『俺が守るこの未来/俺様が破壊するこの未来』(5) ◆2Y1mqYSsQ.




 ゆったりとしたダボダボの派手な衣装を身にまとい、赤い大きな鼻をメイクで白くした顔につけた滑稽なピエロが現れる。
 薄暗い部屋の中で、丁寧にお辞儀をしていた彼は顔を上げた。
「皆様、お久しぶりでございます。無情な終りを告げた演目『ロボ・サイボーグキャラバトルロワイアル』はいかがでしたでしょうか?」
 ピエロは耳に手を当てて、観客の方向へと向ける。
 何度か頷いた後、顎に手を当てて口上を続けた。
「ふむ、皆様不満たっぷりでございますな。しかし、それも仕方ありません」
 ピエロは理解している、とアピールするように暗闇の中を歩き回る。
 変わらぬ笑顔を滑稽だと思うか、不気味だと思うかは人それぞれだろう。
「ですが、皆様はお忘れでないでしょうか? まだこの最後の演目、最終回のタイトルが出ていないことに」
 大げさな口調で告げるピエロは、腕を広げて観客へと宣言する。
 静かだった周囲が、さらに静けさを増してピエロは笑う。
「それでは、最終回の続き、存分にお楽しみください」
 ピエロはお辞儀をして退場をする。
 その場には闇だけが残った。


 空っ風が吹いて、砂埃が舞い上がり少女は顔をしかめる。
 長い金の髪を後ろで一纏めのポニーテールにしていた少女は目の前の巨大な建造物を見つめた。
 幼い少女の目つきが、歳不相応な専門家としての目に移り変わる。
「シエル、どうだ?」
「あれがエリア・ゼロの宇宙要塞ね……」
 シエルと呼ばれた少女は、緑の戦闘服を身にまとい、ゴーグルで目を隠した青年型レプリロイドへと振り向く。
 その顔には驚きの表情が混ざっていた。
「ミラン、見て! 森が……自然が再生している。すごい……」
 シエルの言葉通り巨大な岩の建造物の地面との追突部には、巨大な樹木が群れをなして森となり要塞へとツタを這わせている。
 遠めで見る分には、鳥が飛ぶ様子も見えていた。
 その状況に驚いたシエルの感想はもっともなものだった。
 百年前、英雄であるエックスとゼロが消えて人類が混乱する中、突如として現れた宇宙要塞が地上へ落下してきたのだった。
 ステルス性能が高かったのか、レーダーの反応を逃れ迎撃が間に合わなかった。
 なにより、イレギュラーハンターが弱体化していたのもあって、要塞が落ちるのを止められることは不可能だったのだ。
 そして要塞が落ちて、災害が起きて人類は滅亡の危機に立たされた。
 人類の混乱を極め、長年混沌の日々を過ごすことになる。
 そして要塞が落ちた地域は危険地帯として、長らく封鎖されることとなった。
「百年もあれば、自然は復興するのか……確かにすごい……」
「ちょと、シエルもミランも、他のみんなも見とれないで早く行こう。あいつらに先を越されたら、全部が無駄になるのよ!」
「ご、ごめんなさい。パッシィ」
 シエルの周囲を光る小人が感動する皆に声をかける。妖精の姿を模した彼女は、サイバーエルフと呼ばれる存在だった。
 不思議な力を持っているエネルギー体の総称、と説明するしかない電子の妖精たちは、人間とレプリロイドの生活を助けてくれる貴重な存在だ。
 特にパッシィはシエルとの付き合いが長く、互いに気心知れた仲だった。


 エリア・ゼロへとたどり着いたころには、すっかり日は暮れて夜を迎える。
 月光が淡く光る下、一行は焚き火を囲み、周囲を警戒していた。
 獣がいたのは予想外だが、炎があれば近寄ることはない。
 敵がこの森に入った様子はない。だから警戒しながらも、一行は身体を休めることにしたのだ。
 シエルはついてきた十名近くのメンバーに感謝の念を感じている。
 ここで休むのも、人間であるシエルに気を使ってのことだ。
「シエル、こっちこっち」
「あ、パッシィ。ちょっと待って」
 先を進むサイバーエルフの親友の後をついていき、シエルは森の中で彼女が見つけたものを確認しようとした。
 彼女はシエルの親友だ。いったいなにを見つけたのか不思議に思うと、たどり着いたようでパッシィは宙で留まっていた。
「湖…………」
「エリア・ゼロにもこんな場所があったの。見張りをやるからシエル、ここで水浴びでもしましょう」
「ありがとう、パッシィ」
 砂埃に塗れ、森にたどり着いたら土や泥で汚れたシエルとしてはパッシィの申し出はありがたかった。
 シエルは衣服を脱ぎ、裸体を晒して水に足をつける。少し水温は低いが、砂漠だったエリアに比べれば森林地帯であるエリア・ゼロは夜でも蒸し暑い。
 むしろちょうどいいと、シエルは飛び込んだ。


