ロクノベ小説保管庫 RockmanX~Lumie´re Princesse~ chapitre2 禍々しき焔の罠

※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

1話
西暦21XX年、人間とレプリロイドが共存する世界。

史上最大のスペースコロニー「ユーラシア」を地球に落とそうとした悪の権化・シグマに
勝利し、イレギュラーハンターベースへと帰還したエイル、そしてエックス。
彼らは仲間たちと共に、未だ活動中のイレギュラーたちの対処に追われていた。
シグマウィルスが供給媒体のシグマ本人のいない今も地上に存在しており、
イレギュラー発生の主原因となっていたためである。
前回の一件で甚大さを極める被害を受けた地球は、安息を願う人々の努力によって、
何とか復興の兆しを見せ始めていた。特に都市部の立ち直りぶりは著しく、
工事用メカニロイドたちやボランティアの活躍で、既に半数以上の市民は
コロニー落下前の生活を取り戻しつつあった。イレギュラーハンターベースなどは
第一等優先建造物に指定され、他の建物を差し置いて真っ先に修復されたほどだ。
しかし、無数のコンピューターウィルスの一つにすぎないシグマウィルスが地球を
滅ぼしかけたことで、あれから2ヶ月たった現在も、人々の心に残された傷は
未だ癒されてはいない。おびただしい同胞を失ったショックの大きさのあまり、
それはいくら忘れようとしてもしつこく記憶にこびり付く。
いや、一人のイレギュラーの犯した過ちとして、忘れてはならない大惨事なのである。

このように社会不安が高まっている中、イレギュラーハンター上層部は
残ったコロニーの治安を強化すべく、引き続き現地にパトロール用隊員を派遣することを
決定した。世界各地に支部を持ち、自らの多大な負担を嫌う上層部が世間体を重視して、
渋々とった措置である。無論、本来コロニー警備を担うレプリフォースがその軍事力を
回復させるまで、という条件を付けてだが。
エイルとエックスは以前のように上層部に命じられることなく、今のところは地上での生活を
許可されている。これが組織の上に立つ者の、エイルたちに対する配慮であったかどうかは
定かではない。ともかく彼らは冷たい宇宙でではなく、消滅を免れた母なる大地で
暮らせることに安心していた。そして、二人が同じ土の上で共に生きられることを、
静かに喜んでもいた・・・・・

2話
その日仕事から帰ったエイルは、自分の部屋―――イレギュラーハンター本部所属第18機動部隊・
412号室―――で、今週参加した戦闘のレポート作りに勤しんでいた。室内は落ち着いた雰囲気を
醸し出しており、彼女が自分で描いた絵が飾ってある他は、机とベッドぐらいのすっきりした
内装である。私物が最小限に抑えられているこの部屋の窓からは、燃えるように輝く夕焼けが見える。
ふと、トントンとドアを叩く音が聞こえてきた。
「え~とエイルちゃん、入ってもいいかなぁ?」
「あ・・、どうぞ」
入ってきたのは、女所帯として知られる18部隊の隊長、ロールだ。DRN.002Sという
型番からも推察できるとおり、彼女は紛れもなく21世紀の伝説のロボット・ロックマンの妹である。
100年前とは容姿が大きく異なっており、人間でいえば18歳くらいに見えるが、
その瞳は兄と同じく強い正義感と優しさに満ちていた。また、エックスと同じく
イレギュラーハンター草創期より仕事をしている、エイルにとっていろいろな意味での先輩だ。
ハンターとして、レプリロイドとして、女として・・・・・・
「レポート当番だよね。どう、はかどってる?」
「はい、何とか。・・・でも、ちょっとエックスさんに手伝ってもらっちゃいました」
えへへ、という感じでぺろりと舌を出して見せるエイル。ロールは思わず呆れてしまった。
「え~、またぁ?・・・まいいわ。一応締め切りは今週いっぱいだから、遅れないようにきちんと
提出すること。以上、隊長の命令でした~!じゃ、用事あるから後でね」
「はい!」
目印のポニーテールを揺らしつつ小走りに駆けていく彼女を見送りながら、エイルから溜め息が一つ。
「はぁ~・・・」

3話
第17精鋭部隊・隊長室。18部隊の隊員たちが居を構える第4居住棟とは、渡り廊下を挟んで反対側に
位置している。エックスは青いアーマーの姿で、ケイン博士の日記を借覧していた。この日記には、
博士のDr.ライトの研究所跡の発掘、エックスの発見、初めてのレプリロイド開発から、
シグマが人類に反旗を翻した頃のことまでが綴られている。もうケイン博士からは「老いぼれの書いた日記が
そんなに面白いのか?」と呆れられるほど借りているが、読むたびに例えようのない懐かしさが
込み上げてくるのだ。
「思えば、長い道のりだった・・・・・・・沢山のイレギュラーを倒した・・・・・・・全て『正義』と
『平和』のために・・・・・・・俺たちがやってきたことは、本当に正しかったのか?」
暫し遠い過去に思いを馳せるエックス。しかし、その静寂は突然にして破られた。

ガラッ!!

