ロクノベ小説保管庫 ロックマンXセイヴァーⅡ 第壱章~暗躍~(2)

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 街から少し離れ、人気が多少少なくってきた小規模の街。
第十七精鋭部隊が派遣されたのは、その一角だった。
 首都から較べれば大分静かなところだが、それでも街としては充分過ぎる程に活気づいている筈のその街は、
健次郎――彼はアディオンに乗り込むさいにアーマーを装備し、セイアとなっている――達が到着した時には、
既に建造物の殆どが破壊された、廃墟と化していた。
 辺りを見回しつつ、セイアは部隊員達に指示を送る。
建造物の破片の下には、まだ多くの市民たちが埋まっている。既に息絶えている者も少なくないが、
それでもまだ微かに生命反応が残っている場所もある。
 この街をこんな姿にしたイレギュラーの所在が気にかかるが、それよりもまずは住民たちの命を優先しなければならない。
きっと兄・エックスなら同じ判断をするだろう。もう一人の兄のゼロは、救出と共に敵の殲滅をも熟してしまうだろうが。
「イレギュラーは見つけ次第、僕が対処する!皆はイレギュラーの出現に注意しつつ、市民たちを救出!
 手が足りないのであれば、本部に救護隊の出動の要請を許可する!」
 バッと手を振りながら指示を下すセイア。
隊員達は口々に了解の意を並べ、素早く市民たちの救護へと向かう。
 生き長らえている市民はそう多くはない。
十七部隊全員が動けば、この街程度なら救護隊の出動を要請せずとも大丈夫だろう。
 まだイレギュラーがどこかに潜んでいる危険な地に、下手に救護隊を呼び寄せて、
二次被害を起こしたくはない。素早く十七部隊の隊員が動けば充分間に合うというのなら尚更だ。
 隊員たちが速やかに市民たちを救助する姿を視線に掠らせつつ、セイアは未だ見ぬ敵の姿を模索する。
まだ近くにいる筈だ。イレギュラー発生からそれほど時間が経っているわけではないし、
なによりイレギュラー反応は計器から消えない。どこかに隠れているのだ。
「ウィド。君は出来るだけ僕の近くに。救助はみんなに任せて、僕達はイレギュラーを倒すんだ」
「目付きが大分変わるなセイア。了解だ。俺は索敵にまわる」
 そう云って、ウィドはレーザー銃を片手に握りつつ、小型のモバイルを取り出して、
辺りのイレギュラー反応を計測し始めた。
セイアの持つ計器よりも敏感なそれは、
単に近いか遠いか――もしくはあるかないか程度――しか判らないものとは格が違う。
エネルギーの発生源と、自分と対象の距離を計り、敵の位置を掴むことが出来るのだ。
 カチャカチャとモバイルを弄るウィドの盾に回る様に、セイアは彼を背に庇いつつ、辺りの気配を探る。
唐突な近距離に備えて、背中のサーベルを抜いた。
セイアの戦闘経験が上がっていくに連れて強化された、エックス・サーベルだ。
 一年前に兄のコピーレプリロイドと闘った際に修得したラーニング技を用いれば、
エックス・サーベル一本で近距離から遠距離の戦闘を熟すことが出来る筈だ。
 ふと、セイアは破壊された街の瓦礫に目をやる。
 すっぱりと綺麗に斬り裂かれた跡があるものもあれば、何か強力な圧力で砕かれたものもある。
前者のような事が出来るのは、何か鋭利な刃物か、それに類するもの。
そして後者は巨大なエネルギーの仕業だろう。しかし、破片が蒸発せずに残っていることを考慮すれば、
それはエネルギー弾の類ではない。だとすれば、物理攻撃の類か。しかし――
 ウィドが「まずいっ!」と叫んだのと、近くでようやく救助を終えた数人の隊員の悲鳴が轟いたのは、ほぼ同時だった。
「っ!?」
「セイア!気をつけろ!」
「みんなっ!」
 何か巨大な圧力によって吹き飛ばされてきた隊員達を空中で受け止めて、セイアは瞬時に彼等を降ろす。
彼等は見た所致命傷は受けていないが、ボディ部分に何か抉られた様な跡があることを認めた。
 エネルギーによって抉られたのであれば、傷の部分が溶解している筈だ。
しかし彼等のボディの傷は、全く溶けてはいない。溶けているというよりも削れているといった方が正しいだろう。
「動けるか!?」
 今受け止めた数人の隊員達を背に庇いつつ、セイアは顔だけを彼等に向けて叫ぶ。
 隊員達は謎の衝撃にボディの各部分を抉られてはいるが、なんとか動けるようだった。
「すみません」と呻きつつ、彼等は後方へと下がる。
 バッとサーベルを隊員たちが吹き飛んできた方向へと展開しつつ、セイアはヘルメットの通信回線を全開にして叫んだ。
「救出が終了した者はただちに後退だ!済んでいない者は速やかに対処!
