(4) ◆hqLsjDR84w





 ◇ ◇ ◇


 宇宙空間に放置されたナタクとドラス。
 真空の影響で、彼等の体内に存在する水分が暴れ回って…………いなかった。
 ナタクが腰に巻いた赤く輝く布は、宝貝の一種『混天綾』。
 その液体を操作する能力で、ナタクは自分とドラスの体内の液体を通常通りに循環させているのだ。

「はああッ!」

 真空ゆえに自分にしか聞こえない声を、ナタクが上げる。
 ナタクの肩を貫通する二本一対の刃が上下する――――が、何も起こらない。
 先程から数回ナタクは龍を繰り出そうとしているが、この調子なのである。

 その理由は、ナタク自身には分かっていた。

 まずは疲労。
 二度の龍召還により、ナタクが消費した体力は極大。
 汗を滅多に分泌しない彼が、大量に流してしまうほどだった。

 そして、もう一つは金蛟剪の操作に集中しきれていないこと。
 普段なら混天綾を扱うことなど、ナタクには戦闘しながらでも可能だが……
 スーパー宝貝を行使するとなれば、混天綾の使用でさえ大きな足枷となる。
 かといって、ナタクは混天綾を解除するワケにはいかない。
 背に掴まっているドラスが、死んでしまうからだ。

 いくら試みても反応しない金蛟剪を諦め、ナタクはPDAを取り出す。
 何度かボタンを操作すると、画面に文章が映し出される。
 背中に掴まっているドラスに見えるように、ナタクはPDAを掲げる。

『金蛟剪が使えん。乾坤圏と同時に、俺に使ったレーザーを撃て』

 文面を確認したドラスは、怪人態となる。
 ナタクは乾坤圏を装着した右腕を向け、左腕でパワーアームに転換したカセットアームを構える。
 軽い動作を合図として、コロニーの壁に三つの攻撃が直撃する。
 分子破壊光線に、地形をも変える宝貝、そして怪人を砕く鉄塊。
 それらを受けても、壁には傷一つ付かない。
 アイコンタクトでドラスに合図を送るナタク。
 もう一度、壁に攻撃を放つ。
 さらにもう一度、さらに、さらに、さらに……――――

 しかし、壁に穴は開かない。付いた傷もその傍から修復していく。
 鋭い視線で立ちはだかる壁を見据えるナタク。
 その背中の上で、ドラスは少女を模した姿に戻る。背負ってもらうには、身体が小さい方が楽だからだ。

『試しに使ってみろ。俺の体内の水分を普段通りに動かせ。お前の水分は俺がやる』

 壁を砕けないことに気付いたナタクは、PDAに新たな文章を打って混天綾をドラスに触れさせる。
 困惑するドラスに、さらにボタンを弄る。

『お前はさっき乾坤圏を放っていた。混天綾も使えるはずだ。使えると信じ込めば使える』

 ドラスは戸惑いながらも、混天綾を掴みながらナタクの体内の水分を操ろうと念じる。
 機を見計らって、ナタクが自分自身への液体操作を解除する。
 現在ナタクの体内の液体を管理しているのは、ナタクによって体内の液体を操作されているドラス。
 そのまま十秒ほど経った時、唐突にナタクの首筋から血が噴出する。

「――っ!?」

 肩を掴む力から、ドラスの考えていそうなことは理解したナタク。
 何事もないように、PDAを操作する。

『動じるな。集中せねば、宝貝の操作にズレが生じる』

 たっぷり数分かけて、やっとドラスが平静を取り戻す。
 溢れ出していたナタクの血液が止まる。
 そのまま幾らか経過し、ナタクはドラスが混天綾の操作をマスターしたと認定する。

『俺の体内の水分を操作しながら、お前自身の水分も操作しろ。数は増えても、基本は変わらん』

 精神を研ぎ澄ませるドラス。
 一瞬だけナタクが混天綾から手を離して、再び掴む――何も起こらない。
 ナタクが新たな文章をPDAに打ち込み、混天綾を完全に手離す。

『くれてやる』
「ナタク……?」

 そう言って、ナタクは混天綾をドラスの肩にかける。身長が低いため、腰布ではなくマントとして。
 所持する道具を他人に渡すなど、あまりにナタクらしくない行動。
 呆気に取られるドラスをよそに、ナタクは全身に力を篭める。

「はあああああ……!!」

 力強く双瞼を見開き、響かない声を張り上げる。
 金蛟剪が、それまで以上に大きく動く。

 ――――が、何も起こらない。

(やはり体力が回復するまで無理……か)

