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第三章『RISING FORCE』

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rocnove

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ザシュッ!!!!

闘いの先陣を切ったのはフォボスだ。
強靭な脚力で地面を蹴り飛ばし、凄まじいスピードで二人に接近する!
その次の瞬間、フォボスの手刀が屈んだ二人の頭上を走った!

ボウッ!!!!!

空間がうねり、空気が切れ、攻撃は壁に直撃した。
だがフォボスはそれで止まらない。
なんと、滅多なことでは破壊されない、遺跡の壁を軽々と切り裂き、
疾風のようにそのまま通りすぎてゆく。
と、その後ろからダイモスが手にエネルギーを滾らせながら突っ込んできた!
あわてて横っ飛びでその場から脱出するロックとファディス。
それまでいた場所の壁にダイモスの拳が炸裂する!

ドガァァァァァァン!!!!!

まるで大砲を撃ったような轟音に空気が振動する。
二人が振り向くと、なんと攻撃が炸裂した場所にあった壁が、
大きくえぐられていた。
(なッ・・・・!?)
(あんなものを食らったらアーマーごと砕かれてしまう!)
二人の背筋に悪寒が走る。
ダイモスとフォボスは、氷のように冷ややかな目で二人を見ている。
それは、まさに死神と言えるほどの殺気、威圧感であった。
と、ファディスがいきなり二人に向かってバルカンアームを乱射した!
ファディスにならってロックもハイパーシェルを放つ。
赤い大量の弾丸と巨大な火の玉が二人の粛清官に突き進んでいく!
すると、ダイモスがすっ、と拳を前に突き出した。
そして、その手が勢いよく開かれた瞬間、強力な衝撃波が
弾丸を全て叩き落した!
その衝撃波は全く勢いを衰えずに、ロックとファディスを吹き飛ばし、
二人は勢いよく壁に叩きつけられた!
全身に凄まじい衝撃が走る。
と、それに追い討ちをかけるように、フォボスが再度地面を蹴って
ファディスに接近した!
(・・・・・・!)
間一髪で頭を下げる。その上を目にも止まらぬ早さでフォボスの手刀が通りすぎてゆく!
ファディスの長めの、紫の髪がハラリと舞った。
―――フォボスの勢いは止まらない。
そのまま、ロックの方に向かって突き進む!
再度、フォボスの手刀が振られる!
「うわっ!!」
ロックは弓なりに仰け反ってギリギリのところで攻撃をかわした。
が、当然のように、攻撃それでは終わらなかった。
ダイモスが、ロックとファディスに向かって、同時に円形のエネルギー波を放ったのだ。
光輪が二人に向かって突進していく!
と・・・・・
「・・・・・・・っだぁぁぁぁあああ!!!!」
ファディスが雄叫びを上げながら、なんと自らその光輪に向かって走り出した!
「えっ!?フィルッ!!!!!」
ロックは止めようとしたが、ファディスには聞こえていない。
光輪がファディスに直撃する―――とロックは思った。
だが、それは無用な心配だった。
「ビームブレード、出力MAX!!!」
ギィィィン、と高出力エネルギーが空気を揺さぶり、ファディスの手から巨大な光の刃が飛び出した!!
いや、正確には手からではない。その手の中の、ビームブレードだ。
あんなコンパクトな物のどこにそんな高い出力が秘められているのか、というほどの大きさであった。

ドバァッ!!!

ファディスの振ったビレードは、ダイモスの光輪を2つに切り裂き、四散させた。
「くらえぇッ!!!」
体勢を立て直したファディスは、背中に背負った『ギガライト・ショット』を装着し、いきなり放った!
青白い、巨大なエネルギー弾が2人を襲う!
だが、ダイモスはフン、と鼻を鳴らすと、いきなり横にいるフォボスにエネルギーを叩き込んだ!
―――しかし、それはダメージではなく、逆に凄まじい力の源となった。
フォボスが横一文字に手刀を振ると、巨大な、眩しいほどの光の衝撃波が放たれたではないか!
そしてそれは、ファディスの放った弾と真っ向からぶつかったが、結果は当然―――
「何ッ!!?」
声をあげたのは、反動で吹っ飛び、壁にもたれかかっているファディスだ。

『ギガライト・ショット』は、
ヘタすれば武器自身を破壊しかねない、相当な破壊力を持つ攻撃なのだ。
それを軽々と真っ二つにされた―――ファディスは驚きを隠せなかった。

「あぶないっ!!」
ロックが声を上げると同時に、ハイパーシェルが炸裂した。
強力な爆発が、突き進む衝撃波を飲み込み、消滅させた。
ファディスは爆発には巻き込まれなかったが、真っ二つにされた光弾と、ロックのハイパーシェルによる、
強力な爆風で中に舞い上がり、強かに地面に叩きつけられた。
「ぐえっ・・・」
その強烈なショックで、ファディスは一瞬気を失いそうになった。
「フィル!大丈夫かい!?」
焦ってファディスに駆け寄るロック。
だがファディスは、
「い、いや、おかげで助かった。ありがとよ」
と、苦笑いのような表情を浮かべていた。
半分はお礼、あと半分は『こいつも結構ムチャするなぁ』というような感じだったが、
今はそんな事を考えてるときではなかった。

