ロクノベ小説保管庫 ロックマンコードⅠ 第伍章~対峙~

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第一話

 正面から狙撃されたエネルギー弾を、オルティーガによって地面に叩き付けたあと、
ロックマン・コードは姿勢を屈めると共に、自らを狙うメカニロイドに、バスターの光弾を数発叩き込み、爆裂させた。
 間髪入れずに地面を蹴り、真っ直ぐに道を駆け抜ける。
そんな彼の一瞬前の姿を、四方八方から降り注ぐエネルギーが、次々と撃ち抜いていった。
「・・っ!」
 人型をした中型メカニロイド。
武装はバルカンとハンマー。恐らく、ついこの前ヴェルカノ火山のふもとで遭遇した物と、同じ系統のものだろう。
 背後のシャッターが閉まった。後ずさりする事は出来ない。
だが代わりに、休みなく自分を狙ってくるトーチカ達の攻撃は完全に遮断された。
 ジャキリと、メカニロイドのバルカンが自分をターゲットした瞬間に真横へと跳ぶ。
 一瞬遅れて、散まかれたメカニロイドの弾丸が、
今までコードが足っていた位置の床を蜂の巣へと変えていく。
 こんなところで、今更こんな中型メカニロイドに時間を食っているわけにはいかない。
 ジーロン弾爆発まで、もう時間が無い-正確に何日だとか判らないが-。
 確か、ライツとの闘いの時くらいまでは、何日経過したか数えていた気がする。
だが、途中から激化した戦闘によって、そんな事には全く気が回らなくなった。
 ベルザやライツ等の、独立した思考を持つ戦闘用レプリロイドとの対戦では無い。
思考を持たない、ただ単に攻撃能力を持たされただけのメカニロイド達とのマラソンバトル。
ある意味では、そちらの方が圧倒的にきついのかもしれない-コードは、小さく心の中で舌打ちをした。
「はぁっ!!」
 直球に投げられたハンマーの鉄球を、下から上へとレーザー・ブレードを振り上げ、真っ二つに両断する。
 床に激突した鉄球が、カラァァンと乾いた音を立てたときには、
コードの薙いだレーザー・ブレードが、部屋の中心のメカニロイドを、一閃のもとに斬り裂いていた。
 メカニロイドが爆裂すると共に再び床を蹴って、更に先を目出す。
閉じられたシャッターをチャージ・ショットで強引に切り開き、外に出た。
 一気に視界が広がった。左右に広がるのは、酷く荒れた荒野。
人為的な傷跡が残っていることから、ここでガイア・リカバリーズとそれに抵抗した者との闘いがあったことが判る。
 そして、正面には-圧倒されてしまいそうな程巨大な、要塞とも呼べる建造物。
「あっ・・」
 その姿を見渡して、コードは思わず小さな声を漏らした。
 ネオ・イレギュラー・ハンターのベースをも上回る程の規模を持つ要塞。
街に出れば、ガラス張りの高層ビル等は各地に点在するが、これに勝る威圧感を持つ建物を、コードは見たことがなかった。
 間違いない-ここがフラットの、ガイア・リカバリーズの本拠地だ。
この中で、最後の敵であるフラットが待ち構えている。
 要塞の入口にはトーチカが見えたが、大分古い物なのか錆び付いていて、それは機能していなかった。
 ゆっくりと足を進めながら、コードは思考する。
 初めて闘ったとき、オルティーガの一撃をいとも簡単に受け止めたフラット。
そして、単純に床に叩き付けただけで、自分を気絶にまで追い込んだ強敵。
 あの時は、全く歯が立たなかった-しかし、今はどうだろう。
 ガイア・リカバリーズとの闘いを通して、自分は少なからずでも、強くなった筈だ。
武装もベースで強化してもらったものと、ブレードとヴァルキリーの二種の鎧がある。
 これらを総合したら、自分は一体どれだけ彼に近づけた?-結局的に彼の真の実力を見ていない自分には、
それすら予測する事は出来なかった。
 果たして本当に勝てる相手なのか-そこまで考えて、コードは思考を止めた。
 ただひたすら悩んでばかりでは、何の意味もないことなんて、子供でも判る理屈だ。
自分はこの先でフラットと再び剣を交える。そして、勝たなくてはならない。
 勝たなければ、ジーロン弾によって地球上の生命全てを失うことになる。
地球全体に住む人類、レプリロイド。ハンターベースで自分を応援してくれている、仲間達。
各地で自分と同じように闘っている隊員たち。あの街で約束を誓った、少女。
 コードは一旦大きく息を吸い、そして吐いた。
 ぐるりと見える範囲を見渡してみる。
正面には入口がある。視線を上げると、二階か三階くらいの高さに、人間一人通れるくらいの窓があった。
ガラスが張ってある。恐らくは強化ガラスだろう。だが、正面からチャージ・ショットを放てば、破壊する事はそう難しくない。
 時間はもう無いのだ。そして、正面から行けば、何か必ず罠がある。
 コードは、タンッと地面を蹴ると、勢いよく要塞の壁にへばり付いた。
そこから三角蹴りで壁を駆け上がり、同時にチャージしておいたバスターで、窓に張ってある強化ガラスを蒸発させる。
 身を翻し、内部に侵入すると、そこは少し薄暗く、そしてしんと静まり返っていた。
 トーチカやメカニロイドの類は、いない。
あるのは、少し先にずしんと存在している、鉄の扉だけだ。
 もう小細工は必要ない。あるのは直接対決だけだ-まるで、周りの空気がそう云っているようだった。

