ロクノベ小説保管庫 RockmanX~Lumie´re Princesse~ chapitre4 消えぬわだかまり

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1話
西暦21XX年。人間とレプリロイドが共存する時代。

全レプリロイドを地球上から消そうと目論んだロックマンを苦悩の末に倒し、
イレギュラーハンターベースへと帰還したエイル。
犯罪組織ブリュレの戦艦・フラムサーブル内で無事救出されたアイリス、ケイン博士。
そしてロックマンの手で、戦闘不能に追い込まれたエックスとロール。
過激な思想を持つに至ったロックマンに関して、彼らが受けた衝撃は計り知れなかった。
殊にロールは、今のところエックス同様会話のこなせる状態にこそないものの、
たとえ復活しても、ショックのあまりしばらくは口を聞けないに違いない。

果たして、あのロックマンの暴走という前代未聞の大事件は、如何にして
引き起こされたのであろうか?
ロックマンとの交戦についてケイン博士が提出した資料をもとに、ハンター上層部は
暴走原因の究明に乗り出していた。敵が旧世紀の産物であるにも関わらず、
無限に使用可能と思われる特殊武器を駆使し、こちらの攻撃をいとも簡単に
無効化したこと。エックス、ひいてはレプリロイドに対する過剰なまでの嫌悪感を
もっていたこと。目的のためには手段を選ぼうとせず、妹のロールまで手にかけたこと。
22世紀に存在していること。謎を挙げればキリがないだろう。
しかし、戦闘が行なわれたフラムサーブルをどれだけスキャンしても、
有力な手がかりとなるようなものは何一つなかったのである。とりあえずケイン博士は
艦内で倒れていたイレギュラーを回収し、AIボックスを始めとする回路を綿密に
調べることにした。それでも解決の糸口は見つからず、現在では調査は打ち切られ、
カーネルのレストアが引き続いて行なわれている。

システムの復旧したカプセルルームで、エイルとアイリスは、ケイン博士の進める
カーネルの修復を見守っていた。ロックマンとの戦いで深手を負ったエックスも、
同じく傷ついたロールと共に、カーネルの隣のカプセルで治療を受けている。
それにあたり、イレギュラーハンターの医療チーム、ライフセーバーたちも
協力してくれていた。

2話
部屋は、マスクをして作業を続けているケイン博士を見てもわかるように、
メカの関節の動きを滑らかにするグリスの匂いが、先ほどから鼻を突いている。
そして吹き抜けのある二層構造になっており、
エイルたちはその上の階にいるのである(当然ここにも臭気は漂ってくるわけだが、
なぜかエイルもアイリスもあまり気にしていない)。
眼下に見えるアイリスの兄を憐れむように、エイルがつぶやく。
「カーネルさん・・・・・・かわいそうに・・・・・・・・
シグマが引き起こしたレプリフォース大戦に巻き込まれなきゃ、こんなことは・・・・」
「・・・・・・。でも、もう記憶チップのセットも終わったみたいだし、
兄さんもじきに再起動してくれるはずよ。私、また兄さんに会え・・・・・あ、ごめん。
何でもないわ」
アイリスはエイルの気持ちを察したのだろう。それ以上兄について触れようとは
しなかった。
「うん・・・・」
「レプリフォース大戦と言えばエイル、ゼロはどうしてるのかしら?」
「えっ・・・・・・!?そ、それは・・・・・・・・・・・・」
口に出せるわけがない。胸が締め付けられるが、ここで本当のことを伝えなければ、
結果的にアイリスを不幸にしてしまうだろう。
勇気を出し、絞り出すように彼女は言ったが・・・・
「あ、あの・・・・・ゼ、ゼロさんは・・・・・・・・ゼロさんは、
ユーラシア騒動のさなかに・・・・・私たちの手の届かない、
遠い所へいっちゃったの・・・・・・・・」
涙でくしゃくしゃになるアイリスの顔を見ると、やはり後悔の念に苛まれてしまった。
「・・・・っ!!そんな・・・・・・・・・あんなに優しい人だったのに・・・・・・・
あぁぁぁぁぁっ・・・・・・・」
聞いた途端泣き崩れるアイリス。
「ごめんなさい・・・・・・・うぅぅっ・・・・ごめんなさい・・・・・・・・・・
こんなこと言って・・・・・・・」
アイリスは、エイルたちがあの時ゼロを見殺しにしたものだと
誤解しているかもしれない。しかし、次に彼女が漏らした台詞は意外なものだった。
「・・・・・・ううん、気にしないで・・・・・・もしゼロが生きてるなんて嘘を
信じてても、自分の幸せは掴み取れないから。・・・・私、これからのこと考えなくちゃ
いけないのよね・・・・・・・。このままじゃ、いけないんだもんね・・・・・・・」
しきりに頭を横に振っているが、本当に諦めがついたのだろうか?
いや、思い込みの激しいアイリスに限ってそんなことはあるはずがない。

