大切なものを喪う悲しみ(中編) ◆hqLsjDR84w





 やっと目的地に到着したか。
 本調子ならばこんなに時間はかからなかったのだが、放送前に着いただけマシか。
 哮天犬から降りて、義手の具合を確かめる。……やはり、普段と変わりなく動く。
 それだけ確認して、哮天犬を腰紐の結び目に収納し、探知機をPDAに戻す。
 探知機に映し出されていた光点の数は、五つ。

 そして差こそあれど、その全てからなかなか強いにおいがする。

 身体の修復を優先していたが、この場にいるのだったら仕方がない。
 全員と戦い、俺の力を確かめるまで。
 右腕にカセットを差し込み、近接戦闘用武器に変形させる。
 そして、そのままにおいのする場所から少しズレた場所を殴り付ける。
 不意打ちで相手を瓦礫に押し潰させて勝利など、つまらなすぎる。
 右腕はいらん傷がついても困るので、この場に放置。
 眼前に空いた風穴に飛び込み、修理工場内へと潜入。
 すぐさま、金の鎧を纏った男が押しかけてきた。
 思わず、嘆息してしまった。
 修理工場内にいた五人は、全員が全員それなりに強者ではあったが――

「貴様、かなり強いな?」

 この男は、その中でも強い部類に入る。
 M.W.S.をスペルブレードに変化させて斬り掛ると、男は持っていた剣で俺の攻撃を受け止めた。
 やはり、俺の目に狂いはない。
 俺の強さを証明する為、死んでもらう。


 凱に遅れること、一分弱。
 他の四人も、ナタクの侵入した部屋に辿り着いた。
 しかし、その頃には既に開戦済み。
 お世辞にも戦場向きとは言えない室内で、両者とも剣を得物に拮抗した勝負を繰り広げていた。
 その熾烈さは、部屋の狭さと相まって他者の参入を許さなかった。

 ナタクとは違って、最初は建物自体に危害が加わるのを躊躇していた凱だったが、すぐさま考えを改めた。
 目の前の男は、周囲を気にしていて勝ちをもぎ取れるような相手ではない。
 凱もそう判断を下した結果、凄まじい勢いで室内の備品は破壊されていった。

 ナタク、M.W.S.を装着した左腕を大きく振りかぶって唐竹割り。
 軽く右に踏んだサイドステップで、凱は回避。そのまま左手だけでグランドリオンを振り抜く。
 迫り来るグランドリオンの刃を、M.W.S.のボックス部で受けるナタク。
 狙い通りの結果に微笑を浮かべ、凱はグランドリオンに力を込める。
 グランドリオンとM.W.S.の接触した箇所を支点とし、弾き飛ぶようにナタクから距離を取る凱。
 仕掛けた凱は華麗に着地してみせるが、ナタクは体勢を崩してしまう。
 その隙を逃さないと、凱はグランドリオンを両手で構え直して床を蹴る。
 こうなってしまえば、凱の勝利は確定的に見えたが――

「凱、離れろ!」

 加速していく凱にかけられたのは、焦りが含まれた風見の声。
 その意図を理解出来ないながらも、風見が考えなしに無駄な発言はしないだろうと、凱は急遽横っ飛びすることで方向転換する。
 直後、凱が先ほどまでいた場所を数多の銃弾が貫いた。
 凱の背筋に、氷塊が走り抜ける。
 ナタクは機関銃へと変化した右腕をまじまじと見つめる。

「思うだけで変換できれば、なお戦闘向きなのだがな」

 そう呟いてから、ナタクは凱へと銃口を向ける。
 グランドリオンを握る力を強くする凱であるが、数秒の射撃で易々と壁を風穴とした威力にはたじろぎを禁じ得ない。
 全弾回避しての攻撃は、考えるまでも不可。
 あの連射性、避けたところで隙は生まれない。回避する暇があるのなら接近すべき。
 被害を無視して接近、そのまま一気に攻撃するしかない。
 決意を固めるも、凱の心から不安が消えない。
 あの威力の弾丸を受け続けて、肉体が勢いを保てるのだろうか――

 風見は銃弾が放たれる前に割って入ろうとするものの、変身せずに銃弾を受ければ致命傷を負ってしまう。
 かといって変身してしまえば、ナタクが気付かないはずがない。
 警戒したナタクが、攻撃対象をこちらに変更されてしまったなら――
 風見自身はダメージは負うだろうが、改造人間の耐久力で耐え切れる。ナタクも、凱が一太刀の下に切り捨てるだろう。
 しかし流れ弾が、近くにいる三人に当たる可能性が大きい。
 ドラスはともかくとして、治療中のゼロとチンクがマシンガンアームの弾丸を受けてしまえば――
 意図せず、風見は歯を軋ませた。

