ロクノベ小説保管庫 ロックマンXセイヴァーⅠ 最終章~別れ…そして…~

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第一話

「やっ・・た・・。」
蒼い閃光が、ワイリ-・マシンを完全に包み込んだのを確認すると、
セイアはその場に膝を突いた。
急に疲れてしまった気がする。
もうエネルギ-も体力も殆ど残っていない。
「あぁ・・。」
そう言うセイアに、エックスはやんわりと頬笑むと、握りしめていたセイバ-を、
ゆっくりとした動作で肩ア-マ-の内部に収納した。
闘いは・・終わった。
「さぁ・・帰ろう・・みんなの所へ。」
「うん!・・・っ!?」
ニコッと笑い、兄の手を借りて立ち上がった瞬間、
セイアのメットを、絶対零度の凍結弾が掠めた。
幸い、掠った程度で済んだ為、外傷は無いが、
掠った部分から、除々にメットが凍結し始めたので、セイアはすぐにメットを外し、
地面に叩きつけた。
確かめるように振り返ったセイアとエックスは、思わず驚愕した。
「ま・・さか・・。」
閃光の煙が、まだ僅かに残っているため、その全貌は見えないが・・。
「・・ワイリ-・・!!」
そこには、脱出ポッドを思わせる形、先程よりも格段に小型化されたワイリ-・マシンが浮かんでいた。
「ふっ・・・フハハハハ!!相変わらず甘いの!?ROCKMAN!!
ワシがこの程度の事でやられると思っているのか!?」
肝心な事を忘れていた。
ワイリ-にしろ、シグマにしろ、必ず一度では倒れない。
必ず、第二、第三の奥の手を用意している。
そして、自分がロックであった時の記憶の中には、この形態はハッキリと記憶されていた。
「ワイリ-・・・・カプセル・・!!」
呟いたのはエックスだった。
セイアは絶望した様な表情を浮かべている。
当たり前だ。エネルギ-切れに等しく、特種武器・ラ-ニング技の連続使用によって、
体力も底をついている。ア-マ-も今や防御を期待できる状態ではない。
「今度こそ・・今度こそ積年の恨みを晴らすぞ・・ROCKMAN・・。」
---どうする?
闘うしかない・・。
---でも・・勝てるのか・・?
負けられない・・!
---どうすれば・・。
諦めなければ・・。
頭の中で、二人の兄が話しているようにも思えた。
要は・・諦めなければ・・。

第二話

今一度、右手をバスタ-に変形させた。
露出した薄蒼色の髪が、視界を狭くする。
(やっぱりまずかったかな・・?)
セイアはこの状況でありながら、一人心で苦笑した。
こんな髪型で闘える筈などない。
エックスも、もちろんゼロも、本来は長い前髪を、戦闘に出る前は上げている。
(僕も上げておけば良かったかな・・?)
そう思いつつ、固まった鮮血が付着した左手で、軽く前髪を上に上げた。
前に突き出したバスタ-に、蒼と紅の光が集まっていく。
使える残りのエネルギ-は限られている。
フルチャ-ジなら・・あと三発撃てるかどうか。
しかし、手はある。
一撃目で恐らく搭載されているであろうバリアを歪ませ、二撃目で発生装置を破壊する。
そして三撃目で本体を貫く。
うまく出来るかどうか・・。
兄も当然、似たような状態の筈。
いや・・どちらかと言えば、エックスの方が損傷が酷いくらいだ。
戦闘中、さりげなく自分を庇っていたため。
そうなれば、自分がやるしかない。
バスタ-の銃口内に納まりきらなくなった閃光が、バチバチとスパ-クし始める。
「どうした?来ないのか?ん?」
窘めるようなワイリ-の口調。
思いきり地面を蹴り、ワイリ-・カプセルの頭上に飛び込んだセイア。
そして、閃光を宿した銃口を、カプセルに向ける。
「行っけぇぇ!!」
「甘いわ!!」
セイアのバスタ-から放たれた、蒼と紅の閃光。
ワイリ-・カプセルから放たれた、黒いエネルギ-。
空中で激突したそれは、アッサリとセイアのバスタ-を打ち砕き、
咄嗟に避けたセイアの背後の壁に、巨大な風穴を開けた。
着地し、改めて背後の穴に絶句する。
自分のバスタ-では、相手に届くことすらない。
目の前に先程の閃光が迫っているにも関わらず、セイアはそこに立ち尽くしていた。
本当に勝てるのか?
でも・・諦めたくない・・。
いや・・諦められない・・。
不意にセイアの身体が地面に叩き付けられた。
「何をボ-ッとしてるんだセイア!!諦めには早過ぎるだろう!!」
「兄さ・・・・うんっ!」
エックスだった。
本当は自分の方が損傷が激しい筈なのに、エックスは傷ついた身体をおして、
セイアを捨て身でエネルギ-弾から救ったのだ。

