ロクノベ小説保管庫 ロックマンDASH・R外伝 おもちゃのチャチャチャ

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●ある日ある所で
 アカイレンガガキレイナ町デ
 オトコハオンナヲ待ッテイル
 秋ノオワリノカレハガオチテ
 トケイハヨテイノジカンヲ過ギタ

 男のかっこうは、全体として茶色っぽい。
全身をコートで隠して、右手にトランクをさげている。
 冷たくなってきた風が、しらがまじりの長髪をなでてゆく。
「カカオさ~ん!」
 まわりに響くような少女の声に呼ばれて、
彼はガンコそうな顔を振り向かせた。この男は顔にこそ出さないが、気が短い。
「俺を待たせるのは、お前くらいだ」
 その言葉に、駆けよってきた金髪に白い服装の少女は素直にあやまる。
頭につけた、イチゴの形のかざりが、目立つ。
「君が、トマトの言ってた新しい子か?」
「はい、今年の4月からお世話になってます」
 ストロベリーです、と少女は名乗った。
 少女の名には、あまり興味のなさそうな顔をして、
カカオはストロベリーの背後に落ちている影に目をやる。
「さっさと出てこい。約束の時間に遅れると信用を無くすぞ」
 カカオが言い切らないうちに、
ストロベリーの影が時計の針のように回りはじめる。
影はカカオの正面で止まると、温泉が湧き出るような形に表面を浮き立たせる。
瞬時に、影の中から若い女が立ち上がってきた。
「今日はね、時間の流れが早すぎるのよ」
 この女は、まじめな顔でふざけることが得意である。
肩まで伸ばした黒い髪。やせすぎてはいない体に、
黒い肌着と赤いチェックの上着とスカートを着ている。
胸もとやスカートのすそが、ちらちらとはためく。
まるで絵から抜け出してきたかのような美人である。
 カカオは女の冗談に顔をしかめたが、相手にならずに、
「注文の品は、この中だ」
 とトランクをひょいと差し出す。
 それを女は重そうに両手で受け取ると、ぱかりと開いて中身を確認する。
ストロベリーは、ふたりの交渉が終わるのを、おとなしく待っている。
「うん、確かに」
 トランクの中身は、花火と、ラッパのような形をした銃の設計図であった。
「お金は、あとで口座に振り込んでおくから」
 ありがとうね、と笑顔を残してトマトは去ってゆく。
ストロベリーは、ていねいにおじぎをしてからトマトを追う。
 ふう、とひとつ息をついて、カカオもトマトたちとは逆のほうへ立ち去った。
 カカオの出番はここまでだから、ごくろうさま、と風が鳴る。

 さて、こんな取り引きをした三人は、何者だったのか。
 カカオは武器の職人である。といっても人を殺すための武器は作らない。
遺跡の調査をするディグアウターズギルドが、彼のお得意先である。
 トマトは、おもちゃ会社の社長である。ストロベリーは、その社員である。
今回は「新しい花火を作ってくれ」と火薬にくわしいカカオに注文したわけだ。
 しかしカカオとトマトの関係は、それだけではない。
二人は魔法使いなのである。しかし何もない空間に何かをポンと出せはしない。
彼らは、ディフレクターに念を送りこんで、
そのエネルギーを変形させることができる技術を持っているのだ。
 特に、トマトはディフレクターと影を合成させて、
その中を自由に行き来することができる。
 細かい話は、ここまでにしよう。
ようは、二人は同族のよしみで知り合いだったのだということである。
 話を次へ進める。