第二話

 ゆっくりと足を踏み入れる。
 少し薄暗い部屋。その暗さの所為で、全容は把握出来ない。
もしここで戦闘に突入するのであれば、闘い方を工夫しなければならないだろう-コードがそんな事を考えている矢先に、
パッと部屋全体の照明が作動し、辺りを照らした。
 突然の光量の変化に目を庇う。
右手の指の間から、部屋の中心に仁王立ちしている人影が見えた。
 フラットでは無い。彼よりも更に長身で、大型のレプリロイドだ。
 ようやく目が慣れて、コードは手を降ろした。
少し鋭くした視線で、コードは目の前のレプリロイドの姿を確認しながら、その名をゆっくりと呟いた。
「アンダンテ」
 彼が自分の名を呼んでくれるのを待っていたかのように、レプリロイド-アンダンテは陽気な口笛を一息、吹いた。
 相変わらずの舐めきったような笑みを口元に浮かべながら、両手の首の後に回す。
「久っぶりー」
「何のつもりだ」
 ジャキリとバスターを向けながら、コードは低く殺した声で云った。
 出来る限り、必要最低限の闘いで抑えたい。
フラットとの直接対決まで、もうあと少しの筈だ。その時に、自分の体力が底を突いていたら意味が無い。
 そして、何より次もアンダンテが引いてくれるとは思っていない。
ベルザやライツと同じように、今回も殺さなければ、ここを通ることが出来ないかもしれない。
 もう誰も殺したくはない-総大将は目の前なのだ。
「フラットに加担しないなら、もう攻撃しないって云ったのに!」
「何か勘違いしてるんでない?確かに僕は死ぬのは嫌だけどさー。コード君、もしかしてもう一回僕に勝てるとか思ってるわけ?」
「俺は、もう無駄な闘いはしたくない!」
 張り詰めたコードの表情を見て、アンダンテはニヤニヤと楽しそうに笑ったあと、
フンッと鼻を一つ、鳴らした。
「相変わらずの甘ちゃんぶりだねぇ。コード君」
 コードは言葉を返さなかった。
ただ無言で、アンダンテの瞳を思い切り睨み付ける。
 アンダンテは、大袈裟に怖がるような仕草をするが、目だけは依然として嘲笑を浮かべている。
「あー恐い。そんな顔して睨まないでよう」
「・・っ。どいてくれアンダンテ!もう時間がないんだ!!」
「そんな事知ってまーすよーだ。でもここを通りたかったら、やっぱり僕を倒さないと」
 云いながら、アンダンテはいつの間にかビーム・ソードを展開していた。
 前回闘ったときよりも出力が高いものだ。セイバーの刃の規模と、発生時の音でそれが判る。
 燻り出される形で、コードもレーザー・ブレードを発生させ、構えた。
出来る限り、一瞬の闘いにしたい。このレーザー・ブレードなら、アンダンテを一撃で戦闘不能に出来るはずだ。
「今まで傭兵として稼いだお金ぜーんぶ身体の強化に使っちゃった。
 でも、君を殺せばフラット君から色々と報酬が貰えるんだ」
「地球が滅亡すれば、お金だとか、武器なんて全く意味がないんだ!わかんないのか!?アンダンテっ!」
 金銭は、人類・レプリロイドがいるから意味がある。
売買行為や取引があるから意味がある。
それが無くなれば、金銭などただの金属の塊、或いは紙切れに過ぎない。
 武器だってそうだ。闘う相手がいなければ、攻撃する必要も無い。
