彼のいない発電所 ◆2Y1mqYSsQ.



 数人の男女が森を掻き分けて、速めの速度で突き進んでいた。
 木々が広がるこの地域では、視界が暗くなるのは好ましくない。なるべく早く森を抜けなければ。
 風で木の葉が揺れる音を耳にしながら、本郷猛は彫りの深い渋みを持つ顔を顰めた。
 豊かな黒髪を揺らし、本郷はじわじわと自身に回る毒の苦痛をおくびにも出さず、付いてくる仲間に振り向いた。
「お、お腹いた~い」
 先ほどから腹を抱えて、けらけらと珍しい笑い声をたてているのは、明るい雰囲気を取り戻した広川武美だ。
 何を笑っているかというと、しょんぼりとしているネコ型サイボーグのミーと本郷が関係している。
「武美……さすがに失礼だと思うが」
「だ、だって、だってネコミミの本郷さんって……!!」
 再び武美はけらけらと笑い出す。目尻には涙まで溜め込んでいた。思わず本郷は、むぅ、と唸った。
 金色の毛を持つネズミ、ウフコックがミーたちに気を使って武美を諌めようとするが、どうやら武美の笑いのツボをついたらしい。
 本郷としては武美が明るさを取り戻したのが喜ばしいことなので、別にそのままでも構わないのだが。
「とっても可愛いと思いますよ」
「いや、ソルティ。本郷がネコミミは……その、どうかと思うぞ」
 長髪を二つに縛り、後ろにロールして流した少女、ソルティが本気で本郷のネコミミを支持する。
 ウフコックの鼻に頼るまでもなく、彼女は真剣に本郷のネコミミモードを見たいようだ。
 彼女の特殊な形の耳が、ピコピコと上下に揺れる。小動物のような彼女の言葉に、武美がさらに反応を大きくした。
「もう好きにして……」
 ミーが落ち込んだまま呟く。彼は彼で微笑ましいと本郷は思った。
 グレイ・フォックスという最大の障害を乗り越え、彼らは発電所へと向かっていたのだ。
 目的はクロと草薙素子の埋葬。彼らもまた、武美を守ってくれた仲間だ。
 エックスの探索はその後にする。近くにエックスの匂いがしないと告げたウフコックの鼻を信頼して、本郷たちは方針を決めていたのだ。


「クロ……」
 先ほどの明るい雰囲気もどこに行ったのか、ミーと同じくメタリックボディのネコ型サイボーグの死体を前に、本郷たちは沈黙していた。
 ソルティも沈み、ウフコックも無言。武美などは今にも泣き出しそうだった。
 彼女の命は、彼と草薙という女性によって救われたと聞く。ミーの様子から察するに、クロもまた正しき心の持ち主だったのだろう。
 それを破壊したのが、もともと正しい心を持っていたエックスなのは皮肉なものだ。
 これほど見事に悲劇に転がる状況はそうそうない。不幸が不幸を呼び、死者が生まれてしまった。
 本郷は包帯が巻かれている胸元を撫でる。ドクターケイトの毒を浴びた本郷の寿命は短い。
 二日三日はまだ戦えると思うが、それ以上は自分の命はないのだろう。
 ならば、まだ生きているだろう仮面ライダーたちに、ここのことを伝えねば。
 本郷がそう思っていると、奇妙な感覚が走った。すばやく北の方角に振り向く。
「本郷さん?」
「どうした?」
 ミーとウフコックが訝しげに本郷を見る。本郷は動揺を隠して、なんでもないと答えた。
 実は本郷が奇妙な感覚が走った時に、風見が火柱キックを放ったのだ。
 ジャミングをされている本郷には、正確に起きている出来事を知ることはできない。
 だが、本郷は悟ってしまった。血を分けた兄弟の一人に命の懸け時が来たことを。
(敬介は暴走を起こしている……ここにいる仮面ライダーも俺一人か)
 本郷は風見の死を悼みながら、ますます死ねないことを自覚した。
 最後の最後まで、悪に立ち向かい続ける。毒に犯され、死ぬ運命だとしても。
 本郷は目の前のクロを埋める作業に移り、静かにクロと風見、素子に黙祷を捧げた。


