『』(4) ◆2Y1mqYSsQ.




 こうして、新たな力を得たゼロは剣先をメガトロンへと向けて仁王立ちをする。
 殺したはずの男が生きていたのに、メガトロンは余裕綽々で立ち上がった。
「けっ、びびらせやがって」
「それほどハカイダーが苦手みたいだな。メガトロン」
「びびったっていった奴が一番びびってんだよ」
 ゼロはメガトロンの戯言に付き合わず、一歩前に出る。
 ここで殺す。冷たい殺意と共に刃が光る。
 そのゼロを、イーグリードが止めた。
「ゼロ、その前にやることがある」
「イーグリード?」
 刃をメガトロンに向けて、油断せずに訪ね返す。
 メガトロンはメガトロンで責めあぐねていた。
「この要塞を破壊する。それしか地球への衝突を止めれる手段はない」
「手はあるのか?」
 イーグリードはゼロの問いに笑みを返す。傷だらけの身体で、ゼロとメガトロンの間に立った。
 メガトロンは察しがついたのか、口を出してくる。
「まさかお前……平行移動装置を使う気だな?」
「察しがいいな。ゼロ、迷わず向かえ! 場所は分かっているな。平行世界移動装置にエネルギーを暴走するレベルまで送り込め!
そうすれば擬似ブラックホールが出来てここを別次元へ転送しながら徹底的に破壊する! シグマ隊長と用意した、正真正銘最後の手段だ」
「てめ、自滅覚悟か!!」
「イーグリード……」
 カプセルに入ると共に、要塞のデータをダウンロードされたゼロ。
 そしてシグマに成り代わるために要塞を調べたメガトロン。
 二人は平行世界移動装置がエネルギーを暴走させれば、小規模の擬似ブラックホールを生み出すことを理解していた。
 次元を移動するなら莫大なエネルギーが必要となる。危ういエネルギーバランスで仕上がっている平行世界移動装置に、過剰にエネルギーを与えればどうなるか。
 おそらくこれも未来人が都合悪くなったときのため、あるいはシグマが最後の手段として残したものである。
 ゼロは真剣な友の瞳を見て、ため息をついてΣブレードを背中へと収めた。
「分かった。しばらくはメガトロンを頼む」
「任せろ」
 イーグリードが静かに返すのを確認して、ゼロは踵を返す。
 そう黙っていられないのはメガトロンだ。
「そうはいくか!! あちょー!!」
「ぐぅ……うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 メガトロンの吐き出す炎が、ゼロを庇ったイーグリードの身体を焼く。
 虚を突かれたメガトロンの懐に、イーグリードが決死の体当たりをぶつけた。

「頼む!! ゼロぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 友の頼みを耳にしながらも、ゼロは振り向く手間すら惜しみ一直線に進み続ける。
 後を任せたのだ。イーグリードはやるといったらやる男だ。
 だからゼロは牙を持たない人々を守るため、地面を蹴ってダッシュを続けた。


「くそっ! ふざけるなよ!!」
 メガトロンの声色に焦りが混ざる。それもそうだ。
 メガトロンが元の世界へ戻るには平行世界移動装置が必須だ。
 その重要な装置を壊す選択肢を選ぶとは想定外だった。
(殺しすぎた!)
 メガトロンはここで自分の失敗を悟る。せめて一人くらい異世界の人間を用意すればあの二人は平行世界移動装置を壊すという選択はしなかったはずだ。
 皆殺しを目指し、そうなりかけている現状は最高で、最悪だった。
 すべてを失った相手がなりふり構わず行動をする。その可能性を考慮し忘れた自分を呪う。
(アドリブとか言って遊んでいる場合じゃなかったぜ。ちくしょう!!)
 チッ、と吐き捨ててイーグリードの腹へ尻尾を叩き込んだ。
 吹き飛ぶイーグリードを尻目に、ゼロを追いかけるべく姿勢を低くする。
 だが、追いかける前に鼻先へ竜巻を掠らされた。イラッとしてメガトロンが振り向くと、先ほどとは段違いの速度でイーグリードがメガトロンの脇腹を抉る。
「てめえ……!」
「いかせるかあああ!!」
「しつけーんだよ!」
 ドラゴン形態のまま、尻尾を振るってイーグリードを強打するが、尻尾が振り切れることはなかった。
 イーグリードは尻尾の打撃を全身に浴びながらも、直進を進めてメガトロンを殺そうとする。
 右手で辛うじてイーグリードの肩をつかんで止めたもの、先ほどとは執念の違いにメガトロンは内心舌を巻いた。
「さっきまでとは段違いじゃないか、鳥君」
「ふっ……」
 イーグリードが鼻で笑い、余裕を取り戻したことにメガトロンは訝しげに眉を顰める。
 キザな態度が先ほどと大違いだ。それほどゼロの存在が精神的に大きいものだったのだろう。

