ロクノベ小説保管庫 ロックマンコードⅠ 第弐章~激闘~

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メラメラと燃え盛る炎の中、二人の男が対峙していた。
青年・・と言うよりも、まだ少年の、蒼い鎧を身に纏った男。
そして、少年から青年になったばかりと言う印象を持つ、紅い鎧に金の美しい長髪の男。
--やめろ・・!君と闘う理由なんかない・・!!
次々と繰り出せる、青年の攻撃を受け流しながら、少年は叫んでいた。
青年と攻防を繰り広げる、その圧倒的な力など、微塵も思わせないほどの困惑の表情。
--うるさい・・!!オレは・・オレは貴様を倒す!それだけの為に生まれたんだ!!
--くっ・・!
更に表情を歪めながらも、少年は、青年の攻撃を屈んで避け、突き上げる形で蹴りを放ち、
一瞬の隙を目掛けて、右手のバスターを撃ち込んだ。
しかし、青年は殆どダメージが無いに等しい笑みを作り、叫んだ。
--フハハハ!嬉しいぜ・・ロックマン!!
--もう止めろ・・・止めてくれ!ゼロ!!
少年-ロックマンの悲痛の叫びも届かず、青年-ゼロの攻撃は止まなかった。
そう・・この時から既に・・既に闘いは始まっていた。

第一話

今の地球上で、一番高潔な水質を持つ大海『ロザルト海』。
その奥底に設置された、水質浄化装置。
ロザルト海の水質と、他の海の水質を比較し、日々世界の海原の清潔を保っている。
サキルスジャングルとの連携を持つこの海も、やはり全世界の中で、高確率の重要拠点となっていた。
そんなロザルト海を占拠した、ガイア・リカバリーズの殲滅・並びに解放が、今回のコードの任務だった。

任務内容を再確認し、ロザルト海に飛び込んで、ゆうに一時間は経過していた。
ベースを出る前に、メカニック・チームから渡されていた『ブレス・ユニット』と呼ばれる、
水中で呼吸することの出来る機器のお蔭で、水中に滞在する事は出来る。
しかし、未だに目的地どころか、敵さえ見えてきていなかった。
流石に疲れるな・・と、コードはひとりごちた。
多少警戒を解いて、泳ぎをコンビネーションからキックのみに切り替える。
と・・目の前を、数発の魚雷が通りすぎていった。
「っ!警戒といた途端にこれか・・!」
恐らく、あのまま進んでいたら、木っ端微塵とまではいかないものの、多少のダメージは受けていただろう。
魚雷の弾道から計算した、発射地点にバスターを向け、一発だけ光弾を放つと
素晴らしいタイミングで飛び出してきた、水中防衛用メカニロイドを、蒼い光弾は粉々に粉砕した。
「十体・・・いや・・三十体はいる!?」
人並み外れた聴力と、水中でも惜しみなく機能を発揮するメットが、
コードに、既にメカニロイドの大群に囲まれているた事を知らせてくれた。
泳ぎをとき、自由落下するままに、肩のオルティーガを抜く。
通常のセイバーやサーベルの場合、水中では機能上、最低限の使用しか行えない。
が、最先端技術で開発された、コードのオルティーガは、水中で使用する際、
エネルギー源を変換することによって、最大出力での使用が可能となった。
ほぼ同時だった。
オルティーガの刃が展開したのと、敵メカニロイド約三十体前後が、一気にコードに突撃し始めたのは。
「くっ・・この!このぉぉ!!」
水中では思うように運動性を発揮することが出来ないのは、いつの時代でも同じことだった。
深海での水圧も付加されて、地上では他愛のない相手にすら、今は苦戦を強いられていた。
大きく、魚雷の搭載された口部を開いたメカニロイドを、魚雷ごとオルティーガで斬り裂いた後、
後から迫ってきていた数体に、バスターを零距離から放ち、爆裂させる。
数発の魚雷が直撃したのか、背中に衝撃が走った。
その拍子に、コードの視界に、海の中の砂浜・・海底が映った。
重力というものが、余り影響力を持たない海中よりも、幾分闘いやすそうな海底。
コードは真っ先に後者を選び取った。
右の拳でメカニロイドを破壊し、そのまま手をバスターに変換し、
頭上に放つ。
バスターの推力を使って、一気に海底まで下ろうと言う作戦だ。

第二話

海底に足をつくと、辺り一面に砂ぼこりが舞った。
水中なので、余計に質が悪い砂埃の中から、メカニロイド達の放った魚雷群が、一気にコードを攻めたてた。
オルティーガで半数を斬り落とし、幾分動かしやすくなった身体で、残りの魚雷を躱す。
そして、ダッシュで前方へ突撃し、第二射を放つ直前のメカニロイド達を、
一気にオルティーガで細切れにしてみせる。
そして、振り返るざまに、頭上にバスターを構える。
そこには存在したのは、たった一機のメカニロイドだった。
バスターにエネルギーを収束させ、コードが吠えた。
「喰らえぇぇ!!」
が・・しかし、銃口から放たれたエネルギーは、
前回スネーキングを撃破した際の、凄まじい威力ではなく、
通常時と寸分変わらぬ、ただのエネルギー弾に過ぎなかった。
だが、それでもかなりの威力を有するそれは、そのままメカニロイドを撃ち抜き、粉々にしてみせた。
「・・ふぅ~・・・。全く・・いきなりだもんなぁ・・・。」
水中だというのに、無意識に汗を拭う仕草をしてしまった自分に、コードは苦笑すると、
再び表情を引き締め、己の右腕を見詰めた。
「でも・・・なんで・・?バスター・・どっか壊れちゃったのかな・・。」
右手を眼前に翳してみたり、引っ繰り返してみるが、外傷らしき傷跡は皆無だった。
幸い敵メカニロイドが出現する気配は感じられないので、その場で右手アーマーを開いてみようと、
左手をかけようとすると、突然背後から、どこか間の抜けた声が飛んできた。
「クフフフ!水中じゃあ、フルチャージでも、放電されちまうのさ!」
「誰だ!?」
素早くオルティーガを構え、コードは声のした方向-背後に振り返った。
「俺だよ!逃げも隠れもしない!」
視界に入ったのは、小振りな海底火山の上で、堂々と仁王立ちしている、蛙型レプリロイドだった。
レプリロイドは、コードがこちらに振り返ったのを確認してから、水掻きがついている両足で、
コードの数m先に飛び降りた。
「俺の名はスクリュー・フロッグス!フラット様の命により、貴様を抹殺・・並びに破壊する!」
フロッグスと名乗ったレプリロイドは、そう叫んで、右手を前方へ掲げた。
掲げた右手に、凄まじい量の海水が収束していく。
「ウォーター・サイクロン!!」
右手に吸引された海水が、凄まじい圧力で回転を加えられ、二発・・いや三発、
同時にコードを襲った。
「っ・・・なめんなぁ!!」
左手のバスターを構え、相殺を試みるが、威力が著しく激減したΦ・バスターと、
高圧力のウォーター・サイクロンでは、全く話にならなかった。
三発の蒼い光弾は、全てウォーター・サイクロンと激突するよりも前に、
無残にも消滅していた。
--なに!?