 いてもたってもいられずに前に出ようとするドラスを、ゼロが静止する。
 渾身の一撃で風見に重症を負わせられないようでは、横槍を入れたところで足手纏いになるだけだ。
 そう言われてしまえば、ドラスには何も言えなかった。
 この言葉は、ドラスにだけ言った言葉ではない。
 もはや階段を登るだけのことで左膝を激痛が走るゼロ自身にも、向けられたものである。
 いつでも包帯を切り裂いて戦線に出る準備は完了しているとはいえ、その場合は左膝未修復のままの戦闘になる。
 足手纏いは自分だけではないなと、ゼロは胸中で自嘲気味に呟いた。

 ――そして、今にも銃弾が吐き出されようという時。

「何?」

 二本のスプーンがドアの前で群がる三人をすり抜けるように、ナタクの眼前まで飛来する。

「――IS発動、ランブルデトネイター」

 警戒するナタクをよそに、歌うように紡がれたチンクの言葉とともにスプーンが炸裂した。

「お前がコーヒーを用意したのが、吉となったな。無駄にナイフを消費せずにすんだ」

 風見に声をかけるチンクの顔には、笑みが浮かんでいた。
 どうだ、ちゃんと見ていたか?
 まるでそう語りかけているようで、風見は思わず苦笑した。

「チンクさん、すごいじゃあないか! 助かったぜ!」
「ふん、お前達があんなヤツに苦戦するとはな」

 部屋から出てくる凱。
 五人は、既に勝利を確信していた。
 しかし、すぐにその余裕は崩壊することになる。

「消えた、だと……?」

 誰かの口から漏れた言葉。
 そう、少しずつ爆煙が薄くなり視界が明瞭になっているというのに、爆心地にいるべきナタクの姿が見えないのである。

「そんなバカな!」

 静止も聞かず、ナタクのいた場所へと走っていくチンク。
 そして――

「――ッ!?」

 声にならない声を漏らして、チンクまでも消えてしまった。
 何とも言えぬ焦燥に駆られながらも、残された四人はその場に待機し――答えを知る。
 それは、あまりにも簡単な思い違いであった。
 ナタクも、チンクも、消えてしまったワケではない。
 『落ちた』のである。

 おそらくナタクは、チンクのISが発動する瞬間に目の前のスプーンの異変に気付いた。
 すぐさま床に穴を開けて、落下することで爆発の直撃を避けたのだろう。
 四者ともそこまで予想してから、気付いた。
 ナタクとチンクが、二人とも同じ穴に落ちたのならば――

「チンクお姉ちゃんが、危ない!」

 思考が行き着いた途端に、床に空いた穴へと飛び込んでいくドラス。
 仮面ライダーV3へと変身を終えた風見、凱、ゼロの順で、残った三人もドラスに続いた。


 ◇ ◇ ◇


「今の爆発は貴様だな」

 自分が落下したのだとやっと気付いたチンクに浴びせられたのは、ぶっきらぼうな言葉だった。
 チンクは敵意を剥き出しにして声の主を睨みつけるも、ナタクがその程度では動じるワケがない。
 マシンガンアームを通常の状態へと転換させて、ナタクはM.W.S.を装着した左腕をチンクに向ける。

「くッ!」

 ナタクから距離を取って、ナタクにスプーンを投擲するチンク。
 またしても、数は二。
 しかしそのスプーンは、M.W.S.より撃ち出されたビームランチャーによって粉砕。
 接触の瞬間に爆破させるも、ビームランチャーの破壊力の方が上らしく、幾分細くなったが光弾は確かにチンクを追いかけてくる。
 防御障壁を張ることで何とか光弾を防ぎきるが、防御障壁も霧散してしまう。

(ISで僅かとはいえ弱めた上で、この威力とは……ッ。あの弾丸が、床に穴を空けたものか……?)

 チンクの推測は、正解。
 かつてT-800に捉えられた時と同じように、ナタクは床をビームランチャーで破壊したのである。
 T-800の時との違いは、ビームランチャーの火力。
 全力で放てば家屋が倒壊するのを、ナタクは知っている。
 修理工場が倒壊してしまえば、困るのは自分自身である。
 ゆえにナタクは、ちょうど床を一枚砕く程度の威力でビームランチャーを放ったのである。

「ISッ!」

 ゆっくりと近付いてくるナタクに、スプーンを一本とナイフを三本投げつける。そして、すぐさまISを発動。
 これはただの目眩ましである。
 チンクが所持しているスプーンの数は、風見が用意したコーヒーと同じ数。即ち、五。
 今まで四本消費してしまい、残りは一本。隠し持つナイフの数は、三。
 その状態で、チンクは全てを煙幕代わりにして身を潜めるのを選んだ。
 正面からのやり合いでは、勝ち目はないと踏んだのである。
 ならば一度隠れて先ほどまでいた部屋に戻り、置いてきた金属片の詰まったデイパックを回収。不意打ちでISを発動、殺害する。
 一回のぶつかり合いで、チンクは冷静に相手の力量を見抜いたのだ

