ロクノベ小説保管庫 ロックマンDASH・R外伝 おもちゃのチャチャチャ(2)

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●手わけしましょう
 トマトたちは、黄色を基調とした通路をまっすぐに進んでゆく。
その途中で襲いかかってくるシタッパーたちは、
こてんぱんにうちのめされて、しばりあげられた。
 グライドは、姿を現さない。どこかで対策を練っているのであろうか。
 そのうちに、彼女たちは十字路に出た。
ここから船内の様々な場所へ道が分かれているらしい。
船の外見から想像すると、左右の道は砲台へ続いているのだろう。
となると正面の道は、格納庫や司令官室か。
 鳴りやまない警報の中で、トマトは立ち止まって、
「ストロベリー、ブルーベリー、出番よ」
 と呼びかけて、袋の口をくつろげる。
すると、その中から二人が打ちあげられるように飛び出してきて、
スタッと降り立った。
 ストロベリーは期待に胸をふくらませて、ほほを赤く染めている。
 ブルーベリーは、自分がスカートをはいていることが恥ずかしくて、
イタズラどころではないらしい。
 ニャンギョたちはというと、調子に乗って、あちこちに散らばりかけている。
 さあ、とトマトは楽しそうに手をすり合わせる。
「二人とも、自分の役目は分かってるわね?」
 はい、と二人は、それぞれの表情でうなずいた。
これから、彼らは二手に分かれて、左右の砲台を制圧する手はずになっている。
「このニャンギョたちは」
 と言いつつトマトは手にネズミのぬいぐるみをぶらさげる。
散らばっていたニャンギョたちが「ニャッ!」と一瞬で彼女にむらがってきた!
「あなたたちが連れてって」
 彼女はネズミの腹のネジを巻いてぽいっと投げ捨てる。
すると円を描くようにしてネズミが走りはじめた。
「社長は、おひとりで?」
 ネズミを一心不乱に追うニャンギョたちを横目に、
心配そうにストロベリーが問いかける。
 トマトは「それがねえ」と顔をしかめて考え込んだ。
「他にもニャンギョの人形はつくってあるんだけど、
筆者の趣味が入ってるのよね」
 ロックマンDASHの世界に、個人の趣味を持ち込むのは、いかがなものか。
と彼女は思うわけである。
 それを聞いて、ブルーベリーが「いいや」と頭を横に振った。
「突きつめてみりゃ、小説ってのは、筆者の趣味を書くものですよ?」
 この言葉に、トマトは「そうね」と笑ってうなずいた。
「じゃあ、思い切って出しちゃうか!」
 トマトが袋を肩に担いだままで開くと、
その中から宇宙のような色をした球が飛び出してくる!
 人間がしゃがんだような大きさの、その球は、
着地すると同時に電流をまきちらして光をはなつ。
光がやむと、球があった場所には、一匹のニャンギョがひざまづいていた。
「ニャーミネーターよ」
 とトマトが紹介すると、二人は、あんぐりと口を開いてあきれた。
 今、ネズミを追っているニャンギョの人形たちは、
丈夫な綿でできたぬいぐるみに、自分の意思で動くことができるように、
動力としてディフレクターを埋め込むことで作られている。
 ニャーミネーターは、ディフレクターを埋め込んだ超合金の骨格を、
他のニャンギョと同じ綿で包んでいるわけである。
だから力はばつぐんであり、ネコとしての本能もおさえて行動できる。
しかし、やはり顔は脳天気に笑っている。



●趣味なんですゴメンナサイ
 二人を左右に分けて進ませて、トマトは正面の道をとる。
行く先には格納庫があるのか、司令官室があるのか。
どちらにしても、かたっぱしから制圧するつもりである。
 ニャーミネーターは、笑顔のまま無言で彼女についてくる。
 とにかく、彼女たちは走った。道が上下に分かれている時は、下へ進んだ。
格納庫は、たいてい、船のどてっ腹のあたりにあるからである。
 格納庫を制圧してしまえば、
相手の側は新しく武器を持ち出すことができなくなる。
 いきなり近くの部屋から飛び出してきたシタッパーへ、
トマトはラッパ銃を撃ちはなった!
卵の弾はニワトリに形を変えて、シタッパーをごっつんこ!
 彼は、同じ鳥類にやっつけられたことが衝撃だったらしく、
「ど、同士よ…、なぜだ…」
 と、つぶやいてパタリと倒れた。
 ニャーミネーターはと見ると、笑顔のまま無言で近づいてゆくので、
シタッパーにものすごく恐がられている。
 そうやってシタッパーたちをけちらしてゆくうちに、
二人は天井が出っぱっていて下への見とおしがきかない階段にさしかかった。
 トマトが降りようと足を踏み出すと、
下から一斉にエネルギー弾が撃ちだされてくる!