何の予告もなく、いきなり扉が開かれる。自動ドアであるはずなのにわざわざ手で開けるような人物は・・・・
「誰だっ!?・・・何だ、ロールか。ちぇっ、いつもそうだけどノックぐらいしろよ。で、本日のご用件は?」
相変わらず自分に対してはぞんざいな彼女の態度に、エックスは少し舌打ちする。ロールとの幼馴染み的な
長い付き合いがそうさせているのは、彼自身承知しているのだが。
「気にしない気にしない。それより、ハンター会議もうすぐ始まるよ。ユーラシア騒動あってから最初の
会議だし、遅刻なんてことになったらカッコ悪いもん。行こっ!」
「そういえばそうだったな・・・・ってあと3分しかないじゃないか!!報告に使うフロッピーは・・・と。
おぉ、あったあった!教えてくれてサンキューな!」
「はいはい、どう致しまして~♪」

4話
一緒に会議室へと向かう途中、急ぎ足のままエックスはロールに話し掛けた。
「エイル、覚醒前より明るくなったと思うんだが、どうだ?」
「うん、変わったよね。自分の目的思い出したら、吹っ切れたってところかな」
「だろうな。再起動した後、ケイン博士から大体のことは聞いてる。覚醒といっても、
段階的にはまだ不完全らしい」
暫し間を置いたあと、今度はロールが尋ねてくる。
「あのときボロボロのエックスをベースまで運んできてくれたの、あの子なんだっけ?」
「ああ、エイルには感謝しきりさ」
「帰ってきたとき、大泣きしてたよ・・・・。きっとエックスのこと、大好きなんだね。
……私なんか、負けちゃいそうなくらい・・・・・・・・」
「そうか・・・・ん?最後の方、何て言ったんだ?よく聞き取れなかったが」
「ううん、聞こえなかったら聞こえなかったで結構。さ、ノロノロしてると間に合わないぞぉ!」
そう言った彼女が少し寂しそうな横顔を見せているのに、エックスは気づいてはいなかった・・・・・・

「ふぅぅ・・・出来たぁ・・・」
会議で宇宙に残されたユーラシアの残骸の事後処理について論議が行なわれている頃、
エイルはざっと30万字はあろうかという、膨大な量のレポートを完成させた。ここ一週間に交戦した
イレギュラーのデータと考察、戦闘場所周辺の被害状況、負傷者リストに至るまでが事細かに書かれた
報告書である。彼女が担当である週にはいつもエックスが作成の70%以上を引き受けているだけに、
ロールの指摘は痛い。普通なら後ろめたさが付きまとうところだが、大らかなロールのお蔭で
そういう行為にも慣れてしまっているのを思い出し、彼女は苦笑した。
「私・・・エイルになってからどうなっちゃったんだろう・・・・ねえ、アイリス・・・?」
今は近くにいない親友を思い浮かべ、何もない空間に向かって呼びかける。
レプリフォース大戦で散ったアイリスは、大破したカーネルと共にイレギュラーハンターに回収され、
ボディの修理が行われていた。カーネルの損傷が酷かったのに対し、軽傷のアイリスのレストアは
割とスムーズに進んでおり、あとはAIの再起動を待つのみとなっている。

