嵐の前(前編) ◆9DPBcJuJ5Q


 自然公園エリアの森の中を、2台のバイクが疾走する。
 1台は『白いカラス』という、名前からして反骨精神の固まりのようなマシン。本来の操縦者はハカイダー。広川武美を後部座席に乗せて現在操縦している本郷猛=仮面ライダー1号に決闘を挑んだ悪の改造人間である。
 もう1台は、ライドチェイサー『シリウス』。現在搭乗しているソルティ・レヴァントのかつての仲間であり、現在融合して操縦しているミーの悪友であるクロを殺した者=エックスが主に操縦していたマシンである。
 なんとも皮肉な乗り合わせでマシンを操りつつ、彼らは森を走り抜ける。
 その操縦技術は瞠目に値するものであり、本郷もミーもまるで障害物など無いように木々の間をすり抜けていく。
 本郷猛、ひいては仮面ライダーのバイクの操縦技術については、最早言うまでも無いだろう。超一流の操縦技術に、超一流のマシン。常人にとっての難関など苦もなく駆け抜ける。
 対するミーの融合しているシリウスは、元々入り組んだ空間を自由に飛びまわることが出来るように設計された、空中機動タイプの小型ライドチェイサーである。
 加えて、ミーは今までに自転車、乗用車、バス、ラジコンヘリ、戦闘機……などなど無節操に様々な乗り物と強化融合し、それらを自在に操ってきた経験とそれを可能にした天性のセンスとも言えるものがある。
 故に、ミーも決して本郷に遅れることはない。
「わ~! ミーくん、凄い! 私は何にもしていないのに!」
「へへ、まぁね。こういうのは慣れてるし」
 ソルティからの惜しみない賞賛に、ミーは得意げに頷く。彼女からの声援も、ミーが本郷に追随出来ている一因か。
 ちなみに、武美は今の所ずっと黙っている。何故なら、下手に口を開くと舌を噛むからだ。
 ミーも本郷も常に時速100km以上の速度で森を駆け抜けている。カーブでさえも殆ど減速せず、時には急減速・急加速を数秒で行い、短距離ながらジャンプすることもある。
 こんな状況で喋れという方が無理である。ソルティは普通に喋っているが、あの子は色々と特別なのだ。
 お~♪ 風を切る感覚って結構爽快~♪
 それでも、一見すると下手な絶叫マシンよりも危険そうな状況を、心底から楽しめている武美も大したものだ。
 その要因は、目の前にある本郷猛の逞しく頼もしい背中と、その肩に乗っているウフコックのどこか愛嬌のある後姿か。




