ロクノベ小説保管庫 第2章 第一次作戦開始(中編)

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V.S.クレッセント・グリズリー⑨
ゼットセイバー越しに伝わって来る、確かな感触に手応えを感じて、ゼロはセイバーを
引き抜いた。
と───
「こんの・・・・野郎ぉおおおっ!」
先程まで雷神撃で貫いていた辺りの壁が砕け飛んで、その中から進み出てきた
グリズリーが、ゼロに覆い被さるように両腕を大きく振りかぶった。
が、その勢いも空しく、グリズリーの爪は空を斬っていた。
グリズリーが気付いた頃には、ゼロは素早く後方に振り返ってダッシュしている。
直後、ゼロのバスターが光った。
「んぐわあああっ!」
直撃したゼロのチャージショットに一際大きい悲鳴をあげるグリズリー。
その後、辺りはチャージショットによって巻き上げられた砂塵やら破片やらで包まれ、
かなり見通しが悪くなっていた。グリズリーの姿はさっきの壁には見当たらなかった。
それはこの部屋内も同様である。
だがゼロはほぼ完璧に、相手の位置を予測していた。
(いくら何でも、同じ手は使ってこないはずだ。だとすれば、奴の次の攻撃は
 上からか下からかのどちらかだ。そのどちらかは、俺にも分からない。
 分からない・・・はずなんだが・・・)
ゼロは先程復活してからというもの、何か予感めいた不思議な感覚に目覚めていた。
グリズリーにやられるまでの戦闘データが、頭の中で細やかに、且つ迅速に
解析されていく。それら一連の行為は、まるで他人が勝手にやったものを電子頭脳に
勝手に送り込んできているようで、ひどく自分の考えだという実感が沸かなかった。
だからゼロは、それとは別の考えを同時に考えることが出来たのだ。
(何故だ?どうして俺は既に理解しているんだ!?)
顔には出ていないが、ゼロは確かに驚愕を覚えていた。
黙考している中、突然天井が崩壊する。
(何故俺は奴の次の出現位置が上だと分かったんだ?)
右手に握っていたゼットセイバーの刀身がが燃え滾り始め、両手で握り直す。
反射的に、彼の体は動いていた。
「──龍炎刃ッ!」
紅蓮の炎と化した剣を大きく振りかぶって──とは言うものの異常な速さで
上方に振り上げ──、崩れた天井から落ちてくるグリズリーの胸に袈裟懸けに、
爆ぜる刃が刻みつけた。

V.S.クレッセント・グリズリー⑩
「ごォああアあアアッ!」
もはや断末魔の悲鳴に近い金切り声をあげて、グリズリーは地に崩れ落ちた。
無様だな、と言わんばかりの凄絶な眼差しでゼロは倒れたままのグリズリーを見下ろし、告げる。
「復讐ってのは、過去の苦い思い出を引きずって、現在に目が向いていない者の生きる理由だ。
 だがそれは一瞬の光と同じ、はかない目的。そんな一時的にしか機能しない目的を理由にして生き、
 自分の存在意義を現在に見出せない愚者が、この俺を倒せるはずがない・・・」
いつも冷徹なゼロではある。このような挑発的なセリフは珍しいことではない。
が──今のゼロは、その雰囲気からしていつものゼロとは違う、何とも言えない残酷さをかもし出していた。
目は虚ろで、瞳孔は開いておらず、その体はどことなくフラフラしているが、攻撃を始める際には
俊敏で、的確で、且つ一撃必殺とも言える技を繰り出す。それはまるで魂の抜けた戦闘マシーンのようだ。
不気味に嘲笑し、ゼロはゼットセイバーを転がっているグリズリーに突きつける。
「どうした?あまりに完璧な俺の持論の前に、反論できないのか?」
言われてか、それともかろうじて力を振り絞ったのか、グリズリーが微動した。声を絞り出す。
「お・・・れ・・・は・・・・」
「俺は、何だって?」
顔を近づけて、ゼロはグリズリーの顔を吟味するように眺める。
と───
「俺は・・・てめえにとっちゃ・・・過去の存在にしかすぎなかったかも・・・しれねえが・・・」
突如グリズリーは、ゼロの右腕──ゼットセイバーの握られている右手を、右手で掴む。
そのまま腕を横にずらす。ゼロはボディがガラ空きの状態になった。
「俺はてめえの過去で終わる気なんざ、毛頭ねえっ!今度はてめえが俺の過去になる番だっ!!」
叫んで、ゼロの胸に自慢のドリルアームを突っ込ませた。既にドリル部分は回転し、ゼロを貫くには
十分な回転数だった。
「ひゃーはははは!死ねえーっ!」
残虐な罵声を浴びせて、グリズリー。が───ドリルの先端は、一ミリたりともゼロの装甲には
触れていなかった。寸前で、何かに阻まれている。それはゼロの空いた左手だった。
それも、先端に達するか達さないかのギリギリの位置でドリルを掴んでいるのだ。
こんな芸当、例えGAランクのハンターでも早々できるものではない───
グリズリーを嘲笑するような目つきで、ゼロは睨んだ。その異様な雰囲気に、グリズリーが
戦慄したのか、顔を怯えるようにしかめている。
「・・・お前の言うことは支離滅裂だな。お前が俺を過去の存在にしたいのであれば、何故復讐に
 執着する?それは自分を永遠に過去の存在であるのと認めるのと同義だ。自らを過去と認めている
 者が、現在をしっかりと見据えている者に勝てるとでも思っているのか?」
語気を強くする度ゼロは顔を近づけ、更にグリズリーを恐怖させた。言い返せなくなったのか、
それとも本気でゼロを畏怖しているのか───グリズリーはやけくそになって、声をあらげる。
「う・・うるせえぇぇっ!」
右手を振りかぶって、こちらに振り落として来るが、ゼロはそれを軽く飛び退く程度でかわし、
次の瞬間には、グリズリーの左手のドリルアームを斬り落としていた。


