ロクノベ小説保管庫 第5章~Mind & Lost Memory~

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翌朝、いつもより遅めに起きたジュノは、2階の洗面所で顔を洗っていた。
顔を拭き、鏡の向こうにいる気分の悪そうな自分の顔を見る。


昨日の夢は凄かった。
カルムナバッシュに乗った、紺色のマントを羽織った数人のおじさんに追い回され、集団火炎放射で灰にされる夢だった。
ああ、何でこんな夢を・・・


「ジュノ・・・どうしたの?」
不意に、横からフレッドの声が飛んできた。
「あ、いえ。別に・・・」
そう言いつつ、フレッドの方へと目を向ける。
包帯を巻いた右手に白いタオルを持ったフレッドが、そこに立っていた。
「フレッドこそどうしたんです?その腕は・・・」
「ん、ちょっとね・・・」
軽く受け流し、洗面台の前へと進むフレッド。
マーガレッドの「朝食コール」が来たのは、その直後だった。


「ふぅ・・・」
誰もいないフレッドの部屋で、一人くつろぐジュノ。
フレッドはジョンと買い物に出かけ、しばらく帰ってこない。
フレッドがいつも座っている大きな椅子に腰掛け、机上に積まれた幾つもの本の内から、
一冊を手に取った。
厚さ10cm近いえび茶色の表紙の本には
【リーバードに関する現代論8 ~リーバードの思考回路とは~】
と題名がついている。


何気なしにページをめくった。
[・・・リーバードの思考回路は、遺跡に依存している考えられる。
 それは、次の2点から考えられる。

 ・同一遺跡内のリーバードがだいたい同じ行動パターンで稼働している点。
 ・同一種類のリーバードでも、遺跡によって行動パターンがだいぶ異なるという点。

 つまり、遺跡自身がリーバード達を一括コントロールしている可能性がある。
 しかし、残念ながら今のところ、その証拠となる様な物は発見されておらず・・・]


「ジュノ君、今暇?」
いつの間に来たのか、扉の所から、両手いっぱいの洗濯物を持ったマーガレッドが、
ジュノを呼んだ。
「はい、暇ですけど・・・?」
先程開いたばかりの本をパタンと閉じ、マーガレッドに答える。
すると、マーガレッドはニコッと微笑んで、ジュノに言った。
「じゃぁ、この部屋掃除してくれない?あたしがやるとフレッドが怒るから」
「は、はぁ・・・」

「ふぅ・・・(---;)」
両手を腰にあてがい、部屋を一望してため息をつくジュノ。
マーガレッドに部屋の掃除を頼まれて(命ぜられて)から、すでに2時間が経過していた。

部屋はだいぶ片づいた。
机の上に積み上げられていた分厚い本類は本棚へ、ジャンクパーツ(小)はお手製パーツ
ボックスへ、床に転がっていたジャンクパーツ(大&特大)は部屋の隅にまとめられた。
フローリングの床は雑巾掛けし、窓ガラスは洗剤を少々含ませた布巾でふき掃除。
棚の上にたまった埃は羽箒&メッシュつきハンガーで取り除き、白い壁もあの手この手で磨き上げた。
電灯のかさも雑巾で拭きたい所だったが、3m近く上なので今回は諦めた。

残された場所はただ一つ。クローゼットだ。


扉の影になって見えにくいこのクローゼットは、フレッドはもちろん、ジュノも共に使用している大型の物だ。
だが、「クローゼット」というのはほとんど名前だけで、半分近くがフレッドの修理品&ジャンクパーツに占領されている。
その事に、持ち主のフレッドは全くかまわないらしいが、ジュノにとっては使いづらい事この上無しの、まさに魔の空間だった。

