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大地と光と空気と

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rocnove

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最終章~Over The Rainbow

いつかどこかの遺跡の深部で・・・

私はやけくそになりながら、空になったライフボトルを床へ向かって投げつけた。

「ええい、呪われろっ!」
跳ね返る堅い音がして、とたん、がっしゃがっしゃとリーバードの足音だけがしばし乱れて響いた。
姿の見えない透明シャルクルスの一団体さんがそこに居座ってくれちゃっている。
シャルクルスってのは、人間のように手足があるタイプのリーバードで物凄く好戦的。
大きさは2m前後。ハサミみたいになった両腕を洗練された動きで振り回し、死角からいきなり突進してくるし、
耐久力もバツグン。それの種類のうちに透明で視覚でとらえることができない種類がいる。
最高にやっかいで強力なので有名なリーバード。そいつらがそこでてぐすね引いて待っているってわけ。

ここは、広くて平らなフロアーのほぼ中央にある、一段高い台みたいな場所。
奴らは上って来られないけど、私も降りられない。

「シェル、ボトルの無駄だわ」
私の膝に頭を乗せて寝ていた妹のメールがぐったりと言った。
ママ譲りの、とうもろこしの穂色をした金髪が冷汗でべったり額に張り付いてしまっている。
「あんたは黙ってなさい、メール。傷に障るよ」
その前髪を額からどけてやりながら、私はメールの酷い傷を見下ろした。
ディグアウター用の翠緑のアーマーの継ぎ目を狙われて、メールの左の膝裏はざっくりと斬られている。
左足のアーマーパーツはすっかり剥がして厚く包帯を巻いてあるものの…。メールの消耗は激しかった。

私はあの見えないシャルクルスを振り払ってメールをここに担ぎ上げるしかできなかった。
買ったばっかりだったバスターは、あいつらの爪でずたずたに切り刻まれてしまったし。
あとは助けを待つしか、方法は無いって言うのに・・・。

「テール姉さん、助けはまだなの?」
傍らに投げ出した無線につぶやくと、サポートとして地上に残っている姉の声が返ってきた。
『…協会からの返事は同じ…一番近くにいるディグアウターでも、この島にくるだけで3日はかかるって…』
まる1日前に聞いたのと同じ返事だった。もう!そんな遅いんじゃ、メールは死んじゃう・・・。
こんな無人島に来たのがいけなかったのかな。
水も無いもの、普通の状態だって生き延びられるかどうか。

いいえ、思ったより深い遺跡だったのに気付いたとこで引き返せば・・・。後悔は尽きない。
なんだっけ、後悔先に立たず…。本当にそうだ。

ふっと片手にメールの手が触れているのに気付いて、私はわれに帰った。
疲れきった瞳でメールがこっちを見上げていた。
ふっくらしていた目の下は黒々とくまが浮いている。

「シェル、大丈夫。助かるわ。諦めたら、ダメよ」
私はもう一瞬返す言葉も無くただメールの手を両手ではさみこむように握り返した。
「はは、ごめん。ほんとにそう…あんたに励まされるなんて、しっかりしなきゃいけないのは私だね」
けが人に励まされるなんて、立場が逆じゃない。情けないな。
溜め息をついて、私はもう一度このフロアのドアを睨んだ。
…助けが来るのなら、そこからだから。まあ私が見るより先に、テール姉さんが教えてくれるだろうけど。
何もしないより、落ち込んでいるよりましだから、私はそこを睨みつづけた。

奇跡はいつも思いもかけない方向からやって来る。
突然、メールがうめいて身じろぎした。
「な、何!?」
驚いて彼女の顔を覗き込むと、血の気を失った顔で、妹はやっと小さくつぶやいた。
「シェル、奇跡」
私は訳がわからず眉をしかめた。メールがいよいよ幻覚でも見るようになったのかと思って。