●ファイサラーバード島
 所は変わって、数日後のファイサラーバード島。
人の住む島としては歴史が新しく、およそ40数年前に発見された。
 その名は、第一発見者にして初代大統領である海洋学者にちなんでいる。
面積は、カトルオックス島の、およそ3分の1。
観光都市としてかなり発展しており、
バカンスや買い物を目的として訪れる者が後を絶たない。
 また、ディグアウターズギルドの支部もある。
 この島は、つい先日に空賊――オカマのグライドがひきいる一家に襲われた。
狙われたのは、デュラヴ銀行のファイサラーバード支店の資金である。
 彼らが戦車で町中を走り回ったために、かなりの数の家屋が潰れた。
 特にファイサラーバード上陸記念公園では、数々の彫刻や遊具が壊されて、
樹木が倒されて、巨人がじだんだを踏んだような状態になっている。
 空賊たちは、間もなくめためたにやってけられて逮捕されたのであるが。
案外に爪あとは大きくて、現在も復旧のための作業が続いている。
 その島に、仕事のためにトマトはやってきた。
 空には太陽がまぶしく輝いていて、風の冷たさをやわらげている。
 海のあざやかな青が入り組んでいる港に停泊している旅客船から、
パタリと陸地に橋が渡された。
 その上を通る旅客たちは、橋を渡りきったところで港の施設に入り、
荷物の検査を受ける。
個室で、なかなか念いりに調べるので、人が渋滞している。
町としては復旧にいそがしいので、武器を持ち込んでの強盗などの、
余計な騒ぎを起こされたくないのであろう。
 トマトは黒っぽいスーツに赤いネクタイといういでたちで、
すたすたと風を切るように橋を渡ってゆく。右手にはカバンをさげている。
ストロベリーは紺のブレザーに、いちごの髪かざりをつけて社長についてゆく。
 事前に、この島の警察署から、上陸の許可証をもらっているので、
それを職員たちに差し出した。ははあ…と壮年の職員はうなずいて、
「ようこそいらっしゃいました」
 と、優先してくれた。
「いちおう、お荷物を点検させていただきます」
 はいはい、とトマトはカバンを手わたす。指が、すこしカジカんでいる。
 この世界にはX線を使った透視ができる機械はないから、
職員たちは手さぐりでカバンの中身を調べる。
 海に面した窓からさし込む陽の光を浴びながら、
トマトたちは部屋のすみのソファに腰かけて、検査が終わるのを待っている。
「いやあ、うちの子供がおたくのロックマンゼロの人形を大事にしてますよ」
 と話しかけてきたのは、さっきの壮年の職員である。
人なつこい笑顔は、日に焼けている。
 あら、とトマトは嬉しそうに両手をあげて驚く。
「おもちゃは大事にしてちゃだめです。思い切り遊んでくださいな」
 この世界には、おもちゃが少ない。
世界の人口が少ない――つまり子供の数も少ないのだから、
たくさんのおもちゃを作っても売れ残るのである。
 だから、ほとんどのおもちゃ会社の規模は、どんぐりのせいくらべ。
トマトの会社も例外ではない。
 おもちゃの総数が少ないので、子供も壊すことを恐れて大事に扱うのである。
――子供の時におもちゃで思い切り遊ばなくて、どうするのだ!
 とトマトは叫びたく思っているのだが、
会社の経営を考えると、次々とおもちゃを作るわけにもいかないのである。
 いつのまにか、検査が終わっていた。
トマトにカバンを返した職員の顔が照れていたのは、
黒い下着を見つけたからであろう。



●街の中で
「さて、お迎えの人は、もう待ってるかしら」
 トマトは他愛のないことをストロベリーとしゃべりながら、
透明なガラスの自動ドアをくぐって施設の外に出た。
 目の前は、視界いっぱいに広い円形の道路――ロータリーになっていて、
観光バスやタクシーがくるくると回って出入りしている。
 それにしても空気が澄んでいる。空は果てしなく青い。
常緑樹もぷくぷくと大きく育ったものが並んでいる。
海の近くだから強く吹く風も、さわやかな心地がする。
 そのうちに、一台のパトカーが、彼女たちのほうへ寄ってきた。
運転しているのは20代のなかばの青年――ウィンド巡査である。
若々しくて誠実そうな顔をしている。
「ようこそ、いらっしゃいました」
 と、ていねいなあいさつに答えて、
二人は、後部の座席に乗りこんだ。なめらかな肌ざわりの布地である。
「それじゃ、お願いしますね」
 トマトの声に、巡査は「ハイ」と、くったくのない笑顔で答える。