「・・・これは手強いですね・・・」
ジュノは早くも長期激戦を覚悟した。


ゆっくりとクローゼットを開ける。しょうのう臭い空気が鼻を突いてきた。
と同時に、右側に山積みにされていた修理品がグラリと傾き、土砂崩れを引き起こした。

どしゃぁ・・・(ボワ・・・)
「コホッコホッ・・・」

土煙の如く舞い上がる埃にむせながらも、ひとまずその場を離れる。
その後を追うように無数の埃の手が伸び、床に落ちた。
「・・・また掃除する場所が・・・」
増えてしまいました、と続けかけたジュノは、そこで言葉を止めた。
埃に埋もれたクローゼットの奥に、見慣れない紺色の布が、きちんと畳まれて置いてあるのが、目に付いた。

あの埃まみれの修理品の裏にあったはずだが、埃はほとんどついていない。
つい最近使ったらしく、新しめの傷が幾つもついていた。
しかし、フレッドがこんな布を持っている所を、ジュノは見た覚えがない・・・

…いや、一度だけ、それらしい物を見た事があった。
昨夜出歩いたフレッドは、こんな感じの紺色の布を持っていた。
それを追って行った先で出会ったのは、紺色のマント・・・
まさかこれ、昨夜の紺色の・・・?
じゃ、あいつの正体って・・・
となると、今朝フレッドが右手に包帯を巻いていたのって・・・


そこまで考えて、ジュノは頭を横に振った。
そんな事、絶対にあり得ない。フレッドはそんな事をする人間ではない。
だいいち、フレッドにあんな「光を操る」ような事は出来ない。
フレッドが夜に出歩いたのは、何か他に理由があるからだ。
あの包帯だって、きっと何かで腕を切っただけだ。
この紺色の布とあの紺色のマントは、何の関係もない。
無論、フレッドも関係ない。


しかし、どうも解せない・・・
心の何処に、何かが引っかかる。


ジュノはゆっくりと紺色の布に近づき、手を伸ばした。
手に取ってみると、いやに重い。何かを包んでいるようだ。
両手で思い切って広げてみる。
紺色の布は、ジュノでも十分着れるくらいの大きさの、紺色のマントだった。
さらに、「ガシャッ」という音と共に、何か黒い物がマントから転がり落ちた。
マントを除けて見てみる。そこにあったのは、夢でも見たあの黒いハンドパーツだった。
黒く、細く尖った指。手の甲にある半球形のクリスタル・・・間違いない。
ジュノは、その場に立ち尽くすしかなかった・・・


「・・・あれ、掃除してくれたの?」
夕方になって、買い物を終え、部屋へと戻ってきたフレッドの第一声がこれだった。
「はい。たまには変わった事でもやろうかと思いまして」
さっきの事を悟られまいと、まぶしい程の笑顔で答えるジュノ。
フレッドはジュノの笑顔に何か不信感を抱いたようだったが、ちょうど良くマーガレッドの「夕食コール」が来たので、ジャンクパーツを机の上に置き、さっさとドアの方へと向かった。
「ジュノも行こうよ」
「ええ、そうします」
ドアの前で立ち止まり、誘うフレッドに、ジュノはまた笑顔を返した。

「(・・・・・・)」
食後、布団に潜り込んだジュノは、全く寝付けずにいた。
掃除中に出てきたあの紺色のマントと、フレッドの関係・・・。
信じたくない現実を突きつけられているかのようだ。


不意に、下段のベットで物音がした。
気付かれぬよう、横目でチラッと下を見る。
フレッドが、クローゼットの前あたりにに立っていた。

ガチャ・・・

クローゼットが開けられる音が、イヤに響く。
フレッドはその修理品の山の奥から何やら柔らかい物を取り出し、クローゼットを閉めた。
目を凝らして、ベットの手すりの間からその柔らかい物を見るジュノ。
フレッドの手に握られていたのは、紛れもなく昼間の紺色の布だった。