 長く続くリノリウムの通路を見つめて、本郷はため息を吐いた。
 ウフコックによればこの発電所内に人がいないらしい。本郷はいったんこの施設で休憩を取ることを告げる。
 ミーたちも異論はないらしく、腰を下ろして談笑していた。
 本郷は爆発物の金属片を取り出し、ウフコックに声をかける。
「ウフコック、こいつの分析をしたい。少し力を貸してくれ」
「ああ、構わない」
 本郷はうなずき、隣の部屋に向かう。なぜ離れるのかというと、解析中に爆発してミーたちを巻き込まないためだ。
 この説明を彼らにしたとき、本郷だけ危険な目にあうのは反対だといわれたが、体内の爆弾の排除は必要事項だ。
 多少の危険は覚悟のうち。ミーたちを渋々納得させ、本郷はウフコックを連れて別室の椅子へと腰をかけた。
「ウフコック、すまないがドライバーへの変身を頼めるか?」
「構わないが……本郷。隠していることがあるだろ?」
 やはり気づかれたか。ウフコックの鼻は誤魔化せないらしい。
 ウフコックに力を借りたのは、何も解析のための道具を求めただけではない。
 彼の鼻を騙せると思うほど、本郷が愚かではなかっただけだ。
「ばれていたか」
「甘く見るな。……あいつが毒を使ったのか?」
「いや、ミーが持っていた杖だ。あれは俺の世界の道具、毒を操る改造魔人の物だ」
「そうか。あの折れた時か」
 ウフコックがすべてを察したように呟く。本郷はつぶらなウフコックの瞳を、見つめ返した。
「まさか、死ぬつもりじゃないだろうな?」
「言ったはずだ。俺は死ねない。シグマを倒し、武美を救い、バダンを倒さねばならないからな」
 それは半分嘘だった。本郷の身体は長く持たない。かつてデルザー軍団と戦い、その情報を持つ本郷だからこそ分かる。
 同時に、半分本気だ。本郷はただ死ぬつもりはない。シグマを倒し、バダンを倒すことを後輩に託すつもりだ。
 それに、異世界の技術があるここならある意味チャンスだ。ドクターケイトの毒を中和できる物があるかもしれない。
 本郷は最後の命が尽きるまで、あがき続けるつもりだった。
(そうでなければ、命を懸けた風見に申し訳ないからな)
 本郷の瞳に炎が宿る。幾戦も勝利をもたらせた、正義の炎を。


(諦めの臭いは確かにない。本郷は戦場でいるもの全員が持つ、死への覚悟が大きい)
 ウフコックが嗅ぐ本郷の心の臭いは、雨があがった後の森林に似た爽やかでいて、それでいて巨木のように揺らぎがない強さを孕んでいた。
 諦めてはいない。だけど、近づく死を軽んじてもいない。
 ならば自分は本郷の力になろう。ウフコックは静かに本郷の望むまま、ドライバーへと変身する。
 本郷から嗅げる毒の臭いはとても強い。それほど強力な毒なのだろう。
 本郷はおくびにも出さず、冷静に金属片を解析していく。科学者と聞いたが、つくづく規格外の男だ。
 だからこそ、
(本郷を死なせるわけにはいかないな。この男が助かる手段を見つけねば)
 ウフコックは静かに決意をした。