第三話

二発目のチャ-ジ。
持てる最大限の力をバスタ-に込める。
先程よりも一回り大きい閃光が、セイアのバスタ-に宿っていく。
しかし、その銃口が向いた先は、ワイリ-・カプセルではなかった。
「こうなったら・・。」
身体の向きを180度回転させ、部屋の隅にバスタ-を向ける。
「本体狙いだ!!!」
放たれた閃光。
狙った先には、液体で満たされた小さなカプセルがあった。
そう、ワイリーの脳が保存されているカプセル。
寸分の狂い無く放たれた、蒼と紅の閃光は、カプセルに直撃する瞬間、
八方に拡散し、その場で消滅した。
「っ!!?」
「ぐはははは!ワシがそんな重要なポイントに、手を打っておかないと思ったか!?」
「・・・電刃χ!!」
肩のサーベルを抜き、蛍光色のエネルギーを投げつけるが、
結果はやはり変わらなかった。
直撃の寸前で拡散したエネルギーは、力無く消滅する。
既に二発目のショットを放ってしまった。
--もう・・バスターは使えない・・。
サーベルや特種武器なら、体外のエネルギーを使用している為、問題ないのだが、
バスターは自身のアーマーのエネルギーを、直接供給して放つため、
威力・一撃必殺性共に高いのだが、こういう状態では、使用に限りが出てしまう。
しかし、あのワイリー・カプセルの装甲を、完全に貫ける武器は、
セイアは今、バスターしか持ち合わせていなかった。
「どうした?もう来ないのか?それとも・・・エネルギーを使い果たしたか?」
低い笑い声が響く中、カプセルの前部に強力な凍結弾が収束し始めた。
ワイリー・マシン時の凍結弾を、更に三倍にしたような巨大な氷の塊は、
セイアが回避体制をとる前に、既に放たれていた。
回避しようと、身を翻そうとした瞬間、目の前で凍結弾が消滅した。
原因は、横から現れた灼熱弾。高出力の炎の弾が、凍結弾を消滅させたのだ。
「兄さん・・!!」
「喰らえ!!ワイリーぃぃぃぃ!!!」
セイアの目に映ったのは、黄金に輝く両腕に、エネルギーを充填していたエックスの姿だった。
この姿には見覚えがある。
サード・アーマーに、ハイパー・チップと呼ばれる特殊装備をする事によって、
一時的に全ての性能を引き上げる荒技。
しかし、それはエイリアの復元によって贋作したアーマーとチップ。
その為、本当に一時的にしか性能を引き上げる事が出来ないと、エックスは言っていた。
そして、大幅なエネルギー消費は避けられないとも。
今の状態で、クロス・チャ-ジ・ショットを放てば、間違いなくエックスの全エネルギーは尽きる事になる。
「なっ・・・待って!」
「行けぇぇぇぇ!!」
制止するセイアの言葉を押しのけ、エックスは両腕から凄まじいまでのエネルギーを放った。
同時に発射された二発のエネルギー弾は、空中で共鳴し、更に出力を増した一つとなって、
ワイリー・カプセルに炸裂した。
途端に土煙が上がる。
エックスは予想通りエネルギーを失ったのか、その場に膝を突き、荒い息をしている。
セイアは巻き上がる土煙に目を細めながらも、必死にその中のカプセルを目で追っていた。