静かに驚くジュノ。
フレッドはそのままドアを開け、暗い廊下へと消えて行った。
フレッドの足音が、闇の中にどんどん遠ざかっていく・・・


ジュノは、フレッドが外に出たのを確認し、ベットから飛び降りた。
窓から外の道を見ると、案の定、青いジャンパーを着たフレッドが、紺色の布を片手に夜道をハイペースで歩いているのが見えた。
「・・・そんな事、あり得ないですよね。フレッド・・・」
ジュノは小さく呟き、自分の白いアーマーに手を伸びした。
カチャカチャという装着音が、静かで暗い部屋に響く。
ジュノは全身を白いアーマーで包むと、急いで玄関を出た。


交差点を曲がり、ひとけのない道をハイペースで歩いて行くフレッド。
ジュノはそれを、少しばかり距離を置いて追った。
二人の左手に浮かぶ、わずかに欠けた月が、辺りを幻想的な光で包んでいた。

2km程歩いたジュノは、何もない野原に出た。風は、ほとんどない。
ここから向こう端まで、ざっと300m。そこら辺の学校の校庭よりもかなり広い野原。
道を振り返れば、遥か遠くに町の明かりが見えた。


「(今度は見失わないようにしないと・・・)」
ジュノは木の陰に隠れ、横目使いで野原を見た。
野原のほぼ真ん中に、あの紺色の布を広げているフレッドの姿がある。
わずかにかけた月明かりが、フレッドに薄い光の輪郭を与えていた。
不意に、フレッドがこちらを振り向く。
いつも緑色に澄んでいるフレッドの瞳が、赤くなったように見えた。
と、次の瞬間!

ビュオオォォゥゥゥ・・・

突然、耳元で風がうなったかと思うと、ジュノは風圧に圧されてもんどり打っていた。
急いで体勢を立て直し、視線をフレッドの方へ向けるが・・・

いない!

フレッドの姿が、何処にも見当たらない。
ジュノは慌てて木の陰から飛び出し、野原の真ん中辺りまで走った。
野原を見渡すが、人影1つ見つけられない。
しまった、とジュノは軽く唇をかんだ。


ヴロロロロロロロロロロロロロロロロッ!!
ガキャッ・・ガキャッ・・ガキャッ・・ガキャッ・・・!

と、ちょうどその時、野原に通じる道の方から、バイクらしきエンジン音が近づいてきた。
それと一緒に、一定のリズムで走ってくる、機械チックな足音が・・・
音のする方へと目を向けるジュノ。一台のバイクが、何かに追われるように走ってきた。

走ってきたのは赤いハーレー。めちゃめちゃに高価なオンロードバイクだ。
しかも乗っているのは、なんと15歳くらいの少年!
茶髪に革のジャンパー、革の手袋を着け、ヘルメット無しで運転している。
たぶん、免許も無いだろう。血相変えて、まっすぐこちらに走ってくる。

その後ろを走っているのは、昨夜遭った暗青色のカルムナバッシュ!
わずかに欠けた月の光を浴びて、輪郭が薄く光を帯びていた。


「!そこどけぇ!!逃げろぉ!!」
もの凄い形相で叫ぶ少年。
それを見て、ジュノは「フッ・・・」とため息をついた。
「ただ逃げるだけでは・・・ダメでしょう?」


足下に転がっていた石を拾い、赤い光をまとわせる。
ジュノの目が殺気を帯びた灰色に変わり、赤い光が両手を包んだ。

タッ!

軽く地を蹴り、一気に10m近く飛躍するジュノ。
両手の光が、長く尾を引いた。

「食らいなさいっ!!」
空中から勢いよく撃ち放たれる、光を帯びた石。
それは赤い光の矢となって、闇を切り裂いた。

ズドォォァァォォンッ!!

カルムナバッシュに当たり、爆炎と光の破片が周囲に飛び散る。
ハーレーと少年は、そのまま草原の奥へと走って行った。
謎の悲鳴だけを残して・・・


ガルルルルルルッ!!