 修理工場のある工場エリアへの連絡通路がもうじき見えてくるか、という所で、本郷の肩に乗ってエックスの『臭い』を探っていたウフコックに動きがあった。
「本郷、止まってくれ。ミーもだ」
「分かった」
 ウフコックからの指図に即座に反応し、本郷は後ろのミーとソルティに合図を送り、白いカラスを停車させる。
「どうしたの? 本郷さん」
 シリウスと合体したままの状態でミーが問うと、その質問にはウフコックが答えた。
「この辺り……あちらの方向だな。エックスの臭いを強く感じる」
「じゃあ、もしかして!?」
 ウフコックの言葉に武美が強く反応し、それにソルティとミーも続く。恐らくエックスが近くにいると思ったのだろうが、本郷はそうでは無いだろうと考えた。
 その根拠は……言うなれば、勘だ。この静穏を嵐の前のそれと感じないだけ。
そして本郷の勘は、ウフコックによって肯定された。
「いや、そうじゃない。正確には残り香、だな。どうやら長時間、エックスが留まっていたのだろう」
「もしかして、エックスさん……」
 ウフコックが告げた言葉に、ソルティの表情が暗くなる。
 今のエックスが長時間一つの場所に留まるとしたら、それは十中八九、戦闘だ。
 もしかしたら自分達が遅かったが為に、エックスが新たな罪を重ねてしまった可能性もある。
 だからこそ、それを確かめに行かねばならない。
「行こう。なにか、手掛かりがあるかもしれん」
 エックスの更生を願うのならば、彼の罪を知り、受け止めることこそが肝要となる。そしてそれは、彼を討つことになっても同様だ。
 何故、どうして、戦わねばならなかったのか、殺さねばならなかったのか。
 それすらも分からずに決着をつけるなど、哀し過ぎる。
 本郷の力強い言葉に、ソルティも武美も、ミーもウフコックも頷いた。
 目指すは隣のG-5エリア。多少の寄り道となる程度だろう。
 途中からはエックスの物と思われる足跡もあったので、彼らは迷わずにそこに辿り着けた。
「あれは……お墓?」
 ミーの言葉に、本郷も無言で頷いた。
 森の中でも少し開けた場所。他の木々よりも二回り大きな木の下に、それはあった。
 木の枝を圧し折って作られた簡素な十字架と盛り上がっている土が、それが墓標であることを示していた。
「まさか、エックスの臭いから感じた『悲哀』は、これか?」
 耳元で、ウフコックの戸惑ったような声が聞こえる。
 鬼となったエックスに、今更そんな感情が色濃く表れるなど思っていなかったのか、ウフコックの思案は深刻だ。
 しかし本郷は、エックスのその『悲哀』の感情に希望を見出した。見ず知らずの誰かの為に悲しめる優しさが彼に残っていれば、説得も不可能ではない。
 不謹慎な希望に墓の下で眠る死者に詫びつつ、本郷は白いカラスを墓の前に止めた。ミーとソルティもそれに続き、同時にミーは融合を一時解除する。
「あー、疲れた。普段はこんなに疲れないのにな~」
「ミーくん、ご苦労様です」
 2人の遣り取りを見守りながら、本郷も武美やウフコックと共にゆっくりと白いカラスから降り、墓を見た。
 そこで気が付いた。墓の前には大きな石が置かれ、盛り上がった土の上には2つの青いヘルメットが置いてあったのだ。
 大小の違いはあれど、その2つのヘルメットはデザインがよく似ていた。
「これ、エックスさんのヘルメットです!」
 すると、大きい方のヘルメットを見たソルティが、そのようなことを口にした。
 それに応じて、武美も墓の前に歩み寄る。本郷達もそれに続く形で墓の前へと歩み寄る。
「これが? あいつ、私達を襲った時は白いヘルメットだったけど」
 青いヘルメットを見て、武美は怪訝そうにソルティに尋ねる。
 その言葉にソルティは頷いて、青いヘルメットを大切そうに持ち上げた。
「はい。エックスさんのヘルメットは、元々こっちだったんです」
 ソルティの顔は、寂しさに翳っている。
 きっと、エックスが自分の知る姿とは少しずつ、だが確実に変わっていっていることが原因なのだろう。
「それじゃあさ、こっちの小さい方は誰のなんだろう?」
 ミーはそう言って、小さい方のヘルメットを指した。
 確かに、それが問題となる。同じデザインとはいえ一回り小さいのだから、エックスのヘルメットのスペアということもあるまい。
 墓に安置されていることから、恐らく、埋葬された参加者と縁の深いものだと推測できるが。
 ソルティ達が揃って頭を捻っている横で、本郷とウフコックは墓を調べ続けた。何かのヒントは無いかと探っているのだ。
「みんな。この石に何か文章が刻まれているぞ」
 すると、本郷が簡素な十字架に気を取られているうちに、ウフコックが墓の手前に置かれた石から何かを発見した。
 本郷達はすぐに、石を覗き込み、そこに書かれている文章を読み取った。
「これは……」

『平和を愛し 平和の為に戦った 心優しき戦士 ロックマン  ここに眠る』

 石には――恐らく手で削って書かれたのだろう――そのような文字が刻み込まれていた。
 簡素な文章と、不揃いで不恰好な文字はその形からも哀しみが溢れ出て来るかのようで、本郷は自然と黙祷していた。
 他の3人と1匹(2人と2匹?)もそれに倣い、ロックマンへ黙祷を捧げた。
 約1分の黙祷の後、本郷達は少々の話し合いの後、ロックマンの墓から出発することになった。
 ロックマンとエックスの関連性については様々な憶測が並んだが、どれも決め手を欠く想像でしかない。なにより逼迫したこの状況では、ゆっくりと考えている暇も無い。
 ソルティはエックスのヘルメットを再び、ロックマンの墓の上――小さなヘルメットの隣に供えた。
 僅かに後ろ髪を引かれながら、それでもすぐに、ミーが融合しているシリウスへと搭乗する。
 それを見届けて、本郷は最後にもう一度だけ、ウフコックが嗅ぎ取るほどの濃密な哀しみと共にエックスが打ち立てた墓へと視線を向けた。
 エックス。お前は哀しみにも立ち止まらず、前へと進んで行ったか。……この墓標に、お前は何を誓った? どんな決意をロックマンへの餞とした?
 本郷の疑問に答えるものは無い。
 だからこそ、本郷は自分自身の答えを口にする。
「行こう。ロックマンのような犠牲者をこれ以上出さない為にも、俺達の手でこの戦いを終わらせよう」
 本郷の言葉に、一同は力強く頷いた。
 そして、彼らは再度出発する。
 目的地は、この殺し合いの打破のために避けては通れない関門――修理工場。