第四話

「っ・・・くっくっくっ・・やはりロックマン・エックス・・。抜け目が無いのぉ。」
一瞬にして煙が晴れた-と共に、中から老人の醜い笑い声が飛んできた。
セイアとてわかっていた。
いくらエックスの攻撃が凄まじいものだったとは言え、それだけでワイリー・カプセルのバリアを破り、
カプセルもろとも破壊できるなどと、出来すぎた話があるわけがない。
そして、予想通りに、エックスは大幅に体力を消費し、そのまま膝を突いた。
アーマーの各所から、白い煙が音を立てながら吹き出てくる。
過負荷《オーヴァー・ヒート》だ。
「くっ・・!」
セイアは再び肩のサーベルを抜き放ち、正面に構えた。
三00gのサーベルの柄が、十kg以上の重さに感じられる。
一瞬、視界が霞んだ。
恐らく、全世界の全ての医師に言わせても、『これ以上の戦闘は命に関わる』と口を揃えるだろう。
「ロックマン・エックス・・。一気に止めは刺さん。
ジワジワと地獄の苦しみを味わってからあの世に逝ってもらおうか。」
数秒の溜めの後、ドッヂ・ボール程の大きさのエネルギー弾が、カプセルの下部の銃口から放たれた。
エックスの体力はもう限界だ。
これを躱すことはまず出来ないだろう。
「兄さぁぁん!!」
叫んだときには、もう遅かった。
エネルギーの直撃を喰らい、エックスは悲鳴を上げる時間すらなく、その身体を投げ出されていた。
「貴様ぁ!!」
「くっくっく・・しぶといな・・。まだ微かに生きているようだ・・。
ふっ・・まぁいい・・・ロックマン・セイヴァー。次は貴様を瀕死状態にし、
それから仲良くとどめをさしてやろう。天国の一人旅は寂しいだろう?」
「許さねぇぇ!!」
怒りに身を任せ、セイアはワイリー・カプセルに飛びかかった。
サーベルを展開させ、その蛍光色の刃で、カプセルを包み込んでいたバリアを斬り付けると、
薄いエネルギーの膜は、先程の強固さを忘れさせるほど、いとも簡単に粉砕された。
セイアのサーベルは、そのまま勢いを緩めず、とっさに回避したワイリー・カプセルの、
下部の銃口を斬り落とした。
「なにぃぃぃぃ!?まっ・・・まさか・・!」
着地すると共に、隙を見せずに光剣を構えなおすと、ワイリーは酷く混乱したように声を上げた。
よく見ると、カプセルに設置されている、バリアの展開装置と思われる機器に、
大きく亀裂が入り、そこからスパークを放っていた。
恐らく、先程のエックスのバスターの出力に耐えきれず、内側から破壊されたのだろうと、
セイアは見当をつけていた。
勝てる。
一番の問題は、あの強力なバリアだった。
それさえ打ち砕いてしまえば、あとはダメージを積み、一気にバスターで撃ち抜いてしまえばいい。
横目で兄の姿を確認すると、メットが粉々になっていたが、なんとか壁にもたれかかるように、
エックスは立ち上がっていた。
しかし、重体なのに違いはない。
早々にワイリーを倒し、エックスを連れて脱出しなければならない。
いつから僕は・・こんなに冷静に物事を判断できるようになったのだろう・・?
つい先日まで、泣き虫で意気地なしだった僕が・・。
セイアは頭の中で、そう自分自身に問うた。
「くっくっく・・予想外じゃったよ・・。貴様等の力を甘く見すぎていたようじゃ。
しかし・・やはり最後に勝つのはワシじゃ!!」
セイアは右手で、自分の両目を擦ってみた。
なにか、ワイリー・カプセルの後の景色が、そのまま透けて見えたような気がした。
しかし、何度擦ってみても、その現象は元に戻ろうとしなかった。
いや、それどころか、既に肉眼で、そこにカプセルが“存在している”事を確認するのが精一杯だった。
「・・・・!?」
違う。自分の異常ではない。
本当に”消えている”のだ。
ワイリー・カプセルの姿が、陽炎の様に。
「なにっ・・ど・・どこ!?」
辺りを見回すと、突然後方から、電撃を帯びたエネルギー弾で狙撃された。