 あやうく飛びさがって、トマトは階段の手前で腹ばいになる。
じわりと、床の冷気が服のすき間にしみこんでくる。
「お前ら! なんとしてでもここは守るぞクケッ!」
 これ以上、好き勝手にやられてたまるかあ! と、
シタッパーの怒なり声が階段の奥から聞こえてきた。
 どうやら彼らは、階下に陣どって、
降りてくる者の足腰を狙いうちする戦法をとっているらしい。
天井の出っぱりぐあいを利用しているのである。
 生身の人間ならば、手も足も出ない防衛であろう。
 しかしトマトの側にはニャーミネーターがいる。
 彼は寝ころがっているトマトと目を合わせて、
「待っていろ。すぐ戻るニャ」
 と言い捨てて、堂々と階段を降りてゆく。
 階段のなかばまで進んだ彼の視界に、
大きなハガネの扉の前に積みあげられている木箱の群れが見えた。
「バカなヤツだ、クケッ!」
 と、木箱の陰から一匹のシタッパーが顔を出して、
撃てぇ! と号令をかける!
 一斉に姿をあらわしたシタッパーたちのライフルが火を吹いて、
ニャーミネーターの体をおおっている綿をもぎとってゆく!
 白い綿が散る中を、ニャーミネーターは顔色も変えずに進み、
前線のシタッパーのライフルを奪って、胸ぐらをつかんで投げ飛ばす!
他のシタッパーの撃った弾が彼の頭に命中するが、
それをものともせずに撃ち返して相手のライフルを砕く!
 彼は、またたくうちにシタッパーたちのライフルを撃ち砕いて、
つかみかかってくる相手を突き飛ばして投げ飛ばして叩きふせた!
 ああ、どうして彼は自分の体の形が変わることを恐れないのでしょう?
 ううむ…と、うめきながら気絶しているシタッパーたちを尻目に、
ニャーミネーターは階段の前に立って上を見あげる。
「敵は、全滅したニャ」
 その顔は、右の耳が吹き飛んでいたが、あいかわらず笑っていた。
 その姿を見おろしたトマトは、
自分が子供のころに大好きだったおもちゃが壊れた時のことを思い出して、
涙ぐんでしまった。

 タトエバオモチャガコノ世ニナケリャ
 ヒトノオモイデダレガマモルノ
 ヨゴレヤホコリハ我ラノクンショウ
 タダ遊バレテタワケジャナイ



●どうしようどうしよう
 さて、ハガネの扉を守っていたシタッパーたちは、すべてしばりあげた。
あとは、この見あげるほどの大きさの扉を開くだけである。
 シタッパーたちから聞き出したところによると、
この扉の先は格納庫になっているらしい。
その中で、何が待っているのかと聞いても、彼らは口をつぐんで答えない。
 まいったなあ、とトマトが悩んでいると、
「社長!」
 と彼女が肩にかついでいる袋から、
あせったブルーベリーの声が呼びかけてきた。
 彼女が、袋に手を差しこんでトランシーバーを取り出して応じると、
「ストロベリーが誘拐されたようです」
 とブルーベリーが、冷や汗をかいているような口調で報告してくる。
 なんですって? とトマトが驚くと同時に、船内に響く放送がはじまった。
「侵入者さん、聞いているかしら? 私はグライド。
お嬢さんをひとり、こちらで預かってるわ」
 トマトは、音の聞こえてくる方角を見あげて、じっと聴きいっている。
「あなたが最初に突っこんできた出入り口で待っているわ」
 と、何の感情もまじえずにグライドは言い切ったあとに、
「社長! 助けて…!」
 と、ストロベリーの悲痛な声が流れて、放送が終わった。
 トマトは、くちびるをかんで、うつむいて、考えこんだ。
「社長…! どうするんですか?」
 ブルーベリーは、
自分では何も考えられないほど落ち着きをなくしているらしい。
 グライドは、ストロベリーを人質として、
どんな話を持ちかけようとしているのか。
――この船から手を引け。
 ということだろうか。
 もしくは、まだ見ぬ主犯であるトマトをおびきよせて殺そうとしているのか。
 とにかく、相手の要求した場所へ行かなければ、
ストロベリーの身に何かが起こるだろう。
 さっきの放送を聞いたシタッパーたちは、
これからどうなるのかと息をのんでいる。
 それまで、トマトのそばで沈黙していたニャーミネーターが、口を開いた。
「この扉の先は、俺に任せるニャ」
――だから、早く行け。
 と言いたいらしい。
 その言葉に、トマトは「ありがとう」と意を決すると、
「この子たちも連れていって」
 と、念のために残しておいた5匹のニャンギョを袋から飛び出させた。
 ニャーニャーと、何も知らないニャンギョたちは、
ニャーミネーターにまとわりつく。
 そして彼女はブルーベリーへ、
「あなたは、その場で待機していて」
 と声を送ると、しばらくニャーミネーターと見つめあった。
 最後に「無事でいてね」と、ポツリと言い残すと、
トマトは背をひるがえして、もときた道を、急ぎ足で引きかえしはじめた。