「男のおしゃべりはみっともないぜ?」

 あーあ、えーかっこしーがこいつのキャラか、とメガトロンはうんざりする。
 打てる手はどれをとるべきか。メガトロンの頭脳がフル回転する。が、結局は結論は一つ。
「喋らないと芸人失格だぜ? まあ、芸人の心を叩き込む前に速攻でバラバラにしてやるよ!」
 メガトロンは怒りを隠しながら、あくまで冷静にことを運ぶために爪をむき出しにした。


 古代ローマの闘技場に似た部屋へと現れたゼロは、瓦礫で崩れやすくなっていることもあって慎重に足を進める。
 もっとも、急いでいるためにダッシュを細かく使って平行世界移動装置との距離を縮めた。
(メガトロンが出したモニターにあった位置は……)
 半壊状態の闘技場の瓦礫をどかし、ゴスロリ服を着た空色の髪を持つ少年の死体を見てゼロは息を呑んだ。
 それも一瞬、供養は後に回して瓦礫を投げ飛ばす。見えたのは平行世界移動装置だ。
「動くのか……?」
 半壊状態の平行世界移動装置は歪んだ装甲から火花が散る。
 起動させようにもパネルがへこんでうまくいかないだろう。
 ゼロは外装に手をかけて、引っぺがして内部機械を露出させた。
「エネルギーバイパスは……こいつか」
 こいつにΣブレードからゼロのエネルギーを注ぎ込もう。
 Σブレードに手をかけて、ゼロは振り向かずに後ろを切った。
 火炎弾が真っ二つに切れてゼロの後方へと吹き飛んでいく。
 振り向くと、イーグリードを右手に掴まえたドラゴンの姿のメガトロンがいる。
「ふん、間に合ったようだな」
「いいや、手遅れだ。メガトロン」
「おっと、ゼロ。動くなよ? 鳥さんがどうなるか分かっているな?」
 メガトロンが火をともした口をイーグリードへと向けた。
 イーグリードは自分に構うな、と視線で言っている。
 その様子をゼロは見て、
「クックック……ハーハッハッハッハッハ!!」
 盛大に笑った。


「気でも狂ったか?」
「いや、メガトロン。お前はその手が俺に通用しないって勘付いているだろ?」
「そいつあどうかな?」
 ニヤニヤ笑みを浮かべるメガトロンを前にして、ゼロはそのふざけた態度もまた演技だと見抜く。
 メガトロンが行っているのはただの時間稼ぎだ。そうゼロが思考した瞬間、要塞が揺れてだんだんと傾いていく。
 コンピューターを牛耳ったメガトロンが命じたのだろう。メガトロンが宙に浮いて、少しでも速くなるためにイーグリードを捨てた。
「甘いぜ、それだけ剣とエネルギーバイパスが離れていれば、俺様が奪うの方が速い!」
「だからここまで接近したというわけか。なるほどな……だが」
 ゼロはエネルギーがたまった右手をメガトロンへ見せる。
 瞬時に焦った表情のメガトロンが、大口を開けて炎を宿す。
 左手の剣を振るい、炎を切り裂いてゼロは宣言する。
「お前は元の世界に帰れはしない。俺たちと一緒に地獄にいくんだ、メガトロン!!」
「や~~め~~ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 
 メガトロンの静止の叫びが木霊する中、ゼロのエネルギーを溜めた右手を打ち下ろされた。


 結果だけいうと、ゼロの拳はエネルギーバイパスに届かなかった。
 ゼロの背中から砕けた瓦礫が落ちる。視線を一瞬だけ後ろに向けると、作業用アームが瓦礫を投げたようだ。
「ナイス! ナビコ2ちゃん、愛している~!!」
 このままではメガトロンの突進がゼロを吹き飛ばすだろう。平行世界移動装置を持ち逃げして、元の世界に帰ればゼロたちは詰みだ。
 なのに、ゼロの顔に悲壮感はない。風が吹いたからだ。
「まだだ! いけ、ゼロ!!」
「てめ、余計な真似を!」
 吹き荒れるイーグリードの羽根から繰り出される風が、ゼロの身体を浮かばせる。
 メガトロンは横から暴風を叩きつけられて、速度が僅かに遅くなった。
 打ち合わせしていないのに、連携が取れた事実が心地いい。
 ただ、それでもゼロの拳がエネルギーを注ぐのが先か、メガトロンが奪うのが先か。
 最後の一瞬まで、誰にも分からなかった。