 修理工場の外で、スバル・ナカジマは一人、一心不乱に拳を振るっていた。

 エックスが去った後、スバルとボブは修理工場の探索を行った。1階部分に充実した回復施設があるのだから、更に上階には何か他のものがあるのではないかと判断されたのだ。
 しかし、上階部分は屋上からのナタクの攻撃によってボロボロで、通路が寸断されている箇所もあった。
 その通路とは、奇しくも風見志郎が発見した隠し通路のある部屋への通路であり、彼らはそこを発見するに至れなかった。
 だが、2階の部屋で複数のコンピュータ端末を発見し、ボブはそれが自分にも扱えることを確かめると、早速件の音楽ファイルの解析を始めた。
 スピーカーから流れてくる歌とメロディを聞き続けて数分後、スバルは見張りの為に外に出て行くと申し出た。
 ボブも暫しの黙考の後にそれを了承し、何かあったらすぐに知らせるようにとだけ言い含めた。

 そのような経緯で、スバルはこうして見張りも兼ねて鍛錬を行っていた。
 失われた右腕の代わりとなったリゼンブルパーツと、ボブから託された力――ガイアアーマーの慣らし、という意味もある。
 だが、この状況をスバルが望んだ最たる要因は他に2つある。
 1つは、ボブの音楽ファイルの解析に、スバルは自分では役に立てないと判断したからだ。
 ……正直、知識とか閃き以前に、あの歌を真顔で聞いてあれこれと真剣に思案しているボブの姿は、見ていて耐えられない。色んなものが。
 それに、あの歌は長時間聴いていたら頭がどうにかなってしまいそうな気がした。
 そんなわけで、ボブことT-800は音楽ファイルを1人で解析中なのである。
 そして、もう1つの、恐らくは最大の要因。
 それは、動き回って忘れたいのだ。自分が、最愛の姉――ギンガ・ナカジマを殺してしまった事実を。未だに生々しく残るあの時の感触を。
 ガイアアーマーの拳が、轟、と唸りを上げて、血に汚れた幻影をも振り落とさんばかりに、猛然と振るわれる。
 続いて、スバルは次の拳を振るうためのステップを、ズン、と力強く踏む……が。
「遅い! こんなんじゃ、ガジェットドローンだって1機も仕留められない!」
 スバルは自身の振るう拳に、少しも満足できず、苛立っていた。
 ガイアアーマーは大地の女神の名を冠するに相応しく、重厚な鎧による傑出した防御力が最大の特徴であり利点である。
 説明文にも「これでトゲトラップも恐くない!」と明記されているところから、その事実は明白だろう(スバルはこの説明文に軽くイラッとしたが)。
 加えて、ガイアアーマーによって増大した質量はスバルの拳の一撃の威力を大幅に上げ、頑強な鎧はその反動からも装着者であるスバルを守った。
 だが、代償として素早さが失われてしまった。それは単なる力自慢か、オールマイティな戦いができる者にとってはそう問題では無いだろうが、スバルにとっては由々しき問題だった。
 何故なら、スバルが幼少の頃より母――クイント・ナカジマと姉のギンガから習い、その身に修めたシューティングアーツとは、スピードを活かしたヒット&アウェイを基本戦術とする格闘技だ。
 堅牢な鎧の防御力は申し分ないが、そもそもスバルのポジションも性格も生粋のオフェンスで、切り込み隊長のようなものだ。
 防御力に頼った戦法も、防御力を活用した戦術も、彼女は良しとしない以前に、その発想に至らない。
 なにより、今のスバルは前に出なければならない。
 前に出て、誰よりも何よりも早く打って出なければ、仇は打てない。
「ドラス……!」
 苛立ちのまま思い起こす最大の仮想敵は、憎悪の対象。復讐すべき悪魔。
 セインの姿を騙り、悪辣な手段で人の輪へと入り込む、疑心暗鬼を呼ぶ潜行する魔神。変幻自在の悪夢。ギンガを盾にして、彼女をスバルに殺させた張本人。
 恐らくは今、必死で抑えている自己嫌悪と後悔の念、深い悲しみも、あいつの計算通りなのだろう。
 ……なら、それ以上の憤怒を拳に込めて――
 スバルはそこで一度足を止めた。
 そして、足を踏ん張り、腰を入れて、全身に力を漲らせた。その力を、新たな右腕へと込める。
「一撃――!」
 ――あいつを、撃ち貫く!
「ひっと……」
 そして、拳を打ち出そうとした……瞬間。