昨日のダメージは回復しても、昨日の恨みは消えていないらしい。
ジュノに向かってうなり声を上げる青狼・カルムナバッシュ。
ジュノはそのカルムナバッシュの10m程前に降り立った。
両手にまとう赤い光は、まるでリーバードの瞳のように輝いている。

『・・・やはりおまえか。今夜は、昨日のようにはいかんぞ』
カルムナバッシュの影から、紺色のマントが姿を現した。
見たところ、昨日の傷は完治したらしい。攻撃を受ける前と、変わらぬ動きをしていた。
ルビーのように赤い瞳が、ジュノを睨み付ける。
ジュノも灰色の瞳で睨み返そうとしたが・・・出来なかった。


『今夜こそ・・・バラバラにしてくれる!!』
ザシュッ!

人間らしさなど欠片もない多重音声が夜の闇に響いたかと思うと、青狼がもの凄い速さでジュノに襲いかかってきた。
月の光を浴び、妖しく光る鋼鉄の爪を、わずか数cmの差でかわし、軽く地を蹴る。
その直後、青白い光球が、ジュノのいた辺りに幾つも飛んできた。

土煙と閃光を撒き散らす光球。間一髪で高く上昇し、難を逃れたジュノ。
その土煙の中から、さっき避けた青狼がジュノ目掛けて飛び上がる。
その青狼を踏み台に、紺色のマントが一気に高度を上げた。
一瞬のうちにジュノの目の前まで上昇した紺色のマントは、青白い光を帯びた拳をジュノの左胸に叩き込む!

ドゴァ!
「ぐぁッ・・」

鈍い音を立て、地面に叩き付けられるジュノ。
土がクッションになってくれたとはいえ、ダメージは半端じゃない。
さらに、無防備なジュノにカルムナバッシュの魔の爪が、青白い光球が襲いかかる!

刹那の差で右に爪をかわし、追撃してくる光球を側転&バック宙で避ける。
ジュノの通った道筋に沿って、直径一m前後のクレーターが幾つも出来ていた。
そのクレーターの縁を蹴って、青狼がジュノに飛びかかってきた。
「危ない!」と思った頃には、ジュノは青狼の下をくぐり抜け、クレーターの反対側に…


『昨日よりも動きが鈍いな。手加減など不要だぞ?』
半ばあざ笑うかのように言い放つ紺色のマント。
カルムナバッシュが、紺色のマントの横に降り立ち、こちらを見つめていた。


ヴロロロロロロロロロロロロッ!!

突然、野原の奥からバイクのようなエンジン音が・・・。
ジュノも紺色のマントも視線を移す。
野原の奥から、今さっきここを走り抜けて行った赤いハーレーが、こちらに向かって走って来る姿があった。
だが、乗っているのはさっきの革ジャン少年だけではない。他二人の男女を乗せていた

『フンッ・・・虫けらどもが』
冷たい言葉を吐き、右手をかざす紺色のマント。
右手が青白い光球を幾つも作りだし、空中に浮かべた。
「!やめなさい!」
『かかれ!』
紺色のマントの合図を待っていたかのように飛び出す青白い光球達。
血に飢えた狼のように飛び出して行った彼らの狙いは、勿論ハーレーにのる3人組。
ジュノは目を伏せた。

ところが、5秒もしないうちにジュノのすぐ隣にバイクのエンジン音が来て、止まった。
「まさか」と隣を向くジュノ。そこには、無傷のハーレーとさっきの3人組がいた。


茶髪のスポーツ刈りで、なかなか整った面立ちに茶色の眼をした少年が笑いかけた。
ハーレーを免許&ヘルメット無しで運転していた革ジャン少年だが、どうやら不良というわけではないようだ。

後ろに乗っていたもう一人の少年は、黒髪の坊ちゃん刈りで、ジュノより少し背が低い。
黒縁メガネの奥に黒い瞳が光る。コートもマフラーも手袋も、全て黒一色で統一しているところは、まさに『黒いインテリ少年』・・・

