ロクノベ小説保管庫 ロックマンコードⅠ 第参章~記憶~

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第一話

 少し全身がキリキリと痛む。
 幸い闘いでの傷や打撲は服の下なので、目の前の少女には気付かれていないのだが。
 なるべく普通に見えるように、松浦 輝-ロックマン・コードはテーブルに頬杖を付いていた。
 端から見れば、眠たそうに考えごとをしている図式が成り立ちそうだ。
事実上眠い。疲れているからだ。
出来ればこのまま眠ってしまいたいが。
「あの・・・輝君?」
 唐突に声を掛けられて、輝はゆっくりと首を巡らせた。
 疑問符を声で表そうとしたが、情けない疑問系の音だけが出てしまって、
輝は内心で苦笑いした。
「えと・・・なに?」
 頬杖を外して、もう一度-今度はちゃんと声で聞き返す。
「この間のことで、街が壊れちゃったじゃない。
それで・・隣町まで買い物に行きたいんだけど・・・。」
 隣町まで占拠されてたらどうするつもりなんだろう。この娘は・・。
輝は心で冷や汗を流した。
 まぁ・・知らないといえば知らないことだ。仕方がない。
 しかも自分がもっと頑張ればこの街がこれ程損傷する事も無かったと言われれば、
反論することは出来ない。
「留守番しててくれないかな・・。」
「いや・・僕も行くよ。」
 反射的に言ってしまった。
 戦闘が起こったら自分がいなければどうにもならないし、
隣町が占拠されているのなら、解放しなければならない。
 それにこの娘一人をそんな危なげな所に放り込むのは、執拗に本心が首を横に振る。
「何もしないわけにはいかないしさ。女の子一人じゃ危ないし。」
「うん・・・ごめんね。」
 相変わらず全身が痛い。

 家を出てから隣町まで着くのに、一時間以上歩いた。
 一応オルティーガの柄とライド・チェイサーのカプセルは持って来てあったが、
輝の心配を無下に、隣町には平和な雰囲気が流れていた。
 他のハンター隊員のお蔭だろうか。
恐らく、ガイア・リカバリーズが占拠するよりも前に、ハンター側が保護したのだろう。
その証拠に、街の周囲に何人のハンターを確認した。
 街に入る前、一人の隊員と目が合ってしまい、自分を知っていたのか、
軽く敬礼を示してきたときは、少し焦った。
 とりあえず微笑を返しておいたが、ヒカルに気付かれるのは何かと不都合だ。
 幸い気付いてる様子は無く、輝はホッと胸をなで下ろした。
 
 ヒカルが買い物の方に行っている間に、輝は最寄りの隊員にそっと耳打ちした。
「大丈夫?ここでは死傷者とか出てないよね?」
「あぁ・・はい。まぁ。大丈夫ですよ。」
「良かった・・。」
「ところでコードさん?その格好なんですか?」
 不意に隊員に指摘されて、輝はポリポリと頬を掻いた。
「ちょっと・・・ね・・。」
「それとさっきの女の子誰ですか?結構カワイイコだっ・・・て違います!
なんでこんな所にいるんですか・・!拠点解放はどうしたんですか・・・!?」
「やってるよ・・。まだ四つ目がどこの拠点なのか特定出来てないだけで・・。」
 痛い所を突いてるくれるな。
 だけど僕が異議を唱えることが出来ないのはわかってる。
だから辛い。
 隊員はキュッと表情を引き締めて言った。
「信じてますよ。コードさん。」
「うん・・・頑張るよ・・。」
 少し心が軽くなった。
 目線の先の生活用品店の自動ドアから、ヒカルの姿が見えたものだから、
輝はフッと軽く笑った。
「じゃ・・・僕は行くよ。頑張ってね。」
「コードさんこそ・・・頑張って下さい。」
「了解。」
 最後にそう言って、輝は隊員に軽く敬礼した。

第二話

 やはり一時間以上先の街まで買い物に行かなければならない場合
量は比例して多くなるものだ。
 輝は身をもって実感した。
 別に重たくはない。さっきから頻りにヒカルが声を掛けてくるが、
自分のアーマーに比べれば、全然軽い。
 ただ少し量が多い。両手が完全に塞がってしまった。
 きっと今の自分の顔は、よく漫画などで多用される、
困ったような笑顔に汗マークだろう。
 荷物を持ち直して、輝は軽く空を仰ぎ見た。
 暗い。昼間だというのに。
 正確には曇っている。今にも雨が降りそうだ。
「雨・・・降りそうだね・・。」
 そう切り出すと、ヒカルは「うん」と軽く頷いた。
「降るね・・・雨が・・。」
 そう呟いた時には、もう空がゴロゴロと怒号を上げていた。
 程なくして一気に張り詰めたモノが吹き出したように、天空が涙を流し始めた。
余程悲しいことがあったかのように、激しい土砂降りだった。
 大粒の天空の涙は、ものの数分もしない間に、大地の上の二人をずぶ濡れにしていく。
「まずいな・・・早く戻ろう・・!」
 輝がそう言いながら振り返ると、「キャッ!?」っと言う小さな悲鳴と共に、
ズテンと言う効果音が耳を打った。
 この土砂降りで泥濘んでいた所に足を掬われたのか。
「だ・・大丈夫・・!?」
 自身も転ばないように注意を巡らせながら、すぐにヒカルに駆け寄る。
良く見れば足首が少し赤い。今ので捻ったようだ。
「あ・・あはは・・ドジ踏んじゃった。」
 困ったように笑うヒカルに、少し苦笑いしながら、
両手で抱えていた荷物を全て左手に持ち帰る。
 少し屈んで、余った右手をそっとヒカルに差し出す。
「ありがと・・。」
 しかし、二本の足に自身の体重が乗った瞬間、ヒカルは小さく呻いた。
 少し視線を落として、先程捻った足首の腫れ具合を見て見る。
さっきよりも赤い。軽い捻挫かもしれない。
 ふぅと息をついて、輝は身を屈めた。
「あんまり動かない方がいいよ。僕が・・家までおぶって行って上げる。」
 屈んでいるのでお互いに表情は見えない。
が、的確な判断だとは思う。
 こんな雨の中にいては、風邪を引く恐れもあるし、折角買ってきた生活用品も濡れてしまう。
そして何より、この娘の足の状態を上手く確認出来ない。
大袈裟かもしれないが。
「・・・うん。」
 トンッと輝の身体に一人分の体重が増える。
しかし重くはない。逆に軽すぎるくらいだ。
小さくて軽い。とても。
「・・軽いね・・ヒカルは・・。」
「えっ・・?」
「いや・・・ちょっと重いかなぁ・・って。」
「ひっどぉい!私そんなに重くないもん!」
 背中で控えめにだが暴れるヒカルを、輝は「冗談だってば!」と必死に制した。
 僕も人並みに冗談なんか言えるんだな。
不意に実感した感覚が、何故か嬉しかった。
人の存在を間近に感じることが出来て。
「さぁて・・早く帰ろう。怪我した上に風邪じゃあきついもんね?」
「あはは。・・・うん。」
 僕はまだ闘える。
僕は・・まだ走っていられる。きっと。

