揺れる心の改造人間 ◆9DPBcJuJ5Q



 敬介はシャトル発着場に着いた後、すぐには出発せず、一室に篭り思案に耽っていた。
 シャトルから降りた時に、ふと、脳裏を過ぎった疑念が、敬介の足を踏み止まらせてしまった。
 その内容は、嘗て暗闇の意志によって戦い、傷つけてしまった、ドラスという少女についてだった。
「俺は……本当に償えるのか? 償うことが、許されるのか……?」
 ハカイダーやフランシーヌにはあのように言ったし、それは嘘偽りの無い本心からの言葉だった。
 だが。ドラスから大切な仲間達を奪った男が今更謝罪して、守ると言ったところで……彼女が、それを受け入れてくれるだろうか?
 今更どの面を下げて、殺人鬼が彼女に謝ればいい……いや、むしろ、ドラスは自分を殺しても足りないほど憎悪しているかもしれない。或いは、見ただけで身が竦むほど恐怖しているかもしれない。
 そんなところに自分が出て行って、今更……どうすればいいというのだ。
 敬介は1人になって、考えれば考えるほど、負の感情の連鎖に捕えられていた。
 シグマへの反逆の決意こそ揺るがないが、そこに確固たるものが――かつて『仮面ライダーX』として持っていた誇りと勇気が消え去ったことにより、“ただの改造人間・神敬介”は、懊悩とした感情から脱することが出来なかった。
 そうして、どれほどの時間が経っただろうか。こんなことではいけないと、気分転換に、そして決意を確かめるために、敬介は窓から外を覗いた。
 果てしなく広がる宇宙空間。そこで思い出すのは、宇宙への果てない憧憬を胸に懐く、星の輝きよりも尚眩い夢を持つ男――沖一也。またの名を、仮面ライダースーパー1。敬介の後輩に当たる仮面ライダー9号だ。
 彼ならば、この宇宙空間に造られた殺し合いの舞台に何を思うのかと一瞬考え、すぐに結論が出たことについつい苦笑してしまう。
 迷う事無く、彼は戦うだろう。仮面ライダーとして、そして、宇宙を夢見るアストロノーツとしても。

 実は、この殺し合いの舞台、敬介の知らぬ所に、仮面ライダーに匹敵する勇気と力を持った、元アストロノーツのサイボーグがいた。……そう、“いた”、のだ。
 そのことを敬介が知ることは、もう無いだろう。何故なら、つい先程、黄金の鎧を身に纏った若き勇者王は、殲滅者【ターミネーター】の凶刃に斃れたのだから。

 敬介は視線の焦点を、宇宙に不気味に佇む要塞へと移した。
 あそこが、目下、シグマがいるとされる場所。こんなにも近くに倒すべき巨悪がいるというのに、手出しができないもどかしさ。
 もしもあそこに行く手段があれば、今すぐにでも突入してしまいたい……駄目だ、何を考えている。そんなこと、態々犬死しに行くようなものだぞ。
 弱気になるだけではなく、半ば捨て鉢にまでなっている己の思考を恥じ、敬介は唇を強く噛んだ。
 こんな醜態で、一体何が出来るというのか。一体、何を守れると言うのか。
 ただの改造人間・神敬介には、その答えが出せなかった。
 その時だった。突如として、コロニー全体が揺れた。
 そして窓から見える宇宙要塞目掛けて、コロニーを突き破って、赤い光が迸った。
「あれは!?」
 敬介は慌てて、その光の軌跡を確かめた。
 火の点かぬ虚無の宇宙空間でも、恒星の如く燦然と輝く赤い光は、そのままシグマの宇宙要塞をも突き破り、そこに紅蓮の炎を顕した。
 能力が制限されている状況下で行われた、恐らくは参加者による桁外れの攻撃に敬介は驚いた。
 ……いや。驚いた理由は、それだけではなかった。
「あの、技は……?」
 敬介は無意識の内に、そのようなことを呟いていた。
 技。それは、人間が己の身体機能に思考による工夫を加えた、動物には無い特殊な行動。
 通常、アレを見た者は人間ではなく、武器や兵器による所業と思うだろう。
 だが、敬介には確信があった。
 アレは紛れも無く――ライダーキックだった。
 あの赤い光そのものになっていたのは、間違いなく仮面ライダーだった。
 ならば、誰がアレをやった? 誰ならば出来る?
 かつてガモン共和国の戦いで、本郷猛と一文字隼人のダブルライダーを圧倒したという仮面ライダーZXか?
 ――否。村雨良は既に、ハカイダーによって殺されてしまった。
 では、10人ライダーの中でも最高峰のパワーを誇り、チャージアップという奥の手を持つ仮面ライダーストロンガーか?
 ――否。城茂は、神敬介が暗闇の意志によって殺してしまった。
 当然、ここでこうして見ている『ただの改造人間』である神敬介も除外される。
 ならば、残る候補は2人。
 そこまで考えて、敬介は自然に、あの赤い光に赤い仮面を重ねて見ていた。
「まさか……風見さん!?」
 4人の先輩の中でも、一際思い入れのある人物の名を、敬介は叫んだ。
 風見志郎と神敬介は、家族を、愛する人達を組織によって殺されたという共通項を持っていた。それ故か、風見も敬介には目を掛けていた節があった。
 敬介の胸に宿る、戦いの中で得た新たな力――マーキュリー回路も、風見が作ったものだった。
 その風見が、如何なる手段を用いたかは知らないが、あの技を放ち、宇宙要塞に突撃した。
 ありえない話ではない……が、そうであったとして、アレはどう見ても捨て身の技だった。
 つまり、風見志郎は……。
 そのようなことを考えていた、その時だった。
 敬介の視覚と聴覚が、他の仮面ライダーと同調した。