第三話

光弾を掻き消した水の竜巻は、一向にその速度・威力を緩めなかった。
コードがそれを確認した時には、既にウォーター・サイクロンは眼前に迫っていた。
舞い上がる砂埃と共に、回避を試みるが、機動力が充分に発揮できない水中では、
さしものコードも躱しきることが出来なかった。
一発のウォーター・サイクロンが、無理矢理にコードを海水と共に捩じ上げた。
「うっ・・あぁぁぁぁ!!」
身体が浮いた。
そのまま後方へ持っていかれる。
ブレス・ユニットは外れていない筈なのに、呼吸が出来ない。
それどころか、全身がバラバラに分解されてしまうような錯覚を覚えた。
「ふっ・・・他愛のない・・。」
フロッグスは、ウォーター・サイクロンの渦に呑み込まれていくコードを、そう言って嘲笑った。
フラット様に褒美でも貰うかな・・と、ブツブツと呟きながら、再び背後の海底火山の位置まで浮き上がった。
しかし、その直後、一発の蒼い光弾が、フロッグスの右肩を掠めていた。
「ハァ・・ハァ・・待てよ・・!まだ・・まだ終わっちゃいないんだ!!」
振り返ると、肩で息をしながらも、力強くバスターを構えたコードの姿があった。
ダメージは受けても、決して屈していないコードの姿に、フロッグスは苛立ちを覚えながらも、
自分の調子を崩さずに、余裕を見せつけた。
「ほぉ・・。俺のウォーター・サイクロンを受けて、立っていたのは貴様が初めてだ。」
口の片端だけをつり上げ、フロッグスは浮上を止め、再び海底に足を突いた。
「大人しく隠れていれば・・死なずに死んでいたかもな!」
「ふざけんな!僕の・・俺の足がまだ大地を踏み締めている限り・・俺は決して諦めない!!」
オルティーガを再び展開させ、コードは左足で海底を打った。
当然、辺り一面に砂埃が舞い、両者の視界を極端に悪くする。
それを見計らって、コードはダッシュで真横に移動しながら、バスターを乱射した。
フロッグスの大体の位置は、コードの並外れた視力で掴んでいる。
バスターで牽制しながら、一気に近付き、オルティーガで決定的なダメージを与える。
コードの作戦が、それだった。
「ふっ・・ならば・・貴様の身体ごと破壊してくれるわぁぁぁぁ!!」
「なっ・・!」
一気に砂埃が晴れた。
隠蔽攻撃中の、無防備なコードは、それに素早く反応することが出来なかった。
辺りの砂埃を吹き飛ばしながら直進する水の竜巻が、そのままコードの胴を直撃する。

第四話

「くっ・・・!うぁぁぁ!!」
諸に受け止めたウォーター・サイクロンが、コードのアーマーをギリギリと削り取る。
もはや液体ではなく、個体と化している水の塊を、両手で押し戻し、そのまま頭上に放るが、
立ち上がったときには、既に第二射がコードを直撃していた。
「ふははは!!」
甲高い笑い声を響かせながら、フロッグスは容赦無く連撃を与え続けた。
立ち上がっては直撃し、再び立ち上がっては直撃する・・。
そんな繰り返しが、既に十数回も続けていた。
--くそ・・どうすればいいんだ・・!バスターじゃ威力が足りない・・
オルティーガは届かない・・!どうすれば・・!
苦痛に表情を歪ませながらも、冷静に対処法を思考していたコードも、
度重なる攻撃に、ついにその場に膝をついた。
--なんとかして・・奴のウォーター・サイクロンを止められれば・・。
ウォーター・・・水・・水!?そっ・・そうか!
「どうだ!幾ら貴様でも、この攻撃には耐えられなかっただろう!!」
勝利を確信し、悪人笑いを浮かべながら、フロッグスは血走った目でコードを見詰めた。
その蒼い鎧は所々に傷がつき、彼の周りの海水を赤く染めている。
俯いているため、表情は見えないが、コードはまだ、諦めてはいなかった。
「さあ・・そろそろとどめと行こうか!!」
コードが顔を上げた。
ゆっくりと立ち上がり、叫ぶ。
「まだだぁぁ!!」
変化かが起こった。
蒼いコードの鎧が、頭部から順に、その色彩を黄へと変え始めた。
コ-ドの周りを、漏電したようにバチバチと電撃が走る。
「なんだ!奴にまだこんな力が・・?」
フロッグスは動揺に顔を覆った。
先程まで、血だらけで膝を突いていた少年が、再び立ち上がり、更にワケの分からない変化を発揮すれば、
誰だろうと驚くのは無理ないだろう。
「くっ・・・色が変わった程度で何が出来る!喰らえ!最大出力のウォーター・サイクロンだ!!
今の貴様に、これが躱せるかな!?」
通常のウォーター・サイクロンの、軽く四倍はあるであろう水の竜巻。
それが眼前に迫っているにも関わらず、コードは表情を変えなかった。
--エレクトリック・・・・アート!!
コードの右手に、黄のエネルギーが集中し、サッカー・ボール程度の光球を創り出した。
周りを駆け巡るスパークの渦が、それが電気の塊である事がわかる。
「なら・・・喰らえ!エレクトリック・アートだ!!」
右手に集中していた電気の光球は、更にその出力を増した。
コードは、それを勢い良く頭上に投げ、降下様に、思いきり蹴り飛ばした。