 ちゃぷ、と湖で浮かび、上空の月をシエルは見上げる。
 月光を浴びた身体は少女から大人へとなりかけの、青い果実のような裸体。
 水面に広がる金の長髪と、白い肌を流れる水が妙な色気を演出していた。
 収穫前の青い果実が魅力的に映ることもある。
 摘んでいしまう背徳感というものを、彼女の肢体は持ち合わせていた。
「どう? シエル?」
「うん、気持ちいいよ。パッシィ」
 シエルはそう微笑むが、パッシィの表情は暗い。
 友達の悲しそうな顔を見つけて、シエルは黙っていられず声をかける。
「パッシィ、不安?」
「シエルのほうこそ、怖くないの? 私たち、レジスタンスが勝てる切り札……ゼロが本当にここにいるのか」
 パッシィが核心をついてくる。シエルたちはレジスタンスとして、危険なエリア・ゼロまでやってきたのだ。
 エリア・ゼロの宇宙要塞に、伝説の英雄の片割れのゼロが眠っている。その情報を持って。


 百年前、宇宙要塞の落下による災害で人類とレプリロイドは疲弊していた。
 確実に数が減る人類。汚染された地上になす術もなく人は減っていく。
 そんな中、英雄のエックスが帰還してネオ・アルカディアを建設したのだ。
 実はこの帰還したエックスは本物のエックスではない。
 レジスタンスの仲間には告げていないが、シエルによって生み出された、エックスのDNAをコピーしたコピーエックスとでも言うべき存在である。
 それでも、英雄の存在は人々に希望を与えて国を作り、平和をもたらせた。
 当時の高官はコピーエックスの生まれを秘匿し、シエルの頭脳がいずれ役に立つと彼女を冷凍睡眠させた。
 それから何十年経ったのだろうか。
 冷凍睡眠から目覚めたシエルが見たものは、人間が笑顔で暮らすネオ・アルカディアだった。
 ただし、多くの無実のレプリロイドを犠牲に築き上げた平和だ。
 シエルはコピーエックスに進言をするが聞いてもらえず、ネオ・アルカディアから離れてレジスタンスへとついたのであった。


 湖から上がり、パッシィがもってきたタオルで身体を拭いて着替える。
 金の長髪を後ろに一纏めして、仲間のもとへとシエルは戻っていった。
 土や木々の匂いがシエルに安心感を与える。泥臭い、と答える人物もいるかもしれないが、シエルはこの匂いが好きだった。
 突如、銃声が聞こえてシエルはパッシィと顔を見合わせる。
 走って仲間の無事を確認しようとしたとき、三人の仲間が森から現れた。
「シエル、逃げるぞ! 奴らだ!」
「ミラン、他のみんなは――――」
「カオルもリュウも足止めに向かっている。あいつらの想いを無駄にするな!」
 ミランの言葉にハッ、となってシエルは唇を噛み締める。
 一度だけ、レジスタンスの仲間が奮闘している方向を見つめてから、目的地へと走った。
 木々が燃えて、レーザーが走る。五メートルほどの巨体をもつメカニロイド・ゴーレムが姿をみせた。
「くそっ! スーパー『デストロン』め、こんなところまで現れるなんて!」
 ミランの叫びを受けて、シエルは自分たちの敵が始めて姿をみせた日を思い出していた。