結局、金銭も武器も、人類やレプリロイドが存在するから、意味があるもので-
 だが、そんなコードの発言も予測の内だったのか、アンダンテはニヤッと口の端をつり上げた。
「フラット君から貰える報酬。それは、例えば」
 アンダンテが腰を落として臨戦態勢に入った。
 この距離で彼の脚力なら、一歩で間合を詰めることが出来るだろう。
その時気を抜いていたら、あの強化されたビーム・ソードの餌食になる。
 コードも、慌てて踏み込む用意を整えた。
「生き残らせて貰える。とかね」
「っ!!」
 アンダンテの呟きの一瞬あとで、部屋の中心が爆ぜた。
 一瞬にして踏み込んできたアンダンテの剣撃を、コードがレーザー・ブレードによって受け止めたからだ。
 出力はほぼ同等だろう。互いが互いを打ち消し合って、ビームが擦れ合うスパークと異臭が辺りに舞う。
 一頻り力比べをしたあと、コードは一歩真後ろへと引いた。
例えブレード・アーマーによって強化されていても、アンダンテと自分とでは基本的な腕力が違い過ぎる。
「おおっとー!」
 大袈裟にバランスを崩すアンダンテ。
しかし、どこか演技臭さが目立った。
 コードは、そんなアンダンテに苛立ちを覚えつつ、素早くバスターの光弾を数発、アンダンテに向けて散まいた。
「痛い!痛いよーう!」
 蒼色のエネルギー弾は全弾、笑い混じりにそう云うアンダンテを直撃した。が、効果はない。
装甲を焦がすことも敵わないそれは、アンダンテにとっては、ただの笑いの種にしかならなかった。
 コードが再びレーザー・ブレードを展開する為に、オルティーガの柄を銃口にセットしようと身体を捩ると、
その一瞬の隙すら見逃さなかったアンダンテの強力なブロウが、コードを真横の壁へと吹き飛ばしていた。
「くっ・・!」
 空中で反転し、三角蹴りで壁にへばり付き、衝撃を殺しながら着地する。
 ソードを肩に回すアンダンテは余裕だ。立った今のコードの三角蹴りの隙を付けば、
致死量とまではいかないものの、大ダメージを与えることだって出来たはずなのに。
「本気でやりなよ。今の君は、実力の半分も出せていないだろ?」
「・・くそっ・・」
 フラットとの対戦に備えての温存戦法を見破られた。無理もないか。
相手は一度倒した相手だと、一瞬でも油断した事も手伝っている。
 今のアンダンテは、前回闘った彼とは別物だ。
スピード・パワー・防御力・小回り。全てにおいて前回を凌駕している。
 本気で闘わなければ、勝つことは出来ない-
「そうやって実力を出し惜しみしてると、今に君の大切な大切な生き物達がどっかんしちゃうぜ?」
 手加減は無用だ。もはや、殺すだとか殺さないだとかの問題では無い。
全力でコイツを倒す!
「さぁ、おいでよロックマン・コード」
「・・あぁっ!!」
 今までコードの足っていた位置の床が砕けた。
 同時に、何か強固な物同士が激突したような高音が、部屋全体に響き渡った。
「勝負だアンダンテ!!」
 アンダンテの胴に深々と減り込んだ、フレイム・ストライクの拳を更に食い込ませながら、
コードは思い切りそう叫んだ。
 ジーロン弾爆発までの時間は、刻一刻と迫りつつあった。