 混天綾の長期使用に、乾坤圏の無駄撃ち。
 それらによって、ナタクは宇宙に放り出された時点よりも疲弊していた。
 そんな状態では、仙人界攻撃力二番目のドラゴンを呼び出せるはずもなかった。

 ナタクは、思考を巡らせる。
 コロニー内に舞い戻るには、どうすればいいのかについて。
 彼が見つけた策は、二つ。

 一つは、単純な方法だ。
 回復するまでこの場にい続け、体力が戻った途端に金蛟剪を使用する。
 しかし金蛟剪を使用できるまで回復するには、どれだけの時間がかかるか不明。
 本体が死なないとはいえ、肉体に影響を及ぼしているのは明白だ。
 そんな状況で体力が戻るのかも、分からない。
 と、なれば――――

(…………もう、あの方法しか思いつかんな)

 ナタクは、最後に残った手段を文章としてPDAに映し出す。
 それを見たドラスは言葉を詰まらせ、彼もPDAを取り出して文を打つ。

『断る』

 ドラスが前に伸ばした腕に掴まれたPDAには、そう記されていた。


 断る、か。
 過去の行動に罪悪感を抱いているお前ならば、そう答えるだろうとは思っていた。
 しかし、他に道はない。

『ならば、俺が回復するまでここで待ち続けることになる。
 その間に、姉も神敬介もゼロも殺されるかもしれんぞ。あのエックスに』

 そう記したPDAを見せたが、返事がない。
 俺が言わずとも理解していたのだろう。
 その上で、ドラスは俺の提案を拒否しようとしている。

『スバル・ナカジマという方の姉に会って、説得したいのだろう?』

 微かにドラスが動いたのを感じる。
 弱みに付け込んでいるようで気分が悪いが、そうする他にない。
 太乙もいないこの地で、俺が回復するまでにどれだけかかるか分からん。
 下手をすれば、やっと戻った時にはドラスの知り合いが全滅している可能性だってある。

 だから、俺の提案に乗って――――俺を喰らえ。

 麻生という仮面ライダーを吸収して、強大な力を手に入れたと言っていただろう。
 仮面ライダーなどより強い俺を取り込んで、その時以上の力を手に入れればいい。
 宝貝に触れた人間が乾涸びるのは、ただの人間には宝貝を操るだけの力がないからだ。
 お前は宝貝を使えるとはいえ、金蛟剪を取り込めば危険かもしれんが……それを操れるだけのエネルギーを持つ俺を吸収すれば問題ない。
 金蛟剪を身体から外せんが、別に取り込んでもエネルギーを吸い尽くされることはないから安心しろ。

『さっき話したように、なぜか他人の肉体を吸収すると取り出せないんだよ……?』

 ドラスが伸ばした手に、PDAが握られていた。
 そんなこと、もう知っている。
 過去の行動を悔いて、スバル・ナカジマの腕を切り離そうとしても不可能だったと聞いた。
 知った上で、俺は言っている。
 その旨を伝えると、背に奇妙な感触。
 掴まっているドラスが、小刻みに痙攣しているらしい。
 少し前に泣いていたのに、また泣き出したのか。
 落ち着けるべく、PDAを操作する。

『どうした』
『……悔しいんだよ。僕のせいで、ナタクが苦渋の決断をするしかないのが』

 …………勘違いさせていたか。
 背負っていたドラスを抱えて、眼前に連れてくる。
 飛行できないドラスがあらぬ方向へ飛んでいかないように、右手で手を掴んだままPDAを見せる。

『別に、お前が悪いのではない。苦渋の決断でもない。
 俺がお前にそうさせたように、俺は俺がやりたいようにしているだけだ』
『何でナタクは、僕のためにそこまでしてくれるの……?
 ナタクが掴まってろって言ったのに、僕が手を離したからこんなことになったのに……』

 理解ができない。
 なぜ、こんなことを悩んでいるのか。
 あの場所に母上がいれば、俺だって攻撃をやめてすぐに救助に回った。
 それは当然の行動だろうに。

『家族を守ろうとするのは、当たり前だ。悔いることなど、何もない』

 大したことを書いたワケでもないのに、ドラスの返事がやたらと遅い。
 長い時間をかけて書き上げた文章に何度も目を通し、ようやくPDAを手渡される。

『分からない。全然分からないよ、どうしてナタクがそんなに優しくしてくれるのか……
 僕は……適当に回収した金属を寄せ集めて、科学の力で作られた……ネオ生命体なんだよ…………?』