 レジスタンスとしてネオ・アルカディアの治安維持部隊と小競り合いを続けていた頃だった。
 突如として全世界にそれは発信された。
 シエルの研究室も例外ではなく、モニターが強制的に点く。
 後で聞いた話だが、レジスタンス本部のメインモニターにもこの放送は行われたらしい。
『こんにちはー! メガトロンでーす!』
 巨大な赤いボディを持つレプリロイドが突如として電波をジャックして、能天気な声をかけてくる。
 シエルは……いや、全世界の人々がなにが起こったのかなにも理解していなかった。
 メガトロンと自己紹介したレプリロイドは耳に手を当てて、誰かの声を待っているような真似をした。
『あれー? 声がちっちゃいなー。こんにちはー! メガトロンでーす!!』
 さらに大きい声を出して、シエルが眼を白黒させているとメガトロンは満足そうに頷いた。
 そして彼の移動にあわせてカメラが動く。シエルはメガトロンが歩いている場所に見覚えがあった。
『さあて、皆さんにお伝えしないといけないことがあります。この国を収めていた英雄エックスですが……俺様が殺しちゃいました♪ てへ♪』
 メガトロンの言葉を肯定するかのように、カメラが動いて一人のレプリロイドの残骸を映す。
 青い装甲に光る十の武具の一つ、エックスバスター。七つに引き裂かれたボディ。あらぬ方向に曲がる脚。血塗れだが、誰もが知るエックスの顔。
 シエルは一瞬で理解する。メガトロンの宣言は真実で、シエルが生み出したコピーエックスはもう死んだのだと。
『さて、このネオ・アルカディアは俺様が掌握し、ここに破壊大帝として皆さんの支配者であることを宣言しまーす!
大統領として……いや、シュワちゃんを偲ぶ意味で州知事がいいのか? とりあえず、俺様のマニフィストをお伝えしたいと思います』
 ニヤニヤと笑うメガトロンに、シエルは怖気が走る。信用できない、邪悪な笑みだ。
 メガトロンはその雰囲気を隠そうともせず、大げさに叫んだ。

『芸人を育てたいと思います! じゃなかった。優秀な科学者以外、死刑!』

 どう乗っ取ったのかわからないが、ネオ・アルカディアすべてのメカニロイドがメガトロンへ付き従って、人もレプリロイドも虐殺を始める。
 そうして、地上の唯一の楽園だったネオ・アルカディアはこの日より地獄と化した。


「ふむ、シエルちゃんがそっちにいるね」
『いかがいたしましょうかブーン。メガトロン様ー』
「シエルちゃんは捕獲。それ以外はやぁっておしまい!」
『あらほいさっさ! だブーン』
「君ね、もうちょっと悪役として迫力を……あ、切っちゃった。まあいいか」
 そう呟く声はメガトロンのものであった。しかし、その姿は赤き巨体だったメガトロンの面影がない。
 巨躯はそのままに、白い鉄仮面を被って重厚なローブを身にまとうような姿だった。
 もっとも、メガトロン本人はミノムシモードと呼んでいるが。
 このミノムシ、実はネオ・アルカディアのコンピュータールームに繋がれて全メカニロイドを操っているのだ。
 もっとも、先ほどのレプリロイドのように進んでメガトロンにつくものもいたが。
「しかし、あの要塞をまた眼にするとは、懐かしいぜ」
 と、いってもメガトロンの感覚としてはたった数ヶ月前の出来事である。
 不死身だ、と宣言したものの、本当に生き延びるとは本人も思ってみなかった。
 とんだ拾い物である。
「あれが残っているということは、結局ブラックホールが全部吸い込めなかったということか。
まあ、あの装置ってボロかったからな。しょうがないしょうがない」
 メガトロンの言うとおり、半壊した装置が生み出したブラックホールは長時間維持できずに消えたのだ。
 充分な質量が残った要塞は地表に激突し、災害を生み出したのだろう。
 メガトロンはゼロたちが結局阻止できなかったことを、ざまみろと内心で舌を出した。
「さあて、あの要塞が残っているなら平行世界移動装置のデータも残っていそうだが、どうしたものか。
うまくいけば優秀な科学者と、装置のデータが手に入るのか。グッフッフッフ……」
 やがてメガトロンはハイテンションとなって大声で笑う。
 悪が生きて正義が負ける。これほど愉快なことはない。
 メガトロンには敵がなかった。
「しっかし、ここでもついてくる部下がブーンだとかゴッツンコとか変なのしかいないのは俺様人事に関して呪われているのか? まったく……」
 この愚痴だけは、聞かなかったことにして欲しい。
 メガトロンは誰にも向けず、思わず呟いてしまった。