「ボロボロだな、風見志郎――いや、仮面ライダーV3よ。その状態で、あくまで私と戦うつもりか?」
「当然だ。……見せてやる、シグマ。これが、俺の――力と、技と、命の全てだ!!」
 しかし、たった一撃喰らっただけでこのザマ、とは……どうやら、俺はここまでのようだな。
 だが……父さん、母さん、雪子が死んだ――改造手術を受けたあの日。
 大首領に火柱キックを放ったあの時。
 そして、2度は無い筈の火柱キックを再び放ったつい先程。
 俺は都合、3度死んでいる。それがここまで生き延びて、シグマと相対しているんだ。今更、死を恐れはしない。勝ち目の薄い戦いだが、一矢報いてみせる。
 それに、俺の後ろにはまだ仲間がいる。
 チンクが、凱が、ゼロが、ナタクが、そしてドラスが。
 他にもチンクの仲間のギンガ、ゼロの友人のエックス、何より本郷先輩がいるんだ。
 彼らが手を携えれば、きっと、シグマに勝てる。この殺し合いを終わらせることが出来る。
 だから、後悔は無い。………………いや、あったな。心残りが。
 俺は結局、敬介を止めることが出来なかった。
 仮面ライダーではなく、怪人・Xカイゾーグへと堕ちてしまった後輩を。
 そのことだけが、心残りだった。
 だが、今の俺に出来ることは、シグマと戦うことだけ…………っと、待てよ。先程、シグマは『コロニーにキンシヒョウシキを突き刺して制限』とか言っていたな。
 キンシヒョウシキが何かは知らないが、つまり、コロニーでは無い此処では、制限が無いということだ。
 ――ならば、まだ、やれることがあるかもしれん。


 仮面ライダーには、強力な繋がりがある。
 喩え相手が地球の裏側にいようと、月面にいようと繋がる、仮面ライダーの絆を象徴するような強力な通信網が。
 しかしその繋がりも、制限と、会場の大気中に無数に漂っている【アポリオン】による通信障害によって、充分な機能を発揮できなかった。
 だが、V3が制限から解放され、アポリオンのいない宇宙要塞にいることにより、2人の『仮面ライダー』が不完全ながらも繋がったのだ。




 敬介は、黙って見守っていた――黙って見ていることしか出来なかった。
 自分達に悪辣な殺し合いを強要しているシグマと、満身創痍の身体で最後の瞬間まで戦い続ける仮面ライダーV3の戦いを。
 敬介は知らぬことだが、制限から解放されたのは風見だけであるが故に、風見からの通信を受信することしか出来なかったのだ。
 その受信でさえも、『宇宙要塞が損傷し、要塞に近いシャトル発着場にいた仮面ライダー』という厳しい条件をクリアしていなければ、不可能だっただろう。
 そのような事実を、神ならぬただの改造人間である敬介に分かるはずも無い。幾ら返事を繰り返しても、敬介の声は風見には届かなかった。
 声も届かないし、何も伝えられない。その事実に、敬介は拳を握り締め――何も出来ないと、諦めることだけはしなかった。
 ――見届けることは出来る。
 そのように心に決めて、敬介は自分の視界に写る光景を目に焼き付けるべく集中した。




 通信は、届いた。だが、それだけだ。
 あちらの声は聞こえず、そもそも、誰に繋がったのかも分からない。
 仮面ライダーなのか。それとも、偶々通信を拾えただけの誰かなのか。
 ……だが、それで充分だ。確かに、誰かに届いているのだから。
 これで、心置きなく戦える!