「ゼロ…………」
「イーグリード。やったぞ」
 ゼロは吹き荒れる高重力の巻き起こす嵐の中、死にかけの友へと結果を報告する。
 ブラックホールが次々闘技場の残骸を飲み込んでいくのを見つめて、どこか達成感へ包まれていた。
 これで要塞が故郷へと落ちることはない。武美とウフコックから続く使命のリレーはここで達成を向かえたのだ。
「イーグリード……俺は……」
「しけた……ツラするな……ゼロ。ありがとう……懐かしい未来を……守ってくれて……」
 ゼロはフッ、と笑みを浮かべてイーグリードの右手を掴む。
 握り返す友の手が弱々しいことをゼロは告げなかった。
「だが……まだ……だ」
「ああ、そうだ。まだ奴が生き残っている」
 ゼロは黒い球体の向こう側を見つめて断言する。この程度で死ぬ男ではない。
 確実にこの手で片付けなければ、他者を確実に不幸にする。
「ゼロ、俺の武器チッ……プ……だ」
「エックスのように上手くは使えないぞ」
「分かっている……ただ……俺も…………皆が夢見た……懐かしい未来へ……」
 それっきりイーグリードは喋らず、脱力した腕を静かに添える。
 すぐにブラックホールに巻き込まれる運命だとしても、親友の身体だ。綺麗にしてやりたい。
「さて…………」
 ゼロは黙祷すらせず、すぐに立ち上がった。標的はまだ生きているだろうメガトロン。
 決意は固く、揺らぎはしない。Σブレードを静かに起動させて、ゼロはその場を後にした。