第五話

「くっそぉ・・どこだ・・・?」
撃たれた背中を庇いながら、セイアは精妙に気配を探った。
駄目だ・・。
前にいるようでいて、また後にいるような気がする。
気配が拡散し、正確な位置が掴めない。
「くっ・・!!」
頭上から降ってきたエネルギー弾を、サーベルで斬り裂き、その弾道にそっくりそのまま電刃Ⅹを放つが、
既にその位置にはいないのか、蛍光色のエネルギー波は、天井を崩すだけの結果に終わった。
「ぐははははは!!!」
ワイリーの下卑た笑いが、何も無い空間に木霊する。
出来ることなら、すぐにコイツを倒してやりたい。
すぐにその下衆な笑いを噤ませてやりたかった。
「どこだ・・どこにいるんだ!!?」
溜まらなくなって叫ぶが、やはりワイリーは下衆な笑い声を上げるだけだった。
どうすればいい?
最も有効的に、今の状況を打開するには・・。
--いいか?セイア。もし敵がステルス機能を持っていて、視覚で確認出来ないときは、
壁に背を預けるんだ。そうすれば、360度の隙が、自分の目の前だけを注意するだけで良い事になる。
不意に脳裏に蘇ったのは、バーチャル・トレーニング中に聞いた、兄のアドバイスだった。
--壁に背を預ける・・。
素早く地面を蹴り、一番近くの側壁に、ピッタリと背中を合わせた。
これで、事実上、目の前だけに注意を配るだけで良い。
サーベルを頭上に振りかぶり、堅く眼を閉じる。
………。
……。
「今だっ!!!」
「なんだと!!?」
眼を開くと同時に、目の前に電刃Ⅹを放つと、その弾道上に、タイミング良くワイリー・カプセルが現れた。
エネルギーを充填し始めた銃口を、セイアの電刃Ⅹがものの見事に斬り裂いた。
サーベルを左手に持ち替え、そのまま一気に飛びかかる。
セイアの堅く握りしめられている拳には、蒼いエネルギー・・Ⅹ・滅閃光の光が宿されていた。
「喰らえぇぇ!!!」
ワイリー・カプセルの全体を、蒼いエネルギーが駆け巡った。
その姿はさながら、大地を削き、天空を裂く龍の様だった。
直ぐ様、左手のサーベルをカプセルにら突き立て、着地する。
余りの衝撃と連続使用に、材質自体が耐えられないのか、セイアのアーマーは、所々がボロリと削げた。
「ハァ・・ハァ・・ハァ・・やったか・・?もう・・これ以上は・・。」
無理矢理に繰り出したⅩ・滅閃光の影響で、身体中に激痛が走る。
目の前が霞んでくるのを、必死になって繋ぎ止める。
気持ちが悪い。吐き気がする。
手足がガクガクと震えてきた。
「ぬっ・・・ぬぬ・・・。今のは危なかった・・。
今のは危なかったぞ!!」
所々から黒煙を吹き、既に損傷が限界に達していると言うのに、
ワイリー・カプセルは未だにその場に浮遊していた。
再び隠蔽を発動しないところを見ると、どうやら先程の衝撃で、その機能を失ったらしい。
「ROCKMANめ・・・!!」
「くそ・・まだ・・まだ闘えるのか・・・!?」