 メグルキセツヲ追イカケテ
 街ハモヨウヲカエテユク
 家ガコワレテタチナオルノモ
 マチノ歴史ノイチペエジ

 走る車の窓の外を、ストロベリーはくりくりと動くひとみで、
あきもせずに眺めている。
 トマトは、この少女がかわいくてしかたがないらしい。
そっと横顔に顔を寄せると、かりりと耳たぶをかんだ。
 二人がキャッキャと騒いでいる光景を、
巡査はなぜか恥ずかしそうな顔でバックミラーごしに見ている。
 そうこうしているうちに、行く手の歩道に自動販売機が見えた。
「わたし、のどがかわきました」
 ストロベリーの声で、車は停車する。
 このあたりは住宅街で、色とりどりのアパートや一戸建てが立ち並んでいる。
 昼の前で、とくに交通量の多い時間帯らしく、10秒に一台くらいの割合で、
別の車がそばを通り過ぎてゆく。
 三人は、自動販売機の前に立った。
「どれが、おすすめですか?」
 ストロベリーは、世間しらずな上に、なにかと人に頼る性格である。
 じゃあ私が選んであげる、とトマトが炭酸飲料のボタンを押した。
「よ~く振ってから開けるのよ」
 その言葉を素直に信じて、ストロベリーはシャコシャコと缶を振る。
何かを言い出そうとする巡査を、トマトがウインクで止めた。
いざ開けるとなると、取っ手に爪がひっかからない。
「ごめんなさい、開けてください」
 えっ! と予期せぬ申し出に、トマトは目を白黒させる。
巡査は、巻き込まれては大変だと先に車へ乗りこんだ。万事休す。
「やっぱり、オレンジジュースのほうがいいわね」
 こうして炭酸飲料は封印された。



●警察署にて
 3人が警察署に着いたのは、昼をわずかに過ぎたころだった。
受付で自己紹介をすると、すぐ応接間に通される。
 白っぽく塗られた壁に、両手を広げたほどの大きさの窓。
木でできたテーブルをはさむ形で向かい合った、黒いソファ。
部屋のあちこちには、花びんや絵が備えつけられている。
「ようこそ、いらっしゃいました」
 背広を着た、壮年の警部が握手を求めてきた。
彼の名は、ルパート・リング。犯罪者からは「鬼のリング」と恐れられている。
しかし、その一方では、身寄りのない子供を引き取る、
よき夫であり、よき父でもある。
 双方がソファに座ると、
「さて、今度、あなたがたに作っていただく遊具の件ですが…」
 と、警部は用件をきり出した。
 先日のグライド一家の来襲によって壊された、
ファイサラーバード上陸記念公園の遊具や彫刻を、
トマトの会社が新しく作りなおすという話である。
 すでに市役所とは話をつけてある。
 壊された遊具などの破片を集めて復元したものや、その設計図は、
今のところ、証拠の物件として警察が保管している。
 それをトマトたちは、参考として見せてもらうために、
警察署をたずねたわけである。
 すべり台や、噴水の彫刻などの設計図が、
テーブルの上にところ狭しと並べられた。
 トマトは、何気なくそれらを眺めていたが、一枚の写真に目をとめた。
それには、上半身がネコで、下半身がサカナという生き物の銅像が写っていた。
脳天気な笑顔でバンザイをしている。
「これは…?」
 と見あげた彼女の視線の先には、写真と同じ生き物の絵が飾ってある。
 写真をのぞきこんでから「ああ、これは」と巡査が笑顔になる。
「ニャンギョですよ」
 ニャンギョ? と、まばたきをするトマトに、警部が説明をはじめる。
 この世界には古くから『大いなる遺産』という財宝の伝説がある。
この島を発見したファイサラーバード博士も、その財宝を追う一人であった。
 その彼の枕元にニャンギョが現れて、その導きによって、
この島が発見されたという。
 以上の話から、ファイサラーバード上陸記念公園のシンボルとして、
ニャンギョの銅像がつくられた。
「しかし、つい最近にグライド一家がこっぱみじんに砕いてしまいまして」
 と、ここまで話して警部は顔をしかめた。巡査の顔からも笑みが消える。
 ふむふむ、とトマトは穏やかにうなずいた。
ストロベリーは、彼らをなぐさめようと思うのだが、
うまい言葉を思いつかないらしい。
 写真の中のニャンギョは、見れば見るほど愛きょうのある顔をしている。
「捜査の進みぐあいは、いかがですか?」
 との、トマトからの問いかけに、警部は参ったというふうに頭をかく。
「やつらは、世界中を逃げ回っているもんですから、なかなか…」
 いつか、他の島の警察と協力して捕まえることになりそうです。
と警部は答える。自信は、あるらしい。
 捕まるといいですね、とのストロベリーの言葉に、
そうですね、と巡査が穏やかに答えた。
 それから、遊具や彫刻についての話が落ち着いて、
雑談も終わった頃にはすでに日が暮れかけていた。
 ホテルへは、ウィンド巡査がパトカーで送ってくれた。
その車内で、トマトは黙って人差し指と中指を唇につけて考え込んでいた。
 ここにカカオがいれば「また何かたくらんでるな」と気づいただろう。



