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輪廻-ただ友のために 2章」(2008/08/30 (土) 12:11:40) の最新版変更点

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       ・・・一つの野望は朽ちた。        ・・・だが、人の欲はとどまることを知らない。        ・・・その野望を引き継ぎ、新たな王となろう者が居る。        ・・・だが、当たり前の事なのだ。        ・・・人というのはそういう生き物なのだから・・・。    永遠と広がる大海の中に一つ、ぽつんと小さく自己主張をしている島があった。    その名は『クルブ島』。知られてはいないが全世界の存続を賭けた闘いの舞台だった島である。    何も無い無人島であった島が今では島中を覆い尽くすほどの瓦礫で一杯になっている。    その上に、誰かが立っていた・・・いや、果たしてそれは人と呼べるのだろうか?    形は確かに成人した女性の姿である。数種の色の布を巻きつけたような服に、腰まで届く髪。    どこから見ても美しい女性の様に見える。・・ジェルのような物体で無ければ・・。    薄い水色をしたその身体は向こう側の景色をゆがめ、その身体の中には一際紅い    ボールのような物体が波うち、身体中に細かな振動を伝えて行っている。   「・・思ったより回復しないわね~。やっぱり第一コアを壊されたのは痛手だったかしら。」    外見上口と見える箇所からソプラノに近い声を出す物体。どうもしっくりこないのか溜息を漏らす。   「まったく、あの子も困ったもんね。途中で心を乱さなきゃ勝てたかもしれないのに。    ホントだらしない!私の計画がパアじゃない!・・でも、彼が相手じゃ仕方ないっか。」    物体の口から思っても見ないほど軽い言葉が出てくる。やがて物体は何やら閃いたのか指を鳴らす。   「あ!あそこなら最適だわ♪替えのコアもあるし、何より仕返し用のとっておきがあるわ♪    『前システム』復活のためにも彼をかわいがってあげなきゃ。ん~ったっのしみ~~!!」    とはしゃぎながら物体が口笛を吹く。すると何処からともなく鳥に似たリーバードが飛来する。    それにのって物体はどこかへと飛び去っていった・・・・・    全てが暗闇に覆われたそんな日のいちにちであった・・・・        それから、しばらく経ったある日、 ある古代遺跡の中。                  この物語の始まりの場所にて・・・・・   「・・・ここが最後の部屋?・・・誰も居ないし、反応もない・・・。どうして?」    ある遺跡の最深部・・・俗に言うラスボスの部屋に紅いアーマーをつけた少女が立っていた。    彼女の名は『ロール・キャスケット』。これでもS級のディグアウターなのである。    彼女はパートナーと一緒にディグアウトをしにきたのだが、途中で別れ、調べ回っているうちに    この部屋を発見。好奇心に身を任せて、パートナーにも知らせずに入ってしまったのだ。    そして、現れるであろうボスを先に倒し、パートナーに誉めてもらおうとかも考えている。    だが、肝心のボスが居ないのでショットガン型のバスターを降ろし、ぼ~っとしているわけである。   「・・・・時間の無駄だわ・・・戻ろう・・・。」    痺れが切れたロールが扉へ向かったその時!!突然辺りが禍禍しい気配に包まれる!そして・・                ガァーーーーーーーーーーン!!!!    ロールの位置に寸分違わず突き刺さる大鎌!激しく舞い散る土砂がその破壊力を物語る。    襲い掛かって来たのは『ハンムルドール』のようだ。姿形は別物であったが・・・。    象徴ともいえる巨大な腕が鋭利な鎌へと変わっており、脚も蜘蛛のように鋭く細い。    丸々としたボディが一変し、細身で刺々しい攻撃的なボディに変化している。    例えるとするなら、『遺跡の番人』が『凶悪な暗殺鬼』となったと言うべきか。    やがて土埃も収まり、『暗殺鬼』は貫いたはずのモノを確認するために、エモノを掲げてみた。    真っ赤に染まり、美しくきらめく腕を見るのを心待ちにしつつ、ゆっくりと・・・。           『暗殺鬼』は呆然となった。いつもなら掲げた腕には何物にも勝る芸術品があるのに・・。    自分に至上の時を与えてくれる素晴らしい腕がそこにあった筈なのに・・・・。    だが、その腕はいくら高く掲げても見えてこない。怪しげに光る刃すらない・・。   『暗殺鬼』は認めざるをえなかった。腕が砕かれ、消滅している事を・・・。   「・・・ツツッ・・・ちょっと気付くのが遅すぎたみたい。」   『暗殺鬼』が少し離れた位置に居る生意気な獲物を見つめる。どうやら、此方の攻撃も当たった様だ。    獲物の足が少々だが切り傷を負ってるのを確認する。だが・・・・    自分が受けた傷に比べるとあまりに小さな傷であった。   『暗殺鬼』には許せなかった。自分の腕を失った代償があの程度の傷であったことに!    自分に至福の時を与える腕を破壊し!自分を絶望の渦に叩きこんでおきながらも!            まだのうのうと息をしている下等な存在が!!     