 その姿を見おくりながら、ニャーミネーターは深くうなずく。
 これから、彼らを待ちうけている戦闘のことも、書きたいのであるが。
時間が足りないので、その場面は残念ながら、はぶくことにする。



●ネコの知らせ
 トマトは、不安な色の通路を駆けぬけながら、
ブルーベリーからくわしい話を聞いた。
その内容を説明するためには、二人の会話を書くよりも、
トマトたちと別れてからのブルーベリーの行動を追ったほうが早いだろう。
 ブルーベリーは、何匹かのニャンギョをひきいて、
船の右側の砲台を制圧するために突き進んでいた。
 船の右肩にあたる場所にある70cm砲は、
火を吹くような勢いで攻め落とした。
せっかく奪った70cm砲を警備するために、
2匹ほどのニャンギョをその場に残す。
 さて、次は船の背中の右端にあるラピット砲が6門である。
 それらの砲は、それぞれ個室の中に設置されていて、
すべての扉は横に一列に通路に面している。
 通路をまっすぐ進んで部屋へ攻め込もうとするブルーベリーたち。
 彼らに対して、シタッパーたちはモグラたたきのように扉を開閉して、
ライフルの銃口だけを外に出してエネルギー弾を撃ってくる。
 ブルーベリーたちにとっては、たえまなく弾が飛んでくるために、
やっかいな戦法である。
――らちが、あかない。
 と、物かげに隠れて弾を防ぎながら、ブルーベリーはゴウをにやした。
ニャンギョたちはと見ると、戦いに飽きて毛づくろいをはじめた者もいる。
 アイツめ、なにをやってるんだ、とブルーベリーは顔をしかめたが、
ふと気づいた。
 彼は、肩にかついだ袋から、ディフレクターでできた卵を取り出して、
「ほらっ、お前らの子供だぞ!」
 と、並ぶ扉と平行に転がした。
 クケーッ! という鳴き声と共に、
興奮したシタッパーたちが転びそうな勢いで部屋から飛び出してくる!
卵を温めなければならない、と思ったらしい。
「突撃~!」
 ブルーベリーのかけ声を受けて、
ニャンギョたちがシタッパーの集団へ横なぐりに突っこんだ!
 シタッパーたちは、目も当てられないほど打ちのめされて縛りあげられた。
 卵につられてしまった自分たちに落ちこむ彼らを見つめながら、
ブルーベリーが口を開く。
「しょせんはトリだな」
 彼には、言わなくてもすむことを口に出すくせがある。
これには、シタッパーはおろかニャンギョたちまでも嫌な顔をした。
「人間もトリもニャンギョも、おんなじ動物でごにゃんす」
 と、その場の一同の気持ちを、
ブルーベリーの背後に立った何者かが代弁する。
 はっ、とブルーベリーが振りかえると、
そこにいたのはニャンギョエモンであった。
「何だ、なんの用だ」
「さしいでがましいことでごにゃんすが、お知らせしとうことがごぜえやす」
 言ってみろ、とブルーベリーが、うながす。
「ストロベリー様が、向こうに捕まってしまったのですにゃ」
 その言葉に、ブルーベリーは息をのんだ。
すぐトランシーバーで連絡をとろうとしたが、つながらない。
「相手は天下の空賊、グライド殿。
ストロベリー様はスキを突かれたのでござんす」
 どうやらニャンギョエモンは、
ストロベリーが捕まる場面を目撃していたらしい。
「あっしは、修羅場はごめんこうむりたいのでやす。
しかし見すてたまま放っておくわけにもいきますまい」
 だからあにゃたにお伝えしました、と言いつつ一礼して、
ニャンギョエモンは背をひるがえして、どこへともなく去っていった。
 いや分かったありがとう、とブルーベリーは彼の背中に声をかけて、
そのあとでトマトへ連絡をとったわけである。



●ご対面
 トマトが、自分が最初に飛びこんだ通路にさしかかると、
正面からの冷たい風を感じた。
 トマトが侵入すると同時に閉じられた、
防風のためのシャッターが、ふたたび開いているのである。
 彼女の視界の中心には、通路の先が、にぎりこぶしほどの大きさに、
四角く開いていて、月の光がさしこんできている光景が映っている。
その、さらにまんなかには、一本の人影が立っている。
 トマトは指で口紅ののりを確かめて、
月の光の下へ出ると同時にラッパ銃を正面へ突きつけた。
「ストロベリーちゃん、お待たせ」
 その前方に15mほどの距離をはさんで、
ストロベリーを抱きかかえたグライドが、かすかな余裕の笑顔をたたえている。
 彼の持つ銃の口は、ストロベリーのこめかみに当てられている。
 この少女は今にも泣き出しそうな顔でおびえていたが、
トマトの微笑を見ると、すこし安心したらしい。
「社長」と消えそうな声で呼びかけて、あふれそうだった涙が止まった。
 ふむ、感動のご対面か、とグライドはトマトと目を合わせる。
「さて、社長さん。私の言いたいことは分かるわね?