第三話

 ヒカルの足はやはり軽い捻挫だった様で、余り動かさないようにと注意を促して家を出てきた。
 理由は簡単。
四つ目の拠点がどこなのか、連絡が入ったからだ。
場所は『フェイルダー研究所』。
 ここから北へ数kmの比較的近場だ。
「さて・・・。」
 小さく呟いて、胸ポケットに入っているカプセル状にしたライド・チェイサーを取り出す。
それを地面に軽く投げる。
 数秒後には、完全に元の形に変化した高機動のライド・チェイサーが姿を現すだろう。
 しかし、多少の煙の中から姿を現したライド・チェイサーは、唐突にその形を爆裂させ、
粉々の破片となって地面に散らばった。
「なっ・・・!?」
「フェイルダー研究所を解放しろ・・・ですかい?そいつは無理っぽいねぇ。」
 背後からの声。
誰だ・・・!?今まで敵の気配なんかしていなかった。
油断していたとは言え、常に三百六十度の注意を張り巡らせていたはずなのに。
「だ・・・誰だっ!」
 蒼い鎧が転送される中、輝・・いやコードは思い切り振りかえった。
 完全に転送されたアーマーで、バスターの銃口を向けた先には、
漆黒のアーマーを着た長身のレプリロイドが、心底楽しそうな表情で腕を組んでいた。
「ウッス!僕はアンダンテ。なんて言うか・・・傭兵って奴ぅ?
え~っと・・・君のお兄ちゃんのフラット君に雇われてるんだぁ、僕。」
 明るそうな顔付きで、ペラペラと話すアンダンテと名乗るレプリロイド。
 片手にはオルティーガと同程度の出力だろうビーム・ソードが握られている。
それ以外に目立った武装は無い。
「君を殺せば報酬ターップリ貰えるんだ。君に恨みは無いんだけどさぁ・・・ちょっとばかし死んでくんないかなぁ?」
 アンダンテの舐めきったような態度に、コードは眉をひそめた。
 今はこんな奴に構っている暇は無いのに。
「へぇ・・・君みたいなのもいるんなんて・・。ガイア・リカバリーズは賑やかだね!!」
 左から右へ流すように、バスターの光弾を一発・・二発・・三発。
 目の前に迫る光弾に、まるて対応を見せないアンダンテは、それらが直撃する瞬間、
片手のビーム・ソードでその全てを一瞬にして叩き落とした。
 光が一瞬で光弾を砕いたようにしか見えなかったが、それまでの動作が遅い。
バスターが直撃する寸前まで動かなかったからだ。
 その隙に、瞬時に懐に入ったコードは、既に抜いておいたオルティーガを思い切り横に払った。
蒼い刃が漆黒の鎧に食らい付く。
「おー・・恐い恐い。」
 語尾に星マークでも付けたような口調で、アンダンテはサラリと呟いた。
「な・・・なに!?」
 オルティーガは確かに完全に決まっている。
ギリギリで止められていることなんて勿論無い。
 それなのに、アンダンテの装甲は完全に『無傷』そのものだった。
文字どおり装甲に焦げすら走っていない。
「へぇ・・・こんな程度なんだ。期待して損しちゃったよ。
まっ・・・すぐに仕事が片づいて楽かもね。」

第四話

 その瞬間、全身に激痛が駆け巡った。
 右脇腹から左肩にかけて、その高出力のビーム・ソードで斬り付けられたのだ。
 しかし、コードにはそれを理解するのには数秒の時間が必要だった。
わけのわからないまま、ただ苦痛に悲鳴を上げ、斬り付けられた傷口を抑えることしか出来なかった。
 蒼い鎧を汚す紅の噴水を見詰めて、アンダンテは狂ったような笑みを浮かべていた。
先程までのお気楽な雰囲気など、その笑みには微塵も残っていない。
「くっ・・・そ・・!」
 悲鳴を呑み込み、激痛を無理矢理に押さえつけると、コードはギリッと歯軋りをした。
 見えなかった。速過ぎて。
気が付いたときには斬られていた。防御の仕様がない。
 更に自分の攻撃は通用しないのだ。どう闘えばいい・・!?
 最新鋭のアーマーは、瞬時に処置を施してくれた。
傷が出来た部分を瞬時にナノマシンで包み、シャットダウンする。
たったそれだけだが、幾分かは楽になることが出来た。
 オルティーガを握りしめ、威嚇するように展開する。
 人体にも使用する事が出来るナノマシンと言えど、そんな短時間で回復出来るわけがない。
ただ人体の自己再生力を手伝うだけだ。明確な治療ではない。
 コードは、ズキンと走った痛みに、「うっ・・」と呻きを噛み潰した。
「しぶといね。僕のソードで死なないなんて・・。良い根性してるね。本当に。
でもどこまで続くのかな?その不屈の根性も・・。」
「負けて・・溜まる・・かぁ!」
 弱者を見下す様に口を動かすアンダンテに対して、コードは光剣を左手に持ち替え、
右手のバスターの銃口を向けた。
 少しずつ光を宿していく銃口を見ても、アンダンテは何の防御策も練ろうとしない。
 完全に自分を舐めきっている。
「お前なんかに負けて溜まるかぁぁ!!」
 完全に膨張した光を宿したバスターを、コードは前方に向けて思い切り解き放った。
 相も変わらず腕をブランと降ろし、アンダンテは、目の前の閃光に対して、陽気な口笛を吹いてみせた。
 直撃。
「だ・か・ら・さぁ。無駄だって言うのがわかんないのかなぁ?
意外と頭悪いでしょ?君って・・。」
 バスターの閃光によって発生した煙を掻き分けて、アンダンテはわざとらしく煙たそうなリアクションを取っていた。
その姿に傷は・・無い。
 馬鹿な・・!
 今の一撃は完全に全力だった筈だ。
多少は効いていると思ったのに・・!
「そ・・んな・・・。」
「やっとわかった?君の実力じゃあ僕には勝てない。わかったんだったら、素直に殺されようよ。」
 明らかに小馬鹿にしている。
 未だに唖然としているコードを見て、ニヤッと笑うと、
アンダンテは再び自身のビーム・ソードを展開した。
 