不意に、ダイモスの声が、爆発によって発生した煙の向こうから聞こえてきた。
「今の貴方達では、私達に勝つのは無理だ。
おとなしく出ていけば、貴方達だけは見逃してあげます。」
…確かに、ロックとファディスでは、この2人に勝つのはかなり厳しいことだ。
今出ていけば、自分達の命は助かる。だが、そうすると島の人々は皆、初期化されて―――

ロックは片膝を地面につけて前方を睨み付けているファディスに目をやった。
彼は、この絶体絶命の事態に陥っていても、闘志は全く消えてなかった。

彼が何故こんなにもしてこの2人と戦うかはよくわからない。
ただ、イオが『人類再生プログラム』を破壊しようとしていた、ということは、
彼も『マスターの意思を継ぐ者』なのだ。
そして、彼は今、それを『思い出している』のかもしれない。
だから、『初期化』という言葉に対して、ここまでの闘志を燃やしているのかもしれない、とロックは思った。
彼が言っていた「どうしても進まなければならない気がする」という言葉の答えが、
ここに、この場所に、あった。

煙が晴れてきた。
2人の粛清官は、依然そこにしっかりと立っていた。
明らかに、自分より下のものを見下す冷たい視線で、ロックとファディスを見ている。
昔は、自らの上に立っていたであろう者を、今はただの侵入者、邪魔者として。

静寂の空間に、不意にファディスの声が響いた。
「『勝つのは無理』だって?ヘッ、まだ俺は50%の力しか出してないぜ?」
あきらかに強がりだ。声が上ずっている。
だが、どんな状況でも冷静さを失わないように勤めているようにも取れた。
―――が、ダイモスとフォボスにとって、その言葉はただの挑発としか取れなかった。
「ほう・・・ならば、貴方のいう力の100%を見せていただこうじゃありませんかッ!!」
言うと同時に、ダイモスが突っ込んできた。
だが、その動きは、直線。
スピードはかなりのものだが、見切れないほどではない。
が・・・・・・・・・
「フィル、危ない!!」
ロックの声が聞こえると同時に、ファディスの目の前を無数の光弾―――ロックのバスターの弾が横切っていった。
その先には、ファディスめがけて突撃してきていたフォボスがいた。
光弾がフォボスめがけて殺到する。
しかし、次の瞬間―――――光弾は、全てはじけ飛んでいた。1つ残らず・・・
「そ、そんなッ!?」
ロックも信じられなかった。フォボスが今、一体何をしたのかが全く見えなかった。
ロックより近くにいたファディスでさえ分からなかった。
そして、ほんの一瞬遅れて、フォボスの手刀がファディスに襲いかかった。
「!―――――ぐ、ぐあッ!!」
ズガァッ!!
――破壊音とともに、鮮血が飛び散った。
ファディスのアーマーの胸部分は、切り裂かれ、中の肉体にまでその傷は及んだ。
「・・・!フィ―――――うわぁぁああッ!?!?」
ロックは叫ぼうとしたが、その言葉は最後まで続かなかった。
フォボスの鋭い手刀から繰り出された真空刃が襲いかかったからだ。
ズバッ!ズバッ!ズバッ!
見えない刃がロックの顔を、額を、手足を切り裂いてゆく。
それは、最初にロックがバスターを撃ってから、
ほんの1秒あるかないかの内に起こった事だった。
―――直後、ダイモスの光弾が、――至近距離で――ファディスに放たれた。
少し離れたロックにも。

―――ズドォォッ!!!!!
「ぐ・・・がぁぁぁぁあああああああああああッ!!!!!!!!!!!」
「え、えっ、う、うわわぁっ!????!?!?!」
2人の絶叫が、爆裂音と共に部屋に響いた。

まず感じたこと。
体中が、痛い。とてつもなく痛い。
体が動かない。
視界が真っ暗だ。
音も聞こえない。
俺は・・・死んでしまったのか?
いや、痛みを感じてるあたり、辛うじて生きてるらしい。
…本当に辛うじて、だ。
壁をえぐるような攻撃を至近距離で食らって無事ですむハズがない。

…しかし、まずい。
この状況は非常にまずい。
このままでは、間違いなく死が訪れる。
そうだ、ロックはどうなった?
あいつは俺よりも離れた距離でくらった。
到底無事とまでは思えないが、俺よりはダメージは軽いハズだ。
あいつは・・・どこだ?