●星の降る夢
 アレヨアレヨト日ハアケクレテ
 時間モリチギニナガレッパナシ
 イソガシイノハ分カッチャイルガ
 止マッテミタラドウナンダ

 いよいよ冬が深くなってきて、窓の外の樹も凍えている。
そんな、ある日の夕ぐれに、ついにトマトの待っていた情報が入った。
 その時、彼女はとある島の本社で書類に目を通していた。
けたたましい音を立てて、机の上の黒い電話が鳴る。
 暖房のきいた、木を基調とした部屋の中で、彼女は受話器をとる。
「こんにちは。インフォ=マルムです」
 彼女が目をかけている、どこかの島の支社長である。
「うちの島に北極星が墜落しました」
 ありがとう、と受話器を置いて、トマトはあわただしく書類をまとめる。
――北極星が墜落した。
 という言葉は「グライド一家が襲ってきた」という暗号なのである。
 なぜ暗号を使うのかというと、
これから彼女の仕かけるイタズラを、できるだけ誰にも知られたくないからだ。
「私はもう退社するわ」
 と彼女が秘書室に連絡し終わると同時に、ノックもせずに社長室の扉が開く。
「社長。北極星が墜落しました」
 と言いつつ入ってきたのは10代の前半の少年である。
右手に袋を引きずっている。
体は成長をはじめたばかり。青い短髪。
どんなことにも無関心なふりをする顔が、こざかしい。
「分かってるわ。あなたも出発する準備をしなさい」
「ですから北極星が落ちてきたんですってば」
 ブルーベリー? とトマトはいぶかしげな目で少年を見やる。
「何を言っているの?」
 ブルーベリーは、肩をすくめて、袋の口を両手で持って開いた。
 途端に、まばゆい閃光が満ちあふれる!
ひょうたんからコマが出るとは、このことか。
 驚いてトマトが窓ごしに空を見やると、
たしかに、そろそろ姿を現すはずの北極星がない。
「これ、どうしましょうか」
 ブルーベリーの問いかけに、トマトは「それどころじゃない」という表情で、
「こまかく砕いて、社員たちに食べさせてあげなさい」
 と言い捨てて、社長のイスの背後のカベを押す。
くるりと木材が回転して、秘密の通路への入り口が現れた。
「食べさせる、とは?」
「表面を指でなぞって、なめてみなさい」
 ブルーベリーは半信半疑ながらも、言われたとおりにする。
直後に、その表情に驚きがはしった。
「星はね、こんぺいとうの味がするのよ」
 トマトは、北極星の表面のでこぼこを一つ崩すと、
ほのかに赤くて小さな唇へ運んで、秘密の通路へと入りこんでいった。
 ブルーベリーは、いまだに話を理解できずに固まっている。
「早く準備しなさいよ?」
 との、木材の奥からのトマトの声にハッと我にかえって、
彼はあわてて自分の準備に取りかかろうとする、のだが。
北極星は、どう始末したものか。
 彼が途方にくれていると、窓の外から小さなクマが入りこんできた。
その体はオーロラのようにすきとおっている。
クマは袋の中の北極星を見ると、
「あっ! ちょっと食われてる!」
 と驚いたあとでブルーベリーをにらみつけた。
「北極星がなくなったら、あなたたちも困るんですからね!」
 文句を言いながら、小ぐまは北極星を口にくわえて、
ひとつ、またひとつと星が輝きはじめている空へ昇っていった。
 その様子を見あげながら、ブルーベリーはほほをつねったかと思うと、
さすりはじめた。
 痛かったらしい。