次の瞬間。『暗殺鬼』は走っていた。あまりにも幼稚で単純な感情の暴走は彼に『疾さ』を与えた。    何者をも上回るであろう速さで『暗殺鬼』は獲物の背後を取り、まだ残っている腕を振り上げる!   「し、しまった!!」    獲物が叫ぶがもう遅い。彼の腕は憎しみに後押しされ、首めがけ振り下ろした!!                   ガ キ ン ! !    ・・・手応えはあった。だが、彼の腕は獲物の首を捕らえてはいなかった。    彼と獲物の間に突如現れた蒼い光によって黒い凶器は止められていたのだから・・・    その蒼き光源には、一人の少年が居るのを彼のアイレンズが捉える。    蒼き鎧をまとい、細い腕で自分の全体重を込めた一撃を易々と受け止める、そんな少年の姿が・・・。           眼の前の現象は何なのであろうか?自分から見てごまつぶの様な存在は何をしているのか?    速度、パワー、タイミング、技能。どれをとっても完璧な一撃だった。渾身の一撃だったのだ。    それを・・受け止められた?しかも、自分がが迫り負けを?    受け止められた後少年の異常な腕力で吹っ飛ばされた身体を起こしつつ、『暗殺鬼』は混乱する。    そんなこちらがわを無視するかのように先程の少年は獲物の手を取り、怪我の具合を診ているようだ。                    ナメられている!    自分の向かって背を向け、獲物と談笑を交わすほど奴は格が上ということなのか?    いや違う!!自分より強い者など居る筈が無い!!まぐれに決まっている!!        今度こそはこの腕に二体の美しい芸術品を作ってみせる!!   『暗殺鬼』が雄叫びを上げながら少年に向かって突っ込んで行った!    自尊心、破壊願望、そして狂気。それらを結集した黒き力が欲望のみを糧に増大していく!    巨大な負の一撃が、あまりにゆったりと構えを取り出した少年を捕らえ、両断する!・・はずだった。                  ガ シ ュ !!!!       『暗殺鬼』は自分の身体に稲妻のような衝撃が走るのを感じた。はたしてその箇所を見ると案の定・・    既に身体の下半身は上半身を離れ、遥か後ろに転がっていた。そして・・・・・                 ボフン!!!    先程まで、自分の巨体を支えていた脚が粉微塵に吹っ飛んだ。爆発?違う、アレはそんな物ではない。   「・・すまないけど滅させてもらった。君はごく最近の間とはいえ、許されない事をした。」    少年が語りかけてくる。そんな少年に向かって『暗殺鬼』は恨みを込めて睨み返す。    だが、少年を見た瞬間。『暗殺鬼』は生まれて初めて恐怖という感情に襲われた。   「一等粛清官『ロックマン・トリッガー』の名において、君の権利と存在を抹消する。」    少年の声が聞こえるが『暗殺鬼』には聞こえない。先の蒼き光は?この姿は?これが正体なのか?    次第に現れてきた死へのカウントダウン。遂に亀裂が身体全体に及んだが、彼は思考を止めない。   「・・ごめんね。来世では君にとって実りある物である事を祈っているよ。」    少年の言葉は優しい。だが、この姿はなんなのだ?!このおそろしい・・・                  ボウン!!!!        遂に彼の身体は粉末と化してしまった。彼の恐怖に満ちた叫びは少年にとどくことなく。                <血のように紅き眼と紅刃の剣を持った姿。>    最後の彼の言葉が舞い散る粉塵とともに部屋の中に舞い散り、そして消え去った・・・。    ボスの居なくなった部屋の真中に今小さな墓が作られていた。今消えた『暗殺鬼』の墓だ。    それの前にて手を合わせるのは先ほど彼を粉砕した少年である。    彼の名は『ロック・ヴォルナット』。カトルオックス島を初め数々の遺跡をクリアし、    全世界の危機を二度も救った史上最強のディグアウターである。ライセンスはSS級である。    現在マザー『セラ』の指示により、『古き神々』の遺跡の暴走を止める任務を行っている。    この遺跡は古代とは全く関係ないのだが、ある異変によりロックが調査に当たっているのだ。   「ロック~~~!またあったわよ~~このチップ~~!」    ロールが粉末と化した『暗殺鬼』の成れの果てから一枚の黒いチップを取り出した。   「ありがとう、ロールちゃん。」 「どういたしまして・・・それにしてもこれで5枚目ね。」    不思議そうにチップをみながら話すロール。それを聞きロックも考えこむ。    調査を行っているこの遺跡は元々C級クラスの遺跡だったのが、今やS級クラスの遺跡と化している。    何も知らずに入った初心者ディグアウターの多くが被害に遭い、帰らぬ人となってしまった。    しかも、この遺跡は6つの簡単な遺跡が円周上に配置してあるが、この分だと残り一つも・・・。    そして、このチップ。今まで調べた遺跡全てのボスリーバードに装着されていた物である。    例外なく、チップの入れられたものはヘブンの命令を無視し、只破壊と殺戮に溺れる兵器となった。    不思議に思ってセラともう一人のマザー『ユーナ』の手によってスキャニングをしたのだが、    絶対の解析率を誇るマザー二人の力を持ってしても、チップの内部を見ることが出来なかった。    