5話
ちなみに、レプリフォースが度重なるシグマ戦役においてイレギュラーハンターに
協力を申し出ていたのに対し、ハンター側はその都度「内輪の恥を払拭するのに軍の力を借りるつもりはない」
と撥ね付けており、世間に知られていない実際の両者の関係はこじれていた。そしてシグマが
レプリフォース大戦を惹起した際、二つの組織の確執は最高点に達したのである。
それにも関わらずカーネル&アイリス兄妹をイレギュラーハンターが保護したのには、
エイルを始めとする一部の心優しきハンターたちの強い要望があった。
組織の末端である隊員たちの望みが叶ったのは、極めて異例のことだ。
上層部と各部隊を繋ぐアドバイザーとしてのケイン博士の計らいが功を奏した、
というのがその最たる理由とされている。
エイルは、修復中のアイリスたちを保管する研究ブロック・カプセルルームへ足を運んでみることにした。
ところが・・・・・・!
その部屋に彼らの姿はなかった。室内灯を点けてよく見回してみると、アイリスを収容しているはずの
カプセルが粉々に割られ、カーネルの記憶チップの入ったケースまでが奪われていたのだ!
そればかりか、カーネルのボディがまるでスクラップの如く無造作にコンソールのそばに放置されており、
侵入者に抵抗したと見られる研究部スタッフたちが、その周囲に骸となって倒れているではないか!!
(・・・・あぁっ・・・・・!!)
エイルは動力炉をもぎ取られたようなショックを受けて思わず目を覆い、やがて直感した。
アイリスを強奪した何者かは、カーネルの記憶チップを用いて彼女の力を目覚めさせ、己の目的に利用する
つもりである。レプリフォース大戦でアイリスがゼロとの戦いにおいて使用し、暴走してしまう原因となった
という、恐るべき滅びの力を・・・・・
(・・・ど、どうしよう、どうしよう・・・・!)

6話
もともとレプリフォース軍特別研究部によって「平和を愛する心と激しい闘争心をもつ究極のレプリロイド」として
計画されたカーネル&アイリス兄妹は、二つの人格プログラムが相容れぬため二つの体に分けて作られた、
という存在である。つまり、せめぎ合うこれらのプログラムを強引に統合させることで生み出される
「究極のレプリロイド」とは、既に証明されたとおり、非常に危険なものなのだ。
嫌な予感が暗雲の如く沸いてきて、胸が締め付けられそうになる。
(このままじゃ、アイリスが、エックスさんが、ロールさんが・・・みんなが危ない・・!!)
ピピピッ・・・ピピピッ・・・
「だから燃え残ったユーラシアの残骸を今破壊すると、その勢いでまたシグマウィルスがばらまかれちまう!
それだけは避けなくちゃならない。ん・・・・通信?」
熱弁を振るっていたエックスに、緊急コールが入った。
『たた、大変です!アイリスとカーネルさんが・・・・』
声の主はかなり取り乱している様子である。
「どうした、エイル!」
『それが・・・いなくなっちゃったんです!・・・だ、誰?あなたは・・・・きゃあああっ!!』
「何だ!?何があったんだ!?エイル!!」
エックスの呼び掛けも空しく、通信は彼女の悲鳴と同時に途絶してしまった。
「エイル!!応答してくれ、エイル!!ちっ・・・切れたか・・・・」
「ちょっと、エイルちゃんがどうしたの!?」
心配そうなロールが、隣の席からエックスを覗き込んでいる。
「わからない・・・だが、何かに襲われたみたいだな。アイリス・・・ということはエイルがいるのは・・・!
ロール、行くぞっ!!」
「うん、わかってる!!」
二人は弾かれたようにドアへダッシュした。
会議室に一気に広がる緊張。テーブルを囲んでいた他のメンバーも、彼らのやり取りから大体の状況を理解したらしい。
「わたくしたちは他にイレギュラーが侵入していないかどうか調べます!急いで下さい!」
第7空挺部隊のトップ・飛鳥を先頭に残りの者たちが慌しく部屋を出る。
いったい、エイルに何が起こっているのだろうか!?

7話
既に研究ブロックごと紅蓮の炎に包まれ、灼熱地獄と化しているカプセルルーム。この非常事態が
会議室に知らされなかったのは、火災を報知するセンサーも残らず壊されたためだ。
加えて光の球体に守られたカーネルのボディが、天井付近に浮遊している。
そして、肩で息をするエイルと、対峙する長身痩躯の男・・・・・
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・・も、もう一度聞きます・・・・・アイリスはどこにいるんですか・・・!?」
「何回も言わせないで下さい、マドモアゼル。そんなことを私がわざわざ白状するとでもお思いなのですか?
しつこくバリアを張っていられるのも今のうちですよ!」
「きゃあっ!!」
男の放った炎弾をまともに受けてしまい、彼女は壁際まで吹っ飛ばされてしまった。覚醒したとはいえ
まだ防御系の能力しか使用できないため、必然的に防戦一方になるのだ。しかし、そろそろ体力も限界に達してきている。
全く攻撃手段がないことを、戦いを嫌うエイルは初めて悔やんだ。
「そのカーネルと名乗る軍人の戦闘力はなかなかのものですがね・・・如何せん状態が状態であるだけに、
例の素体にするには不都合でした」
まだ当然ながら無傷の男に、エネルギー残量の少なくなった彼女はなす術もない。自分の周囲で赤々と燃え盛る炎のせいで、
相手が陽炎のように揺らめいて見える。