「『ロードアイランドに虹がかかった』の!」
私は息を止めた。その言葉は、いつのころからか使われ始めたディグアウター用語だった。

意味は、途方も無い奇跡。
メールが震える指で入り口とは逆方向を指した。
私は慌ててそちらを見て、今度は息を飲んだ。そのまま口を開けたっきりしばらく閉じることができなくなった。
そっちは、この遺跡の深部へ降りると思われるドアがある方で、私もメールもまだ行ってない。
この遺跡は未発見の遺跡だったし、誰もまだ行ってないはずだったから。

さっと開いた薄翠の扉を抜けて、一人のディグアウターらしき男の人が走り込んで来た。迷いの無い疾走。
うわ、アーマーも着ていない。私服だわ。
その人が着ているのは、丈夫な生地だけれども
リーバードの弾の一発さえ満足に防げるかどうかの丸っきりの私服だった。
私は思わず呆れた。ディグアウトに来るのに私服なんて、よほどの自信家か、ただのバカ。
もしくは貧乏人に違いない。


薄暗がりの中を水色の長い髪をなびかせて、その顔が私たちの方を向いた。
あまり見かけない褐色の肌。
体格から判断して男の人と思ったけれど、顔だけ見れば女性といっていいかもしれない。
高い頬骨と顎のあたりの様子、精悍さを漂わす目のあたりをよおく見れば、
なんとか人によっては顔だけでも男と気付くかもしれないけれど。
目の色までは、まだ遠くてわからない。

「あんたたち、フリア姉妹か!?」
よく通る声が空間を渡り、私たちの元まで届いた。『フリア』は私たちの家名。
それを知っているってことは、この人、もしかして本当に助け手なの!?

「・・・ええ、私はシェル。シェル・ドゥ・フリアよ!」
膝の上のメールの体を思わず抱き起こしながら、私は叫んだ。
「妹が!・・・怪我をしているの。お願い助けて!!」
その男は一瞬頷いたように見えた。
男が部屋に入った瞬間から、
シャルクルスたちの足音が襲い掛かる音へと変わっていたのに私は気付いていた。
足音と時間から判断すれば、もう男とシャルクルスはお互い攻撃可能範囲に入るはずだ。

…お願い。負けないで!

ふっと男の体が沈む。直後何もない空間に放たれた鋭い回し蹴りが、
手品みたいにシャルクルスを一体蹴り出した。

がしゃん・・・・ガシャンッ!
でたらめに手足を振り回して、この高台の足元まで転がってくるリーバード。
なんて力だろう!
鞭のごとくしなって死角から繰り出された男の腕には、
いつのまにか…なにか彎曲した棒のようなものが握られていた。
透明に透き通って目立たない材質でできている。…なんだろう?

「棒なんかでいったい・・・」
「シェル、あれは弓だよ」
ゆみ?
メールの言葉に聞き返す間もなく、男はその『ゆみ』を鋭く前方に突き出した。

バキィンッ!
激しく堅いものとぶつかり合う音がして、さらに一体のシャルクルスが実体をあらわした。
そのシャルクルスはそのまま床にぶっ倒れて動かなくなる。

(何で!?)
よく見るとシャルクルスの胸の1点に貫通するほどの穴が開いていて、
そこからはじき出されたディフレクターが遠くの床でチャリーンと澄んだ音を立てた。

・・・なんて人!シャルクルスの体の構造を知り尽くし、
なおかつ強固なその構造を一気につらぬく力と技量がないとできない芸当じゃない!
それも、わけのわからない棒みたいな『ゆみ』とやらで
「原始的な武器だわ、とても…」
のめりこむように見つめるメールの視線の先で、男は周囲をなぎ払うようにその透明な『ゆみ』を一閃。

それから素早く空中に跳躍した。
一瞬前まで男がいた場所に、『ゆみ』の一撃を受けたシャルクルスが姿をあらわし、
どっとつまづいて倒れた。5・・6・・一度に6体も転ばしてしまう。

男はくるっと宙で一回転して、足音も無く着地した。体中のばねがきっとすごく強いに違いない。
そして、背後で転んでいるやつらには目もくれず、
最初に蹴り飛ばしたヤツが起き上がり体勢を整えたところに走り寄ると。