第五話

 凄まじく重い拳を入れられて、コードは声も無く吹き飛んだ。
 込み上げる嗚咽に耐えながら着地すると、その時には既に頭上にアンダンテの姿があった。
「っ!」
 咄嗟に身を躱すと、アンダンテの高出力ビーム・ソードは、物の見事にコードの左肩アーマーを削ぎ落としていった。
 その隙をついて、起き上がりざまにアンダンテの顔面に膝蹴りを打ち込むが、
微動だにしないアンダンテに、そのまま足首を掴まれてしまった。
 全身に凄まじい衝撃が迸った。
 足首を掴まれたまま、強引に地面に叩き付けられたからだ。
 一瞬だけ呼吸が止まった。頭に何とも言えない鈍痛が駆け巡る。
それでも、もがいてもがいて、酸素を肺に吸い込む。
 吸ったら吸ったで、今度は強烈な嗚咽が襲いかかってきた。
今にも胃の中の物を吐き出してしまいそうだ。
「へぇ・・まだ耐えられるんだ。フラット君が気にするのもわかる気がしてきたよ。
 まぁでも・・幾ら耐えても、必ず限界って来るもんなのよねん。」
「まだ・・だ・・まだ・・・!」
 オルティーガを地面に突き刺し、無理矢理体重を持ち上げる。
 苦しい・・。
 一瞬フラリと体制が崩れたが、血が出るほど唇を噛み締め、地面にダンッと足をついた。
 いつもは何でもないのに、今でも持っているだけで精一杯のオルティーガを正面に構え、
曇ってきた視界で、アンダンテを見据える。
「おっ?まだ立ち上がれる?そっかぁ・・じゃあその根性に敬意を表して・・一撃で楽にしてあげるよ。」
「負けて・・溜まる・・・か!」
「死っねぇぇぇ!!」
「負けてぇぇぇ!!」
 次の瞬間、二つの人影が交差した。

 ドッ・・と、言葉で表すことの出来ない衝撃音が辺りを走った。

「最後の悪足掻きも無駄に終わった・・。哀れだね・・君は。」
 目の前で、アーマーの胸部に深々とビーム・ソードが突き刺さったまま動こうとしない少年。
その手が握りしめた、自身の喉先五cmの部分に突きつけられたビーム・セイバーを見て、
アンダンテは焦ったように呟いた。
 少し早めの動作で身を引き、再び余裕の表情を作り出す。
「それじゃあ・・僕は帰るねぇ。そのソードは墓標として置いて行って上げるよ。
 僕って優しいぃ。」
 台詞とは裏腹に、早口で言い終えたアンダンテは、コードから目を逸らすように振り返った。
 最後の一瞬・・本当に危なかった。
 あのまま彼のセイバーが直撃していれば、例え自分でもダメージを受けていただろう。
流石に喉部分に胴体の様な強度は望めないからだ。
 なんて奴だったんだ。
最後の最後の一瞬まで目が死んでいなかった。
そう・・例えれば、今振り返れば、またすぐにその瞳を自分に向けてくるだろうと錯覚する程強烈な・・。
 馬鹿馬鹿しいとその錯覚を頭の中から追い出した瞬間、
アンダンテはその錯覚があながち間違ってはいなかった事を理解せざるをえなくなった。


 一瞬、蒼い光が背後で発光したような気がして、アンダンテはゆっくりと振り返った。
 そこには自分のビーム・ソードに突き刺さったまま動かないはずの少年がいるだけの筈なのに、
さっきまでのその光景はどこにも見当たらなかった。
 代わりに視界に飛び込んできたのは、胸に刺さったソードをゆっくりと抜き、
その場で粉々に砕いた純白の鎧を着た少年と、
その少年の護る様に、彼の周りを浮遊する水色の光に包まれたサイバー・エルフだった。
『コード・・君ノ諦メナイ心ハ・・シカト見タヨ。
 ダカラ・・ダカラ諦メナイ事ヲ忘レチャア駄目ダ。
 君ニブレード・アーマーヲ託スヨ・・。君ナラソノ力ヲ正シイ方向ニ使ッテイケルト・・
 ソウ信ジテル。』
 サイバー・エルフの放つ、心無しか懐かしい声に、コードは小さく頷いた。
 サイバー・エルフが笑ったような気がした。勿論表情は見えないが。
『頑張ッテ・・。』
 最後にそう残し、サイバー・エルフはその場で発光した。
 その光量に思わず目を瞑り、ようやく収まった頃に目を開けても、そこにはエルフの姿は無かった。
「アンダンテ・・!!」
 グッと睨みを効かせ、コードは小さく叫んだ。
「そんな鎧着たくらいでいい気にならないで欲しいよねぇ。もう一回殺して上げるよ!」
 腰部分に収納していた、予備だろうビーム・ソードを抜き放って、アンダンテは相も変わらずふざけた態度だ。
 しかし内心は焦っている。
それは、慌ててソードを抜き、前のようにダラダラと隙だらけでは無い構えがそれを物語っている。

