「第6章~魔女と悪魔と戦士達~(2)」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

第6章~魔女と悪魔と戦士達~(2)」(2008/08/27 (水) 13:27:12) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

後に残されたのは、炎を失ったウォージーガイロンの亡骸だけだった。 火花や炎を散らす事もなく、完全に沈黙している。 その亡骸を見つめながら、ジェイスフォンがため息と共に呟いた。 「やっと終わったわね・・・」 「そう・・・ですね」 ガフムスも、完全に沈黙した亡骸を見て、安心したように言った。 亡骸の方から、ガルドを乗せたハーレーが走ってくる。 グッと親指を立て、さも嬉しそうだった。 だが、沈黙は、続かなかった。 …フィリュリーリラー・・・リファーリラリュー・・・ ビルの間に、突如フルートの音色が響き渡る。 それを聞き取り、周囲に気を配る一行。 突然、ジェイスフォンが亡骸の方を指さし、「アッ!」と声を上げた。 ガフムスとフレッドも亡骸の方を見、絶句した。 沈黙していた亡骸が宙に浮かび、再び青い炎をまとって、破壊された身体を再構築してい たのだ。 青い火の玉と化したパーツがお互いを炎の腕で結び、繋ぎ上げ、再生していく。 あっという間に、バベルの光を浴びる前の状態に戻ってしまった。 ォォオオオオオオオオオォォォォォォォ・・・!! 天を仰ぎ、ビリビリと辺りの空気が振動するような咆哮を上げる。 一行は驚きのあまり声も出ず、ただただ立ち尽くしていた。 「!シャイン・アロー!!」 ジェイスフォンが両手のクリスタルを構え、大声で唱える。 光の矢がウォージーガイロンに襲いかかる。 すると、ウォージーガイロンはそれを払うように左手を振った。 直後、振られた左手から、同じ光の矢が飛び出した。 衝突、消滅 「うそ・・・」 光の矢がぶつかり合い、お互いを呑み込んで消滅した。 それを目の当たりにし、愕然とするジェイスフォン。 その隣から、突如青白い光球が飛び出した。 「シー・クラッシャァ!!」 真っ直ぐ飛んでいく青白い光球。 すると、今度は右手の指先に青白いエネルギー球を作り、それを投げた。 衝突、閃光、爆炎 青白い光球がぶつかり合い、閃光と爆炎を散らして消滅した。 「こちらの技を・・・学習している」 ガフムスが呟くように言った。 「学習?・・・ってことは、まさか・・・」 フレッドが不安そうな目でウォージーガイロンを見つめる。 ウォージーガイロンは右手を高く掲げ、天を仰いだ。 指先から青・緑・赤紫の3色の光が・・・ 天空にのびる青・緑・赤紫の3色の光の柱。 それは空の高い所で一つになり、再び地上に降臨する! ズヴァァァァォォォォォォゥゥッ!! 光の柱が一行を呑み込む。 全身に、落雷したような電撃が走る。 絶叫に近い悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる。 光の柱は、それでも容赦なく一行を攻撃し続ける。 その光の柱に突っ込んでいく赤いハーレー。 光を全身に浴びながらも、光の柱から一行を連れだした。 一行を乗せたハーレーは、光の柱から逃げる。 光の柱は、一行を乗せたハーレーを追う。 光の柱を、銀色の翼が追う。 柱が、一瞬傾いた。 光、爆音、転倒 一気に加速した光の柱が、ハーレーを呑み込む。 光に呑まれ、雷撃に耐えきれなくなったハーレーは、エンジンをバーストさせて転倒した。 気を失ったまま放り出されるフレッド、ガルド、ガフムス、ジェイスフォン。 火花を散らし、スライディングして止まる赤いハーレー。 巻き込まれ、墜落する銀色の翼。 巨大な悪魔・ウォージーガイロンが、地を揺さぶるような足音をたてて歩み寄り、それを見下ろしていた。 その悪魔の肩の上に、ビルの上から誰かが飛び乗った。 年の頃、18歳くらいの少女。 幾何学模様の刻まれた白いアーマーが、月明かりを浴びて光の輪郭を得る。 腰までかかる黒髪が、心地よい夜風に靡く。 赤い瞳が印象的なその顔は、整った面立ちをしていた。 右手には、銀色に光る「フルート」らしき楽器を持っていた。 「・・・無惨なものね。