視界が戻ってきた。
空気の流れが音として聞こえる。
呼吸も、苦しいが行える。
手足もあまり激しくない動きなら大丈夫なようだ。
――あれだけの強烈な一撃を食らって、身体のどの部分も大丈夫だなんて、
俺は本当、一体何なんだろ?――
ファディスは顔を上げた。
その目に映ったものは、2人の粛清官とやらに向かって
何かを言っている、ロックの傷だらけの姿だった。
「き・・・君達は・・・本当に、二等粛清官・・・なのか・・・?」
苦しそうに言葉を押し出す。
ロックのアーマーはあちこちが砕け、その傷や頭などから流血はしてるものの、
ファディスよりはまだ大丈夫らしい。
どうやら・・・先ほどの攻撃は、至近距離にエネルギーを凝縮させ、一気に炸裂させたらしく、
距離が多少離れるだけで致命傷は免れるらしかった。
「私達はそれぞれパワーとスピードを極端に強化された端末―――
それぞれの得意分野なら一等粛清官にすら勝るものがあります。
つまり・・・私達は2人そろえば、一等粛清官すら凌ぐということなのですよ、トリッガー様」
やけに嫌味ったらしく、説明くさいセリフを言うダイモスにファディスはイライラしてきた。
―――なんだか、さっきよりも視界が鮮明になり、音もよく聞こえるようになり、
頭もやけにすっきりしてる気がするが、今はそんなことを言ってられない。
「う・・・あたたたたた」
上体を起こし、頭を抑える。
傷はかなり深いらしく、少し触っただけで手が真っ赤にそまった。
その様子に気付いたらしく、フォボスが振り向く。
それにつられてロックとダイモスも振り向いた。
「む・・・まだ生きていましたか・・・まぁ、100%の力とやらを
見る前に死んだかと思ってヒヤヒヤしましたよ」
実にムカツク事をいうなコイツは・・・!
ファディスの不快指数がガンガン上昇していく中で、ロックの声がその耳に入った。
「フィル!生きてた・・・よかった・・・」
さすがにあの攻撃を食らっては生きていられないと思っていたのだろう。
ホッとした顔で話しかけてくる。
「ま、しぶといからな、俺は」
軽く笑ってみせるファディス。そこに入るいつの声。
「フ・・・まあいいでしょう。どの道あなた方2人とも、ここで死ぬのですから」
ぞっとするような冷たい目と声で2人を威圧するダイモス。
が、しかし。
「ヘッ、何だって?死ぬのは・・・どっちかな?」
不敵に言い放つファディスの態度が、ダイモスは気に入らなかったようだ。
「死ぬのは・・・貴方達以外にだれがいると?」
その問いに、ファディスはスッパリこう答えた。
「お前達に、決まってるだろうが!!」
その言葉によって、ついにダイモスは―――キレた。
「フフフフフ・・・いいでしょう、ならば・・・殺してみるがいい!!!!」
ダイモスとフォボスが、2手に分かれてロックとファディスに接近してきた。
「もう見切った!貴様らの動きはッ!ロック、わかるか!?」
「うん、わかってる!よし・・・行くよッ!!」
2人は、もう既に攻撃の対処法を理解していた。
あとは、それを実行に移すのみ!!

そんな中、ファディスは思っていた。
(しかし、気のせい、か?なんだか痛みが和らいでる気がする・・・・
傷はそのままなのに・・・五感もなんだか鮮明だ・・・
なんなんだ・・・・・この感覚は・・・?)

ドドドドドッ!ズザザザザアッ!!!
フォボスの高速移動による音が響き渡る。
これでこちらを撹乱するつもりらしいが、もうロックとファディスは動揺しない。
パターンだ。ダイモスとフォボスによる攻撃は、フォボスが敵の体勢を崩し、
そこにダイモスが一撃を叩き込む、お互いの弱点をカバーしあった攻撃なのだ。
一見、なんの弱点もなさそうだが、このパターンには、致命的弱点がある。それは―――

ドガァッ!
フォボスの地面や壁を蹴る音が激しくなってくる。
ダイモスも高速移動してくるが、こちらは
フォボスが攻撃するまでは基本的に攻撃してこない。スキが大きいから。
ロックはハイパーシェルを構え、フォボスを目で追っていた。
ファディスはバルカンアームでダイモスを牽制する。
ザアッ!!
一段と、フォボスの移動の音が大きくなる。
攻撃は、近い。
チャキ・・・
ハイパーシェルが金属音を漏らす。
いつでも大丈夫。いつこようと、確実に撃てる。
準備はすべて整った。あとは、フォボスが攻撃してくれば、
―――それでケリはつく。
そして―――――
ドッ!!!!!!
激しく壁を蹴り、フォボスが、ファディスの方に向かって飛びかかった。
だが、それも計算ずくのこと。
ダイモスに気をとられているようにみせかければ、確実にそちらに攻撃をしかけてくるだろうから。
「・・・・・・・今だ!食らえーーーーーーッ!!!!!」
ズドウッ!!!
ハイパーシェルが勢いよく放たれた。だが、それはフォボスではなく、その近くの壁を狙っていた。
外れた―――そう思ったのは、ダイモスとフォボスの2人だけだった。
もちろん、これも狙っての行動だったからである。
ファディスは身を伏せた。そして、次の瞬間、あたりを飲み込むほどの大爆発が起きた。
爆炎があたりを飲み込み、灼熱の空間へと変える。
フォボスは、そのあまりの爆発力に吹っ飛ばされた。
だが、ダイモスはそんなことお構いなしに突き進み、ファディスに攻撃しようとした。
―――それが、ダイモスの命運を分けた行動だった。
火炎と煙を抜け、ファディスを攻撃しようとしたダイモスが見た光景・・・
それは、しっかりと『ギガライト・ショット』を構え、ニヤリと笑っているファディスの姿だった。
「チェックメイト、だ」
「し・・・しまっ・・・・・・!」

