(3) ◆hqLsjDR84w





 ◇ ◇ ◇


 コロニーの天井が崩壊したことにより、辺りを烈風が駆け巡る。
 とても軽症とは言い難い敬介だが、そこは改造人間。
 大地を踏みしめることで、吹き飛ばされないで堪えている。

「うん、分かったよ」

 しっかり掴まっていろとナタクに告げられ、ドラスが両腕にかける力を強くする。

「逃がさん……!」

 そよ風を浴びているかのように涼しい顔で、ナタクは金蛟剪の能力で空中で静止する。
 着地せんとするエックスの元に、宇宙にまで飛び出した巨大なドラゴンを舞い戻す。
 気が付いたエックスがフリームーブで逃れようとするが、着地するまでの間はエネルギー切れ。
 龍に貪られるのは時間の問題だろう。
 その場にいた誰もが――エックスでさえ、そう疑わなかった時である。
 ナタクの背中に、極めて軽い衝撃。

「お姉ちゃん!」

 ナタクが振り向けば、ドラスは空中を漂っていた。
 先刻のナタクに振動が走ったのは、ドラスがナタクの背を蹴って跳躍したためだったのだ。

「ドラス、何を――!?」

 ナタクと敬介のどちらか、あるいは両方が尋ねようとして気付く。
 風に攫われた気絶したままのチンクが、ドラスに抱えられているのに。
 しかし現在のドラスには飛行する術がないので、宇宙空間に飛び出そうとする空気の流れに抵抗できない。
 さらにこのまま空中に漂っていれば――龍がエックスに襲い掛かかった際、その勢いで食われかねない。

「ッ、大変身!」

 折れていない方の右手だけでポーズを取り、敬介は仮面ライダーXの姿になろうとする。
 カイゾーグの身体能力があれば、空中でドラスとチンクを掴んだまま暴風に逆らって落下してくるのも可能だ。

「……っ、何?」

 疑問の声を上げた男の姿は、Xライダーではなく神敬介のまま。
 小首を傾げた敬介は、マーキュリー回路の停止を感知する。
 マーキュリー回路が埋め込まれた胸に、何度も大きなダメージを受けたせいだ。
 すぐに敬介は、両腰に備え付けられたレッドアイザーとパーフェクターを取り出す。

「セタップ!!」

 銀のマスクが半分ずつ敬介の顔面を覆い、パーフェクターを装着。
 変身、仮面ライダーX。
 だが、Xライダー自身に非がないとはいえ、あまりにも遅すぎた。
 ドラスとチンクは、遥か上空まで飛ばされてしまっている。
 いくらカイゾーグとはいえ、あんな場所まで跳躍しては勢いで宇宙まで追い出されてしまう。
 僅かにXライダーが躊躇する中、我が物顔で天を奔っていた龍が掻き消えた。
 目の前で消滅した龍に驚愕するエックスを放置し、ナタクが空中を加速する。
 龍を消したのは、自分が飛ぶのに邪魔だから。
 さすがスーパー宝貝と言うべきか、瞬く間にドラスとチンクの元へ辿り着くナタク。
 されどその場は、元々コロニーの外であった場所。
 コロニーの壁が修復を開始し、ナタクの目の前で抉じ開けた穴が小さくなっていく。
 しかし今からナタクが全速力で戻ろうとしても、二人抱きかかえて間に合うかは微妙なところである。

「空気が薄い?」
「宇宙だから当然だよっ! あの穴が閉じてしまえば、完全に真空に放り出されることになるんだ!」

 不思議そうなナタクに掴まりながら、ドラスが声を張り上げる。

 火柱キックの時と比べて修復のスピードが速いのには、理由がある。
 コロニーの壁を破壊しながら進んだ風見志郎は、面積にして数平方キロメートルもの穴を開けたのだ。
 四色の龍はサイズこそ風見以上だが、開けた穴の大きさは数百平方メートル。
 小さな傷ほど治りやすいのは、この世の常である。