そして、後ろに乗っていた少女は・・・

「ジェイスフォン?!」
「へぇ。名前覚えててくれたんだ♪」
そう。昨夜偶然助けた、あの赤髪の少女「ジェイスフォン」だった。
ジーパン・ジージャンという服装は替わっていないが、顔色は昨日より良く、元気もある。
やせ我慢か、それともわずか一夜で傷を完治させたとでも言うのか・・・


『バイクであの光球を全て避ける・・・死に損ない共にしては、大した芸だな』
「んだとぉ!」
あざ笑うように言う紺色のマントに食って掛かる革ジャン少年。
それを、黒いインテリ少年が後ろから制した。
「乗せられないで下さい、ガルド。あいつは特殊な能力の持ち主です。注意しないと…」
「注意してて殺されかけたのはお前だろ、ガフムス!」
「ガルド?ガフムス?君達が?」
二人の会話に聞き覚えのある一節を見つけ、二人にジュノ。
二人は「それがどうした」と言うような顔をしてそれに答えた。
「ああ。俺はガルド・レイドだ」
「僕はガフムス・キャットです。以後、お見知り置きを」


例の3人組がそろった

心の中で、ジュノはそう言った。
フレッドをボコボコにしたあの3人組が、一同にそろったのである。


だが、なぜ?
なぜここにそろったのだ?
おととい昨日今日と、この3人組は攻撃を受けている。
わざわざここに来る必要は、はっきり言って無いはずだ。
むしろ、どこか安全な場所に隠れていた方が自然だ。
なぜ?

「・・・仲間達がずいぶん世話になったようだな。御礼くらいさせてもらうぜ・・・!」
ジュノの疑問とガフムスの制止をよそに、紺色のマントにふっかけるガルド。
紺色のマントは、落ち着き払って言った。
『・・・本気でそう思っているのか?』
「あったりめぇだ!だいたい、お前は誰なんだ!?何の恨みがあってこんな事をする!?」
ガフムスの腕を振りきり、銀色の何かを落とした事にも気が付かず、ゆでだこのように赤くなっていくガルドの顔。もう、理性なんて残されていないのか…

そんな一行を見下ろすように高い木の上に立つ人影に気付いた者は、いなかった。


『お前は誰だ、か・・・』
復唱し、笑みをもらす紺色のマント。
フードの奥に浮かぶ赤い瞳が、微かに笑っていた。
『私の正体、貴様らに教えてやってもいい。・・・だが、恐らく後悔する事になるぞ?』
「後悔するかどうかは、あなたの正体を知ってから決めます」
黒いインテリ少年・ガフムスが静かに言い返す。
それを聞いて、紺色のマントはまた微かに笑みをもらし、フードに手をかけた。
『・・・よかろう。己の選択に後悔するがいい』

パサッ・・・

紺色のフードが、本人の手によって外される。
フードの下から、見慣れた顔と金色爆発頭が、姿を現した。
「え・・・」
「な・・・」
「・・・・・・」
「うそ・・・」
ジュノをはじめ、一同が絶句した。

紺色のマントの正体。それは・・・フレッドだった。


「そんな・・・どうして・・・」
言いようのない絶望感がジュノを襲う。
フレッドは、冷たい目をしたまま、多重音声で淡々と答えた。
『復讐だ。今までさんざん自分を攻撃してきた害虫共にな。そして、この計画の邪魔をす る者にも、鉄槌を下した・・・』
ふと、月を見上げるフレッド。
わずかに欠けた満月は、もうジュノ達の真上に来ていた。