ダイモスとフォボスの攻撃パターンの、致命的な弱点・・・
それは、フォボスを足止めすれば、ダイモスは無防備になってしまう、というところだった。

カチリ。ファディスはなんの咎めもなく引き金を引いた。

直後、閃光と爆音が、あたりを支配した。

閃光。
衝撃。
爆音。
光の中に消える影。
最後の断末魔すら飲み込む爆裂。
そして―――静寂。

あたり一面は、ほとんどクレーターと化していた。
もともと、ダイモスとフォボスが眠っていた巨大ディフレクターの台座は
粉々に砕け散り、制御コンパネも半壊状態だ。
そして、部屋には既に、ダイモスの姿はなかった。
消えたのだ。
何もかも。
跡形もなく。
この世から消えうせたのだ―――――

部屋の中心付近に、吹き飛ばされたフォボスが倒れている。
気を失っているのだろうか?全く動こうとしない。
一方、ロックとファディスは、壁にもたれかかって荒い息をついている。
「や・・・やった・・・・・・」
「あと1人・・・大丈夫か?ロック・・・」
「うん、大丈―――――」
ロックが最後まで言い終わらないうちに、『それ』は起こった。
静かな室内に、突如機械音声が響き渡ったのだ。
『ヘブンより確認。粛清官ロックマン・フォボスへ。
申請を受理した。テチス島のマスターのメモリーバックアップは、完了した』
それを聞いて驚いたのはロックだ。
―――何だって?
『バックアップ完了』!?
一体いつの間に・・・
フォボス、と言ってた・・・・
あいつ・・・まさか・・・!?―――
フォボスがむっくりと上体を起こしたのは、その数秒後だ。
しばらく、虚ろな表情であたりを見回していたが、
ファディスを視界に捕らえると、いきなりその表情が鬼になった。
「貴様・・・貴様ァァーーーーーー!!!!!!」
ドウッ!!!!!
地面を強烈に蹴る音がしたかと思ったら、フォボスはもう目の前まで迫っていた。
「貴様が・・・貴様がやった!貴様がやったのか!・・・思い知れェェェ!!!!」
ゴウッ!!!
凄まじい速さで振られる手に、ファディスは反応すら出来なかった。
そして――――

スパッ

何かが切れた。
フォボスの手刀が切った。
ファディスの手の『ギガライト・ショット』が地面に落ちる。
それがスローモーションのようにファディスには見えた。
『ギガライト・ショット』は腕にはめるバスタータイプの武器。
それが何故地面に落ちる?
自分の手を離れて―――――
いや・・・・
『ギガライト・ショット』はファディスの手を離れてなどいない。
ちゃんと、腕に装着されたままだ。
腕に―――そう、腕に。
それが何故落下するか―――
答えは簡単だ。
『切られて』いたからだ。
―――――ファディスの腕自体が。
肘から先を、綺麗に切られていた―――――

ゴッ

重い金属音。
地面に転がる『ギガライト・ショット』と・・・ファディスの右手。
一瞬の静寂。


直後、空間を揺るがす絶叫があたりに響き渡った。

「ぐああああああああああああああッ!!!!!!!!うぐっ、がぁぁぁあ!!!!!!」
ファディスの悲痛な叫びが広い部屋の中でこだまする。
フォボスはそれを冷ややかな、だが血走った真っ赤な目で見下ろす。
首筋やらこめかみやらにピクピクと浮き出た血管が、
より邪悪な恐ろしさを引き立てる。

ロックは思った。
先ほど、メモリーバックアップの申請をしたのは間違いなくフォボスだ。
僕のハイパーシェルによって吹き飛ばされたとき、彼はもう、
兄のダイモスが死を迎えるのを分かっていた。
冷静な判断力、決断力―――
だが―――――
これが、フォボスの本性なのだろう。
兄であり仲間であるダイモスを大切に思っていたに違いない。しかし、
『冷静沈着』の仮面の下は、血を求めて暴れ狂う悪魔の素顔だったのだ。

「う・・・・・く・・・・・・」
血が抜けたせいか、ファディスの顔はどんどん青ざめていった。
呼吸が激しくなっていき、ぐったりとしている。
それを見下ろす、悪魔の瞳。
そしてその口から放たれる、先ほどの態度と正反対の怒声。
「まだだ・・・兄の味わった痛み・・・これくらいでは足りなァァァイイイイイイ!!!!!」
すでにフォボスはイってしまっている。
高速の手刀を次々にファディスに向かって放つ。
たちまちファディスのアーマーは裂け目だらけになり、そこら中から鮮血が吹き出した。
「うぁ・・・・・うう・・・・・・」
ますますぐったりとしていくファディス。
切断された腕からどんどん血が流れ出していくため、
呼吸をしても体内に十分に酸素が取り込まれないのだ。
その呼吸は身体とは逆に、どんどん激しく、早くなっていく。
と、そこで再度攻撃しようとしたフォボスの目に、『あるもの』が飛び込んできた。
それは、紛れもなく、腕。
自身が切断した、この憎い男にさっきまで『着いていた』腕。
と、しばらくそれをみていたフォボスは、いきなり何を思ったか、
足を振り上げ『それ』を思い切り踏み潰した。
ガッ!ガッ!バキッ!ガツッ!ガヅッ!
不快な音とともに、踏みつけられ変形する腕―――いや『腕だったもの』。
「この腕が・・・この腕が・・・・この腕がァァァアアアアアア!!!!」
ドガァッ!!!!
一際大きい音が聞こえたと思うと、もう、『それ』はどこにも見当たらなかった。
「ハァー、ハァー・・・・・貴様は・・・もう・・・生かしてはおけん・・・・」
じりじりと再度間合いを詰めてくるフォボス。
既にその思考は狂い、ただファディスをどう殺すか、ということしか考えられない。
ファディスは、ぼやける視界のなか、最後の頼みの綱をその目で確認した。