セラが言うに恐らく『古き神々』が造り出したものではないかとのことだが・・・   「ともかく一度ここを離れようか。セラさんに報告しないといけないし・・ロールちゃん?」    地上に帰ってからゆっくり考えようと出口に向かって歩き出したロックだったが、    ロールは何故か立ち止まり、不安げに何か考えているようである。こちらが見えてないらしい。   「ロールちゃん!」 「・・え?・・あ、ゴメンねロック。出るのね?じゃ、早く行きましょ。」    あわてて、出口へ向かうロールを不思議に思うロックだったが、特に気にしない風に外へと向かった。    ロックに見えないように先を行くロールの顔には不安の色が消える事が無かったが・・・    場所は変わって、こちらはサルファーボトム号内の『ディフレク会社経理部』。    この部屋のデスクにヘブンの元マザー『セラ』がお付きのジジを片手に陣取っていた。    緑のショートヘアー、白を基調とした服、そして、少女らしからぬ荘厳とした態度。それがセラである。    彼女の前には数人の男性女性がそれぞれの机に座り、命令を待っていた。    緊張状態のためか、何者も入れぬほどのプレッシャーがその部屋に充満していた。と、そこへ。   「失礼します。ロック・ヴォルナットです。セラさんは・・・・うぅ?!」    何も知らず入ってきたロックが瘴気(?)にあてられ思わず仰け反った。   「だ、大丈夫ですか、ロックさん?」 「あ、ありがとうございます。水兵さん、これは・・」    警備についていた水兵の手を借りて立つロックが冷汗を流しつつ聞くが、水兵も知らないようだ。           リリーーーーン・・・リリーーーーン・・・リリーーーーン!!!    その静寂を打ち破るかのように突如鳴り出す電話。デスクの女性が神速の速さで応対し、叫ぶ!   「ダプコン社!株の売買を始めました!」 「来たか!!各員配置に着け!!第一波だ!!」    いきなり立ち上がりデスクの人間に命令をするセラ。その声で一気に部屋中の空気が変わった!   「株の動きはどうなってる?!それと、震天堂の動きもだ!!」 「今こちらで調べます!」   「震天堂!株式の5%を売り払いました!震天堂の株価ダウン!」 「手を出すな!それは罠だ!」   「ダプコン社!わかりました!」 「遅いぞ貴様!ジジ!早急にこのメモ通り株式を売れ!」   「承知しました、セラさま。」 「あの~~ダプコン社は・・・」 「貴様はもういい!クビだ!」   「え~~~!!!」 「ブンダイが乱入!当社の株を買い始めました!」 「何?!そうきたか!」   「経理部長!僕には家族が・・・」 「ええい!うるさいだまっとれ!!」 「そこ!サボるな!」   「当社の株価上がります!」 「今上がるのはマズイ!何か手を・・」 「クビイヤ~~~!!」    舞い散る言葉の嵐、息もつかせぬ状況の変化、金への執念、そして、一人の男の脱落・・    あまりの激しさにロックは引いてしまった。何よりもセラのあの修羅のごとき姿に・・・   「後、30分はあのままですので・・・」 「・・・わかりました。奥で休んでます。」    こんな嵐の中にいたら数分と持たないだろう。水兵に礼を言ってロックは部屋へと入っていった。   「ジジさんがセラさんのことを話す時涙目になるのって、こういう事なんだな。」    眼を白黒させながらセラの絶え間ない命令に従ってるジジを見て、ロックは人知れず納得した。    環境の変化とは、末恐ろしきものである。真面目な人間も金の亡者と成りうる。    そして、30分後。ようやくセラが帰還してきた。   「待たせてすまない。今は忙しい時なのでな。」 「・・・そのようですね・・・」    眼の間を抑えるセラをロックは苦笑いをする。あの嵐の中ならば当然の事であろう。   「さて、報告を聞こうか?どうであった?」 「はい、五つ目もそう変わりません。」    そう言うとロックはバックパックの中から回収したチップを取り出して、机の上に置く。   「・・・またあったのか?これも前のものと同じだな。」 「過去の・・・物ですね。」    ジジが持ってきた今まで集めてきたチップをロックとセラがマジマジと見つめる。    見つめれば見つめるほど、不安を掻き立てさせる不思議なチップなので、ロックは度々    このチップを捨てようかと思ったほどである。だが、この不思議な現象はこのチップのせいである。    リーバードに異常なほどの殺意を芽生えさせ、強力な戦闘力を与え、やがてボスだけでなく    他のリーバード達にも影響を与えて、C級の遺跡を上位級の遺跡に仕立て上げる魔性のチップ。    ヘブンからのシステムを書き換えるのだ、並大抵の物であるわけが無い。このチップは何のか?    何処から来たのか?そして、誰が何の目的で仕込んだのかを詳しく調べる必要があるのだ。    ロックは誓ったのだ。もう、あんな悲しい出来事が起こらないように・・・。   「・・・何にしてもこんな物を作った人を僕は許さない!必ず正体を暴いてやる!」    ロックは腰に付けている光剣を握り締めながら呟く。セラも黙って頷いていた。    その時だった!突然机の上に並べておいたチップが激しく発光した!         「な、なんだ?!」 「こ、これは・・・・?!」     いきなりの発光に驚くロック達。