第三話

「やっぱりやるねぇコード君」
 多少苦しそうな声を漏らしながらも、アンダンテはガシリと自らの胴に減り込んだコードの腕を引っ掴んだ。
そのまま強引に身体を持ち上げられ、そのまま地面に叩き付けられ-る瞬間にアンダンテの側頭部に蹴りを叩き込み、
アンダンテが怯んだところで、上手くそれを躱す。
 出来る限りの連射力を駆使したバスターの雨で牽制しながら間合を取ろうと計るが、
この程度の光弾程度、アンダンテに取ってみれば水鉄砲以下の障害だった。
 目-彼の場合アイカメラ-に水鉄砲で水をぶつけられれば怯むところだが、
下手なエネルギー弾を幾ら受け止めたところで、アンダンテの装甲は揺るがない。
「どうしたの?もしかして、それが本気なの?」
 光弾を受け止めながら突進してくるアンダンテがぼそりと囁く。
その嫌らしい笑みに、フレイム・ストライクによるアッパー・カットを叩き込んでやろうと拳を振り上げたが、
その焔の拳は寸での所でアンダンテの顔面の直前を擦り抜け、そのまま空を裂いた。
「くっ!」
 一瞬だけ隙だらけになった胴に回し蹴りを叩き込まれ、背後の壁まで一気に持っていかれた。
アーマーを通り抜けた衝撃が生身の全身にまで響くのを感じながら、コードは必死で姿勢を反転させ、
激突する直前で壁にへばりついた。
 凄い衝撃だ。まるで、思い切り三階か四階から飛び降りたくらいの-ビリビリと足の裏が痺れるのを抑えつけて、
コードは今度は大きくアンダンテの頭上まで、三角蹴りを駆使して跳び上がった。
「はぁぁぁ!!」
 色彩が蒼から水色へと変わる中、コードは思い切り水の竜巻を叩き付けた。
漠然と出現した高圧の水流は、意表をついたのか、そのままアンダンテを直撃する。
 少なからず、アンダンテが後退した-当然だろう。
ウォーター・サイクロンはコードが持つ特殊武器の中でも、攻撃力の高い部類に入る。
恐らく、フレイム・ストライクの次に、一撃の威力は高いはずだ。
 アンダンテも判っている筈だ。フレイム・ストライクを正面から受け止めてはいけないと。
あの焔の拳による打撃は、通常のバスターの威力なんて比にもならないし、
今持つ特殊武器の中で、最強の威力を持つ。
だからこそ、さっきのバスターの連射の様にわざとらしく受け止めたりせず、
フレイム・ストライクによる打撃だけは緻密に躱しているのだ。
「これはどうだっ!!」
 着地と同時にダッシュでアンダンテに突っ込んで、今度は瞬時に発生させたレーザー・ブレードを薙ぐ。
装甲を強化した分、瞬間的な動きや小回りの速さは落ちている筈だ。そこに、一撃必殺であるレーザー・ブレードを叩き込めば-
 が、コードが薙いだ蒼の閃光剣は、アンダンテが持ち上げたビーム・ソードによって、ギリギリのところで阻まれていた。
だが、レーザー・ブレードの先っぽがアンダンテの肩アーマーに斬り込まれている。
その刃は完全に装甲を-斬り裂いていた。
つまり、少なくともはこのレーザー・ブレードを直撃させれば、アンダンテの装甲を突き破ることは不可能ではないということだ。
 腕力で勝るアンダンテの押しに後退させられながらも、コードは再びバスターの雨を降らせた。
ダメージを期待しているわけではない。だが、撃たないよりはずっとマシだと、コードは考えている。
「段々本気が出てきたようだね、コード君」
「俺は絶対フラットを止めてみせる!だから、どけアンダンテ!!」
「そうやって云って、どいてくれた敵が今までにいたかい!?」
 そう声を返しながら、アンダンテは思い切り足元の床にソードを突き刺した。
と、彼のビーム・ソードと同じ色をしたエネルギー波が、床を駆け抜け、コードを襲う。
 だが、コードは引かなかった。
正面から直進してくる衝撃波に向かって、横薙ぎのレーザー・ブレードを叩き付ける!
「うぉぉぉぉっ!!」
 高出力のエネルギー同士がぶつかり合う、独特の高音が部屋全体に響き渡った。
 蒼色の閃光剣と、漆黒のエネルギー波。その出力は、ほぼ同等。
少しでも気を抜けば押し切られてしまいそうになりながらも、コードは必死で両腕に力を込めた。
 この攻撃を受ければ、ただでは済まない。大ダメージは確実だ。
だが、逆のこの攻撃でアンダンテのビーム・ソードのエネルギーが一時的に激減した筈だ。
狙うなら、そこしかない。
「くっ、くぅっ・・!」
「何だって君はそこまでして頑張っているの?フラット君につけば楽に生き残れるのに」
 まるでエネルギーの押し合いに苦しむコードを見て楽しむかのように、
アンダンテは喉で笑いながら、そう云った。
「ふざけるなっ!!」
 確か、少し前、サンダー・スネーキングと闘った時も、同じような質問を投げかけられたかのように思う。
 貴様は何故闘っている-
 何のために-
 どうしてそこまでして-
 コードが返した答えは一つだった。
たった一つの闘う理由。それは、今でも変わっていない。
「滑稽だね。もしフラット君に勝てたとして、君は何を望むんだい?この崩壊ギリギリの地球でさ。
 お金?名声?それとも?」
「違うっ!!」
 思い切り両の脚と腕に力を込めて、エネルギー波を一歩押し返す。
 バチバチとスパークを帯び始めた二つのエネルギーの狭間で、
コードはギリリと歯軋りをした。