「ロック・・・」
喘ぎ喘ぎの声で、ファディスはやっと言葉を発した。
その言葉で、今まで唖然としていたロックはたちまち正気に帰る。
「これを・・・・使え」
ファディスは、『それ』を蹴った。
『それ』は、ガラガラという音を立てつつ地面を滑り、ロックの前で止まった。
『それ』は、紛れもなく、ファディスがさっきまで使っていた『ギガライト・ショット』だった。
少しだけ飛び散った血が、所々を赤く染めている。
「これを使え」ということは・・・これでフォボスを撃て、ということなのか・・・?
だが、フォボスは、ファディスにかなり近い距離に立っている。
こんな距離で撃てば、ファディスがどうなるかなど想像に容易いことである。
「そんな・・・・出来るわけ、ないよ・・・撃ったらフィル、君が・・・」
その震えそうな様子を見て、フォボスはニヤリ、と口元をゆがめた。
「悲しいなァ、ん?お前の最後の願いすら聞き届けてくれなかったぞ、奴は」
明らかな挑発。だが、ファディスにはもう答える気力も体力もない。
「残念だったな・・・死ネーーーーーッ!!!!」
フォボスの高速の貫手が、ファディスの頭に迫った。
(ここまでか・・・・・・)
ファディスは全てを諦め、目を閉じた。
ただ、待った。
自分の死を。
だが・・・いつまでたっても『それ』はこなかった。
代わりにファディスに訪れたもの。
それは―――――光。


ファディスは目を開けた。
フォボスはいなかった。
ロックも。あたりの風景も。
何もなかった。
右手が、ある。
ちゃんと動く。
傷もない。
全て癒えている。
ファディスはあたりを見回す。

星。
四方八方、すべてが星空。
上も、下も、右も、左も。

ファディスは宇宙にいた。
宇宙服も着ず、アーマーでもなく、来ているものはただの私服だ。
だが、自分は宇宙にいる。
わけがわからない。
ここは天国か?
そうも思った。
だが違う。
自分の何かが違うと言っている。
直感的に分かった。

自分は、死んではいない。

ファディスの目が、ひとつの星を捕らえた。
いや、それは星なのだろうか?
すべてが機械でできている。
土などなく、無機質なのに、なぜか神々しく思えた。
そして、同時に懐かしさも感じた。
その星を見たとたん、ファディスの体は重さを思い出し、
ものすごいスピードでその星に引き寄せられていった。

地上に激突するかと思ったとき、体はふわっ、と浮き、すとっ、と華麗に着地した。
あたりを見回すが、薄暗い。
なにか、船着場、と言えそうな場所だった。
ファディスは奥に進んでいく。
何かが待っている。
会ったこともないのに、懐かしい感じ。
『それ』がなんなのか、もう彼には分かっていた。

「待ってたよ・・・」
1人の少年、いや青年が立っていた。
もちろん、初めて見る男だ。
だが、その外見は・・・
地面に着きそうな長さの黒コート、濃紺のハイネックに灰色のズボン。
だが、それ以外は・・・・・
見間違いようがない。
それは、自分だ。
男が、口を開いた。
「俺はロックマン・イオ。とりあえず初めまして、ファディス・ガーレット」
その、イオとかいう男は軽く頭を下げて言った。
「・・・なあ」
ファディスが頭を掻きつつイオに言った。
「ここは何なんだ?何で俺はここにいる?大体、お前は一体何なんだよ?」
分からないことをイオに問う。
「―――ここは、お前の精神世界。俺がお前をここに呼んだんだ。
そして俺達がいるこの場所は実際に存在する『ヘブン』というものだ。
べつにこれにする意味はないが、俺がお前の『精神』に存在するためにこれを作った。」
早い話、この場所は精神世界内での、イオの『居場所』らしかった。
「そして、俺は・・・話すと長くなるな。
これから、長々と説明させてもらうが、いいかな?」
「ああ、俺も知りたいことだらけだからな」
ファディスの答えに、イオは微笑した。
「ま、ここじゃなんだから移動するか。」
イオが近くの壁に手を当てると、なにやら扉のようなものが出現した。
四角いゲートの真ん中には、鏡のような、シャボン玉の幕のようなものが張られている。
「ついてきてくれ」
イオは、スタスタと歩き出し、そのゲートに入っていった。
その姿はスゥッと消えて、たちまち見えなくなる。
ファディスもその後を追った。

着いた先は、いわゆる『喫茶店』のような場所だった。
「ここなら落ち着いて話が出来るだろ?」
イオがファディスに言いかける。
「まったく、よくこんなもんが精神世界にあるもんだ」
その言葉に、イオは笑った。
2人が椅子に腰掛けると、目の前に紅茶が出現した。
匂いもあるし、暖かいし、味もする。
まるっきり現実と変わりはない。
現実―――ふと、ファディスの頭に、気になることが浮かんだ。