 ――しかし、一見最良に見えたチンクの選択には穴があった。

「その程度で、俺から逃げ切れるとでも思ったか。なめるなよ」
「――――っ、あ!?」

 忍び足で遠ざかっていたチンクの身体が、急に上昇した。
 それが持ち上げられた為だとチンクが気付いたのは、背中にM.W.S.を押し付けられてからだった。

 ――ナタクは視覚が奪われようと、『におい』で他人の位置を識別できるのである。

「きさ、ま……ッ!」

 精一杯の抵抗か、足をバタバタと動かすチンク。
 されど、その程度ではナタクは動じず。

「死ね」

 その言葉とともに、M.W.S.からビームランチャーが――

「離せ!!」

 放たれようという時に、その場に現れたドラスが声を張り上げた。

「やっと来たか…………ッ!? ……何だと?」

 ずっと無表情であったナタクが、ドラスの方を振り向いて目を見開いた。
 同時にチンクの首根っこを掴んでいた力が緩まり、チンクが床に落ちる。
 強烈な握力で首根っこを掴まれていたことに加えて、唐突な落下感に襲われたことで、チンクはかなりグロッキーな様子で床に横たわっている。
 しかしナタクは既に興味をなくしたかのように、チンクを見ることすらしない。
 ただドラスを下からゆっくりと見ていって、一言。

「――お前、宝貝人間か?」

 ナタクは、ドラスから自分と同じ存在のにおいを感じ取った。
 体内に核を宿した『宝貝人間』のにおいを。
 昔なら感付くことはなかっただろうが、ナタクは金鰲島の宝貝人間に出会った。
 そのにおいを、ナタクは忘れることはない。永久に。

「いったい何を……?」
「答えろ」

 有無を言わせぬ口調のナタク。
 そんなナタクの様子は、ドラスを苛立たせた。
 いきなり凱に襲い掛かり、チンクを倒れさせておいて、何という態度なのか。
 床の上で荒い呼吸のチンクに再度視線を向けた瞬間、ドラスの怒りは臨界点に達した。

 ドラスが右腕をナタクに向けて伸ばすと、右掌の前に魔方陣が展開される。
 ほうと溜息を吐くナタクへと、魔方陣から光弾が飛び出した。
 ナタクを打ち抜かんとす三つの光弾、その全てはM.W.S.から吐き出されたビームランチャーによって相殺。

「俺の同類でありながら、この程度の力しか持たないワケがない。お前、力を隠しているな」

 無意識のうちに、小刻みに肩を揺らしたドラス。
 力を隠しているというのは真実だが、返答はしなかった。
 その無言の意図をナタクは、推理する。
 そして蘇るは、金鰲島の宝貝人間の対応。
 彼はナタクが宝貝人間たる証拠を見せるまで、ナタクが宝貝人間だと信じようとしなかった。
 元より他人との触れ合いなど殆ど経験したことのないナタクは、今のドラスの対応をその時と重ねた。

 無言でカセットアームからカセットを抜き取り、通常時の形態に戻す。
 その右手を自分の胸の前へと持って行き、思いっきり爪を立てる。
 そこから胸に指を押し込み、力を込めて肉を剥ぎ取った。
 ナタクの胸骨の奥に、溢れ出す血液の奥に、ドラスは目にした。
 人間ならば心臓が存在する場所に鎮座する、白と黒の二色から成る球体――霊珠を。

「あ……」

 自身の本体であるコアを思い出し、ついつい声を漏らしてしまうドラス。
 その反応を、ナタクはドラスが宝貝人間であるゆえのものと判断した。

 ナタクが剥ぎ取った肉を傷痕に押し込み終えた時、ドラス以外の三人も戦場を見つけて到着する。
 しかしチンクがナタクの足元に倒れているため、飛び掛ることが出来ない。
 相手の出方は分からないが、人質が取られているのと同じである。

「今は、貴様等に用はない――邪魔だ」

 三人へとM.W.S.を向けるナタク。
 その視線は、幼児が壊れた玩具へと向けるものと似ていた。

「う……うわああああああああああああっ!!」
「ふむ、それがお前の原型か」

 どうにか状況を打破すべく、叫びながらドラスが怪人態へと変身する。
 少女のような姿から、二メートルを越える体躯の銀色の異形への変化。
 それにはさすがのナタクも驚いたようだが、すぐに妖怪仙人のことを思い出して納得した。
 身体が変化するタイプの宝貝人間がいたところで、何らおかしいことはない。

「やめるんだ、ドラス君!」

 ドラスが飛び掛ってナタクを刺激してしまえば、倒れているチンクに危機が及ぶかもしれない。
 その理由で攻撃のしようがない凱が、ドラスに声をかける。
 ドラスは足を止めるも、真紅の瞳でナタクを睨みつけるのを止めず――銀のボディの右肩が煌いた。

「……イヤだ。もうこれ以上、僕は家族に死んでほしくない!!」

 絶叫とともに、ドラスの肩部から光線が射出される。

 ――分子破壊光線、マリキュレーザー。

 本来の威力には劣るとはいえ、その光線はナタクがいた直線上の部屋を三つ程消し飛ばした。
 部屋の途中で床と壁は消え、外が見えてしまっている。
 そのことに驚くこともなく、少年の姿に戻ったドラスは消え去ったナタクがいた近くに駆け寄って、チンクに声をかける。
 幾度か揺らしながら声をかけると、チンクはすぐに目を覚ました。
 ドラスに助けられたのだと感付き、項垂れてしまうチンク。
 しかしドラスは彼女を責めることをせずに、むしろ後遺症がないことを喜んだ。