第四話

「違うっ!」
「違わないでしょ?だったら何?云ってみなよ。君は一体これから何をするつもりなの?
 仮にここで僕に勝てたとしても、君は一体何を成すつもりなの?」
「俺はっ!俺がやることはっ!」
 バチィ!
 エネルギー波の軌道がそれ、コードの背後の壁に激突し、
それを木っ端微塵にまで砕いてみせた。
 両腕がビリビリと痺れるのを感じながらも、コードはグッと両足に力を込めた。
チャンスだ!
「うぉぉぉ!!」
「くっ!?」
 コードが放った全力のレーザー・ブレードは、慌ててビーム・ソードを抜いたアンダンテの防御をも突き破って、
そのまま彼の身体にザックリと斬り込まれた。
 右手のレーザー・ブレードを解除しながら、コードは間髪入れずに左腕の拳をアンダンテの胴へ叩き込む。
その装甲の厚みに拳が砕けてしまいそうな錯覚に陥りながらも、たった今斬り込んだ一点に向かって、
右と左の拳の連打を一気にたたき込み、アンダンテを思い切り後退させた。
「痛ぅっ・・!」
「まだだぁぁぁ!!」
 体制を瞬時に立て直したアンダンテが目にしたのは、
その鎧を漆黒へと変え、バスターの銃口に高出力のエネルギーを収束させた、コードの姿。
 アンダンテが回避運動を取る暇はなかった。
瞬時にチャージの完了したヴァルキリー・バスターを、全ての力をかけて解放する!
「ぐぁぁぁぁぁ!」
 諸にアンダンテの胴-レーザー・ブレードで斬り裂いた部分を直撃したヴァルキリー・バスターは、
駄目押しとして彼を後方の壁へと叩き付けた。
 アンダンテは立ち上がったが、すぐに体制を崩し、膝を突く。
幾らアンダンテとて、高出力のレーザー・ブレードとフルチャージのヴァルキリー・バスターを受けたのだ。
ただでは済まないだろう。
 コードは、そっとバスターを降ろすと、ゆっくりとアンダンテへと歩み寄る。
アンダンテは、悔しそうな、それでいて薄笑いの面持ちで彼の表情を見上げる。
コードの表情は、少しだけ哀しそうなそれだった。
「アンダンテ」
「ふふ。また負けちゃったねぇ。どうしたの?止め、刺せば?今なら好きに出来るでしょ」
「大丈夫」
 小さな小さな微笑を浮かべて、コードは云った。
 その表情に、アンダンテは少しだけ呆気に取られたようだった。
彼の顔を見詰めたまま、呆然と。
「大丈夫。死にはしないから。助かるから。
 僕は君に勝った。だから僕はここを通る。それでいいだろ?」
「コード君」
 コードはゆっくりと踵を返すと、最後の扉の方へと歩んでいく。
その姿を見詰めたまま、アンダンテはゆっくりと立ち上がった。
 身長も体格も自分より圧倒的に貧弱な少年。
殺したくないだとか、闘いたくないだとか、甘いことばかり並べる少年。
それなのに、彼の後姿は、少し前に見たものよりも、もっともっと逞しくなっていたように思う。
 何かを決意した者-とでも云うべきか。
「コード君。その優しさが命取りにならなきゃいいけどね」
 完全に扉を潜っていったコードの後姿を思いながら、アンダンテは一人呟く。
自分も重い身体をズリズリと引き摺りながら。
 本当に甘い奴だ。あれだけの戦闘を繰り広げたというのに、自分を殺さない為の配慮までするとは。
殺しても良かったはずだ。何故なら自分は、敵なのだから。
 それでも彼は、それをしなかった。
彼は、自分とは違う強さを持っていたから、か。
「また縁があったらどこかで逢えるかもね、ロックマン・コード」
 その時逢うとき、自分達はまた敵同士としてだろうか。
 あわよくば-