そんな彼らにお構いなしにチップは光りつづけ、ある形に集まる。    チップが発行を止め、元の黒々とした色に戻った時、チップは六角形が欠けた形となっていた。   「い、今のは一体何だったのだ?」 「セラさん、ジジさん!チップが・・・」    ロックが机を指差す。セラとジジもロックが指差す方向を見て唖然となる。    チップに何時の間にか見なれない文字が書き込んで会ったのだ。先の発光の時に現れたのか。    ロックは早速チップの文字の解読を試みる。だが、全く読めなかった。    一年前にトリッガーの頃の記憶、知識の全てを吸収したので過去の文字が読める筈だが・・・   「・・・どうやらこの文字は暗号のようだな。残りの一つを集めぬことには読めぬようだ。」    セラが文字を見ながら呟く。どうやらこれを造った者は抜け目が無いようだと付け足しつつ・・   「では、セラさま。残りのあの遺跡に・・・」 「そうだジジ。遂に謎がわかるであろう。」    セラの言葉を聞いたと同時に立ち上がるロック。握り締めていた光剣を腰に結わえなおす。   「最後の遺跡に行ってきます!セラさん、ジジさん。後をよろしくお願いします!」    そう言うとロックはセラの制止も聞かず飛び出して行ってしまった。    嵐のごとく去って行ったロックの後セラとジジの二人は揃って溜息をつく。   「・・トリッガー様は大丈夫でしょうか?」 「あやつなら大丈夫だ。こういうときにはな。」    この部屋に入った時から置かれていたコーヒーの存在に気付き、一気に飲み干すセラ。    コーヒーはすっかり冷め、不味く感じた。飲み干した後、さらに大きく息を吐いた。   「ヴォルナット・・・負ける筈が無い。いや、負けては困るのだ。」    セラがそう呟き、部屋を後にする。その呟きを聞き、ジジは訳がわからずに立ちすくんでしまった。    その少し前、ロールはというと・・・・      「ん~~~!!やっと傷が全部消えた~~~~!!」    と、鏡で背中、腹、腕などを見ながら小躍りをしていた。    実は、ロールは本来ならば病院であと半年は療養しなければならない身体だったのだ。    それでは何故、先ほどまで動く事が出来ていたのか?それはこの人・・・・   「元マザー1こと『ユーナ』様のおかげってワケよ!!」    カメラがあるわけでもないのに何処ぞにピースサインを送るこの少女。ユーナのおかげなのだ。    彼女のヒーリングにより、自然治癒能力を高め、一時的に怪我の状態を無効にしていたのだ。    そして今。自然治癒能力の向上によって本来の傷が綺麗さっぱり無くなったのだ。   「長かった~~~今までありがとうございました。」 「いえいえ、どういたしまして。」    二人ともながきに渡っての治療を終えた喜びをかみ締めていた・・・その時。   「入るわよ~~~ロール?終わったのかしら?」    と、二人の前に特徴的な髪型の女の子が入ってきた。紺のジャケットにピンク色の服、    そして胸に付けた骨をモデルにしたバッチ。空族ボーン一家の長女『トロン・ボーン』である。   「あ、トロンちゃん!具合はどうなの?」 「絶好調よ!」    サムズアップポーズを取るトロンにロールも安心する。話の通り、トロンもユーナの世話になってたのだ。   「ふう。二人ともお大事にね?また傷作ると彼に嫌われるわよ?」 「「ユ、ユーナさん!!」」    茶化すユーナにロールとトロンは同時に怒り、そして顔を赤面する。二人とも彼・・   『ロック・ヴォルナット』に好意を寄せている事は明々白々である。    だが、ロールは近頃ロックのことを不安に思っているのだ。彼を何時も間近で見ていただけに。    最近のロックは戦闘に入るといつもの優しさがだんだん薄れていくように感じる。    本能のままに闘っているというか、何処となく闘いを楽しんでいるように見えるのだ。    あの人と同じである。狂ってしまった時のあの人・・いやそれ以上の・・・    そして、今日その不安は現実の物となってしまった。    あの時、ロックがボスを斬る時に見せたあの技・・・あれは『ゼロ・スラッシュ』。    一年前に知り合ったあの人と同じ型、同じ威力。その証拠にロックの眼は・・・・                      紅かった    ロールは怖かった。あの人から貰った『絆』をロックの『信念』と合体させた剣、   『Z,B(ZERO・BREAK)』を創り出したその日からずっと・・・恐怖に晒されていた。    ロックもあの人と同じようになるのではないかと・・あの悲しい結末になるのではないかと・・。      「ロール?どうしたの?顔が真っ青よ?」 「ロールちゃん。さっきからロック君から通信よ?」    二人に肩を叩かれてやっと我に帰ったロール。慌てて通信機のスイッチをONにする。   「・・ロック?どうしたの?」 『ロールちゃん?今すぐ出たいんだ!お願いできるかな?』    通信機から聞こえるロックの声はいつも通り優しい声。それを聞いてロールも少し落ちつく。   「わかった!すぐに準備するから待ってて!」 『了解!!』    通信機を切り、いつもの紅いアーマーを素早く着込むロール。そこへ・・・   「ロール?大丈夫なの?替わりに私が行ってもいいのよ?」 「大丈夫。ありがと、トロンちゃん」    笑いながら言うロールにトロンは安心したようだ。(内心では舌を鳴らしていたが・・)   「それじゃあ、行ってきます!!」 「頑張ってね~~!!」 「次は私も行くからね~~!」    二人からの声援に笑顔で答えて、部屋を駆け出して行く、ロール。   「(そうよ。ロックはロックよ。それ以外のなんでも無い!私はロックを信じる!)」    ロールは自分にそう言い聞かせロックの待つ飛行船『フラッター号』へと走って行った。   「(あなたもロックを守ってくれるよね。・・・・ねぇ・・『ダブル』・・・)」
