Wake Up . The ヒーロー その2 ◆hqLsjDR84w



 …………………………………………

 ……………………

 …………

 ……

 生き、て……いる?
 これまで奏でられていた不吉な音は止んで静かになり、視界が暗くなった。
 だが、痛みは僅か。それも今まで経験したことのない激痛などではなく、大したことがない。
 何故だ……分からねえ。
 混乱している俺に、声がかけられた。
 そちらに顔を向けてみれば――

「T-800!? 脱出したんじゃなかったのか!?」
「しようとしたところで、お前の声をキャッチした。音源は床下。あの時点で床下にいては、脱出するのが困難と判断。
 お前は大きな戦力だ。瓦礫に潰されて喪失するのは惜しすぎる。ゆえに、救出するべく戻った」

 さっきまで探してたT-800がいた。
 普段と変わらない無機質な対応。だが、その身は……

「戻ってきてくれたことには礼を言うぜ。
 けどな……ッ、なんでお前が俺の上にいる! なんで……なんでッ、瓦礫から俺を守ったッ!」

 そう、その背には無数の瓦礫。
 瓦礫によって傷ついた身体。
 顔面の傷からは火花が散り、特に深い傷痕からは銀色の金属が露出している。
 最も損傷の大きいであろう背中は見えないが、顔面よりも傷は深いだろう。
 どう見ても、ダメージは大きい。それなのに、T-800はこんなことを言いやがった。

「俺とお前ならば、お前が無事な方が、この壊し合いを破壊するには戦力となる。
 後の目的のため、俺は破壊されるわけにはいかないが、気にするな。
 金属骨格部まで届いたダメージは、微々たるもの。この程度ならば、すぐに行動に支障はなくなる」

 あまりに合理的なT-800の考えに、何か反論しようとする。
 だが、何も思い浮かばない。今の俺には、T-800に言い返すことが出来ない。
 T-800は言葉を続ける。

「とはいえ、この瓦礫から脱出するには、手間がかかる。
 どかすだけならば数分で可能だが、下手に動かしてさらなる崩壊を起こすのは避けねばならん。
 脱出に必要な時間は計算出来ないが……、脱出した時点であの参加者が破壊されているのが望ましい。
 T-1000の情報を得られているのが最良だが、優先すべきはあの参加者の機能停止。
 気付いているか分からないが、決してお前はあの参加者にスペック負けしてはいない。
 情報交換の際に言っていた、『超電子ダイナモ』を何故使わないのかは、推測不可能だが」

 そこまで言うと、T-800が喋らなくなる。
 ギシギシと何かを引き摺るような音が聞こえるので、おそらくは身体を瓦礫から抜き出そうとしているのだろう。
 その度に、T-800の背に乗っかった瓦礫の隙間から青白い火花が散る。

「あと、言っておこう。あの参加者についてだが、胸部の温度分布が異常だ。
 八十七パーセントの確率で、機能の中枢を担う何かが埋め込まれている」

 不意に俺の方を向いてそれだけ言うと、再び物を引き摺る音が再開する。
 脱出だけに専念したのか、T-800はこちらを向くことはなく、会話もない。
 軋む音が響く中、俺の脳内では後悔だけが渦巻いていた。

 ――まったくもって、T-800の言うとおりじゃねえか。

 俺はなんで超電子ダイナモを使わなかったんだッ!
 使っていれば、こんなことにはならなかった。
 今頃、あの野郎をボコってT-1000の情報を聞き出すことが出来たのに。
 もしかしたら、T-1000の居場所を聞き出して、T-1000の元へと向かうことが出来ただろうに。

 ――使わなかった理由は分かる。

 びびってたんだ。
 今までの戦いで疲労した身体で、チャージアップできるのか。
 制限がかかった状態でチャージアップをして、今までの戦闘の負傷に響きはしないか。
 そんな下らないことをかんがえて、慎重に動いたつもりでいて……その結果はどうなった?
 T-800は瓦礫に埋もれ、俺自身も結構なダメージ、だがあの野郎はほぼダメージ無し。
 俺は馬鹿だ、大馬鹿だ。
 T-800は何度も俺を守ったのに、あの野郎に二度も不意打ちをぶちかましたのに、俺は何をしていた!?
 びびってるだけのくせに、慎重派きどって! その結果がコレだ!
 T-800は俺の方が戦力になるって言っていたが、そんなことはねえ。
 冷静に物事を考えつつも、仲間である俺に注意を払うのを忘れない。
 俺がやられそうになったら、何度も助けに来た。
 そういや、倒れてた俺を看護してくれたりもした。
 口調は機械的だが、なんと人間味に溢れているのか。
 俺はときたら、T-800と違ってただの大馬鹿だ。
 だからよォ…………

 馬鹿なら、馬鹿らしく――――下らねえこと気にしてんじゃねえッ!!!