広いカプセルルームに響く嗚咽・・・・・・

言うまでもないが、エイルもまた愛するエックスを守れなかったことを
激しく悔やんでいた。と言えど、彼は大きな傷を負ったとはいえ、生きているのだ。
だが想い人の二度と帰ってこないアイリスの悲しみは、たとえ境遇が異なるエイルでも、
我がことのように理解することができた。自分が生を受けて間もない頃から
気を許しあった、親友であるが故だった・・・・・。
「おぅいエイル、3番スパナがどこにも見当たらんのじゃが・・・・・その辺りに
落ちとらんかぁ?」
階下からケイン博士が呼んでいる。
「あ、お父さん・・・・・・・あ、あった! 今から持っていくから!」
涙を拭いて足元に落ちていた金属棒を拾い上げると、彼女はいつになく慎重に
階段を下りていった。一段一段、確かめるように・・・・

3話
作業場は、金属類が発する独特の匂いが溢れている。
台の上ではたくさんの溶断メスやドライバー、ペンチといった工具、基盤、コード類が、
さも窮屈そうにしていた。人間でいう医療器具、というやつだ。
「ありがとさん。もう少しで動力系のチェックに入るから、これが必要だったんじゃよ」
「EPロムをセットするのね?」
「うむ。レプリロイド工学の勉強ははかどっとるか?本は一通り与えたろう?」
「えっ・・・・・・それは、まだ・・・・・・」
「う~~~む、しょうがないのぉ。ところで、さっきベソかいとったな」
「う、うん・・・。ねえ、聞いていたの?私、この人たちのことを・・・・」
「あ~、皆まで言うな。お前の考えぐらい、ちゃんとわかっとるわい。何と言っても、
ワシのたった一人の愛娘なんじゃからなぁ」
まるで、本当の父子のようなやりとり。人間の博士と、レプリロイドである少女の会話。
よく「所詮人類とロボットは相容れないもの」などと頑なに唱える学者がいるが、
この光景を見れば、たちまち己の説を転換することだろう。
「エックス、ロール、カーネル・・・・・・傷つき倒れても、
自分の信念が正しいことを信じ、守るべきものを守るために、何度でも目の前のものに
ぶつかっていく者たち・・・・・。だからワシは、そのエネルギーに満ちた生き様に
隠されている可能性を伸ばしてやりたい。勿論この者たちが、秘めた力を平和のために
使ってくれる、と信じておる」
「お父さん・・・・・・・私たちレプリロイドは、やっぱり危険な存在なの?」
「何を言っとる。以前話したはずじゃぞ? ワシは昔エックス、いやDr.ライトの
遺した技術を用いて、それまでとは全く違うロボットを作った。それはエックスが
人間と同じように『悩む』ことができるという特徴に着目したからなんじゃ。
あれを使えば、Dr.ライトの設計思想を実現し、考える力と意思決定能力をもった、
素晴らしいロボットが生み出せる・・・・・・つまり、この世にもう一つの人類を
誕生させることになったわけじゃな。結果は知ってのとおり、人間で犯罪者がいるのと
同じく、罪を犯すイレギュラーという存在が現れた。その頃は周囲の一部の者たちが
レプリロイドの製造を中止しろとまで叫んでいたが、ワシはそうは思っとらん。
人間がレプリロイドに頼りすぎたのが、真の理由だと考えとる。互いが助け合い、
しかし独立してこそ、本当の意味での平和がやってくるのじゃ」
力説するケイン博士。
「そうなのかしら・・・・・・・」
「うむ、そうやって悩んでくれる度に、ワシはレプリロイドを作ってよかったと思う。
いやいや、他人の苦悩を笑い飛ばしとるわけじゃあないぞ。自分が、レプリロイドという
新たな人間を生み出し、こうして仲良く話し合えるんじゃ。そう、仲良く・・・・・・
そうしさえすれば、ロックマンがあのような暴挙に出ずとも、自ずと平和への道は
開かれるはずだ」
「お父さん・・・・・・・・・」
「シグマの暴走原因は既に大方わかってきた。が、何にせよ能力のみに長じた
レプリロイドは、いずれああなってしまう。そんなシグマを作り上げたことだけは、
実に皆に対してすまんことをした・・・・・。いくら土下座しても、
許してはくれんじゃろう・・・・。そもそも、許してもらおうなどというのが甘かった」
エイルは少しうつむいていたが、やがてこう言った。