  私は信じていた・・・・・でも、あの人は私を裏切った・・・・・   あの人は甘い言葉で私を誘惑し・・・上っ面だけの笑顔を浮かべて・・・   私の全存在意義をぶち壊し・・・あの人は私を捨てた・・・   行き場所を失った私は眠りについた・・・誰もそれに気付かない・・・   私はあの人にとって『イレギュラー』な存在・・・当たり前だよね・・・   でも私は忘れない・・・あの人のことを・・・呪いながらだとしても・・・  「・・・そう・・・忘れもしない・・・あの人を・・・あの日のことを・・・」  薄暗い部屋の中、一人玉座に背をもたれつつ半透明の身体の物体が呟く。  「ふふ・・せっかく蘇ったんだもん。楽しみながらこの恨みを返すべきよね~。」   そう言いながらピョイっと王座から飛び降りる物体---クルブ島に現れた者---は、   子供のように床の色が違う部分を選んで、部屋の中央に飛び跳ねつつ移動していく。   やがて、中央の一際広い範囲に渡って床の色が違う地点を満足げに踏んだあと、   物体はそこに配置されてある物を見るために顔を上げる。   そこには一人の青年が居た。均等の取れた体付きに、美形とまでは行かないが整った顔、   培養液に満たされたカプセルの中でゆらゆらと揺れる、蒼い髪・・・・。   物体は青年を見つめ、そして恍惚とした表情でカプセルに頬を寄せる。   青年もそれに反応したのか、コードで繋がれた身体をわずかにゆらす。  「ふふふ・・・私を感じてくれるのね。かわいい子、今度は有効に利用してあげるからね・・」   物体はそう言ってカプセルを離れ、また床を選んで踏みつつ部屋の出口へと向かった。  「そろそろ行かないと。パーティに遅れちゃって、プレゼント貰い損ねちゃうしね~~。   それじゃあね~~『ゼロ』。ママの居ない間イイコにするのよ~。」   そう言いつつ物体はカプセル内の青年だけを残して部屋を出て行った。   ヘブン最強の戦士、そしてマザー3でもある紅き滅神、『ゼロ・ウォーレンツ』を・・。   この時代で『ダブル・コルド』と呼ばれていた者を・・・・・。   同時刻、サルファーボトム号内の『ディフレク会社』の休憩室にて・・・・  「もう!しっかりしてよ~ガーちゃ~~ん!」   「エヘ・・エヘへへへへへ・・・」   半分ほど黄泉の世界に飛んでいるガガを  「まったく・・・たかが『会合』に参加したぐらいで情けないな。」   涼しげな表情でコーヒーを飲むセラだが、実際そんな程度の事ではなかった。   セラに言い渡された仕事をジジがやってる間、ガード役としてセラに付いていったガガは、   『会合』と銘打った『精神の抉り合い』の場に放りこまれてしまったのだ。   全世界の統一を図ろうとするセラVSディフレク会社を買収しようとする各国の大企業。   互いに汚点を探りあい、隙あらば社会的に抹殺!と言う感情を裏に隠した連中。   全員が近づいただけで全細胞の生気を抜き取るような瘴気を発していた最悪の環境だった。  「アハアハハ・・マスターハマッタクスゴイモノヲツクッタモンダ・・ハハ・・」   いかにマザーガーディアンと言えど、財界の頂点を極めている修羅達には為すすべも無かったようだ。  「・・うう・・このままじゃガーちゃんが再起不能に・・・!! そうだわ!!」   何かを思いついたユーナ。ガガの目の前に立ちふさがり徐に脚を前に出した!そして!・・  「・・・はぁ~~い、ガーちゃん・・・悩殺ショット~~~~(は~と)」   ・・・何処で覚えたのだろうか・・・流し目かつ堂々と出された脚・・・男なら一発KOだろう。   だが、それをしているのがまだ『少女』のユーナであって、ガガがそれ系の趣味でないのであって・・。  「・・・・ハンッ・・・・」  「・・鼻で笑うったぁ、イイ度胸ね~~~!!!」   結局はキレたユーナの対処と言う無駄な仕事が増える結果に終わったようだ。   ようやく落ちついたユーナを引っ込んだところで、2番手ジジの登場。  「ユーナ様お任せを・・・ユーナ様の色香が通用しないのであれば・・・コレだ!!」   そう言うとジジは瞬速の早さで何かを放り投げる。   セラは見た。ジジの白のシャツが舞うのを・・。ユーナは見た。茶系のズボンが床にあるのを・・。   そしてその場に居た全員がはっきりと見た。ガガの目の前でポーズを取るジジを・・。        鞭のようなしなやかな筋肉美を誇っていたパンツ一丁のジジを・・・        どうやら、壊れたのはセラだけではなかったようだ・・・・(汗   その後の事は語るまい・・・・。只、世にも恐ろしい出来事があったとだけ語っておこう。合掌。  「ちょっとしたアクシデントがあったが、そろそろ本題に入るとするか・・」   まるで戦争でもあったかのように半壊した部屋のイスに座るセラとユーナ。   