 疲労が何だ。負傷が何だ。制限が何だってんだッ!
 制限だか知らないが、力が弱まるのなら、そのマイナス分以上に強くなればいいじゃねえかッ!!

 悪ィな、T-800。喝入れてくれたことに礼を言うぜ。おかげで目が覚めた。
 そして――悪ィな、糞餓鬼。もう手加減はしてやらねえ。全力でぶちのめす!


 T-800は、ただただ状況を合理的に判断した。
 合理的に考えて、戦力の喪失を防ぐために、城茂を何度も助けた。
 合理的に考えて、己の頑丈さならばダメージは少ないと判断し、瓦礫に潰される役を買って出た。
 合理的に考えて、城茂がなんで超電子ダイナモを使用しなかったのか分からずに、理由を尋ねた。

 結果――――城茂は、T-800を人間味溢れる男と判断した。

 そして、勘違いによってだが、燻っていた茂の心の火は燃え上がった。
 茂は沸騰するかのように、全身が熱くなるのを感じた。
 その感覚に快感を覚えているかのように、茂は獰猛な笑みを浮かべて拳を握り締める。
 グローブが千切れてどこかへ散らばってしまったため、少し動かすだけで剥き出しのコイルアームがスパークするが、茂は意に介さない。
 茂が上方に視線を投げると、小さいながらも一人くらいならば何とか抜け出せそうな隙間を発見する。
 握った拳を、周囲の瓦礫に軽く叩きつけて茂が叫ぶ。

「ぐだぐだ考えるのは、もうヤメだ。シンプルな話じゃねえか。
 まずは、あの糞餓鬼をぶちのめせばそれでいい。さあ……やってやろうじゃねェかァァーーー!!」

 叫び終えると、茂は両のコイルアームでもって、瓦礫の山をよじ登り始めた。
 ここに正義の味方は目を醒まし、怒りをイナヅマに変えて悪に解き放たんと敢然と立ち上がった――!


  ◇  ◇  ◇



 ナタクが、前を見据えながら立ちすくんでいる。眼前には、瓦礫の山。
 その瓦礫の山がかつては立派な家屋であったなど、とても想像はつくまい。

(片方のにおいは極端に弱くなり、片方は変化なし……だが)

 ナタクの強者を嗅ぎ取る嗅覚が、今まで戦っていた者達のにおいが弱まっていったのを感じ取った。
 片方のにおいに変化はないが、この瓦礫の山から脱出するのには手間がかかるだろう。
 わざわざ瓦礫をどかしてやる気も、待ってやる気もないナタクは、瓦礫の下にいるであろう者達との戦闘を諦めることにした。
 少し残念そうな表情を浮かべて、瓦礫の山に背を向けるとPDAを取り出すナタク。
 次の相手を探すために、ナタクがPDAを操作して高性能探知機を取り出そうとした時だった。
 上方向から、ナタクの背に声が浴びせられたのは。

「オイ、オイ、オイオイ、まだ相手が立ち上がってるってのに、相手に背を見せるってのはどういう了見だ?」

 両耳が声を捉えると同時に、ナタクが声のした方へと勢いよく首を捻る。
 ナタクの視界に入ったのは、全身に負傷を負い満身創痍の一人の男――城茂。
 ナタクは城茂の変身後の身体――仮面ライダーストロンガーの姿は知っているが、城茂の姿は知らない。
 だが、城茂のにおいは知っている。
 大して強いにおいではないが、変身することで一気に強者のにおいを放つようになる。そのことを、ナタクは知っている。
 ナタクはPDAをしまいこんで、茂の方へと体を向ける。
 城茂との戦闘は終わったのではなく、未だ最中であると判断したため。

「貴様、あの中にいて何故無事で済んでいる」

 ナタクの口から発せられるは、当然の疑問。
 茂がいるのは、かつて豪邸であった瓦礫の山の頂点。
 瓦礫の中から出てきたのは明白、しかしそれにしては茂の身には傷が少ないのである。
 茂の全身には幾つもの傷が刻まれているが、それでも『瓦礫の山に潰されたが、その瓦礫を押しのけて出てきた』にしては傷が少ないのである。
 その質問に対し、茂は息を吐き捨てて飄々と答える