第五話

周囲の海水を押しのけながら、凄まじいスピードで飛翔するエレクトリック・アートと、
最大出力のウォーター・サイクロンは、真っ向から激突した。
その衝撃に、海底半径2mの地面が、大きく抉り取られ始める。
強力なスパークを持つ電気の球が、大きく水の竜巻の中心を貫通し、
更に勢いを緩めずに直進する。
「ひやっ!!」
フロッグスは咄嗟に避けたが、その次の瞬間には、
彼の全身を、電気の鎖が絡め取っていた。
「ギャッ!?な・・なにをした!?」
エレクトリック・アートによって、コードが生み出した電気の鎖だった。
逃れようと、必死にもがくフロッグスの抵抗も虚しく、電気の鎖は、更にその締めつけを増し続ける。
「ギッ・・ぐぇぇぇ・・!!」
「これで終わりだぁぁぁ!!!」
オルティーガを抜き、一気にフロッグスの位置まで浮上したコード。
大きく振りかぶり、そのまま振り下ろす。
その瞬間、フロッグスと目が合った。
レプリロイドの目だった。
人間ではないが、確かに生きている目だった。
このまま振り下ろせば、確実にフロッグスは絶命する。
しかし、斬らなければならない。
斬らなければ、みんなを護ることが出来ない。
斬らなければ・・・。
でも・・それは、自分達の独り善がりなのではないか?
彼らだって、護りたいもののために闘っている。
それを無情にも、自分は斬り殺そうとしている。
自分は・・・。
「バカなぁぁぁ!!!」
何万分の一秒の中の迷い。
しかし、答えが出る前に、オルティーガはフロッグスを斬り裂いていた。
目の前で爆発したフロッグスの爆風で、コードはそのまま後方へ投げ出された。
殺してしまった。
また自分は・・スネーキングに続いて、フロッグスを殺してしまった。
今までだって、イレギュラーと闘ったことはある。
しかし、コードは一度もイレギュラーを殺さなかった。
捕獲或いは気絶させ、ハンター・ベースに連行し、ルビウスに元に戻してもらう。
何があっても、その行為だけは忘れないようにしていたのに・・。
--僕は・・殺してしまったんだ・・。
「俺・・は・・また・・・殺した・・んだ・・!!
殺したくないのに・・・殺したくなんかないのに!!!!!」
両手を地面に叩きつける。
一気に砂塵が舞い上がった。
涙が流れても、水中なので、即座に混じってしまう。
それがたまらなく悔しかった。
自分を否定されているようで、悔しかった。
「うっ・・・ぅぅ・・・・。・・・?」
ふと、眼を開くと、目の前に一つの光球が漂っていた。
右手でそれを手にとってみる。
武器ユニットチップだった。恐らくフロッグスのものだろう。
「スクリュー・・フロッグス・・。一緒に闘おう・・。」
コードは、そう呟いて、ウォーター・サイクロンのユニットチップを、右手のバスターの中の端子に繋いだ。

第六話

次の目的地は、ベースから西へ300kmに位置する、巨大な火山。
ヴェルカノ火山と呼ばれている所だ。
ヴェルカノ火山は、その豊富な熱エネルギーを利用した、火力発電所。
その並外れた発電量は、世界の30%を占めると言われている。
もし、ここが占拠され、稼働しなくなった場合・・・。

火山かぁ・・。熱いとこ苦手だなぁ・・。
そんな事を考えながら、コードはライドチェイサーを走らせていた。
あと20km程で、ヴェルカノ火山に到着する。
恐らく、今回もボスがいるだろう。
ならば、今回は殺さずに拠点を解放しよう。
今ならそれが出来るはずだ。
思考を巡らせながら、チェイサーのサドルを横に切る。
「・・・・!?」
突然の発砲音。
角に入ったところで、数体のメカニロイドが立っていたのだ。
放たれたエネルギ-弾を、右手で地面に叩き付け、消滅させると、
コードはすぐさまライド・チェイサーを乗り捨てた。
カプセル状にしたライド・チェイサーは、後六機程身につけている。損害はない。
連続的に飛んでくるエネルギー弾の雨を潜り抜けながら、バスターにエネルギーを集中させる。
そして、不意に立ち止まり、全員の銃口が自分に向いたところで、そのエネルギーを一気に解放してやる。
まるで蚊でも叩き落とすかのように、メカニロイドのエネルギー弾を弾きながら、
直進するΦ・バスターの光は、そのまま一直線にメカニロイド達を包み、粉微塵に粉砕した。
「ふぅ・・・イキナリなんなんだ・・?」
半径50m以内に、敵がいない事を確認してから、コードはボソッと呟いた。
しかし、よく考えればすぐに理解できることだ。
ガイア・リカバリーズは、何も重要拠点だけを占拠するとは言っていない。
だからこそ、自分がたった一人で拠点の解放を行っているのだ。
他のハンター達は、無事に街を解放できているだろうか?
熱源反応を見る限り、ここからヴェルカノ火山までの道のり全てが、メカニロイドで溢れている。
戦闘は避けられない。
このまま突き進むしかないようだ。

「うぉぉぉぉ!!!」
とりあえず、全速力で走りながら、目の前に出現したメカニロイドをオルティーガで斬り裂いていく。
あと少しで火山に着くことが出来る。
一回り巨大なメカニロイドを、力任せけぶった斬ると、真っ二つになったメカ二ロイドの影から、
街の看板と、編隊を組んだメカニロイド達が見えた。
「っ!やべぇ!!」
叫んだときには遅かった。
エネルギー弾は豪雨となって、コードの全身を襲っていたからだ。
「ぐっ・・・っそぉ・・!!」
なんとか側転で回避し、そのまま脇の森林地帯へ飛び込み、難を逃れたが、
絶対に視覚では見えていないはずの木々の間にまで、メカニロイド達のエネルギー弾は、しつこく追いかけてきた。
十回程バック転をし、なるべくメカニロイド達から間合を広げると、ようやくエネルギー弾の豪雨は止んだ。

第七話

木々の間に倒れ込んで、全身の傷の状態を確認する。
ヘルメットと右肩アーマーに、少しだけ傷が入っている。
幸い、生身の肉体の方にはダメージは無いようだ。痛みも無い。
ヘルメットを脱いで、額の汗を拭う。
アーマーは全身を密封してしまうため、風通しは最悪だ。
しかし、このアーマーの作り出す、あの巨大なエネルギーを思えば、それも納得することが出来た。
「・・熱・・ねぇ・・・。熱源反応・・・・。」
そう呟いて、コードはハッとした。
自分は大体の熱源反応を感知することが出来る。
ならば、熱源レーダーを搭載しているメカニロイドがいても、なんの不思議も無いはずだ。
これで、視覚では確認できない位置から攻撃された事に納得がいく。
「・・・・・。」
もう一度、あの瞬間を思い出してみる。
こちらへ銃口を向けるメカニロイド達。その脇には何があった・・?
街の看板だ。つまり、あそこに街があると言うことだ。
占拠されている・・?
しかし、あの街を通らなければ、ヴェルカノ火山に一直線に行くことが出来ないのも、また事実だ。
いいだろう。やってやろうではないか。
街を解放することは、他のハンターもっている、今の世界の第一任務。
そして、敵の数はかなりのものと見た。アーマー着装状態で挑んでも、熱源反応に察知され、
その圧倒的な数に捩じ伏せられるに決まっている。
ならば答えは一つだ。
“正面から挑む”。
コードは、アーマーの腰部分に着けておいた、一つのカプセルを取り出した。
カチッとボタンを押し、足元に放ると、綺麗に畳まれた、一着の服が現れた。
ベースを出る際に、ブリエス総監が万一の時のために、持たせてくれたものだ。
まさか、こんなにも早くこれの出番が来るとは思わなかった。