 これよりイレギュラーとの戦闘に入る!敵は少数!僕が相手をする!」
 胸騒ぎが再びセイアの胸を締めつける。隊員達に援護を頼むのが普通だが、
今のセイアにそれを指令することは出来なかった。
ここで隊員たちが戦闘に参加したら、また被害が増えるような、そんな気がしたからだ。
 「了解」という返事が飛び込んでくるのを確認しつつ、セイアはウィドに目線で促す。
ウィドはコクンと頷いて、少し後方へと下がる。いつでも援護射撃が出来るよう、構えだけは崩さずに。
「セイア、敵は一体だ。だけど油断するなよ」
「判ってる!」
 セイアは右手をバスターに変型させつつ、さっき隊員が吹き飛んできた方向へ向け、撃った。
 ボンッと景気良い音と共に、山となっていた瓦礫が吹き飛ぶ。
それに炙り出される形で、謎の圧力を放った正体は、勢いよく空中へと飛び出してきた。
 パラパラと付着したままだった瓦礫を地面に降らせつつ、空中にピタリと静止した一体のレプリロイド。
逆光に浮かぶその姿をようやくと確認して、セイアは「くっ・・」と息を詰まらせた。
「ちっ、またか」
「そんな・・」
 背後でウィドが呟く。続いてセイアが呻いた。
 ストーム・フクロウル。セイアが空中に存在を認めたレプリロイドの名だ。
ウェブ・スパイダスと同様、レプリフォース大戦で撃破されたレプリロイド。
撃破したのは、セイアのもう一人の兄であるゼロだ。
 スパイダスの時のように詳しい戦闘データを把握しているわけではないが、
恐らくスパイダス同様単に同じモデルだということは有り得ない。
 何より、スパイダスの時と同じように、レプリフォース大戦に参加したフクロウルとは、多少色彩や形状が変化している。
パワーアップしているのだ。
 ダルマの様な体型にベレー帽を被せ、その背中に二枚の翼があり、フェイスパーツは名の通りフクロウを模している。
ここまではセイアの知るストーム・フクロウルとなんら変わりはしない。
しかし、その瞳に光はない。虚ろな亡霊の様に鈍く光るその双眼に、意識は全く感じられなかった。
「またリミートレプリロイド」
 背後で呟かれたウィドの言葉に、セイアが疑問符と共に振り返ることは許されなかった。
空中で静止したままのフクロウルが、いつの間にか自身の周りに風の塊・ダブル・サイクロンを大量に発生させていたからだ。
 無数のダブル・サイクロンが一気にセイアへ向かって殺到してくる。
左右、後方とステップを踏みつつそれを躱すと、
行き場を失ったダブル・サイクロン達は次々とさっきまでセイアが立っていた地面を抉る。
 街を破壊し、隊員たちを吹き飛ばした攻撃の正体はこれだったのかと納得しつつ、
セイアは回避と共に集中していたチャージ・ショットのエネルギーを、空中のフクロウルに向けて解放した。
 バスターの銃口の手前で一瞬静止したエネルギーは、次の瞬間には圧倒的な加速と共にフクロウルを狙う。
矢の要領で設計されたアロー・バスターは、実質的な弾速はエックス・バスターの二倍を誇る。
 真っ直ぐに差す蒼と紅のエネルギー弾は、フクロウルに着弾する寸前に拡散した。
すぐフクロウルが風のバリアを張ったのだと理解したセイアは、ダッシュを駆使してフクロウルの足元を潜り抜けた。
人間であるウィドと一般隊員に攻撃が及ぶのはマズイ。注意を引きつけるためだ。
 風のバリアを貫けないとは判っている。セイアはバスターを連射しつつ走る。
セイアの思惑通り、フクロウルはその二枚の翼を駆使して空を舞いつつ、今度は直接攻撃しようとセイアに迫る。
 今だ!-心の中で叫びつつ、セイアは頭上から迫り来るフクロウルに向けて、
エックス・サーベルより放つ飛翔するエネルギー刃・電刃Ⅹを放つ!