「凄まじいな……」

 予想外の攻撃に驚愕していた三人が、誰ともなしに漏らした。
 破壊力は勿論のことだが、真に驚くべきなのは精度。
 あれだけの威力の光線でありながら、ナタクの近くにいたチンクには傷一つ付いていない。

「味方となれば心強いが、敵にすれば恐ろしいな」
「ドラス君に勇気を刻み付けた彼等に、改めて感謝しないとな」

 変身を解除した風見の言葉に、通常形態に戻った凱が返す。
 すると、聞こえてはならない声が彼等の鼓膜を刺激した。

「お前、家族を亡くしたのか?」
「――ッ!?」

 その場にいた全員が、声のした方向――消滅した部屋があった空中――へと首を回す。
 瞳に移ったのは、巨大な白い犬に跨ったナタクであった。

 ナタクは、哮天犬をPDAに戻してはいなかった。
 いつでも取り出せるように、小さくして腰紐の結び目に隠しておいたのである。
 天才道士のヨウゼンが、普段服の中に隠しているように。
 マリキュレーザーが発射されたと同時に、数多の戦闘経験からナタクはその能力を推定。
 威力もさることながら、標準は明らかに霊珠に定められていた。
 受けてしまえば致命傷は免れないと判断し、哮天犬を通常サイズに戻して自分へと体当たりをさせたのだ。
 哮天犬の威力とて弱いものではないし、マリキュレーザーが壁に触れたことによる爆破には巻き込まれる。
 それでも霊珠にマリキュレーザーが直撃するよりは、マシであるとナタクは判断したのだ。

 歯を噛み締めてチンクの前に出るドラスに、もう一度ナタクは言葉を投げかける。

「答えろ。家族は死んだのか」
「……そうだよ。僕に力が足りなかったから、みんな死んでしまった。……でも、もう繰り返さない!」

 決意の篭った視線をナタクに向けるドラス。
 風見と凱もドラスに並ぶように前に出て、ゼロは背後でいつでも引き破れるように包帯に手をかけた。
 皆が皆、空中のナタクに仕掛ける隙を伺っている。
 そんな時、ドラスに予想だにしなかった質問が浴びせられた。

「……母親、母親はどうした」

 ドラスは質問から意図を見出そうとするが、何も予想が出来ない。
 ゆえに、ありのままの答えを告げる。

「母親なんて、最初からいない……」
「……そう、か…………」

 ドラスの返答に、ナタクはどこか遠くを見るような表情になる。
 ナタクから、急速に戦う素振りが消え去った。相対する者達も気付くが、警戒を止めはしない。
 数刻の後、ナタクが口を開いた。

「ならば、ここは俺から引こう。お前が喪った家族に免じてな」

 そう言って部屋へと入ってくると、哮天犬から降りるナタク。
 全員がナタクの真意を読めないために、油断することなく近付きはしない。

「……どういうつもりだ?」

 全員の思いを代弁して、ついにゼロがナタクへと声をかける。

「何を言っている」
「信用出来んということだ。襲い掛かってきておいて、急に戦意をなくしたなどとな」
「貴様、家族を持たないな」
「何……?」

 ナタクの返答に、ゼロの中に疑問符が浮かぶ。

「家族がいるのならば、経験していなくともそれを亡くした喪失感くらい予想できるはずだ。
 少なくとも、俺は分かる。俺とて、母上が倒れることがあれば――――
 しかもそいつはまだ子供だ。感じている悲しみは、計り知れん。貴様等とは戦いたいところだが、そいつをさらに悲しませるのならば――俺は引く」
「いきなり仕掛けてきた貴様の言葉など、信じられるものか!
 どうせ、シグマの言いなりになって最後の一人なろうとしているが、案外こちらの人数が多かったので適当な嘘を塗り固めているのだろう!」

 チンクの言葉に、ゼロや風見も胸中で頷く。
 しかし当のナタクは、心底理解出来ないといった表情を浮かべる。

「俺があんな男の狗になるだと? 何を言っている。ヤツは俺が殺す。
 そもそも、どこに俺が貴様等なんかに臆する必要がある」

 それは、想像してもなかった答え。
 しかし目的が同じであるのなら、過程が違うだけであるのなら、更正のしようがある。
 そう考えて、凱がナタクへと語りかけようとする。
 だが、ナタクの言葉は続く。

「となれば、俺達と目指すことは同じじゃないか!
 しかしいきなり襲い掛かるというのは、どういうことなんだ!? そんなことをしていては、シグマの思う壺だ!」
「知るか。俺は、お前を倒すことで自分の力を確かめようとしただけだ」