8話
その時、エックスとロールが駆けつけてきた。
「おいっ、大丈夫か!?ん・・・あいつの仕業か・・・・・!よし、ここからは俺たちの出番だ!ジェルシェイバー!!」
エックスの銃口から飛び出した、床を蛇の如く這い回る水柱によって、火が見る見るうちに消えていく。
煙が幾分なくなってきたところで、ロールは男を指差して言った。
「さぁて、これでやりやすくなったわね。エイルちゃんはいじめるわアイリスはさらうわで、どういうつもり?
同じ女の子として、も~許さないんだから!!って・・・、あんた誰だっけ?」
「ふん、お忘れですか?私は昔あなたたちにイレギュラー認定を受け追われていた、ブラズィエ・・・・・
今はアンチイレギュラーハンター『ブリュレ』の指揮官。その名のとおりあなたたちを葬るために、参上した次第です」
それを聞いて驚愕するエックスとロール。
「アンチイレギュラーハンター・・・・『ブリュレ』!?貴様、いつの間にそんなものを・・・!」
「な・・・何それ!?」
ブラズィエは第2次シグマ大戦の勃発する少し前から、レアメタルの闇取引で指名手配されているレプリロイドである。
逃亡してパートナーの女性・グラスや他の逃亡イレギュラーたちと共にブリュレを組織し、部下にしばしばハンターベースを
攻撃させていた。フランス出身らしいが本名は不明で、紅蓮の炎を自在に操るさまからこう呼ばれているのだ。
彼がエイルが造られるより前に既に姿を消していたため、エイルはブラズィエのことは全く知らない。
ただ、奴が悪人であることは先ほどから感覚的にわかっていた。

9話
彼はあくまでも紳士的態度を崩さず、
「復讐です・・・・・・あなたたちイレギュラーハンターに対してのねっ!」
再びこちらに向けて炎弾を発射した。しかし、
「そんなことさせないよ!!ハイパーロールブラスター!!」
ロールの撃った強力なエネルギー弾が、それをかき消して奴に迫る!
「くっ、用事も済みましたし、今回はここまでとしましょう! アデュー!!」
「ま、待ちなさ~~い!!卑怯者~~~っ!!」
彼女の叫びを振り切り、ブラズィエはテレポート能力で逃走してしまった。奴のいた空間を空しくすり抜けるエネルギー弾。
そして、悔しがるエックス。
「くそっ・・・、貴様らブリュレの野望は、俺たちイレギュラーハンターが根こそぎ叩き潰す!!・・・・ん?」
「うぅっ・・・・うぅっ・・・・」
ふと聞こえてきたか細い声のするほうへ目をやると、誰かがすすり泣いている。
エイルである。止め処なく溢れ、頬を伝い落ちる涙・・・。
「私たちが憎いのなら・・・・・どうして・・・どうしてアイリスを巻き込むの・・・・・・・・」
あまりのやり切れなさに、エックスもロールも彼女に慰めの言葉をかけることは出来なかった・・・・。

重い気持ちを引きずったまま、司令室に着いたエイル、エックス、ロールの3人。
だが、そこでは既にベース内の見回りから戻っていた第8機甲部隊隊長アルミュール・パンゴランが、
同じように肩を落としていた。こちらに気づき、力なく振り向いて言う。
「エイル、こっちは例のグラスとかいう女にケイン博士をさらわれちまった・・・・。すまん、俺たちが力不足なばっかりに・・・・」
ただでさえ落ち込んでいるエイルは、それを聞いた途端へなへなと座り込んでしまった。
「!・・そ・・・そんな・・・・・お父さん・・・・」