 それを見て、やっと気付いた。
 俺はアイツに教えられたが、ドラスはまだ知らないのだろう。
 アイツはもういない以上……伝えるのは、残された俺の役目だ。

『度重なる強化により如何に醜い姿になろうとも、四肢を奪われても核が無事ならば修理可能な身体でも、肉体が金属で構成されていようとも、何も変わらない』

 否定はさせんぞ、馬元。
 俺の前でこのことを証明して見せたのは、他ならぬお前なのだからな。

『魂を宿しているのだから、俺達は……お前は――――人間だ』

 渡したPDAを見たまま、ドラスの瞳が赤く染まる。
 ドラスはそのまま今までよりも激しく痙攣して、右の掌で顔を覆うように隠す。
 その指の隙間から雫が漏れ出して、水の塊のまま空中に漂う。
 体外に排出された液体までも、ドラスは混天綾で操作していないのだろう。
 掌では隠し切れないことに気付いたドラスは、泣き顔を見せまいと思ったのだろうか――俯いてしまう。
 ドラスの手を握る方の手にかける力を強くして、左手で髪を撫でてやる。
 落ち着けようとしたはずが、さらに激しくなってしまった。
 まあいい。最後だからな、許してやろう。



 ◇ ◇ ◇



142話 「狂い咲く人間の証明」




 ◇ ◇ ◇



『金蛟剪については理解したか』

 泣き止んだドラスは、首を上下させて答える。
 金蛟剪の説明といっても、『飛べと思えば飛ぶ』『出ろと思えば出る』程度のことなのだが。
 それに加えて、集中力を保てというくらいか。

『では、善は急げだ。喰え』

 もはや持っていても仕方がないPDAを渡すと、ドラスが原型に戻る。
 ドラスの胸が開いくと、話に聞いたとおり激しい光に照らされる。
 その中に身体を押し込もうと触れてみると、身体が吸い込まれる感覚。

「ナタク……僕はもう泣かないよ。僕の涙を見るのは、ナタクで最後だ」

 ドラスの体内だからだろうか、ちゃんと声が耳に届く。

「ククッ、いい意気だ。その調子で胸を晴れ、シグマ如きにもう弱さを見せるな。
 何も恐れることはない。スーパー宝貝を使いこなしたこの俺の力が、お前に上乗せされるんだから――」

 先程まで泣いていながら、あんなことを宣言するとはな。
 その覚悟を、さらに後押ししてやるとするか。

「お前は死なん」

 言い終えた直後に、周囲の光景が一変する。
 四方を取り囲むのは、漆黒の闇。
 唐突に、眠気が襲い掛かってくる。
 消え入りそうな意識の中で、たった二つの……しかしとても大きな心残りを夢想する。

 申し訳ない、母上。
 生まれた日より、母上をお守りすることだけが生きがいでした。
 しかし……そんな俺にも、他にやりたいことができたのです。どうかお許しください。
 李靖如きに任せざるを得ないのは心底不安ですが、あの男もアレでやっとそれなりに強い宝貝を手に入れたので安心してください。
 幸せな人生を送られることを、祈っています。

 すまない、天祥。
 約束を破るつもりは、欠片もなかった。帰り次第、お前に俺の無事を知らせたかった。
 だが、お前に似た境遇の子供に出会ってしまった。
 お前よりも幼く不安定なところがあるため、結構長い間一緒にいなければならないようだ。
 そんなヤツでも、もう泣かないと誓ったぞ。だからお前も……もう泣くな。



【ナタク@封神演義:吸収確認】
【残り14体】


 ナタクを取り込んだことにより、ドラスの中に生命力が溢れる。
 疲労は回復し、負傷も目に見える速度で回復した。
 それを確認した後、コロニーの壁を破壊しようとドラスは龍を呼び出そうとする。
 あえて少女を模した姿に戻ったのは、ナタクに混天綾の操作方法を教えてもらったのがこの姿だから。
 いわゆる、げん担ぎである。
 ネオ生命体の能力を使うワケでもないので、デメリットもないと考えたのだ。

 集中力を高めて、ドラスが龍の発現を願い――
 ドラスが掠れた悲鳴の後に、緑色の血液を吐き出してのた打ち回り始めた。

「ぐ……ぅァぁあア――――っ、っばァアぁァあッ」

 ナタクの想定ならば、ナタクの力を手に入れたドラスはすぐさま金蛟剪を使いこなすはずだった。
 一般人が宝貝を使用しようとすれば乾涸びるのは、仙人骨より生み出されるエネルギーが存在しないためだ。そのせいで、代わりに生命力を吸い取られてしまう。
 常時宝貝を身に付けているナタクには、金蛟剪を使用する毎に途方もないエネルギーを奪われることに気付いていた。
 ドラスが乾坤圏を使用したのを見ていたナタクは、冷静に判断した。
 どう頑張ったところで、金蛟剪を使用するのは不可能……と。
 ドラスのことを仙人骨を持つ宝貝人間と思い込んでいながらも、ナタクはドラスが持つ『宝貝を操るエネルギー』は並の仙人程度と判断した。
 並の仙人程度では、スーパー宝貝を即興で操るのは不可能。
 太公望のように途方もない時間をかけて修行に勤しまねば、使いこなせるようにはならない。
 しかしナタクは、ドラスの中に『スーパー宝貝を使えるだけのエネルギー』を漲らせる方法を見出した。