「頼む! 信じてくれ、スバルさん!!」

 金色の影が、目の前に立ち塞がったような気がした。

「……っ」
 拳に込められた力は行き場を失って雲散霧消し、拳は力無く前へと伸び、空を切ったのみ。
 スバルはわなわなと身を震わせ、己の拳を見つめた。
 その拳は未だに赤く、ギンガだけでなく、彼を殴りつけた感覚も生々しく残っていた。
「駄目だよ……やっぱり、忘れられない…………」
 ドラスのことを考える上で、それが憎悪であれ、憤怒であれ、八つ当たりであれ、それをぶつけようとする度に、目の前に何度でも現れる金色の影。
 不撓不屈の勇気を胸に宿し、その勇気を無限大をも超えた力へと換える金色の鎧を身に纏った若き勇者王。その名は、獅子王凱。
 彼は何度打ちのめされようとも、何度拳を打ち込もうとも、何度でも立ち上がり、何度でも叫んでいた。
 ドラスはノーヴェ達によって更生したと。今は過去の罪を悔い、スバルとの和解を望んでいると。
 だけど、それが本当だったとして……じゃあ、ギン姉はどうして死んだの?
 あれは、ドラスが盾にしたからに決まっている。絶対に、断じて、決して、事故なんかじゃない。ギン姉がドラスを庇ったなんて以ての外だ。
 だから、ドラスは凱も騙していたんだ。そう決め付けてしまえば、それでこの話は終わり。
 ……だけど、それができない。どうしても、できるとは思えない。
 凱の力強い瞳が、確信と希望に満ちた声が、勇気と信頼に裏付けされた気迫が、その源が、悪魔の嘘だなんて思えない。
「分からない……分かんないよ、ギン姉……ノーヴェ……」
 ドラスの姦計によって逝ってしまった、今は亡き姉と友の名を呟きながら、スバルは力無くその場に座り込んだ。
 これから、どうしたらいいのか分からない。
 自分の力を、どのように使えばいいのか分からない。
 ……ドラスへの復讐さえ、絶対に正しいのだと確信できない。
 もしも、凱と出会っていなければ。彼を問答無用で叩きのめすことができていたら。こんなことにはならなかったのに。
 しかし、記憶に刻まれた過去に“もしも”は存在しない。過ぎ去った出来事を改変することなど不可能。スバルの愚直さでは、記憶を都合よく曲解することや改竄することもできない。
 そうして、打ちひしがれて暫くすると、何かが聞こえてきた。
 恐らく、何かの乗り物が移動する音だ。それも複数。それらが、こちらに近付いてきている。
 スバルは慌てて立ち上がり、戦闘態勢を整える。
 ボブへの報告は……今は、まだしない。
 複数の音ということで、近付いてくる対象が集団=他者と協力的=殺し合いに積極的ではない……という判断からではない。
 エックス襲撃の際にボブに頼りきりだったことに対する後ろめたさが原因だった。
 自分だって役に立てることを彼に示したいと、スバルはそう考えて来訪者達を1人で出迎えることに決めた。
 そうして現れたのは、2台のバイクに乗った1人の男性と――2人の少女の3人組だった。
 どう見ても殺し合いには乗っていないであろう、見るからに無力そうな自分と同年代の少女達の姿に、スバルは安堵した。
 そして、両者が互いに声を掛けようとした、その時――
『インフォメーションメッセージ』
 ――放送が始まった。






 時間は少し遡って、本郷組がロックマンの墓を発つ直前となる。

 ソルティは名残惜しそうに、エックスのヘルメットを墓標に戻した。
 本当は、あの頃のエックスの面影が残る、彼が身に着けていたヘルメットを持って行きたいという想いが強くあった。エックスを説得しようと思う自分に、勇気を与えてくれると思えた。
 けど、彼らを引き離すなんて……そんなこと、しちゃいけませんよね。
 寄り添う2つの大小の青いヘルメットは、まるで仲の良い兄弟のように見えた。
「――もしかして、ロックマンさんとエックスさんの関係もそうだったのかな?」
「兄弟ねぇ。もし本当にそうだとしたら、ソルティに話さなかった理由は……まさか、生き別れた兄弟で、死に顔を見た途端に思い出したとか?」
 武美のその指摘にも、ソルティは首を小さく横に振った。
「それは、分かりません。……あれ? 武美さん。今、私喋ってました?」
「うん。なに、もしかして無意識だった?」
「そうみたいです」
 苦笑しつつそう言うと、武美に笑われてしまった。
 ミーの融合が完了すると、ソルティ達は改めて、修理工場を目指して出発した。
 その時。白いカラスとシリウスの排気音に紛れて、誰かの声が聞こえた気がした。