第六話

ワイリー・カプセルの放った、野球ボール程度のエネルギー弾が、セイアを後方の壁に叩き付けた。
いつもならてんで大した事のない威力の弾でも、今のセイアにとってみれば致命傷だ。
メットが消失しているため、諸に激突を喰らった頭部から、真っ赤な鮮血が流れ始める。
元々青い色をしていたセイアの髪は、鮮血のせいで、ドス黒く変色し始めた。
「ハァ・・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」
酸素が足りない。
それとも大量の出血のせいだろうか?
目の前の景色から、妙に現実味が失せ始めた。
まるで、今全身に走る激痛も、流れ出る鮮血も、自分にはなんの関係も無い出来事に思えてきた。
--このままやられたら・・楽になるかなぁ・・?
ふと浮かんだ、自分の芯の部分。
やられてしまえば、どんなに楽か。
そういえば、僕はどうしてこんなに踏ん張っているのだろう?
それは・・それは・・・?
--必ず戻ってこいよ?今度は勝つかんな?
--徳川君は私の命の恩人だもの・・。
「ハァ・・み・・・んな・・・。」
僕の帰りを待っている仲間がいる。
僕を僕と認めてくれた・・クラスメイト達がいる。
だから僕は・・。
「ふん・・エックスといい・・貴様といい・・しぶとさだけは天下一品じゃな。
苦しいか?苦しいだろう。今・・楽にしてやる・・。
心配するな・・兄貴にはちゃんと会わせてやる・・。」
立ち上がったセイアの目に映ったのは、カプセルの半分以上を開いて姿を現した、
巨大な銃口だった。
一体どれ程の威力を持っているかは、見当もつかないが、
それを諸に喰らえば、今の自分など、簡単に葬られてしまう事ぐらいは、容易に理解することが出来た。
避けることは出来ない。
今の身体では・・。
ならば倒せるか?
今の自分で・・?
どう考えても、誰が見ても、今の自分の状況は絶望的だろう。
まさか、今の状態から、危機を脱すること事の出来る、超人的な輩などいる筈もないし、
それが自分の筈もない。
死刑を前にした服役囚は、きっとこんな気持ちなんだろうな・・。
そう言えば、バスターのエネルギーが一撃分残っていた気がする・・。
しかし・・止めた。
今の状態で放ったら、どう言う状況に陥るか、自分でもよくわかっているからだ。
「死ねぇぇぇぇ!!」
瞬間、閃光が迸った。
ホワイトアウトする視界の中・・意識だけは、鮮明に色を保っていた。
時間が経つのが、やけにゆっくりに感じる。
たった数秒の出来事が、まるで何時間も、何年も時の流れに置いていかれた様だ。
まだ少ししか積んでいない・・それなのに大切な思い出が、一斉に頭の中を爆走する。
死ぬ・・・。
たった二つの文字が、頭の中全体を支配した。
…轟音。