第六話

 コードはバックパックのオルティーガを抜いた。
 刃を展開しないまま、そっと左手を右腕に添える。
 短い駆動音と共に、オルティーガの柄は、バスターと化した右手の中に、スッポリと納まった。
「死ねぇぇ!!」
「っ!!」
 その一秒後、その場で二つの影が交差した。
 束の間の静寂の後に立っていたのは、黒い装甲の男の方では無かった。
 バスターの銃口から、高出力のレーザー・ブレードを発生させ、そのまま微動だにしない少年。
 その蒼く輝く刃が姿を消し、コードが振り返ると、全身をズタズタに斬り裂かれ、
もはや立ってはいられない状態のアンダンテが、憎憎しげにこちらを睨み付けているのが見えた。
「な・・何故だ・・僕の戦闘力は君より高い筈・・なのに・・。」
「俺は負けられない・・それだけだ。
 頼むアンダンテ・・もう退いてくれ・・!
 もうフラットに加担しないと言うなら・・倒しはしない!!」
 もう殺したく無い・・。
 交差の瞬間、脳裏で悲痛に叫んでいた自分がいた。
「やっぱり君は甘いよ・・ロックマン・コード。
 いつかその甘さが命取りになる事になる・・・絶対に・・。」
 最後にそう吐き捨てて、アンダンテの全身は光の帯と化し、空へと消え去った。
 コードは「くっ・・」と拳を握りしめた。
-甘さが命取りになる-
 違う・・!違う違う・・!!
そんなんじゃない筈なんだ・・。
そんなんじゃ・・・。
 僕はどうすればいい?
自分に問う。
しかし答えは返ってこない。自分で答えを見つけ出すしかないからだ。
「甘さが命取りに・・・なる・・。」
 口が勝手にアンダンテの言葉を反芻した。
 敵に対して斬ることを一瞬でも躊躇するのは・・やはり甘いのだろうか。
 それでも・・自分は躊躇してしまう。
 彼らと自分達・・どこが違うって言うんだ?
何も違わない。心を持って生きてる・・。
それを・・なんの躊躇いも無く斬ることなんて・・出来ないのに・・!
 コードは、いつの間にか滲んできた涙を、グィと手の甲で拭い取って、
今までアンダンテの立っていた場所を凝視した。
「俺は・・闘い方を曲げない・・!」
 いつか・・誰かが・・とても近い存在の誰かが口にしただろう台詞。
 それを口にしたのが誰だったのか・・わからないけれど、コードは思わずそう呟いた。

 今の闘いで新たな鎧を受け取ったとはいえ、肉体の疲労は回復していなかった。
 胸に空いた風穴は綺麗に塞がっているが、それ以外の細かな傷は残っている。
 今闇雲に拠点解放をするのは得策ではない。
またアンダンテの様な戦闘力を持つ敵が現れれば、今度こそどうしようも無いからだ。
 今日は・・・もう休みたい。

第七話

 どこかはわからない。
 壁は削がれ、床は抉られた、大破した戦闘室の真ん中。
 そこに自分は居た。
 その自分の身体も、所々が傷だらけで、酷く重い。
 少女を抱き締めていた。
栗色の長い髪をした少女だ。
 自分は・・何か叫ぶように言っている。
しかし、確かに口を動かしているはずなのに、全く声が出てこない。
いや、正確には周りの音全てが聞こえないんだ。
 少女も何か呟いている。今にも消え入りそうに。
 ・・・・沈黙。
 少女はゆっくりと眼を閉じた。
 狂ったように少女の身体を抱き締め、その名を絶叫と共に吐き出す。
しかしやはり聞こえない。
世界中の音・・その全てを拒絶するかのように・・。
 自分は絶叫した。
 何故かはわからないが・・最後の叫びだけは、嫌と言う程耳に響いてきた。

 オ レ ハ イ ッ タ イ ナ ン ノ タ メ ニ タ タ カ ッ テ イ ル ン ダ

 ・・・・・・・。
 対峙していた。自分は目の前の紅い鎧の青年と。
 再び耳が音を拒絶する。
何も聞こえない・・何も。
 青年はプカプカと宙に浮いたまま、静かに目を閉じていた。
 ・・・そして開いた。
 宿っていたのは狂気と殺意だけだった。
 グッと拳を握りしめ、青年を睨み付ける自分。


 ・・・・・。
 視界が霞んでいる。
 大量の雫が・・直視を妨害してくれる。
 それでもユラユラと揺れる視界の中で、蒼い鎧の少年の姿だけは確認する事が出来た。
 既にボロボロだ。至るところが砕けている。
 何か呟いている。当然聞こえない。
 必死な様子で・・自分も何か言葉を返す。
 少年は・・最後にやんわりと頬笑むと、静かに目を閉じた。
 一気に視界が広がった。
 そして振り返り、ある一点を睨み付ける。
 そこには・・ドクロの装飾を施した戦闘機が浮かんでいた。



 頭を駆け巡る鈍痛に、輝は慌てて目を開いた。
 ガバッと上半身を起こすと、アンダンテとの闘いで付けられた傷が、多少の悲鳴を上げる。
 輝は痛みに呻きつつ、汗だくになった自身を抱き締めた。
 意味もなく呼吸が荒んでいる。酷く・・寒い。
「なんだ・・ったんだ・・・今の・・。」
 自分の感覚を確認したくて、輝はそっと呟いた。
 夢・・と言うのだろうか。今のは。
 しかし妙に鮮明だった。いつも見ているものとは完全に別物だ。
 何か他人の心を直接覗いたような、奇妙な感覚に襲われる。
わけがわからないと、このまま呑み込まれてしまいそうで・・恐い。
「笑っちゃう・・よ・・。夢にこんなに不安がるなんて・・。俺・・どうかしてる・・。」
 そう言葉を自分に叩き付け、輝は再びベッドに潜り込んだ。
そうすれば、この不安から逃げられるとでも言うように。

第八話

 フェイルダー研究所。
 故ジャンク・フェイルダー氏が独自にレーザー機器の研究をした事で有名な場所だ。
 小惑星破壊用から、医療機器に至るまで、幅広く使用されるフェイルダー氏のレーザー機器。
現在は彼の残したデータなどから、様々なレーザー機器を生産する工場と化している場所だ。
 フェイルダー氏は、人類・レプリロイドの生活水準向上の為の研究だと残している。
しかし、やはり使い方を変えれば、強力な破壊兵器と化す代物だ。
 ここのレーザー機器の技術がガイア・リカバリーズに渡った場合、それが大量に生産され・・。
 