「へっ、そんなこと俺が知るか」

 茂のこの答えは、偽り。
 ただ、ナタクに教える気を欠片も持ち合わせていないというだけ。

「……何だと?」

 ストロンガーが何を言っているのか、心底理解できないという様子のナタクを無視して、ストロンガーが叫ぶ。
 腹の底から気合を込めて、思いっきり声を張り上げる。

「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ! 悪を倒せと、俺を呼ぶ!
 聞け! シグマの下らぬ戯言に耳を貸し、殺し合いを加速させる悪党よ!!」

 ナタクを睨み付けながら、両腕をまっすぐと右側に伸ばす茂。
 これまでの戦闘によって、茂の絶縁体製手袋は破れてしまい、電気人間の証である無骨なコイルアームが露になっている。
 伸ばした両腕を反時計回りに旋回させ、左斜め上四十五度のところで腕を静止させる。
 そのまま、帯電しているコイルアームを一気に擦り合わせる。
 プラスとマイナスの電極の接触。その結果、バヂィンと青白い電撃がスパークする。
 茂の両腕から、ストロボを思わせる強烈な発光。
 一気に茂の全身を包み込んだ強烈な光は、ゆっくりと光が収まったいく。
 そして、完全に消灯した時、先刻まで城茂がいた場所にいたのは……

 黒いボディスーツに、赤いプロテクターを纏った戦士。しかし――

 全身を覆う黒色のボディスーツは、各所がズタズタに破れてしまっている。
 上半身を守る赤色のプロテクターには、ところどころに亀裂が入ってしまっている。
 両の掌にはめた、銀色地に赤色のラインをあつらえた手袋。これまた数箇所切れてしまっている。
 顔面には、緑色の巨大な複眼。額には、カブトムシを模した巨大な赤い角『カブトショッカー』。
 右のカブトショッカーは途中にて分断され、そこから先がない。左の複眼は一部が抉り取られ、そこを中心にヒビが入っている。
 立っているだけでも辛いであろうことが、傍目にも分かる。
 だが、腰に巻かれた刺々しいベルト『エレクトラー』の点灯は、普段以上の光度を放つ。
 複眼も、ヒビなど存在せぬかのようにキッとナタクを見据えている。
 胸部アーマーに描かれた、大きなS字マークもどこか普段より色濃く見える。

 満身創痍の彼を立ち上がらせたのは、胸に秘めた決して砕けることのない正義の心。
 ボロボロの状態でも、バトルロワイアルを止めるべく立ち上がった男の名は!
 その名は、その名は――――!

「俺は正義の戦士! 仮面ライダーストロンガー!! ――とおッ!」

 瓦礫の山の頂点にいたストロンガーが、思いっきり跳躍。
 太陽を背に、十数メートルほど上昇した頃であろうか。ストロンガーのスピードが、少しずつ弱まっていく。
 制限を感じさせぬ勢いで飛び上がったストロンガーが、地面に立ちすくんでいるナタクへと言葉を投げつける。

「俺達仮面ライダーの前に――正義の前に、悪がどれほど無力なのか……
 その身に叩き込んでやるぜ! チャージアァァアアーーーーップ!!」

 右腕を太陽に向かってピンと伸ばし、空中で叫ぶストロンガー。
 同時に、再改造手術によって埋め込まれた『超電子ダイナモ』が音を立てながら激動。
 生み出された超電子のエネルギーが、ストロンガーの体内に漲っていく。
 あまりに強大なパワーゆえに、ストロンガーの内部だけでなく、見た目にも異変が起こる。
 プロテクターの胸部に描かれたS字マークが、高速で回転。同じく胸部の装甲に、くっきりと銀色のラインが入る。
 ストロンガーの頭部から生える二本のカブトショッカーが、バチバチと音を立てて電撃を纏う。
 そして、いつのまにやら、カブトショッカーは赤色銀色へとその見た目を変化させていた。

「――ゆけ」

 ストロンガーから、これまでを遥かに凌駕する強者のにおいを感知したナタクが、M.W.S.からボムを二発射出する。
 ナタクはビームランチャーの燃料やボムの弾数に気を配り、ストロンガーとT-800との戦闘では主にスペルブレードを使用していた。
 しかし、今のストロンガーとの戦闘中に余計なことを考えていれば危険だと判断し、戦法を変更したのである。