10話
「・・ちっ、ちきしょうっ!!奴ら、絶対に許さんっ!!」
怒り心頭のエックスであるが、ブラズィエとグラスがどこへ姿をくらませたのかという、最も肝心なことがわからずに苛立っていた。また顔見知り
のアイリスに加えて、自分を過去の封印から発見してくれたケイン博士までも、以前取り逃がしたイレギュラーにことごとく拉致されたわけだ。彼
の悔恨の念は察するに余りある。ロールは、これから彼らがとると思われる行動について考えてみた。
「アイリス・・・カーネルの記憶チップ・・・敵の手の中でこれが揃ったら引き起こすことは決まってる。たぶん、あいつらはアイリスがまた暴走
しないように制御プログラムを解析しようと思って、博士をさらってっちゃったんだよ・・・」
何という強引、かつ理不尽な方法であろうか?ハンターへの復讐という目的のためならば、まるで手段を選ばないブリュレ。まさに、悪魔である。
暫く、誰も何も言わぬ時が続き・・・・・・・・・・・
気まずい沈黙を破ったのは、エイルだった。
「あの・・・・、どこにアイリスが連れて行かれたのか、トレースしてみます。そうすれば、敵が潜伏している場所もわかるはずです。
私、絶対にアイリスとお父さんを助けに行きたいんだもの・・・!!」
まだ涙混じりではあるが、その声には決意が感じられる。
「そう・・・お願い、エイルちゃん!」
「頼む、エイル・・・」
エックスもロールも、今は彼女にすがるしかなかったのであった。

程なくして、ブリュレの要塞の位置が割り出される。
ポイントK-278。
偶然にも、そこは旧レプリフォースの宇宙港があった場所だった。ライドチェイサーを使えば、40分ぐらいで辿り着けるだろう。
外は宵闇に塗りつぶされ、イレギュラーの発生しやすい時間帯に入ったことを伝えているが、もたもたしている暇はない。
ロールは既に出撃準備を整えている。エックスの操るアディオンの後ろに乗せてもらい、エイルはアイリス・ケイン博士の救出及び
カーネルの記憶チップの奪回に向かった。

11話
しかし・・・・
現地に着いた3人は茫然とした。
ブリュレの根城とは、全長80メートルはあろうかという、巨大な機動戦艦だったのだ!月光に照らされて輝く紅の船体は、
空気を切り裂く鋭い剣先をイメージさせる。更に艦の側面には、「Flamme Sabre(フラムサーブル)」と書かれた
白銀の文字が。おそらく、ブラズィエが以前レアメタル関係の裏ビジネスで私腹を肥やし、造り上げたものに違いない。
「何てでかい船なんだ・・・・よし、最大出力で突入するぞっ!!」
「きゃっ!!」
車体にかかる強力なGで、危うくエイルは振り落とされそうになった。思わずエックスの背中にしがみつく。
「こら~、抱きつかれてる幸せ者!!可愛い後輩には優しくしなきゃダメでしょ~が!!やっぱ私がエイルちゃんを乗っけるべきだよ~!」
エックスの荒い運転に怒ったロールが、さも自分のことのように彼を叱り付けた。もっともエックスのアディオンに乗るのは、
他ならぬエイル本人が希望したことなのだが・・・・
「す、すまん!大丈夫か、エイル!?落ちてないよな!?」
そう言って慌てるのを見る限り、彼はどうやら完全にロールの尻に敷かれてしまっているらしい。
「うふふふふっ・・・・・カッコ悪いですよ、エックスさん」
表情の冴えないエイルに、一時的に笑みが戻った。

艦橋左舷・第3ハッチ。
そこだけが開いたままになっていたため、潜入は容易だった。最も頻繁に使われるカタパルトらしく、あちこちに出撃時に付着した火花による
焦げ跡が残っている。
進んでいくと、すぐに大量のイレギュラーたちが3人を迎えた。ブリュレという組織の性質上、エックスやロールの見覚えのある奴が多い。
嘗てハンターの前から忽然と姿を消した者、致命傷を与えたにも関わらず逃亡した者・・・・・・
「侵入者ヲ発見!速ヤカニ撃破セヨ!!」
口々にそう唱える彼らの両眼は、誰か―――おそらく、ブラズィエ―――に操られているように見える。虚ろで焦点がまるで合っておらず、
とても「生きている」目であるとは言えないだろう。

