そして終焉【フィナーレ】へ…… ◆9DPBcJuJ5Q



 ハカイダーの介錯を終えると、ゼロはカーネルのセイバーのエネルギーを霧散させ、ゼットセイバーの代わりに背中へと納めた。そして、抱き止めたハカイダーを静かに横たえる。
 嘗ての誇り高き悪の戦士としての姿など微塵も残らぬハカイダーの最期の姿を、ゼロはしっかりと目に焼き付けていた。
 自分が進むために払った犠牲。新たな道を往くと決めた、その決意の証明。
 己が信念に則って自分の手で殺した、大切な者達……カーネルやアイリス、そしてエックスと同様に。
 続けて、ゼロは物言わぬフランシーヌを見る。本郷は仮面ライダーの姿から人間の姿へと戻り、フランシーヌの亡骸に祈りと決意を捧げていた。そんなことは本人に問わずとも、あの背中が十二分に語っている。
 そして、本郷はゼロの視線に気付いたのか、一瞬だけこちらに目を向けると、フランシーヌから離れ、気絶している緑色の髪のレプリロイドの少女――ソルティへと歩み寄っていった。
 本郷と入れ替わる形で、ゼロはフランシーヌの亡骸に歩み寄る。
 ……すまないな、フランシーヌ。お前は、出会って間もない俺の為に、あんなにも必死になって助けようとしてくれた。
 まったく、不甲斐無いことこの上ない。彼女のような存在を守るために、自分達イレギュラーハンターは存在していた。それが、自分自身がイレギュラーとなり、守るべき牙無き者を傷つけてしまうなど、言語道断だ。
 だからこそ、俺は進む。フランシーヌ、お前が懸けた命を無駄にしないためにも、この戦いを必ず終わらせると……俺の信念と、我が友の剣に誓う。
 今は亡き者達に祈りと決意を捧げると、ゼロは金色の長髪を靡かせて踵を返した。
 そこには、1度目のシグマの反乱で死んだはずの男――エックス、カーネルと同じく、ゼロが親友と呼んだ男――元特A級イレギュラーハンター、ストーム・イーグリードがいた。
 何故、死んだはずの彼が生きているのか。どうして此処にいるのか。気になることは多々ある。
 そもそも、本当にイーグリード本人なのかと言う疑問もある。しかし、先程までの戦いの中で、彼が自分の知るイーグリードであるとゼロもほぼ確信していた。
 だから、その確信を完全なものにするために、ゼロは彼に話しかけた。
「イーグリード、久し振りだな。……迷惑を掛けちまったな」
「気にするなよ。……おかまやろう」
 即座に返ってきた返事を聞いてゼロはピクリと眉を動かし、すぐに口を動かした。
「そうか、取り敢えず礼を言っておく。……鳥ガラ」
 ゼロからの返答に、ニヤリと笑っていたイーグリードの顔が強張る。……そして。
「やるかーっ!?」
「俺のバスターのチリになりてーか!?」
 言うや否や、2人は右手のバスターにエネルギーをチャージしながら取っ組み合いの喧嘩を始めた――が。
「わーっ!? 2人とも、ストップストップ!」
 急にシャレにならないような喧嘩を始めようとした2人を、武美が驚きながらも割って入り、必死に制止した。
 こんな時にこんな場所でバスターの撃ち合いを突然始められたら、誰だって驚くだろう。
 すると、ゼロとイーグリードは武美の制止を聞くと、すぐにバスターと拳を収めた。
 そして示し合わせたように、2人とも握っていた拳を解いて、左手を顔へとやり――
「く、くくく――……」
「は、ははは――!」
「やっぱりお前か、イーグリード」
「ああ。お前も変わり無いようで何よりだ、ゼロ」
 ――穏やかに笑いながら、互いのことを認め合った。
 しかし、さっきの今で『変わりない』と言われるとは。余計な気遣いだと思いつつも、イーグリードらしい言い回しでもあると納得できる。
 武美は2人の態度の急変に暫くポカンとしていたが、やがて呆れたような表情になった。「男ってこういうものなのかな?」などと言っているが、どういう意味だろうか。
「本郷、ソルティの容態は?」
 すると、横から険しい声が聞こえてきた。
 そちらを見遣ると、本郷が肩に金色のネズミ・ウフコックを乗せて、ソルティの損傷をチェックしていた。
 ゼロは、本郷が機械工学に精通した人物であると風見から聞かされていたことを思い出した。