 ――――頑張って。

 聞き覚えの無い、とても優しそうな少年からの声援は、すぐに彼方へと掻き消えてしまった。
 そして、自然公園エリアの森を抜けて連絡通路に至ると、本郷とミーはバイクを一気に加速させた。
 急ぐ、急ぐ。
 鬼となったエックスとの決着の為に、彼が1人で辿ったのと同じ道程を、ソルティ達は4人で走り抜ける。
 そして、修理工場が近くなると白いカラスとシリウスはほぼ同時に減速した。十字路を左折し、十秒も経たない内に修理工場と思しき建物が視認できた。
「本郷さん、あそこ」
「ああ。誰かいるな」
 風圧などものともせず、ミーと本郷が言葉を交わす。それに釣られて、ソルティも修理工場の建物ではなく、修理工場の前へと視線を落とした。
 そこには、重厚な鎧を身に纏った青い髪の少女がいた。
「どうするの?」
「私見だが、彼女からはエックスのような闘争の臭いは感じないな」
「ふむ……まずは、接触してみよう。彼女にも戦意は無いようだ」
「はい」
「りょ~かい」
 会話が可能な程度に減速した状態で話を終え、本郷とミーは少女から10mほど離れた場所でバイクを停車させた。
 そこで、全員が降りて、彼女と話しをようとした、その時――
『インフォメーションメッセージ』
 ――放送が始まった。






合成音声による放送は、無感情に、無感動に、ただ淡々と事実だけを告げた。


No08 草薙素子
No10 クロ
 武美とウフコックは短いながらも時間を共有した仲間の死を、改めて悼んだ。
 ミーはもう二度と会えなくなってしまった、悪友のような親友のような――そんなかけがえの無い存在だった雄猫に、心の中で再び愚痴った。
 ソルティはエックスの犯した罪に胸を締め付けられる想いだったが、それでも、エックスの優しさを信じた。信じて、再び彼と共にいられる時間が来ることを願った。

No33 灰原
 呼ばれた名に、武美は僅かに反応する。
 いけ好かない男ではあったが、クロを助けてくれた、この殺し合いの場で唯一の同じ世界の出身者。
 そう思うと自然に、武美はお礼と同郷の誼を込めて、彼の冥福を祈っていた。

No14 獅子王凱
 呼ばれたその名に、スバルは動揺する。
 ゼロが呼んでいた『ガイ』という彼の名前は、名簿には1人しか該当しなかった。だから彼女は金色の勇者の名を獅子王凱だと断定していた。
 その凱の名が、何故か呼ばれていた。
 自分は殺していないのに。彼は、生きていて然るべき人物なのに。
 憎悪に曇ったスバルの心にも一筋の光明を差し込んだ、疑う事なき勇者。
 なのに、どうしてその名前が今呼ばれるのか、さっぱり意味が分からない。
No26 T-1000
 倒すべき脅威の名が告げられても、今のスバルでは反応できない。

No27 ディムズデイル・ボイルド
 ウフコックは告げられた名に悲しみを忘れ、驚愕した。
 告げられたディムズデイル・ボイルドと言う名とは、破格の化物【モンスター】の固有名詞。具現化した虚無。ウフコックが知り得る中でも最強の一角に名を連ねる存在。
 それが、バロット亡き後、自分もいない状況で討たれたという事実を一方的に宣告されて、何故だか素直に喜べなかった。

No07 ギンガ・ナカジマ
 告げられたその名が、スバルを現実へと引き摺り戻す。
 自分の犯した罪が、現実が、動揺した心に付け込んで、どんどん、どんどん、心の奥にまで染み渡ってしまう。
 そして、ギンガの死の原因が、凱の名が告げられたことに関して最悪の予想を閃かせた。

No05 風見志郎
No09 グレイ・フォックス
 2人の訃報にも、本郷は動じない。
 狂乱【マッドネス】という苦しみから最期に解き放たれた戦士に黙祷を捧げ、同時に、あの時の直感どおり命を懸けて散った後輩の死を悼んだ。
 改めるべきは決意と覚悟。
 思い出すべきは誇りと信念、そして約束。
 故に、本郷猛――仮面ライダー1号は揺るがない。

No45 ラミア・ラヴレス
No03 アルレッキーノ
 最後の最後に告げられた2人の名に、本郷達は驚愕する。
 彼らの担った役目はハカイダーへの連絡。本郷達に比べればリスクも少ないはことのはずだった。
 それなのに、何故、2人の訃報が今、届けられているというのか。