「はぁ、お茶がおいしいねー」
「本当だねー」
 ミーは音をたてながら、熱い日本茶をすすっていた。ウフコックに案内された給湯室から、お湯を取り出して淹れたのだ。
 備え付けられていたのはインスタントコーヒーとお茶。せっかくなので暖めて出した、ということだ。
 本郷たちの分はソルティが持っていった。武美もお茶を飲みながら、大きくため息を吐いている。
 クロたちを埋葬した時はミーも落ち込んでいたが、そのままの雰囲気にしておくわけにはいかないと用意したのだ。
「あ、ミー君正座できたんだ」
「うん。最初やったときは僕も驚いたよ」
「不思議だねー。猫なのに」
「クロもできたよ」
 クロの名前を出して、ミーはしまったと内心思った。クロは死んで、今しがた埋葬したのである。
 負の感情を掘り起こすようなうかつな真似をした自分を、ミーは罵った。
「へー、見たかったなあ」
「ご、ごめんなさい! 迂闊にクロの……あれ?」
「どうしたの? ミー君、いきなり謝っちゃって」
「い、いや。クロのこと、思い出させちゃったから……」
 ミーがしどろもどろに告げると、ああ、と武美が納得したように頷いた。
 武美はミーの正面に身体を向き直し、どこか寂しそうな、それでいて穏やかな笑みを浮かべる。
「ああ、気を使わせちゃったね。……草薙さんを殺したあいつの死体を見たけど、何でだろう?
ざまみろとか、よかったとか全然思えなかったんだよね。あんなに憎かったのに」
 それは武美にとって死が身近だからじゃないだろうか、とミーは思った。
 死が身近にある分、普通よりも死について覚悟したり、考えが重くなったりなどは珍しくない。
 ミー自身も母親を殺され、身体が弱く、殺されかけた経験を持つ。いつでも死は身近だった。
 だからだろうか。武美があのニンジャに似たサイボーグの死を喜ばないことは好ましいとミーは思う。
「だからといって、全然憎くないってわけじゃないけどね。草薙さんを殺したわけだし。
でも、死んでよかったって思うよりも、ミー君や本郷さんが無事で……よかった」
 武美が俯いて、声のトーンが落ちる。本気でミーたちを心配していたことが伝わり、ミーは焦った。
 武美とソルティを置いてきぼりにして、戦いに向かったのは本郷とミーだ。
 どれだけ心配したか、想像できてしまう。一歩間違えれば殺されたのは、自分たちだったと分かるほど相手が強かったのだから。
 激しい戦闘を乗り越えたのはミーと本郷だけではない。武美やソルティ、ウフコックもまた、あのサイボーグの強さを正面から感じた仲間である。
「ごめん……心配させて。でも、僕も本郷さんも……」
「な~んてね。生きているって信じていたけどね」
 勢いよく立ち上がったミーは、武美の言葉に気が抜けて足を滑らせた。
 そのままミーがスライディングする様を、武美がけらけら笑う。
「ひ、人がシリアスにやっているのに~」
「ごめんごめん。だって本郷さん、『待て!』だよ。あんなタイミングで。正真正銘ヒーローだねー」
「まあ、それは確かにね」
 武美の笑顔に釣られ、ミーも笑う。殺伐とした殺し合い。ここに笑顔があるのは、一種の奇跡のような気がした。


「ありがとう、ソルティ」
「いえ、当然のことをしたまでです。それにミー君が淹れてくれたんですよ! 絶対おいしいです!」
 ソルティに進められるままに、本郷が久しぶりのコーヒーを堪能する。インスタントだが、身体を温め心を落ち着かせるのにはちょうどいい。
 ウフコックも自身が用意したコーヒーカップの黒い液体をすすっていた。
「あの時とはまた、味が違う気もするな」
「状況も違えば、香りも味も変わって思える……ここを脱出して君たちにおやっさんのコーヒーを飲ませてやりたいな」
「ぜひ頼みたいな。……ところで本郷、マルドゥック市を知っていないか?」
「いや、知らないな。どこの国の都市だ?」
 本郷が分解中の金属片にコーヒーを零さないようにして尋ね返した。素子が持った疑問を解決すべく、話を振ったが反応が鈍い。
 やはり、常識の差異がある。ウフコックはかねてからの疑問を告げた。
「俺はここに来てから疑問がある。常識の差異が、出会った参加者全員にあるんだ」
「そうですか? ウフコックさんとはこうしてちゃんとお話できるじゃないですか」
「意思疎通くらいなら、言葉さえ通じれば可能さ。常識が違う、ということじたいは国を違えればよくあることだ。
だが、ここには俺の知らない規格外の技術を持つ者がいる。本郷、ソルティ、君たちもそうだ」
 ウフコックの言葉に、ソルティは疑問符を浮かべて首をかしげている。可愛らしい仕草だが、ウフコックの瞳は真剣だ。
 本郷は分かっているように、ウフコックの言葉に頷いた。
「ウフコック、俺はそのことに結論をつけた。並行世界移動……ラミアはその技術を持つ世界の出身だしな」
「あ、エックスさんが確かそんなことを言っていました」
「並行世界移動か。数時間前なら信じなかっただろうが、確信できるだけの情報はある」
 ウフコックがしかめっ面のまま吐き出す。ロマン溢れる冗談だ、と否定した自分が懐かしい。
 本郷の『仮面ライダー』、クロとミーの高いサイボーグ技術、ソルティのスペック、ゲームキャラクターのようなあのサイボーグ。
 すべてがウフコックの知る技術よりも高い。ボイルドやスクランブル09のメンバーのように調整を受けたとしても、あれほどの戦闘を繰り出せるのはせいぜいボイルドくらいだろう。
 そして、本郷やソルティ、素子やクロたちとの情報の差異。もはやSFだと馬鹿にしている場合ではない。
 可能性の一つとしてウフコックは受け入れざる得なかった。まだ納得できかねないのだが。
「となると、シグマからその移動手段を確保することを忘れてはいけないな」
「ああ」
 ウフコックが本郷に頷き返し、互いにコーヒーをすする。前途多難だが、ウフコックは諦めない。
 必ず、事件屋の意地に懸けてこの件を処理する。ウフコックの決意は変わらなかった。