4話
「大丈夫よ」
「?」
「私もシグマも、全てのレプリロイドは、エックスさんのコピー。でも、私は私。
自分の『力』の使い方は、十分にわかってるもの。
ほら、『守るべきものを守るために』って、さっきお父さんが言ったことじゃない?」
「エイル・・・・・」
「人間とレプリロイドを分けているのは、体じゃなくて心だと思うの。
悪いことをするのは、周りの人たちとの間に擦れ違いがあるから・・・・・・・・。
シグマウィルスは心の闇を大きくするだけで、そういうこととは関係ないわ。
もし私がイレギュラーになったら、エックスさんが思い切りぶってくれるでしょうね!
『忘れたのか? 俺たちはレプリロイドなんだ。考える力をもっているロボットなんだ。
だから、心を失うんじゃない!』って・・・・・」
「・・・・・・ありがとう・・・・・・・ありがとう・・・・・・・」
見ると、ケイン博士は作務衣と防塵ゴーグルという姿のまま立ち尽くし、
滝のような涙を流していた。
「お前が、そんなことを言えるまでに成長しとったなんて・・・・・・・・・・・
ワシは、ワシは嬉しいぞぉぉぉ!」
周囲のライフセーバーたちの不思議そうな目も気にせず、ただひたすら、
むせび泣いていた・・・・・・・・


5話
その頃、ミーティング室では上層部の者たちが緊急招集され、
秘密会議を行なっていた。総監シグナスと統括官アプソリュを中心とする
組織の主要メンバーたちが直径20メートルほどのテーブルを囲み、
眉間にしわを寄せている。
「以上で、エクストラキャンサー第3番・DRN.001『ロックマン』に関する
追加報告を終了する。意見のある者は?」
エクストラキャンサー・・・・・それは、人類及びレプリロイドにとって、
甚大な危険を与える虞のある(もしくは与えた)、特別扱いのイレギュラーである。
ちなみに第1番は昔暴走していた時のゼロ、第2番はシグマとなっている。
シグナスが見回すと、隣に座っている男が口を開いた。
「私から一つ提案があるのだが、聞いてくれないか?」
「わかった。アプソリュ、続けてくれ」
一度咳払いすると、彼は語りだした。
「我々レプリロイドに激しい憎悪を抱いた恐るべき敵、ロックマンについて・・・・・。
どんな経緯があったかは先ほども話したとおり不明だが、
サポートロボットまでが共に凶暴化している以上、ドクターライトナンバーズ、
即ちDRNの普遍的危険性が立証されたのは、もはや言うまでもない。
そこで、DRNを持つ者を積極的に検挙し、社会から追放してはどうかと思うのだ。
しかし、そのDRNが二人、図々しくも我がイレギュラーハンターに籍を置いている。
誰であるかおわかりだろうか? ロックマンXとロールだ。
私は直ちにこの二人の職権を剥奪、更迭に処することにしたい。
これに異議があれば、どんなものでも受け付けよう」
室内に、波紋の如くざわめきが広がる。そこで別の一人が、こう質問した。
「あの二人はシグマの反乱を鎮圧するのに一役買っていた、
我がイレギュラーハンターの比類なき戦力。今ではハンター内において
その名を知らぬ者はいないと聞いている。そんな彼らを、統括官、
あなたはここで手放すと言うのかね?」
「そのとおりだ。エックスとロールがロックマンと同じように暴走し
地球の癌となった時、手遅れだったなどと言い訳したくはないからな。
なあに、シグマに対する切り札は、いずれケイン博士に作ってもらう。
他ならぬあのシグマの開発者だ。ためらうことはないさ」
アプソリュがそう言うと、ざわめきは彼に対する賛同に変わった。いわば鶴の一声。
「そうだ・・・・・」
「癌は早期発見・除去が望ましい!」
「早急に、エックス、ロール、ケイン博士を探し出そう!」
「カプセルルームにいるはずだ!」
慌しくも、アプソリュを始めにテーブルの円周を成していた者たちが
次々に席を立ち上がる。その中には、かつてエニグマ作戦を指揮した、
シグナスの姿も例外でなく混じっていた・・・・・・・・