「流石は仮面ライダーだと言っておこう、V3よ。満身創痍の身体で、これだけの戦闘力とは。或いは、嘗て私を圧倒した本気になったエックスや、“本来の”ゼロにも匹敵するか」
「そうか。――なら、俺の勝ちだな」
「なに?」
「ゼロは確かに強いだろう。だが、喩えアイツでも、日本では1番にはなれん」
「吼えたな。……来い!」
 激闘は続く。
 全身血塗れでも、緑の複眼に亀裂が走っても、拳が砕けても、間接が焼け付く寸前でも――それでも、仮面ライダーV3は止まらない。
「はぁ!!」
「V3電熱チョップ!」
 シグマのΣブレードとV3の電熱チョップが正面から激突し――数秒の拮抗の後、押し負けたV3の左腕が斬り落とされた。
「ぐっ……うぅおぉぉおおおぉぉぉぉ!!」
「なに!?」
 しかし、V3は止まらず、そのまま突撃しシグマの首を残った右手で鷲掴みにした。
「V3サンダー!」
「ぐぁぁぁ!」
 間髪を入れずにV3の右手から迸った電流は、大きなダメージは与えられずとも、一瞬、シグマを怯ませた。――それは、あまりにも決定的な隙となる。
 他の何者かならばいざ知らず、仮面ライダーV3を相手に、それは決定的な隙だ。
「V3――キィィィィィィーック!!」
 V3は乾坤一擲の一撃をシグマに叩き込んだ。
 満身創痍で放たれたとは思えないそのライダーキックは、直撃すれば如何なる怪人であろうと粉砕できただろう。
「……見事だ、V3。お前程の戦士と戦えたこと、憶えておくぞ」
 しかしその一撃は、寸前で反応したシグマが左肩で防御したことにより、致命傷とはならなかった。
 賞賛の言葉を贈り、シグマはV3を弾き飛ばした。そして、手にしたΣセイバーを振るい、V3の身体を斬り裂き――仮面ライダーの象徴とも言えるベルトの寸前で、刃を止めた。
「ッ……ハ、ァ――」
 声にもならない息を漏らし、口から血反吐をぶち撒けて、仮面ライダーV3は倒れた。
 変身が解かれ、倒れ臥した風見志郎を一瞥すると、シグマは脱ぎ捨てたマントを拾い上げ再び身に纏い、悠然とその場から去っていった。




 敬介は偉大なる先輩、風見志郎の敗北に歯軋りした。
 見ていることしかできなかった自分が不甲斐なくて。あのシグマの駒として戦っていた自分が、この上なく情けなくて。
『……誰だか、知らないが…………見て、いたか。この、風見志郎の…………最後の変身、を……』
 すると、倒れ臥した風見の声を聞き、敬介は通信が未だ途切れていないことに気付いた。
 声が途切れ途切れなのは……そういうこと、なのだろう。
「聴こえています……見ていました! 風見先輩!」
 ありったけの敬意を籠めて名を呼んでも、その声は風見には決して届かない。
 だが、風見はそれでも、言葉を紡いだ。
『もしも……お前に、戦う意志が、あるのなら……同じ、シグマに抗おうとしている者に、このことを……伝えて、くれ…………。きっと、希望になる……はず、だ』
 シグマとの対峙と激闘。
 それの意味するところは、シグマは決して倒せない存在ではないということ。そして、この殺し合いの転覆は不可能ではないと言うこと。
 これは紛れも無く、希望だ。
「伝えます! 風見志郎の生き様を、仮面ライダーV3の戦いを! 必ず……必ず! みんなに伝えます!!」
 敬介は聞こえないと分かってはいたが、それでも大声で、力一杯返事をした。
 すると、風見が笑った。そのような気がした。
『本郷先輩、後は……任せ、ます。…………すまない、敬介。俺は、お前を……止められ、ない…………』
 誰に聞かせるでもない独白に、敬介は心を痛めた。
 風見は知っていたのだ。自分が暗闇に呑まれ、仮面ライダーXとしてではなく怪人・Xカイゾーグとして、この殺し合いに加担していたことを。
 今、こうして自分は暗闇の支配から解放されている……が、それを知らずに、風見は逝ってしまう。
 そのことがどうしようもなく、悔しくて、情けなかった。
『チンク、ドラス……頼む……敬介、を…………………………』
 そこで、通信は完全に途切れた。