V.S.クレッセント・グリズリー⑪
「ぎゃあああああっ!」
「過去にしがみついて、それ以外は何も考えられない愚物ごときが、今度は俺が
過去になる番だと?冗談もたいがいにしろよ・・・」
冷たく言い放ち、更に先程ドリルアームを斬り落とした光波剣の先端で、もがき苦しむ
グリズリーの失った左目をえぐり込む───
「うギャろおおオオおオぅアアアアア!」
グリズリーは発狂したように悲鳴をあげ、ゼットセイバーのビーム部分を掴んで
引き抜こうとするが、所詮は無駄なあがきであった。ゼロは固くセイバーを握り締め、
今の位置から決して刃をずらそうとはしない。
「確かここだったな・・・お前が復讐にこだわる原因は・・・なら人思いに
 取り除いてやろう。ついでに脳髄まで貫いてやろうか?」
また、嘲笑。その都度、グリズリーの恐怖は膨れ上がっている。
復讐心などどこかへ消え失せていた。
今はただ、この悪魔から一刻も早く逃れたい。それだけが、グリズリーの心理を
支配していた。
意を決したグリズリーは、ゼットセイバーの刃を握り直すと、力任せに引き千切った。
無論、引き千切られたのはグリズリーの顔面片半分であったが。
「ぐ・・・うおおおおおぐぎゃはっ!」
気合を入れるためのかけ声は、途中で苦悶の混じったうめきに摩り替わった。
(電子頭脳が壊れることより顔面の故障の方を望んだか・・・)
そこまでして生に執着するグリズリーの気持ちなど、ゼロには全く理解できなかった。
ここまで致命傷を負わせれば、奴が自分に勝てる可能性は万に一つもない。
なら何故自ら死を選ばないのだ、とゼロは自問するが、出てきた答えは
単純なものだった。
(過去にしか目が向いていない者が、正常な判断などできるはずもないか・・・)
気がつくと、グリズリーはクローを振りかぶって、爪の先からクレッセントショットを
放っている。
が────ゼロは猛スピードで迫るエネルギーの粒を、縦薙ぎ、横薙ぎ、袈裟斬り、と色々な方法で斬り払っていた。こともなげに。
(・・・・何か俺、どんどん強くなってないか?)
おかしい。確実に、おかしい。
さっきまで自分は戦闘不能に追い込まれていたはずである。
それまでに負っていた傷による痛みが、再び起き上がった時には全く
気にならなくなっていた。傷は直っていないはずだが。
それ以上に、得体の知れない高揚感と戦闘に対する貪欲なまでの欲望が湧き出て、
自分の怪我を忘れてきってしまうほど増大しているのだ。