6話
しかし、ドア越しに会議の一部始終を盗聴していた者がいた。
第8機甲部隊隊長アルミュール・パンゴラン。言うまでもなく、シグマ軍に下った
故アーマー・アルマージの後継者である。
その名が示すとおり、穿山甲を彷彿とさせる厳つい容貌が目立つ。
彼は、不自然に開かれたこの会議の存在を早くから察知していたのだ。
(や、やばいぞっ・・・・! 早く博士たちに知らせないと・・・・・・・・)
来た道をUターンし、パンゴランは気づかれないよう、しかし大急ぎで
カプセルルームへ向かった。

第17部隊と第18部隊の居住棟を抜け、研究ブロックへと入る。
不思議そうなハンターたちを尻目に廊下を疾走し、彼は乱暴な手つきで
カプセルルームのドアを開けた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・みんな、大変だ!!」
慌てた声にエイルたちが振り向く。
「あ、あの、パンゴランさん・・・・何かあったんですか? 落ち着いてください!」
「えらいことになっちまったんだよ! 実はな、かくかくしかじか・・・・・・」
パンゴランの話を聞いたエイルは、ショックのあまり一瞬意識を失いかけた。
体の奥から熱いものが込み上げ、口から悲しみと憤りの混じった声が漏れ出してくる。
「っ!!? ・・・・・どうして、どうして・・・・・!?」
事態は極めて深刻だった。話が進むにつれ、カプセルルームにいるメンバーの顔つきが、
見る見るうちに険しくなっていく。部屋の空気も俄かに張り詰め、鋭さを増した。
「何が危険性じゃ・・・・何が追放じゃ・・・・・憶測のみで物事を考えおって、
司令部こそ、ロックマンと変わらんじゃないか!! 大体イレギュラーハンターの
創立者たるワシを出席させずに、密会でそんなことを決めておったなどとは・・・・・
何を考えておるんじゃ、あの連中は!?」
ケイン博士はたまりかねたように叫ぶと、拳を握りしめ、壁に思い切り叩きつけた。
その衝撃で、節くれだった指の第1関節付近に赤いものがにじむ。
苦虫を噛み潰したような表情でライフセーバー、アイリスが口々に言った。
「しかし、ここにいるエックスとロールは、まだ修復の途中ですぞ。
どうなさるおつもりなのです、博士!」
「とりあえず、何とかして一旦ここから逃げましょう! ケイン博士も一緒に!
……どうしたの、エイル?」
アイリスが振り返ると、肩を震わせているエイルの姿があった。
上層部がとった行動のあまりの理不尽さに、やりきれなくなってしまっているのだろう。
今にも泣き出しそうだ。
「ひ・・・・・酷いっ! 一生懸命だったエックスさんたちが・・・・・・
どうしてそんな仕打ちを受けなくちゃいけないんですか? 何か・・・・何か裏に、
必ず本当の理由があるはず・・・・・!」
「エイル・・・・・・・・・・そうね。それにしても、どうやって治療中の二人と、
ケイン博士を脱出させれば・・・・・」
思案に暮れるアイリスだが、全く妙案が浮かばない。
方法としては、エイルが光の球体で博士らを包み安全な場所まで移動させる、
というのがある。しかし、エックスもロールもこのカプセルルームという施設を
使わなければ、修理の続きが行なえない。残念ながら、一見最も簡単そうなこの方法は
諦めた方が良さそうだ。