手を出さなければ、もう少し生きられたでしょうに・・・」 少女のような声で呟く。普通の少女の声ではなく、邪悪な何かを秘めた、魔女のような声。 少女はゆっくりとフルートを持ち上げ、そっと唇にあてた。 …フィーリュー・・・ フルートの音に合わせ、悪魔が青い炎に包まれた右手を振り上げる。 青い炎の間から赤い光が伸び、右手を包んだ。 ジュノの技、「ゲイザー・スパイラル」のまがい物である。 …フィリラー!・・・ フルートの音と共に、悪魔の右手が振り下ろされる。 全てが、終わろうとしていた・・・ ガキィィンッ!! 金属のぶつかり合うような音がビルの間に響き渡った。 振り下ろされたはずの悪魔の右手は、赤い光を帯びた白い腕に止められていた。 ならばと、空いている左手を振り上げ、赤い光に包ませる。 すると、遙か彼方から飛んできた、別の赤い光を帯びた白い腕に止められた。 「バラクテック・クラスタァ!!」 両腕を封じられた悪魔の胸に、直径1mを越える赤い光球が、勢いよく衝突・爆発した。 その威力に押され、後ろ向きに倒れるウォージーガイロン。 慌てて肩から飛び上がり、ビルの上に降り立つ黒髪の少女。 バランスを崩した悪魔と少女の前に、白いアーマーが煙のように現れた。 悪魔の両腕を封じていた白い腕が離れ、煙のように宙に消える・・・ 地上10m程度の空中に、風船のように浮かぶ白いアーマー・ジュノ。 だが、それはいつものジュノではない。 何か、とてつもなく強力なオーラを放っていた。 月明かりに光の輪郭を得た白いアーマーには、遺跡で目にするような幾何学模様が幾つも刻み込まれている。 紫色の髪は月明かりに光り、夜風に靡く。 灰色の瞳は、怒りと憎しみ、悲しみを帯び、強い殺気を放っていた。 「今までのフルートの音、やはりあなたのものでしたか。プロトナンバーズ・メディア」 ビルの上に立つ黒髪の少女に向かい、鋭い目つきで言い放つジュノ。 黒髪の少女・メディアは一瞬驚いたような表情を見せたが、微かに含み笑いして答えた。 「・・・ええ。この島に拘束された私のフルートの音よ。懐かしいでしょ? カトルオックス島担当の三等司政官ロックマン・ジュノ」 赤い瞳が、宙に浮かぶジュノを捉える。 血のような光で濁った、邪悪な瞳だった。 「懐かしい・・・?どういう事です・・・?」 ジュノが呟くように言う。 同時に、初めて遺跡に入った時の不思議な感覚と、何かに胸を締め付けられるような痛みが、ジュノを襲った。 今までで一番強い。 「・・・覚えて・・・ないの?私の名前は覚えているのに・・・?」 メディアの表情が暗く変わる。信じられないといった様子だ。 「じゃ・・・どうやって復活したの?貴方のバックアップデータは消去されたはず・・・」 「俺が直したんだよ」 不意に、メディアの背後から声がした。 慌ててその場から飛び退き、向かいのビルの上に降り立つメディア。 メディアがさっきまでいた場所には、銀色のガイドアームを持つジェノの姿があった。「直した?貴方のようなデコイに端末ボディを修復できたというの?」 半ばあざ笑うように言い放つメディア。 ジェノは怒ることもなく、落ち着いて話し始めた。 「端末だけじゃない、PMSファイル(パーソナル・マインド・システム・ファイル)も ほぼ完全に修復した。ジュノの口調や思考傾向が残っているのはそのためだ。 ・・・ジュノは島のマスターキーだった。当然、端末は予備パーツがあったし、遺跡内 にはバックアップデータ保存用のハードディスクもある。 メインの端末は破壊され、エデンにあったバックアップデータは消去された。 だが、予備パーツとハードディスクは手つかずのまま残されていた。 処理した奴もうかつだったな。後始末をしっかりやらんで出て行ったらしい・・・  俺はその予備パーツとハードディスクを使って端末とプログラム、PMSファイルを修 復したんだ。 そして、破壊された端末の残骸からメモリー(記憶)をサルベージして、断片と一緒に 端末に入れた・・・。破損の激しかったメモリーを、自分で再構成できるようにな。 結果は見ての通りだ。メモリーは部分的にではあるが再構成され、修復されている。 修復だけじゃない。別の環境を体験したため、今まではなかった感情も持っている。 