 ハッ、ハッ、ハッ、と息を切らしながら、宇宙要塞内の通路を駆け抜ける。
 もうすでに日は昇っていた。一夜走り通しで体力が限界に近い。
 それでもシエルは冷静に周囲を観察する。通路は埃が積もっており、崩れた金属の壁が周囲に並んでいた。
 パッシィが前方の安全を確認して、ミランとマリでシエルを挟んで進む形になっている。
「シエル、まだ!?」
「スーパーデストロンのコンピューターから見つけた地図によると、あそこよ! みんな!」
 シエルが叫んで皆を誘導する。携帯端末が部屋を示して近づいていた。
 同時不安もある。メガトロンはコンピューターの扱いの達人だ。
 こんなにあっさり情報を引き出せたのは、罠ではないのか。
 それでもシエルは進むしかない。もうこの手しかないのだ。
「くっ! 敵が追いついてきた……シエル。先にいきな!」
「マリ!」
 緑の服を着た、女性戦闘員のレプリロイドのマリが銃を乱射する。
 ミランがマリの名を叫ぶシエルをつれて、先を促した。
 いつもこうだ。シエルは足手まといではないのか、常に不安だった。
「ここか!」
 ミランが瓦礫を跳ね除けて、ゼロが存在するはずの部屋へ滑り込む。
 そこでシエルは眼を見張った。
 天井には穴が開き、太陽が覗いている。中央に伸びた大樹が、要塞を突き抜けて存在していた。
 草が好き勝手の伸びきったその場所は、かつてリラクゼーションルームとして存在していた場所であった。
 ここから草木の種が飛び出して、自然が復活したのかとシエルは感心する。
 そして、シエルは発見する。
 部屋の中央に座り込んだ、赤いアーマーを着込んだレプリロイド。
 求めたはずの『英雄』の姿だった。


「動くの……これ?」
「こら、パッシィ!」
「でもミラン、これどう見ても死んで……」
 パッシィの言うことももっともだった。しかし、シエルは諦めず草木を跳ね除け、ゼロの傍に移動する。
 携帯端末を接続して眼を覚まさせようと操作するが、プロテクトがその命令を拒絶した。
 自己再生を呼び起こすプログラムでもあるが、プロテクトが邪魔をして手出しを出来ない。
「くっ! もう一度……」
「シエル、危ない!」
 ミランが叫んで、シエルを襲った凶弾から身を挺して庇う。
 シエルが入り口を確認すると、エックスを模したアーマーをつけたパンテオンが存在していた。
 モノアイが光り、バスターを向けてくる。ミランは震えながら立ち上がり、パンテオンを睨みつけた。
「シエル、ここは撤退しろ! 俺が時間を稼ぐ!」
「その身体では無理よ! ミラン!」
「パッシィ、頼むぞ……うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
 ミランはシエルの忠告を無視して、突撃をする。
 シエルはミランの名前を呼ぶが、彼は止まらない。
「ミラン…………」
「シエル! 悲しんでいる場合じゃないわ!」
 パッシィが携帯端末を除き、シエルの顔を覗きこんだ。
 えっ、とシエルの口が形作ると、パッシィは優しい笑顔を向ける。
「シエル、私の力を使って! それしかないわ!」
「パッシィ! でもそれじゃ…………」
「大丈夫。少し怖いけど……シエルのためだから!」
 そういってパッシィの身体が光り、ゼロを包んだ。
 シエルは名前を呼ぶが、パッシィはもうエネルギーへと変換し終えている。
 唇を噛んで、シエルは起動命令を送った。
「…………なんで」
 それでも、ゼロは目覚めない。本当に死んでいるのか。
 ドサッ、と音がして振り向くと、死体のミランが地に伏している。
 規則正しい足音と共に、パンテオンが銃口をシエルへ向けて蜂型レプリロイドが姿をみせた。
「シエルちゃん、死人に頼っても無駄なんだなーブーン。大人しく降参しちゃおうーブーン」
「そんな……」
 シエルに絶望が訪れる。ここまできて、親友まで失っても英雄は目覚めない。
 いや、ただの死体に皆の命を費やしてしまった。後悔がシエルに訪れる。
 自分が言い出したのだ。英雄であるゼロの力を借りようと。
 反対するものもいた。それを押し切って、皆を危険な目に遭わせ、存在していたのはただの死体だけだ。
「いや……」
「そんなわがまま言わないで、ブーン」
「ちんたらしていないでとっとと捕まえちまえ、ゴッツンコ」
 蟻型レプリロイドが現れて、あっさりとシエルの両腕を拘束する。
 身体を掴まれ、仲間から離されていく中、シエルは後ろを振り返って叫んだ。