7話
ふと、ケイン博士がアイデアを思いついた。
「フラムサーブルになら、確かメンテナンスルームがあるはずじゃが・・・・・
今は破損しとるし燃料切れで飛ばせん。空挺部隊のノアを使うしかないな。
あれはここと同じぐらいのメンテナンス設備を持っておる。こんな時持っていて
役に立つアドバイザー七つ道具の一つが、この『エニウェアサマナー』!」
「あの~、お父さん、『どこでも召喚機』なんて、そのままじゃないの?」
気を落としていたはずのエイルが、すかさずツっこむ。
博士の言うノアとは、最近建造されたばかりの新型空母だ。
「えぇぃ、気にするなぁ! 兎に角こいつで空挺部隊を呼び出し、
ノアを借りるしか手立てはないぞ!」
言いながら博士は、懐から通信機のような機械を取り出し、
勘亭流で『空』と書かれたボタンを押した。続いてシーク音が鳴り、
小型モニターに少女の顔が映る。その黒く艶のある長い髪、
日本の巫女に似た清楚な出で立ちは、まさに大和撫子。彼女こそ、
現在の第7空挺部隊隊長・飛鳥であり、前隊長ストーム・イーグリード亡き後、
これまで部隊をまとめてきたのだ。徹底的に邪悪というものを嫌う飛鳥は、
無論シグマ戦役の際も、最後までハンター側について懸命に戦っていたのである。
その際シグマに屈服したイーグリードを敵に回したときの気持ちは、
どんなものだったのだろうか?
『緊急回線とは・・・・・・ケイン博士、どうなさいました?
わたくし、これからアーマーを清めようと思っていたのですが・・・・・・・・』
「うぅぅ~、そんな悠長なことを言っとる場合じゃないんじゃ! 今一大事でな、
ノアをちと貸してくれんか?」
『これはとんだ失礼を致しました。あれですか・・・? ええ、事情は存じませんが、
ケイン博士であれば使っていただいて結構ですよ。しかしまた、如何なる目的で?』
「ゆっくり話しちゃおれんから、わけは第8のパンゴランに聞いてくれ。あとくれぐれも
司令部には内密にな。ノアは隊員が特例で使用しとる、ということにするんじゃぞ!」
『は、はい、パンゴラン殿にお会いすればよろしいのですね。御意』
通信を終えたケイン博士は、エックスとロールの横たわるベッドを
素早くアジャスターから分離させる。念のため、カーネルも同じ要領で
移動させることにした。それをエイルやアイリスと協力して静かに
ノアのドックまで運び、ハッチをしっかりと閉める。ここまでの作業は、
調整のできない状態でエックスらの安全を確保する必要があるため、
かなり慎重にやらなければならなかった。ただ、偶然通った通路が閑散としていて
ほとんど人目に付かなかったことが幸いし、搬送は予想していたより
スムーズに行なわれたのであった。


8話
ところが、また一つ新たな問題が発生した。もともと空挺部隊の所有物ということで、
誰もノアの操縦方法を知らなかったのだ。それについては、
「私、どうにかしてこの船を動かしてみるから! アイリスはオペレートを、
お父さんはエックスさんたちを!」
と、エイルが担当することで解決したようだ。
そもそも彼女がエックスやケイン博士に同行するのは、
単に彼らの護衛といった理由だけではない。
例の会議でアプソリュが口にしていたらしい「シグマに対する切り札は、
いずれ作ってもらう」という言葉に、例えようのない不安を感じ始めていたからである。
もし博士以外に知る者のない、シグマウィルスを浄化するという
特異な能力を持っていることが明るみになれば、彼女にも危険が訪れることは
必至だろう(エイルの仕様データは、ケイン博士が携帯するフロッピーに厳重に保管)。
「ジェネレーター出力上昇、油圧ポンプ・インバーター共に異常なし!
離陸、及びランディングギア収納準備完了! 行って!!」
本職がレプリフォースのオペレーターだけあって、アイリスの口調は慣れたもの。
そして、レバーをぐっと引くエイル。
「エックスさん、私はあなたを、最後まで守りぬいて見せます。
もう二度とあんなことにはならないように・・・・・絶対、あなたを守ってあげるから。
それまでハンターベース、さよなら!」
揺るぎ無き決意を秘めた彼女の言葉に、アイリスもケイン博士も、強く勇気付けられた。
そして船体・コンテナ後部のバーニアが火を噴き、ノアは果てしない虚空へ
その機体を吸い込ませていく。