 ドアをスライドさせ、倉庫として使われている部屋をミーは覗いた。
 ソルティが戻るまで暇であったため、武美の提案によって発電所内を探索することにしたのだ。
「草薙さんがここを調べたがっていたしね」
「何かあると勘付いていたのかな? いいのかな、僕たちだけで」
「本郷さんを休ませたいもの。探索するって言ったら、絶対ついてくるし。あんなに怪我をしているのに。
ミー君も、戦った後なんだから休んでいてよ」
「そういうわけにはいかないよ。それに、ジッとしているよりはいい気晴らしになるし」
 ミーは武美に告げて、先を進む。万が一罠が仕掛けられているのなら、武美を巻き込むわけにはいかないからだ。
 五感をフルに活動しながら、ミーは先に進んだ。本郷が知れば、休憩を取るようにと窘められただろう。
 とはいえ、戦闘に比べればずっと楽だ。ミーは倉庫内を探る。
「ガラクタばかりだ」
「まあ、そんなに期待していなかったけどね。発電機のチューブかな? これ」
 数十分倉庫内を探るが、特に収穫はない。武美も諦めているため、ミーも作業の手を止める。
 武美に戻ろうか、と提案しようとすると、ミーは武美がある方向に向いているのに気づいた。
「どうした……あ、あそこにもドアがあるね」
「いってみようか?」
 武美が同意を求めてたためミーは頷いて、ドアノブに手をかけた。
 ミーの視界に入った光景に、ため息を漏らした。
「駄目だ。行き止まり。大きな穴が開いているよ」
「本当? ……うわぁー」
 穴は通路の横幅を埋めて、三十メートル向こうに通路が続いていたが、先に進むのは無理のようだ。
 武美が深さを確かめるため駆け寄り、呆れたような声を上げていた。
「うわ……深い」
「ここから行くのは無理だね。戻ろうか」
「うん。あ、ちょっと待って、ミー君」
 どうしたんだろう、とミーは武美の手招きに従って近寄る。
 武美は何かを見つけたらしく、一点を指差した。ミーには穴から這い上がれないようにした返しにしか見えない。
「ほら、あそこ。あの返しで陰になって分かりにくいけど……通路が見えない?」
「え? 嘘……ちょっと待って。よっと」
 ミーが背中からアームを伸ばし、返しとなっている出っ張りを掴む。
 武美に待ってもらおうかどうか迷ったが、置いてきぼりにするのもなんなので慎重に掴む。
 悪魔のチップによって生み出されるアームは、調子が悪いとはいえこの程度はお手の物だ。
「重い? ミー君」
「いや、そんなことはないよ」
「本当?」
「ほ、本当だよ!」
 女性を重いというのは失礼だしね、とミーは心の中だけで付け加えておく。それに、武美よりも重いものを振り回したこともあるから、特に問題はなかった。
 なにより、武美の口調にからかいの色がある。事実、すぐに武美はけらけら笑った。
「冗談冗談。……やっぱり、通路が隠されていたね」
「みたいだね。武美さん、僕の後ろをついてきて」
 武美はミーの指示に大人しく従っている。ミーはごくり、と唾を飲んで先を進んだ。
 鬼が出るか、蛇が出るか。二人は長方形型の通路を歩いていった。