透明な『ゆみ』の両端をつなぐ糸みたいなものにさっと鋼鉄の尖った棒をあてがうと、
それを糸ごと思い切り引いて、手を離した。
物凄い勢いで放たれた尖ったものは、リーバードのまん中をすっかり貫いてしまう。
とても単純で、エネルギー弾とかエネルギーブレードに遠く及ばない原始的なものだというのが、
ようやく私にもわかってきた。メールが驚いた様子で言った意味が良くわかる。

「シェル!君は怪我はないな?」
男がこちらを仰いで言う。さっきより近いその瞳は、かつておとぎ話にきいたような海や空の青色だった。
…藍色と言ったっけ?
「無いわ・・・幸いなことに」
それはよかった。と嬉しそうに口元をほころばせた男は、
再び姿を消して突進してくる6体のシャルクルスがいる方へ顔を戻す。
さっきみたいにまた尖った鋼鉄のまっすぐな棒を片手でつまみ、『ゆみ』の糸を引く。
男の肩の筋肉の盛り上がり、手首の震えからとんでもない力がそこにかかっているんだと解った。

地響きのように足音だけ迫るシャルクルス。
だけど、男は今度は糸からまだ手を離そうとしない。
何を考えてるんだろう!さっきの様子だと、連射はできないはずだし、この人はアーマーもつけてない。

「早く!攻撃するんならしないと!…目の前でひき肉になるのなんか見たくないからねっ!!」
シェル!とメールが私をたしなめる声が聞えたけど、私はかまわなかった。
その私以上に男は私の言葉に応えない。苦笑気味にちらっと笑っただけだった。
糸に乗る、男の人差し指がとん、とんと何かのリズムを刻む。
こんなときに何を!

「足音のリズム。彼ら特有の歩幅と、思考パターン。6体が一線上に並ぶ瞬間は・・・・」
歌のように呟いた、男の言葉に私は呆気に取られた。・・・なにが、なんですって?

そいつは、さん、にい、いち。とそのままカウントダウン。
「今!!」
叫ぶなり、限界まで溜められた力のままに鋼鉄の凶器を打ち放った。

バシュウッ!!
がちっと音がして、反対側の壁に武器が刺さる。
直後、一気に実体化したリーバードたちが積み木みたいにガラガラと崩れ落ちた。
…6体、全部。

「・・・・なっ!?」
それも、残らずディフレクターを打ち砕かれている。…まさか、何よこの男って!
どうひかえめに考えたって、並みのディグアウターであるわけがない。
私服なのは自信の表れだったんだ。
…でもさすがに服は青くはないし、伝説の『青い』ディグアウターじゃないだろうけど…。
「あなた、名前・・・」
『ゆみ』を軽く払っていた男はその手を止めてこちらを見上げて、にこっと笑った。
「グランド・D・リヒトエア」
「・・・長いわね」
伝説の名を冠されているディグアウターの名前じゃなかった。…私の思い過ごしか。
「そうかな」
男はテキパキと私が降ろしたメールを受け取り、傷に触らないよう慎重に横抱きにした。

そして、私に向かって水とライフボトルのビンを投げてよこして。
「君は自力で地上へこれるね?」
と、人が悪い感じに笑って見せた。
「余力があるなら、先へ行ってみることをオススメするよ」
「なにそれ?」
こっちはまる1日も飲まず喰わずだったのに、そんな気力ないわよ。
だいいち男だったら迷宮で困っている女の子の一人や二人くらい助けなさいよっ!

『シェル、待って』
今まで無言だった地上のテール姉さんが無線で話し掛けてきた。
『グランドさん、助けてくれて感謝の言葉もありませんわ』
グランドは居心地悪そうに微笑。あまり誉められ慣れてない人なのかもしれない。
困ったように頭をかく様子なんか少年のようだった。

私はふと気付く。
さっきの冷静な戦いように惑わされそうだったけれど、この男は思ったよりずっと若いみたいだ。
幼いとはいわないまでも。ひょっとすると、まだまだハイスクールの制服が似合うほどなのかもしれない。

「たまたま、俺が潜っていた遺跡と、ここが地下でつながっていたおかげだ」

ぶっきらぼうに言い放つ男に、テール姉さんの言葉が続く。
『・・・それはそうと、伝説とまで言われたディグアウターの中に、
 「エルン・シェア」・・・「通り雨」のあだ名を持っている方を知っているかしら』