木々の脇から近付き、街の入り口で編隊を組んでいるメカニロイド達に、一気に飛びかかる。
突然の出来事に、処理しきれていない、メカニロイドのお粗末な電子頭脳に、凄まじく重い拳を打ち込んで、
次々となぎ倒していく。
数えて七体にもなったメカニロイド達も、彼の突然の出現に、対応が遅れ、その間に彼の拳によって、
呆気なく昇天していった。
「ふぅ・・・やっぱりアーマーが無いと軽いや。」
殴った右手をプラプラと振り、そう呟いたのは、平凡的な蒼いパーカーとジーンズを着た、蒼い髪の少年だった。
ロックマン・コード擬人化モード。
元々、人間の肉体にアーマー・・と言う構造のロックマン・コードから、アーマーを取り外し、
一人の人間として独立させた状態である。
目的として、コードが普通の人間としても生活出来るよう、
隠密任務中に正体がバレないようなど、様々な用途が揃っている。
一瞬の発砲音が響いた。
三体のメカニロイド達が放った、ビーム・マシンガンを側転で避け、起き上がりざまに回し蹴りをかけ、
三体の内二体のバランスを崩し、懲りずに銃口を向けてくる一体に、思い切り拳を打ち込み、破壊した。
起き上がってきた二体を、大振りの蹴りで斬り裂くと、指令を失った下半身と、打ち砕かれた上半身は、
地面に着地する前に爆裂し、その残骸を地面に散らばせた。
この様子では、かなりの量のメカニロイドが、町に蔓延っていることがわかる。
半端な覚悟では片付けられそうにないな・・。

第八話

物陰から、一体一体素手で処理していくが、見る限り、一向にメカニロイド達は、その量を減らしていない。
どこか、司令頭の様なものがあれば、それを破壊し、一気にメカニロイド達を一掃できるのだが・・。
それにしてもおかしい・・。なかなか大規模な街だというのに、人っ子一人居ない。
まさか・・!
嫌な予感を振り払おうと、頭を振ると、不意に地面に散らばった、赤い液体の水溜まりが目に入った。
レプリロイドのオイルでは無い。
しかし、独特の粘着性がある。
「あっ・・・・ぁぁ・・・。」
少し視線を上げると、次にコードの視界に入ったのは・・・。
子供を抱いたまま倒れ込んだ母親。
驚いたように目を見開いたまま、永遠に動かない子供。
「あぁ・・・いや・・・だ・・・!」
拒絶するように、後に後退すると、誰かの喘ぐような声が、コードの耳に染み込んだ。
人・・?まだ生きてるのか・・?
振り向いて、視線を落とすと、三十半ば程の男性が、助けを求めて、こっちに手を伸ばしていた。
「だ・・大丈夫ですか!?」
駆け寄って、抱き起こす。
すると、男性は震える掌で、必死にコードの頬に触れた。
「今・・すぐ・・手当てを・・・。」
言いかけた瞬間、ズルリとコードの頬から、男性の掌が落ちた。
その軌跡に、ゆっくりと手を添えると、真っ赤な液体が絡みついてきた。
血・・・!
恐らく、今のコードの頬には、真っ赤な鮮血のラインが引かれているだろう。
「あ・・あぁ・・・。」
その瞬間、コードは甲高く響く、誰かの叫び声を聞いていた。
嫌だ・・嫌だ・・。
イヤダ・・・。
初めて目の前で『ニンゲン』が死んだ。
レプリロイドの・・イレギュラーの最後は、今まで何度か目にしている。
いや・・自分だって、彼らに最後を与えてしまった。
だけど・・人間が死ぬところを見たのは初めてだった。
全身の血液が凍りついた錯覚を覚えた。
なんで・・死んだの・・?
僕が・・間に合わなかったから・・?
それとも・・フラットが・・ガイア・リカバリーズが仕向けたから・・?
許さない・・。
許せない・・。
護りきれなかった自分自身を。
アイツ・・フラットも。
必ずアイツを・・。
コードの意識は不意に現実に引き戻された。
それを促したのは、そう遠くない場所から響く、少女の悲鳴だった。
俺は今・・何を考えていた?
フラットを・・殺したいと思った?
倒したいじゃなくて?
なんで?
なんでなんでなんでなんで。
「っ・・・急がないと。」
無限に疑問符を上げ続ける頭を、必死で制して、コードは頭を右手で軽く小突いた。
早く行かなければ・・。
また被害者を増やしてしまう。