「ふむ……難しいな。これ以上悪化することも無いだろうが、ソルティは俺の知識に無い技術で作られている。俺では、修理できるかどうか……」
「いや、それならば大丈夫だ」
 悔しそうに呟く本郷が言い終わる前に、イーグリードが声を掛けた。
「イーグリード?」
 彼女に負わせてしまった傷の深さを知るが故に、こうも簡単に大丈夫だと言ってのけたイーグリードの態度は、ゼロにも不思議だった。
 だがこの時になって、ゼロは漸くイーグリードの立場を理解した。
「要塞内に1人、その少女を修理できる人物がいる。あの人に見せれば、ソルティ・レヴァントも必ず助かるだろう」
 やはり、そうだったか。
 本郷達も、名簿に記載されていないイーグリードの名から薄々感付いていたか、或いはゼロが知らぬ内に本人から聞いていたのか、イーグリードの言葉にも然程動揺しなかった。
 若しくは、彼らにとっては重態の仲間が助かる可能性がある、ということのほうが大きいのかもしれない。
「それ……本当なの?」
「信じてくれ、としか言いようが無い」
 武美から向けられた疑いの眼差しに、イーグリードは愚直に返した。
 確かに、普通に考えればシグマが自分達に救いの手を差し伸べることなどありえない。だが、少なくともイーグリードは誰かを騙して罠に嵌めるようなことはしない。
 するとしても、悪役を演じ、己の内心も真意も包み隠して、越えるべき壁として立ちはだかるぐらいだ。事実、シグマの一度目の反乱の時、イーグリードはそれを実行していた。
「俺が言えた義理じゃないが、安心しろ。イーグリードは他人を騙すようなやつじゃない」
 この言葉に、武美は難しい表情になる。ウフコックも頻りに鼻を動かし、落ち着かない様子だ。
 しかし唯一人、本郷だけは冷静に状況を見ていた。
「分かった。その言葉を信じよう、イーグリード」
 頷き、イーグリードに力強い視線を向ける本郷。その姿に一切の迷いは無かった。
「いいの? 本郷さん」
「彼が嘘を吐いている可能性は低い、という点では同意できるが……」
「一緒に戦ったから分かる。イーグリードは人を騙して罠に嵌めるような男じゃない。そもそも、俺達をどうにかしようというのならゼロの暴走が治まった直後にそうしているはずだ」
 そう言って本郷は2人に理解を求め、やがて武美とウフコックも頷いた。
 その様子から、これまでの僅かな期間で確かに築かれた信頼関係と、それに基づく本郷のリーダーシップを理解し、ゼロは感心した。
 本郷という男、あの風見が先輩として一目置いていただけのことはあるようだ。こと統率力においては、風見でさえも及ばないか。
 ゼロはそのような感想を懐きつつも、動き出そうとした一同を制止する。まだ、行動を起こすには早過ぎる。
「その前に、だ。イーグリード。死んだはずのお前がどうしてここにいるのか、何を目的としてここに現れたのか、それを教えてもらおう」
 死んだはずの、という言葉に本郷達は驚いていたが、そんなことは後回しだ。
 大体、原形を留めないほど破壊されても幾度となく甦って来たシグマのゴキブリを遥かに凌駕したしぶとさを考えれば、一度斃されたイーグリードが復活を果たしていてもそれほど驚くことではない。
 今、重要なのは、恐らくはシグマからの使者として現れたイーグリードの目的だ。
 ゼロの暴走を止めることだけが目的だったのならば、既にこの場を去っているはずだ。なのに、今も尚この場に残り、あまつさえ要塞内へと誘おうとしたことには、間違いなく何かの理由があるはずだ。それを確かめずに軽々に動くのは愚行だ。
 イーグリードは顔を強張らせた後、小さく息を吐いて口を動かそうとした――直後、すぐに体全体を強張らせ、はっきりと聞こえるほどに舌打ちをした。
「すまないが、それは後回しにさせてくれ。あちらで交戦していた2人を止めなければ」
「ドラスとスバルか?」
 慌てた様子のイーグリードに、本郷がすぐにその当人達の名前を出した。
 それは、ドラスの決意と思いの丈を聞かされたゼロにとって、とても看過できるものではなかった。
「なに!? イーグリード! お前……ドラスがスバル・ナカジマと戦っているのを、見て見ぬ振りをして来たのか!?」