 理屈が通じない上に、独自の理論を持っている。
 先ほどナタクは、家族を失う悲しみを理解出来ると言った。
 ナタクの好戦的な態度を見る限り、彼が引いたのには何らかの理由があったのだろう
 家族関連の会話以外にナタクが引く要素がない以上は、彼の言い分は正しいように思われた。
 つまるところ嘘を言っているワケではないと判断したのだが、ハカイダーやボイルドとは別の意味で説得が難しそうだ――風見は頭を抱えた。
 その背後で、ゼロも同じく頭を悩ませていた。

「ところで、お前――名前は何と言う」
「え? えっと……」

 いきなりの指名に、ドラスは困惑する。
 チンクへの暴行は許す気はないが、ドラスも風見やゼロと同じように――ナタクが嘘を吐いていないと認識していた。
 だからこそ黙秘する理由もなく、真実を伝える。

「ドラス、だけど」
「そうか。俺の名はナタクだ。
 元来母親はいない上に、家族が死んだようだが、アイツと違って長い間ウジウジしたりはしないのか。
 なかなか強い精神、気に入った。将来が不安だろうが、安心しろ――」

 ドラスが家族を亡くしたと聞いてから、ナタクはずっと一人の少年を連想していた。

 ナタクにはドラスが彼と同じ程度の年齢に見えたし、ドラスの性別も見抜いていた。
 ドラスの持つ能力とは異なるが、彼もまたかなりのポテンシャルを秘めている――仙人骨を持った人間道士。
 彼は名家の生まれで、元々は多数の家族と共に暮らしていたのだが……
 腐った王朝の中で、母親と叔母は自害。
 かつて仕えた国を見限り父親と新たなる国へと移るも、その道中で多数の兄の内の数人が殺害されてしまう。
 仙人同士の戦争に巻き込まれ、父親はかつての同僚を説得するも息絶えた。
 残った兄の殆どは、今度は人間同士の戦争や病に倒れてしまう。
 それでも、彼にはまだ一人だけ兄が残っていた。
 沢山の兄の中で、彼が最も慕っていた兄。
 他の家族が死んでも、彼を励ましてくれた兄。
 仙人界で修行を積み、宝貝を持つほどになった兄。
 だがその兄も、腐敗した国の王に一人で戦いを挑み――――死んだ。
 その時、彼は全てを拒絶した。
 皆いなくなるのなら、何もいらない――
 そんな考えに至った彼を、ナタクは立ち上がらせた。
 ナタクにしてみれば、戦意をなくした他人などどうでもいいはず。それなのに、その時だけは違った。
 何故か――家族を失ったことこそなくても、ナタクにはその悲しみが理解できたのだ。
 初めて出会った戦いたくない相手を自ら殺害したナタクは、大切なものを亡くした喪失感を知っていた。
 そして何よりも――自分の命よりも、母親を愛するナタクはその時に考えたのだ。
 仮に母親が死ねば、またしても似た喪失感を味わうのだろうと。
 ゆえに、ナタクは兄を亡くした彼に優しい声をかけた。
 強い自分と違って、子供の彼が喪失感に耐え切れないのは当然だと思ったから。

 ドラスを前に、ナタクはその時と同じ感情を抱いていた。
 だからこそ、その時と同じ言葉が彼の口から飛び出した。

「――お前は、俺が育ててやる」

 瞬間、世界が凍った。

「な、何を言っている! ドラスは私の弟だぞ! 貴様には渡さん!」

 狼狽しながらも、チンクが自分の立場を主張する。
 それを聞いたナタクは、またしても理解できないといった視線をチンクに向ける。
 ナタクは少し考えて、やっとドラスが『もう繰り返さない』と言ったのを思い出す。

「まだ家族が残っていたというワケか」

 ドラスが首を上下させて、ナタクの言葉を肯定する。

「ということは、俺はお前の姉を羽交い絞めにしたことになるのか。
 なるほど、あの怒りも頷ける。知らなかったからな、許せ」

 本人以外には微塵も気を感じ取れない謝罪に、ポカンとなりながらドラスは頷いてしまう。
 どうやら謝罪は本当にそれで終了したらしく、ナタクは視線をチンクへと向ける。

「貴様が死んだら、ドラスがさらに悲しむことになるぞ。
 死ぬのは許さん。貴様が死のうものなら、俺は貴様を殺す」

 どこか、理屈がおかしい。
 とりあえず己が下に見られているのは理解したチンクが、口調を強くする。

「何だ、貴様は偉そうに! 言われなくても、簡単に死にはしない!」
「ドラスが来なければ、今頃死んでいたがな。
 無論、もう俺は貴様を殺す気はないが、その調子ではどうなるか分からんぞ」
「ぐ……ッ」

 言葉を詰まらせるチンク。実話ゆえに、反論のしようがない。
 そんなチンクから風見へと、ナタクは視線を移す。

「ところで姿を変えていたが、貴様は城茂の知り合いか?」
「何ッ、茂に会ったのか!?」

 思わぬところで後輩の情報が得られそうなことに、風見は思わず大きな声を出してしまう。
 だが言った後で、風見は後輩の性格を思い出す――どう考えても、ナタクのような無愛想で我侭なタイプとは相性が悪い。
 もしもナタクが、凱にやったように茂を襲撃していたのなら……和解などしそうにない。どちらかが倒れるまで戦い続けるとしか思えない。
 風見は、思わず表情を顰めてしまう。
 そんな風見の前で、ナタクは横にいる宝貝の名を呟く。
 外へと飛んでいった哮天犬が、傷口が焼け焦げた右腕を銜えて戻ってくる。