 が、空中でのフクロウルの機動性を甘く見ていたらしい。
電刃Ⅹはフクロウルのボディの端っこを掠め、空へと消えていく。
 代わりに、フクロウを模した巨大な足に掴まれたセイアは、
振りほどく間もなく落下スピードを加えられた地面への叩き付けを諸に受け止めた。
「くっ!」
 頭部に響く衝撃に耐えながら、振りほどこうとバスターを放つが、再び揺さぶられた衝撃が照準がぶれ、
光弾はあらゆ方向へと飛んでいく。
 セイアが再び地面に叩き付けられる直前に、遠距離から飛来したレーザーがフクロウルの注意を引き、
セイアは二撃目のダメージを免れた。ウィドと隊員達が遠距離から援護してくれたのだ。
 後退しろといったのに――心の中で呟きつつも、少しの歓喜と共に、セイアは素早くフクロウルにバスターを放ち、
固定を外した。
 再び風のバリアが発生させるよりも前に、電刃Ⅹを至近距離で放つ!
 エネルギーの刃に斬り付けられたフクロウルは、そのまま上空へ持っていかれる。
チャンスとばかりに連射のバスターで追撃をしつつ、セイアは直ぐ様記憶をたどった。
 一度兄達が闘った相手なら、必ず弱点を持っている筈だ。
それがなんなのか判れば、幾ら相手がパワーアップしていると云っても、勝つのはそう難しくはない。
「みんな、援護ありがとう。だけど後退するんだ、後は僕がやる」
 助けてもらっておいて図図しいことは判っていたが、セイアにはそういうことしか出来なかった。
 バサバサと羽ばたきながら、フクロウルは再び空を飛翔する。
そのスピードもレプリフォース大戦時のデータにはない程に素早い。
アロー・バスターを用いても、一瞬の停止の間に軌道上からいなくなってしまう。
「っ・・!」
 背後からダブル・サイクロンを直撃させられて、セイアの姿勢はグラリと揺らぐ。
直立を立て直すよりも前に、今度はよろめいた正面に回られて、スパンと云う音と共に斬り裂かれた。
 これは風を利用した真空の刃――俗に言う鎌鼬――だ。
 そうか――これで一つ目の謎が解けた。綺麗な断面はこれによって斬り裂かれた跡だったのだ。
 元々フクロウルに鎌鼬を操る能力等は確認されてはいない。これもパワーアップの影響による追加装備なのだろうか。
 今度は逆方向への力が働き、真後ろに吹き飛ばされる形でよろめいたセイアを、
フクロウルは更に至近距離からのダブル・サイクロンで追撃する。
 が、セイアは無理に踏ん張ろうとせずに、そのまま地面を蹴ってバック転の形で跳躍する。
持ち上がったセイアの身体のすれすれを、ダブル・サイクロンが空を裂きつつ突き抜けていく。
 セイアは空中で回転しながらバスターを放つ。それに合わせたかのように、後からウィドのレーザーが線を引き、
フクロウルの背中に直撃、ガードの体制を見事に崩してみせた。
 セイアが放ったバスターが直撃した瞬間に、セイアも地面に足を付く。
「今だセイア!」
「ナイス、ウィド!」
 パッと一瞬の発光と共に、セイアのアーマーの色彩がライトパープルへと変化する。
レプリフォース大戦時にエックスがサイバー・クジャッカーの武器チップから手に入れたエイミング・レーザーだ。
 データの中に残るストーム・フクロウルの弱点攻撃は、エックスのエイミング・レーザーとゼロの落鳳破の二つ。
 セイアは、バスターにエイミング・レーザーを装填しつつ、左手にエネルギーを集中させる。
そして、再び空へと舞い上がったフクロウルを何重にもロックオンし、エイミング・レーザーを放つ!
「喰らえっ!!」
 バスターから幾重にも重なるレーザーの帯が伸び、フクロウルを包み込む。
色彩豊かなエネルギーの帯は、その見た目とは裏腹に、手加減は知るはずもなかった。
 言葉にならない悲鳴と共に、フクロウルはエイミング・レーザーの光に焼かれていく。
ようやくレーザーの射出が終わったときには、フクロウルはボロボロの体躯で煙を上げながら落下を始めていた。
 セイアは間髪入れずにエネルギーの充填された左手の拳を足元の地面に叩き付けた!