「はッ! この程度で……こんなもんで! 今の俺を止められると思うなァ!!」

 叫びながら、ストロンガーが空中で方向転換。
 真っ直ぐとナタクへと向かうルート。しかし、道中には迫り来る二つの爆弾。
 当たってしまえば一たまりもない――ただの改造人間ならば。

「超電急降下パァァアアアアンチ!!」

 ナタク目掛けて、頭から一直線に突っ込んでいくストロンガー。
 普通に考えれば不自然で体勢を崩してしまいそうだが、そのまま右腕を振り上げて落下スピードを上乗せさせたパンチを放つ。
 空中で二度、立て続けにストロンガーから繰り出される右ストレート。
 どちらも、M.W.S.から射出された二つのボムを完璧に捉えた。
 衝撃によりボムが爆ぜるも、チャージアップ化によって増幅した電気エネルギーが、爆炎を相殺する。
 結果、M.W.S.より放たれた二つのボムは、ストロンガーにダメージを与えることが出来ずに壊された。
 妨げとなるものを破壊したストロンガーが、ナタクに三発目の右ストレートを放つも、それをナタクはギリギリで回避。
 破壊された二つのボムは、ストロンガーにダメージを与えることは出来なかったが、ストロンガーの勢いをほんの少しだけ弱めることは出来たのである。
 ナタクがいなくなったことにより、ストロンガーの右拳は地面へと激突する。
 その際に生まれるであろう隙を狙おうとしていたナタクだったが、それは叶わなかった。
 ストロンガーの右拳は地面を抉り取り、巨大なクレーターを作り上げたのだ。
 あまりに予想外の事態に、ナタクは一瞬目を奪われ、その間にストロンガーは体勢を立て直していた。

「く……ッ、『イナヅマブロー』!」

 拳からバチバチとスパーク音を鳴らしながら、己を見据えるストロンガーに、ナタクがM.W.S.の電磁ロッドを展開する。
 出現した電磁ロッドから、オレンジ色の電気エネルギーが発せられる。
 前に使ったときと違い、今度は拳に纏わせるのではなく、そのままストロンガーに向かって放電させる。

「エレクトロファイヤーーッ!!」

 迫る電撃に気付いたストロンガーが、叫びながら地面に拳を叩き込む。
 ストロンガーの掌から、目視可能なほどの高電圧電流が放電される。
 その電気エネルギーは、地面に含まれる砂鉄を伝ってナタクへと襲い掛かる。
 チャージアップ前ならば、ストロンガーの負傷と疲労もあって、電気エネルギーは互角であったが――

「があアアああァぁあああァァアああア!?」

 ――超電子人間と進化した、今のストロンガーの超電子の技相手ではそうはいかない。
 M.W.S.から発射された電気エネルギーは、エレクトロファイヤーに接触しただけで軽く弾き返されて霧散。
 一方のエレクトロファイヤーにより生まれた電気エネルギーは、これといって影響を受けることはなかった。
 そのまま地面を走り続け、無防備なナタクを飲み込む。
 あまりに強すぎる電気の出力に、ナタクが全身を痙攣させて苦悶の声を上げる。

「ナ、メ、る……なァアア!!」

 エレクトロファイヤーに身を焼かれながらも、ナタクは意識を落とすことなく、怒りを露に絶叫。
 その声に呼応するは、待機していた哮天犬。
 地面に掌を当てて電撃を流し続けるストロンガーに、体当たりを食らわせるべく宙を駆ける。

「トゥッ!」

 近づいてくる哮天犬の気配に気付いたストロンガーが、思いっきり跳躍。
 ストロンガーが地面から手を離したために、ナタクはエレクトロファイヤーから解放される。
 全身に火傷を負ったナタクが、意識を落としそうになるものの、ギリギリで踏み止まる。

「やってくれたな……!」

 怒りを顔面に浮かべたナタクが右腕を掲げ、右腕に装着されたM.W.S.を上空のストロンガーに向ける。
 電磁ロッドは収納され、今はビームランチャーを射出する形態となっている。
 ナタクの瞳に、撤退の意思は欠片もない。無論、ストロンガーも同じく。
 M.W.S.の銃口より、無数に射出されるビームランチャーの嵐。
 その全てが、ストロンガーの身を貫くべく直進する。
 ストロンガーの複眼が、光を放ちながら迫り来るビームランチャーを映す。
 されど、ストロンガーはたじろぐことはなく、退くこともない。
 右足をピンと伸ばし、左足でそれを支えるストロンガー。