第九話

地面を蹴って、建物の曲がり角を曲がった。
途中、数人のメカニロイドが、ビーム・マシンガンを浴びせ掛けてきたが、全てコードは素手で破壊した。
最後の一体を破壊し、見えたのは、巨大なメカニロイドの後ろ姿と、恐怖で尻餅をついた、茶髪の少女だった。
少女はまだ怪我を負っていない。
最初は、足元に転がっている、メカニロイドのマシンガンを使おうかと思ったが、
もし万が一外し、少女に当たってしまっては元も子も無い。
考えている時間はない。
コードは、転がっていた手頃な小石を拾い上げ、メカニロイドの後頭部に向けて、思い切り投げつけた。
コードの投石音に、反応こそ示したものの、それを躱すには、メカニロイドのお粗末な頭脳では無理があった。
乾いた音を立て、メカニロイドの後頭部は、ものの見事に凹んだ。
「待て!お前の相手は俺がする!!」
巨大なメカニロイド。
恐らく、全長三mは軽くあるだろう。
コードが見た所、多分コイツがメカニロイド達の指令頭。
コイツを破壊すれば、街全体のメカニロイドは停止する。
武装は・・、巨大なハンマーが一つと、頭部にバルカン袍。
当たりさえしなければ、なんとかなるレベルだ。
自分に投石したコードを、「敵」と認定した巨大メカニロイドは、襲っていた少女をそっちのけ、
コードに向かって、その巨大なハンマーを投げつけた。
当たれば間違いなく粉々だろう、強力なハンマー。
しかし、そんな直線的な攻撃を受けるほど、コードは鈍くはなかった。
流れるようにハンマーを躱し、一気に懐に飛び込む。
リーチの短いハンマーでは、この至近距離は攻撃することが出来ない。
問題は、頭部のバルカン袍だ。
まずそこに狙いを定める。
跳躍からの浴びせ蹴りを放ち、頭部に強烈な蹴りを叩き込む。
一旦間合を取ると、メカニロイドはしめたとばかりに、頭部のバルカンを発砲した。
が、銃口がコードの蹴りのせいで歪み、発射口を失った弾は、そのままメカニロイドの頭部で爆発し、
メカニロイドを大きく仰け反らせた。
「今だっ!!」
その隙を突き、コードは堅く握り締めた拳で、一気にメカニロイドの腹部を貫いた。
大分強化してあった様だが、高速の回転を加えたコードのブロウは、難なくその装甲を破壊した。
その傷口から、一気にメカニロイドの全身に亀裂が走った。
まずい・・こんな距離で爆発されたら、自分はいいとしても、近くの少女に被害が及ぶ。
すぐに拳を引き抜き、近くでヘタレ込んでいた少女を抱き上げ、出来るだけ大きく跳躍した。
その二秒後に、たった今コードが居た場所に、高熱の圧力が迸った。
安堵の溜め息をつき、着地した場所に、出来るだけ優しく彼女を降ろす。
「大丈夫?」
そう尋ねて、彼女の瞳を覗き込んだ。
綺麗な翠色の瞳だった。
身長は、コードよりも幾分小さく、いかにも「女の子」と言う感じ。
頭髪は、ショートの茶髪。
彼女の瞳を直視した時、コードの心臓は思わず跳ねた。
あ・・あれ・・?
「あっ・・・。」
未だに上手く状況が呑み込めないのか、彼女の声は、うまく発音出来ていなかった。
コードは、すぐにモヤモヤした感覚を振り払い、もう一度言った。
いつもと同じように、無邪気な少年の声で。
「怪我とか無い?・・・。あっ・・もう大丈夫だよ。もうアイツらは襲ってこないはずだから。」
少女は、少し安心したのか、深く息を吸い、吐いた。
少し上目遣いでコードを見詰めてくる。
赤面してくるのが、自分でもよくわかるが、それが外に出ないよう、寸での所で我慢した。
「あ・・の・・・。ありがと・・う・・。助けてくれて・・。」
まだ少し引っ掛かっているが、少女はようやく口を開いた。
「良かった・・。大丈夫みたいだね・・・。それじゃあ・・僕はもう行くから。気をつけて・・。」
月並みの言葉しか言えなかった自分に、内心苦笑しながらも、コードは右手でバイバイの合図をすると、
彼女とは逆の方向へ向かって、クルリと振り返った。
なんでだろう・・?
少しもの寂しさを感じるのは・・。

第十話

突然、後から呼び止められた。
その声は、間違いなくさっきの少女の物で、コードは思わず、慌てて振り返ってしまった。
「・・?」
「あの・・その・・・名前・・。」
「名前?」
この娘は自分の名前を聞いているのだろう。
しかしなんて答えればいい?
もし、今「ロックマン・コードだ」などと答えれば、どこから情報が漏れ、
再びこの街が戦場になるかわからない。
どうしよう・・。
「・・松浦・・輝・・。」
突発的に思いついた名前を口にしてしまった。
マツウラ アキラ。自分で考えておいて、嫌に古風な名前だと自嘲した。
「松浦 輝君・・。私はヒカル・チェレスタ。」
「ヒカル・・さん。そっか・・良い名前だね。
それじゃ・・僕はあんまり長居出来ない・・。さよなら。」
「待ってってば。」
また勢いを殺され、コードはポリポリと頭を掻いた。
「あなた・・怪我してる。」
「怪我・・?」
「うん。左肩の所。」
右手で左肩に触れてみる。
少しの鈍痛と一緒に、右手が鮮血で濡れた。
しかし、こんな怪我は大したことじゃない。
「良かったら・・私の家に来てくれない?その・・手当てくらいは出来るから。」
「えっ・・?・・・・・・わかった。」
なんで断らなかったんだろう・・?
只でさえ、これ以上ここにいるのはマズイというのに・・。

彼女-ヒカルの家は、街の端っこに立っている、大きめの一軒家だった。
この時代だと言うのに、木造の渋い造りだった。
誘われるがままに、リビングルームに通されると、少し経ってから、ヒカルは救急箱を持って駆け寄ってきた。
「早く消毒しないと化膿しちゃうから。肩出して?」
「いっ・・?」
思わず顔が真っ赤になった。
多分、ヒカルにも見えただろう。
別に恥ずかしがることなんか無いのに・・。
ちゃんと上着の下にも、何枚か着ているんだ。
別に・・。
そう自分に言い聞かせて、少し赤く染まってしまったパーカーを脱ぐ。
下に着ていた、半袖シャツの左肩部分も、大分血で染まっていた。
この服はもう着られないな。
「ちょっと染みるかもしれないけど・・我慢してね。」
改めて傷を見ると、思いの外酷い傷だった。
ハンマーを紙一重で回避したとき、掠ってしまったのだろうか?
ヒカルは、慣れた手つきで、傷口に消毒液を垂らし、よく馴染ませてから、
傷口周辺の固まった鮮血を拭き取ってくれた。
傷の手当ては、今まで粗方自分でしてきた為、他人にしてもらった事が無いコードは、
少しくすぐったような感覚を覚えた。
「きつかったら言ってね。」
そう声をかけてから、ヒカルは左肩に包帯を巻き始めた。
薄くもないし、厚くもない、丁度良い手当てだった。
急いでパーカーを着直そうとすると、ヒカルに制止された。
「そんな血だらけの服着ちゃ駄目だよ。」
「でも・・僕これ一着しか持ってないし・・。」

第十一話

何がどうなって、こう言う状況になったのだろう?
コードは、与えられた部屋の、ベッドに転がり込んで、天井を見上げた。
ヒカルは、あの後、血で汚れたコードの服を、洗濯してくれると言い始めた。
何故か断ることが出来ず、後は成すがままだった。
「どこに住んでるの?」と聞かれて、つい押し黙ってしまった。
思えば、あの時適当なことでも言っておけばよかったんだ。
彼女は「だったらウチの泊まればいい」と、突発的に提案した。
「どうせ部屋沢山あるし。」
そう言う問題じゃ無いと思う・・。
でも・・なんだか、納得出来た。
訳が分からないまま、街を占拠され、人々は惨殺され、助かったのは、恐らく彼女だけだろう。
後で、一度街全体を歩くつもりではあるが。
要するに寂しいのだ。
誰でも良いから、傍にいて欲しいのだ。
僕だって同じだ・・。
そう思ってしまった。
イキナリ闘いに巻き込まれて、今はたった一人で世界を転々としている。
顔を合わせるのは、敵ばかり。
極端に言えば、360度敵だらけ。
そんな状況の中で、寂しくないと言えば嘘になる。
「僕・・・どうしちゃったのかな・・。」
声に出して言ってみる。
だけど、幾ら寂しくても、いつもなら大丈夫の筈だ。
なのに、彼女がそう言ってくれたとき、何故か凄く嬉しかった。
彼女の傍にいたい。漠然とそう感じた。
「・・・もぉいいや・・。難しい事は・・・考えないようにしよう・・。・・・疲れた・・。」
そう言えば、ここの所余り眠っていなかった。
彼女を護るためにも、起きていなければと言う表面意識を押し退けて、
睡眠欲はいとも簡単に、コードの意識を眠りの大海へと突き落とした。