「最初は下らんヤツだと思ったが、なかなか城茂は強かったぞ。
 銀色に変わってからは、今の武器で相手にするのは厳しかった。
 特に、この腕を引きちぎった回転しながらの蹴り。アレは、並の宝貝以上の威力だった。道中で義手を拾わねば、少し面倒なことになったな」

 結城丈二のカセットアームを使っていたので、ナタクが隻腕なのは風見には分かっていた。
 しかしその理由が後輩の技によるものであったのは、さすがの風見にも予想外であった。

「アイツと出会ったと聞いた時点で、やりあったのは予想できたが……それで茂はどうしているんだ」

 ナタクとの戦闘の末、殺害されている可能性もある。
 むしろ、その可能性は決して低くない。
 予想できるからこそ、風見はそのことを尋ねる。

「痛み分けだ。日が暮れた頃に、スクラップ工場で再戦する約束をした」

 ついついゼロと風見、彼等から話を聞いた凱が目を見開いた。
 時間こそ違えど、ハカイダーが申し込んできた決闘と舞台が一緒だったからだ。

「――そうか」

 ふと、ナタクの脳内に一つの考えが浮かび上がる。

「今の武装では、俺は銀に変わった城茂とは戦えん。そこで貴様達、宝貝という武器を持っていたらよこせ」

 チンクは、ドクンと自分の中で高鳴るものを感じた。
 ナタクの言った宝貝を、チンクは支給されている。
 しかし説明を読んだところで、何に使えばいいのか。チンクには理解出来なかった。
 だが使えない道具とはいえ、ただで支給品を渡すなどチンクにはお断りであった。

「それならば、持っているぞ」
「ほう」

 ゆえに、チンクは風見の言葉に驚いた。
 風見は宝貝など支給されていないし、そもそもPDAを落としている。
 それなのに心当たりなど……
 そこまで考えて、チンクはハッとする。
 風見はチンクと出会った時に支給品を見せ合ったので、チンクの支給品を把握している。
 となれば、心当たりは――

「おい、カザミ」
「安心しろ、他人の支給品を餌にはしない」

 チンクが背後から小声で風見に声をかけると、これまた小声で返って来た。

「ただでやるワケにはいかんな」
「ちッ、仕方がない。条件があるなら言ってみろ」

 普段ならば力ずくで奪っただろうが、ドラスを悲しませるのは望まないため、ナタクは条件を問いかける。

「その犬を、俺達にくれないか」
「ふざけるな」

 風見は――否、風見達は長距離を移動できる道具を欲していた。
 それゆえの提案を、ナタクは秒にも満たぬ思考時間で切り捨てた。

「ならば、やれないな。この話はなかったことにしといてもらおう」

 風見の言葉に、ナタクは喉を鳴らす。
 哮天犬は渡せないが、宝貝は何としても必要なのだ。
 ゆえに、一つの案を持ち出す。

「待て、貴様。哮天犬はやれんが、この道具ではどうだ?」

 そう言って、ナタクは自分にとって必要のなかった支給品を転送する。

 出現したのは、機械であった。
 鉛色のエンジンに漆黒のタイヤ、それを包み込むは黄色のボディ。
 黄色い車体のオートバイに付属するのは、これまた黄色く塗装されたのサイドカー。
 よくよく見てみれば、黄色の中に時折赤いラインが入っていた。
 オートバイの後輪とサイドカーの左後輪は、銀のフレームで括り付けられている。
 サイドカー自体にエンジンは付属していないが、これならばオートバイに引っ張られることで移動できるだろう。
 そのメカの名は、サイドマシーンと言った。

「俺は哮天犬に乗るので使わんが、これと宝貝を取り替えるのではいかんのか」

 風見は、一目でサイドマシーンの秘めたる能力を見抜いた。
 そして修理工場で拾ったPDAを取り出し、宝貝を転送する。
 出現したのは、日本刀程度の長さの白い棒。ところどころに節目があって、その先端には白黒の球体。
 その宝貝の名は、打神鞭。
 それをよく知るナタクは、暫し唖然として――

「やめだ。そんな宝貝いらん」
「……ッ、何故だ?」
「その宝貝は、俺には使いこなせん。……いや、使う意味がないというのが正解か。
 貴様も、それはすぐに戻した方がいい。触れるだけでも、それは危険だからな」

 ナタクにしては珍しいことに、それは純粋な忠告だった。
 だというのに、あまりにも遅すぎた。
 転送されて床に落下した打神鞭は、転がっていき――チンクに接触しようとしていた。

「ぐァ……!?」

 それに気付いた凱が、打神鞭を掴んでチンクから引き離す。
 苦悶の声が、勝手に零れ落ちる。
 凱は力を吸い込まれるような感覚を覚え、戦慄する。
 すぐに風見が再転送したので、一分弱ほどしか触れていなかったのだが――凱ともあろうものが、肩で息をしていた。
 とても扱いきれる気がしない。
 凱自身はそう判断したが、ナタクは違った。