「超電子いいぃぃぃぃ……――――」

 ストロンガーが呟いたのと同時に、ストロンガーの身体より放たれるビームランチャー以上の極光。
 その正体は、ストロンガーの体内に収まりきらずに、全身から溢れ出す電気エネルギー。
 あまりの光量に、さすがのナタクも一瞬だけ視線を逸らす。

 そう、一瞬。
 いや、もしかしたら一瞬にすら満たないかもしれないが、確かにナタクはストロンガーから目を離した。

 ナタクが目を離している間に、ストロンガーは腰を捻って身体を回転させる。
 落下エネルギーに上乗せされた回転の勢いにより、ストロンガーの速度が増していく。
 より一層加えられる捻りが、より一層の回転を生み出し、より一層の加速を実現させる。
 さらなる捻りが――/さらなる回転を――/さらなる加速を――/さらなる――/さらなる――/さらなる――!
 さらに捻りが――/さらに回転させ――/さらに加速――/さらに――/さらに――/さらに――!!

「ッ!?」

 再びナタクがストロンガーの方へと顔を向けたときには、既にストロンガーの速度は、常人では目視できぬ領域に至っていた。
 ナタクでさえ、一筋の光の矢にしか見えぬ速度。かろうじて、ナタクにはストロンガーが回転しているのことが分かった。
 M.W.S.より放たれたビームランチャーの弾幕は、そのことごとくが錐揉み回転するストロンガーに弾かれて無力化。
 ナタクとストロンガーの距離は僅か。
 行く手を阻んでいた無数のビームは吹き飛んでいった為、ナタクとストロンガーの間に障害物はなし。
 勝利を確信しつつも、キックの勢いを緩めることなど、思考の片隅にもないストロンガー。
 足の先に肉体が接触したのを確認し、ストロンガーは叫ぶ。
 ストロンガーが超電子の得た時、最初に使用した技の名を。
 デルザー軍団の改造魔人が一人、ドクロ少佐に使用して以来、数多の怪人を葬ってきた――必殺と呼ぶに相応しい技の名を。

「――ドリルキィィィイイイイイイックッッ!!」

 最初に民家が倒壊したときよりも。
 テントローでの体当たりを受けたナタクが、豪邸に突っ込んだときよりも。
 豪邸が倒壊したときよりも。
 超電急降下パンチでもって、地面に巨大なクレーターを出来上がったときよりも。
 さらに巨大な轟音が響き渡り、大地を揺るがせた。


  ◇  ◇  ◇


「ハァー……ハァー……」

 超電子ドリルキックの勢いがじょじょに収まっていき、遂にストロンガーが静止した。
 その直後であった。やはり、勝手にストロンガーのチャージアップが解除された。
 T-1000の時の反省を生かし、一気に勝負を決めたのは正解だったな――そう胸中で呟くストロンガー。
 シグマによってかせられた制限により、チャージアップ後の疲労は半端ではない。
 今にも意識を落としそうになるも、ナタクの死体を見るまでは寝られないと、ストロンガーが足を動かす。
 超電子ドリルキックの加速の所為で、ストロンガーは戦場から結構離れてしまっていた。
 その距離をストロンガーは足を引き摺りながら歩き、やっとのことで豪邸だった瓦礫の前に到着する。
 辺りに目配せすると、ストロンガーは安心したように倒れこむ。
 ストロンガーは、天を仰ぎながら数十秒かけて呼気を整え、握りめた右拳を天に向けて思いっきり伸ばす。

「勝った……ぜ……!」

 ストロンガーの複眼が捉えたのは、ナタクが右腕に装着していたM.W.S.。
 ただそれだけが、地面に落ちていたのだ。
 それをストロンガーは、『ナタクは超電子の力で蒸発して、M.W.S.だけが残った』のだと認識した。
 スペルブレードや電磁ロッドを展開し、かつビームランチャーやボムを射出するM.W.S.は、ストロンガーにとって未知の武器。
 スバル・ナカジマが元々いた世界についての情報をT-800から聞いていたため、ストロンガーはM.W.S.を他の世界の武器なのではないかと考えていた。
 他の世界の武器ならば、超電子のパワーに耐えても不自然ではない。ストロンガーは、そう判断したのだ。