「噂ならね」
『通り雨』ね、それなら私も知っている。謎が多くて、とかく噂の多いディグアウターだ。
伝説と呼ばれる例にもれず強いということだけは確か。
だけど、男なのかも、女なのかも解らず、
実は出身地さえも謎という。

『前時代的な弓を武器として使い、アーマーもつけずに遺跡に潜り、無傷で出てくる。
 リーバードの構造について驚くほど熟知し、その言葉すら使うって言う噂も』
グランドと名乗った男はビックリしたように話を聞いていたかと思うと、
頭を振って付き合ってられないとばかりに苦笑した。
「・・・・・まるで怪談じゃないか」
だけどテール姉さんも言葉を止めない。
『あだ名の由来はその髪が見事な雨の水色だからとも、通り雨のごとく見る人を驚かすためだとも、
 降るように矢をあやつるからとも言われているわね』

「面白い噂だな」
『あなたに助けてもらえて光栄です』
「助けたのがこんな美女たちで、こっちも光栄だよ」
―――え?
否定しなかった。自分じゃないと言わなかった。…じゃあ?まさか??
グランドの腕の中でメールも目を見張り、私とグランドとを見比べている。
顔色が悪く見えるのは、なにも傷のせいだけでもないのだろう。

「じゃあ、地上で」
―――ダッ
止める間もなく、身軽に身を翻した男は
メールを抱きかかえたまま空中に空色の髪の軌跡だけ残して走り去っていった。

…まさか。・・・まさか、ね?
男の後ろ姿を飲み込んで閉まった扉を呆然と見つめながら、
私はライフボトルをしまいこみ、水をその場でがぶがぶと飲んだ。…何時間ぶりの水だろう。
空腹は最大のスパイスっていうけど、あれ本当だわ。まさに五臓六腑に染み渡る美味しさだった。

『シェル、あれはきっと「エルン・シェア」よ』
「テール姉さん、まだそんなこと」
笑い飛ばそうとした私を、姉さんは口調で押さえつけた。
『私ね、過去伝説といわれたディグアウターの素性を調べたことがあるの』
また、そんなめんどくさいことを。と私は内心あきれたけど、
その調べ物好きな姉さんの性格がディグアウトのサポートとしてどれだけ私たちを助けてきたか知れない。
そのことを思うと批判もできないのだけど。

『彼を疑うのなら…言われたとおり、先へすすんでみなさいな』
「何でよ!私疲れちゃってもう早く帰りたい。シャワーも浴びたいのに。
 メールのことだって気になるわ!」

『もう一つ。「エルン・シェア」について興味深い噂があるのよ』
「なによ!」
『「通り雨」は虹の先触れ。彼が現れる遺跡には必ず、虹色のディフレクターがあるっていうの』
私は息を飲んで、そして暫し言葉が胸の中でつっかえて形にならなかった。
「まさか」
『昔、何かあったのでしょうね。彼は虹色のディフレクターだけは、絶対にディグアウトしないそうよ。
 …どれだけの腕があっても』
私は、もう一度あのグランドの顔を思い出そうとした。女性のように整った容貌。
誇り高そうなラインを描く眉。見た事も無いほど深い澄んだ青の瞳。
…深すぎて、私なんかには推し量ることもできない。

「賭けようか、テール姉さん」
いいわ、と無線が応えた。私は言う。
「私が勝ったら新しいバスター」
姉さんが笑いながら、
「じゃあ私が勝ったらシェルに向こう一週間の食事つくりを担当してもらうわ」

・・・げ。
おもわず心の中で悪態をついた私だけど、じつはちょっと負けてもいいかなと思い始めていた。
あの扉の先にあるのが虹色のディフレクターなら、私たちは伝説に触れたことになる。
まさか、伝説のディグアウターがこんなあちこちにゴロゴロ転がっているもんか。