廊下の奥から聞こえる奇妙な呻き声や、一際大きな穴の奥で蠢く物体等は気にしない方向で・・。  「そうしますか・・・それで、例のチップは?何かわかったの?」   その問いにセラは黙ってカップを置き、調査結果と書かれたファイルを手渡す。   ユーナは顎に手を置きながらファイルを眺めていく。一頻り見た後溜息をこぼす。  「・・う~~ん・・やっぱり結果は『不明』だったのね。」 「ああ、ヘブンの全ての端末を使ってもな・・」   イライラしてるのか、一気にカップを煽り中のコーヒーを喉に流し込むセラ。  「全く、どれほどの技術力なのだそれは・・・我々に対する侮辱にしか思えん!」    セラが怒りのあまり空の紙コップを握り締める。冷静なセラにしては珍しい。  「まあまあ落ちついてセラちゃん。今我らが最強がチップを調査してくれてるんだから・・」   ファイルを置き、セラに向ってウィンク付きの笑顔を向けるユーナ。  「確かにあやつなら信用できる。待ってみるか・・」  「そゆこと。気楽に待ちましょ。」   そう、彼ならば・・・セラもユーナも同時に彼を思い、心を安らげる。   ロック・ヴォルナット・・・彼に眠る力さえ起きなければ・・・ --------------------------------------------------------------------------- そのころ・・・・最後のチップが眠る遺跡では・・・                  ぐしゃあああ!!!!   集中して浴びせられたバスターによって弾け飛ぶ左足。それによって完全に地に沈むボスリーバード。   だが、紅い光を纏った少年の攻撃は止まるどころかさらに激しさを増す・・                 ザアアアアァァァ・・・・・・・・   彼が斬ったあとが一つ、また一つと砂と化していく・・・生ある物からただの物質へと・・・  「また笑ってる・・・あの優しいロックが・・・楽しんでる・・・」   少し離れた位置に居る赤いアーマーを着たロールがロックを見てつぶやく。   いつもの蒼く光り輝いていたロック、優しくて本当は闘うことなんか想像出来ないロック・・・   今までのロックとの記憶をスライドのように思い浮かべながら、必死に耐えていた。   目の前に居る。滅びの刃を振るう『滅神』のようなロックが居るという現実から・・・                  ズバン!!!!!   一際大きな音が遺跡中に鳴り響いた。逆手に持たれたロックのZ,Bが敵を裂く音が・・   ボスリーバードは断末魔の悲鳴を上げ、やがて霧となって消えてしまった。  「・・・ハハハ・・・・アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ・・・・・」   狂喜。リーバードが消える瞬間を、断末魔の悲鳴を聞きながら・・・   纏っていた紅い光に漆黒の闇を見え隠れさせているロックの笑い声が・・・   まるで新しいおもちゃでも貰ったようなロックの無邪気な笑い声が・・・  「・・ロック・・・一体どうしちゃったの・・・こんなのロックじゃないよ・・・・」   ロールが膝を付いて今にも消えそうな声を搾り出した。そんな二人を、敵の残骸の中から現れた、   黒いチップが見ていた。鈍い光を放つそれは、先の運命を表すかのようにただ闇だけを写していた。   ・・・・光と闇・・・・   ・・・・正義と悪・・・・   ・・・・慈しみと憎しみ・・・・   全てはコインのように表裏一体。絶対に独立したものではないのだ。   バランスを崩してやれば、光でうまく隠したものはすぐ・・・・   ・・・・・・曝け出される・・・・・・  『おまえもそうなんだろ?『ロックマン・トリッガー』。究極のアンバランスな心の持ち主よ・・・』  「・・・うわぁぁあぁ?!?!?!」   驚愕の声を上げてロックがベットから跳ね起きた。勢いの余りでベットからも落ちてしまった。  「・・・・ゆ、夢?」   息を整えつつロックが呟き、地面に手をついて立ち上がり周りを見渡した。   子供が駆けずり回れるほど広い部屋には人一人が寝るには大きすぎるベット。壁に掛けられた   すばらしい絵画の数々に観葉植物。部屋の隅には何か作業をするときに用意された小さな机。   間違いなくサルファーボトム号にある客室の一つである。ロックはようやく現実感を取り戻せた。  「・・・まだこんな時間か。結構寝たはずなのに・・・」   壁に掛けられた時計を見た後、ロックはベットに座りなおした。   最後のチップを回収した後すぐに戻ってきたロックだったのだが、かなり疲労していたロックを   見かねてチップを調べる1,2時間ほど眠るようにとロール達を始めトロンやセラ達に諭され、   客室に強引につれてこられた後無理やりベットインさせられ眠ったまでは良かったのだが・・・  「さっきの夢のせいであんまり寝た気分じゃないなぁ。」   首や肩を廻しながらロックは溜息をついた。   先ほどの夢・・・アレほどリアルで語りかけてくるような夢は初めて見た。   ロックは何故かはっきり覚えている夢をもう一度振り返ってみる。   語りかけてくる夢は薄く闇が掛かっていて見えにくかったがアレだけははっきりと見えた。   黒い鎧・・いや、身体全体を覆っていた黒いもやのせいでそう見えたかもしれない。   