 合成音声はその後も、何事も無く禁止エリアを宣告し、今までの2度と同じく放送を終えた。




「「どういうこと……?」」
 武美の声が、目の前の見知らぬ少女の声と重なる。
 だが、どちらもそれに気付くこともなく、2人は言葉を続けた。
「どうして、ラミアさんとアルレッキーノさんが……」
「どうして、凱さんまで死んでるの……?」
 その2人に続く形で、ミーとソルティも口を開く。
「ラミアさんまで……チックショォォォォオオォォ!!」
「アルレッキーノさん…………」
 ミーは激情に任せるまま叫び声を上げ、ソルティはエックスの次に縁のある仲間の死を悲しみ、声を押し殺した。
 そんな中でも、ウフコックは本郷と共に努めて冷静に現状の把握に当たった。
 彼らならば、暫く時間を置けば落ち着きを取り戻せるという、信頼による判断だ。
 仲間を再び失ってしまった武美が心配ではあるが、今は一秒たりとも停止することは許されないのだ。
 だから、ウフコックと本郷は休まずに思考を重ねる。
「本郷。ラミアとアルレッキーノについてはどう思う?」
 ウフコックが問うと、本郷はすぐに返事をくれた。
「ハカイダーの可能性は低いな。あいつがやったのなら、フランシーヌから殺しているはずだ」
 誇り高き悪の戦士の生き様を目の当たりにしているが故だろうか、本郷の言葉には確信があった。迷いも嘘も無い。
 加えて、本郷にはハカイダーが、如何なる理由があろうとも、無意味な破壊を齎すとは思えなかった。
 これは、互いが悪と正義――二律背反の存在であるが故の理解か。それとも、戦士としての共感か。
 しかしそれでも、フランシーヌの生殺与奪は今もハカイダーにあり、ラミアとアルレッキーノが伝言を届けられていなかった場合はどうしようもないという事実がある。
 だが、その事実を理解していても、2人とも敢えてそのことは口には出さず、ウフコックは話を続ける。
「あの2人が自分達の命を差し出して、フランシーヌという人物の助命を求めたとも思えない。そうなると」
「俺達と同じで、移動中に他の参加者から襲撃を受けた可能性が高いな。あの男、グレイ・フォックスも強かったが……
今回の放送で呼ばれた草薙さんやクロは相当の実力者だったというし、風見に至っては10人ライダーの中でも屈指の実力者だ」
 ラミアとアルレッキーノの襲撃者から、今回死亡が通告された参加者の戦闘能力へと話題がシフトしたことにウフコックは一瞬戸惑った。
 だが、すぐに本郷の意図を読み取り、自分の考えを素早く述べた。
「ボイルドも、撃破されたという事実を俺自身が確認するまでは到底信じられないほどのモンスターだったことを認めよう。そして、僅かしか知らない俺にもラミアとアルレッキーノは充分に『強者』に区分される人物だった」
「俺達が知るだけでも、7人の強者が斃れた。……つまり」
「君のように、死んだ彼ら以上の力を持つ強者が犇いている状況、ということか」
 思い出すのは、グレイ・フォックスという名のモンスター。
 4人がかりでも足止めが精一杯で、一時は本郷を戦闘不能に追いやった存在も、それ以上の実力者=本郷とミーの融合【ユニゾン】によって敗れた。
 ならば同様の現象が、各地で起こった可能性は高い。本郷にも比肩しうる強敵と仲間の死が、それを裏付けている。ボイルドも仮面ライダーも、易々と裏を掛けるような存在ではないのだ。
「ああ。……それと、これは悪い知らせだが、ラミアとアルレッキーノの下手人はほぼ間違いなく生存していると考えていい」
「なんだと? その根拠は」
 別働隊の2人は襲撃者に対して一矢報いることさえできなかった、という本郷からの驚くべき通告に、ウフコックはその確証の提示を求めた。
「名前の呼ばれる順番だ。前回の放送の直後に殺されたという2人の名が真っ先に呼ばれ、俺達と別れた2人が最後に呼ばれた」
「なるほど。つまり、放送による死亡通告は番号などによるものではなく、死亡した順番である、ということか」
「そうだ。……そして、彼らの直前はグレイ・フォックスだった」
「……厄介だな」
 彼ら2人を逃さず殺害し、尚且つ自身は生存しうる存在。
 才知に長けた者か、圧倒的な戦闘能力を持つ者か、或いは両方を兼ね備えるモンスターか。
 それに、今回の放送によって死者の発生するペースが一向に衰えず、たった18時間で残る参加者が16人になったことが確認された。
 このことからも、各地で激戦が行われた=強者と、強者をも屠る強者が多数存在することは明らかだ。
 やはり、この殺し合いはウフコックが経験したどのような現場よりもハードなようだ。
「ああ、厄介だ。厄介だが、俺達には今、他にやるべきこともある」