 武美がミーを伴って通路を進みながら、素子やクロとここにきたかったと思った。
 素子がこの発電所に何か秘密がある、と見ておりそれが本当だったのだから。
 素子が冷静に先に進み、クロがだるそうに後を付いてくる情景が目に浮かぶようだ。
 いけない、と武美は頭を軽く振る。感情が高ぶっていたようだ。ミーがこちらを向いていなくてよかった。
 この時だけミーを心配させないために、涙が感情によって流れないことを感謝する。
(ああ、もう。もし涙が流せたら、あたしは泣き虫だったかな?)
 あまりクロたちのことは考えないでおこう。武美はそう考える。
 黙っては思考の袋小路だ。武美はミーと喋ることにした。
「こんなところが用意されていたなんて……」
「よっぽど隠したいことがあるのか、罠なのか。どっちにしろあのシグマってのは悪趣味だよ」
「あたしたちを集めて殺し合わせるって時点で、悪趣味だしね」
「まったくだ。あ、武美さん。そこ段差だから気をつけて」
「うん」
 武美がミーの忠告どおり、高くなっている床を乗り越える。
 すると、すぐに通路の終わりらしく、壁が見えた。大部屋らしい。
 そこで見つけた物体に、武美は目を見張る。
「これは……」
「どうしたの? 武美さん」
 武美が発見したもの。それは、泉の孤島で見つけた転送カプセルだった。


「うんともすんとも言わない。あたしじゃ駄目だ。本郷さんなら何か分かるかもしれないけど」
「そっか。じゃあいったん戻ろうよ」
「……機械いじりには自信があったんだけどなぁ。うん、もどろっか」
 武美は名残惜しそうに転送カプセルを見つめながら、来た道を引き返す。
 あの転送カプセルが隠されていたということは、何かしら重要な機能があるのではないかと思ったのだ。
 もっとも、実は罠であり、どこか危険な場所に繋がっている可能性もある。
 その解析のためなら自分の能力は有効のはずだ。そこまで考えて、武美は顔を顰める。
「あ~、嫌なこと思い出した」
「どうしたの?」
「うん、ここに来てすぐにさ、戦闘になったんだよ。その時助けが入ってあたしもクロちゃんも無事だったけど……助けた奴が嫌な奴でさ」
「へー、そういうのあんまり考えないほうがいいよ」
「うん、そうする」
 武美は気持ちを切り替え、先を行くミーの後ろを歩く。実は灰原の言葉は半分真実だと武美は思う。
 素子もクロも、武美という重みがあったから死んだのではないだろうか。罪悪感が胸を締め付けるが、クロの最期と、素子の言葉を思い出し気をとりなおす。
 二人は最期まで精一杯生きた。自分はその証人になる。だから絶対生き残る。
(それでいいんだよね。クロちゃん、草薙さん)
 武美はここで自分を助けるために命を落とした二人を、絶対忘れることはないだろう。
 だから生き延びよう。そう思った瞬間だけ、武美の眼差しが少し険しくなった。


「ムゥ……」
「どうした? 本郷」
「……まさか。いや、だとするとシグマの目的は……」
「なに?」
 ウフコックの疑問に答えず、本郷は一人懊悩する。この金属片を解析して得た結果は、信じられないものだった。
 本郷とてこの金属片のすべてを解析したわけではない。だが、明らかにこの金属片は、シグマの定めたバトルロワイヤルから考えるとおかしいのだ。
 ウフコックに話すべきだろう。彼は冷静だ。本人は煮え切らないだけだといっていたが、その慎重さに経験の重みがある。
 グレイ・フォックスとの激闘において、武美たちの危機に本郷が間に合えたのは彼の力が大きい。
 本郷はウフコックに疑問を告げ始める。
「ウフコック。俺はここに着てからシグマについて疑問があった」
「それは俺もだ」
 ウフコックに本郷は頷き、金属片に取り付けられた疑問の装置を教えることを決心した。
 自分が死んだ時の保険のためにも。
「それで……八割がたこいつの構造が分かった。外すのは難しいが、問題ない。解除のために修理工場に向かう方がいいだろう」
「了解した。切開手術が必要なのか?」
「ああ。その時にできた手術跡を修復するために、修理工場は必須だ。他に回復手段があるなら、それで問題はないが。
そしてこの金属片。特定の信号を受けなければ、衝撃を与えようが火にくべようが爆発をしないタイプの液体爆薬が仕込まれている」
「なるほど。そこまでは必要な技術が積まれているな」
「ああ。そして……この金属片には爆破機能の他に、殺し合いを行うには不可解な機能がある。こいつを見てくれ」
 ウフコックが本郷が指をさした部品を見つめる。デジタル測定値の付いた液晶に、何らかのケーブルが付いていた。
「これがどうかしたのか?」
「こいつはおそらく、俺たちの性能を正確に計測する装置だ。殺し合い……いや、いい加減バトルロワイヤルとでも名づけるか。
バトルロイヤルで殺し合わせるというのなら、シグマが俺たちの性能を知る必要はない。実戦以外での性能なら、とっくに把握しているはずだからな」
「なるほど。つまり、これはバトルロイヤルの皮を被った実験場というわけか」
「理解が早くてありがたい」
 本郷は渋面を作るウフコックに同意をする。本郷はさらにおのれの推察をウフコックに聞かせることにした。
「ここには戦闘がこなせる者が多い。バトルロイヤルの進行のためだと最初は思っていたが、この計測器があるなら別だ。
俺は薄っすらと異世界の技術の実験場じゃないかと疑っていたが、今はシグマはこの計測器を使って何らかの兵器を作っていると確信した」
「なるほど。俺たちのデータを得て、そして実践に投入してさらに詳しいデータを持って何らかの兵器を完成させる。
だが、計測器だけではそう確信しないだろう?」
「他の確信理由は、要塞の位置と俺がいること。そしてこの金属片の存在だ」
「と、いうと?」
 本郷はため息を吐いて、シグマに対して静かな怒りの炎を燃やす。
 そのために、武美やフランシーヌのような無力な存在を巻き込んだのか、という正義の怒りだ。
「この金属片、外すこと事態は素人でもできる。手順さえ間違えなければな。そして、その答えにたどり着ける俺のような参加者を入れたこと。
おまけに要塞の位置があからさますぎる。シグマがここにいるとは限らないが……今までの情報を見るに確実にそうだろう。
この二つから導くと、シグマはあえて俺たちを呼び込もうと思える。それもそうだ。完成した兵器には、テスト用の敵が必要なのだからな」
「!? となると、この脱出手段はすべて……」
「シグマが仕込んだものだろう。くだらない。そのような野望……俺が打ち砕く!」
 本郷の言葉に、ウフコックは無言のままあらぬ方向を睨んでいた。
 相手は決まっている。シグマを許せぬと、二人は静かに誓った。