●変身! ①
 トマトは暗い通路を抜けて、せまい階段をのぼってゆく。
すると、あちこちに古い木のタンスが置いてある、小ぢんまりした部屋に出た。
 部屋には蛍光灯は無いが、ディフレクターが天井に塗り込められていて、
トマトが入ってくると同時に白く光るようになっている。
――さて、準備を始めるか。
 なんの準備かというと、グライド一家を襲う準備である。
なぜ襲うのかというと、理由は、ない。
人のやることなすこと全てに理由がくっついているわけではあるまい。
 まずは着がえだ、とトマトは衣装タンスを両手でひらく。
 ささっと上着を脱いでネクタイをほどき、ズボンを脱いで、
白いシャツが一枚だけの姿になる。
足は細いが、肉質が豊かで、肌は絹のようになめらかである。
 プツプツとボタンを解いてシャツを脱ぐと、下着は両方とも黒。
体のりんかくとしては、出るべきところはしっかり出ていて、
腰のくびれはキレイな流線を描いている。
 ふとトマトは、あなたの視線に気づいた。
両手を腰に当てて、あなたのほうを向いてほほえむ。
「女性の体はね、いやらしいものじゃないの。美しいものなのよ」
 どのような時に、人は人間の体を「いやらしいものだ」と言って、
敬遠するのだろうか。あなたは、どう思います?



●変身! ②
 それにしても作者も思い切って書いたわねえ…、
と、ひとりでつぶやきつつ、トマトはタンスから服を取り出した。
 ぶあつくて赤い布地に、まわりをふさふさした白い毛でふちどった、
帽子と上着とスカート。
 それらを手ばやく身につけて、最後に黒いニーソックスをはいて、
先に白い毛の球がついた赤い靴をはく。
 その姿は古文書にのっている、
――年に一度だけ、子供たちにプレゼントを配る老人。
 に、そっくりである。
 トマトは、この老人のことを数年前に知って、いたく感激した。
――私は、まだまだ老けちゃいないが、おもちゃは売るほど持っている。
 ということで、彼女も老人のまねをして、
年に一度だけ子供たちの枕元にプレゼントを届けている。
 このところ『子供に夢を届けるひと』などの題で、
枕元におもちゃを見つけて喜ぶ子供の顔が、
テレビ番組で報道されるようになった。
それを見ながらトマトはニヤニヤとひとりで笑っているのである。
 さて、あとは色々なものがぎっしりと詰めこまれた、白い袋を用意して、
彼女の準備は万端だ。
あとはストロベリーとブルーベリーを待つばかり。
 すると階段をかけのぼる音が響いてきて、
二人が部屋の中に入ってきた。
彼らは、トマトと同じ格好に着がえて、彼女と同行する。
 ああ、とストロベリーはうれしそうにタメ息をついて、
「緊張するなあ」
 と胸に手を置いてわくわくしている。
 それをブルーベリーは横目でながめたかと思うと、
急に「なにもかもつまらない」といった顔をした。
 なにかと人の感情に反発したがる少年なのである。
しかし口元が引きしまっているのは、やはり緊張しているからであろう。
 さあ、着がえて、とトマトは二人に声をかける。
 ストロベリーは歌をくちずさみながらタンスに手を差し入れる。
ブルーベリーも、もったいをつけて、わざとゆっくり手を差し入れる、が。
「…なんでスカートしか無いんですか?」
 とまどうブルーベリーの言葉に、トマトは笑い声を立てた。
「だって作り分けるのがめんどうくさいんだもの」
 もう帰る、と背をひるがえすブルーベリーのエリを、
トマトが軽くつかんだ。