 フクロウルの足元から、巨大なエネルギーの塊が一気に噴出する。
 落鳳破をⅩ・滅閃光の要領で放ったラーニング技だ。簡単に云えば、落鳳破をⅩ・滅閃光で再ラーニングした。
敢えて呼ぶとしたらⅩ・落鳳破とでも云うべきか。
 もはや防御体制もままならないフクロウルに止めをさすには、Ⅹ・落鳳破の威力は充分過ぎる程だった。
直撃するエネルギーに次々と装甲を削がれ、砕かれ、フクロウルは空中で粉々に四散した。
 地面に激突し、更に粉微塵と化したフクロウルを見詰めて、セイアはかくんと地面に膝を突く。
X・ラーニングシステムで既存の技を再ラーニングしたのと、
今まで使用したことがない特殊武器を唐突に身体に適用させたのに加えて、尚且つパワーアップしたフクロウルとの戦闘が、
セイアの体力を大きく奪っていたのだ。
 はぁはぁと肩で息をしつつ、セイアは遠くから駆けてくるウィドの姿を確認した。
 膝を突いた自分を心配して駆けつけてきてくれたのだろうとセイアは思ったが、
その形相はどこか異様な焦りを賛えていた。
 エネルギーを浪費し、判断力が鈍ったセイアは、ウィドの叫びに、反応が一瞬遅れてしまった。
「セイア!!」
 セイアがウィドの言葉の意味に気が付いたときには、既に遅かった。
「えっ?」
「後だっ!!」
「なにっ!?」
 振り向いた瞬間、セイアの視界に飛び込んで来たのは、セイアのヘルメットと同じくらいの大きさの影。
慌ててバスター形態だった右手で受け止めると、それが一体のメカニロイドの様な機体だということが確認出来た。
 ジュルジュルと半透明なジェル状の液体に包まれた、不思議な形をしたメカニロイド。
それは簡単にいえば、レプリロイドの頭部だけを切り取ったような姿で、そこから数本の触手が生えている。
「な、なんだコイツは!?」
「くっそ!」
 ウィドのレーザー銃の銃口が爆ぜた。
直進したレーザーは、寸分の狂いなくメカニロイドのボディを撃ち抜いていく。
 数発のレーザーに貫かれたそれは、呆気ない程簡単にセイアの腕からずり落ち、
ベチャリと音を立てて地面にぶつかった。
 数秒の間だけ、メカニロイドの亡骸はバチバチと音を立てていたが、すぐに沈黙し、機能を停止した。
「間に合ったか・・?」
「コイツは、な、なに?」
 少しだけ眉間にシワを寄せて、ウィドは呟く。
 セイアは、もう動かないそれをマジマジと見詰めて、何故だかゾッとするような感覚を覚えた。
何故だか判らないけれど、何か異様なまでの恐怖感を覚えるメカニロイド。
 そんな得体の知れない恐怖を拭うように、セイアはぶんぶんと首を振る。
 ウィドは、そんなセイアを少し心配そうな瞳で見詰めて、慌ただしくセイアの肩を掴んだ。
「セイア!どこもなんともないな!?平気だろうな!?」
「うわっ、ちょっ、ウィド」
 がくがくと揺さぶられ、セイアは慌ててその手を振りほどいた。
「もぉ」
 何云ってるのさ、大丈夫だよ――セイアがそう口に出そうとした瞬間、アイカメラの機能が停止したかのように、
プツンと目の前の情景が掻き消えたような、そんな気がした。
 ゆっくりと全身の力が抜け、直立が保っていられなくなる。
まるで地球の重力が一気に何倍にも増えたかのように、身体が重い。
 ドサッと音を立ててセイアの身体が地面に受け取られた時、既に彼の意識はそこにはなかった。



 暗闇。自分の名を呼ぶ声は、とても懐かしい誰かの声だった。
 瞼が開かない。否。身体という感覚も、視界という感覚も、それを機能させる光すら、そこには無いのだ。
 手足を動かそうとしても、まるで空に浮いているかのように、手応えが全くない。
 自分を呼ぶ声すら、頭に直接響いてくるようで、彼は言い様のない不安感に襲われた。
『セイア・・・』