「お願い、助けて! ゼロ!!」

 悲痛な叫び。届くと思っていない叫び。それでも理不尽には抗わずにいられない願い。
 シエルの声はさまざまな想いで満ちていた。
「うるさいでゴッツン…………」
 蟻型レプリロイドが抗議するが、その言葉は最後まで紡がれない。
 なぜなら、蟻型レプリロイドは真っ二つに斬り裂かれたのだから。
 シエルの身体が落とされ、地面に叩きつけられる前に誰かに抱きとめられた。
「ああ、任せろ」
 目の前の青年の、金髪が風になびく。
 赤いアーマーは陽光を浴びて輝き、眼はナイフのように鋭かった。
 冷たい雰囲気のほかに、内に秘めた熱さを感じさせる男。
 英雄『ゼロ』の復活の瞬間だった。


「な、なななんなぁ、だブーン!」
 蜂型レプリロイドがうろたえているのを無視して、ゼロはシエルを降ろし、剣を横になぎ払った。
 三体同時に切り裂いて、宙へ舞い上がる。空中なら身動きが取れないと思っているのだろう。甘い。
「空円舞! 氷烈斬!」
 ゼロはさらに飛び上がり、銃弾を避けて剣を逆手に持つ。Σブレードの刀身が氷を纏い、ゼロは眼下のパンテオンを貫いた。
 氷像となったパンテオンを足場に飛び上がり、竜巻をブレードへと溜めて放つ。
「嵐風斬!」
 ストーム・トルネードを一回り小さくした竜巻が、パンテオンの群れをなぎ払う。
 ゼロの力に戦慄したのか、パンテオンは逃げるか破れかぶれに襲ってくるかの二択になった。
 ゼロは襲いかかって来るパンテオンを冷静に見つめて、剣に炎を宿させる。
「龍炎刃!」
 パンテオンを一体焼き尽くし、下方で構える敵へゼロは剣を振り下ろす。
 円盤状の刃と化したゼロは二体のパンテオンを真っ二つにした後、静かに呟いた。
「空円斬」
「なにやっとるかーブーン! このままじゃ僕ちゃん出番減らされちゃうブーン!」
 リーダーの叱責に応えるためか、パンテオンはでたらめにバスターを撃った。
 ハカイダーと比べるとなんと幼稚な射撃であろうか。
 ゼロはジグザグに移動して鞭のようにしならせた刃をパンテオンへと放った。
「雷神撃!」
 電撃に焼かれ、意識を失う敵を見届けたとき、後ろから敵が襲ってきたのを確認する。
 やるな、と感想を持つがまだ甘い。後ろのパンテオンの腕を見ずに掴む。
「地獄五段返し!」
 空中で回されたパンテオンを蜂型レプリロイドへとぶつける。
 なにやら大騒ぎしているが、ゼロは構わず連中の中心へと躍り出た。
 囲んで殺す機会に、パンテオンの群れが殺到する。
「ゼロ!」
 シエル、と呼ばれた少女が危険を忠告するが、問題ない。
 ゼロはエネルギーを溜めた右手を地面へ叩きつけた。

「落鳳破ァ!」

 拡散するエネルギーが群がるパンテオンをすべて砕いた。
 これでもう敵はあの蜂型レプリロイドのみ。
 ゼロはΣブレードの剣先を蜂型レプリロイドに向けて一言告げる。
「やるか?」
 冷や汗かいた敵をゼロは冷たく見やる。
 ゼロの独壇場であった。