夢を見た。
「学校」に行く夢だった。
アハハ・・学校なんか行ったことないのに。
行く必要ないんだ。元々、色んな知識を叩き込まれているから。
夢の中の僕は、なんだか凄く楽しかった。
見たことが無い、なのに凄く懐かしい友達と、一緒に笑っていた。
でも・・同時に、誰かの墓石の前で、涙を流していた。
頬を流れる雫に、何か決定的な「隙間」を感じたんだ。
どんなに幸せになれても、どんなに笑えるようになっても、決して埋まることのない「隙間」。
これは誰の意識・・?
全く知らない光景なのに、凄く懐かしいのはなんで?
「お兄ちゃん・・・。」
夢の中の僕は、知らずにそう呟いていた。
足元の水溜まりに映った僕の顔は、顔の作りはそのままに、少し明るめの空色の髪をしていた。
頭が痛い・・。
なんで・・夢の中なのに泣けるんだろう・・?
なんで・・知らない記憶に、ここまで心を痛めるんだろう・・?
また・・前に見たことのある、翠の瞳をした僕よりも少しだけ年上の男の人が、
優しい笑顔を僕に向けてくれた気がした。

第十二話

うっすらと眼を開くと、心地の良い朝の光が、目一杯視界に入り込んできた。
良く眠ってしまった。
身体を上半身だけ起こすと、毛布の上に、昨日着ていた蒼いパーカーが、綺麗に畳んで置かれていた。
穴の空いた箇所は、ちゃんと継ぎ接ぎがされていて、こびり付いていた鮮血も、ちゃんと落とされていた。
彼女が昨日、持ってきてくれたのだろうか?
ゆっくりとパーカーに袖を通しながら、コードはふと考えた。
自分が眠ってしまって、気付かなかったとすれば、大分遅い時間帯だったのだろう。
気付くことが出来なかった、無防備な自分を叱咤しながらも、
わざわざ赤の他人の為にここまでしてくれるヒカルに対して、感謝の念を送った。
静電気で貼り付いた髪を、軽く手で払うと、後ろ髪に寝癖がついているのか、嫌に固まった感触を感じた。
揉み上げと後ろ髪が、無駄に長い自分の髪型を、少し恨みながら、コードは仕方なしに、
服と一緒に転がっていた、輪状の髪止めで、自分の後ろ髪を縛りつけた。
これも、ヒカルが持ってきてくれたのだろうか?
それとも、彼女が使っていたものが、部屋に来たとき偶然落としてしまったのだろうか?
・・・考えてみても、答えが出るワケではないので、コードはそこで思考を止めた。
今日はヴェルカノ火山を解放しなければならない。
余り放っておくと、とんでもないことが起こる上、またこの街が戦場になる可能性が出てくる。
しかし、突然姿を眩ませるわけには行かない。
彼女が・・・不安になるから?
コードは、意外と心配性な自分に、内心苦笑した。
ふと、時計に目をやると、もう八時を指していた。
そろそろ起きた方がいいな。

階段を降りて、リビングルームへ行くと、既にヒカルが、二人分の朝食を用意して待っていてくれた。
ヒカルは、コードの姿を確認すると、コロコロとした笑みで、こっちに手を振ってきた。
「おはよう。ちゃんと眠れた?輝君。」
「・・・おはよう。ヒカルさん。」
「あっ・・ヒカルでいいよ。それと、いつまでも立ってないで、座って。」
コードは、軽く踵を返して、一番近くにあったイスに、とりあえず腰かけた。
なんだか不思議な感じがする。
いつもは、ベースの冷たい金属イスなのに、今は暖かみのある木製のイスに座っている。
本当に「ロックマン・コード」と言う、イレギュラー・ハンターから、
「松浦 輝」と言う、一人の人間になったみたいで、少し柔らかい気持ちになれた。
そう言えば、出撃してからの一週間、一度も気を抜いた事が無かった気がする。
常に敵陣の中にいる様に、キリキリとした緊迫感の中にいたから。
だから、久しぶりに、穏やかな気持ちになれた。
「あの・・おいしくないかもしれないけど。」
「あっ・・ううん。」
ヒカルが淹れてくれたお茶を受け取りながら、コードは慌てて返した。
両手を合わせて、行儀良く「いただきます」と言ってから、とりあえずベーコンエッグを少し口に入れてみる。
・・おいしかった・・。
ベースで、人間職員用の購買部で買う、簡単な食事よりも、段違いにおいしかった。
「・・・おいしいよ。」
そう言ってやると、途端にヒカルの顔が明るくなった。
その太陽の様な笑みを見て、コードの心臓は、また跳ね回った。
病気にでもかかったのかな・・。

第十三話

朝食を食べ終えて、食器を片付けてから、コードは一応ヒカルに言っておいた。
「あの・・ヒカ・・ル。僕ちょっと行きたい所があるんだけど。」
「えっ・・?」
それを聞いたヒカルの表情に、少し暗みがかかった。
もう帰ってこないとでも思ったのだろうか。
「あっ・・大丈夫。ちゃんと帰ってくるから。」
「本当?じゃあ・・お昼には帰ってきてね。」
「う・・ん。多分。」
約束は出来ないけど・・。
コードは、心の中で呟いた。
いやいや・・ちゃんと拠点も解放し、ちゃんと帰ってこよう。
ここでやられるわけには、いかないのだから。