 徐々に大きさを増していく黒い球体を見つめながら、メガトロンは大きくため息を吐いた。
 とっさに出力全開で離れたため、ブラックホールに飲み込まれることはなかったが、これで元の世界に帰ることは出来なくなった。
 悪の権化であるメガトロンでも、一抹の寂しさを感じてしまう。
「ほう、お前さんも生き延びたか」
「死んでいるとは思っていないだろう」
 本当に正義の味方はしつこいものである。ブラックホールがメガトロンたちを引き寄せるほど重力を発していないのを確認した。
 ドラゴンの姿のメガトロンは黒いゼロへと身体を向けて、トランスフォーム(姿を変えること)を宣言する。
「メタルスドラゴンメガトロン、変身ッ!」
 ドラゴンの頭を模した右手が炎を噴出す。巨人へと変形を果たしたメガトロンにゼロが起動したΣブレードの刃先を向ける。
 メガトロンは口角の端を持ち上げる。ただ、今までとは違って苛立ちを見せた笑みだ。
「人をお家に帰れなくするたぁ、とんだ嫌がらせだ」
「あいにく、お前がいくべきところは家でなくあの世だ」
 ゼロの蔑みの言葉と同時に、メガトロンは浮き上がりかけた闘技場の石畳を踏みつけて加速した。
 研ぎ澄まされた牙がゼロの身体へと迫らせる。ゼロが刃を閃かせ、牙と交差する。
 二人の位置を入替えたとき、メガトロンの胸から血が飛び出た。
 変わったのは見た目だけではないらしい。速さと攻撃力が段違いだ。
「ケッ、お前の判断は正しいぜ? 俺様は宇宙でも活動が出来るからな。
ここからトンズラこいて、お前らの故郷を支配することだって出来るんだ」
「なぜ今そのことをいって、逃げ出さない? 逃がす気はないが、この危険な状況で戦いを挑むとは思わなかったぞ」
「そりゃ決まっている。お前さんが気に食わないからだよ」
 言い切り、メガトロンが炎と冷凍ビームを織り交ぜて射撃する。ゼロは黒い残像を生み出しながら僅かな隙間を縫って接近してきた。
 反応速度の異常さにメガトロンは冷や汗をかく。ただ勝てない、という考えは絶対無い。
「奇遇だな。俺もお前が許せない!」
「ほう、そりゃ俺様がいなければお前さんの仲間が死ななかったからか? とんだ勘違いだな」
 ゼロの攻撃を捌くのに必死になりながらも、メガトロンの舌は止まらない。
 メガトロンが地面を踏み砕いて、ゼロが壁を削って新たな瓦礫が生み出される。
 黒い球体はその瓦礫を浮かばせ、次々と飲み込んでいった。
「勘違い? 実際お前さえいなければうまくいった!」
「くだらないな。俺様がいなければ、それに代わるもっとえげつない悪党がお前さんたちを追い詰めたさ!」
 ゼロの刃とメガトロンの牙が交差する速度を速めていった。
 互いの攻撃は身を掠めるのみ。その僅かなやり取りでメガトロンはゼロの防御力が低下している事実に気づいた。
 充分勝てる。珍しくメガトロンに逃げの二文字はなかった。
「それに、未来人とやらが俺様たちをバトルロワイアルに放り込んで怒らなかった奴はいるのか?
皆殺しにしてやると思った奴はいなかったのか? 事実、シグマは未来人を皆殺しにしただろ」
 ゼロは言葉を返さず、ただ攻撃が激しくなった。メガトロンは別に未来人とやらに義憤を抱いているわけではない。
 ただ自分を利用しようとしたことは許せないが、シグマが滅ぼしたのなら放っておいても問題ない羽虫だ。
 笑えてしまうのは、未来人が行った事実は新たな『悪』、つまりゼロたちを殺しても未来人に復讐したいという感情を呼び寄せやすいものだ。
 メガトロンはどう転ぼうと、正義の味方も悪党も等しく碌な目に遭うことがないと悟っている。
「そして未来人が、自分たちが殺しあう元凶を作り出した奴にシグマが復讐することを間違っていると答えた奴はいたか? いないだろうな!」
「俺もシグマもそれを正しいと言った覚えはない」
「だが止めようとはしなかったな! そりゃそうだ。こんな目にあわせた奴らがどうなろうと知ったことはない。それが普通だものなあ!」
「だから俺たちもキサマの同類といいたいのか! メガトロン!!」
「馬鹿いってんじゃねえ! てめーらいい子ちゃんと一緒にすんな!!」
 メガトロンは左腕を振るって拳の裏を振りぬく。空中で受け止めたゼロは回転して衝撃を逃がした。
 器用な真似をする、とメガトロンは感想を抱いて距離をとった。
「お前らは誰かのためにとかサブイボが出るようなことをいって未来人が死ぬことを許容しただろ?
お前らは俺様からあの星を守るためとかいって戦おうとしているんだろ?
俺様は違う! 愉快なメガちゃんの大デストロンは自分のためにしか動かない。そのほうが楽しいからな!!」
 距離をとった二人は同時に駆けて、距離が零となった瞬間拳を突きあわせた。
 衝撃で新たな瓦礫が生み出され、宙を浮く。

「だからいってやるぜ。誰かのために戦うお前らは、『誰かを守るために未来人を根絶やしにしようとする悪』と戦う羽目になっていたぜ!
俺様がいたからこそ、お前は身内で殺しあうことがなかったんだ。俺様に感謝しな!!」

 衝突の衝撃から二人は距離をとって構えた。
 メガトロンの爪がゼロの動力部を狙って冷たく輝く。
 ゼロは刃を構えながら、驚くほど穏やかな瞳でメガトロンを見て断言する。
「お前と一緒にするな」
 メガトロンが告げた言葉を返され、静かなプレッシャーが肌を刺激していた。