「現実―――」
ん?という顔でイオがファディスを見る。
「現実の俺はどうなっているんだ!?」
ファディスが身を乗り出して問う。
「ああ、それなら―――」
イオは横を向き、壁に向かってパチン、と指を鳴らした。
すると、ヴン、という音とともに、宙に浮かぶレーザーディスプレイが出現した。
そして、そこに浮かぶ映像は・・・・・

恐ろしい形相で、こちらに向かって貫手を今まさに放たんとするフォボスの姿。

「うおぉ!?」
ファディスは思わず身を引いた。
だが、その映像・・・何かが変だ。
瞬きひとつしない。
髪すら揺れてない。
手も静止している。
そう・・・まったく動いていないのだ。
「止まってるのさ・・・・・時が」
「と・・・時が・・・!?」
ファディスは驚いた。
このイオというやつは、時すらあやつる力を持っているとでもいうのか?
すると、イオが言った。
「ああ、別に実際時がとまってるわけじゃあないがな。
ほら、あれだ。楽しい事をやっていると時間は早く過ぎる、ってやつ、知ってるかな?
あれの応用だよ。この精神世界の中だけ時間の流れを変えている。ただそれだけだ」
よく分からないが、とにかく『この世界』にいるなら別に平気らしい。
しばらくして、紅茶を飲み干したイオが口を開いた。
「さて、じゃあ話させてもらうか。
お前の過去と、その所属していたシステムについて。」
「ああ、頼む」
そして、イオは話し出した。
ヘブンのこと。
人類最後の生き残り、マスターのこと。
今いる人類はデコイと呼ばれる生命体であること。
マザーを初めとするシステムのこと。
自分がそこに所属し、『最高粛清官』の階級に就いていたこと。
そして…『ロックマン・トリッガー』と協力して『人類再生プログラム』の破壊途中、
マザーに破れ、リセットをかけられたことを。

「・・・・・・・と、いうわけだ」
一通り話し終わってから、イオは椅子によりかかった。
ファディスはというと、ただ無言で聞いている。
見るからに、信じられない、といった様子だ。
だが自分がこんな状況に置かれている以上、それが事実だということを認めざるを得ない。
「・・・なーんか、あまりにも現実離れしてるっつーか、信じられないよなぁ・・・
この世界の人々全員が創られた存在だなんて」
ファディスはため息交じりに言う。
「・・・そうだ」
気になっていたことがあったので、ファディスは顔を上げてイオを見つめた。
「リセットをかけたんなら、記憶も消えるんだよな?」
「ああ、そうだ」
「じゃあなんでお前の記憶・・・というかメモリが残ってる?」
イオはしばらく黙り込んだ。
「・・・・・分からない・・・俺も何故だか・・・」
イオですら分からない。一体どうなっているんだ?
「じゃあ、もう一つ聞く。何故お前はマザーとやらに敗北したんだ?戦闘能力は上なんだろ?」
そう、先ほどの説明の中で、イオは『俺の戦闘力はマザーより高い』ということを言っていた。
それなのに何故敗北したのかが気になっていたのだ。
「・・・それは・・・ちょっと・・・・・・」
イオはうつむいて黙り込んでしまった。
その表情は、ひどく悲しそうな顔であることが分かる。
なにか、相当辛い過去があるらしい。ファディスは慌てて話題を変えた。
「あ、あのさ、俺はこれからどうしたらいい?」
その問いに、イオは顔をあげた。
「そうだな・・・このままだとお前、いや俺も同じ肉体を共有してるから、
フォボスに頭貫かれて仲良く昇天なんてことになっちまう。
……俺が出よう」
スッと席を立ち上がるイオ。そのまま出口へ向かって歩き出す。
「出ようって・・・どういうことだよ?」
ファディスの問いかけにイオは振り向く。
その表情は、なんだかわくわくと何かを楽しみにしている子供のようであった。
先ほどの悲しい顔などまったく思わせない顔だった。
「つまり、精神世界から外に出るイコール俺が表面に現れる・・・
分かりやすく言うと、俺とお前の精神が入れ替わるってわけだ」
「・・・入れ替わったら何か変わるのか?」
イオはニヤリと不敵に笑い、
「まあ、そのモニタでよく見てろ」
と言い放ち、再びファディスに背を向け、その場を後にした。

ドウッ!!!!!!


突如広間に響く爆音。
青い閃光。


「!?」
ロックはありえない光景を前に我が目を疑った。
フォボスは自分の右手が無いことに目を疑った。

いつの間にか切断された腕や、全身の傷からの出血が止まっている。
ゆらりと立ち上がるファディス。
いや、ファディスではない。

違う。

目つきも、雰囲気も全然別のものとなっていた。
まるで、狼のような鋭い殺気を放っている。
「ま・・・まさか・・・・・お前は―――」
まだ何か言おうとしたようだが、それを言うことは叶わなかった。
なぜなら、無数のスポットライトのような青い光弾がフォボスに殺到していたのだから。
「ぐっ・・・うがっががぁっ!!!」
次々と強烈な攻撃が放たれる。それを放っているのはまぎれもなくファディス―――いや…イオ、だ。
攻撃を受け続けるフォボスの体は、地を離れ、宙に浮き上がる。
それをお手玉するかのように、的確に光弾を放ち続け、浮かせ続けるイオ。