「ドラス、お前は空気なしで行動できるか?」
「え……?」
「早く答えろ!」
「生存は可能……なはずだよ」

 珍しく口調を荒げるナタクに圧倒され、ドラスは疑問に答える。
 なるほどと呟いたナタクは、気絶しながら腹式呼吸を続けるチンクを見やる。

「まずは、そいつだけ帰らせる」

 それだけ言って、ロープ状に変換させたカセットアームをチンクに括り付ける。
 身体を弄繰り回されてさすがに目を覚ましたチンクに、ナタクは短く伝える。

「許せ」

 頭上に無数のクエスチョンマークを浮かべるチンクを無視して、ロープの先を掴むナタク。
 ハンマー投げの要領で振り回す。
 チンクの言葉にならない悲鳴を受け流して、遥か下に向かって叫ぶ。

「受け取れ、神敬介!!」

 ナタクが手を離したことにより、凄まじい勢いで投げとばされるチンク。
 飛来している途中で、チンクを縛るロープアームはPDAに戻される。
 ぎりぎり子供一人が通れそうなほどにまで、縮まっていたコロニーの風穴。
 そこをチンクは何とか通って、コロニー内に帰還した。
 ナタクの言葉を聞いたXライダーが、うまいことキャッチした功績も忘れてはならない。

「成功だ。俺も空気がなくても、本体が無事なら大丈夫だ。もう一度壁を破って戻るぞ」

 得意げに話すナタクに、ドラスは沈痛な面持ちで口を動かした。

「違うんだ、ナタク。呼吸なしで行動できるだけじゃ、真空では生存できないんだ……」

 訝しがるナタクに、ドラスは続ける。
 チンクを助けようと思わずとってしまった自分の行動は、誤りであったのか。
 判断できずに、今にも泣き出してしまいそうな顔だ。

「真空中では、体内の水分に影響が生じ……大半の生命体は死に至るんだ」
「何……だと……?」

 呆然とするナタクを見て、ドラスは胸を突き刺されるような感覚を覚えた。

「…………痛ぅ。何なんだ、いったい」

 状況を飲み込もうとしているチンクの眼前で、天井に開いた穴は完璧に修復された。
 唖然とするXライダーとチンクから少し離れた場所に、暴風を耐え切ったエックスは着地。淡々と呟いた。

「今度こそ二体破壊……残り二体だ」


 ◇ ◇ ◇


「……だいたい分かった」

 怒りを露にサブローから告げられた説明。
 ゼロは虫唾が走るような感覚を抱きつつ、思案を巡らせる。
 迷うのは、フランシーヌを引き取るか否か。
 敬介という知り合いがいるので、フランシーヌの居場所がなくなりはしないだろう。
 しかし仮にフランシーヌを任されてしまえば、サブローはすぐさまメガトロンとコロンビーヌの元へと向かうだろう。
 ゼロ自身も、サブローには用事がある。
 敬介とドラスに関するいざこざを解消した後に、じっくりと望むべき大事な仕事が。

「任されてくれるか」

 視線で早く答えろと主張しつつ、サブローがゼロを急き立てる。
 未だゼロは思考を続ける。
 もしもサブローが離れれば、次に出会えるのはいつになるのか。そもそも再会できるのか。
 どちらも定かではない。
 ドラスの敬介に対する復讐、仲間と誓ったハカイダーへの説得、ハカイダーからの頼み、メガトロンとコロンビーヌ、またT-800、最終的にシグマの打倒。
 やるべきことがありにも多すぎて、ゼロを迷わせる。
 結論が出ないまま、時計の長針が二回動いた。

「何でしょう、あれは……」

 誰にともなく問いかけるフランシーヌ。
 その瞳が捉えたのは、夜だというのに光を放つ景色
 ネオンサインなど知るはずもないフランシーヌは、二の句を告げることすら適わない。
 夜でも明るいままの都市があることを知っているゼロとサブローもまた、何か釈然としないものを感じる。
 今まで街灯くらいしか灯りがなかったというのに、急に大都会のように燦然と輝き始めたのだ。
 まさか正体がエネルギーで作られた龍だとは、彼等でも気付かない。
 非常識な展開は、もっと続く。
 ブレーカーでも落ちたかのように唐突に暗くなったと思えば、今度は先ほど以上に煌き始めたのだ。
 もはや互いに確認するまでもなく、サブローとゼロの頭脳は断定していた。