『・・・あの遺跡でジュノとはぐれた時、私は白いアーマーに導かれて大きな扉の前に立 った。そして、不思議な声に招かれた。「封印ヲ解キ放テ」とな・・・ 私は封印を解いた。そして、リーバードをコントロールできる「コントロールデバイス」 を手に入れ、邪魔な害虫共の駆除をはじめた。今のように・・・ おかげで気分は良くなった。邪魔者はいつでも消せるようになったんだからな』
「・・・でもあなたは、あなたではなくなりました。 コントロールデバイスによって心を支配された、生きた人形になってしまいました。 コントロールデバイスは本来、あなたのようなデコイが扱うべき代物ではありません。 うかつに扱えば、支配するつもりが逆に支配されてしまいます。そう、そんな風に…」
うつむき加減で静かに話すジュノ。両手の赤い光が、再び伸びはじめた。
『何を言っているのだ?私は私のままだ。支配などされておらぬ』
ジュノの突然の発言に、一瞬戸惑いを見せるフレッド。
ジュノはうつむき加減のまま、続けた。
「・・・その端末ボディは、確かにフレッドの物です。しかし、今それを司っているのは フレッドの意志ではありません!その右手、コントロールデバイスの中にあらかじめ仕 込まれたマインド(思考)プログラム、ジャギュア。それが今フレッドの端末ボディを 司っているあなたの正体です! 口調の違いと瞳のリーバード反応が何よりの証拠! さぁ、今すぐフレッドの意志を解放し、再び眠りにつきなさい!」
顔を上げ、キッと紺色のマントを羽織ったフレッドを睨み付ける。
うっすらと涙を浮かべるジュノの瞳は、怒りと悲しみに満ちていた。

『フッ・・・そうそう返すはず無かろう。私はこの機会を、デコイの端末を手に入れる機 会を3000年も待ち続けたのだ。 この端末はもう私の物!誰にも譲らぬわ!』
ジャギュアと呼ばれたフレッドは、鬼のような形相でジュノを睨み返す。
瞳が、ますます赤くなってきた。
『メモリーの大半を失ったお前なら、それほど問題にならんと思ったが、どうやら間違い だったようだな。これ以上おまえに邪魔されれば、私の計画が台無しだ! 悪いが、そこの害虫達と共に消えてもらう!』
パチンッと指を鳴らすジャギュア。
野原の真ん中が大きくへこんだかと思うと、そこから2体の色違いのカルムナバッシュが飛び出してきた。

1体は灰色の装甲板に銀色の大きな牙。横っ面に大きな刀傷らしき物がある。
幾多の戦いをくぐり抜けてきた「経験者」のようなその出で立ちは、まさに「長老」。

もう1体は他の2体より1回り小さな身体に暗赤色の装甲板。爪も少し小さめ。
移動能力を重視しているらしく、比較的軽装備。素早さはかなりの物だろう。

灰狼と赤狼がジャギュアと青狼の隣に降りた。
低くうなり声を上げ、ジュノ達を威嚇する。
『かかれぇ!!』
ジャギュアの号令と共に、3体の狼が一斉にジュノ達に襲いかかってきた。
右・左・上の3方向から爪と牙が飛んでくる!
それらを、空いている後方に滑り込んでかわし、叫んだ。
「逃げなさい!」
ジュノの叫びに反応し、急いでエンジンをかけようとするガルド。
しかし・・・
「・・・・キーがない!!・・・さっきの騒動で落としたんだ・・・」
慌てて辺りを探し回るガルド。
ガフムスとジェイスフォンは、まだ恐怖心が残っているのか、ガタガタと震えていた。
2人の目が怯えきっている。
『フッ・・・ハハハハハ!笑わせてくれるわ!』
3人組の反応を大いにあざ笑うジャギュア。
ジュノは「嘘でしょう?!」とでも言いたそうな顔で後ろを振り向いた。