ロックはそれを、先ほど渡された『ギガライト・ショット』を脇に抱え、
ただ呆然とその光景を見ていた。

……レベルが違う。
こんな攻撃など、イオにとっては指でちょんちょんとつつく程度の力しか出してないに違いない。
だが、それで並の武器のはるか上をゆく攻撃力。
信じられない・・・

浮かせ続けられるフォボスの体は、既に地上10m近い高さの天井に達しようかとしていた。
既に全身ボロ布のようにズタズタだ。
彼は、もう自分に勝ち目が無いことを悟っていた。

薄れ行く意識の中、彼はある一つのことを考えていた。
それは、自らの兄であるダイモスのことだった。
彼らは試作的に作られた初の兄弟機。
兄弟だからこそ抜群の連携が可能であり、そして兄弟である以上、その兄弟愛の感情が
任務遂行の妨げになるのではないか、という、期待と不安を併せ持って誕生した。
……確かに、その感情は妨げとなったかもしれないな。
兄さんの仇として、苦しめて殺そうなどと思わず、
さっさと片付けていたらこんなことにならなかったかもしれないのに。
すまない、兄さん。俺じゃ無理だったよ。
これじゃあ何のために外に出てきたのか・・・・・


その時、彼の頭の中に突如あることが浮かんだ。


……そうだ、俺は何のために外に出た?
ただ戦って、また封印を施されるだけに出たんじゃない。
そうだ、ちゃんと使命があるじゃないか。

この島を初期化するという使命が。

俺はその為に外に出ることをずっと待っていたんだ。
手続きをとらねば。今すぐに・・・・・


「…等…清官……クマン・フォ…ス…………利行使……8677に基づ……ステムの全……期化……申せ…」
いまだ攻撃を続行し続けているイオには、その言葉は耳に入っていなかった。
無言のまま、ただひたすらに光球を放つだけだ。
その為かどうかわからないが、彼は気付いていなかった。
―――フォボスが、『ある場所』に攻撃を誘導していることに

一瞬。
イオの攻撃が中断した。
だが、それは―――そう、たとえて言うなら―――
『嵐の前の静けさ』まさにそれだった。

次の瞬間、イオの前方に、直径3mほどもある光球が出現した。
それが2,3回瞬いたかと思うと、突然もの凄い勢いでフォボスに突撃した。

フォボスは、飲み込まれる一瞬、不敵な笑みを浮かべた。
それは、自らの勝ちを確信した笑いだったのか、それとも己の力の無さへの不甲斐なさか。
それを見たものがいない以上、その内容を知るものは誰一人として、いない。

爆裂。
一瞬部屋を包み込む光。
破壊音。
砕け散る壁。

そこには、瓦礫以外に、何もなかった。
フォボスもまた、兄のダイモスと同じように。
消えたのだ。
何もかも。
跡形もなく。
この世から消えうせたのだ―――――

「君は・・・・・」
ロックが口を開いた。
イオは振り向く。
「トリッガー、久しぶりだな。元気だったか?」
腕がなく、全身が切り刻まれていることをまったく問題としていない調子でイオは答える。
「イオ・・・君は・・・・・そうだ、リセットによってメモリを失ったはずじゃぁ・・・」
トリッガーだったころの記憶が戻ってきているおかげで、ロックはイオのことを知っていた。
だが、彼はヘブンのライブラリを破壊しようとしていたとき、マザー・セラによって倒されたと聞いていた。
その時は、データの手によってイオはリセットされたらしいが、
その時どうやってメモリをバックアップしていたかなどは思い出せない。
「さぁな、俺もどうしてか解らない。ま、いいだろ」
気楽な様子で話すイオ。
ヘブンにいた頃も同じような態度をとっていた事が、漠然とだが思い出される。
「一体、どうして―――――」
目覚めたんだ、と言おうとしたが、それはある声によって遮られた。


『エデンより確認。粛清官ロックマン・フォボスへ。申請を受理した。
 テチス島の全初期化は、100秒後に開始する。』


「何・・・・・!?」
「嘘・・・一体、いつの間に!!」
2人は驚くが、イオはすぐに平静を取り戻す。
すぐに申請を取り消せばいいだけだ。
イオは最高粛清官なので、ロックマンのものなら、どんな命令もキャンセルすることが可能なのだ。
だが、すぐにその手続きを取ろうとした瞬間、思いがけないことが起きた。
先ほどフォボスへトドメの攻撃が炸裂した部分からバチバチと火花が飛び、爆発を起こしたのだ。
それと共に、遺跡中に大音響でウーッ、ウーッとサイレンが鳴り響く。

『異常発生!異常発生!申請受理装置に破損が見受けられます!
危険性の回避の為、ゲートをシャットダウンします!繰り返します、異常発生!…』

「な、何だと・・・!!」
さすがにイオも驚愕する。
自分が破壊した場所に、そんなものが組み込まれていたとは・・・
…偶然か、いやまさか、フォボスの奴、計算していたというのか―――?・・・
そう考えているうちに、遺跡全体が地鳴りのような音と共に揺れだした。

     ……
……沈んでいる。この遺跡全体が。
早く脱出せねば、永久に地中に閉じ込められるかもしれない。
だが、ここまで来た通路を戻っている暇などない。
こうなれば―――――!