 ――だからこの後、ストロンガーは驚くことになる。

 勝利を噛み締めているストロンガー。
 その彼に、唐突に声がかけられる。

「おい」

 言葉自体は大したことのない、ごくごくありきたりなもの。
 寝そべっていたストロンガーは、声のした方に視線を流し――戦慄した。

「テメェ…………ッ!」

 立ち上がろうとするストロンガーだが、左膝が地面に付いたまま動かない。
 チャージアップの疲労が大きすぎるのだ。
 現状に、ストロンガーはただ拳を握り締めるしか出来ない。その力も、普段よりかなり緩い。
 ストロンガーの複眼の先にいるのは、倒したはずの――いや、ストロンガーが倒したと『思い込んでいた』ナタクであった。
 ナタクの右腕は、上腕の半ばから先がない。
 それを見て、ストロンガーは己の勘違いに気付く。
 戻ってきたストロンガーが見つけたのは、M.W.S.ではなく『M.W.S.ごと引きちぎられたナタクの右腕』だったのだ。
 ナタクの全身には、超電子の電撃によって生み出された火傷と裂傷。明らかにダメージは極大。
 しかし、それでもナタクは動いている。その事実に、ストロンガーが絶望する。

 ナタクがPDAを取り出し、左手で操作する。
 数度ボタンを弄くると、M.W.S.がナタクの前に出現。ナタクが左腕に装着する。
 一度PDAに戻してから、再転送させたのだ。
 続いて、ナタクが宝貝『哮天犬』を呼び出す。
 すると、どこからか哮天犬がナタクの元へ駆け寄ってくる。
 なるべく力を加えないように、哮天犬の口にはナタクの右腕が咥えられている。
 咥えられた右腕を確認すると、ナタクは地面に肩膝をつけたストロンガーを見下ろす。

(切り札を使って、まだ倒しきれないとはな。やれやれ、絶望的な状況だぜ……)

 胸中で自嘲気味に呟くストロンガー。
 もしも城茂の姿をとっていれば、いまストロンガーは苦笑いを浮かべているであろう。
 成す術もない状況への絶望で気が狂ったか? いいや、違う。
 その笑みは……

(だがな、切り札ってのは、二枚あるもんだぜ……
 アレは捨て身の技。放てば俺の命はない。それでもな、命には賭け時ってもんがあんだよ。
 アイツのそれが『あの時』だったように、俺のそれは『今』だ。――後は任せたぜ、先輩、そしてT-800)

 そう、ストロンガーの浮かべる笑みは、自棄になった者の笑みではない。後に望みを託す者の笑み。
 電気人間であるストロンガーが改造されたのは、電波人間タックルと同時期。
 だから――使える。命を捨ててタックルが放った捨て身の必殺技『ウルトラサイクロン』を、ストロンガーは放つことが可能。
 ストロンガーは、己にトドメを刺すべくナタクが接近するのを待つ。
 近づいたと同時に、ウルトラサイクロンを放つために。
 しかし、ストロンガーの瞳に映ったのは、意外すぎるヴィジョン。

「……日が暮れた頃、スクラップ工場に来い。そこで決着をつける」

 哮天犬に跨って、ストロンガーに言い放つナタク。
 そのまま飛び立とうとするナタクに、ストロンガーが声をかける

「待ちやがれ……! こっちは、テメェを放っとくワケにはいかねぇんだよ。
 夜まで待つことなんてねえ。いま、決着を……くッ」

 言葉の途中でよろめき、雪原に崩れ落ちてしまうストロンガー。
 跨っている哮天犬を地上五メートルほどの高さに静止させながら、ストロンガーの方を見ていたナタク。
 ストロンガーの疲労困憊ぶりを見届けて、ナタクが口を開く。

「その弱弱しさで、俺と戦うだと? ふざけるな。俺が殺すのは、全力のお前だ。
 せいぜいさっきの力をもう一度俺に見せれるくらいに、体力を回復させておけ」

 それだけ言うと、ナタクは哮天犬をさらに上昇させて飛び立ってしまった。
 雪の上で倒れるストロンガーは、小さくなっていくナタクを見ることしか出来なかった。
 ナタクの姿が完全にストロンガーの視界から消え去った矢先に、ストロンガーの変身が解除されて城茂の姿に戻る。

(殺し合いに乗ってるヤツも止められず、挙句の果てに見逃されて、その上また寝る気かよ……
 T-800の救出もまだじゃねえか……不甲斐ねえ。本当に情けねえな……)