「スーパー宝貝に触れて生きているとは……貴様、仙人か?」
「よく……分からないな」

 打神鞭の先端に付いている玉は、仙人界に七つある最上位宝貝の一つ。
 名は、太極図。
 本来ならば、人間だけではなく並の仙人でも、触れるだけでエネルギーを吸い尽くされて干物になってしまうほどの代物だ。
 しかし凱は、結構な時間触り続けることが出来た。
 それは、シグマが何かしら仕組んだためであるのだが――
 ナタクは、まだそれを知らない。
 ゆえに、提案する。

「その宝貝は、滅多なヤツでは触れるだけで死に至る。
 貴様とそれは相性がいいのかも分からんな。面倒だから、貴様が持っていろ。俺の近くで使ったら殺すがな」

 凱は戸惑ったが、触れるだけで死に至るようなどと言われてしまったのである。
 被害者を出さぬため、触れることが出来る自分のPDAにIDを登録することを決意した。
 風見としても、その申し出を断る理由もなかった。

 ちなみにこの宝貝は、ナタクの仲間のものであるのだが……
 自分のことを棚にあげて、ナタクは『他人に宝貝を奪われるような情けないヤツに、返してやる義理はない』などと考えていた。

「貴様の言っていた宝貝は、それだけか? だとすれば、これは戻させてもらうぞ」

 PDAを右手に、ナタクは述べる。
 返答はなく、残念そうにナタクはPDAを操作しようとして――

「ま、待て!」

 チンクに呼び止められる。

「宝貝という物なら、私も持っているぞ」

 サイドマシーンが欲しいのは、風見だけではない。
 風見を含む五人全員なのだ。
 それを役に立ちそうもない道具で貰えるのならば、そんなに美味しい話もない。
 ……かと言って、こんな道具で交換してもらえるのだろうか?
 チンクの胸中に、不安が宿る。

「ふむ、見せてみろ」

 その言葉に、チンクは意を決してPDAのボタンを押す。
 虚空より出現するは、朱色の布。

「何でもこれがあれば、水を振動させることが――」

 どうにか能力をアピールしようと、性能を褒め称えようとしたチンク。
 しかし言い終えるより早く――布が床に落ちるよりも早く、布はナタクに掴み取られていた。

「いいだろう。あんな機械は好きにしろ、くれてやる」

 そう言うと、ナタクは朱の布――宝貝『混天綾』のIDをPDAに登録。
 完了次第、腰に巻き付けるナタク。
 チンクは信じられずに、狐につままれたような顔。
 水を振動させることが能力の道具だというのに、どうしてああも易々と納得したのか――

 ――混天綾は、ナタクが生まれし頃より所持していた宝貝だから。

 正解はそんなシンプルなものなのだが、チンクに分かる筈もなかった。

「ドラス、ついてこい。修理工場にある設備の使用方法を教えてもらう」

 そう言い捨てて、ナタクは部屋から出て行った。
 ドラスは少し困惑していたが、他の面子に声をかけてナタクを追いかけていった。

「これで移動手段が増えたということか……」

 そう呟くのは、ゼロ。
 すぐさまチンクに使用していいか問いかけ、チンクも頷く。
 それを見て、凱がサイドマシーンをPDAに登録。
 再転送して一度戻すと、凱は説明を表示させる。
 行を追っていくごとに凱の目が見開かれていったのだが、それには誰も気付かなかった。

「しかし、ナタクのことを信用できるか?」

 ゼロの問いかけ。
 暫しの間のあと、風見が口を開く。

「少なくとも、ヤツがドラスを手にかけることはないだろう。
 あくまで推測でしかないが、家族を失ったドラスへの態度は嘘とは思えない」
「私の考えも、カザミのと同じだな。
 あの手の性格のヤツが、何もなしに士気を削ぐとは思えん。となれば、ヤツの話は真実なのだろう。……気に入るかは別だがな」

 二人の意見を募った後、ゼロが凱へと視線を向ける。
 PDAを仕舞い込んだ彼は、少し考えてから切り出した。

「俺も、二人と同意権だ。『育てる』と言った時のナタクの目は、心からの決意が篭っていたように見えた。
 断言してもいい。あれは、冗談なんじゃない。ドラス君の悲しみを察したナタクは、本気でドラス君を育てるつもりだったんだ。
 口はよくないし、いきなり俺や城茂さんに襲い掛かったりしているが……ナタクの内面には他者の痛みを理解できる『優しさ』があると、俺は信じる」