 入り口を多少乱暴にバスターで撃ち抜き、コードは素早く研究所内に転がり込んだ。
 研究所と言うのは立て前だけだ。実際は工場と化しているため、かなりの広さがある。
 三百六十度油断できない。
一体どこから狙われているかわかったものではないのだ。
 瞬時に身を屈めると、今までコードの頭部があった空間を、一筋の光が通り抜けていった。
「っ!!」
 その体制のまま、左頭上に向かって、バスターの光弾を叩き付ける。
 蒼いエネルギー弾は、二撃目のチャージを開始し始めたレーザー射出機を、容赦無く貫き、爆裂させた。
 コードは、行き場を無くし、そのまま前方の壁に直撃したレーザーの威力に、
より一層緊張を高めた。
 あんなに細いレーザー一発が、合金製の分厚い壁を突き抜けていった。
 着弾跡こそ小さいが、その威力を証明するには充分過ぎる。
 意味が無いかもしれないが、一応エレクトリック・アートで全身をコートする。
これなら一撃程度なら、致命傷には至らず、受け止めることが出来るだろう。


 暫く進んだところで、不意にけたたましいサイレンの音がコードの耳に響いた。
 唐突の出来事に、ガラにも跳ねた心臓を抑えつけ、コードは辺りを見回した。
 壁にカモフラージュされたシャッターが開き、次々と戦闘用メカニロイド達が姿を現す。
 どうやら危険度の高い区域に入ってしまったらしい。
しかし、元々こんな戦闘用メカニロイドが配備されていたとは考えにくい。
恐らく、ガイア・リカバリーズの後付けだろう。
 その証拠に、メカニロイド達が放ってきたレーザーは、とても護衛用とは思えないほどの威力をほこっている。
 手始めに目の前にわんさかと溢れ返るメカニロイド達に、バスターの掃射をお見舞いしてやる。
 蒼いバスターの光弾は、次々とメカニロイド達の動力を撃ち抜いていくが、
すぐに真後ろから新しいメカニロイドが現れ、事実上敵の数が減っていかない。
 このままじゃキリがない・・!
飛びかかってきたメカニロイド達を、全てオルティーガで叩き斬って、コードはグッと拳を握りしめた。
 こうなったら・・強行突破だ!
 右手をバスターに変換し、思い切りエネルギーを注ぎ込む。
 どんどんと規模を増し、次第にスパークを帯びていくバスターを正面に向けた瞬間、
コードの全身を白い光が包み込んだ。
 蒼い鎧よりも鋭さを増した白い鎧-ブレード・アーマーの出現と共に、
バスターの光量は更に出力を高めた。
 咆哮を上げ、正面に向けて、銃口内の蒼い閃光を一気に解き放つ。
 いつもよりも二回りは巨大な閃光の帯びは、そのまま真っ直ぐにメカニロイド達ほ覆い尽くす。
途中、レーザーを撃ち返してきた者もいたが、コードの放った閃光は、そんな程度の抵抗は一切認めなかった。
 その全ての諸とも呑み込み、蒼い閃光はその場にポッカリと道を作り出した。

第九話

 コードは瞬時に地面を蹴った。
 一応の突破口は出来たとは言え、まるで無尽蔵とでも言うように、
シャッターから再び新たなメカニロイド達が現れ続ける。
ここでこれ以上時間を潰すわけには行かないのだ。
 真横からしつこく飛びかかってくるメカニロイド達を、
バスターの銃口から発生させたレーザー・ブレードで斬り裂く。
これを使うのは二度目だが、やはりこの威力に驚きを覚えてしまう。
 この鎧を持ってきたサイバー・エルフ・・・何者なんだ。
 知っている筈だ。僕は彼を知っている。
しかし思い出せない。
一体誰だったのか・・。
 それに呼応したかのように、先日の夢の内容が脳裏を掠めた。
 絶対に自身では無いはずなのに、まるで自分で体験したかのように鮮明な夢。
 いや・・あれは『夢』なのだろうか?
嫌に鮮明過ぎる・・。まるで自分の『記憶』の様だ・・。
 コードの思想は、目の前に現れた巨大な扉が視界に入ると同時に中断された。
 対レーザー兵器用に強化された分厚い扉だ。
 恐らくここがコマンダー・ルームだ。
 その証拠にこの部屋からだけ、異常に高いエネルギーが流出している。
 まるで、何か巨大な兵器でも置いてあるとでも言うように。
 グッと扉を押してみる。
重い。流石にロックが施されている。
 二、三度押してみても効果が無かったため、コードはそっと扉から掌を離し、
代わりにその腕をバスターへと変形させた。
 オルティーガの筒を装着し、蒼色のレーザー・ブレードを発生させる。
「対レーザー用の防御策・・これをも止められるか!?」
 誰に言うでも無く叫び、一気にブレードを左下から右上にかけて斬り上げる。
 パカァァンと乾いた音が響、対レーザー兵器用に強化された扉は、呆気なく真っ二つに斬り裂かれた。
 このブレードの威力がそれほどまでなのか、それとも防御が甘かったのかはわからないが、
コードは思わず後者を選んでしまった。
未だにこの鎧の能力を全て理解し切っていないのだ。
 ブレードの出力を切り、コードはゆっくりと部屋の中へと足を踏み込んだ。