「二人だけでどこかいくなんてずるいです!」
「ごめん。今度は本郷さんたちと一緒に行こう。ね?」
「絶対絶対、今度は私を仲間外れにしないでくださいよー!!」
 武美がソルティを宥める姿を目にしながら、ミーはお茶を啜っていた。
 コーヒーは苦い。そういや猫なのに熱いの平気だな、と今更ながらに気づいた。
「何を俺たちと一緒に行くんだ?」
「あ、本郷さん。おかえり」
 ミーが帰ってきた本郷とウフコックを迎える。本郷は穏やかな笑みをミーへと向けた。
 さっそく見つけた転送カプセルのことを話そうと、武美を見た。武美が頷くのを確認して、ミーは本郷へと報告をする。
「本郷さん、さっき武美さんと偶然だけど、隠し通路を見つけたんだ」
「ふむ」
「ミー、武美。それは軽率だな。どういう罠が仕掛けられているか分からないんだぞ?」
 ウフコックの窘めに、ミーがうっ、と唸るが本郷がとりなす。
「だって結構暇だったし……」
「まあ、休憩とはいえ長い間留守にしてすまなかった。概ね、爆弾についてはどうにかなりそうだ」
「本当?」
「ああ。そのためには修理工場か、回復手段が欲しいが」
 本郷の言葉に、武美とソルティが手を取り合って喜ぶ。
 その二人を見て、ミーはよかったぁ、と呟いた。
「これで、あとは悪いシグマさんを倒すだけですね!」
「絶対あのハゲに思い知らせるんだから」
 ソルティと武美が意気込み、士気が上がる。ミーも気持ちを引き締め、二人を絶対守ると決意した。