第七話

…?
反射的に目を瞑ってしまったのか、視界は真っ暗だった。
確かに着弾した音がしたのに、一向に痛みを感じない。
浮遊感も無い。
いや・・もしかしたら、もう自分は死んでいるのだろうか?
脳もろとも一撃で粉砕されたため、痛みを感じなかったのかもしれない。
セイアは、ここが天国だろうが地獄だろうが、構わず、ゆっくりと眼を開いてみた。
飛び込んできたのは、天国や地獄など言う飾り気のある場所では無かった。
足元に転がった、焼け焦げた蒼い破片。
鉄を焦がしたような異臭が鼻をつく。
顔を上げると、映ったのは、両手を大きく広げ、自分の前に仁王立ちしている、自身の兄の姿だった。
「兄さ・・・?」
エックスは、一瞬フワリと頬笑むと、力無くその場に倒れ込んだ。
「兄さん・・?ねぇ・・・?兄さ・・・。」
倒れ込むように屈んで、兄の手を取った。
…冷たかった・・。
「大丈夫か・・?セイ・・ア・・。」
「嫌だ・・嫌だよ・・。お兄ちゃん・・死んじゃ・・嫌だよ・・。」
「泣くな・・よ・・。お前・・は・・おれとゼロの・・弟・・だろう・・?
お前なら・・大丈夫・・だ・・。きっ・・と・・。お前なら・・。」
ドッと涙が溢れた。
もう何も考えられない・・。
言葉が浮かんでこなかった。
「セイア・・。良くきけよ・・?さっきも・・言った・・が・・、
お前は・・おれとゼロの弟・・だ・・。立派な・・な?」
「お兄ちゃん・・。」
「あまり・・一緒に暮らしてやれる時間はなかったけど・・。
お前は・・大切な・・弟だ・・。」
エックスの手が、優しくセイアの頬を包んだ。
愛しそうに目を細めるエックスの顔には、生気が無い。
「だから・・最後に・・一つだけ・・お願いが・・あるんだ・・。
あいつを・・ワイリーを止めて・・くれ・・。」
「そんな・・最後なんて・・言わな・・いでよ・・。」
「頼んだぞ・・。セイア・・いや・・ロックマン・セイヴァー・・。」
エックスは最後に、優しく頬笑んで、酷くゆっくりと眼を閉じた。
兄の手を握りしめても、頬を軽く触ってみても、何の反応も無かった。
触れている頬は、氷のように冷えきっている。
「あ・・・あぁ・・・。うぁぁぁぁぁぁ!!!」
兄の亡骸を抱き締めて、セイアは狂ったように泣き叫んだ。
閉じられた瞳は、もう二度と開かれない。
優しく包んでくれる、あの穏やかな声も発しない。
エックスは・・兄は死んだんだ。
死んだ・・?
違う・・。
だってエックスはレプリロイドだから・・。
人間を模して作られたロボットだから・・。
生きているわけではないから・・。
死んだんじゃない・・壊れただけだから・・。
でも・・・それでも・・。
それでも・・エックスは死んだんだ。
人間だとかレプリロイドだとかは関係なかった。
兄は自分を庇って死んだんだ・・。
「なんで!!?なんでお兄ちゃんが死ななきゃならないの!?なんで!!
なんで・・お兄ちゃんは何も悪くなんか無い・・そうでしょ・・。
なのに・・なんで・・。」
「死んだか・・。ふっ・・順番が変わってしまったかな・・?」
…!
「まぁいい・・死ぬのが数秒延びただけだ・・。」
こいつが・・。
「次は貴様だ!」
こいつが・・こいつが兄さんを殺したんだ。
セイアの中で、何かか弾けた。