第十話

 部屋全体が鏡張りにされた奇妙な戦闘室。
 その中に立っているだけで、何か奇妙な感覚を得る。
映っているのも自分なのに、まるで全方向から見られているようだ。
 少し思想に浸りつつあった脳裏で、いつも唐突に死角から不意打ちされる事を思い出して、
コードは慌てて三百六十度に神経を張り巡らせた。
 しかし、今回は逆に拍子抜けをしてしまった。
 本来なら自分を攻撃してきてもおかしくない筈の人影は、
部屋の中央でジッとこちらを向いて立っていただけだったからだ。
 自分よりも少し小型の、リスの外見をしたレプリロイド。
 両腕に発射口がついている。恐らくはレーザー機器のものだろう。
「ふぅん・・アンタがロックマン・コード?情報と違って白いんだね・・」
 そんなどうでもいい色彩の話しなど無視して、
コードはギンッと目の前の敵を睨み付けた。
 今更投降してくるつみりなど無いだろう。
 ならば・・闘うしかない。
例え殺すことなっても・・。そして、そうならない為にも・・『倒す』為に。
「あぁ・・・。不意打ちしてこないのはちょっと吃驚したよ・・」
 少し皮肉を込めて言う。
 精神的に負けない様にだ。
 床に向けたままのバスターに蒼い光が宿りつつある時、
リス型レプリロイドはタイミングを計った様に切り出してきた。
「まぁね・・俺は連中とは違うから!そんなんで倒したって何の面白みもないもん。」
 ケラケラと楽しそうに笑い、レプリロイドは「俺の名はレーザー・リスグニア」と付け加えた。
「さっさと闘おうよ。まっ・・その前にアレ見てからの方が面白くなりそうだけど。」
 全てが鏡張りだと思っていた戦闘室の、普通なら気にも留めない様な頭上に、
小さな窓が取りつけてあった。
 少し首を巡らせて外を見ると、エネルギー収束時の独特な・・しかも強力な光が見えた。
 その光に埋め尽くされてよく見えないが、確かに巨大な銃口も見える。
巨大なレーザー砲。単純だがそう形容するのが一番だろう。
「そうそう・・先に言っておくけど・・あのレーザー・・あと十分くらいで発射するから。
 破壊力は・・街一つ分なんてもんじゃなくて、小さい国なら簡単に消し飛ぶね。
 テスト用の今の出力でも。」
 さり気にとんでも無い事を口にするリスグニアの方に向き直って、
コードはギリッと歯軋りをした。
 あの方向は自分が向かってきた方角だ。
 ヴェルカノ火山地帯と、ハンター・ベースがある。
 ヒカルと、あの隊員と、そしてベースの総監や他の仲間達に・・・銃口が向いている。
 完全にチャージが完了したバスターをリスグニアに向け、
コードは戦闘体制を固めた。
 負けるわけにはいかない。
 躊躇するわけにもいかない。
 コイツを・・・倒す。
そして・・あのレーザー砲を破壊する。
「いいさ・・・意地でも止めてやる!貴様を倒してな・・・!!」

第十一話

 向けた銃口に宿った蒼い光を、直線上の標的に向けて瞬時に解放する。
 その巨大なエネルギーの塊を、多少の余裕をかましつつ避けたリスグニアだったが、
避けた先には、既にコードがレーザー・ブレードを携えて斬り掛かっていた。
「あっ・・言い忘れてたけど・・、あのレーザーは俺を倒すことが出来れば止まるよ!」
 ブレードが空を斬った。
 鏡の影響で上手く位置関係が掴めず、間合が多少遠かったのだ。
 ブレードの出力に躍らされ、ほんの一瞬バランスを崩したコードの目の前に、
一本の細長い光の線が飛び込んできた。
 高出力のレーザーだ。
 直撃を受けたらまずい・・・!
それを瞬時に判断したコードは、バチバチと唸りを上げる電気の塊で創り上げた防御壁で、
その高圧の光を受け止めた。
「へぇ・・機転がきくじゃん。ならこれはどうだ!?」
 すぐに体制を立て直したコード。
 リスグニアの両手から連射の形で放たれるレーザーは、
弾速が凄まじいと言えど全て直線だ。
 放つ寸前に見切ってしまえば回避することはそう難しい事じゃない。
 レーザーとレーザーの間隔を擦り抜けるように走り抜け、
一気にレーザー・ブレードを振り下ろす-瞬間だった。
 不意に背後からなんとも言えない鋭い衝撃を受けて、
コードは前につんのめる形で吹き飛んでいた。
 余りに唐突な衝撃に、何の対抗策も練ることが出来ず、
コードはそのままの衝撃で床に叩き付けられた。
 慌てて起き上がるが、コードがバスターをリスグニアに向けるよりも前に、
リスグニアの銃口が、コードの額に向けられていた。
 動くことも出来ず、コードは「くっ・・」と表情を曇らせた。
 少しでも動けば額を撃ち抜かれる・・-からだ。
「アハハハ!」
 撃てるはずの銃口をパッと降ろして、リスグニアは突然な笑い声を上げた。
 その高い声の波が鏡にまで反射した様な錯覚がする中、
コードは素早く姿勢を立ち上げ、バスターを牽制する形で向けた。
「なんだ・・・!」
「まぁだ気付かないの?アハハ!
 まぁ特別だから教えて上げるよ。」
 そう言って、リスグニアは周囲の壁に貼りつけられた鏡を指さした。
「俺のこのブラスト・レーザーは光だから、鏡や・・そう水なんかにも反射するんだ。
 つまり!俺はこの空間内じゃあ無敵って事さ!」
「成る程・・そういうわけだったのか・・!」
 光を数百回、数千回と反射させ、増幅された光線を兵器として発射するレーザー。
 確かに鏡にも反射するかもしれない。
 そこの所はまだ知識不足なので、なんとも言えないが。
 向けたバスターに蒼い光が段々と収束されていく。
 レーザー・ブレードでの接近戦はマズイ。
まぁバスターでもこの部屋の中での不利には変わらないだろうが。
「でも・・無敵かどうかはやってみなくちゃわかんないだろう!!」
「そうだね!そうこなくちゃ!!」
 バッと両手を開いて、リスグニアは辺り一面にレーザーの雨を降らせた。
 四方八方に放たれた光の線は、その先の鏡に直撃すると、
その鏡の微妙な傾きに沿って、次々とその軌道を変えていく。
 リスグニアがレーザーを放つと同時にバスターを発射したコードだったが、
蒼い光弾の結末を確認するよりも前に、頭上から一本のレーザーが降り注いで、
咄嗟にそれをスパークする盾で受け止めるのが精一杯だった。
 息をつく暇もなく三百六十度から浴びせられるレーザーの雨。
 なんとか全身を覆うエレクトリック・アートの盾で防いでいるが、
エネルギー残量の事も考えると、そう長くは持たないだろう。

