
 レッドアイザーが半分に欠けると同時に、敬介の顔半分に銀の仮面が顕在する。
 レッドアイザーが完全に消失して銀の仮面が形成されたと同時に、シャッター状のマスク、パーフェクターをセットする。
 ストン、とアルレッキーノを、悪意に満ちた黒い複眼が見下ろした。
 大怪我を負っていたはずの左腕が動いている。アルレッキーノは知らなかったが、阿紫花の血が関係している。
 生命の水を僅かに含んだ血は、暗闇の種子を排除するには至らなかった。
 しかし、敬介の、仮面ライダーXの怪我をある程度治癒する結果を生んだのだ。
 生命の水が薄いことが、最悪の状況を生み出した。
 厄介なことになったと呟きながら、アルレッキーノはドラスに振り返らず仮面ライダーXと対峙する。
「仲間と一緒に離れていろ。ここは私が……」
 アルレッキーノの言葉は最後まで告げられることはなかった。
 突如アルレッキーノと仮面ライダーXの周囲が爆発する。
 身体に光弾がぶつかる状況で辛うじて首を回すと、魔方陣を右手に展開させ、光弾を放つドラスが視界に入った。
(しま――っ)
 アルレッキーノの周辺が一段激しく爆発が起きる。
 同時に、アルレッキーノの意識も闇へと落ちた。


「あっけないねー。ま、魔法のテストにはちょうどよかったけど」
 手に入れた力のテストをするのは悪くない。仮面ライダーを視界に入れた瞬間、ドラスはそう判断しながら撃ち放った。
 せっかく仮面ライダーを不意打ちにできるいい機会なのだ。無駄にする気はない。
 それに、彼の仮面ライダーはノーヴェを襲っている。
 死体を見せても、自衛だと主張して押し切ることはできるはずだ。ロボはともかく、メカ沢とノーヴェは超がつくほどお人好しだ。
 それにしても、今使った魔法はなかなか好印象だ。連発ができ、応用が利く。
 それは『ディバインバスター』に酷似した魔法であった。デバイス無しのため、威力が本来のディバインバスターに劣る。
 その事実を知らないドラスは、ある程度の威力を保有する魔法弾をえらく気に入った。
 マリキュレーザーだと威力が強すぎるし、自分本来の力は隠しておきたい。
 それに、目の前の人形や仮面ライダー程度など、手に入れたばかりの力で充分対処が可能だ。
 さらに望月博士の望む究極の生命体へと近づいていく実感を持ってドラスは踵を返した。いや、返そうとした。
 ドラスは背後に悪寒が走ると同時に前方に飛び、存在していた地点に長ドスが突き刺さるのを目撃する。
 反転しながら対峙したのは、銀の仮面の仮面ライダー。
「やっぱり、君たちはしぶといねえ……」
 ドラスはにやり、と笑みを浮かべて魔法陣を形成し、左手に荷電ナイフを持つ。
 仮面ライダーXに向かって、駆け出した。


 爆音が轟き、基地が揺れる。
 明らかに戦闘が行われている様子に、三人は顔を見合わせた。
「ドラス……あいつが危ない」
「分かってんな? ノーヴェ」
 首を縦に振るノーヴェを確認して、メカ沢は先頭を走った。
 その背後を見守りながら、ロボはこの戦闘がドラスが仕掛けたものでないか、疑う。
(考えすぎデスカネ……)
 そうであればいいのだが。ロボはそう思考して、二人の後をついて行った。