 本郷たちが隠し通路に向けた興味は、意外と少なかった。ソルティが不思議に思うほど短く切り上げ、今は発電所の外に出ている。
 日が傾き、茜色に染まる偽者の空の芸の細かさに周りが辟易する中、ソルティは純粋に綺麗だと思った。
 空の色に偽者も本物もない。ただ自分たちを見下ろしている。ソルティはただそれだけでいいんだと結論をつけた。
 ここで初めて出会い、不幸な誤解で悲しみの中にいる青年もこの空を見ているだろうか?
「結局、エックスさんはここにはいませんでしたね」
「ああ。俺たちとすれ違わなかったというなら、シャトル発射基地に向かったか、工場地帯コロニーに向かったかだ。
とりあえず修理工場の周りも調べてみたい。いったんそこに向かおうか」
「はい!」
 ソルティは本郷の渋く、穏やかな声に元気よく返事をした。ロイより年下に思えるのに、どこか本郷にロイを重ねているのもあるかもしれない。
 もっとも、ロイはもっと頑固で怒りっぽいのだが。
「ねえ、ソルティ。あのエックスとあったらまだ説得する気?」
「はい。……武美さんにエックスさんは許せないことをしたかもしれないのですが、私はどうしても元に戻れないと思えないのです」
「そう……」
 武美の顔に陰りができる。それもそうだ。もしもソルティが、エックスにロイやローズを殺されるような真似をされれば、どう思うか想像ができたからだ。
 だけど、ソルティは知ってしまったのだ。あの青年がとても優しいことを。
「ソルティ。あたしはね……まだエックスってのを許せない。ううん、一生許すことはない」
「はい」
「その上、あたしの友達のソルティを奪ったら、絶対許さない」
「は……え? 武美さん……」
「ソルティまであいつに殺されて、憎ませないでね」
 武美の言葉をソルティは数秒熟考した。ソルティの胸に暖かいものが広がり、意図せず笑顔が浮かぶ。
 気づいたときには、武美をソルティは抱きしめていた。
「分かりました! 武美さん!」
「ちょ、ちょっと!? ソルティ、く、苦しい……」
「絶対絶対、私が武美さんを守ります! 私も死にません! 任せてください!!」
「わ、分かったから離して……きゅう……」
 ソルティは喜びに身を任せたまま、武美を振り回した。武美が目を回していることに気づくのに、数分かかるほど、ソルティは嬉しかった。


「女性陣は強いな」
「いつの時代も、強いのは女のほうだという」
「あはは……本郷さんに同意かな。あの二人は強いよ」
 本郷は白いカラスを操作しながら、笑顔の女性二人をウフコックとミーともに微笑ましく見守る。
 白いカラスを操作してみたところ、サイクロンやハリケーンと似たようなバイクだと判明した。
 あのハカイダーのバイクらしい。空を飛ぶ機能もあるため、ライドチェイサーからこちらに乗り換えることにする。
 ライドチェイサーの砲撃機能を、本郷はいまいちうまく扱えなかった。そのためミーがライドチェイサーと融合し、ソルティに操らせる。
 ウフコックとミーと一緒に出した結論だった。
「本郷、あの隠し通路はいいのか?」
「詳しく調べたところで、あれ以上の収穫はなさそうだからな。とはいえ、お手柄だ。ミー」
「え、そう? あんまり力になれていない気がするんだけどなぁ」
「いや、そんなことはない。隠されていたということは、意味があるということだ」
 そして、未稼働の転送カプセルが要塞に繋がっているとすれば、本郷の『シグマは新兵器のテスト用仮想敵として自分たちを定めている』という仮説を強めるものだった。
 そのことをウフコックとアイコンタクトで確認を取る。
「その前に、エックスを止めてフランシーヌたちとの再会だ。いいな」
 ウフコックとミーが頷いた。本郷がやるべきことは多い。たとえこの身体が蝕まれ、命の残り火が少なくても。
 シグマ打倒。本郷の正義が燃え上がる。



【G-7 発電所前/一日目・夕方】


【本郷猛@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労小、ダメージ大、全身に軽度の火傷、胸部から内部機械が露出、右腕に切創、ドクターケイトの毒、ベルトの一部が破損。応急処置済み
[装備]:白いカラス(全体に焦げ跡あり)@人造人間キカイダー
[道具]:支給品一式、トマト×97@THEビッグオー、謎の金属片(外装解除。解析は八割程度)、
     PDA(グレイ・フォックス、ドロシー、草薙素子、ドラ・ザ・キッド)×4。
     水消耗。ロジャー・スミスの腕時計@THEビッグオー、ブルースシールド@ロックマン、ジローのギター@人造人間キカイダー
     虹(ドクターケイトの毒が染み込んだ)@クロノトリガー
[思考・状況]
基本思考:殺し合いには乗らない、打倒主催。
1:爆弾解除のため、修理工場の様子を見る。
2:エックスを止める。説得の応じないなら、倒す
3:フランシーヌをハカイダーから助ける。決闘に応じる?
4:殺し合いに乗っていない者の保護、及び合流。
5:武美の寿命タイマーをどうにかする。
6:コロンビーヌにフランシーヌ人形のことを伝える。
7:パンタローネを倒した者を見つけ出し、この手で倒す。
8:シグマに関する情報を集めたい。爆発物の解析。
9:敬介の真意を確認。場合によっては倒す。
[備考]
※原作8巻(第32話 称号)から参戦。
※コロンビーヌの格好を旧式のものと勘違いしています。
※ミーと情報交換をしました。
 ただし、彼をサイボーグにした剛が世界制服を一時期目論んでいた事。
 クロが己と同様の理由でサイボーグとなった事は知りません。
※この会場には、異世界の者達も呼ばれたのではないかと推測しています。
※シグマは新兵器を作るために、自分たちのデータを収集していると推察しています。
※武美とは、一エリア以内なら通信が取れます。
※ベルト左側エナジーコンバーターが破損し、備蓄エネルギーが失われました。
※ドクターケイトの毒にかかったことを自覚しています。