 ドラスは自分自身でスバルと決着を付ける心算でいた。だから、彼らが戦うこと自体に文句は無い。
 だが、今、ドラスは1人きりだ。加えて、スバル・ナカジマはドラスに対して致命的且つ破滅的な誤解をしているはず。
 そんな2人を、2人だけで戦わせてしまえば、最悪――真実を何も知らぬまま、スバル・ナカジマはドラスを手にかけてしまう。
 そんなことは、ドラスの仲間として決して見過ごせない。だからこそ、こちらの事情を主催者陣営の者として事細かに把握しているはずのイーグリードの判断に、憤りをぶつける。
「お前を止めなければ、全ては水泡に帰していたんだ!!」
「――っ」
 こう言われては、何も言い返せない。
 イーグリードの増援がなければ、ゼロはあのまま本郷達を皆殺しにしてしまっていた可能性が極めて高い。
 そうなっていたら、成る程確かに、全ては水泡に帰していただろう。
「……すまない。八つ当たりなんか、している暇は無かったな」
 そう言って、ゼロはPDAを操作してサイクロン号を転送し、それに跨る。イーグリードも浮遊しながらゼロの隣に並ぶ。
「今ならまだ間に合うはずだ。彼らの仲裁に――」
 イーグリードが言い終えたら、返事と同時に出発しようとゼロは考えていた。
 だが、ウフコックから声が掛けられ、出発は中断される。
「待ってくれ。どうにも、我々とそちらの間に、ドラスに対する認識の齟齬があるように思える。ドラスは他者を騙して集団に潜伏するタイプの危険人物だと、我々は認識しているのだが」
 歯に衣着せぬ物言いに、彼らのドラスに対する共通認識が強固に結びついているのだと覗える。
「そうだよ! だからスバルも、いきなり飛び掛って行ったんだよ」
 武美もまた、ウフコックの言葉に頷く。
 それに対してゼロは肩越しに彼らを一瞥して、すぐに視線を戻し、背を向けたまま答えた。
「……お前達が言っているのは、以前までのドラスだ。今のドラスじゃない」
「なに?」
 本郷が怪訝そうに反応する。だが、構っている暇が今は一刻でも時が惜しい。
「行くぞ、イーグリード。スバルと一緒にあのボブと言う男がいる可能性も高い。急がねば、取り返しのつかないことになりかねない」
 この地で出会った戦友。誰よりも勇気の力と可能性を信じ、それを実践していた黄金の勇者――獅子王凱の仇、ボブ。
 先程ウフコックの言った言葉は、ゼロにとってボブへの評価そのものだった。
 しかし、やはり納得できないのか、ウフコックが尚も反論を口にして――
「ボブが危険人物だと? それこそ、認識が間違っているぞ。彼は、スバルと共に――」
「お前達の言うボブ――T-800は、T-1000によってシグマウィルスを投与された」
 ――それをイーグリードが完膚なきまでに封殺した。
 だが、その内容はゼロにとっても衝撃的なものであった。
「シグマウィルスだと!? まさか、ヤツも――」
「いや、違う。元に戻ったと言えば、貴方も分かるのではないか? 本郷」
 ゼロが言い終えるよりも先にイーグリードはウィルス感染によるイレギュラー化を否定し、本郷に話を振った。
 明らかに、本郷とボブ――恐らくはT-800だろう――の過去の会話を聞き知っている態度に、やはりイーグリードがシグマ側の者だと確信する。
「まさか、ボブが人類側によって施された処置が?」
「ああ。シグマウィルスは洗脳プログラムに対して一際強力な作用を引き起こす。……今の奴は文字通り、作られたままの殲滅者【ターミネーター】だ」
 話の詳細は見えない。だが、あやふやな過去を構う必要など無い。
 重視すべきは、今、T-800が生粋のイレギュラーであるという疑念が、事実であったという一点のみ。
「これは、尚更愚図愚図していられんな。イーグリード! お前は先行しろ!!」
「ああ、任せろ!」
 イーグリードを先に行かせ、これ以上話が引き伸ばされることを防ぐ。今までの遅れが致命的なもので無いことを祈るばかりだ。
 そして去り際に、ゼロは言葉を残していくことにした。
「本郷、お前は風見と神の先輩なのだろう? だったら、実際にドラスと会って話してみろ」