V.S.クレッセント・グリズリー⑫
(今、俺はこいつをいたぶることを・・・楽しんでいる?)
信じたくはなかった。少なくとも、これまでの一連の戦闘──数々の強敵達との戦闘では、
一度足りとも快楽を感じたことはなかった。
それがどうだ───今や自分は不気味な笑みと共にグリズリーを完膚なきまでにいたぶり続けていると
言うのに、それでもまだ飽き足らないと、自分の戦闘の本能が、相手の血と肉を欲しているのだ。
(では、飽きたら?)
考えるまでもなく、簡単に答えが出た。
遊び飽きたら、壊すだけのこと。まるで子供のおもちゃのように。
ゼロは斜め上前方に、大きく跳躍する。そのまま勢いを殺さずに、ゼットセイバーを構えたまま、
空中で連続で前転を始めた。
「うわああぁあアアぁああアアアア───」
この世のものとは思えない金切り声をあげ、グリズリーはメガ・クレッセントショットを放つ。
通常のものよりもふたまわり以上も巨大な衝撃波が次々とゼロを襲う。
が、ゼロと共に高速で円を描き続けるゼットセイバーの前に、その衝撃波は全て掻き消されていった。
「空えぇえええええええん───」
グリズリーの頭上近くまで接近し、彼は回転を止め──回転でつけた遠心力を無駄に
してはいない──、更に回転の勢いをサーベルの振りかぶりに上乗せして、叫びと共に
サーベルをグリズリーの顔面に食い込ませた。グリズリーの顔には恐れしか浮き出ておらず、
悲鳴すらもあげることはなかった。
「───斬・・・・・」
短く告げて、彼はゼットセイバーの電源を解除した。
彼が綺麗にグリズリーの前に着地するまでに、グリズリーの体は一刀両断に切断されていた。
二つに分かれた体を繋ぐものは、何もない。
安堵して、ゼロは刃のなくなった剣を背中に刺し込んだ。
何ともあっけない、クレッセント・グリズリーの最後・・・と思われたが。
「が・・・ひへ・・へへへへへへへ・・・・」
何もすることができないはずのグリズリーの口──真っ二つになったというのに──から、
聞く者が身震いするような、気色悪い笑い声が漏れ出した。
その光景にさすがのゼロも一驚を喫したのか、目をカッと見開いてグリズリーをただただ見つめていた。
「っへへ・・・・薄々こうなるんじゃねえかと思ってたが・・・まさか本当になるとは
 思わなかったな・・・・」
グリズリーの表情には、さっきまでのような恐怖の色は微塵もなかった。
コロコロと機嫌が変わる奴だな、とゼロは胸の内で罵ったが、そんなことを口に出す必要は
なかったため、やはりじっとグリズリーを睨んでいるしかなかった。
グリズリーは嘲るような目つきで、こちらをじーっと見ている。


V.S.クレッセント・グリズリー⑬
「死ってのは、直面すると全く恐怖を感じなくなるんだな・・・・
 いやいや、全く。だってよ、ホラ、俺斬り裂かれたってんのに、痛みも感じねえし、
 てめえに対する復讐心もどっかに消え失せちまったし。
 そんで俺は、再びてめえの過去になるって訳だ・・・・・けどな」
そこで、グリズリーの目線が殺気を帯びたものに変わった。だからと言って、
自分と一緒にゼロも死なせてやろうとかいう下劣なものではなかったが。
「忘れんなよ・・・・てめえは俺を含めた、過去になった者達の死に顔を背負って
 生きていくんだ・・・・その過去からは一生逃れられねえ。
 苦しいぞ、生きるってのはなあ・・・」
グリズリーはさも満足げに再び含み笑いした。その発言に思い当たる節が当然あって、
ゼロは自嘲した。
(過去を断ち切ることなどできない・・・そうだな。俺は過去に犯した罪を背負って
 生きていく、永遠の罪人だ。)
そう、罪人である。
親友──カーネルを殺し、更には恋人──アイリスまで殺めたとなれば、罪人以外の
何者でもないだろう。その罪を償うことなどできないが、少なくとも、この世界で彼らの業を背負って生きていかなければならないのが義務だと思っている。
それだけでは生きていく理由にはならないかもしれない。
しかし──しかし、彼にはこれしか道が残されていないのだ。
そんなことを黙考していたゼロにお構いなく、グリズリーは悦に入り出す。
「カカカ・・・俺は一足先にあの世へ行って、てめえが苦しむ姿を思う存分
 堪能させてもらうぜぇ・・・・
 キヒヒ・・・・ヒハーッハッハッハッハッハッハ────」
哄笑している最中にグリズリーの体は爆煙に包まれ、炎の中に消えていった。
その光景に対し無感情に背を向けたゼロは、爆光のみに照らし出される部屋を
歩きながら、
「堪能でも何でもしているがいいさ・・・俺は生きてやる。
 この世と言う名の地獄を、精一杯生きてやる。死んだら、カーネルやアイリスを
 殺した意味が無になってしまうからな・・・」
生きてきた意味がなくなってしまう────
グリズリーとて同じことだっただろうが────何にしろ、彼は当初の目的通り、
オリハルコンの回収へ向けて、目の前の重厚な扉をゆっくりとこじ開け始めた。