 ――――あの場所で何かが起こっている。

「すまない、ハカイダー。あの場所に仲間がいるんでな……頼みは聞けん」

 それだけ言って、ゼロは光の元へと急行する。
 凱やギンガの時のように間に合わないのは、もうたくさんだから。
 サブローは、暫し離れていくゼロを見届け――

「ちぃッ!」

 舌打ちとともに、アクセルを捻る。
 ゼロを追い抜いたところで、ブレーキを握る。
 阻むかのように現れたサブローに歯噛みして、ゼロはセイバーを構える。

「バイクの後部に掴まれ」
「何?」

 拍子抜けした様子のゼロに、サブローは続ける。

「お前の身体能力ならば、落ちはしない。三人乗りとはいえ、走って向かうよりも早く着くだろう」

 少し呆けて、ゼロはセイバーを仕舞い込む。
 浮かんだ笑みをサブローに悟られないようにして、ゼロはバイクの後部を握り締める。

「礼を言う」
「……ふん」

 ゼロのほうを振り向くことすらせずに、サブローはアクセルを捻った。
 別に、サブローはゼロの手助けをする気はない。
 ゼロと自分が話しこんでいたのが原因となり、ゼロの仲間が殺されるのは望ましくなかっただけである。

(まあいい。ここで恩を売れば、ゼロはフランシーヌの件を断れまい)

 そのようにハカイダーが先の計画を立てた瞬間、豪風が周囲を跋扈する。
 フランシーヌの存在もあり、KATANAを一時停車せざるを得ない状況となってしまった。


 ◇ ◇ ◇


 殺意を含んだエックスの視線に、とりあえず応戦しようとしたチンク。
 デイパックに手を突っ込んで、その表情を凍らせる。
 集めておいたはずの金属片が、跡形もなく姿を消していたのだ。
 意識を落とした時、チンクが肩にかけていたデイパックは開かれた状態で――そのまま宇宙に飛び散ってしまったのだ。
 地上にいたXライダーは、チンクのデイパックから大小様々な金属が飛び出る情景を目にしていた。
 保護するかのようにチンクの前に出て、「逃げてくれ」と告げる。
 彼女が答えるよりも早く、Xライダーがその肉体を疾風とする。
 バスターにエネルギーを充填するエックスに飛び蹴り。
 やはりフリームーブで回避するエックスを、Xライダーは右手だけで燕を握って追いかける。
 結構な訓練を積んでいるチンクには、初撃の飛び蹴りがエックスを彼女から遠ざける意味があったことを察した。

「ライドルホイップ!」

 隻腕のエックスは、鞭のようにしなやかな斬撃をかがんで回避。
 チャージが完了した銃口を、Xライダーに向ける。

「Xパァァァンチ!」

 Xライダーはバスター自体に拳を打ち据えて、銃口をあらぬ方向へ。
 放たれたスピアチャージショットは、Xライダーに掠りもしない。
 エックスはフリームーブを作動。上昇ではなく直進。
 下方向への攻撃で体勢を崩したXライダーは、急加速したエックスの体当たりをまともに食らう。
 地面に背中を擦り付けながら、勢いを殺したXライダー。
 すぐさま立ち上がったXライダーの眼前には、チャージなしのエネルギー弾が八つ迫っていた。
 燕を回転させて防いだところで、前のようにフリームーブで接近したエックス自身の攻撃を受ける。
 ゆえに、Xライダーはあえて光弾を全て受けた。
 ライドルバリアーを使うものだと思って加速していたエックスは、Xライダーのカウンター気味のハイキックに吹き飛ばされる。
 蹴りを受けたほうのエックスは勿論、放った方のXライダーも衝撃で倒れ込んだ。

「ぜェ、ぜッ…………ぐっ」
「っは……はっ……」

 ゆっくりと立ち上がる二人。
 互いに肩で息をしていて、互いに左腕が使い物にならない。
 十秒ほど睨み合い、Xライダーがぽつりぽつりと少しずつ言葉を零す。

「考え……をっ、あらためる…………ことはっ、できな……い、か?」
「……はァ、はっ。俺、を……止める、には…………破壊す、る……しかない。ま、えに、も言っ、た……」