 ウフコックの言葉に頷くと、本郷はそこでこの話を打ち切った。どうやら、彼らが落ち着きを取り戻したようだ。
「みんな、落ち着いたか」
 本郷からの呼びかけに、最初に反応したのはミーだ。
「うん。僕は思いっきり叫んだら少しは。だけど……」
 そう言って、ミーはウフコックと同様に心配そうに武美とソルティを見た。
「……冷たいかもしれないけど、私はあの2人とそんなに親しいってわけじゃ無かったからさ、そんなに辛くないよ。大丈夫」
 武美は強がりながらも、そう言ってくれた。こういう場面で強がれるのも、精神的な強さの一つだ。
 今はウフコック以外にも本郷、ミー、ソルティという心強いバックアップがいる。今の状態なら、彼女の言葉通り、きっと大丈夫だろう。
 武美の気丈な言葉に触発されてか、ソルティも俯けていた顔を上げた。
「私も……こんなことではへこたれません! 私に戦いの厳しさを教えてくれたのは、アルレッキーノさんでしたから……だから、私も…………」
 しかし、仲間の喪失は辛いのだろう。最後まで言い切ることができず、ソルティの言葉は途中で消えてしまった。
 すると、本郷がソルティへと歩み寄り、彼女の肩を優しく叩いた。
「ソルティ、無理をしなくていい。泣きたいのなら、今、思い切り泣いてもいい」
 本郷の大人の男の魅力【ダンディズム】に溢れた、穏やかな笑みと言葉。その包容力は、ウフコックでも真似ることができないものだ。
「……大丈夫です! それに、アルレッキーノさんやラミアさんが死んで辛いのは、私だけではありませんから」
 ソルティは本郷の笑みに触発されたかのように、眩いばかりの笑みと気性を取り戻した。
 それに安心した武美が歩み寄り、どちらからともなくハイタッチをした。なんとなく“うっう~”という擬音が似合う光景だと思う。
 これで、こちらは問題無い。
 驚嘆すべきは、やはり本郷猛のカリスマとも言うべき魅力と統率力。見れば武美とミーも、先程よりも明るい表情になっている。
 この殺し合いの打破には、やはり、彼のようリーダーが必要不可欠だ。この修理工場に、解毒の設備があればいいのだが。
 とにかく、これで残る問題はあと1つだ。
「ねぇねぇ、君は……」
 すると、ミーが何時の間にか、残る問題=不気味な沈黙を続けている所属不明の少女に話しかけた。
 だが、それは少女の声によって中断された。
「……ろし、ちゃった…………」
 掠れた声で何事かを呟いた少女のただならぬ様子に、一同は押し黙った。
 見れば、少女の目は虚ろ。そこに見えるのは、絶望という虚無。
 まるで一時のバロットのようだと、ウフコックは思った。
「私……私…………凱さんまで、殺しちゃった――――!!」
 今度は誰にでも聞き取れるほどはっきりと、少女は己の罪を叫んだ。
 全員が息を呑む。見ず知らずの少女の、突然の罪の告白と自暴自棄に、どうしたら良いのか分からない。
 そして少女は、ウフコック達のことをまるで意識に入れていない。
 或いは、外の情報を処理するだけの余裕が、今の少女には無いのだろう。
「わた、し……わたし……ギン姉だけじゃなくて、凱さんまで…………あ、あぅ、ぅぅうぅああぁぁぁああぁぁぁぁぁ…………」
 言いながら、少女は力無く膝を屈した。
 両手をコンクリートの地面に付き、呼吸のように漏れだす声にはより一層の絶望と悲哀が乗せられ、瞳は先程と変わらず何も映さず、虚無だけを示していた。
 少女の絶望と悲哀、そして虚無には、武美やソルティだけでなく、ウフコックまでも引き摺られそうになった。ミーに至っては既に半泣きだ。
 だが、彼らは踏み止まった。踏み止まれた。
 彼らの眼前には、泣くことさえもできない少女の身体を、まるで大樹のような雄大さで抱擁する本郷の姿があったのだ。
「今は、泣きたいだけ泣くんだ。俺でよければ、胸でも背中でも幾らでも貸そう。だから――全部、吐き出すんだ」
 その言葉が切っ掛けとなったのか。
 或いは、単に限界を超えていた堰がタイミング良くその時に切れただけなのか。
 少女の双眸から涙が溢れ出し、同時に嗚咽が漏れ始めた。
「う、うぇ、……う、っく、う、うぅ……うわあああああああああああああああん!! ギン姉ぇ、ギン姉ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――! ゴメン……ゴメン、凱さん…………ゴメン、なさい………………!」
 胸でも背中でも、か。自分にはとても出来ない芸当だ。
 そのようなことを思いつつ、ウフコックは武美達と共に、少女を優しく抱擁する本郷と、本郷の胸で泣きじゃくる少女を見守った。