『他を気にする余裕があるのか?!』
右手を青白い光で包み、そう言いながら、もの凄い速さで突っ込んでくるジャギュア。
別の3方向からは灰狼・青狼・赤狼が、血に飢えた牙と爪を光らせて飛びかかってくる。
ジュノは慌てて赤い光をまとわせた両手を前に差し出し、叫ぶように唱えた。
「ジュノサイド・ギア!!」
赤い光球がジュノの指先から幾つか飛び出したかと思うと、それはそれぞれに軌道を変え、
襲いかかってくる3体に当たった。
火花と爆炎が3体を包む。
『あまいわ!!』
舞い上がる爆炎を切り、ジャギュアが右拳を振り下ろしてきた。

「くっ!」
ガルド達の目の前で、炸裂する青白い光。舞い上がる爆炎と土埃。
その中から、刹那の差で逃げ延びたジュノが飛び上がった。
そして、それを追うように青白い光の触手が・・・!

シュッ!

わずか数cmの差で横にそれた。
その反対側から、赤狼が飛び上がった灰狼を踏み台にして飛びかかってくる。
しかし、その絶妙なカバー攻撃も、赤い光の壁の前に崩れた。


「ハァ・・・ハァ・・・」
息を切らして3人組の前に降り立つジュノ。
同時に3人も守らなければいけない上に、目の前にいる敵がフレッド(の身体)となると、うかつに攻撃も出来ない。
どんなに高い攻撃能力を持っていても、こんな状況では・・・

『フフッ・・・守らねばならぬモノが多くて大変だな。疲れるであろう? その守らねばならぬモノを減らしてやれば、少しは楽になるか・・・?』
ジュノ達から10m程離れた場所に降り立ったジャギュアは、冷たくそう言った。
その声を待っていたかのように、3体のカルムナバッシュが前に並んだ。

「・・・ちょっとぉ。ヤバイんじゃないの?」
戦況を見ていたジェイスフォンが、口を開いた。
ガフムスも、カルムナバッシュ達の動きを見て言った。
「どう考えても非常に危険です。 あのフレッドに操られているカルムナバッシュ達は、常時80km/時を越すスピードで 移動が可能な、危険なリーバードです。このままでは、確実に殺られます」
冷静かつ正確に戦況の分析結果を述べるガフムス。
それを聞いて、ガルドとジェイスフォンは口をそろえて言い返した。
「んな事落ち着いて言うな!」
(もの凄く冷静に状況分析してくれるのはありがたいが、少し位焦ろうよ、ガフムス…)
「・・・あれ?今いないはずの人の声が聞こえませんでした?」
「おおかた作者だろ!余計な事言ってないで助けろよ!!」
(いや、すまないなぁ。ここで僕が助けると話がつまらなくなるんで・・・)
オイ作者!さっさと引っ込め!次が続かないだろ!
(おお!すまないね、語り部さん。なにせ、見てばっかでつまらなくてさ。んじゃ後ほど)
もう出て来なくていい!さっさと消えろ!
(冷たいなぁ、語り部さん。君と僕の仲じゃないか。もうちょっとくらい・・・)
「どうでもいいから、とりあえず助けろよ!」
いいから引っ込めぇ!!
(・・・よし。両者の顔を立てて、簡単なヒントを与える。それを使って何とかしなさい。 ・・・ジュノ。フレッドの意志はまだ死んではいないんだよ。呼べば応えてくれるかも 知れない。試してごらん・・・)
「・・・フレッドの意志は、まだ死んでいない・・・」
天からの邪魔な声(邪魔って言うな!)を口の中で繰り返すジュノ。

ジュノは拳を握り、ジャギュアに向かって叫んだ。
「フレッド!あなたはそのままそのプログラムに身体を渡すつもりですか?!
 あなたはそのまま仲間を殺し続けるつもりですか?!
 それでは、自ら死を選び、死神となったも同然です!
 あなたはそんな事を望むような人だったのですか?!
 いい加減目を覚ましなさい!!フレッド・アルビスキー!!!」
月夜の野原にジュノの声が響き渡り、辺りに静寂が訪れる。
風も無い、雲も無い、音すら無い、完璧な沈黙の空間。