今のジュノは、もう昔のジュノではない・・・ ついでに、俺はデコイでもシステム従事者でもない・・・」 そこまで言って、ジェノは目を閉じた。 心地よい夜風が、銀色の髪を靡かせ、通り過ぎていった。 「・・・完全に修復した訳じゃないのね・・・私の事は覚えていない・・・ それなら・・・ジュノ。作業の邪魔をするようなら、残念だけど、貴方を敵と認識し、 破壊させてもらうわ!」 暗い魔女の声が夜闇に、ビルの林に響く。 と次の瞬間、銀色のフルートの音が辺りに響き、魔女の操り人形となった悪魔が右の拳を振り上げた。 ジュノは瞬時に右手をかざし、静かに唱える。 「ヘルズハンド・ウィズライト」 右腕の肘から先が赤い光を帯び、ジュノの身体を離れて飛んで行く。 腕は悪魔の拳を抑え、さらに青い炎の中に見える内部機構を破壊しようとディティールを上げる。 悪魔の腕が、メキメキという音を立てて壊れはじめた。 しかし、一度壊されたパーツは再び青い炎に包まれ、一瞬で再生される。 いくら破壊しても無駄だった。 「ジュノ!周りを気にせず片付けろ!」 背後で、ジェノの声がした。 肩越しに、声のした方へ視線を送る。 ジェノが、フレッドやガルドの前で銀色の腕をかざしていた。 「こいつらは俺が何とかする!おまえは全力でそいつを叩け!!」 「生意気な!」 魔女の声とフルートの音が響く。 次の瞬間、悪魔が空いていた左の拳を振り上げ、勢いよく振り下ろしてきた。 「ヘルズハンド・ウィズレフト」 素早く左腕をかざし、また静かに唱える。 左腕の肘から先が赤い光を帯び、ジュノの身体を離れて飛んで行った。 腕は悪魔の拳を封じ、さらに押し返しはじめる。 2つの赤い光が、徐々にその強さを増していった。 「邪魔よ!!」 魔女の声がビルの林に響いたかと思うと、ジュノは強い衝撃を受けて弾き飛ばされた。 支えを無くし、力を失った両腕は、悪魔の拳で払いのけられる。 そのまま、腕はジュノのもとに返ってきた。 「いくら再構成しても・・・私の能力の前では無意味よ。 私は貴方と違って、本物のMP出力が使えるんだから・・・ 擬似MP出力しか使えない貴方達ロックマンシリーズは、私達プロトナンバーズに勝つ ことなんて出来ないの!」 魔女の声が響く。 ジュノは空中で体勢を立て直し、魔女に右手をかざした。 「そんなこと、やって見なくては分かりませんよ! フルラウンド・クラッシャァ!」 「だから無駄なのよ・・・シールド」 直径3mを超える紫色の光球が浮かび、魔女に向かって一直線に飛んでいく。 しかし、それは魔女の一歩手前で、ろうそくの炎のようにかき消されてしまった。 爆発もしない。閃光も発しない。爆音すら残さない。 ジュノは激しく動揺した。 「何度も言うようだけど、無意味なのよ。擬似MPは本場MPの半分程度しか力がないの。 これなら分かるでしょう?・・・アイシクル」 魔女・メディアが、フルートを前にして唱える。 途端、魔女の周りに幾つもの氷の刃が浮かび上がった。 「・・・ゴゥ」 静かにかけ声をかける。 すると、氷の刃は命を吹き込まれたように動き出し、ジュノに襲いかかってきた。 「ジュノサイド・ギア!」 ジュノの両手から無数の赤い光球が放たれ、氷の刃を迎撃する。 しかし、氷の刃は器用に光球の間をすり抜け、襲いかかってきた。 アーマーを傷つけ、間接部を斬りつける氷の刃。 次の瞬間、氷の刃が頭部を直撃し、ジュノはアスファルトに叩き落とされた。 「ジュノ!」 ジェノの叫びがビルの林にこだまする。 しかしその叫びは、次の瞬間には鋭い金属音にかき消されていた。 悪魔・ウォージーガイロンが、ジェノ達目掛けて拳を振り下ろしてきたのだ。 ギリギリの所でガイドアームを前に出し、拳を片手で受け止める。 手の平から、火花が散った。 「ったく、しつこいな・・・」 悪魔を見上げつつ、ジェノは呟いた。 ガイドアームの肩の部分が持ち上がり、白い蒸気を噴く。 度重なる無理な使用で、内部が異常発熱を起こしていた。 誰かの気配を感じ、横目でチラッと後ろを見る。 フレッドが左胸を押さえ、無理に立ち上がろうとしていた。 「起きるな。今のおまえに戦闘は無理だ」 フレッドに向かって言い放つジェノ。 それでも、フレッドは立ち上がる。 その隣でガフムスも、大鎌を杖代わりに立ち上がろうとしていた。 「・・・ジュノを・・・助けな・・・」 傷だらけの身体で立ち上がるフレッド。 赤い体液が滴り落ち、視界がぼやける。 意識ははっきりしているが、全身からくる痛みの前では・・・ 「・・・若い身空で命を散らすな。休んでろ・・・こいつは・・・」 再び前を見るジェノ。 悪魔が、空いた片手を振り上げていた。 「俺が葬ってやる!」 そう言うが早いか、ジェノは抑えていた拳を払い、左手をかざす。 途端、大砲でもぶっ放したような大音響がビルの林にこだまし、悪魔は吹き飛ばされた。 ズズゥン・・・ 自ら破壊したビルの残骸の中に落ち、地を揺らす悪魔・ウォージーガイロン。 ジェノは倒れた悪魔に向かって疾走し、天高く飛び上がった。 ォォオオオオオオオォォォォォォォ・・・!! 立ち上がり、咆哮を上げ、ジェノに向かって拳を振り下ろす悪魔。 ジェノは避けることもなく、右手を前に出した。 鋭い金属音。 飛び散る火花。 ジェノは地上から20m程の空中で制止し、悪魔の拳を受け止めていた。 「俺を・・・甘く見るなッ!」 ガイドアームに左手を当て、悪魔を睨み付けるジェノ。 ガイドアームの機械的なうなり声が、一気に高くなった。 ガガッ!・・・グワアアアァァァァァ・・・!! ガイドアームがギアがかかるような音を発し、空中で制止したまま、ゆっくりと悪魔の拳を持ち上げる。 それにつられて、悪魔の身体も持ち上がった。 慌てふためく悪魔。 「へっ・・・The・Endだ・・・」 ジェノは自分の真上まで悪魔を持ち上げ、不敵な笑みを漏らした。 「打ち砕かれ、もがき苦しむがいいッ!!」 ジェノの身体が、一瞬光になった。 一瞬の刹那 光となったジェノは一気に上昇し、拳を砕き、コアを粉砕し、悪魔の身体の中を突き抜けて月へと舞い上がった。 悪魔の身体がねじ単位まで分解され、崩れ落ちる。 それでも、青い炎は分解されたパーツを修復にかかる。 ジェノは空中で身体をねじり、悪魔の方へと向きを変えて制止する。 月を背に負ったガイドアームが、その炎の真ん中に照準を絞った。 右手の平に、黒い光が集まる。 それは互いにくっつきあい、直径10cm程の一つのエネルギー球となった。 「闇と光の結晶よ、その力を持って、我が前に現れたる死者を葬り去らんッ!!」 [[前へ]] [[次へ]]
後に残されたのは、炎を失ったウォージーガイロンの亡骸だけだった。 火花や炎を散らす事もなく、完全に沈黙している。 その亡骸を見つめながら、ジェイスフォンがため息と共に呟いた。 「やっと終わったわね・・・」 「そう・・・ですね」 ガフムスも、完全に沈黙した亡骸を見て、安心したように言った。 亡骸の方から、ガルドを乗せたハーレーが走ってくる。 グッと親指を立て、さも嬉しそうだった。 だが、沈黙は、続かなかった。 …フィリュリーリラー・・・リファーリラリュー・・・ ビルの間に、突如フルートの音色が響き渡る。 それを聞き取り、周囲に気を配る一行。 突然、ジェイスフォンが亡骸の方を指さし、「アッ!」と声を上げた。 ガフムスとフレッドも亡骸の方を見、絶句した。 沈黙していた亡骸が宙に浮かび、再び青い炎をまとって、破壊された身体を再構築してい たのだ。 青い火の玉と化したパーツがお互いを炎の腕で結び、繋ぎ上げ、再生していく。 あっという間に、バベルの光を浴びる前の状態に戻ってしまった。 ォォオオオオオオオオオォォォォォォォ・・・!! 天を仰ぎ、ビリビリと辺りの空気が振動するような咆哮を上げる。 一行は驚きのあまり声も出ず、ただただ立ち尽くしていた。 「!シャイン・アロー!!」 ジェイスフォンが両手のクリスタルを構え、大声で唱える。 光の矢がウォージーガイロンに襲いかかる。 すると、ウォージーガイロンはそれを払うように左手を振った。 直後、振られた左手から、同じ光の矢が飛び出した。 衝突、消滅 「うそ・・・」 光の矢がぶつかり合い、お互いを呑み込んで消滅した。 それを目の当たりにし、愕然とするジェイスフォン。 その隣から、突如青白い光球が飛び出した。 「シー・クラッシャァ!!」 真っ直ぐ飛んでいく青白い光球。 すると、今度は右手の指先に青白いエネルギー球を作り、それを投げた。 衝突、閃光、爆炎 青白い光球がぶつかり合い、閃光と爆炎を散らして消滅した。 「こちらの技を・・・学習している」 ガフムスが呟くように言った。 「学習?・・・ってことは、まさか・・・」 フレッドが不安そうな目でウォージーガイロンを見つめる。 ウォージーガイロンは右手を高く掲げ、天を仰いだ。 指先から青・緑・赤紫の3色の光が・・・ 天空にのびる青・緑・赤紫の3色の光の柱。 それは空の高い所で一つになり、再び地上に降臨する! ズヴァァァァォォォォォォゥゥッ!! 光の柱が一行を呑み込む。 全身に、落雷したような電撃が走る。 絶叫に近い悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる。 光の柱は、それでも容赦なく一行を攻撃し続ける。 その光の柱に突っ込んでいく赤いハーレー。 光を全身に浴びながらも、光の柱から一行を連れだした。 一行を乗せたハーレーは、光の柱から逃げる。 光の柱は、一行を乗せたハーレーを追う。 光の柱を、銀色の翼が追う。 柱が、一瞬傾いた。 光、爆音、転倒 一気に加速した光の柱が、ハーレーを呑み込む。 光に呑まれ、雷撃に耐えきれなくなったハーレーは、エンジンをバーストさせて転倒した。 気を失ったまま放り出されるフレッド、ガルド、ガフムス、ジェイスフォン。 火花を散らし、スライディングして止まる赤いハーレー。 巻き込まれ、墜落する銀色の翼。 巨大な悪魔・ウォージーガイロンが、地を揺さぶるような足音をたてて歩み寄り、それを見下ろしていた。 その悪魔の肩の上に、ビルの上から誰かが飛び乗った。 年の頃、18歳くらいの少女。 幾何学模様の刻まれた白いアーマーが、月明かりを浴びて光の輪郭を得る。 腰までかかる黒髪が、心地よい夜風に靡く。 赤い瞳が印象的なその顔は、整った面立ちをしていた。 右手には、銀色に光る「フルート」らしき楽器を持っていた。 「・・・無惨なものね。手を出さなければ、もう少し生きられたでしょうに・・・」 少女のような声で呟く。普通の少女の声ではなく、邪悪な何かを秘めた、魔女のような声。 少女はゆっくりとフルートを持ち上げ、そっと唇にあてた。 …フィーリュー・・・ フルートの音に合わせ、悪魔が青い炎に包まれた右手を振り上げる。 青い炎の間から赤い光が伸び、右手を包んだ。 ジュノの技、「ゲイザー・スパイラル」のまがい物である。 …フィリラー!・・・ フルートの音と共に、悪魔の右手が振り下ろされる。 全てが、終わろうとしていた・・・ ガキィィンッ!! 金属のぶつかり合うような音がビルの間に響き渡った。 振り下ろされたはずの悪魔の右手は、赤い光を帯びた白い腕に止められていた。 ならばと、空いている左手を振り上げ、赤い光に包ませる。 すると、遙か彼方から飛んできた、別の赤い光を帯びた白い腕に止められた。 「バラクテック・クラスタァ!!」 両腕を封じられた悪魔の胸に、直径1mを越える赤い光球が、勢いよく衝突・爆発した。 その威力に押され、後ろ向きに倒れるウォージーガイロン。 慌てて肩から飛び上がり、ビルの上に降り立つ黒髪の少女。 バランスを崩した悪魔と少女の前に、白いアーマーが煙のように現れた。 悪魔の両腕を封じていた白い腕が離れ、煙のように宙に消える・・・ 地上10m程度の空中に、風船のように浮かぶ白いアーマー・ジュノ。 だが、それはいつものジュノではない。 何か、とてつもなく強力なオーラを放っていた。 月明かりに光の輪郭を得た白いアーマーには、遺跡で目にするような幾何学模様が幾つも刻み込まれている。 紫色の髪は月明かりに光り、夜風に靡く。 灰色の瞳は、怒りと憎しみ、悲しみを帯び、強い殺気を放っていた。 「今までのフルートの音、やはりあなたのものでしたか。プロトナンバーズ・メディア」 ビルの上に立つ黒髪の少女に向かい、鋭い目つきで言い放つジュノ。 黒髪の少女・メディアは一瞬驚いたような表情を見せたが、微かに含み笑いして答えた。 「・・・ええ。この島に拘束された私のフルートの音よ。懐かしいでしょ? カトルオックス島担当の三等司政官ロックマン・ジュノ」 赤い瞳が、宙に浮かぶジュノを捉える。 血のような光で濁った、邪悪な瞳だった。 「懐かしい・・・?どういう事です・・・?」 ジュノが呟くように言う。 同時に、初めて遺跡に入った時の不思議な感覚と、何かに胸を締め付けられるような痛みが、ジュノを襲った。 今までで一番強い。 「・・・覚えて・・・ないの?私の名前は覚えているのに・・・?」 メディアの表情が暗く変わる。信じられないといった様子だ。 「じゃ・・・どうやって復活したの?貴方のバックアップデータは消去されたはず・・・」 「俺が直したんだよ」 不意に、メディアの背後から声がした。 慌ててその場から飛び退き、向かいのビルの上に降り立つメディア。 メディアがさっきまでいた場所には、銀色のガイドアームを持つジェノの姿があった。「直した?貴方のようなデコイに端末ボディを修復できたというの?」 半ばあざ笑うように言い放つメディア。 ジェノは怒ることもなく、落ち着いて話し始めた。 「端末だけじゃない、PMSファイル(パーソナル・マインド・システム・ファイル)も ほぼ完全に修復した。ジュノの口調や思考傾向が残っているのはそのためだ。 ・・・ジュノは島のマスターキーだった。当然、端末は予備パーツがあったし、遺跡内 にはバックアップデータ保存用のハードディスクもある。 メインの端末は破壊され、エデンにあったバックアップデータは消去された。 だが、予備パーツとハードディスクは手つかずのまま残されていた。 処理した奴もうかつだったな。後始末をしっかりやらんで出て行ったらしい・・・  俺はその予備パーツとハードディスクを使って端末とプログラム、PMSファイルを修 復したんだ。 そして、破壊された端末の残骸からメモリー(記憶)をサルベージして、断片と一緒に 端末に入れた・・・。破損の激しかったメモリーを、自分で再構成できるようにな。 結果は見ての通りだ。メモリーは部分的にではあるが再構成され、修復されている。 修復だけじゃない。別の環境を体験したため、今まではなかった感情も持っている。 今のジュノは、もう昔のジュノではない・・・ ついでに、俺はデコイでもシステム従事者でもない・・・」 そこまで言って、ジェノは目を閉じた。 心地よい夜風が、銀色の髪を靡かせ、通り過ぎていった。 「・・・完全に修復した訳じゃないのね・・・私の事は覚えていない・・・ それなら・・・ジュノ。作業の邪魔をするようなら、残念だけど、貴方を敵と認識し、 破壊させてもらうわ!」 暗い魔女の声が夜闇に、ビルの林に響く。 と次の瞬間、銀色のフルートの音が辺りに響き、魔女の操り人形となった悪魔が右の拳を振り上げた。 ジュノは瞬時に右手をかざし、静かに唱える。 「ヘルズハンド・ウィズライト」 右腕の肘から先が赤い光を帯び、ジュノの身体を離れて飛んで行く。 腕は悪魔の拳を抑え、さらに青い炎の中に見える内部機構を破壊しようとディティールを上げる。 悪魔の腕が、メキメキという音を立てて壊れはじめた。 しかし、一度壊されたパーツは再び青い炎に包まれ、一瞬で再生される。 いくら破壊しても無駄だった。 「ジュノ!周りを気にせず片付けろ!」 背後で、ジェノの声がした。 肩越しに、声のした方へ視線を送る。 ジェノが、フレッドやガルドの前で銀色の腕をかざしていた。 「こいつらは俺が何とかする!おまえは全力でそいつを叩け!!」 「生意気な!」 魔女の声とフルートの音が響く。 次の瞬間、悪魔が空いていた左の拳を振り上げ、勢いよく振り下ろしてきた。 「ヘルズハンド・ウィズレフト」 素早く左腕をかざし、また静かに唱える。 左腕の肘から先が赤い光を帯び、ジュノの身体を離れて飛んで行った。 腕は悪魔の拳を封じ、さらに押し返しはじめる。 2つの赤い光が、徐々にその強さを増していった。 「邪魔よ!!」 魔女の声がビルの林に響いたかと思うと、ジュノは強い衝撃を受けて弾き飛ばされた。 支えを無くし、力を失った両腕は、悪魔の拳で払いのけられる。 そのまま、腕はジュノのもとに返ってきた。 「いくら再構成しても・・・私の能力の前では無意味よ。 私は貴方と違って、本物のMP出力が使えるんだから・・・ 擬似MP出力しか使えない貴方達ロックマンシリーズは、私達プロトナンバーズに勝つ ことなんて出来ないの!」 魔女の声が響く。 ジュノは空中で体勢を立て直し、魔女に右手をかざした。 「そんなこと、やって見なくては分かりませんよ! フルラウンド・クラッシャァ!」 「だから無駄なのよ・・・シールド」 直径3mを超える紫色の光球が浮かび、魔女に向かって一直線に飛んでいく。 しかし、それは魔女の一歩手前で、ろうそくの炎のようにかき消されてしまった。 爆発もしない。閃光も発しない。爆音すら残さない。 ジュノは激しく動揺した。 「何度も言うようだけど、無意味なのよ。擬似MPは本場MPの半分程度しか力がないの。 これなら分かるでしょう?・・・アイシクル」 魔女・メディアが、フルートを前にして唱える。 途端、魔女の周りに幾つもの氷の刃が浮かび上がった。 「・・・ゴゥ」 静かにかけ声をかける。 すると、氷の刃は命を吹き込まれたように動き出し、ジュノに襲いかかってきた。 「ジュノサイド・ギア!」 ジュノの両手から無数の赤い光球が放たれ、氷の刃を迎撃する。 しかし、氷の刃は器用に光球の間をすり抜け、襲いかかってきた。 アーマーを傷つけ、間接部を斬りつける氷の刃。 次の瞬間、氷の刃が頭部を直撃し、ジュノはアスファルトに叩き落とされた。 「ジュノ!」 ジェノの叫びがビルの林にこだまする。 しかしその叫びは、次の瞬間には鋭い金属音にかき消されていた。 悪魔・ウォージーガイロンが、ジェノ達目掛けて拳を振り下ろしてきたのだ。 ギリギリの所でガイドアームを前に出し、拳を片手で受け止める。 手の平から、火花が散った。 「ったく、しつこいな・・・」 悪魔を見上げつつ、ジェノは呟いた。 ガイドアームの肩の部分が持ち上がり、白い蒸気を噴く。 度重なる無理な使用で、内部が異常発熱を起こしていた。 誰かの気配を感じ、横目でチラッと後ろを見る。 フレッドが左胸を押さえ、無理に立ち上がろうとしていた。 「起きるな。今のおまえに戦闘は無理だ」 フレッドに向かって言い放つジェノ。 それでも、フレッドは立ち上がる。 その隣でガフムスも、大鎌を杖代わりに立ち上がろうとしていた。 「・・・ジュノを・・・助けな・・・」 傷だらけの身体で立ち上がるフレッド。 赤い体液が滴り落ち、視界がぼやける。 意識ははっきりしているが、全身からくる痛みの前では・・・ 「・・・若い身空で命を散らすな。休んでろ・・・こいつは・・・」 再び前を見るジェノ。 悪魔が、空いた片手を振り上げていた。 「俺が葬ってやる!」 そう言うが早いか、ジェノは抑えていた拳を払い、左手をかざす。 途端、大砲でもぶっ放したような大音響がビルの林にこだまし、悪魔は吹き飛ばされた。 ズズゥン・・・ 自ら破壊したビルの残骸の中に落ち、地を揺らす悪魔・ウォージーガイロン。 ジェノは倒れた悪魔に向かって疾走し、天高く飛び上がった。 ォォオオオオオオオォォォォォォォ・・・!! 立ち上がり、咆哮を上げ、ジェノに向かって拳を振り下ろす悪魔。 ジェノは避けることもなく、右手を前に出した。 鋭い金属音。 飛び散る火花。 ジェノは地上から20m程の空中で制止し、悪魔の拳を受け止めていた。 「俺を・・・甘く見るなッ!」 ガイドアームに左手を当て、悪魔を睨み付けるジェノ。 ガイドアームの機械的なうなり声が、一気に高くなった。 ガガッ!・・・グワアアアァァァァァ・・・!! ガイドアームがギアがかかるような音を発し、空中で制止したまま、ゆっくりと悪魔の拳を持ち上げる。 それにつられて、悪魔の身体も持ち上がった。 慌てふためく悪魔。 「へっ・・・The・Endだ・・・」 ジェノは自分の真上まで悪魔を持ち上げ、不敵な笑みを漏らした。 「打ち砕かれ、もがき苦しむがいいッ!!」 ジェノの身体が、一瞬光になった。 一瞬の刹那 光となったジェノは一気に上昇し、拳を砕き、コアを粉砕し、悪魔の身体の中を突き抜けて月へと舞い上がった。 悪魔の身体がねじ単位まで分解され、崩れ落ちる。 それでも、青い炎は分解されたパーツを修復にかかる。 ジェノは空中で身体をねじり、悪魔の方へと向きを変えて制止する。 月を背に負ったガイドアームが、その炎の真ん中に照準を絞った。 右手の平に、黒い光が集まる。 それは互いにくっつきあい、直径10cm程の一つのエネルギー球となった。 「闇と光の結晶よ、その力を持って、我が前に現れたる死者を葬り去らんッ!!」 爆発、衝撃、炎上 エネルギー球が青い炎の真ん中を貫き、火柱を上げる。 青い炎が吹き飛び、アスファルトが砕け、ビルがなぎ倒され、まだ未完成の悪魔の身体がバラバラになって地に食い込んだ。 「・・・死者は、仲間と共に逝くのが、一番いいんだ・・・」 完全に破壊された悪魔の残骸の前に降り立ち、ジェノは天を仰いで呟いた。 「・・・全能神ゼウスの名の下、仲間と共に逝き、仲間と共に転生せよ・・・!」 「・・・そんな・・・馬鹿な・・・」 魔女・メディアは動揺を隠せなかった。 自己再生が可能なあのウォージーガイロンが消されるなど、到底考えられないことだ。 だが、すぐに平静を取り戻し、アスファルトに叩き付けられたジュノを見下ろす。 「大した仲間がいたみたいだけど、貴方はもうお終いのようね・・・アイシクル」 微かに含み笑いし、フルートを前にして唱える。 メディアの周りに、幾つもの氷の刃が浮かび上がった。 「・・・ゴゥ」 静かにかけ声をかける。 氷の刃が命を吹き込まれたように動き出し、ジュノに襲いかかってきた。 刹那の差で地を蹴り、襲いくる氷の刃を避ける。 手をついてバク転し、メディアに両手をかざした。 「エアー・ブラスト!」 途端、目に見えない空気の塊が、メディアに向かって飛んでいった。 「シールド」 魔女の一歩手前でろうそくの炎のように消される。 ジュノは両手を向かい合わせ、スパークを起こした。 赤いエネルギー球が瞬時に出来上がり、大きく成長する。 ジュノはそれを魔女に向かって撃ち放った。 「レッドサンダー・クラスタァ!!」 真っ直ぐ飛んでいく赤いエネルギー球。 再び「シールド」を唱え、含み笑いする魔女。 魔女の周りに張り巡らされたシールドに赤いエネルギー球がぶつかる瞬間、ジュノは大声で叫んだ。 「ブレイク!」 爆発、閃光、衝撃 エネルギー球はシールドにぶつかる直前、大爆発を起こす。 閃光が辺りを包み、衝撃波がビルの林をなぎ倒す。 爆風に、魔女・メディアが弾き飛ばされた。 ジュノサイド・アタックでそれを追撃するジュノ。 エネルギー球はメディアの手前で次々に爆発し、メディアの身体にダメージを与える。 「・・・り・・・リフレクタッ!!」 フルートを前に、かすれた声で唱えるメディア。 光が球を形成し、メディアを内部に取り込む。 エネルギー球の爆発が、光によって阻まれた。 「クリスタル・シックルッ!!」 メディアの背後から、水晶の鎌が飛んで来る。 鎌は光を貫通し、メディアのアーマーに深い傷を作った。 「ブレイドッ!」 メディアの声に合わせ、銀色に光る剣が宙に浮かぶ。 剣は号令を待たずに飛び出し、ガフムスを攻撃した。 すれ違いざまに斬りつけ、アーマーをつけていないガフムスをいたぶる。 それを鎌の刃で弾き、柄で叩き落とし、応戦する。 突然、青白い触手が剣を襲った。 剣が姿勢を崩し、一瞬動きを鈍らせた。 「(今だ!)」 ガフムスの刃が宙を舞い、剣と交差する。 鋭い金属音が響き、剣は真ん中あたりから真っ二つに折られ、地に落ちた。 「チッ!」 軽く舌打ちし、空を蹴って空高く飛び上がる魔女・メディア。 それを赤と青の光が追い、黒い鎌が斬る。 閃光 赤と青の光が一瞬でかき消され、黒い鎌が弾き返された。 邪悪な笑みを浮かべ、フルートを前に出し、唱える。 「バベル!」 暗い光が天空に延びる。 雲を散らし、天空に波紋を起こしたその光は柱となり、角度を変えて再び地上に降臨する! ズヴァァァァォォォォォォゥゥッ!! 暗い光の柱が3人に落ちる。 だが、そこに赤い救世主が現れた。 飛び散る火花。 高鳴るエンジン音。 折れ曲がる光の柱。 赤いハーレーが光の柱に当たり、柱を曲げる。 柱は倒壊したビル街を越え、暗い夜の海へと消えていった。 柱が消え去ったのを確認し、ハーレーは3人の所へ降る。 乗っていたガルドがグッと親指を立てた。 光刃、閃光、爆発 突然、メディアを三つの光が襲った。 青紫色の光の刃がメディアの腹部を斬りつけ、赤紫と黒い光が食らいつく。 光は爆発を起こし、辺りに火花を散らす。 爆炎が、メディアを包んだ。 [[前へ]] [[次へ]]

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
記事メニュー
目安箱バナー