 何度目かに自分の名を呼ぶ声。セイアは、声を出すという感覚さえも失っている為、
頭の中で懸命にそれに応えた。
 頭の中で言葉を思い浮かべるだけで、それは伝わったらしい。
その声はそれに反応してくれた。
『ボク?知ッテイルダロウ?』
「君は・・・誰・・」
『マダ判ラナイカイ?』
 ポゥッと、暗闇の世界にたった一つの光源が現れた。
 同時に今まで感じることが出来なかった視覚が、急速にその役目を担い始める。
普段なら眩しさで目が眩むほどの光量だが、それは意外なに抵抗無く彼の視界へと飛び込んできた。
 ダークグリーンの光球は、ふよふよと彼の周りを一周したあと、
一瞬の強い発光と共に姿を変えた。
 変化したその姿に、セイアは思わずあっと声を上げる。
『これで判ったかい?』
 ダークグリーンの髪に、鮮血の様な真っ赤な瞳。
表情はまだ少年のあどけなさが残っていて、身長もそれ程高いとは云えない。
 そんな彼の姿を見て、セイアは思わずゴクンと唾を飲み下した。
 目の前にいる少年の姿、それは――
「君は・・」
『そう、ボクは君。ボクは君の一部なんだ』
「僕の、一部・・?」
 セイアと全く同じ顔で、彼はニコリと頬笑む。
 その笑顔す間違いなくセイアと同じものだったが、その影に潜む邪気とも云える程の殺気に、
セイアは意識出来ない足が竦むような錯覚を覚えた。
『何を怯えているの?』
 こっちに来ないでと叫びたかったが、声が出なかった。
 ゆっくりと歩み寄ってくる彼の姿を拒絶しようと、セイアは少しずつ後ずさる。
それでも、全く後退しない。足という存在すら、ここには無いのだ。
「や・・」
『ねぇセイア、強くなりたくはない?』
 ニッコリとした笑顔。相変わらずの影を持ったそれは、表情を崩さないままに云う。
「あ・・っ・・」
『なりたいでしょう?だって、君は兄さん達から較べたらとても弱いもの』
「僕は・・・・弱・・・い?」
『そう』
 相変わらずの笑顔のまま、彼はセイアと全く同じ声を発し続ける。
『兄さんは死んだ』
「・・・!」
 ぼそりと呟かれた言葉に、セイアの身体がビクンと跳ねる。
 この一年間で、ようやく立ち直った記憶。
目の前で大好きだった兄が死んでいった瞬間の記憶が、セイアの脳裏に蘇る。
 彼は、兄は、エックスは何故死んだ――何故?
 それはワイリーに殺されたからだ。アイツが兄を憎んでいたからだ。
兄と自分を殺そうとしていたからだ。奴が全て悪いのだ。全て――
『何故だと思う?』
「・・っ、アイツが!ワイリーが!!・・撃った・・から、だから・・」
 後半の台詞は、蚊が鳴く程度の小さなものになってしまう。
 彼と目を合わせていられなくて、セイアは歯を食いしばりながら俯いた。
『それは君が単に逃げているだけだろう?』
「ちがっ・・」
『君がもっともっと強ければ、ワイリーを倒したあの力を最初から使えていれば、兄さんは死なずに済んだんじゃないかな?』
 ワイリーはセイアが斬った。エックスを殺されたことで激昂し、兄の最後の力であるアルティメット・アーマーを使用して。
 元々使用出来る筈のないアルティメット・アーマーを召喚して、スペックを大きく超える力を使って。
 あの力があれば、兄は死ななかったのではないか?――それは、この一年間ずっと考えないようにしていたこと。
『そんなに弱かったら、また誰かが死んじゃうかもよ?』
「また・・誰かが・・死ぬ・・っ?」
『そう。だから、もっと強くなろう』
 そっと手を差し伸べて、彼はまた笑った。
『さぁ、ボクの手をとった。ボクと一つになれば、君はもっともっと強くなれるんだ。この世で君に勝てる者はいなくなる』
「僕に、勝てる者は・・いなくなる・・・・・」
『そうすれば皆を護ることが出来る。兄さんだって、きっとみんなを護れって云う筈だろう?