 メガトロンの『誰かを守るために未来人を根絶やしにしようとする悪』には心当たりがある。
 もしもエックスがこの事実を知ったらどうするだろうか?
 人類に絶望して滅ぼすのか。それとも絶望のままに間違った道をいかないように管理するのか。
 そうなったエックスは、ゼロたちと同じ感情を持ちながらももう『正義』ではない。
 エックスでなかったとしても、ゼロたちと志を同じにしたものの中に、エックスと同じ選択をした相手が現れるかもしれない。
 それでもゼロは確信を持って伝える。メガトロン、お前の推測は間違いであると。
「たとえお前の言うような身内での戦いがあったとしても、俺はそれを間違いだと思いはしない」
「ほう」
 そうだ。再会したあのとき、ゼロがエックスに向かっていった無念の言葉はなんだ。
 あいつの力になってやれなかった言葉だろう。それを思い出せ。
「ぶつかり合って、剣を交わして理解する感情もある。それすらないお前と、あいつらや俺を一緒にするな!」
「そんな誰でもなれる悪など、俺様はごめんだね! そうだな、群れなければなにも出来ないキサマら正義の味方と、くだらない悪と俺様は一緒にしてやれんな。こっちから願い下げだ!」
 ゼロは二度同じ言葉で拒絶を示し、メガトロンもまたゼロを否定する。
 メガトロンを相手にしてはゼロの言葉はもうない。後は剣を振って命をかけて互いに否定しあい、どちらかが生き残る。
 ゼロとメガトロン。
 生まれも信条も死に様もすべて否定しあう二人だけが、バトルロワイアルの生き残りになったのは皮肉だった。
 殺しあうしか道がない。二人の最後の否定が今始まった。


「ぬぅああああああぁぁぁあぁぁぁぁっ!!」
 どちらの叫びかもはや判断がつかないまま、牙と刃がぶつかって離れる。
 ゼロは淡い金色の長髪をなびかせ、右足を軸に身体をメガトロンへと向ける。
 巨大な体格に似合わず俊敏なメガトロンが、右手の竜頭から炎を二発飛び放ってきた。
 一発は壁を砕き、一発はゼロが切り裂く。闘技場の石畳を踏み砕きながら、メガトロンが疾走してきた。
 巨体に任せた負傷覚悟の体当たりか。
(違うな)
 メガトロンはそんな単純な手にすべてを委ねるような簡単な敵ではない。
 ゼロも前へとダッシュして、加速の勢いを利用した剣技・疾風牙を仕掛けた。
「あらよっと!!」
 するとメガトロンは跳躍して、ゼロの刃を逃れる。羽根が風を捉えて宙を駆け回るメガトロンの狙いに目安をつける。
 疾風牙を中止して、ゼロは両足に力を込める。メガトロンは落下に羽根を使った速度の加速を加えた。

「メタルスドラゴンメガトロン、変身ッ!」
「月面飛行蹴りッ!」

 西洋のドラゴンへと空中変形したメガトロンが身体を丸めて突進してきた。
 それをゼロが滑空をしながら両足で迎え撃つ。
 激突して激しい衝撃が、崩れかかった闘技場をさらに崩した。
 二人は反動で吹き飛び、ブラックホールに吸い込まれないよう気をつけながら着地する。
 ゼロは作業用アームから死角になる位置へすり足で移動して、メガトロンが舌打ちをした。
「ちきしょー……ナビコ2ちゃんまでいかれやがって……」
 少しは黙っていられないのだろうか。あの言葉がブラフの可能性を想定しながらゼロは距離を少しずつ縮めていく。
 メガトロンはあっさりとPDAを捨てて、竜の首をもたげてゼロを睨んだ。
 ゼロは鋭い殺気の眼光を受け止め、静かに剣先を下にした構えを取る。
「あちょちょちょあちょー!!」
 メガトロンが先に動き、火弾を連続発射する。ゼロは瓦礫の山を盾にして一発目を回避する。
 右斜めへとダッシュを仕掛けて二発目の火弾をやり過ごす。そのままの勢いを利用して跳躍、三発目を避けてメガトロンとの距離を五メートルまでに縮める。
 ゼロもメガトロンも焦りの表情はない。先に動いたのはまたもメガトロン。
「先手必勝! アイアンテール!!」
 某ポケ○ンの技名を叫びながらゼロへ丸太のように太い尻尾の打撃が迫る。ゼロは避けずに、あえて受け止めた。
 衝撃がゼロの脳を揺さぶり、意識が一瞬飛ぶ。それでもどうにか尻尾を掴んで両足を踏ん張り、メガトロンを掴まえる。
「やべっ!」
「遅いッ! 地獄五段返し!」
 尻尾を掴んでメガトロンの身体が宙に浮かぶ。技の入りは完璧だ。
 宙で回転を続けたメガトロンを地面へと叩きつけた。メガトロンを中心にクレーターが出来て、石畳が隆起する。
 そんな状況でもメガトロンは首を動かして炎を吐き出した。
 ゼロも投げた後の体勢が固まって、一撃直撃をもらう。火の粉が舞いながらも、ゼロは辛うじて着地した。
 メガトロンもすでに立ち上がっている。
「チッ、やるじゃねえか」
 ゼロは無言でΣブレードを構えている。ただひたすらにメガトロンを殺す刃と化していた。
 その様子をメガトロンはつまらなさそうに吐き捨てる。
「さっきから俺様ばかり喋らせやがって。なにか話して視聴者の皆さんをダレさせるなよっと!」
 メガトロンの喋る内容はふざけているが、足は堅実に勝利へと向かうために瓦礫をゼロへと蹴りだした。
 さらにメガトロンの冷凍ビームが瓦礫を凍らせ、質量を増してゼロを襲う。
 ゼロは瓦礫を足場に跳躍、メガトロンは次々瓦礫を凍らせながら投げ飛ばしてくる。
 ゼロは凍りついた瓦礫を飛び乗り、切り裂き、避けてメガトロンの頭上を取った。
(イーグリード、力を借りるぞ)
 Σブレードの刃が風をまとってゼロは上段に構える。メガトロンが火弾を繰り出してくるが、構わずゼロは振り下ろす。
 振り下ろしたゼロの剣から竜巻が発生して、火弾を飲み込んでメガトロンを襲った。
「こいつはあの鳥野郎の!」
「嵐風斬……とでも名づけるか」
 イーグリード、力を借りたぞ、と内心告げてゼロはメガトロンへの接近を成功した。
 竜巻で全身を削られているが、武器チップを使いこなせないゼロの威力では倒しきれない。
 メガトロンの懐へと着地したゼロは、刃に炎を纏わせて地面を蹴った。
 メガトロンもまた、右拳を固めてゼロへと繰り出す。