さっさとこの船から出ていきなさい」
 この子は、ほとぼりが冷めたら、どこかの島に逃がしてあげるわ。
と彼は言いそえた。
 船は速度を落としているらしく、
風は彼らの髪の毛をなぶるように過ぎてゆく。
 グライドの言葉を受けて、トマトもまっすぐに彼を見つめて口を開く。
「私の言いたいことも分かるわね? その子を返しなさい」
 さもないと…どうなっても知らないわよ?
との言葉を聞いて、グライドは苦笑してストロベリーを抱く手に力をこめる。
 自分が傷つけられる、あるいは殺されるということを、
いつも覚悟していなければ、空賊なんてやっていられないのである。
「あなたって、勝手な人ねえ」
 と、彼は肩をすくめる。
「もとはといえば、あなたたちがいきなり攻めてきたんじゃないの。
それで自分たちが無傷で済むと思っていたの?」
 この理屈には、トマトも「その通りだ」と思うらしく、ウウムと苦笑する。



●あなたも驚くかしら?
 しかし、彼女は悩むことなく、すぐに言い返す。
「あなたも、勝手に人の物を奪っているじゃない。
それで、自分たちだけは無事に暮らせると思ったら大まちがいよ」
 グライドは、何か言い返そうとしたが、すぐに口をつぐんだ。
――ひょっとすると、この女は、
このことが言いたくて攻め込んできたのではないか?
 しばらくの沈黙のあと、彼は、やわらかい笑みをうかべた。
「私も、あなたも、両方とも勝手な人間のようね」
 トマトも、好意のある笑顔でうなずく。
「人間とは、もともとそういうものです」
 お互いに、敵意が薄れてきている。
 ストロベリーは、グライドの腕の中で、二人の交渉を、
かたずをのんで見まもっていた。
双方に、信頼が芽ばえかけている。
どんな形の結論が出るのか、予想できない。
 青白くすきとおった月光の中で、
雲が彼らを見おろしながら流れてゆく。
 最初に動いたのは、トマトであった。
彼女はストロベリーにちらりと目くばせをして、グライドに笑いかける。
「今回は、私の勝手を通してもらうわ」
 その、なんとも不敵な言葉に「あら、どうやって?」とグライドは警戒する。
「実は、はじめから、私の勝ちは決まってたのよ?」
 だってね…、とトマトの言葉がとぎれた、その時。
ストロベリーが、気を失ったようにガクリとグライドへ全身をあずけた。
 はっ、とグライドが腕の中の少女に目をやると、
その表情は、時間が止まったように目を閉じて固まっている。
急に、その口だけが動いた。
「ストロベリーは、私が操る人形なんだもの」
 女と少女の声が、完全に重なっている。まるで腹話術のようだ。
 驚いたグライドがトマトのほうを見やると、すでに彼女は姿を消していた。
彼女が両手に持っていた、ラッパ銃と袋だけが、その場にとり残されている。



●峠は越えました
 直後に、しなやかな白い手が、彼を背後から滑るような動きで抱きすくめた。
チロリ、と彼のうなじに、信じられないほどやわらかくて温かい舌が触れる。
 グライドは、全身が溶けてしまいそうな快感に腰がくだけてしまった。
 途端に、首すじを甘くかみつかれて、
心臓ごと血を吸い取られるような衝撃が走る!