 もう二人の間に会話は必要なかった。
 Xライダーは、携えていた燕を地面に落とす。
 数分かけて呼気を整え――――互いに跳躍。

「X……必殺…………」

 エックスの遥か上空まで跳び上がり、右手両足を伸ばす。
 左腕がもはや動きそうにないのでXの文字は作れないが、その分声を張り上げる。

「キィィィィィィイイイイイイイイイイイック!!」

 長く伸ばした右足の向こうにいるのは、空中でエネルギーを纏うエックス。

「来い! イレ…………X!!」

 エックスがX必殺キックに対して放つのは、前とは違って完全なスピアチャージショット。
 拮抗は数瞬。エネルギー弾は炸裂音とともに飛び散る。
 次にXライダーの右足が触れるのは、エネルギーのバリア。
 火花を散らして、バリアが霧散する。
 二つの障害を突破して、やっとXライダーの蹴りがエックスに命中する。
 ヘッドギアにの下で、エックスの口からオイルが溢れ出す。
 勝利を確信したXライダーは、奇妙な感覚を察知する。

「……耐えたぞ、X……!」

 エックスから漏れたのは、Xライダーが聞いたことのある言葉。
 瞬間、Xライダーの中にフラッシュバックするのは、エックスとの最初の戦い。
 あの時、エックスはXキックを耐え切って反撃してきた。
 現在使っているのはXキックの二倍の威力がある技とはいえ、二度も威力を軽減されてしまえば――
 装備している白い鎧の耐久力しだいでは――
 何と言ってもマーキュリー回路が働いていない状況で、ダメージはエックスに届くのか?

「チェック……だ!」

 Xライダーの中に浮かんだ疑問に答えるように、光弾を放った直後からチャージを続けていたバスターが向けられる。
 スピアチャージショットではないとはいえ、チャージが八割方完了したエネルギー弾がXライダーの装甲が剥がれた胸を穿つ。
 変身が強制的に解除され、重力に逆らうことなく落下していく敬介。
 地面に落ちた敬介を見届けると、エックスはゆっくりと地面に降り立った。
 動かない敬介を破壊しようと、エックスはチャージが完了したバスターを向け――飛翔した。
 一瞬前までエックスが踏み締めていた地面に、二つの物体が突き刺さる。
 弾薬の切れた緑色の砲台に、騎士をあつらえたバッチ――敬介が気づいた途端に爆ぜる。

「まだいたのか……」

 立ち込めた煙が晴れて敬介の視界が良好になってみれば、その地点にチンクが立ち尽くしていた。
 離れたものだと思い込んでいた敬介は、自然にそう漏らす。
 敬介の言葉には答えずに、チンクは声を荒げる。

「風見といい、お前といい、ナタクといい、ドラスといい! 男というものは!!」

 Xライダーとエックスの戦いを見ながら、チンクは考えていた。
 目が覚めた時に広がっていた景色は、いったい何だったのか。
 風見志郎がコロニーの壁を粉砕した時に近くにいたチンクは、すぐに理解した。
 ナタクやドラスに自分は、宇宙に追い出されていたのだと。
 そしてナタクとドラスは自分だけをコロニーに戻し、彼等は宇宙に残ったのだと。
 感謝するべきなのかもしれないが、チンクにはその行動が許せなかった。
 こちらの意思を聞かずに勝手に死を選んだ男達に、言いようのない怒りを感じていた。

「残される方の身にもなれ…………!!」

 倒れた敬介のツナギを掴んで、チンクは言い放つ。
 その左側だけの眼球が、心なしか腫れているように敬介には思えた。

「そう……だな」

 敬介はチンクの言葉に電撃を浴びせられたかのような感覚を覚えて、秒にも満たない時間だが硬直した。
 落ち着きを取り戻すと、自分に言い聞かせるように敬介は続ける。

「置いていくワケにはいかないな。そうだ……もうアイツは休むべきなんだ」

 覚束ない足取りで、立ち上がる敬介。
 いまの体調では変身不可能なことくらい、本人が一番知っていた。
 だらりと垂れ下がる左腕を見てみれば、岩石のように硬くなっている。
 『生命の水』を飲んだもの特有の現象であるのだが、敬介にそんな知識はない。
 分かることはただ一つ。自分の命が、もう消える寸前だということだけ。
 チンクの耳元でに顔を近付けると、敬介は小声で頼み込む。