「くそ、メガトンパンチ!!」
「龍炎刃ッ!」

 ゼロの刃とメガトロンの拳が、互いの身体に届く。
 二人は意地で得物をさらに進ませた。


(ああ、クソ……結構深いぜ)
 焦げている胸の傷を撫でながら、メガトロンはなぜ自分がここまで頑張ってゼロの相手をしているか疑問に思う。
 気に入らないのは当然として、もっと他に理由があるか。
 少し考えてみたが、とんと思いつかない。例えば目の前のゼロがコンボイだったら同じように相手をしただろうか。
(相手にしたな、コンちゃんだし)
 これはメガトロンの知らない未来の話だが、後一歩まで追い詰めたコンボイと一騎打ちをすることになる。
 その未来と現状が被っているのをメガトロンは一生知ることはないだろう。
 メガトロンはニヤリと笑って静かに変身(トランスフォーム)を宣言する。
「メタルスドラゴンメガトロン、変身」
 ゼロは揺らがず、一撃を加える隙を探っている。小手先でどうにかなりそうな状況ではない。
 姑息な手を使うのが好きなメガトロンは仕方なく諦めて、正面から勝負を決めることにした。
 右手の竜の口から炎を纏う。火属性はゼロの専売特許じゃないということを教えてやる。
 メガトロンは強く思い、両足を踏みしめて羽根を広げる。
 ブラックホールが大きくなってきた。ちんたら戦っている場合じゃない。
 メガトロンが地面を踏みしめて石畳が浮く。ブラックホールに飲み込まれるのを尻目に、竜頭を腰に構えて前へ前へ進み続ける。
 ゼロも疾風の如く速さで右腰にΣブレードを構えてメガトロンへと迫ってくる。
 だがリーチはメガトロンのほうが長い。炎を纏った右ストレートがゼロを叩きのめす。
 それでもゼロは踏ん張り、胸のアーマーを燃やしながらメガトロンの元へと走り続けた。
(この一撃を耐えるたあ、予想通りとはいえちょっぴりショック!)
 メガトロンとの距離が零になった瞬間、ゼロはブレードを振るう。
「疾風牙!」
 赤き刃の軌跡が、炎の刃で出来た傷跡と交差してX字の傷を生んだ。
 傷は深くメガトロンは叫びたい衝動に駆られるが、その場に踏ん張って左拳を握る。
「らあっ!」
「おおっ!」
 メガトロンが左拳をゼロへ繰り出した瞬間、ゼロもまた左拳をメガトロンへと打ちはなった。
 また拳と拳が衝突して互いの動きを止める。向こうもまた、この一撃は様子見だというわけか。
(なら決めの一撃はどちらが重いかで、勝負が決まるってわけかこんちくしょう!)
 やややけっぱちになりながら、メガトロンは冷凍光線をこめた右手をゼロへと放つ。
 そういやポ○モンで冷凍パンチってあったな、とふと思った。
 ゼロはというと、右腕にエネルギーをまとって繰り出してくる。最後の決着が拳とは泣けると思いながらも、メガトロンは付き合った。