かくして、エイルたちはベースの脱出に成功した。
もしかすると、二度と帰れぬ旅になるかもしれない。
だが、その程度のことは各々が覚悟している。
いや、むしろ決心している、と言ったほうがいいだろう。
敵・アプソリュの根城でありながら、かつ我が家でもあるその場所へ帰ることを・・・・

もう・・・・・後戻りは出来ないのである。


9話
ノアがどんどん小さくなっていくのを見届けたパンゴランは、一つ溜め息をつくと、
同じく残っていたライフセーバーに話し掛けた。
「さて、俺たちは適当にあしらって上層部の連中をやり過ごそうぜ。
んで飛鳥と合流したら、隙を見てヤツらを動けなくして、首を絞めてでも
動機を聞き出してやらぁ!」
そう言うと、力強く拳を握り締める。
「う~む、医者として、直接戦いに関わらない我々にも納得いきませんな。
なぜ上があのような行動に打って出たのかは・・・・・・」
「ん・・・・・・しっ! 誰か来るぞっ・・・・!」
パンゴランが気持ちを引き締めるのとほぼ同時、統括官たちがカプセルルームに
入ってきた。眉をひそめたアプソリュの周りを、上層部のメンバーが取り巻いている。
「おかしい・・・・・・修理中のはずのエックスとロールがいないではないか!?」
「まさか何者かの手引きで逃げたのではないでしょうな?
むむっ、そう言えばケイン博士やカーネルも見当たりませんぞ!」
「おいっ、そこの者たち! あいつらはどこへ行った!?
ここにいるなら知っているはずだ!!」
凄みをきかせたアプソリュの声にも慌てず、
「それなんですけど、俺たちが駆けつけたのがちょいと遅かったんです。
ほんの、ほんのタッチの差で逃げられました。ってなわけで統括官、
追っ手の手配をお願いします!」
と、第8機甲部隊隊長は白々しさの欠片もない様子でほらを吹いて見せる。
不言実行・忠義遵守を旨としていたアルマージとは、まるで正反対だ。
「そうか・・・・・・仕方がない、第7空挺部隊を差し向けることにしよう。
なお現時刻をもって、エックスたちをイレギュラーと認定する。パンゴラン、
お前も第7と共に逃亡者を追跡するのだ! ケイン博士は何としてでも連れ戻せ!」
「(へへっ・・・・・丁度いいじゃねえか。飛鳥の部隊と一緒に、なんてな・・・・・)
了解! じゃ、俺たちも準備が整い次第出ます!」
うなずくと、アプソリュたちは、再び入ってきた扉の向こうへ消えていった。
「・・・・君は随分芝居がうまいようだね。その度胸の据わりっぷりには感心したよ」
自分とライフセーバーたち以外に誰もいないことを確認したパンゴランが、
揃って唖然としている彼らに最後の言葉を残す。
「よっしゃ、宣言しちまったし、俺もそろそろ行かせてもらうわ。じゃあな」
「気をつけるのだぞ・・・・!」
一応空挺部隊と協力せよという命令には背いていないので、彼は胸を張り、
堂々と飛鳥たちの居住エリアへ向かって歩き出した。心なしか足取りは
先ほどよりも軽く、あたかも彼を前へ前へと進めているようだった。