「トリッガー!脱出するぞ!!」
「!?どうやって?戻ってる時間なんか―――」
「『ここから直に』抜け出すんだ!行くぞ!!」

ロックは一体何のことかわからない。
…直に抜け出す?隠し通路でもあるのか?・・・
だが、それはちょっと違った。
通路が『ある』のではなく『作る』のだった。
それも、通路と言えるかどうかのものではないが。

イオは少し低く身構え、ある場所をにらみつけた。
それは―――天井。
(まさか!?)
ロックの予感は、見事に的中した。

イオの前方に、巨大な光球が出現した。
それは、先ほどフォボスを消滅させたものより、更に一回りほど大きい。
そして、その色はみるみるうちにスポットライトのような青から、
燃え盛る紅蓮の炎のような色へと変貌していく。

「貫け!!!」

イオの声に反応するように、その光球は急激に加速し、天井に激突、そして―――

―――――貫いた。


その攻撃によって、天井には地上まで達する大穴が出来ていた。
抜けるように青い空が覗いている。

「す、すごい・・・・・」
ロックは驚愕していた。というか、誰だって驚くだろう。
遺跡の天井をいとも簡単に貫くなど、既に次元が違う。

「行くぞ!捕まれ!」
イオが叫ぶ。
ロックは片手で『ギガライト・ショット』を抱え、イオの左手を握った。
その腕はアーマーごとざっくりと切り裂かれているのに関わらず、
出血をほとんどしていない。というより、まるでその傷がないように、
イオ自身『痛み』というものを感じていないようだ。神経系を操作しているのだろうか?

「よし、行くぞッ!!!」
ぐっ、と膝を曲げて少し屈んだと思うと、次の瞬間、光が炸裂し、
イオとロックは凄まじいスピードで上昇していった。
イオは飛び上がる直前に、足元で小規模ながらも強烈なエネルギーの炸裂を起こしたのだ。
至近距離で起こったため、そのエネルギーはカタパルトのようにイオとロックを吹きとばしたのだった。

2人は一気に穴から飛び出し、地上へと戻ってきた。
ここは街が見える少し小高い丘の上の草原。
イオは着地と同時に街の方角を振り向いた。

そこには、既に島を滅ぼす古代兵器、『エデン』が、全ての生命を絶つその瞬間を待っていた。

「・・・・・くそっ」
イオは毒づく。
故意ではないとはいえ、自分が破壊したせいで申請の取り消しが不可能になったとなれば、
さすがに気分が悪いだろう。
申請を取り消せないとなれば、エデンを止める方法は1つ。

壊すしかない。

そう簡単に壊せるとはおもってないが、やるしかない。
イオは、マスター同様、デコイを『人間』として捉えている。
そのため、過去はシステムに何度か逆らいもしたものだった。
今、また目の前で忌まわしい初期化という行為が行われようとしている。
なんとしてでも止める。彼の心は、とうに決まっていた。

ロックは、突然のことに驚いた。
イオがエデンに向かって攻撃を始めたからだ。
過去の記憶が戻ってるおかげで、エデンに攻撃を仕掛けるとどうなるかわかっていた。
イオもそれは承知のはずだ。
だが、それでも彼はエデンに対して攻撃を始めた。

デコイ達を消してはならない。

その感情が、彼をエデンを破壊するという行為に導いたのだ。
やはり、彼もマスターの意思を継ぐものなのだった。


200mほどはなれた場所のエデンに、イオの放った灼熱の光球が炸裂した。
一部が損傷し、煙が噴出す。
と、それと同時に、エデンの様々な場所が赤く輝きだした。
『第352ブロック破損。外部の攻撃によるものと確認。
攻撃の主はロックマン・イオと確認。
イレギュラーとみなし排除する』
イオと、そしてロックの脳内に直接響くような声でそれが聞こえてくる。
そして直後、エデンは街の上空を離れ、こちらへ向かってきた。

エデンは、2人の数十mの所で停止した。
宙に浮かぶその姿は、あまりにも大きく、恐ろしく、禍々しかった。
それも、デコイをただの低度な生命体として受け取らない2人だからこそそう感じるのだろう。

突如、エデンの無数の瞳が赤く輝き始めた。
そして、数秒もたたないうちに、それぞれの眼から大量の光弾やエネルギービームが放たれた。
標的はもちろん2人、それも、特にイオだ。
イオに向かって殺到するその攻撃を、彼は素早い動きでかわしていく。
そして、攻撃の一瞬の隙を突き、無数の燃え盛る光球を放った。
攻撃は全て命中し、様々な箇所を破壊していく。
『出力がダウン。セキュリティレベル増加』
エデンの声が響くと共に、内部から無数のリーバードが飛び出してくる。
シャルクルス、ゴルベッシュ、カルムナバッシュ、マンムー、ハンムルドール・・・
中級クラスから最上級クラスまでのリーバードが降ってくる。
イオは光球を撃ちまくり、ロックもハイパーシェルで応戦する。
だが、次から次へ敵は増えていく。
エデンは更に攻撃を激化する。
状況は、はっきり言って最悪。
だが、2人はあきらめるつもりなど毛頭なかった。

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