12話
「やっぱり戦わないわけにはいかないか・・・・・」
「・・・・・・この人たちの他に、廊下の向こうにも、無数のシグマウィルスの反応を感じます!」
覚悟していたとおり数だけは多い連中だが、それでも怯むことなく、エイルたちは戦闘体勢に入った。
「えっと・・・エ、エイル・レイヨン!!」
始めにエイルが光の壁を張ってイレギュラーの進路をふさいだ後、
「以前戦ってる連中だから負けないよっ!ロールバスター!!」
ロールが卓越した運動性能で相手を翻弄しつつダメージを与え、
「かといって油断するんじゃないぞ!食らえっ!!」
そしてエックスが突破口を開くこの戦法は、今では三人揃っているときの常套手段となっている。
約40秒後、哀れな烏合の衆は一人残らず、あっけなく床に転がった。もう動かない。
慈愛に満ちた瞳でそれを見るエイル・・・・・。
「本当にごめんなさい・・・・・これが終わったら、お父さんに直してくれるように頼んでおきますから・・・」
レプリロイドはコアとなる頭脳チップが無傷であれば、基本的に何度でも復活できる。
エックスも無論、コアを狙わないようにしてイレギュラーたちを撃ち抜いていたのだ。
「そうだね・・・・本当に憎いのは、ウィルスだもんね・・・・」
「ああ・・・・・・・いつかこいつらも、更正の道を歩いていくだろうな・・・・・・」
優しく彼女の両肩に置かれる、二つの手。
見事に息の合ったコンビネーションが、三人のダイヤより固い絆を証明したのである。
そう、大切なものを無事取り戻したいという、同じ思いを・・・・
13話
その後、入り組んだ通路を進み、行く手を阻むイレギュラーたちとの交戦を経て、エイルたちはコマンダールームに
到達した。壁という壁からおびただしい制御装置が顔を覗かせている様は、この船のコントロールの難しさを
物語っているのだろう。そしてブラズィエが中央のデスクに足を投げ出し、堂々と椅子に座っている。
「ようこそ、崇高なる我らの戦艦・フラムサーブルへ。やはり早いですね・・・流石はあのシグマを倒した
レプリロイドのなせる技、といったところでしょうか?」
さほど戸惑いも見せず、彼は言った。その隣にいる冷酷そうな女性は・・・・グラスである。軽量化した紫色の鎧に
身を包み、手にはとぐろを巻かせた鞭を携えていた。白いロングのくせっ毛をなびかせ高慢そうな双眸を光らせるその姿は、
パートナーと同じく、とても好感の持てるものではない。
「へぇ、あんだけいたのを残らず鉄クズにしちゃうとはね。恐い恐いっと・・・・・
ま、破竹の勢いってやつもここで終わりさ!」
「言ってくれるじゃないの、年増女。今度こそお縄についてもらうとしますか」
ロールも負けじと言い返した。こういうシチュエーションには、これまで幾度も相対している両者とも慣れている。
「いったいどういうつもりで、ハンターに対抗するためのこんな組織を作ったんだ!?復讐というなら民間人を
巻き込まずに、直接俺たちを狙えばいいだろう!?罪なき人々をこれ以上犠牲にはさせん!!」
掛け合いにエックスも加わる。が、
「私の眼中に人間の姿などないのです。イレギュラーハンターを潰し次第、レプリフォースの拠点の攻略にかかろうと
思っていますがね・・・・・・・いずれ世界は我らが手中に収まる!!」
予想以上に肥大化しているブラズィエの野望に、エイルたちは一層驚いた。
「!!・・・・・・・・なんてことを・・・・・・・」
もはや、この醜いまでに支配欲の虜になった者に正義を説いても、馬耳東風だろう。そして・・・・・

14話
「・・・・それでは過去の恨みを晴らさせていただきます!いきますよ、グラス!!」
「わかってるさ!ふふふ・・・・・黄泉の世界に送ってやるから覚悟しなっ!!」
そう言うとすぐ、二人は襲い掛かってきた。
一直線に突っ込んできたグラスが鞭をしならせ、エックスにからみつかせようとするが、
「おっと当たるか!貴様ら、アイリスとケイン博士をどこへやった!?」
既にパターンを知っている彼は難なくかわした。奴の攻撃が、宙を舞うエックスの足の下をなぎ払う。
同時に床の一部が抉り取られてなくなった。
「何度聞こうが我々に答える義務はありません。フランベ・トゥルビヨンで焼き尽くして差し上げましょう!」
言いながら、ブラズィエはロールの周りに炎の渦を発生させた。飛行能力を持たない、彼女の弱点をついているのだ。
更に渦は高く燃え上がり、触れることも叶わぬ灼熱の壁と化した。
「うっ、こっちを動けなくする気ね・・・・だけど、これならどうかな~!バブルスプラッシュ!!」
ロールの発射した泡が火を消しかけたとき、頭上から氷エネルギーを纏った鞭の雨「ジュレ・プリュイ」が!
「調子に乗るなっ!そらそらそらそらっ!!」
「きゃぁぁぁぁっ!!んも~、前からそうだけどさ、二人一組ってずるいってば!!」
よけきれず、ロールは激しいグラスの攻撃にさらされてしまう。
「おやおや、その程度ですか?もう少し粘ってもらわないと」
その雨をものともせず、突進してきたブラズィエが大剣を振りかざして彼女の胸にかすり傷をつけた。痛みに顔を歪ませる。
見ると、斬撃を受けた彼女のアーマーは、かすり傷どころか、バターのようにざっくりと切り裂かれているではないか。
「いやぁっ!!え、えっちぃ・・・・・」
顔を赤く染めて仰天するロール。それもそのはず、装甲の傷口から彼女の胸元が覗いているからだ。