 とろん、と星空を見あげたグライドの両ひざが、ガクリと鉄板をついて、
意識を失った彼の体は、バタリと全身を投げ出した。
 いつのまにかに、彼の背後に立っていたトマトが、
「ちょっと貧血になっていてもらうわね」
 と彼に話しかけて、くちびるからたれそうになった血を右の親指でぬぐう。
 彼女の左手は、正座のような格好で脱力しているストロベリーを支えていた。
 トマトが少女の名を呼んで「おつかれさま」とねぎらうと、
彼女はパチッと目を開いて、トマトの手を借りたまま立ち上がる。
「ああ、恐かったあ…」
 と、まだ震えている声で、ストロベリーは深くため息をついた。
 トマトは、少女の頭をやさしくなでる。
「これで、ひと区切りがついたわ」
 そう言いつつ、彼女は自分が出てきた出入り口の上のほうへウインクする。
ひさしの陰に隠れていたシタッパーたちが、ぎくりとする様子が伝わってきた。
彼らは、グライドとトマトの交渉がものわかれに終わった時に、
彼女を狙い撃ちしようと潜んでいたのである。
今は、思いがけない展開に、あっけにとられているらしい。
 それじゃあ、とトマトは話をきりかえる。
「あなたは、この人をしばって、適当なところに閉じ込めておいて」
 ストロベリーは、もう笑顔に戻ってうなずいた。
 さて、トマトたちはキンググライドン号を乗っ取ったわけであるが、
これから、何をするつもりなのか。
 トマトは、月の光によって作られた、自分の影に目をやって、指を鳴らす。
すると、その黒い闇の中から、グライドの形をした赤い影が立ち上がってくる。
 その体は、向こうが見えるほどに透けている。
 ちょっと血の量が足りなかったわね、とトマトはまゆをひそめた。
 さきほど、トマトが吸ったグライドの血が、この影の正体である。
 トマトの口紅にはディフレクターが混ぜてあって、
人の血を吸うとともに、
それを彼女の影に合成されたディフレクターへ送ることができる。
 そして、影に合成されたディフレクターは、送りこまれた血を分析して、
その血の持ち主のコピーを作りあげることができるのである。
「あなたは、これから、この船を全速力でファイサラーバード島へ向かわせて」
 とのトマトの言葉に、赤い影はだまってうなずくと、
船の中へ入りこんでいった。足音は、しない。
――さあ、あとは仕あげだけだ。
 と、トマトは、思いっきり背のびをした。



●準備のはずなのに雑談 ①
 キンググライドン号の時速は、最高で500kmをほこる。
その上にジェット気流をつかまえて、船は月を追いかけ続ける。
 ファイサラーバード島には4時間ほどで着くらしい。
どうやら、夜の色が濃いうちに間に合うようだ。
 トマトは1時間ほど眠ったあとで、
10匹のニャンギョを格納庫へ集めて訓練をはじめた。
彼らは蝶ネクタイをつけて、星の出る杖を右手に持つ。
どうやら、Vの字に隊を組んで、いっせいに星を発射する練習らしい。
 号令の直後に星がばらまかれる、その後ろで、
ストロベリーがケガをしたニャンギョたちを一匹ずつひざにのせて、
ちくちくと針でぬっている。
 ニャーミネーターは、すでに手あてを終えて、少女のとなりに座っていた。
あいかわらずの無表情な笑顔で、だまりこくっている。
 先ほどまでの騒ぎがウソのような、なごやかな時間である。
「いいこと? 5・4・3・2・1、ゼロで銃を空に撃つのよ?」
 トマトは、しんぼうづよくニャンギョたちに言い聞かせているが、
彼らは、まったくまとまらない。
 ああもう、どうしよう…、とトマトが顔をしかめていると、
彼女の背後から、ニャッハッハッと笑い声がひびいてきた。
 振りかえった彼女が、積み上げられたコンテナを見あげると、
そこにいたのはニャンギョエモンである。
 彼はクックッと含み笑いを続けている。
「ネコは群れを嫌うもんでござんす。ひとつにまとめようってのは無理な話で」
 あら、それを言うなら、とトマトもおどけて答える。
「サカナは群れをなして泳ぐじゃないの」
 それもそうでしたにゃ、と彼は笑いながら頭をかいた。
 すでにニャンギョたちは待ちくたびれて、じゃれあっている。
ストロベリーの振るネコジャラシに、むらがる者もいる。



●準備のはずなのに雑談 ②
「しかし、ややこしいのは人間ですにゃあ」
 と、ニャンギョエモンは誰に聞かせるともなく、つぶやく。
「孤独が好きな人もいれば、群れたがる人もいるんですもにょ」