頭上から大量の迫り来る、コウモリ型のメカニロイドを、バスターで撃ち落としながら、
真っ赤に変色して見える洞窟の中を走り抜ける。
途中、殆ど90度になってしまった斜面と、どこに続いているか分からない洞窟を見て、
コードは迷わず後者を選んだ。
別に三角蹴りで壁を登っても大丈夫だが、相手は自分と同じ能力を持つであろう、ロックマン・フラットだ。
そんな安易な考えでは、恐らく通してもらえない。
何か罠が用意してあるに決まっている。
しかし、後者とて同じだ。
密閉されたところで、マグマを流し込まれれば、一巻の終わり。
しかし、大量の出現したメカニロイド達が、コードに迷っている時間を与えてくれなかったのだ。
進めば進むほど、辺りが熱気で赤く変色し始める。
実際、気温はかなり上昇している。
現在温度は、軽く五十度を越えていた。
「くっ・・すげぇ熱気だ・・。」
思うように動けない。
それでも、しつこく追い回して来る、コウモリ型メカニロイドを、オルティーガで粉微塵に斬り裂き、
コードは、額を流れる汗を拭った。
こんな所、長時間はいられない。
「はぁ・・はぁ・・熱い・・。」
壁によりかかり、必要以上に荒くなった息を整える。
耳鳴りがする。
まるで、津波が押し寄せてくるみたいな音だ。
大分熱いんだな・・、これなら、レプリロイドの方が有利かも・・。
そんな事を馬鹿馬鹿しく考えていると、耳に響く津波の音は、更にその規模を増し始めた。
大分クラクラしてるのかな・・。
いや・・・・違う!
突如、今までコードが走ってきた方向から、真っ赤な高温の津波が押し寄せてきた。
「なにっ!!?」
咄嗟にバスターで天井を撃ち、進路を塞いだ。
落盤の発生を心配している余裕など、今は無い。
が、そんなものは、高温の津波には何の影響も無かった。
塞がった進路を、無理矢理こじ開け、再びこっちに押し寄せてくる。
もう後に行くしかない。
エレクトリック・アートで壁を創り、一瞬でもそれを食い止めると、コードは振り返る余裕も無く駆け出した。

第十四話

走れば走るほど、コードとマグマの間合は縮まりつつあった。
これでは、いつか追いつかれてしまう。
そう思った矢先だった。
目の前が行き止まり、コードの行く手を塞いだのは。
「くっ・・どうしよう・・。どこか・・・。」
左右を確認しても、通路は存在しない。
コードは、半ばヤケになって、頭上を見上げた。
あった!道はあった。
天井が、その部分だけポッカリと空いていて、微かに上から光が降っていた。
思いきり地面を蹴り、跳躍する。
その三秒後に、今までコードが立っていた場所が、マグマの津波に呑み込まれ、真っ赤な水溜まりを作った。
しかし、それだけでは終わらない。
行き場を失ったマグマは、たった今コードが跳んだ隙間に、行き場を求めてせり上がってくる。
と、コードの上空に向かう推力が止まった。
幾らコードとて、重力の力には、完全に打ち勝つことは出来ないのだ。
そして、重力に引かれた物体は、有無を言わさず、地球の心臓部に引きつけられる運命。
つまり、コードはこのまま落下し、マグマに呑み込まれるしか術は無いのだ。
「っ・・・エレクトリック・アート!」
マグマに接触する、僅か三十cm前で、コードは電気の鎖を側壁に突き刺し、
そのまま側壁を蹴って、一気に駆け上がった。
三角蹴りと呼ばれる移動法。
元々、「三角蹴り」などと言うスペックは存在しない。
使用者が、自らの体術で実現しなければならない技。
その難易度から、イレギュラー・ハンター設立時から、伝説の技として皆に語り継がれている。
「もうちょっと・・・!!」
既に手を伸ばせば届く場所に、蒼い空は見えていた。
最後に思いきり壁を蹴る。
そして、足場着くと同時に、横に向かってダッシュし、出来るだけ穴から離れると、
コードの背後では、マグマの噴水が、止めどなく溢れ返った。
「ふぅ・・・。」
ホッと胸を撫で下ろす。
あと一瞬遅れていたら、自分はドロドロのシチューにされていただろう。
「・・・んっ・・?」
ハッとして、振り返ってみる。
不自然に設置された鋼鉄の扉。
恐らく、ここにこの拠点のリーダーがいるはずだ。
大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。
今度は殺さない。そして、必ず帰る。
その二つを、堅く心に刻み込んでから、コードは鋼鉄の扉を、問答無用のチャージ・ショットで破壊した。

ただった広い戦闘室。
床から天井、側壁まで金属性の、完全に戦闘を目的とされた部屋だった。
少し薄暗いため、部屋の隅から隅までを見渡すことが出来ない。
見た所、レプリロイドらしき姿は見えない。
熱源反応でサーチしようにも、火山が作り出す高熱が、それさえも許してくれそうにも無い。
そして、熱さのせいで集中力を欠いたコードには、小さな気配までも読み取る余裕は無かった。
「っ・・・敵はいないのか・・?」
「ようやくここまで来たな。ロックマン・コ-ド!」
「誰だ!!?」
何か強力な熱の塊を感じて、コードは咄嗟にバック転でそれを躱した。
標的を外れたそれは、そのままの勢いを保ちつつ、部屋の側壁に直撃した。
高出力の焔の塊だった。それを諸に受け止めた側壁は、モノの見事に溶解し、
炎弾の威力を身をもって証明してくれた。
炎弾の軌跡から、発射元を特定し、回避した際にチャージしておいた、Φ・バスターを放つ。
「そこだぁ!!」