「ふざけるな!!」

 耳の先まで真っ赤にするチンクに、敬介は左腕を見せつける。
 流す血液すら失った黒褐色のそれは、裂け目が入っていて今にも砕けてしまいそうだった。

「どうせ死に行く身さ、頼む」
「大バカが…………」

 憎まれ口を叩きながらも、チンクは敬介の申し出を了承した。 
 敬介は、心からチンクに頭を下げた。

 離れた場所から響いていたチャージ音が、急に止まった。

 放たれたスピアチャージショット。
 敬介は視野に入っていないかのように直進を続け、脇腹に直撃。
 バスケットボール大の肉塊が骨と臓物ごと抉り取られるが、振り向くことなくひたすら足を動かす。
 高出力のエネルギーで焼かれたことで出血はないものの、傷口から目に見える速度で身体が硬質化していく。
 支えが半分ほどになってしまった上半身が、一歩進むごとに左右に揺れ動く。その動作、まるで錆付いたブリキ人形。
 鬼気迫る表情の敬介に戦慄し、エックスはショットを連射することで動きを止めようとする。
 カイゾーグの姿をしている時ならともかく、変身前の状態ではその一発一発が致命傷。
 エックスがそのような行動を取ろうとするのは、敬介の方も予想済み。
 唇を喰い千切る勢いで噛み締めて、ただただ走り続ける。

 されど、弾丸は放たれず――!

「ぐあっ」

 あまりにもだらしないエックスの声。
 バスターの引き金に指をかけ、敬介だけを見ていたエックスの後頭部を襲ったのは石ころ――に酷似した科学の結晶。
 PDAに記載された説明文が下らなすぎたがゆえに、あまり使われてこなかった『五光石』という名の宝貝。
 その追加効果は低俗かもしれないが、特筆すべきなのは投げてしまえば標的に必ず命中する精度。
 と言っても、威力は石ころ程度。
 戦力とはみなされていなかったが、それでもエックスの意識を束の間でも別方向に向けることは可能。
 五光石を投げつけたチンクが、声が割れそうなほどに叫ぶ。

「走れ、ジン!! カザミの後輩であるならば、意地を見せてみろッ!!!」

 上空を見上げる余裕こそないが、エックスからの攻撃が来ないのはチンクのおかげだと判断。
 胸中でチンクに感謝の言葉を浴びせて、駆け抜けた敬介がついに足を止める。

 その位置、エックスの真下――――!

 フリームーブを使って離れようとするエックスだが、跳躍した敬介に追いつかれる。
 エックスは知らなかったのだ。変身前でも、敬介が人間を超えた身体能力を所持していることを。
 思わず目を閉じてしまったエックスだが、軽い衝撃しかない。
 ゆっくりと目蓋を開いてみれば、敬介はエックスの身体に右手でしがみついていて――それだけだった。

「さすがに、その腕じゃ攻撃できなかった……ってところか」

 一人で納得しようとするエックスに視線を合わせて、敬介はゆっくりと告げる。

「いや、これでいいんだ」

 負け惜しみだと切り捨てようとしたエックスの聴覚が、歌うように紡がれた言葉を捉える。

「IS、発動」

 チンクが何度か金属を起爆させていたのを知ってはいたが、エックスは脅威に思わなかった。
 フリームーブで距離を取るか、バリアを張るかすればやり過ごせるからだ。
 つまるところ、金属を近付けさせなければいいだけの話。
 ここまで考えて、エックスは気付く。

 ――――既に接近している金属の存在に。

「バッ――」

 バカなと否定しようとして、敬介に視線を流したエックスは息を飲む。
 その表情が、やけに穏やかなものであったから。

「エックス、もうお前は止まっていいんだ」

 その言葉が、導火線に火を点けるマッチの代わりとなった。

「ランブルデトネイター」

 チンクが、己の先天固有技能の名を呟く。
 既に爆破物と化していた敬介の肉体が炸裂。燃え盛る炎を吹き出した。
 敬介を退ける暇すらなかったエックスは、黒く焦げた金属の欠片をいくつも撒き散らして吹き飛んでいった。