その黒いもやの中にはっきりと・・・沢山の生物を斬り倒し、笑っているロックの姿が・・・  「嘘だ!!そんな事があるもんか!!」   想像を払いのけ頭を抱え込むロック。『自分がそんなこと出来るわけが無い』。だが、   そう確信することは出来なかった。自分の身体の変化・・・それに気付いていたからだ。   最初に異変に気付いたのは一ヶ月ほど前・・丁度Z,Bを創った時の頃だった。   いつものように地下へ潜り、ディフレクターを回収し遺跡の活動を止める仕事・・・。   だが、その仕事の後に小さな違和感を感じたのだ。なぜか物足りない・・何かが足りないと・・。   それは日を追うごとに大きくなっていき、鮮明にはっきりと感じられるようになっていった。   足りないと感じていたもの・・・それは本来の彼にあるまじき欲望・・・・            『破壊』という名の衝動だった・・・・   今まで数多くのリーバードを殺めてきた。だが、それを快感に思うことは無かった。   なのに何故そんな欲が生まれたのか・・ロックにはわからなかった。   このまま闘い続ければあの夢にでてきた自分のようになるのか。そう考えた時昼間のことを   思い出した。やはり、狂気に侵されていた遺跡内、その遺跡の奥へ進むごとに、邪魔をする   リーバードを倒しながら進んでいくたびに奇妙な感覚に心が冒されていった。タールか何かの   黒い液体をすっぽり頭から被ったかのような・・不気味だが恍惚とするほど黒い何かが・・   そしてその感情は最後の番人に会った瞬間に弾けた。それと同時に誰かの呼ぶ声がしたような   気がしたが、戸惑ってるうちに全てが終わっていた・・・惨状という結果を残して・・。  「アレは僕がやったことなのだろうか・・・アレをやったのが本当の僕なのか?」   恐ろしい考えが頭を過ぎっていく・・・もしそうだったのならば・・夢が現実となったならば、   恐らく自分が斬るであろうモノは、今まで大切に思ってきた仲間達になる・・。  「イヤだ!それだけは絶対に・・・そんなことが・・・」   ついにベッドに突っ伏し首を横に振り続けるロック。時々嗚咽を上げ、ただ想像の自分から逃れる。  「何が起こって・・・るんだ・・僕の身体に・・・一体何が起こってるんだ!!」   ロックは枕を涙で濡らしながら声を荒げる。答えが返ってくるわけが無いが只叫ぶしかなかった。   そんな彼を机の上に転がりながら、親友の形見『Z,B』が見ていた。鈍く光るそれは   まるで彼を慰めるようにしていたようにも見えた。   ロックが思い悩んでいる同時刻、ロールはロックのとは離れた部屋に居た。   複雑な表情を浮かべたままベッドに座っていた。時折ドアを見る仕草を見ると誰かを待っている   ようだった。チクタクとなる柱時計の音が響き渡る中、ドアが開いた。  「話ってのは何なの?つまらない話じゃないでしょうね?」   そう言いながら入ってきた独特の髪の少女、トロンに向かって顔を上げるロール。   その顔を見て話の重要さを理解したのかトロンは真面目な顔になり黙ってロールの横に座った。  「一体どうしたのよ?そんな神妙な顔して・・・昼間の遺跡で何かあったの?」   口調は荒かったがロールを気遣うトロンの言葉にロールは詰まりながらであるが話し始めた。   ロックが遺跡で見せたあまりの豹変ぶり。ロックから放たれているとは思えない殺気。   そうなったのは一度二度ではないこと。そしてロックを取り巻いていた赤黒いオーラ。   包み隠さず全てをトロンに話したロールはその後泣き出してしまった。そんなロールを   トロンは抱きとめる。同じ彼を思うトロンにはロールの辛さがわかるからこそ優しく慰めた。  「そんなに弱々しいあなた見たくないわ!しっかりしなさい!ロックを信じないでどうするの!」   ・・・・・い、いつもの彼女に比べたら優しいほうである。(笑  「さ、ピーピー泣いてる暇はないわよ!そら立って!!」  「え?え?え??ど、どこに行くの?」   怒り心頭といった感じで立ち上がり無理やり立たせるトロンにロールは戸惑う。  「決まってるでしょ!私はそんなロック見たくないしロックも気付いてたら嫌がるはずよ!   だとしたら一日でも治してあげるためにセラかユーナを問い詰めるのよ!きっと何か情報が   あるはずだわ!早く立ちなさい!でないと私が先にロックを治しちゃうわよ!!」   拳を振るいながら語るトロンに一瞬呆けてしまうロールだったがトロンの言う事ももっともだ。   ロールはキュッと歯を食いしばって涙を腕で拭うと勢いをつけて立ち上がる。  「ありがとう、トロンちゃん。相談してよかった・・・本当にありがとう!」  「わ・・わざわざ礼なんていいわよ・・それよりさっさと情報を聞き出しにいくわよ!」   照れているのか顔を背けるトロンをおかしく思いながら共に部屋を飛び出そうとしたその時。   『非常警報発令!非常警報発令!侵入者を確認!総員直ちに201号室へ!非常警報・・・』   突如鳴り響いた警報とアナウンスに立ち止まるトロンとロール。その後急いで部屋に戻り、   神速でアーマーを装着する。ものの三分としない間に二人とも戦闘体制を整えた。  「201号室・・・セラさんたちが居る部屋ね。」  「急ぐわよ!ロール!この船に乗ったことを絶対後悔させてやるわ!!」   そう言いロールとトロンは201号室へと降りるエレベーターに乗り込んだ。  