 胸中で自分を罵るも、茂の双瞼は勝手に落ちてくる。
 視界が暗くなってくる中で、茂はナタクの言い残した言葉を思い出す。

(回復させておけ、か。ナメ、やがって……
 野郎、次に……出会、ったら……絶対、ェに、ブチのめ、す…………)

 そこまで思考すると、茂の視界は完全にブラックアウト。
 意思に反して休息を求める身体に逆らえぬまま、茂は意識を闇へと飛び立たせた。

 ――――もしかしたら、この時に意識を落としたのは、茂にとって幸運であったのかもしれない。


 俺を追い込んだあの男――探知機を見る限り、あちらが城茂か。
 ということは、瓦礫に埋まっている方がT-800ということになるな。


 ――さて、城茂との再戦の前にやるべきとが二つ。


 一つ目は、俺の身体の修理。
 全身の火傷や裂傷は、気にするに値しない。
 ただの仙人ならば戦闘不可能に陥るかもしれないが、俺は強い。
 問題は右腕。当然のことだ。
 M.W.S.は左腕でも使えるし、俺は腕が飛ぼうと足が飛ぼうと戦えるが、どうにも違和感が拭えない。
 何より、シグマに奪われた火尖槍や乾坤圏を回収しても、このままでは満足に使えない。
 なんとしても、くっつけなければならない。
 そして右腕のほかに――城茂の電撃によって受けた霊珠へのダメージ。
 銀色に変化した城茂の電撃は、俺の身体だけではなく霊珠にまで届いた。
 霊珠へのダメージは少ない――かつて胸を開いた状態で、アイツに握りつぶされたときよりは――が、霊珠の損傷は致命傷となり得る。
 霊珠を傷つけた経験は乏しい。
 だが、確かに四肢が吹っ飛んでも戦える俺にしては珍しく、霊珠にこれまでダメージを食らった時は『危険』というものを味わったように思う。
 すぐに哮天犬で城茂を遠ざけた為、ダメージは少ないが気に留めておくべきだろう。
 とは言っても、である。
 あの男がいない以上は、俺自身にはどうしようもない。
 物を治す力など、戦いには必要ない。そんな暇があれば、撃て。撃ち続ければ、相手は死ぬ。
 そう思っている俺が、修理する技術など持っているワケがない。
 ところが、もしかしたら修理工場には、俺にも使える道具が置いてあるかもしれない。とりあえずは向かってみるか。


 そして、やるべきことの二つ目。
 それは、強い武器の入手。
 M.W.S.は近接戦闘用の武器も搭載しているが、如何せん火力が弱い。弱すぎる。
 ビームランチャーの連射スピード、一発一発の威力。ともに、金碑に劣る。
 ボムを射出する速度、威力。ともに、乾坤圏に劣る。
 スペルブレードの切れ味、そしてリーチ。ともに、火尖槍に劣る。加えて火尖槍は、刺した物体を燃焼させることが出来る。
 電磁ロッドの出力。九竜神火罩IIが相手を捕獲する時に放つ電力に、遥かに劣る。
 さらに言えば、飛行用の風火輪、水を操る混天綾。どちらの効果も、M.W.S.は持ち合わせていない。
 もう一つの支給品である哮天犬で飛行は出来るし、M.W.S.の搭載武器よりも威力のある攻撃が出来る。
 だが、それでも乾坤圏や金碑と比べては、攻撃力が劣る。
 さらに、哮天犬を相手にぶつける間は、俺自身が飛行できない。

 ――このままでは、全力が出せない。

 城茂が見せた技を思い出す。
 空中に飛び上がって回転、その回転の速度を上乗せさせた飛び蹴り。
 いつも通りの宝貝があれば、迫る城茂に全力で攻撃を放つことが出来た。
 止められたかは分からないが、いい勝負となったはずだ。
 最後に勝つのは、俺だろうが。