【ミー@サイボーグクロちゃん】
[状態]:後頭部に足跡、疲労大、シグマへの怒り
[装備]:アームパーツ@ロックマンX、ライドチェイサー『シリウス』@ロックマンXシリーズ(融合中)
[道具]:PDA(ミー)、青雲剣@封神演義
[思考・状況]
基本思考:殺し合いには乗らない、打倒主催
1:エックスにクロを殺し、武美たちを傷つけたけじめをつけさせる。
2:武美、ソルティを守る。
3:シグマ打倒の為、仲間を集める。
4:風見と合流。敬介は警戒。
5:本郷に対し、少々の罪悪感。
[備考]
※悪魔のチップの制限は精密動作性の低下。他者への使用には遠慮気味になる、です。
※合体による肉体の主導権は、基本的に相手の側にあります。
※アームパーツには『緋色の手』に効果はありません。特殊武器チップのみ。
※ドクターケイトの杖@仮面ライダーSPIRITS(ID未登録)は切断され、E-8に放置されています。


【ソルティ・レヴァント@SoltyRei】
[状態]:腹部にダメージ中、疲労中、深い悲しみ。決意。
[装備]:ミラクルショット@クロノトリガー マッハキャリバー(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式、ToHeartの制服@ToHeart スラッシュクローの武器チップ@ロックマン  紫の仮面@現実  K&S Model 501(7/10)@SoltyRei、予備弾各50発 PDA×2(ソルティ、神 敬介) LUCKの剣@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本思考:壊し合いに乗っていない参加者を守り、シグマを倒す
1:エックスを止める。
2:武美を守る。
3:ロイさんやローズさんの元に帰りたい
[備考]
※参戦時期はアニメ10話~11話です。
※戦い自体への迷いは消えましたが、相手を躊躇なく殺せるまでには至っていません。


【広川武美@パワポケシリーズ】
[状態]:健康、頭部に微ダメージ。煤で汚れている。軽い火傷。なれない銃を扱ったことで腕に痺れ。
[装備]:ウフコック@マルドゥックシリーズ
[道具]:PDA(武美、クロ)×2、ランダムアイテム0~1
    アポロマグナム@仮面ライダーSPIRITS(弾切れ、発電所内にクロの右手と共に放置)、
    ウィルナイフ@勇者王ガオガイガー(クロの死体のなんでも斬れる剣があった場所に収納)、風船いかだ
[思考・状況]
基本思考:絶対に生き残り、ここから脱出する。
1:本郷たちの行く末を見届ける。
2:クロの仇がとられる様子を見る?
3:シグマの居場所を探る。シャトルの行き先を変更できるように干渉する。
4:軍事基地に行く機会があったら行ってみる。
5:元の世界のあの人のところに戻って、残り少ない人生を謳歌する。
[備考]
※A-1・軍事基地に『何か』があると考えています。
※本郷とは、一エリア以内なら通信が取れます。
※ウフコックは、ターンした物を切り離すこと(反転変身【ターンオーバー】)が出来なくなっています。
※ウフコックの参戦時期は、ボイルド死亡後です。


[共通備考]
※『ライドル@仮面ライダーSPIRITS』『トランスメタルドライバー@ビーストウォーズ』がF-5エリアに落ちています
※発電所内の隠し通路に、起動していない転送カプセルを見つけました。用途は不明です。


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130:約束――俺の有用性(後編) 本郷猛  : 
130:約束――俺の有用性(後編) ミー  : 
130:約束――俺の有用性(後編) 広川武美  : 
130:約束――俺の有用性(後編) ソルティ・レヴァント  : 
130:約束――俺の有用性(後編) ウフコック・ペンティーノ  : 





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