10話
荒っぽい性格のパンゴランだが、飛鳥の部屋の前に辿り着くと大きく深呼吸し、
きちんとドアをノックした。実は、彼は女性にあまり免疫がないのである。
もちろん飛鳥の私室に入ったことなど、一度もない。
「はい、どなたであらせられますか?」
このように、飛鳥の口調はいつも古風だ。ロールと同じAI年齢であるとは、
とても思えないであろう。
「だ、第8機甲部隊隊長アルミュール・パンゴラン。ケ、ケイン博士から
連絡があったとおり、今からやるべきことを話そうと思う。開けてほしい」
意識のしすぎか、声が上ずってしまう。
「あぁ、あなたでいらっしゃいましたか。わたくしも博士の命で、
これからそちらに参ろうと思っていたところです。どうぞ、中へ」
戸を開けると、植物を蒸したような匂いが漂ってきた。日本的な彼女の趣向に相応しく、
香炉を焚いているらしい。またどこから持ち込んだのか、簡単な庭園セットまでが
置かれている。そしてハンターと巫女という二足の草鞋を履いているだけに、
部屋の真正面に据えてある神棚が眩しい。

カコンッ・・・・・・・

「ふぅ・・・・・・」
澄んだ鹿威しの音が室内にこだまし、ゆったりと心を和ませる。
もっとも現在、落ち着いてなどいられないが・・・・・いや、むしろこういう時でこそ、
気を静めなければなるまい。
「それで、現在の状況とは・・・・・」
「ああ。聞いて驚くなよ」
パンゴランは座布団に正座すると、先ほどエイルたちに伝えたことを逐一復唱した。
彼を見つめ、じっと聞き入る飛鳥。やがて彼女は宙を仰ぎ、
「・・・・やはりそう来ましたか」
とつぶやいた。
「いっ?」
「あのアプソリュという人物は、ユーラシア騒動の後、わたくしたち隊員の知らぬ間に
イレギュラーハンターに紛れ込んでいた曲者のようです。データベースにも不正に
アクセスした痕跡がございましたから。おそらく、シグナス総監以下を唆しているのも
奴ではないかと・・・・・・・・・わたくしは以前から目を光らせておりました」
「・・・・そうか! 確かに聞き慣れない名前だったからな。ともかくこのままだと
博士たちが危ねえ。俺たち二つの部隊を動員して、早いとこ助けに行こうぜ!」
「はい、了解致しました」
「え、え~と・・・・そのガチガチした喋り方、やめてくんないかな・・・・・?
どうもそういうの苦手でさぁ・・・・・」
「そうでしょうか? わたくしは以前からこうですが・・・・・
それではこのように致しましょう」
「?」
「了解仕りました」
「(おいおい、余計に堅苦しくなってるじゃん)・・・・・だから俺、
別に飛鳥の上官つぅわけじゃないんだけど・・・・・・
まいいや、とりあえずメンバーを集めておいてくれ。俺らはあくまでも
博士たちを追えって言われただけだからな、あれこれ考える必要なんてねえ。
必ず俺がアプソリュの尻尾を掴んでやるさ!」
「はい、行きましょう」
飛鳥はデスク上にあるスイッチを押して緊急回線を開くと、部下たちと
ブリーフィングを始めた。程なくして、ベースにいる全員に出撃命令を下す。
ハンターベースから空挺部隊の巡洋艦・アレスが飛び立ったのは、
それから間もなくだった・・・・・・

独り執務室にたたずみ、どこか余裕の表情を見せるアプソリュ。
微かな笑みを浮かべ、誰ともなしに呟く。
「そう、それでいい・・・・・・全ては、無へと帰すのだ・・・・・・・・・」

次回予告
あろうことかイレギュラーハンターを追われ、完全に閉め出されてしまったエイルたち。
安息の地を求めて、彼女たちはただ、先の見えない旅路を歩む。
飛鳥・パンゴラン率いる連合部隊は、無事にエイルたちを助けることはできるのか?
そして、アプソリュは何を考えているのか?
真実が今、明かされようとしている・・・・・・・
次回、RockmanX ~Lumie´re Princesse~ chapitre5 「下された審判」。
「皆さん・・・・・私、いきます。見ていてくださいね」