ファルコン・アーマー入手
グリズリーの武器倉庫は、思いのほかがらりとしていた。
照明もどこかで電線が切れたせいか、その効果を発揮していない。
ゼロは大きく嘆息して、独りごちた。
「どこもかしこも、大戦の影響で不景気だってことか・・・・」
大戦というのは無論、レプリフォース大戦も含めたこれまでの4度に渡る戦争のことである。
資源の不足で大手軍需産業が次々と倒産していく中、開発された製品は全て闇ルートに流れ込むため、
儲かっているのはグリズリーのようなパーツハンターばかりだと思っていたが、どうやらそうでも
ないようである。生活が苦しいのはどこだって同じなのだ。
「・・・?」
ふと、ゼロの碧玉の双眸に、見慣れない──と言っても一度も見たことがない訳ではないが──機械が
映った。
不自然に宙に浮いているUFO状の装置と、それとほぼ同じ形をした装置が地面に張り付いている。
その2つを線で結べば恐らく垂直に重なるだろう。
ぱっと見たところ、『カプセル』と呼ぶのが適切な装置だった。
「これは確か・・・・イレイズ事件の一件で・・・・」
あの事件の際、何故か自分に強化プログラムをセットしてくれた老人は、必ずこのマシンから
唐突に出現した。そもそも、このマシンが現れるタイミングこそが唐突なのだが。
謎が謎を呼ぶ、訳のわからないカプセル。エックスとは何度か面識があると言う、正体不明の老人が出現する装置。
考えれば考えるほど意味不明なのだが、熟慮を重ねたところでこのカプセルの正体が分かるはずもない。
ゼロが頭を引っかいて我に返ると、予想通り突如エメラルドグリーンの光のカーテンが
カプセルの周囲に引かれると同時、例の真っ白な老人がその幽霊のような容姿をあらわにした。
「・・・・久しぶりじゃな、ゼロ君」
今にも消えそうな外見とは裏腹に、老人は妙に魂のこもった声で告げる。
「また、貴方か・・・・」
自然に、ゼロは口調を丁寧語へと直していた。
普段は上官相手でも絶対に敬語など使わないゼロが、この老人相手だとこうなってしまう。
別に畏敬の念を抱いている訳ではないが、この老人と話す際にはこれが一番好ましい、とゼロは
考慮してしまうのだ。
「そんな、突き放すような言い方はしないでくれ・・・とは言っても、今回君に強化プログラムを
 用意してはいないが、な・・・・」
「それでは、何のためにここに?」
「もっともらしい質問じゃな・・・・用件は、これじゃ」
そう言って、老人はカプセルの端に寄ると、カプセルの中心にぼんやりとした映像を出した。
それは、ゼロも何度か見覚えのある───
「エックス専用の・・・強化アーマー?」