 ――しかしあの時、城茂の飛び蹴りに攻撃を放つことは出来なかった。

 城茂の飛び蹴りに、哮天犬を正面からぶつけることは出来た。
 だが、あの威力ではおそらく弾き返された。
 哮天犬でも火力が足らないのは、明らかだった。
 当然だ。あの蹴りは、金碑と乾坤圏の両方を全力で放って、やっと何とかなりそうな威力だった。
 哮天犬が弾き返されても、城茂のスピードはおそらく減速することはなかった。
 減速しなければ、城茂の飛び蹴りは俺の上半身を抉り取り、霊珠をも粉砕していったことだろう。
 だから、咄嗟に俺は『俺自身』に哮天犬を体当たりさせた。
 不本意ながら、体当たりの勢いで回避するしかなかったのだ。
 完全に避けきるはずだったが、城茂の加速は凄まじく右腕を奪われた。
 奴は、城茂は強い。戦いたい。倒したい。
 でも、今の武装では、俺は全力を出し切れない。
 武器を探さねばならない。
 哮天犬が支給されていたことから考えて、シグマは奪った宝貝を支給しているのだろう。
 ちッ、人の物を自分の所有物であるかのように。やはりアイツは気に入らん。殺す。
 ならば、俺の宝貝も支給されていることだろう。
 絶対に取り返してみせる。


 と言っても、いま優先すべきは身体の修理だ。
 修理を終えてからの方が、武器を探す効率もよくなるだろうしな。

 ピピピッ。

 不意に、持っていた高性能探知機が電子音を鳴らす。
 何事かと思って確認すると、先ほどまでと画面が変わっている。
 北東へ進んでいるうちに、隣のエリアへ入ったということか。
 探知機を見てみれば、俺のいるのはC-3の北西部。
 ここまでくれば進行方向を北東から東に変更しても、修理工場に続く通路に辿り着くな。
 哮天犬に進行方向の変更を命じる。

 もう一度探知機に視線を落とすと、新たに映し出された光点は二つ。
 記されている名は、アルレッキーノと神敬介。……やはり奇妙な名だ。
 アルレッキーノの方は南へと、神敬介の方は西へと向かっている。
 いま、強者のにおいは、まったく感知できない。
 城茂のにおいも感じ取れないので、アルレッキーノと神敬介に力がないとは言い切れない。感じないのは、離れているせいだろう。
 ……それにしてもたかだか八メートル四方の空間だ。普段の俺ならば、どこに隠れられようと強者のにおいを感じ取るくらい造作もないはずだが。
 やはりこれもシグマのせいか。全くもって、アイツは俺に殺されたいらしい。
 まあ、いい。アイツを殺すのは後だ。探知機に視線を戻す。
 神敬介の方は、移動速度が結構速い。何か乗り物を持っているのか。
 まさかこの男が風火輪を――いいや、それはあり得ないか。
 仙人界に二つと存在しない風火輪のことだ。初めて見るものに使いこなせるはずがない。
 奴等が俺の宝貝を持っているという確証もない。
 ここまで北上したのに、また南下するのも面倒だ。
 予定に変更はなく、まずは修理工場に向かうとしよう。

 修理後に回復した俺が、哮天犬を全速力で走らせて宝貝を探し出す。
 そして――再び宝貝を手に入れて修理を終えた全力の俺が、体力を回復して全力の城茂を殺す。
 くく、日が暮れる頃、スクラップ工場で開戦か。
 ヤツはヨウゼンや太公望とは違い、俺を本気で殺しにかかってくる。
 逃げはしない。絶対にスクラップ工場にやって来る。
 また会うまで、死んでくれるなよ――――城茂。



【C-3 北西部(上空十メートルほど)/一日目 午前】
【ナタク@封神演義】
[状態]:全身に重度の火傷と軽度の裂傷、霊珠に微弱のダメージ、右腕上腕の半ばから先を喪失、疲労(大)
[装備]:哮天犬@封神演義、M.W.S.(ボム残り五発 ビームランチャー エネルギー79%)@ゼノサーガシリーズ
     高性能探知機、自分の右腕(哮天犬が咥えています)
[道具]:支給品一式、ランダム不明支給品1
[思考・状況]
基本思考:強い敵と戦う。弱者に興味はない。馴れ合うつもりはない。
1:修理工場に向かい、身体の修理(霊珠のダメージ、右腕を優先)。
2:武器を探す(宝貝優先)。
3:回復を終えたT-1000と城茂とはまた戦いたい。
4:日が暮れる頃にスクラップ工場に向かい、万全の城茂と再戦。そして倒す。
[備考]
※仙界大戦終了後からの参戦。
※現在、M.W.S.は左腕に装着しています。
※T-1000の名を知りました。



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094:Wake Up . The ヒーロー その1 城茂 094:Wake Up . The ヒーロー その3
094:Wake Up . The ヒーロー その1 T-800 094:Wake Up . The ヒーロー その3
094:Wake Up . The ヒーロー その1 ナタク 106:ARM――腕、或いは兵器





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