「……やっぱりだ。やっぱり勝手だ、お前たちは! 仮面ライダーは……男というものは…………っ」

 他の九人の仮面ライダー達と違い、カイゾーグである敬介は肉体と金属を入り混ぜた物質で身体が構成されている。
 ゆえに、ランブルデトネイターによって全身が爆破。残る箇所は存在しない。

 鍛え抜かれた敬介の肉体はただ炭となるだけであり、つまるところ散らばったある程度の形を保った破片は――イレギュラーを自称する鬼のものということになる。

 爆風に乗って降り注ぐ煤塵の中で、チンクはへたり込む。
 結局、最後に残ったのは自分一人だった。
 風見志郎の後輩も、いけ好かない蓮花の化身も、守るべき弟も、もういない。
 一人は自分が殺し、二人は勝手に自分を守って死んでいった。
 生き残っているというのに、チンクはそのことを喜ぶ気にはなれなかった。
 チンクは、握り締めた拳を地面に叩き付ける。
 風見志郎を止められなかった自分。
 勘違いでナタクを攻撃した自分。
 守らねばならないドラスに救われた自分。
 それらがどうしても許せなかったから。
 はたして、チンクが何回地面を殴りつけた時だっただろうか。

 ――――光の矢が、チンクの左胸を貫いた。

「っ、は…………?」

 地表に引っ張られるように、抵抗することなく倒れたチンク。
 顔を土に叩き付けた衝撃で首の向きが変わり、光弾が放たれた方向に顔を向けることになる。

 その瞳が映したのは――――白い皮を破り捨てて、青い皮を露にした鬼であった。

「バケモノ……め…………」

 浴びせられた言葉を受け入れるエックス。
 ナタクとの戦闘で左腕を喪失。さらに敬介の自爆により、アポロマグナムや哮天犬の一撃でひび一つ入らなかったファルコンアーマーが砕かれた。
 ファルコンアーマーの要ともいえるフットパーツは、亀裂こそ入っているが何とか使用可能。ヘッドパーツも同様だ。
 だがアームパーツとボディパーツは完膚なきまでに粉砕され、周囲に飛び散ってしまった。もはや、開発者でも修復不可能だろう。
 結論。ギガアタックとスピアチャージショットはもう使えない。
 それに伴い、戦力は大幅にダウンしたといえる。

 だからこそ、エックスはより狡猾に動く。

 チンクがチャージ音を耳にしなかったのには、ちゃんと理由がある。
 敬介の自爆によって吹き飛ばされた地点でチャージを完了させ、その状態でこの場まで来たのだ。
 チャージが完了していれば、チャージ音は響かないから。

「…………シャトル発着場だ」

 チンクが所持していたPDAを回収し、イレギュラーの巣窟に向かうのを決断するエックス。
 受けたダメージの大きさで地面に膝を付けてしまうが、フリームーブを作動させて強引に立ち上がる。
 乱れた呼吸を直しながら、イレギュラーが巣くうという南方向を遠望する。
 イレギュラーへの憎悪を原動力として、歩みだす。

 瞬間、鼓膜が破れそうなまでの地響きが轟き――――再び気流が激しく乱れ始めた。



【神敬介@仮面ライダーSPIRITS:死亡確認】
【残り15体】
※死体は爆散しました。



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142:狂い咲く人間の証明(2) ゼロ 142:狂い咲く人間の証明(4)
142:狂い咲く人間の証明(2) チンク GAME OVER
142:狂い咲く人間の証明(2) ドラス 142:狂い咲く人間の証明(4)
142:狂い咲く人間の証明(2) ナタク 142:狂い咲く人間の証明(4)
142:狂い咲く人間の証明(2) 神敬介 GAME OVER
142:狂い咲く人間の証明(2) ハカイダー 142:狂い咲く人間の証明(4)
142:狂い咲く人間の証明(2) フランシーヌ 142:狂い咲く人間の証明(4)
142:狂い咲く人間の証明(2) エックス 142:狂い咲く人間の証明(4)





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