第十二話

 タイミングをわざと外して放ったウォーター・サイクロンも、軽々と回避された。
 同時に、無情にもエネルギーを失ったスパークの盾が消失し、
光の直進を妨げる物を失ったコードの全身に、破壊的な光の線が一気に撃ち込まれた。
 「うわぁぁぁぁ!!」と溜まらずに悲鳴を上げて、
コードは軽く後方に吹き飛ばされた。
 ピタッと光の雨が止んだ。
 元であるリスグニアが、ブラスト・レーザーの射出を止めたからだ。
「アハハハ!本当良く頑張るね!格好良いよ!本当に!
 あぁ・・でもあと五分くらいかな?レーザー砲発射までさ・・」
 あと五分・・-。
 あと五分で・・今まで護ってきたモノが砕かれてしまう・・-。
 あと五分で・・ベースの仲間達が・・何よりもあの少女が・・-。
 フッとコードの身体が動いた。
「・・・らせない・・。」
「うわぁ!」
 一瞬にして懐に飛び込まれ、尚且つ放たれたレーザー・ブレードをギリギリで避けるも、
リスグニアは瞬時にこの動きを展開したコードに、驚きを通り越して恐怖すら覚えた。
「絶対やらせないからな!」
「なっ・・なん・・・!」
 リスグニアが言葉を全て紡ぐ前に、彼の顔面にコードの拳が減り込んでいた。
 凄まじい拳の嵐がリスグニアの全身に降り注ぐ。
 拳の勢いよりも威力の衝撃の方が勝り、リスグニアが後方に吹き飛んだ時には、
既にかなりの量の拳が、リスグニアの装甲を凹ませていた後だった。
 リスグニアが壁に叩き付けられた瞬間、リスグニアの眼前には巨大な蒼い閃光が迫っていた。
「ひっ!」と身を捩るリスグニアの真横を通りすぎた閃光は、
鏡張りの壁に、巨大な風穴を空けていった。
 寸で躱され、コードは「くっ・・」と軽く舌打ちをした。
 ゆっくりとレーザー・ブレードを発生させ、次の反撃に反応出来るよう、構える。
「この・・・このぉ!」
 ボゴンと勢い良く立ち上がったリスグニアの顔は、驚愕と怒りで歪んでいた。
 「痛ってぇぇ!もう許してやんないからなぁ!!」と叫び、
両腕の銃口を、ピタッとコードの急所の位置に固定するリスグニア。
「っ・・!」
 コードがレーザー・ブレードを下から上へ振り上げた瞬間、
リスグニアの銃口から、凄まじい威力の光の波が放たれた。
 直進してくるブラスト・レーザーの光を、レーザー・ブレードで流していくが、
いかんせん連射力と威力が高い為、全てを防ぎきることは難しい。
 このままでは反撃するよりも前にこちらの集中力が・・・-等と考えた矢先、
レーザーに集中する余り、接近に気付かなかったリスグニアの蹴りが、大きくコードの後頭部を蹴り飛ばしていた。
 不意を突かれた為、コードの身体は勢いよく床を滑った。
 装甲と床の摩擦で、火花が散る。
 すると、どこからかガスでも漏れていたのか、小さな発火音と共に、
倒れたコードの眼前に、小さな炎が発生した。
 同時に、コードの眉間を狙って放たれたブラスト・レーザーが、
コードの瞳に映っていた。
 -やられる・・・!

第十三話

 乾いた音と共に、顔の真横の装甲-ヘルメットと肩アーマーの一部を、
ブラスト・レーザーは削り取っていった。
 本来なら完璧に自分の眉間を撃ち抜いていた筈の弾道が-。
 自分は避けていない。そんな余裕は無かった。
 なら何故、このレーザーの光は軌道を変えたんだ。直撃の寸前に。
 コードはフラリと立ち上がりつつ考えた。
 今の一瞬、自分とレーザーとの間にあった障害、それは・・・-本当の一瞬だけ燃え上がった炎。しかも高温の。
 炎・・・高温の炎がレーザーの弾道を変えた・・。
 不意に鏡より反射したレーザーの一本が、コードの眼前に迫った。
 今度こそ完全に直撃したと表情を歪めるリスグニアの期待を裏切って、
ブラスト・レーザーがコードを貫く事は無かった。
「あれぇ!?なんでなんで!?」
 リスグニアの瞳に映ったコードは、拳を目の前に突き出していた。
 たったそれだけの姿勢だ。
 どこかおかしな点を挙げるとすれば・・そう、彼の拳を大きく包んだ焔の塊だろう。
 凄まじい勢いで燃え盛る焔の拳-フレイム・ストライク。
「考えてる時間は無いんだ・・・一気に決めさせてもらう!」
 -発射まであと・・三十秒-
 初めて混乱を覚えたリスグニアの連射するブラスト・レーザーの雨を、
全て焔の拳の高温によって歪んだ周りの空気で直進制を奪い、そのまま思い切り本体に向けてダッシュする。
 何本か直進制を保ったままのモノもあったが、それは直接焔の拳で叩き落としていく。
 窓の外では、巨大なレーザー砲の銃口から膨れ上がった光が、今にも解き放たれんとばかりの輝いている。
 -発射まで・・あと十秒-
「来るなぁぁ!来るなぁぁぁ!!」
 絶叫するリスグニアの放ったレーザーを床に叩き付けた瞬間、コードは完璧にリスグニアの間合に踏み込んだ。
 -あと五秒・・-
 思い切り拳を握りしめ、苦し紛れに放たれたレーザーが頬を掠めたのにも気に留めず、
その燃え上がる焔の拳で、リスグニアの腹部を貫く!
 -あと一秒・・-
 コードの拳が突き刺さったまま、リスグニアはゆっくりと眼を閉じた。
 ブラリと力が抜け、そのままコードの拳からズルリと抜け落ちる。
 そっと窓の外に視線を移すと、本来放たれる瞬間だった筈のエネルギーが中和され、
ゆっくりと輝きを失っていくレーザー砲の銃口が見えた。
「間に合っ・・・・・た・・・。」
 張り詰めていた心の糸が緩んで、コードはがくっと膝を折った。
 フッと拳を包んでいた焔が消え、今まで真紅に変化していた鎧が、ブレード・アーマーの白色に戻る。
 一気に全身が酸素を求め、激しい呼吸を強要してくる。
 それをなんとか出来る限りの肺の働きで制し、コードはふらつきを覚えつつ、
目の前に倒れ込んだままのリスグニアを、そっと覗き込んだ。
 完全に死んでいる。急所を貫き、機能が停止すればレーザー砲は停止すると、本人が云っていたのだ。
 もう修復は不可能だ。仮に出来たとしても、レプリロイドの蘇生は禁止されている。
 ゆっくりと屈み、リスグニアの腹部に空いた穴に手を差し込み、
小さな一つのチップを取り出す。
 それを腕の機構に装着するコードの瞳は、驚くほど静かだった。
 また殺した-何の為に?
 みんなを護るために-別の方法は無かったか?
 今はこうする事しか出来なかったんだ-そしてまた血にまみれていく。
 ごめんね・・-そんな事は言い訳だ。
「ごめん・・・ね・・。ごめん・・・・ごめっ・・・。」
 コードの頬を、一滴の涙が零れ落ちた。
 何度も何度も同じ単語を繰り返しつつ、コードはグッと拳を握りしめた。
 まだ終わっちゃいない・・・まだ闘いは・・・。
 自分はこれで何人殺した?いや・・数など問題では無い。
 心のある者を殺してしまったのだ・・数なんかで左右出来るはずが無い。
 一人殺しても・・十人殺しても・・結局は同じだ。
 ならばどうすればいいか。
 ならせめて、彼等を殺してしまった時の志を貫こう。
 護るために倒したんだ。護るべき人達を護りきれなければ申しわけが立たない。
 だから・・一緒に闘ってくれ。
 一緒に来て・・僕が諦めそうになった時・・叱咤してくれ。
 自分を殺しておいて諦めるのかお前は-と・・。