 ――――自分のエネルギーを上乗せすればいい。

 『宝貝を操るエネルギー』の量に関しては、ナタクは仙人界最強クラスである。
 いくら消耗しているとはいえ、並の仙人が持つ『宝貝を操るエネルギー』と合わせれば……金蛟剪を使えるくらいにはなるはずだ。
 そして、そのナタクの予想は正解。
 現在、ドラスの体内には金蛟剪を操るだけのエネルギーが存在する。

 しかし、ドラスは顔を苦痛に歪める。

 混天綾の操作だけで手一杯。それすらも粗が出て来かねない、そんな状況だった。

「ガぁあアああァアあッ! ヅ、うゴぁぁあァあ」

 ――――ここに、ナタクの知らない事実が存在する。

 他の宝貝を遥かに退ける性能を秘めた七つの宝貝。
 人類が誕生する遥か以前に、地球に降り立った『最初の人』が製造したスーパー宝貝。
 それらを使用することは、かの三大仙人でさえ尻込みするのだ。
 『スーパー宝貝を使えるだけのエネルギー』を持っているはずの、三大仙人でさえ。
 なぜか――理由は、極めて単純にして明快。
 『スーパー宝貝を使えるだけのエネルギー』を持っていても、下手に使用すれば危険だから。
 たとえ扱うだけの能力を持っていようとも、スーパー宝貝自身に認められなければ使用は不可能。
 それどころか、現在のドラスのように強引に生命力を奪い取ろうとする。

 それだけならば、まだいいのだ。
 真なる問題は、その先にある。

 それは、異常に気位が高いスーパー宝貝の――――偏屈なまでの強情さ。

 ストイックさ、才能、修行量、思考、人格、高潔さ、単純な強さ、エトセトラ、エトセトラ……
 スーパー宝貝が使用者に望む要素は、それこそ星の数ほどある。
 全て持ち合わせる必要はなく、どれか一つでも秀でていれば認められることもある。
 しかしそれでも、基準があまりにも高すぎる。
 スーパー宝貝の一つ『禁鞭』などに至っては、聞仲という男が現れるまで誰一人として使用者に認定しなかったほどだ。
 禁鞭ほどのプライドは持ち合わせていないが、金蛟剪はドラスを使用者として認めない。

 ある種、皮肉とも言えよう。
 一発で金蛟剪に認められたナタクだからこそ、自分の計画の無謀さに気が付かなかったのだ。

「ぅ、ヅぁ、ける…………なあァァ――――!」

 金蛟剪の飛行能力も扱えず、体勢を保つことすらできないドラス。
 滾る怒りを胸に、声を張り上げる。
 怒りの対象など、もはや言うまでもない。

「スーパー宝……貝だかなんだか知らない、けどなっ、僕……の中、にはナタクがいるんだ……
 お前、を……従え、てみせた! そ、の……ナタク、の力が! 僕、の中に、漲ってるんだ!!」

 無論、周囲に大気はない。
 そのために、この怒号じみた演説はドラス本人にしか聞こえない。
 そんなことはドラスにだって分かっている。
 ドラスは全て理解した上で、かつて嫌った『合理的でない衝動』に身を任せているのだ。

「だってのに、お前、に! たか……が、鋏……なんかに、いまの僕を殺せるかよっ!」

 聞いているかとばかりに、ドラスは己の胸に拳を叩き付ける。
 ドラスの体内の金蛟剪が、衝撃で揺れ動いた。

「お前、なん……かの力で! 僕、は……死なない!!」

 傍から見れば、都合のいい空言にしか聞こえないだろう。
 だが、それはドラスにとっては違うのだ。
 そのような妄言を、大真面目に言ってのけた男のことを知っているドラスには――!
 ドラスが、開けていた目をさらに力強く見開く。
 それまで以上に、大きな声で確認を取る。