 あの2人の先輩――最初の仮面ライダーであるという本郷ならば、それで分かるはずだ。今のドラスは、イレギュラーでは無いのだと。
 そこまでは口にせず、ゼロは瓦礫だらけの通路を越えて、イーグリードの後を追った。




 イーグリードの齎した情報は、青天の霹靂だった。
 ドラスが危険人物ではなく、T-800の方こそが危険人物であるという言葉に、常に冷静な本郷とウフコックも動揺を露にした。
 信じたくはない。だが、イーグリードが嘘を言っているようにも思えない。少なくともウフコックの鼻は、イーグリードから害意や悪意を寸毫も感じなかった。
 歯痒い思いだけが募っていく。だが、真実が如何なるものであるにせよ、こんな所で愚図愚図している暇は無い。
「チィ! ウフコック、武美、行くぞ! ソルティは俺が背負っていく!」
「わ、分かった!」
 飛行能力を持つイーグリードとサイクロン号の移動能力を鑑みれば、本郷達も白いカラスや、瓦礫に埋まっているサイドマシーンのようなモンスターマシンによって移動するのがベストだ。
 だが、未だに意識が戻らないソルティを背負ったままでは白いカラスの操縦には無理があり、本郷達はサイドマシーンの存在を知らない。
 気絶しているソルティをここに置き去りにしていくことなど以ての外だ。だから本郷は追いつけないと分かっていても、徒歩によってゼロ達を追いかけることを選んだ。
「彼らの言うとおりだとすると、俺達は初手から間違えていた可能性があるな」
 ウフコックは本郷の肩に乗って、悔しそうに呟いた。
 ウフコックも本郷も、当初はボブを警戒していた。しかし、その疑念はすぐに解かれた。
 他者を信じられることこそ、彼らがここまで戦い抜けた要因の一つでもある。だから、それはある意味必然のことだったのだろう。
 だが、本郷はウフコックと違い、ボブに対するほぼ確かな疑惑を確かめずにいた。
 それは、エックスをドラス達――チンクやゼロにけしかけたことだ。
 あれは間違いなく、スバルの最後の仲間であるチンクと、エックスの友人であるゼロを危険へと陥れる悪手だった。
 しかしそれは、勝ち残りを目指す者が厄介な戦力を削るためには最良の一手でもあったのだ。
 そして、ここに来るまでの戦闘の跡、ゼロの態度、1人だけでいたらしいドラスの様子から察するに――チンク、エックス、そして敬介までも死んでしまった可能性が高い。
 冷静沈着で、判断力にも優れていたボブが、この最悪の可能性を想定できなかったはずが無い。
 もしも、それが意図した結果であったのなら。修理工場で爆弾の除去を優先させたのも、自分達を足止めさせ、彼らの衝突を確実なものにするために他ならない。
 全て、ボブ――ターミネーターの思惑通りだったというのか? それとも、これも誤解によるものなのか?
「……それを確かめるためにも、遅れるわけには行かない。急ぐぞ!」
「はい――って、ひゃあ!?」
 武美の返事を聞くと同時に、本郷は武美を掴みあげて肩に乗せ、ソルティを背中に負った。
「すまない、武美。少し乱暴だが、我慢してくれ」
「は、はいっ」
 武美の足に合わせて走るよりも、この方が少しでも早いという判断だ。
 ウフコックにソルティの様子を見てくれるように頼むと、本郷は一気に駆け出した。








「それじゃあ、本郷さんが爆弾の除去までしたんだ」
「そう。それでも制限は解けなかったんだけどね~」
 テントローで雪原を走破しつつ、ドラスは後ろに乗る猫のサイボーグ・ミーと簡単に情報交換をしていた。
 ミーとの情報交換は、ドラスにとって非常に有益なものがあった。それは、ミーとスバルの仲間に、本郷猛――風見志郎と神敬介の先輩がいることだった。
 風見から優秀な人間として聞かされていたし、なにより、あの風見と敬介が先輩として尊敬していた最初の仮面ライダーだ。
 ドラスは本郷の話を聞いたその時から、是非とも彼に会ってみたいと考えていた。
 恐らく本郷もドラスのことを誤解しているようだが……きっと、大丈夫だ。話せば分かり合えると信じられる。
 あんなにも破滅的な溝があったスバルとも和解することが出来たのだ。だから、きっと彼らとも分かり合える。