 ゼロ兄さんだったら、その力でイレギュラーを根絶やしにしろって云う筈だ』
 セイアの瞳に光はなかった。
 感覚として存在し始めた二の腕。その片方が彼の掌に吸い寄せられるように伸びていく。
 アレを掴めば、強くなることが出来る。アレを掴めば、もう誰も死なずに済む。
アレを掴めば――

『セイア!気をしっかり持て!!』

 セイアの掌が彼の掌と絡む直前だった。
 不意にセイアとも彼との違う声が、セイアの頭の中に響く。
 それは二人の兄とも、自分の声とも違うものだったが、今のセイアにとっては、唯一の光明だった。
 ハッとしたように意識を目を見開くセイア。
彼は、そんな声にちっと舌打ちをしたあと、再びあの笑みを浮かべた。
『邪魔が入ったね。まぁいいや、その内また逢おうね、セイア』
 そしてセイアの視界は真っ白な光に覆い尽くされた。


「セイア!セイア!!」
 ゆっくりと目の前の景色が鮮明さを増していく。
 アイカメラの調節が間に合わなかったのか、最初はセピア色の風景だったが、
最初に飛び込んできた彼の必死な形相だけは、今のセイアにも確認することが出来た。
「ウィ・・ド・・?」
「セイア!気がついたか!?」
 アイカメラの調節がようやく出来たのか、景色に色がついたのはそれから数秒後だった。
 ぷるぷると頭を振って辺りを見回すと、必死に自分の肩を掴んでいるウィドと、
心配そうな眼差しでセイアを見詰めている数人の隊員。救助隊の出動を要請している隊員、
そして地面に砕かれたフクロウルの残骸が見えた。
「あ、あれ?僕は・・・あれ?」
「大丈夫か?セイア。危なかったな」
「えっ?何が?大丈夫だよ」
 ふりふりとバスターに変型させたままだった右手を振り、セイアは再び目を見開いた。
 さっきあの謎のメカニロイドに取り付かれた方の腕。今はバスターになったままの腕。
スッキリとした装甲に銃口がついているだけのシンプルなバスターだった筈のそれは――
「えっ・・」
 クリスタルの様なものが埋め込まれ、今まで紅だった装甲はクリアレッドの透き通るものに変わっていて、
表面には弓の様な飾りがついていた。
 周りの様子を見るに、気を失ってからそう経ってはいない筈だ。
そして、フクロウルと対戦した時点では、まだ普段のバスターだった筈。
 何が起こったのか理解出来ないままに、セイアは身震いをした。
再び脳裏で、彼の声が木霊したような感覚がこびりついていて、吐き気すらしてくる。
「セイア・・」
「えっ、ウィド・・?」
 そっと、変型したバスターの表面に掌を乗せて、ウィドはセイアの瞳を睨み付ける。
 セイアも、それに気圧されそうになりながらも、その瞳を見詰め返す。
今まで見たことがない程の緊迫感を持ったその瞳は、味方ながらに驚愕に値する。
「一つ、約束をしてくれ」
「約束?」
「あぁ」
「・・なに?」
「イレギュラーには、外敵には幾ら負けたっていい。生きていれば。
 しかし、内面の敵、自分自身には絶対に負けるな。判ったな?」
 普段のセイアならば、意味が理解出来ずに迷うところだろう。
しかし、今は違った。今はその意味が理解出来るような気がする。
 ぎゅっと左掌で右手のバスターを包みながら、セイアはグッとそれに力を入れる。
 レプリロイドは夢を見ない。そんな風に云われていたのはついこの間までだ。
今のレプリロイドは立派に夢を見る。睡眠という形でエネルギー供給も行う。
 しかし、アレは夢ではない。そう確信する。
このバスターが、何よりもそれを証明してくれている。
「判った」
 ウィドの言葉に、セイアは大きく首を縦に振る。
 ウィドがその答えに少しだけ笑みを浮かべると、さっき隊員の一人が要請していた救急隊が辿りついたのか、
独特の甲高い音が辺りに散らばった。
 担架を持って走り寄ってきた救急隊員に、セイアは大丈夫だと答えだが、
ウィドや部隊員達の強い要望で、結局素直に担架の世話になることにした。
 アーマーを解き、担架に運ばれながら、セイアは目を瞑る。
 スパイダス、フクロウル。存在しない筈の交戦。
その裏に、セイアは何者かの暗躍を確かなものとして感じていた。
 右手を視線の上に翳す。アーマーを解いたというのに、そこには異様な形をした痣がくっきりと残っていた。
 セイアは、場違いに微笑して、誰に云うでもなく呟く。
「・・負けないよ、絶対」
 ズキン。痣の出来た右腕が少しだけ痛んだような、そんな気がした。


次回予告

スパイダス、フクロウル。彼等を蘇らせた原因の名は『リミテッド』。
かつて、兄さん達が消滅させた悪魔の技術。
完全に消滅したと記録されている筈のそれは、確かに僕達を襲う。
そして、僕の前に現れる三つの影。
兄さんがいなくたって負けるもんかっ!リミートレプリロイドだろうとなんだろうと、
僕は打ち勝って見せる!それが例え、兄さんの姿をした敵でもだ!

次回 ロックマンXセイヴァーⅡ 第弐章~脅威~
「・・負けないよ。絶対」