「落ち着いたか?」
「はい。ありがとうございます」
 あれからどれほど経過しただろうか。
 本郷の胸で泣きじゃくっていた少女は泣き止み、落ち着きを取り戻した。
 武美は改めて、本郷の温かさや包容力に感心した。
 なんというか……そう、理想の父親や兄貴分のような感じだ。
 9人もの仮面ライダーの後輩を纏め上げているのは伊達では無い、ということなのだろう。
「それでは、先ずは自己紹介から――」
 ウフコックがそう切り出すと、突然、少女は辺りをキョロキョロと見回した。
 みんなはそれを不思議そうに見ているが、武美はそれの意味するところを察し、悪戯っぽい笑みを浮かべながら黙って少女の足元を指した。
 少女はそれに従って顔を下に向け、金色の体毛のネズミ――ウフコックと視線を合わせた。
「俺がどうかしたか?」
「ひゃ!? ね、ネズミが喋った!?」
 ウフコックの発言の直後、少女はそう言って驚いた。
「あはは。そりゃそう思うよね~」
「わっ!? メタリックな猫が立って喋ってる!?」
 頷いたミーに対してもこのリアクション。どうやら割と常識的な世界の出身らしい。
 あ、ウフコックとミー、微妙に打ちひしがれてる。
「違いますよ。ウフコックさんはただのネズミじゃありませんし、ミーくんもただの猫じゃありませんよ?」
 ソルティはそう言ってフォローした……つもりなのだろうが、今の言葉が追い打ちとなって、2人は更に困ったような表情になっている。
「……まぁいい。改めて、自己紹介をしよう。ウフコック・ペンティーノだ」
「俺は本郷猛だ。よろしく頼む」
「私は広川武美。よろしくね」
「私はソルティ・レヴァントです。よろしくお願いします」
「僕はミー、見ての通り猫のサイボーグだよ。よろしく~」
 武美達が自己紹介を終えると、少女は一度深呼吸をしてから自己紹介をした。
「私はスバル・ナカジマです。……その、さっきは、ありがとうございました!!」
 言うと同時に、スバルは身体を直角に折り曲げた。
 その様子から、武美はスバルがスポ根系だと直感した。なんとなくだが、風来坊さんに通じるものがあるような気がしたのだ。
「なに、気にすることは無い。困った時はお互い様さ」
 本郷は穏やかな笑みを浮かべて、スバルに手を差し伸べた。
「はい!」
 スバルは鎧を脱ぐ間も惜しんで即座に本郷の手をがっちりと握り、握手をした。
 これが殴り合った後の夕日の海岸だったら……うん、絵になる。やっぱりスバルはスポ根系だ。
「……スバルさん?」
 武美が妙なことに納得している横で、ソルティがスバルの名を呟いた。
 見ると、なにやらPDAを操作して画面に見入っている。
「どうしたの、ソルティ? いきなりPDAなんか取り出して」
「なになに、どうしたの?」
 ミーと一緒に、ソルティのPDAの画面を覗く。そこにはある支給品の説明文が記載されており、その一部に、スバルの名前が書かれていた。
「思い出しました! スバルさん、これ、あなたのですよね?」
 PDAを仕舞ってから、ソルティはスバルへと駆け寄り、一枚の板を差し出した。
「これって……もしかして、マッハキャリバー!?」
 スバルはその板の名を、驚きながら、しかし嬉しそうに口にした。
「はい。いつかあなたに会えたら返そうと思って、ずっと持っていたんです」
「ありがとう、ソルティ!」
 ソルティに礼を言って、スバルはすぐにその板を受け取った。
 そして、スバルがマッハキャリバーという板に何かをした。
 すると、どうだろうか。
『――おはようございました、相棒』
 突如、何の変哲も無い板が喋り出したのだ。これにはさしもの本郷とウフコックも驚いている。
「マッハキャリバー! やっと……やっと会えた!!」
『ど、どうしたのですか? 相棒。それに、ここは? この人達は? 現状の説明を求めます』
 スバルに力強く抱擁されて、マッハキャリバーは戸惑っているようだ。……というか、あれのどこに目とか耳があるのか突っ込むのは禁止だろうか。
「異世界、並行世界の超技術か……」
 すると、本郷がなにやら深刻な面持ちで声を漏らしていた。
 それはともかくとして、本郷とウフコックの主導の下、スバルとマッハキャリバーを交えて情報交換が行われた。



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134:彼のいない発電所 本郷猛 139:嵐の前(後編)
134:彼のいない発電所 ミー 139:嵐の前(後編)
134:彼のいない発電所 広川武美 139:嵐の前(後編)
134:彼のいない発電所 ソルティ・レヴァント 139:嵐の前(後編)
134:彼のいない発電所 ウフコック・ペンティーノ 139:嵐の前(後編)
131:仮面のはがれた殺人機械 スバル・ナカジマ 139:嵐の前(後編)
131:仮面のはがれた殺人機械 T-800 139:嵐の前(後編)





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