15話
「い・・・・いい加減観念したらどうだ?俺たちハンターは、令状なしでいつでも貴様らを御用にできるんだからな!」
そのロールの傷を見てしまい一瞬動きの止まったエックスだが、すぐに気を引き締めると、エックスバスターの銃口をグラスへと
向けた。無数の弾が発射される。
「うっ、ぅあああぁぁぁぁぁっ!!・・・・ちっ・・・・・そううまくいくと思ってるのかい?こっちには究極のレプリロイドっつう
強~い後ろ楯があるんだからねっ!あれが立ちあがりゃ、お前たちなんざ蟻地獄に飛び込む蟻も同然さ!!」
それを聞いたエイルは、はっとした。アイリスはまだ敵の手にあるのだ。連中を追い詰めれば戦闘形態のアイリスが召喚され、
本人の意思とは関係なく自分を攻撃してくるのではないか。そうなるとエイルのみならず、エックスやロールも
無事では済まなくなるだろう。取り返しのつかぬ事態を恐れ、頭が激しく混乱する。
(だめ・・・・・・・だめよ、今はこんなこと想像してる場合じゃないのに・・・・・!)
しかし、彼女は考え直した。それならば、敵を光の糸で地面に縫い付けておけば良い。エネルギーを充填し、すっと右腕をかざす。
「は、早く、アイリスと父を返してください!スュペルブ・エイル・レイヨン!!」
イレギュラーを浄化する、巨大なオーロラ。たった独りでブラズィエを相手にしたときとは違い、
幾分技がパワーアップしているようだ。一番最後にシグマと戦った、あの時と同じように。
「な、何のつもりですか・・・・・!?・・・・これはっ・・・・か、体が・・・・・動かない・・・・!」
流石に、こればかりは敵も対抗の術を持っていない。自らの活力源としている大量のシグマウィルスを消され、
一切の行動を封じられているのである。だがその時、
「くっ、あのちっこいアマっ子の仕業だよ!くだらない芸当を・・・・フリゴリフィック・ランセ!」
苦し紛れに振りかざしたグラスの鞭が、鋭い氷の槍に姿を変えてエイルの胸に!
「ああぁっ!!」
「エイル――――――――っ!!」

16話
「危ないっ!!」

その時謎の声と同時に、エックスの眼前を紫色の巨大なビームが通り過ぎ、
「っ!?そ、そんな馬鹿なっ、うわあああぁぁぁぁぁ・・・・・・・・」
ブラズィエ、そしてグラスを飲み込んでいった。
果たして、何が起こったのだろうか?
暫くして、エイルたちの目の前に現れたのは・・・・
放ったビームと同じ紫色をしたレプリフォース用ライドアーマー。が、パイロットのいるはずの操縦席には、
シートの代わりにV字形のヘッドユニットと思しきものが付いている上、背部バックパックに2枚のウイングが装備されている。
ライドアーマーと言うよりは、自律行動可能なロボット、とした方が正しいだろう。
「な・・・・何・・・?」
困惑するエイルだが、先ほどの声にはどこか懐かしさがあった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・・・・・・随分心配かけさせちゃったね。ごめんなさい、エリー」
「その声・・・・ア・・アイリス!?」
無論、エックスとロールも驚かずにはいられない。
「何だって!?」
「こんなゴツゴツしたのが・・・・アイリスなのぉ!?」
そう、このライドアーマーに似たレプリロイドこそ、カーネルの記憶チップで戦闘モードに変身したアイリスなのだ。しかしとてつもなく
危険な形態をとっていながら、アイリスは平静を保っているではないか。まして暴走する気配など、全くない。
死んだ先輩・ゼロから聞いていたこととあまりにも目の前の現実が一致しないため、エイルは思わず声をかける。
「再起動したんだ・・・・・よかった・・・・・。でも、でもどうして大丈夫なの?プログラムに支障が出たら、
また暴走しちゃうかもしれないのよ!?」
「平気。あの時は兄さんの仇をとることしか考えてなかったから・・・いけなかったけど・・・・・・・今はエリーやエックスさんたちを
助けたいっていう気持ちがあったから・・・、だから使いこなせたの。この力が・・・・」
「ううん、それでもだめ・・・優しいあなたがイレギュラーを撃つなんて。またアイリスに何かあったら、私・・・・!」
「・・・・エリー・・・・・・」