 拒絶されたら、という仮定に対する恐怖や絶望は無い。何故なら、より良い未来を何よりも信じることができるのだから。
 しかし、そんなドラスにも気懸かりがあった。
 それは、今自分達が向かっている戦場がシャトル基地――ゼロやフランシーヌがいるはずの場所だということだった。
 自分がスバルと戦っている間に、何が起きたのだろうか。
 ゼロと仮面ライダーのコンビなら、相手がハカイダーだろうと簡単に倒せるはず。そして、ドラスとスバルの戦いの最中に彼らが駆けつけることが出来てもおかしくなかったはずだ。
 それが、結局現れなかったというのがどうにも気懸かりだった。
 ……みんな、無事だよね。
 不安を払拭する祈りを心中で呟いた直後、バイクの排気音が聞こえてきた。
 それから、白いバイク――サイクロン号に乗ったゼロを視認するのに、そう時間は掛からなかった。
「ドラス!」
「ゼロさん」
 ドラスとゼロはそれぞれ近付くとバイクを停車させ、すぐに降りた。ゼロはなにやら、血相を変えてドラスを見ている。
 その只ならぬ様子に気圧されて、ドラスは真っ先に伝えようと思っていたことが伝えられなかった。
「どうも、はじめまして。ボクはミー……」
「ドラス、スバル・ナカジマとT-800――ボブはどうした?」
 ミーの自己紹介を無視して、ゼロはここにいない2人のことを聞いてきた。あの2人のことを知っているということは、無事に本郷達と合流できたということだろう。
 無視されて凹んでいるミーには悪いが、ドラスは早速、スバルと和解できたことをゼロに伝えることにした。
「えっとね、実は……」
 ドラスは笑顔で、ミーとボブの協力によってスバルと和解できたことを伝えた。
 この時、ミーが照れくさそうにしていたのはいい。だが、ボブの名が挙がった時に、どうしてゼロはあんなに驚いたのだろうか。
 すると、ゼロが不意に空を見上げた。それに釣られて、ドラスも上を見る。
 そこには、人工の空を背に雄々しく羽ばたいている紫色の鳥頭の人型ロボットがいた。初めて見るが、ゼロの様子から仲間だと考えていいだろう。
 だがここで、ドラスはあることに気付いた。
 それは、ドラスはミーとの情報交換で残る全ての参加者を把握しているということだった。
 ボブの本名はT-800で、ミーと本郷の仲間である広川武美とソルティ・レヴァントは少女だという。
 ならば、この鳥ロボットは何者なのだろうか。
 そのようなことを考えている内に、鳥ロボットはゆっくりと着地し、PDAを取り出した。
「ライト博士、彼らの状況は?」
『……スバルくんは、死んだ』
 鳥ロボットのPDAから聞こえてきた声に、ドラスは目が点になった。
「ええ!?」
 ミーも驚いている。だが、ドラスの驚愕はかれよりも遥かに上だ。
 声が出ない。
 呼吸が乱れる。
 思考が纏まらない。
 全ての感覚がホワイトアウトするような錯覚。
 自分が立っているのか倒れているのかさえも判然としない。
 それほどに、鳥ロボットの持つPDAから聞こえてきた言葉は、衝撃的だった。
「……うそ、でしょ?」
 漸く喉の奥、腹の底から搾り出せた言葉は、か細く弱々しい。
 そうだ、きっと嘘だ。嘘に決まっている。
 スバルお姉ちゃんが死ぬ理由なんて何も無いんだ。そうだ、きっと、あの鳥と通信機の向こうの老人が僕を騙そうとしているんだ。
 だが、ゼロは険しい表情をしながらも、そのことを一切咎めようとしていない。
「ボブ――T-800がやったのか?」
「うぇえっ!?」
 不意に出てきた言葉に、ミーは驚きのあまり素っ頓狂な声を出していたが、よく分からない。
 ドラスはなんだか茫洋としてきた意識で、話しを半ば聞き流していた。
『いいや、違う。……自殺、だ』
 なにか聞こえてくるけど、聞こえない。
 だって嘘なんだから、聞く必要なんか無い。聞いても意味は無い。
 スバルお姉ちゃんが、自殺なんかするはず、ない、ん、だから………………。
 ……そんなの嘘だ。嘘に決まってる。嘘でしかありえない。
 分かり切った嘘なんだから…………もう、言わないで! 喋らないで! お願いだから!!