「うらあああああああああっ!!」
「落鳳破ァ!!」

 分散するはずのエネルギーを直接身体に叩き込まれならがも、メガトロンの右手はゼロを凍らせていく。
 後は踏ん張るだけ。メガトロンは吹き飛ばないように、ゼロと我慢比べをした。


 呼気を整えながら、ゼロは身体にまとわりつく氷を引き剥がした。
 ギリギリだった。装甲が薄くなっている今の状態では賭けのようなものだったが、どうにか勝ちを拾えた。
 徐々に大きくなっていくブラックホールを見つめ、吸い込まれないよう注意をしながらゼロは歩みを進める。
 足を止め、ゼロの視線の先にはブラックホールに吸い込まれかけているメガトロンがいた。
「チッ、トドメを刺しにきたか」
「お前のしぶとさは俺も認めている。言い残すことはあるか?」
 ゼロはブゥン、とΣブレードの刃先をメガトロンの顔に向けた。
 死の間際だというのに、メガトロンの瞳には恐怖がない。むしろ自信満々にゼロを見つめている。
「残念だったな。俺様は死なない」
「強がりだな」
「いいや、お前さんに殺されず、命が助かる選択肢が一つある」
 クックック、と低く笑うメガトロンにゼロは眉をしかめた。
 前門にはゼロ。後門にはブラックホール。飛べばブラックホールに吸い込まれ、ゼロに向かう力が残っていない。
 その状況でもメガトロンは絶望していない。ゼロは嫌な予感がして、Σブレードを電撃を溜める。
 鞭のように刃をしならせた瞬間、メガトロンは淵を掴む手を離した。
「なっ!」
「これでお前さんは俺様を殺すことはない。それに、あそこはブラックホール化しているとはいえ平行世界移動装置の一部。
可能性は低いが、俺様が死なずに済むことだってできる!」
 ゼロはハッとした。次元を移動するエネルギーを暴走させてブラックホールという形を作ったが、アレはメガトロンが言うように平行世界移動装置の一部だ。
 あの中に入って、別の生存が可能な次元へ移動できる可能性は0ではない。
 だが、たとえ移動できたとしても人やメガトロンが存在できる空間である可能性は無に等しい。
 飛び込むなど自殺行為以外なにものでもない。なのになぜだろうか。ゼロの不安は尽きなかった。
「無理だ! そんな可能性にかけるなど……」
「夢物語だ。だがお前は俺様を殺せず、俺様が生き残る可能性に怯えるしかない! お前は死ぬというのにな! ハッハッハッハ!
聞いて震えろ! 俺様は大デストロンの破壊大帝メガトロン! お前さんたち正義の味方が手の届かない存在だ!」
 メガトロンは大口を開けて笑いながら、ブラックホールへと飛び込んでいった。
 雷神撃によって刀身を伸ばすが、メガトロンには届かない。
 メガトロンの笑い声が聞こえなくなるまで、ゼロはブラックホールに吸い込まれる様子を見届けた。
 メガトロンのいっていることは、結局のところ負け惜しみでしかない。
 奴は限界まで痛めつけられ、ブラックホールから逃れる術を失い、ゼロへ落とされ飲まれていった。
 それでもゼロは認めざる得ない。
「認めてやるよ、メガトロン」
 メガトロンという悪に、ゼロはなに一つ届かなかったことを。