17話

それきりエイルは変わり果てた彼女の胸に顔を押さえつけ、泣きじゃくる。
「あのね・・・アイリス・・・・私もうエリーじゃなくて、エイルになったから・・・・」
「わかった。エイル・・・・・・・これでいいのね?」
「うん・・・・・うん・・・・・・・」
まだ頭の中が散らかったエックスとロールも、
「よかったね、エイルちゃん・・・・」
「ああ、本当に・・・よかった」
しっかりと抱き合う二人を微笑んで見守っていた・・・・・が、そこにいきなり、
「おぉぉぉぉ~~~~~~い、ワシを忘れるなぁぁぁぁ~~~~~~~~~っ!!」
雰囲気をぶち破るが如く、しわがれた声がすっ飛んできた。
「へ?」
見ると、向こうから青い服に身を包んだ老人が、杖を片手によたよた駆けてくる。
いったい誰かと思いきや・・・・・
「ケイン博士!!」
「お父さん!!無事だったの!?」
嬉しさと驚きの入り混じった表情の一同。
「ひどいのぉ~。アイリスが『エリーが近くに来てる!』とか言って、ワシをほっぽりだしていってしまったんじゃ。
まったく老体に無理をさせおって・・・・・」
「ご、ごめんなさい!あのときはつ、つい夢中になっていたもので・・・」
平謝りに謝るアイリスにロールが尋ねた。
「アイリスってさ、えらく長い間グースカ寝てたじゃない?どうやって再起動したわけ?」
「はい、連れてこられたケイン博士に、敵がいない間を見計らって電源を入れてもらったんですよ」
どうやら、理由は敵の計算ミスだったらしい。そこに博士が口をはさむ。
「おぅ、勝手に動き出すまで待っとらんといかん状態のAIをむりやり叩き起こしたんじゃ。
うむうむ、どれだけ難儀したことやら・・・・。どうじゃ見たかぁ、ワシの自慢の科学力を!」
得意そうに胸を張るケイン博士と、無言のエイルたち。ふと隙間風の音が聞こえてきたのは、気のせいだろうか・・・・

18話
「とりあえずこのフラムサーブルの動力系統を操作して、地上に戻ろう。そうしたら改めて船内を調査、
ブリュレの持っていた財産を押収する」
エックスがそう言った時であった。
「・・・・っ!? アイリス、後ろっ!!」
不意に、彼女を巨大な灼熱弾が襲ったのだ!!
「きゃああああああ――――――――っっ!!!」
「アイリスっ!!」
紫色の装甲が砕け散り、飛び出した生身のアイリスを、エイルは辛うじて受け止める。
「新手の敵か!?みんな気をつけろっ!!・・・・・・なっ・・・あれは・・・・・・・そんなバカなっ!!?」
反射的に前に出たエックスが見たもの・・・・
「くそっ、ファラオショットじゃ威力が足りなかったな、アーマーを壊しただけなんて・・・
やっぱり、バスターでなきゃダメか」
ロールはその姿を見て一瞬目を疑ったが、やがて愕然とした。
動力炉の鼓動が急速に高鳴り、胸の奥が熱くなる。
「やっと見つけたよ、ロール・・・・さぁ、そこにいるレプリロイドを倒して、ボクと一緒にここから逃げよう!」
青と水色のボディ、丸いヘルメット・・・。
まさしくそのロボットは・・・・!
「嘘・・・ロ、ロッ・・ク・・マ・・・ン・・・・・・・・・」


それは、我々の未来を双肩で支える者の宿命か。
果たして、この愚かな戦いを、誰が予期していたであろうか。
歴史に名を残す英雄同士の、まさに驚天動地の激突、ロックマンX対ロックマン!!
互いの信じる「正義」をぶつけ合い、地球の真の守護神となるのはいったいどっちだ!?
そしてロックマンと袂を分かつロール、いきり立つエックスを守ろうとするエイルの運命は!?
次回、RockmanX ~Lumie´re Princesse~ chapitre3「正義の悪戯」。
「皆さん、私・・・・いきます。見ていてくださいね」