第十五話

辺りの薄暗闇を照らしながら、直進する蒼い閃光は、突発的に現れたもう一つの赤い光源によって、
空気中で弾け飛んだ。
そして、同時にもう一つの光源の出現によって、コードを撃った人物の全身が露になった。
全身を赤い焔で包んだ、カンガルー型のレプリロイドだった。
接近戦用に強化された両腕が嫌に眼に付く。
「クックックック・・少しは出来るようだな?ロックマン・コード。」
「っ・・・!」
「我が名はフレイム・カンガルート。フラット様の命により、貴様の命を頂戴する!」
「やるしかないか・・!!」
バスターに溜めを作り、そのエネルギーを分割して放つ。
粒子レベルにまで、細かく別れたバスターの雨。
しかしそれは、カンガルートの拳の一振りで、容易く弾かれてしまった。
高温の焔に包まれた、焔の拳だった。
「さぁ・・覚悟はいいか?ロックマン・コード。」
言うが速いか、カンガルートは、凄まじいまでの脚力で、コードの懐に飛び込んできた。
回転が加えられた焔の拳を、オルティーガで受け止めようとしたが、サーベルの展開が間に合わずに、
その拳はそのまま、コードの腹部を直撃した。
「ぐっ・・・うぁぁぁぁ!!」
熱い。
いや・・・熱いなんてものじゃない。
なんとかアーマーのお蔭でダメージは軽減しているが、生身で受けたら、とっくに命は無かっただろう。
カンガルートの拳によって、後方へ吹き飛ばされたコードは、なんとか空中で反転し、
部屋の側壁の壁を蹴り、その勢いを利用して、カンガルートに飛び込んだ。
「喰らえぇぇ!!」
先程展開し損ねたオルティーガを、今度こそ本当に振り下ろす。
しかし、その大振りなビーム・セイバーの一撃など、カンガルートには何の意味も成さなかった。
気付いた時には、オルティーガは空を切り、同時に頭上から炎弾が降ってきていた。
即座にオルティーガで相殺していくが、その連射速度に、コードの剣技は到底着いていかなかった。
五発目までは斬り裂いたものの、六発目が、左肩アーマーに掠ってしまった。
当たった面積がごく僅かだった為、大事には至らなかったが、その部分は焦げるを通り越して、
完全な液状になるまで溶解していた。
「クックック・・どうした?私の焔に恐れを成したか?」
オルティーガでは届かないが、φ・バスターでは近すぎる、微妙な間合に、カンガルートは着地した。
コイツ・・強い。
コイツに勝つためには、バスターでもセイバーでも無い武装を使うしかない。
「くっ・・こうなったら・・・エレクトリック・アート!!」
コードの叫びと共に、彼の全身が、蒼から黄へと変わる。
同時に、右掌にサッカー・ボール程度の電気の球体を創り出した。
コードは、それを宙に投げ、落下してきた所を、思いきり左足で蹴り飛ばした。
「ふっ・・愚かだな貴様は・・。」
心底嘲笑した様な笑みを浮かべ、カンガルートは右手を前方に翳した。
現れたのは、高出力の炎弾でも、強力な焔の拳でもなかった。
彼の目の前の完全に覆ってしまうほど巨大な、焔の盾。
それは、凄まじいスパークを放ちながら直進してくる、エレクトリック・アートをも通さなかった。
「・・・な・・・に・・・?」
「ご自慢の電気工芸が通用しない事、髄分とショックのようだが。
しかし、すぐにあの世に送ってやるから、ふてくされるならあっちでするんだな。」
そう言って、再び懐に飛び込んできたカンガルートは、その焔の拳で、再びコードの腹部にブロウを打ち込んだ。
二度目の打撃に、コードの全身はメキョメキョと不気味を音を立てた。
地面に叩き伏せられ、立ち上がるよりも前に、連続的に踏みつけられる。
「ぐ・・ぁぁぁぁぁ!!うぁぁぁぁ!!」
今のコードに出来ることは、苦痛を少しでも和らげるため、出来るだけ大きな声を上げるだけだった。
・・不意に蹴りの雨が止んだ。
顔を上げると、「立ち上がって見ろ」とでも言うように、カンガルートは冷ややかな視線で見下していた。
「くっ・・そぉ・・・。」
無理矢理立ち上がると、どこか関節を痛めたのか、不気味な音が聞えた。
眩暈がする。意識が朦朧としてきた。
・・殺す殺さないの問題よりも先に、この状況では勝つことさえ困難だ。
随分甘い考えだったものだと、自分を殴ってやりたかった。
ここで負ける?
みんなは・・他のハンター達は、今でも頑張っているのに?
あんなに護るって決意したのに?
あの娘が・・ヒカルが待っているのに・・?
一気に嗚咽が押し寄せてきて、コードは噎せ返った。
口元を抑えていた左掌に、少しだけ血が付着している。
「クックック・・ハ-ハッハッハッハ!!ROCKMANも型無しだなぁ!?ロックマン・コード!!!」
わざと大声で笑いながら、カンガルートは再び間合を取った。
最後の攻撃に出るつもりなのだろう。
そして、今の自分にとって、それは確実に止めとなる。
負けるしかないのか・・・!?

第十六話

俺は・・負けるのかな・・。
霞む視界の中で、その意識だけは嫌にハッキリとしていた。
最後に考える時間を神様がくれたんだと、頭の隅で馬鹿馬鹿しい事も考えてみた。
いや・・俺は出せる手を全部出したのか・・?
目を細めて、必死に目の前の光景を見ようとする。
カンガルートが、両掌にエネルギーを集中しているのが見えた。
「私のフレイム・ストライクは絶対に食い止められんぞ!!」
違う・・!!まだ手はある・・・!!
それは・・・それは・・・!!
「フロッグス・・頼む・・力を貸してくれ・・!」
コードの身体に再び変化が起きた。
蒼から黄へ変化したアーマーが、更に空色へと変わる。
「ウォーター・・・サイクロン・・・!!!」
「死ねぇぇぇぇぇ!!」
カンガルートが、巨大な焔の塊を放ったのと、コードが両手から水の竜巻を発生させたのは、ほぼ同時だった。
燃え盛る焔の塊を、頼りないが、それでも高潔な水の竜巻が、部屋の中心ではしっと受け止めた。
しかし、蒸発という形で勢いを失っていくウォーター・サイクロンは、数秒の後に、音を立てて崩れ去った。
「ファァァァァハッハッハッ!!貴様の負けだ!!」
「まだだぁぁぁぁぁぁ!!」
再び、部屋の中心で焔と水の葛藤が繰り広げられた。
既にコードは、第二射を放っていたからだ。
一撃目で、大分威力を失っていたフレイム・ストライクは、次の一撃を受け止められるほど、余裕は無かった。
水の竜巻が焔の塊を打ち破り、そのままカンガルート本体を巻き込む。
「ぐわぁぁぁぁ!!」
「終わりだぁぁぁぁ!!」
φ・バスターから放たれた、いつもよりも一回り大きな蒼い閃光が、水流の中のカンガルートを包み込んだ。
・・殺しただろう・・確実に・・。
でも・・もし、殺さないと・・破壊しないと、地球のみんなを護ることが出来ないのなら、
最悪の場合・・殺すしかないんだ・・。
全員が全員・・護れるわけじゃないんだ・・。
僕が弱いから。
そしてもし、彼らを殺したことによって、罪にとわれるのなら、地獄にでもなんでも行ってやろうじゃないか。
僕一人が・・血に汚れるだけで、みんなを護ることが出来るのなら。
「フレイム・カンガルート。一緒に行こう。」
振り注ぐ、カンガルートの残骸の中から、武器ユニットチップをパシッと受け止め、
コードは呟いた。
開け放たれたままの出口に向かって、足を進める。
コードは、自らの頬を伝う、真珠のような雫に・・気付いていなかった。


ロックマン・コードよ。汝もいつか乗り越えられるだろう。
奪うのは一瞬・・しかし、護るのはずっと。
汝は血に汚れてなどいない。その高潔な涙が、何よりの証だ。
闘いはまだ・・・・終わらない。

次回予告
何をするために闘うのか。
何を成したくて、人々は闘うのか。
答えを導き出せぬまま、僕の闘いは深みへと入っていく。
そして、次々と呼び覚まされていく、僕の知らない「記憶」。
激しさを増す闘いの中、今までに無い強敵が、僕の目の前に姿を現した。
彼の名はアンダンテ。俺は・・・勝つことが出来るのだろうか?

次回 ロックマンコード第参章~記憶~
「闘いはまだ・・・始まったばかりだ・・・!」