「う……げぇ……」
 ドラスは壁に叩きつけられ、正面の仮面ライダーXを睨みつけた。
 悔しそうに口元を引き締め、再び地面を蹴る。身体を切り裂くために荷電ナイフを横凪に振るった。
 その左手はあっさりと捌かれ、ドラスの鳩尾に拳が叩き込まれる。
「X……パンチ……」
 凄まじい衝撃がドラスのコアまで届き、地面を十メートルほどすべる。
 痛みを抱えながら、ドラスは仮面ライダーXを信じられないという視線で見つめた。
「う……くそぉぉぉぉ!」
 ドラスの右腕に魔方陣が展開。光弾が次々と放たれる。
 しかし、仮面ライダーXは長ドスを回転させ、次々と光弾を弾いていった。
「ライドル……バリアー……」
 あっさりと攻撃を無効化して、仮面ライダーXが接近を仕掛けるのにドラスは驚愕する。
 ZOも確かに強かったが、ここまでではなかった。これには理由がある。
 ドラスとZO、共に持っていなかったものを、仮面ライダーXは持っているのだ。
 数多の怪人と戦い抜いた、『戦闘経験』を。
 多彩な技も、ドラスのように遠距離からの攻撃を仕掛ける敵に対抗するために生まれた技なのだ。
 だからこそ、ドラスよりスペックが低くても、いなし、捌き、攻撃を当てる。
 技量、その一点で仮面ライダーXはドラスを圧倒していた。
「X……キック……」
 矢のように飛び出してくる仮面ライダーXのキックがドラスの胸板を直撃する。
 たまらず吹飛ぶドラスは、鉄の壁をめり込ませるほどの勢いでぶつかった。
「くそっ、究極の生命体の僕が、お前ら仮面ライダーなんかに!!」
 ドラスは吼え、右手の魔法弾を連射した。これが、ドラスが仮面ライダーXに圧倒される二つ目の理由だ。
 ドラスは仮面ライダーXを侮っていた。最初にマリキュレーザーを使えば、倒せたのかもしれない。
 しかし、ドラスはオリジナルに劣る自身の魔法『程度』で、仮面ライダーを葬れると侮ったのだ。
 逆にドラスが戦えると判断した仮面ライダーXに油断はない。確実にドラスの力を削ぎ、堅実にダメージを与えていく。
 ドラスの意識では、あくまでも『仮面ライダー』は試作品の弱者。その認識が現状を生み出した。
「ぐはっ!」
 ドラスの鳩尾に、長ドスの峰がめり込む。仮面ライダーXは一切の容赦もなく回し蹴りを頭部に叩き込んだ。
 地面をバウンドするドラス。それをめがけて仮面ライダーXの両腕が長ドスを巧みに操り、ドラスの左腕を貫いて蝶の標本のごとく壁に縫い付けた。
 荷電ナイフが、からんと虚しい音を立てて落ちる。
 身動きの取れないドラスに、仮面ライダーXが静かに近づいた。
「嘘……やめっ!」
 ドラスの言葉が途中で途切れる。仮面ライダーXの拳が頬を打ち抜いたからだ。
 体液を撒き散らし、拳の方向に顔を強制的に向かされ、ドラスの視界が揺れる。
 同時にドラスのコアに衝撃が届いた。胸板が打ち砕かれた証拠だ。ボキボキと固定化されている胸部が砕ける。
 魔法を放とうとした右腕が、ボキンという鈍い音と共に間接と逆方向へと強制的に向かされる。
 危険を察した仮面ライダーXがすぐに折ったのだ。
 仮面ライダーXの回し蹴りが鞭のようにしなり、ドラスの左太ももを打ち抜いた。
 ドラスは顔を上げ、声にならない悲鳴をあげて、全身を脱力させる。彼は痛みを感じないわけじゃない。
 人間ならとっくにバラバラにされるような仮面ライダーの猛攻を受けて、痛みだけですんでいるのは彼が頑強な証拠である。
 そのドラスが全身から力を失うほど、仮面ライダーXの攻撃は激しかった。
 仮面ライダーXは顔を隠している水色の髪を引っつかむと、力を込める。
 ドラスを横に力任せに投げ、左腕が長ドスによって千切れるのも構わず、地面へと叩きつけた。
「ガハッ……」
 緑色の血を吐き出すドラス。左腕は縦に二つに裂けて、数分時間をかけてくっつける。
 ぴくぴくと痙攣する様からは、抵抗は無理のように見えた。