「すごい……」
 シエルは思わず、ゼロの圧倒的強さに呟かずにはいられなかった。
 五十体はいたパンテオンがまるで敵になっていない。まさに英雄に相応しい姿だ。
「ご、五十体のパンテオンが……こいつはメガトロン様に報告だー! ブーン」
「メガトロン!? 奴もいるのか? 答えろ!」
 ゼロは飛び上がって、両足蹴りを蜂型レプリロイドへとぶつける。
 地面に落ちた蜂型レプリロイドにゼロはΣブレードをかけて脅した。
 そのゼロに、シエルは近づく。
「メガトロンを知っているんですか……?」
「敬語は要らない。メガトロン……奴はなにをした?」
「メ、メガトロン様にかかればお前なんて一発だ! ブー……痛い痛い痛い」
 ゼロが蜂型レプリロイドの腕を捻りあげて、怒りの表情を浮かべた。
 メガトロンをゼロが知っているとは思ってもみなかったシエルはそのことを訪ねようとした。
 瞬間、壁が崩れて五メートル近い巨躯のメカニロイド・ゴーレムが入ってくる。
 こんなときに! とシエルが思うと、ゼロに抱きかかえられた浮かび上がった。
 ゴーレムの眼が光り、電子音が聞こえてくる。この声はメガトロンのものだ。
『やあ、ゼロ君。百年ぶりだねぇ』
「まさか俺が生き延びて、お前に再会するとは思わなかったぞ……メガトロン!」
 蜂型レプリロイドが『さっすがメガトロン様! ブーン』とのたまっているが、ゴーレムに吹き飛ばされる。
 当然の仕打ちだ、とシエルはなぜか思ってしまった。
『ハッハー! この地球の荒廃っぷりがお前さんが失敗した証拠さ』
「……言い訳はしない。その通りだ」
 ゼロの端正な顔が怒りで歪む。もしかして百年前の宇宙要塞衝突事件はメガトロンが引き起こしたものだろうか。
 ならばあっさりとコピーエックスを倒したことにも納得がいく。
 ゼロとゴーレムを通したメガトロンが睨みあう。
 静かな殺気に、二人の因縁の深さを感じてシエルはゼロを見届けるしかなかった。


(まいったねー、まさか生き延びていたなんて)
 レジスタンスにゼロの存在を教えたのはメガトロン本人である。
 落ち着いたため、平行世界移動装置のデータをあるかどうか調査するついで、レジスタンスへ嫌がらせをするつもりだったのだ。
 嘘から出たまことというべきか。
(まあ、プロット通りだ。書いてあるからしょうがない!)
 メガトロンは開き直って、ゼロへ意趣返しを出来る機会が巡ってきたことをむしろ喜んだ。
 メガトロンもゼロにはいろいろ返したいものがある。
 凶悪な笑みと共に、ゴーレムが送る映像のゼロを見下した。


 ゼロはメガトロンを前にして、自分だけが生き残ったことを悔やんだ。
 同時にメガトロンとの決着を着けれる機会に喜び、まだみんなの死が無駄でないことを悟る。
 ゆえに、ゼロは眼を見開いてメガトロンへ宣言する。
「だからこそ! メガトロン、お前は俺が斬る」
『ケッ! そりゃこっちの台詞だぜアーキハバラー!!』
 奇妙な叫び声を前に、ゼロの剣を握る拳に力が入る。
 ゼロは死者の想いだけではなく、背負っているものがある。
 メガトロンはそれを知って嘲るだろう。だがそれでも構わない。
 なぜならゼロは機会を得たのだ。
「ここに来る前は好きにさせてしまったが、今度こそ…………」
『あの時はお前さんに邪魔されたが、今度こそ…………』
 ゼロとメガトロンが同時に呟く。
 お互いにこめた念は強く、譲りようがない。
 だからこそ、二人は同時に宣言した。


         ロボ・サイボーグキャラバトルロワイアル最終回
         『俺が守るこの未来/俺様が破壊するこの未来』


「手出しはさせない!」
『指をくわえて見届けるんだな!』
 未来の守護者を宣言したゼロ。
 未来の破壊者を宣言したメガトロン。
 二人の拳が激突して、戦いの幕が上がった。


 こうしてこの物語は終りを告げる。
 続きの物語を見届ける資格があるのは、二人が賭けた未来の住民だけであった。
 守護者が未来を守りきるのか、破壊者が未来を壊しつくすか。
 決着のときは、シエルの眼が映したのだった。





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