ファルコン・アーマー入手
形質はフォースアーマーより多少変化していたが、間違いなくそうであった。
「この設計図を君の電子頭脳へと送信する。後は・・・彼女、エイリアとか言ったな。
 彼女にこの設計図を解読してもらってから、開発を急いでくれ。頼んだぞ」
「・・・分かりました。それと・・・・・」
「?」
ゼロが何かを言いたそうに口をつぐむと、老人は怪訝そうに表情を歪める。
うつむいていたゼロは顔を上げ、
「俺から質問させてもらってもよろしいでしょうか?」
「?別に構わないが・・・・どうかしたのかね?」
なるたけセラピストのように、老人は接しようとした。
それに応じるように、ゼロは静かに疑問を打ち明ける。
「ええ・・・・思い返せば、レプリフォース大戦直前の頃からでしたね。
 あの夢を見るようになったのは・・・・」
「夢?こう言うのは失礼かもしれないが、レプリロイドがそんなものを見れるのかね?」
「分からない・・・・けど、あの日以来、休眠モードに入ると、毎回見るんです。
 あの・・・不気味な老人の夢を・・・・」
「不気味な・・・老人?」
更に老人は眉間のしわを増やす。思い当たる節があったのだろうか。
「彼は俺に、何かその・・・過剰なまでの希望をもって接してくるんです。
 あと、断片的にしか覚えてないんですが・・・・『最高傑作』『生きがい』
 『お前のやるべきことを忘れたのか』『アイツを殺せ』などと言ったような・・・・」
と、ゼロがしかめっ面で『夢』の内容を思い出しながら説明した。
まだまだ続くようだったが、その後の話を、老人はまともに聞いてはいなかった。
何故なら───老人は、彼自身が恐れていたものが今、現実になろうとしている
瀬戸際でないかと推測しているからだった。
(まさか・・・・ワイリーか!?)
確信した訳ではなかった。
が、恐らく間違い間違いはないだろう。旧世紀のマッドサイエンティストが、
今もなお過去を引きずって、つかないはずの決着に終止符を打とうとしているのだ。
彼はそのためなら、例え世界が滅んでも構わない。ただ自ら創造した『兵器』と
対決させ、勝てればいいのだ。
もっとも、そのことを目の前で悩んでいるゼロに話す気はなかった。
真実は、やはり彼のの手で見つけさせるべきだろう。


ファルコン・アーマー入手
「・・・・どうかしましたか?」
ようやく老人の動揺に気付いたゼロが、素っ頓狂な声をあげる。
なるべく平常を装いながら、老人は応対した。
「いや、何でもない。とにかく残念ながら、私はその謎の老人やらについては
 一切情報を持ち合わせていない。すまないな・・・・」
そう言って、老人は残念そうな顔になった。
一方ゼロは、しばらく座った目つきで老人を疑わしく睨みつけておたが、やがて表情をぱっと変えると、
「そうですか・・・・なら、俺の用はこれで終わりです」
「誠に、申し訳ない」
「貴方のせいではありませんよ。名も知らぬドクター」
とは言うものの、ゼロは彼の不審な言動を見逃してはいなかった。
先程浮かべた、あの驚きに満ちた顔つき。
あれは───
(あれは、何かを知っている者の表情だ)
胸中で断言すると、ゼロは次なる行動に移った。
「それでは、データを受け取りましょう」
「ありがとう。感謝する」
素直に老人は礼を言うと、ゼロをカプセルの中へ抱き寄せるようにして入らせた。

データを受け取った後、ゼロはオリハルコンを回収して、その場を引き上げた。
更に彼はハンター本部に、エックスの強化アーマーの設計図を転送し、次の任務へと向かった。
行き先は、タイダル・マッコイーンが愛するメキシコ湾である。


ダイナモ襲撃予告
エックスとゼロがエニグマの欠損部分の修復アイテムを回収する任務に出ている間、
イレギュラーハンター本部は謎の人物による襲撃予告の通信を傍受していた。
事態の発生はエックス達が出てから3日後のことだった。
午後4:41において、イレギュラーハンター本部の指令室にいたエイリアが、
突然立ち上がった。
「総監!所属不明の自称『傭兵』とかいうレプリロイドが、こちらに通信を
 望んでいます!」
いかにもオペレーターらしい口調で、エイリアは叫んだ。
コンピュータ・デスクに両手を目の前で組んで座っていた総監──シグナスが、
怪訝そうに眉間にしわを寄せる。
「映像を出せ。対話に臨もう」
「ラジャー。映像出します」
司令官のシグナスが言うと、エイリアはセリフの一部を復唱した。
言葉通り、のっぺりとしたクリスタルのモニターに映像が浮かぶ。
(それにしても・・・・傭兵だと?時代錯誤な・・・・)
傭兵。雇われ兵士。その日その日を運などの当てのないものに頼って、
戦場に生きる戦士。『昨日の敵は今日の友』とは逆で、報酬金額が高ければ
前の雇い主に対して寝返ることだって平気でやってのける白状者。
罵倒のしようは色々あるが、ともかく誰もがあまりいい印象を受けない職業である。
そんな旧石器時代じみた極めて非効率的な仕事は、とうの昔に滅びたものだとばかり
シグナスは思っていたが────
(どうやら、物好きはいつの世にも存在しているようだな・・・)
嘆息して、彼はやっとモニターを見ようとした。
が、その寸前、意味不明な音声が彼の耳に飛び込んで来た。
「ハロー。おっと、英語じゃ駄目か?ウェイウェイ?違うな。ブロント?ヨボセヨ?
 アッロウ?いやいや、モシモシ?意味、通じてるかなあ・・・・」
様々な言語で、日本で言うところの『もしもし』の意味を伝えようとしている。
モニターに映った男性レプリロイドは、とぼけたような男だった。
テンガロンハット状の頭部に、全体的に青を基調としたボディ。ただの阿呆のようで
いて、その実剣呑な雰囲気を漂わせている。唯一察することができるのは、
ただ者ではないといった所だった。
さっきより大きな溜め息をついて、ダグラスが英語で喋る。
「英語で結構だ。それより、何だね君は?所属と名前を聞かせてもらおうか」
険悪に、シグナスは男に言いつけた。