 そこまで嘘だと思っていながら、実際に口に出すことが出来ないのは……去り際に見たスバルの表情に、今になって絶望と虚無が見え始めたからだろうか。




「通信は一旦終わります。なんらかの動きがあり次第、連絡をお願いします」
『分かった。…………君にばかり負担を掛けてしまうな、イーグリード』
「いえ。自分の苦労など、博士やゼロ達に比べれば、塵芥にも等しいものです」
『そう、だな…………』
 鳥のロボットは通信を終えると、申し訳なさそうな視線をドラスに送った。
 ゼロと言う赤いアーマーの男は、俯いたままのドラスの傍まで歩み寄っていたが、何も言わず、何もせずにいた。
 ミーはスバルが自殺したとか、ボブが下手人の第一候補として挙がった事とか、何だかもう色々と頭がこんがらがっていた。
 すると、突然ドラスが停車させていたテントローに飛び乗ろうとした。
 それが何をしようとしているのかすぐに察したゼロは、ドラスを後ろから羽交い絞めにしてそれを防いだ。
「待て、ドラス!! 戻ったところで、辛いだけだぞ……!」
「嘘だ……嘘だ!! スバルお姉ちゃんが死んだなんて……そんなの、嘘だッ!!」
 ドラスの震える声に、ミーもドラスが何をしようとしていたかを理解した。
 恐らく、スバルとボブがいるはずの場所に戻るつもりだったのだろう。
 あの鳥さんが先程まで話していた相手の言うことが嘘ならば、そこにスバルがいるはずなのだから。
 だが、それが事実であったのならば、ドラスはスバルの死体を見つけてしまうことになる。こんな状態でスバルの死体を見てしまったら、どうなってしまうか分からない。
 だからこそ、ゼロもドラスを強引に制止したのだろう。
 すると、鳥さんがドラスへとゆっくりと近付いてきた。
「残念ながら、事実だ。……俺は、シグマ隊長の直属の部下、ストーム・イーグリードだ」
「な、なんだって!?」
 こんな所にどうしてシグマの部下がいるのか、唐突過ぎてさっぱり理解できない。いきなりそんなことを、こんな状況で言い出されても困る。
 だが、何はともあれ、シグマの部下ということは敵のはず。
 ミーは即座にイーグリードに対して構えを取ったが、ゼロがドラスを捕まえたまま視線を向けて、首を横に振った。
 ……敵じゃない、ってことなの?
 確かに考えてみれば、敵ならばもうとっくに攻撃してきているはずだし、何よりドラスの仲間であるゼロと一緒に現れる道理も無い。
 暫く黙考し、ミーはゼロを信じて戦闘態勢を解いた。
 それを見届けてから、鳥さん――イーグリードは話し始めた。
「俺は、君がここで“家族”によって変われたことも、エックスが……鬼となって、そのまま最期を迎えたことも、よく知っている。……その俺が言おう。スバル・ナカジマは死亡した、と」
 その言葉に、ミーは思いもよらぬ衝撃を受けた。
「最期を迎えたって……死んだのかよ、アイツ!?」
 自分達で決着を付けると、そう心に決めた忌むべき敵が――クロの仇が、もう、この世にいない……?