【風見志郎@仮面ライダーSPIRITS 死亡再確認】



 全てを見届けた敬介に、既に迷いは無かった。
 風見志郎の生き様を、仮面ライダーV3の戦いを、その最期まで見届けた自分が。勇敢な先輩が遺した希望をこの目に焼き付けた自分が。どうして、迷って、躊躇って、前に進めずにいられようか。
 なにより、敬介の背を押したのは、風見が最期に呼んだ2つの名前。
 チンク。そしてドラス。
 チンクという名前は、おぼろげながら憶えている。この殺し合いの見せしめとして殺された、水色の髪の少女が呼んでいた『姉』の名前だ。
 ドラス。あの子はあの後風見に拾われたのかと納得し、同時に安心した。
 風見志郎が、最期に想いを託すほどだ。きっと、立ち直っているに違いない。……そう、風見志郎の遺志を引き継いで、自分と戦えるほどに。
 そこで敬介は、改めて、決意を固くする。
 間違いなく、チンクとドラスは自分を倒そうとするだろう。理由は言うまでも無い、仇討ちだ。
 思えば、あの赤い髪の少女と水色の少女は同じ服を着ていた。恐らく、あの2人は仲間か友人か、或いは家族だったのだろう。その仇を、水色の髪の少女の姉であるチンクが討とうとする事は当然だろう。
 ドラスについては、最早言うまでも無い。
 仲間や家族を――大切な人達を失う苦しみは、敬介もよく知っている。風見ならば尚更だっただろう。だからこそ、彼女達を導いてくれたはずだ。
 ならば、自分はその怒りを、悲しみを、憎しみを、全て受け止めよう。それ以外に、彼女達に償う方法など無い。
 だが、彼女達に殺されるつもりは無い。彼女達の手を、自分の血で汚させるわけにはいかない。
 たとえ薄汚くとも、情けなくとも、恨まれ続けようとも……仮面ライダーとして生きられなくなろうとも、生き続けよう。そして、戦い続けよう。
 風見志郎のように――最後の瞬間まで、全力で。
「風見先輩。チンクとドラスのことは、俺に任せてください。そして、あなたが見せてくれたものは、必ず、俺が皆に伝えます」
 そう。風見の見せた希望は、『仮面ライダー』にではなく、あの戦いを見ていた『誰か』に託されたものだった。
 ならば、仮面ライダーXではない、ただの改造人間・神敬介がそれを受け取っても、何の問題もあるまい。
 敬介は決意を新たに、歩き出した。
 その往く先に待ち受けるのが希望か、はたまた絶望なのか。
 彼の身体を尚も侵食する銀色が、何を齎し、何を意味するのか。
 それは誰にも、何者にも、神でさえも分かりはしない。
 だが、彼がその胸に宿したものは――――

「風見先輩。あなたが遺してくれたものは、間違いなく希望ですよ。暗闇の中、どうすべきか迷っていた俺に進むべき道を照らしてくれた――希望の炎だ」

 ――決して、見失われることは無いだろう。








【F-4シャトル発着場/一日目・午後】

【神敬介@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:胸部破損(大)、疲労(小)、全身に中ダメージ、生命の水を摂取、強い罪悪感、深い悲しみ、強い決意、回復中、両目と前髪が銀色
[装備]:作業用のツナギ@現地調達品 テントロー@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式×5 PDA(ロボ、アラレ、シュトロハイム、城茂)
ぎんのいし@クロノトリガー、液体窒素入りのタンクローリー@ターミネーター2 (D-3基地に放置) タイムストッパー@ロックマン2(メカ沢の胴体部):ロボのPDA
はちゅねミクのネギ@VOCALOID2(E-3道路に放置)メッセージ大砲@ドラえもん(E-3道路に放置) 拡声器@現実(E-3道路に放置):アラレ、及びシュトロハイムのPDA。
転送可能 スモールライト@ドラえもん(残り四回):城茂のPDA
[思考・状況]
基本:『仮面ライダー』でなくとも、戦い続ける。最期の瞬間まで、全力で。
1:修理工場に向かい、ドラスやチンクを探す。
2:ドラスとチンクの怒り、悲しみ、憎しみを受け止める。だが、殺されるつもりは無い。
3:エックスを止める。
4:青い髪の女(ギンガ)を救う。
5:本郷と合流。
6:風見の遺した希望を、殺し合いの転覆を目指す者達に伝える。
[備考]
※第一放送の内容を知りました。
※フランシーヌ人形の『生命の水』を摂取し、自己治癒力が促進されています。“しろがね”と同じようになるのか、その他の影響があるかは次の書き手様にお任せします。
※コロンビーヌの容姿(旧式)を聞きました。



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126:名前の無い傷ついた体一つで 神敬介 132:YE GUILTY





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