「調子に……乗るなぁぁぁぁぁ!!」
 ドラスが吼えた瞬間、体躯を少女から怪人へと変化させる。
 灰色の昆虫に似たフォルムから、体内にゴスロリ服を収納し、尻尾を仮面ライダーXへと繰り出した。
 こいつを殺す。
 その一念で必殺の一撃を繰り出した。
「え……?」
 ドラスの攻撃は、尻尾を切り落とされる結果で終わった。明らかにさっきとは異なる、神速の仮面ライダーXの動き。
 ドラスは知らないが、仮面ライダーXは暗闇の種子にとらわれながらも、僅かながらに意識がある。
 少女の姿のドラスが相手のため、本当に微かであるが抵抗をしていたのだ。
 しかし、怪人になったドラスを見て、人に扮する怪人を知る仮面ライダーXは抵抗を止めた。
 それは、『怪人』を倒し、平和をもたらすのが仮面ライダーの使命であるために。
 ドラスの変身は、彼を逆に境地へと追い込んだ。
 仮面ライダーXがドラスの腕を掴み、天井へと投げ飛ばす。天井に叩きつけられたドラスを、仮面ライダーXが右脚を向けて迫った。

「X……二段……キック……」

 一撃目がドラスの腹の装甲を砕く。緑の血がひびから飛び散った。
 反転、再度仮面ライダーXのキックがドラスの顔を打ち抜いた。天井が砕け、ドラスが雪の中舞い上がる。
 そのまま無抵抗のままに、地面へ戻った。
 ドラスはボロボロの状態の自分を見て思う。このままでは勝てない。
「くっ!」
 マリキュレーザーを拡散発射、目晦ましに使う。僅かにできた隙に喜びながら、離れた。
 ドラスはそのまま、部屋を飛び出て駆けていった。


 ドラスはヨタヨタとダメージに千鳥足となりながら、仮面ライダーXから遠ざかるように逃げていく。
 油断したどころではない。
 圧倒的化け物に喧嘩を売ったのだ。試作品の、未完成品に追い込まれるなんて、恥以外なんでもない。
(僕は……強くなくちゃパパが愛してくれないんだ。あいつを殺す。
あいつの存在をパパに知られてたまるか。そんなことになれば……僕は……)
 捨てられる。その単語を振り払うようにドラスは頭を振った。
 とはいえ、一人では到底勝ち目が見えない。ドラスは姿をメカ沢たちのよく知る少年へと変える。
 これで、メカ沢たちを盾にしつつ、仮面ライダーを倒す。その決意のまま顔を上げた。
「ドラス……?」
 聞こえた声に、ドラスは視線を向ける。明らかに戸惑っているノーヴェの表情があった。
 見られた。ドラスが狼狽する。
「ノーヴェ……お姉……ちゃん」
 言っていて、自分で自分が白々しく感じる。自分の怪人態を目撃されたのだ。取り繕いようがない。
 同時に、恐怖で背筋が凍った。ドラスは仮面ライダーに狙われている。
 仮面ライダーZOに打ち込まれた蹴りを思い出す。
 一人で、ノーヴェもメカ沢も盾がない状況で、相手にしなければならない。
 またも、仮面ライダーに殺される。導いた結論は、最悪のものだった。
 ドラスに始めて、恐怖が訪れる。死を意識した彼は、たまらず叫んだ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 恥も外聞もない。ドラスはみっともなく逃げ出した。
 彼を殺した仮面ライダーが恐ろしい。追い詰めて、痛みを味あわせた仮面ライダーが恐ろしい。
 ドラスにとって仮面ライダーは、試作品の弱者から死神も同然の存在となった。


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084:missing you true ノーヴェ 89:兄弟/姉弟/家族(中篇)
084:missing you true ドラス 89:兄弟/姉弟/家族(中篇)
084:missing you true メカ沢 89:兄弟/姉弟/家族(中篇)
084:missing you true ロボ 89:兄弟/姉弟/家族(中篇)
071:アルレッキーノ、コロンビーヌの事情(前編) アルレッキーノ 89:兄弟/姉弟/家族(中篇)
071:アルレッキーノ、コロンビーヌの事情(前編) 神敬介 89:兄弟/姉弟/家族(中篇)





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