「そう……なんだろ? なァ…………そうだろォ!! ナタクッ!!!」

 生命力を吸い取られる中、全身全霊を篭めた絶叫。
 肩にかけた混天綾のおかげで生きていられるドラスにとって、体力を余計に消耗するのは自殺行為。
 それでも、ドラスはそれをやった。
 『理に適っていない』だとか、『道理に合わない』だとか、そんなことは先刻承知。
 その上で、ドラスは行ったのだ。
 言葉を聞くはずのない宝貝に、ナタクの存在を知らしめたくて。
 時々理屈に合わないことをするのが人間――とは、ドラスが培養液に浸かっていた頃に、望月宏が呟いていたアニメの台詞だっただろうか。
 そんなことを思い出したドラスは、生命力が磨耗していく中で――――笑みを浮かべた。

 もう一度言おう。
 声というものは大気のない宇宙空間では、手を伸ばせば触れることのできる距離にいる相手にさえ届かない。
 しかし、ドラス自身には届く。

 ――――つまりその声は、ドラスの体内には響き渡る。

 誇り高き貴族が愛用していた宝貝は、ドラスの強い意志を察して――ついにドラスを使用者の資格があると認めた。
 開き直りともいえるドラスの口上に、スーパー宝貝をあそこまで扱き下ろす度胸に、金蛟剪はかつての使用者が愛でた『美しさ』を見た気がしたのだ。

「…………ぇ?」

 喪った生命力が、再びドラスの中に満たされる。
 自由に移動できなかった空中で、思うままに飛び回ることが可能になる。

(もしかして……?)

 根拠のない確信を抱いて、ドラスは龍を呼び出そうと念じた。
 されど、金蛟剪はまだ『使用者になる資格がある』と認めただけ。エネルギーで構成された龍の召還まで許可はしない。
 触れていても反発はしないし、オマケにすぎない飛行能力は使わせる。
 ただ、それだけである。

「……ッ、ダメか…………」

 エネルギーこそ出現するも、それが龍の形を作らない。
 肩を落としそうになったドラスは、あることに気付く。

(ナタクを取り込んですぐの時よりも、力が溢れている?)

 ありえないことだった。
 龍を模れなかったとはいえ、エネルギーを排出したのである。
 それなのに、ドラスはこれまで以上のパワーを自分から感じ取る。

(まさかナタク、さっきの問いかけに答えてくれてるの……?)

 それは、あくまで仮説。
 ドラスにとって都合がいい、あくまで幻想でしかない。
 ただ確かに……叫ぶ前よりも叫んだ後の方が、ドラスの中に大きな力が満ちていた。
 金蛟剪が使用者になる資格を認め、触れている時に奪うエネルギーを軽減させたのかもしれない。
 思いを声に出したことで、一種の興奮状態にあるのかもしれない。
 それでも、ドラスは己の考える幻想を信じ込んだ。

「僕は、何を諦めかけてたんだ……その前にやることがあるじゃないか!」

 宝貝が使えこなせないなら、この漲るパワーをマリキュレーザーに回せばいい。
 諦めるのは全ての方法を試してからだ、とドラスは声を張り上げる。
 ドラスは、その姿をネオ生命体の姿に変えようとした。

 体内に核を持ち、他の物質がその核を覆うことで姿を保つ。
 核を破壊されなければ、幾ら損傷を受けても再生可能。
 共に優れた科学により生み出された――――宝貝人間とネオ生命体。
 あまりに酷似した二種の個体。
 それゆえに、ナタクを吸収したドラスには奇妙な事態が生じている。
 異なる種族でありながら、エネルギー変換効率がやたらといいのもその一つだ。

 そして――ドラスがネオ生命体の姿をとろうとした時に、それは目に見える形で現れた。

 全身に力を篭めたドラスの肉体が、かつてネオ生命体第一号を捕食した際と同じように――――!!

 赤く輝いていた二つの複眼は、墨汁でも垂らしたように黒ずんだものに。さらに肥大化。
 長く伸びていた触角は、短く洗練されたものと変わる。
 至る所に生えていた刺々しい突起は消え去り、より人間に近い体躯となった。
 そしてくすんだ鉛色の肉体は、血液じみた――――ナタクの毛髪と同じ色に!

「これは…………」

 変化した自らの身体に、ドラスは目を丸くする。
 しげしげと下半身から上半身まで眺めていき、意を決したように立ちはだかる壁を睨みつける。
 力を篭めたことで、左肩の三つの点が光り輝く。
 ドラスが手にしているのは、かつてドラスが神の力と呼んだもの。
 しかし、現在のドラスにとっては違った。

「見ててよ、ナタク……! 僕とナタクの力を!!」

 三つの点より放たれた光が一本のレーザーとなり、コロニーの壁を再び打ち砕いた。



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