第十四話

 程なくしてコードは静かに立ち上がった。
 フッと全身を包む蒼の装甲が消え、コードは輝へと戻る。
 リスグニアを貫いた右腕を、痛いと感じるほど左腕で掴み、
そっと振り返る。
 唐突に耳に響いた音と共に、輝の目の前に一体のホログラフ・ボールが転がってきた。
簡単に云えば簡易映写機だ。
 独特の音と共に、映写機が吐き出した映像には、自分とそっくりな青年の姿が浮かび上がっていた。
 忘れもしない、紅い長髪に紫色の鎧を着た青年。
 輝はキッと目を引ん剥くと、その青年の名を多少震えた声で怒鳴り上げた。
「フラット・・・・ロックマン・フラット!!」
 輝の勢いを、冷たい微笑で流して、フラットはその嫌な整った声で、ゆっくりと口を開いた。
「素晴らしいじゃないか・・・ロックマン・コード。ガイア・リカバリーズの幹部候補をこうもアッサリと倒すとは・・。」
 アッサリと-の部分にアクセントが加わっていた。
 語句を強めて皮肉っているのだろう。
 自分がアッサリと彼等を殺したのだ・・と。
「何が・・何が云いたい!」
 感きわまって怒鳴る輝を、無駄だとばかりに見下して、フラットは「ふっ・・」と笑った。
 そっと手を挙げたフラットに反応して、映写機から簡単な地図が射出された。
 赤い点滅が幾つかの場所に点在している。
「これを見ろ・・・。」
「何のことだ・・・!」
「まず・・貴様が立っている場所がここだ・・。」
 フラットは一つの点滅を指さして云った。
「そしてここがハンター・ベース・・。」
 ススッと指を動かし、二つ目の点滅を指さすフラット。
「そして北へ・・・。」
 フラットは最後の点滅を指さした。
「ここには大規模な軍事基地跡が残っている・・」
 輝は無言だ。
 フラットは一呼吸置いてから、ゆっくりと続けた。
「公では廃棄されたと発表された核兵器や大量殺戮兵器がどうやって処理されたか知っているか?」
 輝は無言でフラットの瞳を睨み付けるだけだ。
 勿論・・そんな事はわからない。
「ここに残っているのは・・・簡単に地球上の全生命体を死滅させる事の出来る数の核兵器。
そして・・ジーロン弾だ・・。」
 ジーロン弾。その単語を聞き取った瞬間、輝は思わず声を上げた。
「なにぃ!?」
 ジーロン弾とは、数百年前に開発された、電磁波爆弾で、
小型でもかなりの範囲を電磁爆風で包み、生命体の生息活動を瞬時に止めること出来る兵器だ。
 そんなものが大量に爆発はたら、冗談では済まない。
 本当に地球上の生命を消し去ることだって出来るはずだ。
 しかも目の前の青年は、地球上の生命体を消し去ることに何の躊躇いも持っていない。
 元から人類やレプリロイドを含む全ての生命を一度葬り、地球を作り直すことが目的なのだから。
「そんなものを爆発させたらどうなると思う?」
「・・・・・まさか・・貴様ぁ・・!」
「そのまさかだったらどうする?基地跡はガイア・リカバリーズが占拠し、今は本拠地とさせてもらっている。
さて・・・どうしたものかな・・。」
「やめろぉぉ!!」
 挑発的なフラットの台詞に、輝は思い切り怒声を叩き付けた。
 出来うる限りの威圧を持ってフラットの瞳を睨み付ける。
 しかしフラットは依然余裕だ。
 余裕の表情を崩さないまま続ける。
「爆破まで一週間待ってやる。オレも貴様と闘ってみたくなった。
少しでも強くなった貴様と・・な。」
「くっ・・・」
「ガイア・リカバリーズの包囲網を突破し、見事にオレの所まで辿り着いたなら・・・オレが直々に相手になってやる。
まぁ・・今までの様な楽な闘いにはならないがな・・・。」
「・・・・さ・・。」
「オレを倒し爆破を阻止すれば・・・地球の人類もレプリロイドも護れるぞ?
・・辿り着ければの話しだがな・・。」
「・・やってやるさ・・・。」
「待っているぞ・・ロックマン・コード・・・。」
「やってやる!!待ってろよフラット!!」
 コードは、取り出したオルティーガで、目の前の映写機を一刀両断にしてみせた。
 辺りに高笑いを響かせながら、フラットの映像はものの数秒で消え去った。
 フラットの映像が立っていた位置をジッと睨み付け、輝は誰に云うでも無く呟いた。
「絶対だ・・・絶対・・辿り着いてやる・・。絶対に・・・・!!」

ロックマン・コードよ・・・。
真実の闘いの向こうで・・汝は何を見る?

次回予告

ついに決戦への扉は開かれた。
一週間以内にフラットの元へと辿り着き、奴を倒す。
みんなを護るには・・それしか方法が無い。
絶対に辿り着くさ・・・絶対に・・。
みんなを・・そしてヒカルを護るために・・・。


次回 ロックマンコード第四章~約束~
「・・・絶対に辿り着く・・・」