 会って話してみなきゃ、その人の性格が分からない。
これは、めんどうくさいことでごにゃんす。と彼はふざけて困った顔をする。
 その意見に、トマトはチッチッと指を振った。
「人間はね、ひとつの決まった性格では生きていないの。
一生のうちに、その人の性格がどれほど変わるのか、
数えられたものじゃないわ」
「にゃるほど。人間とは気長に付き合わなきゃいけにゃい、
ということですにゃ?」
 現に、その時々の気分で行動が変わる人物が、
ニャンギョエモンの目の前にいる。
グライドなんかは、無理やりに気長に付き合わされている。
 そこまで話が進んだ時に、並ぶコンテナの奥にある出入り口から、
ブルーベリーが顔を出した。
「社長。準備が終わりました」
 おっ、ついに終わったか、という楽しそうな表情で、
トマトは「おつかれさま」と彼をねぎらう。
 さて、と彼女は手を叩いてニャンギョたちの注意をひくと、
「あとは、あなたたちの息を合わせるだけよ?」
 と気合をいれた。
 まずは、トマトたち三人が、手本を見せることとなった。
 はい、とニャンギョエモンが息をついて、声をはりあげる。
「右手あげて、右さげないで左あげる、左さげて、左あげないで右さげる!」
 ここでトマトが引っかかった。
ストロベリーは、最初から全くついてゆけない。
 はたして、彼女は本当にトマトの操り人形なのか。
はたまた、ブルーベリーは、どうなのか。
 読者の想像に、おまかせしよう。



●月もビックリするかもね
 さて、夜がふけて、月がわずかに下がりはじめた時刻に、
キンググライドン号は、いよいよファイサラーバード島に接近した。
 この太った鳥の正面に、黒い岩のような影が、
視界のほとんどを占めながら海に浮かんでいる。
 船は時速を30kmくらいに落として、高度も小さな山ほどに下げた。
――さあ、フィナーレだ。
 と、船内は、ひそやかに活気づく。
 白い月光が当たる、紺色の甲板のハッチを開けて、
トマトが10匹のニャンギョを連れて抜け出してきた。
位置としては、この鳥の背中の100cm砲を背おう形になる。
 鳥の後頭部に突き出たトサカに付いているプロペラが、
ゆるやかに風を起こしていて、トマトのスカートが吹き上がりそうになる。
はっと彼女は、それを左手でおさえた。
その手には、トランシーバーがにぎられている。
右手には、ラッパ銃を持っている。
肩にかついでいた袋は、船内に置いてきてある。
 トマトは、笑顔をおさえきれない様子で、
「全体~、進め!」
 と元気に号令をかけた。
 カッカッと足音をたてて、ニャンギョたちがV字の中心にトマトを囲んで、
甲板の上を船首へ向かってゆく。
 天気は、わずかな雲が月光をあびてキレイな、晴れ。
 空は、どこまでも夜で、海は、どこまでも銀色の波。
世界は、なんと広いのでしょう!
 トマトたちは、甲板の最前線に停止して、
あと10分ほどで着くはずの、ファイサラーバード島と向かい合う。
その港には、ひときわ高い塔があって、くるくると光を横に回転させている。
 トマトがトランシーバーに、
「みんな、位置についたわね?」
 と呼びかけると、ブルーベリーとストロベリーの「はいっ!」と、
ニャンギョたちの「ニャーッ!」が返ってきた。
 では、とトマトはトランシーバーの集音を最大の感度にして、
腰にひっかける。
そして、深く息を吸って、
「全体~、射撃の用意!」
 と声を夜空にひびかせる。
 ザッ、と、ニャンギョたちが高らかに杖を空へ差し向けた。
 これから、世の中をびっくりさせてやるのだ。
――なぜ、わざわざ、こんなことを…?
 と、理由が分からなくて、人々は首をかしげるかもしれない。
しかし、前にも書いたように、最初から理由などない。
ただのイタズラなのである。
 トマトは、生まれた時には何も知らなかった人間が、
知識と経験が増えるごとに、
理由を持たなければ行動できなくなってゆくことが、
たまらなく嫌なのかもしれない。
 トマトはラッパ銃を空へ向ける。
「私の気ままな大さわぎ! どうぞ許してくださいな!」
 5・4・3・2・1…、と秒よみが進んで、
「ゼロ!」
 と同時に、バアンと10個の星が夜空へ昇ってゆく!
それらを追った卵の弾が、昇りきったところで、
巨大なニャンギョの顔の花火になる!
 キンググライドン号の、いたるところに仕かけられていた花火が、
次々とうち出されて、ドカンドカンと夜空を花畑のようにいろどってゆく!