その沈黙を破ったのは、非情にもあの多重音声だった。
『フッ・・・ハハハハハ!その程度の事で封印が解けるとでも思ったのか? 馬鹿め。こやつはそれほど生易しいピンロックではないのだ。残念だったな』
あざ笑うジャギュア。3体の狼が、臨戦態勢に入った。
「なんだよぉ!全然効果無いじゃんか!」
(んな馬鹿な・・・。俺の思考回路の中では、今のでフレッドの意志が動き出すと・・・)
思いっきり文句を言うガルドに、邪魔な天の声も焦る。
だから邪魔だと言ったのに・・・
(邪魔邪魔って言うな!意志を解放しないあいつが悪いんだから!)
「そんな事言ってる間に来ますよ! ガルド!ガフムスとジェイスフォンを乗せて逃げなさい!早く!!」
ジュノの指示に、慌ててハーレーを起こすガルド。
足下に落ちていたキーでエンジンを掛けるが・・・
「冗談だろ・・・。エンジンかかんねぇよ!!」
「ウソォ!!」
めちゃめちゃに焦るジェイスフォン。冗談も程々に、と言ってやりたい・・・
そんな中、ハーレーの状況を見たガフムスが、口を開いた。
「きっと、さっきの爆発の衝撃です。もろに受けてましたから、まず間違いありません。 ・・・エンジンカバーやその周りがひどく損傷してます。これを直すには、それ相当な 技術力が必要ですね・・・」
自分達が生命の危機に瀕しているというのに、冷静かつ正確に分析するガフムス。
ガルドとジェイスフォンが口をそろえて言い返・・・

ガウッ!

言い返すタイミングを失った。
真っ正面から、銀色の牙をむいた灰狼が襲いかかってきたのだ。
さらに左右から青狼と赤狼が迫る!
ガルドとジェイスフォンは慌ててハーレーの陰に隠れる。ガフムスは、その場にへたり込んでしまった。


「私が相手している内に逃げろぉ!!」
そう叫びながらカルムナバッシュ達をはね返し、自ら3体の中に飛び込んでいくジュノ。
それが、体力をかなり消耗した今のジュノにとっていかに無謀な行動か、説明しなくてもおわかりいただけるだろう。

『バラバラにしてしまえ!!』
ジャギュアの声が響き、青・灰・赤の3色の狼が、タイミングをずらして連続攻撃を仕掛けてくる。
右から飛びかかってきたかと思うと、一瞬の差をおいて反対側から牙が迫る!
間一髪でそれを避けると、間髪入れずに背後から鋼鉄の爪がアーマーを割き、真正面から青白い触手がジュノの身体を吹き飛ばす!
赤い血しぶきが、ジュノの軌道に沿って宙に舞った。

ドシャァ・・・

弧を描いて地面に崩れ落ちるジュノ。白いアーマーには、大量の赤い体液がついていた。
背中の激痛に耐えながらも、何とか立ち上がる。体力も、そろそろ限界だ。
「・・・目を覚ませフレッド・・・」
『無駄だというのが分からぬか!』
ジャギュアにジュノの声が消される。
と同時に、3体の狼がジュノに食いかかってきた!

バキャッ!
ブチッ!
ベチャッ!

肉や骨が砕けちぎれる音と共に、右腕・左足・胸部を激しい痛みが襲う。
3体の狼は、ジュノの身体のパーツをジュノから引き離していた。
薄れ行く意識、ぼやける視界の中に、紺色のマントが浮かぶ。
紺色のマントは、右手いっぱいに青白い光を持ち、ジュノの目の前に飛び降りてきた。
『肉片となりて、無に帰すがいい!』
ジャギュアの声が響く。
ジュノは最後の力を振り絞り、精一杯に叫んだ。
「フレッドォォォォォォッ!!!」
ジュノの声が、辺りに響き渡った。