でも、もしホントにそうなら会ってみたいじゃない?一度くらい。
私は高台から滑り降りて、強いてゆっくりと足を運ぶようにしながら奥へ続く扉へと近づいた。
そして、私は何度目かになるセリフを胸のうちで繰り返す。

―――まさか、まさかね。


~大地と光と空気と

視界が開けていた。

スッと吸い込んだ空気に混じるのは、懐かしい潮の香。
・・・なつかしい?
今日まで飽きるほど嗅いでいたって言うのに。

空は東の方から太陽の黄金、夜の藍色へ見事なグラデーション。
そうか、とあらためて気付く。一晩たっていたんだ。

ちょうど染め抜いたように見事な薔薇色に翻る雲の切れ端のあたりに、
忘れられた片方のピアスのような、残り月。
吹き渡る風から香るのは、誰かの作る早めの朝ご飯。それになびく足元の草。白く黄色く、くすむ砂浜。
なだらかな灰青色の海面の向こうに・・・

ああ、島が見える。薄ねずみ色の、寝そべったアザラシのような形。…となりの島だ。


ここは絶海の孤島なんかじゃなかった。結界は解けたんだ。


俺はまだ痺れている掌をズボンに擦って、わずかに焦げた前髪が風に乱されるのを防ぐために押さえる。
そのまま額を下に滑らせていって、俺は両目をその手で押さえた。

「良かった・・・ 無駄じゃなかった…!」
この手に触れる熱いものが涙と知って。
俺はあの時泣き残したぶんを、ここで泣く・・・。

はるか上空を、黄色と赤の飛空船が滑ってくる。涙でぼやけても遠くを捉える俺の視力が、
昔風の舵輪を握ってあせった様子の女の子と、
フロントウインドウを掴み割らんばかりに両手に力を込めてこちらを見ている少年とをとらえる。

――ああ、ああ。言葉にならないとは、このことだ。


日誌より。

◆海鳴り月の 第40日  晴れ  風向き:一日中東より微風

雑記
久しぶりのディグアウターが島に訪れる。島中がその噂でもちきりである。

オルーカ家のカブが食べごろだ。近々シチューになる・・・
(半分ほど余白があり、消しゴムで乱雑に消してある。 消しきれぬ強い筆跡の跡によると、
 料理方法が延々続くようだ。カブに対する並々ならぬ情熱を垣間見せている。)

リヒトエア家の一人息子がレインボードラードを上げた。たいした腕だ。

ケンカ・0件 犯罪・0件 けが人及び病人・0件 死者・0件


◆海鳴り月の 第41日 晴れ  
  風向き:残念ながら、誰も風に注意を向ける暇もなかったので記録できない

雑記
昨夜の遅く、例の遺跡のあたりの空が物凄く光った。
人によると、島全体の空が包み込むように光ったらしい。
空中を虹が埋め尽くしたと言う者もある。まったくいったいどれが本当なのか。
私は寝ていた。残念極まりない。
今日は朝からずっと、島全体が蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。
いろいろあって書ききれない。あすの観測日誌がどうなるか、私にはとても・・。
じっさいこうして書いている間も、何から書いていいかわからない気がする。
今日は興奮して眠れない。詳しいことは明日の日誌に書くと思う。
誰も彼もが私を呼んで詳細を聞こうとするが、
私が知っていることなど天候のことくらいだというのに。

皆、当人と思われるリヒトエアの一人息子やディグアウターに聞いてみるのが怖いのだろう。
いずれ私がその役目を押し付けられそうだ。 

さておき 
必要事項だけ今は記しておこうと思う。

ケンカ・1件 犯罪・0件 けが人及び病人・2件 死者・1件

詳細
死者
ロンドラッド家の一人息子。ディーア。遺体は無い。詳細は今のところまだ不明。

ケンカ
ロンドラッドの奥方がリヒトエアの一人息子を殴り倒したもの。

けが人
殴られたグランドと殴った奥方が(手をくじいて)負傷。

(終始乱れた書きなぐりのような文面。この先、この日を境に日誌に記述はなくなる)
 
              以上。ロードアイランド天候監視員の観測日誌より抜粋。
                          記述者*テール・ドゥ・フリア


『虹にまつわるエトセトラ』完
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