「セラさん!ユーナさん!ジジさん、ガガさん!!・・・うっ?!?」   ドアを蹴破るようにして中に入ったロールは思わず立ち止まってしまった。   結果遅れて入ってきたトロンは勢い余ってロールとぶつかり縺れるように転んでしまった。  「っっっっ・・・ちょっとあなた!何を立ちどま・・・・って・・・???」   怒りのままに怒鳴るトロンだったがロールと同様にその場で固まってしまった。  「な、なんなのこれ?」   目前のモノを見ながら呟くトロン。それはあまりに不可解なものだった・・。   部屋のありとあらゆるところにクモの巣のように張り巡らされたジェル状の物体。   その中心にはロックとロールが回収してきたチップが完全な六角形の形で埋め込まれていた。   そしてそのクモの巣のようになった部分に四人がが張り付けられた状態で居た。   その周りには助けようとしたのか水兵達が倒れ伏している。  「セラさん!ユーナさん!ジジさんもガガさんも大丈夫ですか?!」   気付いたロールが叫ぶとわずかに動いていたのが見える。とにかく息はあるようだ。   ともかく助けなければとロールとトロンが身を乗り出したその時・・・       「あら?かわいいお二人さん・・・オイタしちゃダメよ?」             「「?!?!?!」」   突如後ろから聞こえた声に弾かれたように飛びのいた二人。そして各々の武器を突きつけた。   後ろに居たのは女性だった・・・いや女性という形をしていたがまったくの別物だった。   透き通った身体はジェルのような物質で出来ていて向こうの景色をゆがめている。   時折波打つ胸の赤いボールが目立った。恐らく心臓のようなものなのだろう。  「あ、あんた一体誰なのよ!!!(こいつ・・気配がまったく無かった??)」   腰から引き抜いた光剣を向けながら動揺してるのを悟られまいと虚勢を張るトロンだったが、   あまり意味を為していないようだった。そんな彼女をゆっくり見据えながら物体は微笑む。  「あらあら、もう忘れちゃったの?あなたとは前にあったし、ある意味親密といえるわよ♪」   場違いなほど軽くしゃべる物体の言葉にトロンは疑問符を浮かべる。物体は無言で部屋の   中心に歩み寄り二人へむけて軽くお辞儀をする。  「ま、自己紹介はしときましょうか・・・一年ぶりにご登場~。かわいい私のお名前は~   『バイス』というレディーよ?コレからもヨロシクねん♪」   ポーズなども決めながら話す物体『バイス』を見て肩透かしを食うトロンとロール。  「「(この人一体何なの?敵??)」」   そんなことを考える二人の前でバイスの自己紹介ショーはまだ続いていた・・・。  「・・・ねぇ?そろそろ本題に入っていいかしら?」   3番まで歌っていたバイスに向かって痺れを切らしたかのようにトロンが切り出した。  「そう?せっかくいいところなのに・・・でもその前に・・・」   なにやら凝った節回しなどを駆使して歌ってたのを邪魔されて膨れながらバイスが、   先程の騒動で閉まったドアを軽く指差しながら・・・・  「そろそろ出てきたら、トリッガー?いつでも攻撃できるようにしてるみたいだけど・・   そんな不意打ちじゃ私は倒せないわよ?カムヒア~~~~??」   そう言うバイスに驚き振り返る二人。すると音もなく開いたドアの向こうに確かに彼が居た。  「・・・・上手く隠れられたと思ったんだけどね・・・・それでバイスさん、何をしたいんです?」   何かを押し殺したかのような凄みのある口調でロックは問いながら入ってきた。   するとバイスはそんな凄みをもさらりと流しながら微笑む。  「もちろん。このチップの回収よ?この子達はチップをすべて集めると何かがわかると思ってた   みたいだけどなんてことはないわ。これは私の重要な部分の部品なの。奪ってみる?」   そう言いながらチップを取り外して小脇に挟むバイス。抵抗したくとも彼女の傍には人質が   大量にいる。ここでの戦闘は出来ない。苦虫を潰すような顔で悔しがるロック達。  「チップには狂気とも言える特殊な反応を叩き込む必要があったからあんなふうな事に   なっちゃったけど・・・ま、しょうがないわね。私の知ったことでもないし・・・」   にやりと笑いながら神経を逆撫でする言葉を選んで話すバイス。明らかにロック達の怒りを   誘っているように見える。何とか気を落ち着かせるロック達を楽しそうに見ながらバイスの言葉は続く。  「全ては前システムの復活のため・・・それが狙いよ?よ~くわかった?」  「何のために!どうしてそんなことを!!」   ロールが声を張り上げる。知らずか声が上ずっているが無理も無い。彼女も耐えているのだ。  「さっき一年ぶりって言ったわよね?それでもわからないかしら?私を撃ったくせに・・・」   バイスの言葉にふと、一年前を振り返る三人。一年前、ロールが撃った、トロンと親密?  「「「ま、まさか!!!」」」   三人の声が重なった。同時に同じことを思いそしてある存在を思い出した。  「そう、私はあの時その子―トロンって言ったかしら?―に取付きゼロ・ウォーレンツと共に   一年前、前システムを復活させようとしたあの洗脳型リーバードの真の姿よ!」

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