 ゆっくり、そして力強く断定した凱。
 その口調には、一点の迷いもない。

「お前達がそう言うのならば、俺もナタクを信じるとしよう」

 ゼロはそう言うと、そろそろ出発するぞと凱を促す。
 風見は、改めてゼロと凱へと伝えるべきことを話し出す。
 即ち、仮面ライダーZXこと村雨良の遺志を。

「――無茶なことを言っている。そう、思うかもしれない。しかし――」

 風見の言葉は、最後まで語られることはなかった。
 真剣な面持ちの凱が、割って入ったのだ。

「任せてくれ、風見さん。俺も……俺達も、村雨さんと同じことを考えていたんだ」
「何……!」

 驚愕する風見に、ゼロが冷静な視線を投げる。

「しかし一度共闘したお前なら分かるだろうが、あれだけ悪の生き方に信念を持つ男だ。
 その生き様を曲げない可能性は、低くない。その時は――――全力で以って倒すぞ」
「……それでいい。凱、ゼロ、感謝する」

 風見は静かに答えながら、風見は歓喜していた。
 この地にて、仮面ライダーのように正義を志す戦士に会えたことに。
 そして、村雨の遺志が受け継がれたことに。

 ハカイダーの件がどうなろうと、日付が変わる頃にスクラップ工場での再会を約束し、ゼロと凱は部屋を出て行った。
 出て行く寸前で、ゼロがドラスの拾った金属片を取り出す。
 それを見せ付けながら、風見とチンクへとアイコンタクト。
 その意図を汲み取り、二人は無言で頷いた。

 急に静かになった部屋から、一旦先ほどまで集まっていた部屋に戻ろうと足を動かしだした時。
 不意に、風見が沈黙を破った。

「今更だが……チンク、あの支給品をナタクに渡したのはいい判断だった。礼を言う」
「――ッ、バカめ。あの状況で、私が最善の手を見抜けんとでも思ったのか」

 何ともないように返答していながら、チンクの口元が緩んでいるのを風見は見逃さなかった。


 ◇ ◇ ◇


 ドラスは、ナタクに彼が知る修理工場の設備を教えていた。
 とは言っても、ドラスも風見から聞いた分しか――メカ救急箱と回復ポッドしか知らないのであるが。
 ドラスの知能は、ナタクの言い分に嘘がないと判別。一応は、謝罪もしたのだ。
 かつて神を志していた彼に、スバルを陥落させた彼に、ナタクを責める理由などなかった。
 何より、一瞬だが母親を気にするような発言をしたナタクに、自分と同じくコアのような物体を持つナタクに――
 当人でさえ気付かぬ内に、ドラスはどこか親近感のようなものを感じていた。

「使えんな」

 ナタクは、メカ救急箱をそう扱き下ろす。
 使用方法を説明してもらっておいて、あんまりな言い様である。
 しかしその簡単な使用方法でさえ、ナタクにとってはひどく面倒に感じられたのは、紛れもない事実であるのだ。

「手間がかかりすぎる。もっと簡単なものはないのか」
「はは……じゃあ、もう一つの方に行こうか」

 一階へと向かうドラスの後を追うナタクは、自身の斬り落とされた右腕を携えていない。
 ずっと右腕を掴みながら着いてくるナタクに、ドラスが冷凍庫にて保存したらどうかと提案。
 腐乱しても困るので、ナタクはそれに従ったのである。

「何だ、これは」

 眼前にある回復ポッドに、ついついナタクはそんなことを呟く。
 ドラスが使用方法を説明しようとした時、閉めた筈の扉が開いた。
 凱とゼロが、今から出発すると伝えに来たのだ。
 風見たちにそうしたように、再会の約束をしてゼロと凱は部屋を出て行く。
 ――が、すぐに凱だけが戻ってきた。
 凱はナタクの両手を握り締め、まっすぐナタクの瞳を見据えて一言。

「ナタク――俺はお前を信用する。ドラス君を任せたぜ!」

 まさか襲撃した相手に信じられるとは思ってもおらず、呆気に取られたような顔のナタク。
 すぐに平静を取り戻すと、クックと笑う。

「ふん、貴様に言われるまでもないな」

 返ってきた言葉に、凱は笑顔を見せて再び退室していった。
 それを見届け、ナタクは軽く口角を吊り上げる。

「アイツは、奇妙なヤツだな」
「うん。でも凱兄ちゃんは、とても優しくて強いんだ」
「だろうな。いずれ再び戦いたい」

 その発言にドラスはぎょっとして、ナタクの方へ首を上げる。
 しかし続く言葉に、ドラスは安堵した。

「だから、それまで死んでくれるなよ――凱」

 含みなど篭められてなさそうな瞳。
 思わず呆けたドラスを見て、ナタクは回復ポッドの説明を求めた。



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114:大切なものを喪う悲しみ(前編) 風見志郎 114:大切なものを喪う悲しみ(後編)
114:大切なものを喪う悲しみ(前編) 獅子王凱 114:大切なものを喪う悲しみ(後編)
114:大切なものを喪う悲しみ(前編) ゼロ 114:大切なものを喪う悲しみ(後編)
114:大切なものを喪う悲しみ(前編) ドラス 114:大切なものを喪う悲しみ(後編)
114:大切なものを喪う悲しみ(前編) チンク 114:大切なものを喪う悲しみ(後編)
106:ARM――腕、或いは兵器 ナタク 114:大切なものを喪う悲しみ(後編)





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