 高々と、精一杯の力を込めて振り上げた拳を叩き落す場所が失くなってしまったことに、ミーは浮遊感にも似た不快感を覚えた。
「ああ。俺が……殺した」
 ゼロが静かに、イーグリードの言葉を肯定する。
 確かゼロは、あの始まりの場所でエックスと一緒にシグマに食って掛かっていた仲間だったはず。
 その2人が、仲間同士で殺し合っていたなんて……なんて現実だよ、チクショウ。ソルティになんて言えばいいんだ……。
「スバル、お姉ちゃんが……そんな…………嘘だ、嘘だよ……だって、お姉ちゃんは……僕に、お姉ちゃんって、呼ばせて、くれて…………それで……」
 ドラスは、イーグリードが自分達以外に知らないはずの事実を知っていることから、彼と通信の相手の言葉の信憑性が高いことを理解しているのだろう。
 だが、それでも、イーグリード達の言葉を認めようとしなかった。
 折角分かり合えて、姉と呼ばせてくれた人が、あの直後に自殺してしまったなどと……受け入れたくないことだろう。信じたくないだろう。
 だが、それでも……やはり、スバルの死は事実だろう。
 そうでなければ、イーグリードとゼロの沈痛な表情の説明がつかない。
 事実は事実。覆すことなんて出来ない。
 エックスに借りを返すことも、クロの仇を討つことも、ソルティがエックスと仲直りすることも、ドラスがスバルと共にいることも、もうありえないのだ。
 だから……悔しくても、悲しくても、辛くても。
 今は、それを認めて――
「なよなよすんな!!」
 ――前に、進むしかない。
「ミー、くん」
 ミーの言葉に、ゼロに捕まえられたままのドラスが反応する。
 それを確かめて、ミーはドラスと自分自身に叱咤の言葉をぶつけた。
「オレもお前も、これまで多くのものを失った! オレもクロ――友達を知りもしないところで殺されて、その仇にも何の借りも返せないままで、不完全燃焼で正直やるせないさ!! 情けなさ過ぎて涙まで出てきてるぜコンチクショウ!!」
 エックスをぶっとばして、武美やウフコックやソルティに謝らせて、クロの墓の前で土下座させたかった。そして、この戦いを終わらせる為にこき使ってやりたかった。
 スバルにだって、料理を振る舞ってあげたかった。ドラスと仲直りできたことを、みんなでお祝いしてあげたかった。
 だが、それはもう決して叶わない。
 奪われたものは取り返せるけど、失ってしまったものは二度と還らない。
 そのことを、ミーは一度命を奪われ、生身の肉体を失ったことから理解していた。
 悔しいけど、それが現実なのだ。きっと、どんな世界にも共通する真理なのだ。
 だが、しかし。
「けどさ。オレにもお前にも、まだ失っていないものが……こんなクソッタレた場所でも、新しく得られたものがあるだろう!? 心配してくれる仲間や、出会った人達との思い出が!!」
 一日と少しを過ごしただけのこの場所で、ミーは多くの出会いと別れを経験した。
 悲しい別れも多かったけど、それでも、楽しかった思い出もある。まだ一緒にいる、共に戦っている仲間だっている。
「……うん。ある」
 それは、ドラスも同じようだ。
 先程とは様子も変わり、小さい声で、それでもしっかりと頷いてくれた。
「だったら! それを無意味にしてしまわないためにも、これ以上失わせないためにも――オレ達には、泣いてる暇も落ち込んでる暇も無いんだよ!!」
 それが、死に別れた彼らへの弔いであり、鎮魂となると信じて。
「ドラス。立ち上がって、前を向け。そして、立ち止まらずに進み続けろ。それが、死んで逝ったあいつらの想いを受け継いだお前がすべきこと、お前にしかできないことだと、俺は想う」
 そう言って、ゼロは優しくドラスを下ろした。
 ドラスは俯いたまま、暫くその場で深呼吸を繰り返していた。
 やがて呼吸が整うと、ドラスは顔を上げて、力強く頷いた。
「うん……そう、だよね。ありがとう、ゼロさん、ミーくん」
 半ば自分へと言い聞かせるために言っていたような言葉に礼を言われて、ミーは何だか気恥ずかしくなり、ゼロはニヒルに「フッ」と笑った。
 思い掛けない訃報に一時は立ち止まってしまったが、いつまでも止まってなんかいられない。
「よしっ! 目指すは打倒シグマ……って、そういえばあんた、シグマの部下がどうしてここに!?」
 色々なことが解決したところで、先程保留にした問題を思い出した。
 シグマの直属の部下を名乗るこの男が、敵では無いとはどういうことなのか。また、何のために要塞から出て来てこんな場所にいるのか、さっぱり分からない。
 それはドラスも同様のようで、怪訝な目でイーグリードを見ている。
「君達に真実を伝える為だ」
「真実……?」
 イーグリードから返ってきた簡潔な答えを自分でも繰り返して、ミーはドラス共々頭を捻る。
「……あいつらも来たようだな」
 ゼロの呟きが聞こえて、ミーも彼が視線を向けている先を見る。
 そこには、武美を肩車しながらソルティを背負いつつ、こちらに向かって走ってくる本郷の姿があった。ウフコックは恐らく、見えない所にいるのだろう。
「あ! 本郷さ~ん! 武美~! ウフコック~! ソルティ~!」




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