●星空へ近づきましょう
 準備が終わって、トマトは部屋の奥の階段をのぼってゆく。
 他の二人がどこへ行ったのかというと、
彼女が肩にかついでいる袋の中に入っている。
この白い袋の布地にはディフレクターがぬいこんであって、
中に、ものすごく広い空間が形成されているのである。
 トマトが、階段のてっぺんの、屋上へつながるフタを押し上げると、
二つの月がのぼりはじめた空が見えた。
 この社屋は、街の郊外にあって、手を伸ばせば届きそうな距離をはさんで、
葉を落とした木におおわれた山が腰を落ち着けている。
 風はおだやかで、ほほが切れそうなほど冷たい。
さあ、いくぞ。とトマトは石だたみの屋上のまんなかに立って、深く息を吸う。
 こんなイタズラをするのは、何年ぶりだろうか。
自然に顔がにやけてきて、トクトクと心臓が鳴る。
 空を見あげると、たくさんの雲がそろって月を目指して流れてゆく。
それらの雲のうちのひとつが、彼女に影を落としてきた、その時!
 トマトは自分の影に沈みこんで、一気に雲の影をたどって上昇する!
ぱっと雲の中にもぐりこんで横なぐりの風に吹き飛ばされると、
視界の中に、山の陰から顔を出してきたばかりの月が見えた。
 全身を打ち上げるような風圧の中で、
スカイダイビングのように姿勢を腹ばいにして、
彼女は袋の口をくつろげる。
 袋の中から、水晶のように輝く、トナカイにひかれたソリが飛び出した!
 その後ろにつかまって飛び乗って、
トマトはグライド一家が襲った島の方角をめざす。
 彼女は世界の地図を広げる。風はソリのまわりの光のカーテンが防いでいる。
空賊に知り合いがいる魔法使いに調べてもらった、
グライド一家の隠れ家のある島と、今、襲われている島とを線で結ぶ。
――どうやら、月がのぼりきってから、彼らと対面することになるらしい。
 と考えながら、トマトは北極星が輝く夜空をかけぬけてゆく。
 相手は、巨大な飛空艇であるキンググライドン号に乗っている。
どうやって彼女はイタズラをしかけるのでしょうか。
それは後のお楽しみ。
ちょいと時間が空くので、トマトが飛んでゆく道のりも混ぜた詩をどうぞ。

 ソラニキラキラオホシサマ
 月ガコチラヲ見テイルヨウダ
 ミワタスカギリノ大海原ガ
 寝ガエリウツノハ眠レナイカラ

 ミンナスヤスヤネムルコロ
 サンタハ町ニヤッテクル
 カレハ大人ノダイヒョウシャ
 ミンナコドモデイタカッタ

 メグル月日ニヒッパラレ
 オモチャハ箱ヲトビダシテ
 コドモノモトカラサッテユク
 「忘レナイデネ私ノコトヲ」

 チャチャチャ踊ルヨチャッチャッチャ
 コレハドウ詩ニシタモンジャロカ
 アレコレカンガエテイルウチニ
 キンググライドンガ見エテキタ



●近づくものはなんでしょう
 はるかな天空に浮かぶ、二つの月の下。
 冬の風で、するどい波が立つ海面に、島のように大きな影を落としながら、
グライド一家の飛空艇であるキンググライドン号が飛んでいる。
 その見た目は、ずんぐりと太った紺色の鳥である。
左右の翼を魚のヒレのように下げて、平べったい尾をピンと上げている。
箱のような胴体からは、細ながい首がまっすぐに伸びて、
その先には大きな黄色いクチバシを持った顔が付いている。
背には100cm級の砲が一門。その両端には対空ラピット砲が六門ずつ。
そして両肩には70cm級の対艦砲が一門ずつ備えられている。
 クチバシを開いて発射する「アルティメット・グライド・バスター」は、
ひとつの街を吹き飛ばすほどの威力である。
 その内部では、目つきとクチバシの鋭い鳥――シタッパーが、
先ほどの襲撃での戦利品を整理するために動き回っていた。
 久しぶりの大漁である。みんなの身ぶりも、意気ようようとしている。
 さわがしい船内の様子とは裏腹に、
司令官室のグライドは黙って専用のイスに腰を落ち着けていた。
 彼らが襲撃のために姿を現したことは、
すでに世界中の島々に伝わっているであろう。
ということは、どこかの空中で、ディグアウターズギルドなどの船団が、
彼らを待ちぶせしている可能性がある。
 だから、敵の出現にいつでも反応できるように、
グライドはまんじりともせずに、
目の前の操縦席の向こうに広がる夜空を見つめ続けている。
 夜も10時を過ぎたころに、
操縦席に並んで座っているシタッパーのうちの一羽が声をあげた。
「前方5キロの空中に生命反応ありクケッ!」
 グライドは、ほおづえをついていた顔をあげて、
生命反応? と問いかえした。飛空艇の反応ではないのか。
「そうです。あと3分ほどで接触しますクケッ」
 その言葉に、他のシタッパーたちが、ざわめく。
しかし、あわてるというほどではない。
 これほどの距離に近づくまで感知できないほど反応が小さいということは、
おおかた、渡り鳥などであろう。――そう彼らは考えている。
 念のためだ、とグライドは慎重に判断した。
「総員に警戒を命令しなさい。ドラッヘにも、飛び立つ準備をさせて」
 ドラッヘとは、アヒルの頭のような形をした、小型の飛空艇である。
装甲はうすいのだが、その分だけ速く飛べる。
 レーダーの画面を見つめるシタッパーが、接触までの距離を数えはじめた。



●ついに始まっちゃいました
 ソリで空をかけるトマトの前方の、
はるかかなたにポツンと黒い丸が見えてきた。
キンググライドン号であろう。
――いよいよだ。
 満天の星空と、おだやかに輝く海とのさかい目を見やりながら、
トマトは手もとに袋をひきよせて、その口をくつろげる。
その中からポンと出てきたものは、カカオが設計したラッパ型の銃である。
その銃身は純白にぬられていて、金で銃口などがふちどりされている。
 銃に続いて飛び出してきたものは、一個の卵である。
見かけこそ卵だが、実はディフレクターを丸くけずって白くぬった弾丸である。
トマトはそれを手にとって、中折れ式のラッパ銃の弾倉に詰めこむ。
 その心に、わずかに不安がよぎったが、
目を閉じて深く呼吸をして自分を落ち着かせる。
 そうしているうちに、キンググライドン号の頭が見えるようになる。
もうすぐ、すれ違うことになるであろう。
 トマトはソリを上昇させて、
つばさの形が分かるまでに近づいてきたキンググライドン号より上に出る。
 向こうは、彼女のことに気づいているのか、いないのか。
気づいているとしたら、
――なんだ、あいつは。
 と、とまどっていることだろう。
 キンググライドン号とすれ違うまで、あと5・4・3…。
 いよいよ、トマトのイタズラがはじまる。
 眼下にキンググライドン号の首が来た瞬間に、
トマトは影をくぐって鉄板の上へ降り立った!
 この首の部分は、頭へ続く通路になっていて、
両側には鉄の柵が設けられている。
 トマトは頭部がつくりだす影から駆け出て、
目の前に立ちふさがるハガネの扉に近づいてゆく。
 あちこちから吹きつける突風で、髪や服やスカートが上下左右にはためいて、
ともすると吹っ飛ばされそうになる。
 彼女はハガネの扉から距離を置いて立ち止まると、
かろうじて目を開きながらまっすぐに銃をかまえる。
引き金をひくと、しりもちをつくほどの反動とともに卵が発射されて、
ハガネの扉をこなごなにするほどの爆発を起こした!
 手すりにつかまりながらトマトが立ち上がると、
風によって、すぐにかき消えた煙の奥に、洞くつのような大穴があいている。
その出入り口のあたりに、すぐさま銀色のシャッターが降りはじめた。
扉が破壊された際の防風のためであろう。
 トマトはチーターのようにすばやく駆けだして、
シャッターが閉まる寸前にスライディングで内部へ入りこんだ!
 すでに、キンググライドン号の内部は、
つつかれたハチの巣のような大騒ぎになっている。



●伝説がやってきた
 鳴りひびく警報の中で、7羽のシタッパーが、
爆発の起こった部位へ向かってろうかを駆けぬけてゆく!
先頭は、青い眼帯をつけたシタッパーである。
それぞれの手には、エネルギー弾の出るライフルがひっさげられている。
 彼らの姿は、見ているぶんには、カモの行列のようで、かわいい。
 キンググライドン号の内部の混乱は、たとえようもない。
 指揮されていないシタッパーたちは、
丸焼きにされると知らされたときのように、てんてこまいしている。
 ついに爆発が起こった出入り口につながる通路に達した直後に、
彼らはギョッと立ちすくんだ。
その目の前に、自分たちと同じくらいの大きさの、
ニャンギョが並んでいたのである。数としては15匹ほどか。
 ニャンギョたちの背後に立つ、赤い服の女――トマトが口を開いた。
「銃隊~、かまえ!」
 ザッ、と笑顔のままニャンギョたちが丸い水晶のついた杖を差し出す。
「撃てぇ!」
 ドカーン! と杖からキラキラと輝く星が飛び出して、
シタッパーたちをうちのめす!
 剣隊~! とトマトが続けて号令をかけると、
杖を持ったニャンギョが、剣を持った後列のニャンギョと入れかわる。
「突撃ぃ!」
 ニャ~ッ! と鳴き声をあげてニャンギョたちが突進した!
彼らは下半身が魚なのに、どうやって走っているのか。あなたはどう思います?
 うわあ、と悲鳴をあげるシタッパーを、
思い切りふりかぶったニャンギョがボコッとなぐる!
剣に切れ味はないらしい。
「よくも僕らを壊したニャ~?」
 からあげにしてやるニャ! とニャンギョはシタッパーに追いすがって、
ポコンと打ち倒すと、たてつづけにパコパコとスイカ割りのように打ち続ける!
 トマトはというと、動かずに見物しながら、
面白そうに声を立てて笑っている。
「さ、催涙弾! 催涙弾~!」
 と眼帯をつけたシタッパーの号令で、
白い煙をあげる弾が、そこらじゅうにばらまかれた。
 あらまあ、と大げさに驚くトマトたちを煙が包みこむ。
「退け~!」
 との号令で、いったんシタッパーたちはトマトたちから距離をとる。
構えろ、と声がかかって、彼らは横に一列に並んでライフルをかまえる。
 トマトたちを包んでいる煙は、
まったく見とおしがきかないほどにたちこめている。
 ふと眼帯をつけているシタッパーが隣を見ると、
一匹のニャンギョが彼らと一緒に真剣な顔で杖を正面へかまえていた。
「お前は、あっちだろ」
 パコンと頭を叩かれて、ニャンギョはあわてて煙の中へと戻っていった。
 直後に、煙の奥からピーイと草笛の音が鳴りわたってくる。



●さみしく世をゆく風来坊
 なんだ何だと見つめるシタッパー。
 彼らの目の前、白い霧のまん幕から、すいっと現れいでたるは、
麻のゆかたを着たニャンギョ。
腰の刀を手にとって、草の笛をぷいっと落とす。
「お前さんたちゃ、なにかい? あっしをお斬りんにゃさるおつもりで?」
「てめえのほうから仕かけたくせに、お斬りんなさるおつもりでたあ、
どういう料簡だってんだ」
 だんっ、と右足ふみしめて、すごむは眼帯のシタッパー。
「おかど違いじゃござあんせんか?
あっしはただの風来坊。ネコで魚のニャンギョエモンでさ」
「ええい、てめえら、囲め囲め!」
 きらりと抜きつれるシタッパーたち。
ニャンギョはくるくる囲まれて、あいや絶体絶命か。
「こりゃあ何ともどうしたことで? あたしゃここを通るだけでごにゃんす」
 だ~か~ら~、と眼帯は噴き上げる。
「まわりは広いお空だってのに、お前はどこに行こうってんだ!」
「どこにでも行きとうごにゃんす。旅つきて、夢が枯れ野をかけめぐるまで」
「いよいよワケが分からねえ!」
 すわ決闘か! と場が張りつめる。
おっと、とニャンギョが手をあげる。
「お待ちなせえ。刀はおっとろしいもんでごにゃんす。
抜くことがなきゃ幸いで」
「ええいてめえらやっちまえ!」
 シタッパーたちゃ振りかぶり、一緒にまっすぐ切りかかる!
しかし横の一閃が一瞬はやい!
 瞬時にニャンギョは輪から飛び出て、背後でバタバタ倒れる音がした。
みねうちだから、死んじゃいない。
「いやはや、また危ない橋を渡ってしもうた。
さっさと刀とおさらばしとうごにゃんす」
 背に孤独な影をひっかけて、ニャンギョはスタスタ去ってゆく。
 ニャンギョエモンの刀は、性分なのさ。
 人それぞれには、その人なりの性格がある。
その性格を嫌いにならずに、受け止めて生きて行こうじゃあないか。

 風来坊 ニャンギョエモン 完

 ニャンギョエモンの姿が消えた後で、
白い霧の中からトマトたちが現れた。
催涙ガスといっても、あまり効かなかったらしい。
「あんなニャンギョの人形、つくったかしら…?」
 と、彼女は首をひねった。