第八話

エックスの身体を、そっと地面に寝かせ、セイアは立ち上がった。
その姿はまるで、魂が抜け落ちた幽鬼の如く・・静かだった。
心なしか、彼の全身を真っ青なオーラが包んでいる様にすら見える。
「貴様が・・!」
「ぬっ・・?」
「貴様が・・貴様が全部悪いんだ・・。貴様がお兄ちゃんを殺したんだ・・。
貴様が・・・・貴様がぁぁぁぁ!!!」
セイアの身体を包んでいたオーラが、その瞬間一気に燃え上がった。
彼の足元の地面は亀裂が走り、洞くつ全体が激しく揺れている。
「ふん・・死に損ないが・・死ねぇぇぇぇ!!!」
ワイリー・カプセルの銃口から、先程エックスを貫いたレ-ザ-が、再び放たれた。
ドス黒い光を帯びた、完全な暴力としての力。
その光は、燃え上がるオーラ諸とも、一気にセイアを包み込んだ。
「ファァァハッハッハッハッハ!!!やったぞ!!ついにやった!!!
ついに・・ついにROCKMANをこの手で葬ったぁぁぁぁ!!!!」
けたたましい、老人の歓喜の声が、煙で満たされた洞窟内に響く。
ついに倒した・・。
ついに消し去った・・。
長年、この手で葬ることを夢見た宿敵を・・。
ついに・・・。
「ハッハッハッハッハッハ!!!ハァァハッハッハ!!ハッハッハ・・ハッ・・・?」
ピタリと歓喜の笑い声が止んだ。
それとほぼ同時に、レ-ザ-砲の煙が、突風でも吹いたかのように消し飛んだ。
「まっ・・さか・・。」
抉れた地面の中央に、彼は立っていた。
無言で・・。
先程まで、今にも砕けてしまいそうなほど大破していたアーマーも、
彼の兄のように蒼く、透き通った鎧に変わっていた。
アルティメット・アーマー。
それが、その蒼い鎧の名前だった。
エックスを創ったという、謎の老人が、エックスに渡したものの、彼自身がその無限の戦闘力と、
危険性を敬遠し、今まで封印してきたものだ。
「許さねぇ・・!」
セイアは譫言のように呟いた。
ワイリーは、あの超出力のレ-ザ-を諸に喰らいながら、無傷で立っているセイアに、
驚愕を通り越して恐怖を覚えた。
何故、あれ程の武器を受けても倒れない?
何故、どんなに攻撃しても死なない?
何故何故何故何故何故・・。
「許せねぇんだよ・・貴様は・・!貴様は・・貴様はこのボクが、
このアルティメット・アーマーで無に還してやる!!!」

第九話

「何故だ!!!何故倒れん!!?何故・・貴様のどこにそんな力が残っていると言うのだ!!
何故ぇぇぇぇ!!!」
ワイリー・カプセルの各部のハッチが開いた-と共に何十発もの実弾・光学兵器が放たれた。
しかし、真面に狙いが定まっていないそれらは、一発たりともセイアに直撃することは無かった。
そしていつしか弾切れを起こし、カチカチと無様な音だけが木霊した。
「貴様なんぞに・・貴様なんぞに・・!!」
セイアは無言で、いつの間にか握っていたセイバーを展開させた。
セイアの光剣では無い。
エックスの肩アーマーに収納されていた、もう一人の兄の武装である、ゼット・セイバー。
しかし、展開されたのは、いつもの蛍光色のエネルギーでは無かった。
絶対的な金色の刃。
振りかぶった時には、その刃は6m先の天井に、届くか届かないか程度まで巨大化していた。
セイアの目に、もう迷いはなかった。
ロックマン・エックスとゼロ。そしてロックマン・セイヴァーの力が、図式だけだとは言え、統合された。
「ソウル・ストライク!!!!」
ゼット・セイバーの金色の刃から、ゼロの幻夢零を思わせるエネルギー波が撃ち出された。
天井から地面までを占める、巨大な刃。
回避しようとしたワイリーの抵抗も虚しく、ソウル・ストライクの刃は、そのままものの見事に、
ワイリー・カプセルを一刀両断にしてみせた。
「消え去れぇぇ!!」
そして、続けざまにセイアの放った、超出力のチャージ・ショットが、
真っ二つに別れたカプセルを、完膚無きまでに包み込んだ。
「ROCKMANめぇぇぇぇぇぇ!!!!」
粉々に砕けている、ワイリー・カプセルの中、狂った老人の声が、
耳にこびりつくほど響いていた。

アルティメット・アーマーが崩れ落ち、中から元の紅いアーマーが姿を現した。
セイアは、握っていたゼット・セイバーを、丁寧な動作でバックパックに差し込むと、
両手で自分の顔を覆った。
「うっ・・うぅ・・・う・・。」
指の間から、大量の涙の雫が滑り落ちる。
セイアは声を殺して泣いた。
もう・・頼れる兄の存在も、あの優しかった笑顔も、何もかも戻ってはこないのだから。