 カカオの特製の花火の「名花」――メイカである。
ひまわりのように広がる黄、ヤナギのように舞い降りる緑、
アジサイのように点滅する青、バラのように開く赤…。
 まるでハデな花さかじいさんのように、
キンググライドン号は夜空をサーカスの舞台にして飛んでゆく。




●ほんとにビックリした人々
 この、いきなり夜空でサーカスがはじまったかのような騒ぎを、
最初に目にしたのは、ファイサラーバード島の、港の塔の職員たちだった。
 その塔の、いちばん上の階は、全面がガラスで張られていて、
まわりを見わたすことができるようになっている。
 ディグアウターズギルドのファイサラーバード島の支部の長である、
ミハイル・ダイブは、数日後に入港するギルドの船についての打ち合わせで、
この階に来ていた。
 その打ち合わせが終わって、酒を飲みながら雑談していた最中に、
島の沖合いを走る漁船から、
「巨大な飛空艇が島に向かっている」
 という連絡が入ってきたわけである。
しかも、その形を聞いてみると、グライド一家の船らしい。
「まあた、やってきたがったのか?」
 と、職員たちと共に、ダイブも緊張した表情で窓の外を見まもっていた。
そこへ、いきなりの花火である。
まるで空に巨大なネオンサインが広がっているようだ。
――どういうことなのか?
 と彼らは首をかしげながらも、警察や市長への連絡にてんてこまいとなった。
 ダイブも、いざという時にそなえて、
ギルドの支部へ戦闘の準備を命じようとして電話をとる。
 巨人の足音のような、爆発のひびきの中で、
支部の番号を押している間も、彼の目は花火に釘づけになっていた。
 なんとまあ、これほど派手なものは見たことがない。
 もどかしい呼び出し音のあとで、ギルドの受付が出てきた、瞬間!
 キンググライドン号の砲が、塔のガラス窓をふるわせて発射された!
「うわあ!」と驚き屋の職員たちが飛びあがる!
 逃げろ逃げろ、との言葉が飛びかいはじめるが、
ダイブが「おいこら」と、どなって両手を振りあげて注目を集める。
「ありゃ礼砲だ!」
 砲というものは、発射してしまうと、次の弾を込めるまでに時間がかかる。
相手の領地に入る前に、船が砲をうつということは、
「私には、あなたたちを攻撃するつもりはありませんよ」
 という、あいさつなのである。
――なんで空賊が礼砲なんか撃つんだ?
 という疑問を浮かべる彼らをよそに、
キンググライドン号はちゃくちゃくと近づいてきていた。
 花火の中心に見える影は、
すでにつばさの角度がはっきりと分かるまでになっている。



●雪の降る街
 かたずをのむダイブたちの目の前を、
キンググライドン号がゆっくりと通りすぎてゆく。
ぴいん、と上に伸びているシッポが、案外にカワイイ。
町からは、わずかに西へずれた方向へ進んでいる。
 たえまなく花火は夜空に咲きつづけて、人々の目に焼きついた。
 いつのまにか、キンググライドン号から距離をとって、
テレビ局の飛空艇が並んで飛んでいた。
この飛空艇からのカメラで撮った映像は、
のちに世界中で、謎の大さわぎとして放送されることになる。
 トマトの狙いは、当たったわけだ。
 市の役所からの、警戒の放送が流れる街のそばへ、
キンググライドン号がさしかかった。
 その船の腹のあたりから、ちらちらと雪のように、
風に流されながら、なにかが舞い降りはじめる。
白いパラシュートを背おったニャンギョたちである。
 彼らは赤いリボンを首につけて、
愛きょうがいっぱいの笑顔で、街のいたるところに落ちてゆく。
それぞれのリボンには、手紙がそえてあって、
『ニャンギョを愛する、ファイサラーバード島の皆さんへ。
この子をかわいがってやってください』
 と書かれていて、裏には『おさわがせしてごめんなさい』とも書かれている。
 あまりのそうぞうしさに起きてきた子供たちは、
街角や、街灯の下で、じっと動かないぬいぐるみになったニャンギョたちと、
長い付き合いになる出会いをした。
 街の中心からは外れた、ひと気のない街路に降り立ったのは、
ニャンギョエモンとニャーミネーターである。
「いやはや、空の旅というのも、オツなもんでごにゃんしたな」
 と、ゆかいそうな顔で、ニャンギョエモンがパラシュートを脱ぐ。
ニャーミネーターは、その言葉は聞こえてはいるのだが、
うんともすんとも言わない。
 そんな彼のそぶりは気にとめずに、ニャンギョエモンは話を続ける。
「これから、お前さんはどうにゃさるおつもりで?」
 一本の外灯に照らされたニャーミネーターの全身には、
いくつものぬいあとが付いている。ススに汚れてもいる。
 彼は、ゆっくりと考えたあとで、つぶやいた。