 ゼロは全天周モニターのある部屋へとたどり着く。ブラックホールが肥大化する闘技場から距離があり、数時間は持つと予測した。
 別に死ぬのは怖くはない。ただ自分の故郷が見える場所を死に場所と定めたのだ。
(……結局は、俺は負けてしまったか)
 陰鬱になりながらも、ゼロはガクッと膝を崩して壁にもたれる。性能を引き出した反動がやってきたのだ。
 眠気が襲い、ゼロのアーマーの色がだんだん赤みを増していった。
 万全な状態なら問題なかっただろう。急増の再生のおかげで負担が増し、三日は機能が停止する。
 ゆえに脱出艇があったとしても、ゼロは逃げ出すことは出来ない。これが無理に改造した代償だった。
 もっとも、存在していたとしてもここから逃げる気はないのだが。
「すまない……みんな」
 結局ゼロはメガトロンを屈することが出来なかった。
 死を持って強制的に負けにすることも、精神的にゼロが打ち勝つこともない。
 メガトロンは一人で生きて、一人で勝利した。
(呪いだな)
 そう、メガトロンの言葉は呪い。本郷が、武美が、ウフコックが、ソルティが、イーグリードが命を懸けたことを無駄と宣言する呪いである。
 お前は俺を屈することも出来なかった。俺が生きる可能性を潰せなかった。だからお前は皆から受け取った想いを無駄にした。
 ゼロがそう自分を責めると見て、わざとああ言い放ったのだろう。
 最後まで狡猾で、恐ろしい敵であった。シグマは想定していなかったに違いない。
 最強のイレギュラーとしてのシグマならともかく、隊長としてのシグマなら自分を罰させて巻き込まれた人たちが元の世界へ帰ると考えていたのだろう。
 仮初とはいえ、主催者という地位を与えられたシグマならやれるだろうし、実際行動して見せた。
(そのシグマの願いを、あいつはたった三人で崩した)
 事実、ゼロの周りに一緒に戦った仲間はもういない。
 ドラスはメガトロンの仲間、コロンビーヌに殺された。本郷は自分の世界でもないのに、人類を救うために己の身を犠牲にしてコロニーを道連れにした。
 ミーはどうなったのか、ゼロが知ることはない。武美はメガトロンの罠にかかり、最後に意地を見せた。その武美の意地にウフコックは瀕死の身体で付き合い、むなしく死ぬだけの運命を変えた。
 ソルティは憎悪を持ったターミネーターを否定し、自分の想いに殉じた。イーグリードはゼロに最後まで付き合い、すべてを託して逝った。
 これもすべて、最初から最後まで悪として存在したメガトロンの行動した結果だ。
 メガトロンはシグマを否定して、正義を否定して、ゼロを否定して、最後に勝利を掴んでゼロの剣が届かない場所へといった。
「メガトロンを完全にしとめることも出来ない。俺は……」
 許してくれとは言わない。自分が不甲斐ないと謗りは地獄で受け止める。
 最後に残った敗北者のゼロは右手を伸ばし、手のひらを地球と重ねた。

「だけど、ありがとう。あの星の未来を守ってくれて」

 万感を込めた呟きを、逝った仲間たちに告げる。
 ゼロの意識が遠のいていく。時間のようだ。後はブラックホールが自分を含めてすべてを始末してくれる。
 ゼロは虚無を抱えて意識を手放す。最後にアイリスと呟いた彼は、なにを求めていただろうか?


 こうして、何度目か分からない未来人のバトルロワイアルは幕を閉じた。
 未来人はその事実を知ることも、これからバトルロワイアルを開くこともない。
 未来人たちには彼らの物語を開始して、自ら神としたバトルロワイアルの物語の結末を知る余裕がなかった。
 ただ、一つだけ知らざる事実がある。
 未来人が開幕したバトルロワイアルで、想定されながらも一度も起きなかった事態が発生したのだ。
 全滅。
 その二文字の結末を、未来人が発生させることを望まなかった結末を、彼らの手を離れて初めて発生した。
 皮肉な真実は誰に伝わることもなく、風化して消えていく。
 誰にも結末も過程も、命を懸けた人々がいた事実も伝わらない。
 虚無の物語。それがこのバトルロワイアルの題名であった。


【広川武美@パワポケシリーズ 死亡確認】
【ウフコック・ペンティーノ@マルドゥックシリーズ 破壊確認】
【本郷猛@仮面ライダーSPIRITS 破壊確認】
【ソルティ・レヴァント@SoltyRei 破壊確認】
【T-800@ターミネーター2 破壊確認】
【イーグリード@ロックマンX 破壊確認】
【メタルスドラゴンメガトロン@ビーストウォーズメタルス 生死不明】
【ゼロ@ロックマンX 機能停止】

 バトルロワイアル用プログラム:全過程終了
 結果:生存者なし。 GAME OVER



時系列順で読む

Back:156:最終回(3) Next:156:最終回(5)


投下順で読む

Back:156:最終回(3) Next:156:最終回(5)


156:最終回(3) ゼロ GAME OVER
156:最終回(3) メガトロン GAME OVER
156:最終回(3) ソルティ・レヴァント GAME OVER
156:最終回(3) イーグリード GAME OVER
156:最終回(3) T-800 GAME OVER





| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー