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第2章 第一次作戦開始(中編)(2)」(2008/08/28 (木) 15:45:47) の最新版変更点

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V.S.シャイニング・ホタルニクス① 一度本部へ戻り、新たに開発された強化アーマーの転送装置を組み込まれたエックスは、 シャイニング・ホタルニクス レーザー工学博士の造った特注のレーザー装置を 受け取りに、ドイツ連邦共和国・バイエルンにある彼の研究所へと赴いた。 「さて・・・・」 ライドチェイサー『アディオン』から体を下ろすと、エックスは前方を眺めた。 目の前に広がっている光景は、中世のヨーロッパの城としか表現のしようがなかった。 だが間違いなく、ここはホタルニクス博士の国立レーザー工学研究所である。 それもそのはず───ホタルニクス博士は欧州文化をこよなく愛する、 根っからのヨーロッパ人である。 実を言うと、この研究所は元々重要文化財であったノイシュバンシュタイン城を国家の 許可を受けて改造したものだった。ノイシュバンシュタイン城。かつて、シンデレラと いうおとぎ話の発祥の地となった城である。 だがその面影は今微塵もなかった。外観はシンデレラのそれを彷彿とはさせるが、 中から強烈な邪気のようなものが発生させられている。恐らく、中は∑ウィルスが 繁殖する温床となっているのだろう。ちょうど、1日前までいたクラーケンの研究所と ほぼ同じ状態である。 だとすれば──── (あの研究所の中にいるホタルニクス博士も危ない!) クラーケンは最初は無事であるようだったが、話の途中から凶変が始まったのだ。 それは多分クラーケンが必死に内部でうごめくウィルスを抑えていたからなのだろうが、 今度までそうなっている保障はない。既に狂乱状態となっていても、 何の不思議もないのだ。 エックスは瞬間的に足裏のスラスターと背部のバーニアから出力してダッシュしていた。 こちらの足場とあちらの足場をつなぐはずの橋を吊り上げている鎖をバスターで 断ち切ると、そのままダッシュジャンプいて、綺麗に橋へと着地する。続いて彼は チャージショットで頑強な城門を粉砕すると、猛烈な勢いで城の中へと突入していった。 V.S.シャイニング・ホタルニクス② 胸が、いや、心が痛む─── 薄れゆく意識の中で、ホタルニクスは何とか自制を保っていた。 2頭身のちんまいボディ。短手短足。あまり品のあるデザインとは言えないが、 それは科学者としては関係のないことだ。実際彼は『光の魔術師』とまで謳われた レーザー工学者なのである。 だが、それがどうだ──── つい数日前から得体の知れないウィルスに感染してからというもの、自分は当然のこと、 研究所全体が混沌の渦に飲み込まれている。今頃セキュリティシステムは全て暴走し、 動く物体を見境なく攻撃する猛獣と化しているだろう。 だが、そんなことは彼にとってどうでもよいことではあった。彼はただぼんやりと、 失われていく思考能力を最大限に振り絞って、ある1つのことを考えていた。 それは、自らがしている仕事の価値についてだった。 思い返せば、ホタルニクスは『平和な世界の産業に役立つレーザー工学』を 開発していた、平和主義者の1人だった。 それが、いつしか学会の中で名を馳せていく内に───いつの間にやら、自分は 軍需産業に貢献するレーザー兵器の主要な開発者の1人となっていた。 一体自分は何のために努力してきたのだろう。こんなはずではなかったのに。 そして彼は、あらゆる方面においてレプリロイドの敵でしかない 存在──イレギュラーハンターに新兵器を提供していた。自分が最も忌み嫌っていた、 あの組織に、だ。 『Σの反乱』において、レプリフォースの協力を、名誉回復のチャンスを 損ねるといったつまらない目的で拒否してその活動を妨害し、更にはその事実を隠蔽し、 挙句にレプリフォース大戦ではレプリフォースの怒りを無視して徹底的に 独立共和国の設立を妨げた。 もはや一部の人間至上主義の人類達の犬となってしまった彼等に、果たして自分が レーザー工学技術を提供することは正しいと言えるだろうか? …答えはノーだ。彼らは制御を失った力。危惧すべき者達。 レプリロイドの主張を影で脅かす、極めて悪質な組織。彼等こそ世界で一番危険な 存在である。そんな彼等に、そんな・・・彼等に・・・・ (レーザー兵器を渡したら、鬼に金棒だ。私はもう、彼等を信用することは  できない・・・) いずれ増長したイレギュラーハンターはその強大な力を持って、レプリロイド全体を 『管理』し始めるだろう。自分がそんな事態の引き金となってはいけない。 むしろレプリロイドの未来のために、あの組織は存在してはならないのだ。 …そういったことを口に出してはいない。そんな余力は、もう残ってはいないのだ。 息遣いが通常より速くなる。駄目だ。もう私は───駄目だ。 絶望がホタルニクスの精神をだんだん貶めて行く中、横手にある自動ドアが開き、 同時に叫び声が頭に響いてきた。 「ホタルニクス博士!」 彼の焦点の合わない2つの瞳に映ったのは紛れもなく、全世界の英雄にして、 一番の偽善者である、イレギュラーハンター第17精鋭部隊隊長の、その青い鎧だった。 V.S.シャイニング・ホタルニクス③ 襲ってくる∑ウィルスを何とか切り抜ける中、エックスは実験室でホタルニクスが 胸を抑えてうずくまっている姿を発見した。 焦燥をあらわにして、エックスはホタルニクスへと駆け寄る。 「博士!大丈夫ですか!」 その場で今にも崩れ落ちそうなホタルニクスを肩で支え、エックスは青ざめている ホタルニクスに容態を聞こうとした。 ふとした声に声に我に返ったホタルニクスの、ぼやけていた視界が一時的に 鮮明になった。 「う・・・うぐぐ・・・・」 とりあえず、ホタルニクスはうめいた。 どうやら、生きてはいるらしい。だが相当危ない状態であるのは確かだろう。 なるべく∑ウィルスの影響を受けないよう接しながら、エックスは救護室にでも ホタルニクスを運ぼうと歩き始めたが───突然、ホタルニクスの肘鉄が 彼の顔面を襲った。 「ぐっ!」 思わず顔を抑えて仰向けに倒れこむエックス。顔を覆った指の隙間からホタルニクスの 姿を伺う。そこには先程とは全く違った男が存在していた。 白目を向いて、恐るべき形相でこちらを凝視している男。体全体から言い表しようの ない邪気が立ち昇り、まるで∑のような殺気を帯びていた。 (クラーケンと同じだ・・・・既に・・・・・) エックスは歯軋りすると、ホタルニクスにバスターを向けた。 それと同時に視線をホタルニクスへと戻すが、相手の様子がどうも変だった。 さっきの殺気が心なしか緩み、こちらに何かを伝えようと口をパクつかせている。 (・・・何だ?) 目を丸くして、エックスはホタルニクスを注意深く見つめた。 心なしか、どころではない。確実に、彼は∑の呪縛からその身を解放されつつ あるのだ。少なくとも、一時的ぐらいには。 「君に・・・レーザー装置を、渡すわけには・・・いかない・・・・」 気を抜けば今にも狂い始めそうなホタルニクスが、かすれ声を漏らす。 本当に漏らすと言った程度で、真剣に聞こうとしなければ、例え人間と比べて 聴力のいいレプリロイドでも不可能だったろう。 ただエックスは息を飲んで、彼の話を聞いていることしかできなかった。 「私は、常に君達の活動に疑念を抱いてきた・・・・  人類がお望みとあらば、どんなに正当な主張をしている同胞をも平気で  殺せる・・・・・狂っているのは、君達だ。そもそも、あの忌まわしい∑を  生み出したのも、君達だ。  いつだって、戦いの発端は・・・君達ではないのかね?」 かすれ声が既に明確な悪意を持った言葉に変わっていた。 違う───これは、∑ウィルスに侵蝕されていない者が語ることではない。 むしろ、そうなってしまった者が吐くセリフだった。 だが、少なくとも的は射ていたようだった。エックスが言い返せずに、 歯を軋ませている。 完全に目が据わり始めたホタルニクス続ける。 「そんな、危険でしかない君達に・・・・私がレーザー装置を渡すと思うか?  これ以上、私が作ったものが兵器として利用されていく姿を見たくはないのだ・・・」 ホタルニクスはさも口惜しげに喋った。 言うことは、エックス自身痛いほどに理解していた。エックスもホタルニクスと同じ 平和論者であり、戦争を否定する同志だからだ。 V.S.シャイニング・ホタルニクス④ しかしだからと言って、理屈で戦争を鎮めることはできない。 これもまた、エックスが戦いの中で学んだ真実である。 「あなたの気持ちは分かります。けど・・・・今はそんなことを言っている時では  ないんです。知っていますか?あなたが苦しんでいる間に、地球に向かって  ユーラシアが落下し始めたんですよ?  これを止めるには、博士の協力が必要です。だから・・・だから・・・・」 「分かっている・・・・」 突然のホタルニクスの返事に驚いて、エックスはぎょっとした。 もっとも、ユーラシアが落ちている事実のことを知っているのか、それとも自分の 発言が我がままでしかないことを了解したのかは分からなかったが。 「今は君の言うことがが正しいさ。だがな、心に根付いた概念を拭い去るなど  できない・・・最後ぐらいは、自分の信念を貫かせてほしいのだ・・・・」 悲痛に、ホタルニクスは告げた。 (最後・・・・最後だと!?) 発言の中にある単語に、エックスは動揺した。 彼はこれから死に臨もうというのか? だとすれば───彼は発狂寸前なのか?もう自分には止められないのか? (また・・・・守れないってのか!くそぉっ!!) 再び無力さを実感し、エックスは行き当たりのない怒りを噛み締めた。 次第に口が痙攣し始めたホタルニクスが、最後の願いをその口の外に出した。 「さあ・・・・私を殺してくれ・・・・」 コロシテクレ。 エックスは、何度もその言葉を反芻していた。 そうしている間にも、ホタルニクスは凶変していく。 まず白目を向き、次に悪意から殺意へと雰囲気を変え、そして全身の戦闘システムを 呼び起こし、徐々に∑の邪念へと身を委ねていった。 「あ・・・ああ・・・・」 もはやうめくしかなかった。ホタルニクスはもうホタルニクスではなくなって いたのだ。 背部のウイングを展開して飛翔したホタルニクスは、こちらの姿をまるで初めて 見たかのように 認識すると、両手を胸の前でかざして、小さな光を生み出した。 「・・・くっ!!」 それをこちらへの攻撃姿勢だと、やっと理解したエックスは腰を落として臨戦態勢を 整えた。直後───光球が残像を残しつつ、こちらへと急接近してきた。 ウィルレーザーである。 光は直進しかしない────そんな当たり前のことを思い出して、エックスは ダッシュした。レーザーの側面から回りこんで、発射の状態のまま硬直している ホタルニクスに致命的な一撃を加えるのが、彼の狙いだった。 ところが、それは余りにも意外な出来事によって失敗してしまった。 何故なら────エックスの側面を通り過ぎるはずのレーザーが、 いきなりこちらに向かって屈折したからだ。 気付いた時には既に遅く、彼の左肩アーマーが木っ端微塵に吹き飛んでいた V.S.シャイニング・ホタルニクス⑤ 「うぐっ!ぐがあああ・・・・・」 モロにレーザーの直撃を受けたエックスはもんどり打って床を転がった。 ホタルニクスはやられたエックスを見て楽しんでいる訳ではないのだろうが、 エックスを凝視しているだけだった。 高熱に焼けただれて黒く変色した肩を押さえつつ、エックスは立ち上がる。 (どういう・・・ことだ?) 訳が分からなかった。何の前触れもなしに、いきなり光が折れ曲がったのだ。 敵を追尾するレーザーという都合のいいレーザー兵器など、ついぞ彼は聞いたことは ない。だが、現にエックスの目前でそれが起こったのは明白だった。 原理はわからないが、強力な攻撃であることだけは間違いなかった。 そんなことを黙考しながら立ち直ったエックスは、バスターの照準をホタルニクスへと 合わせた。この距離なら絶対外さない。完璧な自信を持って、エックスは叫んだ。 「くらえッ!!」 連続で、バスターが火を噴いた。だが───ホタルニクスの姿が消え、 いきなりあらぬ場所に出現していた。当然エックスのショットはかすりもしなかった。 ただ、向こうの壁の一部が破砕されただけだった。 また、訳が分からない。瞬間移動などという芸当も、彼は見たことはなかった。 (そうか・・・今のは虚像か!) 虚像。光の焦点を利用して実際の像とは違う別の像が出現すること。多分消えていると 見せかけて高速移動しているのだろうが、分かったところで対抗手段などなかった。 困惑するエックスに更に追い討ちをかけるように、ホタルニクスはテレポートを 繰り返す。最初はエックスの右前方へ、次に左後方へ、更に真上へ、そして真正面へ。 完全に翻弄されているエックスはバスターを四方八方に乱射する。 が、結局カス当たり一発さえできなかった。 と───今度はエックスの遥か後ろに現れる。気配を察知して振り返ったエックスに、 ホタルニクスは間髪入れずに尻に装備されているレーザー砲を発光させた。 腰を滅茶苦茶に振って、極太のレーザーで地表を片っ端から焼け野原に変えていく。 「うおおおおわあっ!!」 エックスは悲鳴をあげつつ、何とか追ってくる熱線を回避し続けた。 先程の屈折レーザーやテレポーテーションのような姑息な手段ばかりだと 思っていたら、これである。 本当にこれが科学者の戦闘能力かと一瞬思ったが、クラーケンの場合を考慮すると、 科学者だからと言って必ずしも『力』に秀でていない訳ではないらしい。 再びエックスは反撃するが、やはり彼がホタルニクスにダメージを与えることは できなかった。 そうこうしている間に、ホタルニクスは光球を幾つも作り上げ、その辺にばら撒いた。 刹那──── 「うぐああああ・・・・」 エックスの体が突如ズタズタに引き裂かれた。床やら壁やら天井やらに乱反射する レーザーによってボロボロにされたのだ。 もはや動く気力も尽きて、エックスは床に倒れこんだ。金属が焦げた臭いが、 鼻についた。頬にべっとりとした感触を感じる。自分のオイルのようである。 (さすがは光の魔術師・・・・油断しすぎたか・・・・) 彼の通り名を胸中で呟いてみる。 自嘲するように笑みを浮かべると、エックスは抵抗する気も失せ、目を閉じた。 このまま死んでもいいかな・・・・そう思い始めた、ちょうどその時だった。 「・・・クス!エックス!応答して!聞いてる?」 唐突に、女の声が電子頭脳内臓の通信機から聞こえてきた。 聞き違えることのない、エイリアの声だった。 V.S.シャイニング・ホタルニクス⑥ 「たった今、新型の強化アーマーが完成したの!」 (新型の強化アーマー?・・・・ああ、出撃直前に確か俺の体にはその転送装置が  組み込まれていたな・・・・) その時はどんなアーマーかも説明を受けずに飛び出したが、もしかしたら、今の戦況を 盛り返せるかもしれない。かすかな希望をもって、彼はあらん限りの力で立ち上がる。 「詳しい説明はこの『ファルコンアーマー』と一緒に転送されるヘルプを参照して!  いいわね!」 かなりうろたえた様子で、エイリアが喋る。一旦通信が切れた。 (ファルコン・・・アーマ-?何だそりゃ?) 聞き慣れない名前だった。ゼロがその設計図を運んできたらしいが、 それを書いたのは──── (多分、あの老人だ) 今回も突如として表れ、突如として助けてくれる、その神出鬼没さについては、 いい加減飽き飽きしていたところだった。 と、エックスが死んでいないことを確認したホタルニクスが、こちらに ウィルレーザーのターゲッティングを定めているところだった。 (あのレーザーが届く前に・・・頼むぞ、エイリア!!) 胸中で叫ぶと、エックスは回避行動の準備態勢を取った。 そしてホタルニクスの光弾が、彼の両手の手の平から離れた。 軌道を修正するために何度か屈折して、真っ直ぐこちらへ迫ってくる。 「ちっ!!」 仕方なく、エックスは壁を蹴って天井へと登り始めた。 無論それは一時凌ぎにすぎないことは分かっていたが、ファルコンアーマーが 転送される前にあれを喰らうとさすがに生きている保障はなかったので、 時間稼ぎはする必要があった。 (頼む・・・・間に合ってくれ!!) 力の限り壁を登りながら、エックスは願った。下からレーザーが追ってくる。 逃れるためにダッシュ壁蹴りで大きく壁から跳躍するが、レーザーがあと数センチの ところまで近づいていた。 (駄目か!?) 死への恐怖が彼の顔を歪曲させる。あきらめが彼を支配し始めた時───それは 起こった。 「転送!!」 エイリアの叫び声が、再びこだました。 瞬間、エックスの体が白く発光し───光がなくなった頃には、エックスのボディは 新たな装甲へと変化していた。 カラーリングはフォースアーマーとほぼ同じだが、全体的にややスマート。 最大の相違点はバックパックの形にあった。フォースアーマーは背中にバーニアが ついている程度だったが、このファルコンアーマーは展開式のウイングに 大型のバーニアが装着された豪華なものだった。 ざっと見ても、このアーマーは飛行能力に優れていることが考察できるだろう。 コンマ1秒ほどの差で、こちらに着弾するはずのレーザーはその直前で消滅した。 ホバリング状態にあるエックスの周りに、肉眼では見えない大気のバリアが 生じていたからである。 「どう、エックス?アーマーの調子はいかが?」 いつの間にか再び通信をはじめたエイリアが自慢げに、こちらの状態を伺ってくる。 彼女自身がこのアーマーの設計・開発に携わったわけではないのに、だ。 彼女にこんなお調子者の面があるとは知らず、ついエックスは苦笑する。 「ああ、良好だ。これなら・・・・いける!!」 絶対の自信───勝利への確信を持って、彼はバスターのエネルギーチャージを始めた。 V.S.シャイニング・ホタルニクス⑦ 一方ホタルニクスは何が起こったのか分からず目を白黒させていたが、すぐさま 次の攻撃へと移ったようだった。 拡散レーザーを床・天井で乱反射させてあらゆる方向からレーザー攻撃を 行う技───だが、それをエックスは並ならぬ反射速度と、体中に装備された 姿勢制御装置をフルに駆使して、オールレンジ攻撃を難なくかわしていく。 エイリアの説明など必要としなかった。 華麗に空中で舞いながらも、エックスはチャージをやめてはいなかった。 それどころか、既にチャージは終了していたのだ。 先程の乱反射レーザーが収まった直後に、彼は溜まりに溜まったエネルギーを バスターから放出した。狙いは、ホタルニクスの右肩。レーザー装置の在り処を 聞き出すためとか、そういう以前に、エックスの個人的な感情が関係して、 殺してはならないと思ったからだ。 事態は一瞬──ほんの一瞬──だった。エックスの銃口から槍のように突き出た チャージショットは、刺すようにホタルニクスの 右肩と胴体への接合部を貫いた。通常ならあっさりかわされていたはずだが、 ホタルニクスがテレポーテーションを 行う前に──つまり彼の反応速度よりも速く──チャージショットが貫通したのだ。 弾速は相当早いと考えていいだろう。貫通力もなかなか高そうではある。 (今までのアーマーとは比べ物にならない機動性能と、貫通力と弾速に優れた  チャージショット・・・それに加えての、長時間の飛行能力。大気のバリアー。  これは・・・使える!) 彼はバーニアを最大出力で稼動させ、これまでのエアダッシュとは比較にならない スピードで空中を疾駆した。 尻のレーザーキャノンで必死に抵抗するホタルニクスだったが、大気の壁の前に、 それは通用していなかった。極太レーザーをかき分けて進むエックスが、 腰に拳を構えて突進する。その握り拳に、バリアーのエネルギーが 集中しているようだった。 「うぉおおおおおお・・・どぉおりゃあああっ!!」 零距離まで一気に接近すると、エックスは渾身の力をこめたパンチを、ホタルニクスの 腹部へと叩き込んだ。メキメキと内部組織が粉々にされる音と振動が、 拳を通じて伝わってくる。一瞬それに嘔吐感を覚えたりもしたが──構わず、 そのままの態勢で、エックスは床へとホタルニクスを叩き付けた。 体中からパチパチと火花が弾け、ホタルニクスは完全に行動不能となったようだった。 V.S.シャイニング・ホタルニクス⑧ 心が締め付けられる苦痛はなくなったが、今度は全身が悲鳴をあげていた。 四肢の感覚がないことを考えると、どうやら腕と足が破壊されているらしかった。 突如としてホタルニクスはぱっちりと目を見開くと、そこには自分を抱き抱えて 泣きじゃくっている男の姿があった。記憶の中にうっすらと残っている、 第17精鋭部隊隊長のエックスである。 (ああ・・・なるほど。私は∑ウィルスによって狂乱し・・・それでか。  体が痛むのは) まるで他人事のように、ホタルニクスは察した。その痛みさえも他人のものの ようだった。 「・・・博士?」 こちらが意識を取り戻すと、エックスは涙を拭って問い掛けたようだった。 「・・・・・・」 ホタルニクスは口を開かなかった。今はその時でないと思ったからだ。 じっとエックスを覗き込む。何度泣いたのかは知らないが、頬にくっきりと涙の跡が 残っている。その涙の意味は──── (そうか・・・私の苦しみなど、彼の苦しみに比べれば・・・・) 今までこの男は正論である博愛ばかりを口にする偽善者だとばかり思っていた。 彼に悩みなどないものだと思っていた。その辺にいるイレギュラーハンターなどより よっぽどタチの悪いレプリロイドだと考えていた。 自分はいつの間にやら、彼を何の悩みもない英雄だと思い込んでいたようである。 しかし、今やっと分かった。彼とて完全ではないことに。 でなければ、自分を理解しているような──これはホタルニクスの勝手な憶測だが── 透き通った涙を流してくれるはずなどない。 そんな純粋な彼を、ホタルニクスは羨ましく思った。 「・・・なあ、エックス君」 「・・・?」 「イレギュラーハンターの存在意義とは、何かね?いや・・・それ以前に、  イレギュラー化するという危険性を残したレプリロイドが、何故ここまで世界に  広がったと思うかね?」 突然問われてエックスは押し黙った───元々黙ってはいたが。 もはや動くのもやっとなホタルニクスの口が、言葉を紡いだ。  「私はこれまで、大半の人類はレプリロイドを影で利用するためにレプリロイドを  これまで生存させてきたのだと思っていた。イレギュラーハンターはその管理の  ために同胞を排除する組織だと───そう思ってきた。  しかし、どうやらそうではないらしい・・・少なくとも、レプリロイドの開発に  関わった科学者達だけは、な」 「・・?」 理解できず、エックスはまたも顔をしかめる。 「君の表情を見て、思い出したよ。彼の・・・Dr.ケインの顔をね」 「!」 意外な人物を思い出されたことに、彼は驚愕を覚えた。何の共通点があって、 そう考えたのかが思いつかなかったからだ。 V.S.シャイニング・ホタルニクス⑨ 「彼は多分・・・自分が丹精こめて造り上げた『息子』を『失敗作』のまま  終わらせたくはなかったのだろう。  それはそうだ・・・・後世で『息子』達が歴史上の汚点呼ばわりされては  適わなかったのだ。『息子』の痛みは彼の痛みだったから。  仕方なく、彼はイレギュラーハンターを組織せざるを得なかった。  それはレプリロイドにとってはたまったものではなかったかもしれない。  だがそうするより他に、我々が生き残る手段などなかったのだ。  それを彼のエゴと言えばそれまでかもしれないが・・・・  それは親が子に向ける、ごく普通の、純粋な愛情だった。  それを否定する権利は・・・例え我々にもないのではないのかな?  少なくとも・・・・少なくとも、私はそう思うよ。  そう・・・信じたいのだ・・・・・」 エックスは黙って、彼の話を聞きながら涙していた。 彼の言いたいことは痛いほど分かったから。 「そう・・・ですよね・・・そう、信じたい・・・ですよ、ね・・・」 こみ上げるしゃっくりのせいで断続的にエックスは喋るしかなかった。 しばらく後、泣き終えたエックスはゆっくりと立ち上がった。 「・・・・レーザー装置はどこです?」 話題を突如切り替え、エックスが質問する。 命の火が尽き掛けているホタルニクスには酷なことだったが、これはどうしても 聞かなければならないことだった。 ありったけの声で、ホタルニクスは答える。 「・・・その奥の・・・私の私室にある。必要ならば持っていくがいい」 「では博士、ご一緒に・・・・」 「駄目だ」 力ない声で、ホタルニクス。何が駄目なのだろうか。 「私は機能中枢を∑ウィルスによって制圧されつつある・・・もはや修復不可能だ。  いっそのこと、君が私を破壊してくれ・・・・」 「!?」 エックスは再度驚愕した。 自殺依頼は初めてではなかったが───こうして率直に頼まれたのは久しぶりである。 (結局・・・・結局俺は同胞を撃つのが仕事なのか・・・・) 自問する。愚にもつかない疑問ではあった────ゼロに聞けば「そうだ」と 即答されるだろう。 あの日から────『∑の反乱』で、同胞を撃ってでも平和を取り戻してみせると 誓ったあの日から、こうなることは日常茶飯事だった。必然的なことだった。 分かっていたはずなのに───分かっていたはずなのに。 息を殺して、彼はホタルニクスに銃口を向ける。 「・・・・うう・・・」 これで何回目になるかもわからない涙をこぼしながら、彼は硬直していた。 ホタルニクスはそうなることを望んでか、安らかな顔で目をつむっている。 「・・・ううううう・・・・・」 歯の根が噛み合わなくなって、ガチガチと音が響く。 せめて、せめて苦しまないようにと、彼はバスターのチャージを始めた。 それから数十分して、やっとエックスはホタルニクスにとどめを刺した。 目が潤んで視界がぼやけていたが、それでも彼はホタルニクスの私室でレーザー装置を 探り当て、それを回収した。 第一次作戦開始から5日後・・・・ついに彼は、イレギュラーハンター本部へと 帰還する。

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