ダイナモ襲撃予告
男はダグラスの応答に安心したように顔をほころばせると、両目を覆っていた
スコープを収納し、
「そんな邪険にしなさんなって。人間、他人を信頼できなくなったら終わりだよ?」
ちっちっ、と右手の人差し指を目の前で振って、馬鹿にするような口調で男は答えた。
苛立ったシグナスは、なるべく平静を装いながら言った。
「ごたくはいい。何の用かと聞いているんだ」
こんな怪しむ態度でシグナスが応対するのは、男が不真面目なだけだからではない。
∑ウィルスで大混乱に陥っている地球圏において、機械という機械が正気を失わずに
いられるのは、最新鋭のウィルス防護設備を施した、このイレギュラーハンター
本部基地のみである。
したがって、通信を傍受できることどころか、このレプリロイドが外の空間で無事に
存在できること自体がもはや異常事態なのだ。
敵か、それともただの馬鹿か──昔から、馬鹿は風邪をひかないと言うし──、
シグナスはそう睨んでいた。
「おお、怖い怖い。まあ、自己紹介が遅れたのは事実だな。こりゃすいません、と」
と、男はいい加減に首を下げて反省の姿勢を見せる。だが常に浮かべている
その微笑だけは消えずに残っていた。
「僕はダイナモっちゅうもんです、ハイ。所属なんてナ~イ。見ての通り、
 流れの傭兵って奴さ。んで、目的が何かってーと・・・・」
そこで映像が、ダイナモが指差した方向に切り替わる。
モニターに映っていたものは紛れもない、ギガ粒子砲エニグマの、その姿だった。
「ずばり、アレの破壊!」
その瞬間、司令室にいた全員が戦慄した。
このダイナモと名乗る男は間違いなく────敵である。
が、思いの他ダイナモはコロっと表情を変えて、
「──と言いたいところだけど、僕としては襲撃する態勢が整ってないんだな~これが。
 ちゅー訳で、今回はその予告ってところだ。でもでも安心しちゃ駄目だよ~
 迷える子羊さん達。さっきも言ったけど、襲撃する態勢が整ったら容赦なく
 襲撃させてもらうからね。それも近日中に、だ。
 それまで首を洗って待ってるがいいさ」
悪戯っぽく笑うと、ダイナモは左手の手の平を顔前方に出して、バイバイの合図を
送った。更にダイナモは続ける。
「っとと、伝え忘れてた。あの有名なエックスとゼロはいますかね?
 まあいないならいないでいいんだけど、彼らの始末を頼まれたんで、
 彼らにそう伝えて下さいよ?それじゃ、See You!また会う日まで~!」
プツン、と映像が途切れた。画面が暗転し、その後元のクリスタルの色に戻る。
そのモニターをしばらく誰もが呆然と眺める中、シグナスは冷静に指令を下した。
「・・・非常に由々しき事態だ。だがこのたわけたテロリストに我々は屈服する訳には
 いかない。襲撃に備えて、警備中の各員は格納庫ブロックの警備に専念しろ。
 各オペレーターは外の索敵を怠るな。目標──ダイナモを発見した場合は即座に通報。
 見つかり次第、第1種戦闘態勢に入れ。以上だ。諸君らの健闘を祈る」
「りょ・・・・了解!」
シグナスの発言に最初は戸惑った通信士・オペレーターが、しばしして、
元気良く返事した。
しかし、それでシグナスが安心した訳ではなかった。
(頼りになるのは、恐らく彼ら二人だけだろうな・・・・)
彼らと言うのは言うまでもなくエックスとゼロの二人のことだが、とにかくこれで
3回目にもなる彼の嘆息は、今までにも増して、かなり重かった。