「こんな姿の俺でも、大事にしてくれる人を待つニャ」
 ふむふむ、とニャンギョエモンは好意のある笑顔で、うなずく。
「きっと、すぐ見つかることでござあんしょう」
 私は、この冬でもマタタビのかぐわしい島を探して旅をしますわ。
文なしですが、まさかヌイグルミから運賃を取る船もございますまい。
と言い残して、ニャンギョエモンは街の路地の闇へと消えていった。
 とり残されたニャーミネーターが夜空を見あげると、
ちらちらとニャンギョの雪を降らせながら、キンググライドン号が、
街のはるかかなたに見える山へと向かってゆく姿が見えた。
 いつしか、花火は、やんでいる。
――つくってくれて、ありがとう。
 とニャーミネーターはつぶやいて、ポトリとあおむけに倒れて、
笑顔のまま動かなくなった。
 二時間のあとに、キンググライドン号は、
街の郊外の、山のふもとの草原に着陸した。
 リング警部がひきいる警官隊が、その船内に突入すると、
シタッパーたちは全てしばりあげられていた。
 グライドは、外からカギをかけられた部屋で、
ほうれん草のソテーを食べていた。血をつくるためである。
 トマトたちの姿は、消えていた。
 警察は、この船で何が起こったのかは分からないままに、
グライド一家を逮捕した。



●おしまい
 さあ、この物語の幕をおろすことにしよう。
 グライドが、ファイサラーバード島の刑務所に入れられてから、
数日が過ぎた、夜のことである。
 鉄ごうしがはめこまれた個室のかたすみで、
小さな窓からの月光をあびながら、彼はふとんをかぶって眠っている。
 トマトたちのイタズラを受けて混乱したあとに、
警察からの取り調べが続いているので、とにかく彼は疲れていた。
 何者かの気配が動いたのは、窓の下の、いちばんに影が濃い片すみだった。
すっ、と肌のきれいな女の手が影から抜け出してきて、
直後にトマトの全身が、そこから浮き出てきた。
その服装は、どこかの式に参加する時に着るような黒いスーツできめている。
 彼女は、ぬき足さし足でグライドの枕もとに回りこむと、かがみこんで、
ふとんの上から彼の肩をやさしくゆする。
 肩まで伸ばした黒髪がたれて、あわい外の光をなめらかに反射している。
「起きて」
 との言葉に、なによ、とグライドは寝ぼけてトマトの顔を見あげる。
とたんに飛びあがるように半身を起こした。
「あなた、どうしてここに…」
 グライドが言いきらないうちに、トマトはシーッと指を口に当てる。
「私のイタズラの後しまつをつけにきたの」
――刑務所に閉じ込められたまんまじゃあ、かわいそうじゃないか。
 ということである。
「身がわりは、連れてきてあるわ」
 彼女がパチット指を鳴らすと、部屋の片すみの影の中から、
もうひとりのグライドが抜け出てきた。トマトの特製の人形である。
「さあ、行きましょう」
 と、トマトはほほえみながらグライドの手を引く。
 もう、勝手にして、という力のぬけた顔で、彼はトマトにしたがった。
 二人は、トマトが出てきた影の中にもぐりこむ。
さまざまな地名がネオンサインのようにまわりを流れてゆく中を進むと、
急に視界がひらけて、とある場所に出た。
 どんな場所かというと、
あなたがいちばんにキレイだと感じる風景を想像してください。
そこです。
 二人の目の前には、三段の階段のような台の上に、
今までに、この物語に登場してきた人物たちが乗って待っていた。
「さあ、私たちは最後の列よ」
 と、トマトはグライドを連れて台にのぼる。
 いちばん前の列は、リング警部にウインド巡査。そしてニャンギョたち。
「もっと出番が欲しかったよなあ?」
 と警部がふざけて聞いて、巡査が苦笑しながらうなずく。
 ニャンギョやニャンギョエモン、ニャーミネーターたちは、
「ボクたちは、かわいかったですかニャ?」
 と、あなたに笑いかける。
 その列の後ろに、ブルーベリーとストロベリーが立っている。
「楽しかったねえ」
 とストロベリーがニコニコとブルーベリーに話しかける。
その瞳があまりにもキラキラしていたので、彼は「面白くなかった」と、
意地をはることができずに「う、うん」とうなずいた。
 さて、と場をまとめたのはトマトである。
「この物語を読んでくださった皆さん、ありがとうございました」
 その声と共に、一同が正面のあなたへ笑顔を向ける。
「至らない点がたくさんあったと思うのですが、
それはそれで楽しんでくださいな」
 と、トマトがあなたにウインクする。
おっ、強気に出たな、と警部たちが笑った。
「それでは、いよいよ、お別れです」
 ハイ、チーズ! という合図と共に、
カメラのフラッシュがみんなの笑顔を写して、この物語の終わりを告げた。