第五話

 薄暗い部屋の中に、ギィィっというドアの擦れる古風な音が響く。
 灯りのない部屋の中で、ただ一人椅子に腰掛けていた青年は、
その音に、ようやくと云った様に目を開け、そして笑った。
「来たか」
 彼がそっとその腰を持ち上げると同時に、不意に部屋全体の照明が目を覚ました。
 一気に照らされた部屋の入口。
そこには、照明を照り返してキラキラと輝く、真っ白な鎧に身を包んだ少年の姿があった。
 その蒼の瞳は真っ直ぐにこちらを向いていて、曇や躊躇等という言葉は存在しない。
ただあるのは、静かに燃え盛るような決意の焔と、前に逢ったときとは比べ物にならない程の闘気。それだけだった。
「よくここまできたな。褒めてやるよ、コード。いや、ロックマン・コードと呼ぶべきか」
 彼-フラットがそう声をかけても、コードは依然として無言のままだった。
無言のまま、ゆっくりと右手のバスターの銃口をフラットへと向け、
いつもよりも少しだけ低い声で、静かに云う。
「ルビウスさんはどこだ」
 今までにない程鋭くなったコードの瞳に、フラットは小さく嘆息を漏らす。
それはまさに伝説の英雄・ROCKMANのモノに近い。
いや、相違無い程の眼光。
「少し見ない間に逞しくなったな」
 そう云いながら、フラットはグィっと親指で自分の背後を指さした。
「奴ならこの先の塔に監禁してある」
 独立した塔なので、ここで幾ら暴れても奴には影響はいかない-そう付け加えたフラットに、
コードは更に目付きを鋭くさせた。
「アイツは役に立ってくれた。ガイア・リカバリーズ等という高性能な軍団まで用意して」
 ルビウスに拒否という文字はなかった。
 逆らえば即座に殺されるからだ。
命が惜しいわけではなかったが、コードの為にも、彼は生きる道を選んだ。
自らが作った戦闘型レプリロイド達を、コードが必ず打ち倒してくれると信じて。
「しかし、よくここまで闘ったと思うぞ。コード。人間・レプリロイド等という不必要な存在のために」
「黙れっ!!お前には判らないのか!?みんながみんな、地球を粗末にしているわけじゃない!
 人間もレプリロイドもあってこその地球なんだ!それを滅ぼすだなんて・・!」
「どうやら、これ以上話しても無駄なようだな」
 史上初だろうか、救世主として、守護者として生まれたROCKMAN同士の死闘が繰り広げられるのは。
兄弟として生まれた守護者が、自らの信念をかけてぶつかるのは-
「貴様とは相入れないのだろう」
「ロックマン・フラット・・!」
「さぁ、自らの信念をかけて挑んでこい、ロックマン・コード!」
 勝利を掴むのは、果たして-
 人間・レプリロイド達と共に生きると決めたコードか、
それとも、人間・レプリロイド達を滅ぼしてまで地球を救おうとするフラットか。
 その答えは、恐らく神とて判らないだろう。
 答えを出せるのは、この最後の闘いだけなのだから。
「うぉぉぉぉ!!」
 コードは、出来る限りのエネルギーを収束させたバスターの閃光を、
咆哮と共に、全力で前方へと撃ち出した。


第六話

 勝負は一瞬にして火蓋を切った。
 コードの放ったチャージ・ショットは、反対側からフラットが放った同出力のチャージ・ショットと激突し、
空中で中和させる。
 エネルギー弾が完全に砕け散った時、二人の姿は既にその場に無い。
あったのは、思い切り床を蹴った傷跡。少しだけ砕けた足場だけだった。
 コードのフレイム・ストライクを同じく拳で受け止めたフラット。
腕力ではフラットに分がある。が、コードにはフレイム・ストライクという攻撃力の分があった。
 ギリギリまで押し合ったところで、拳を引いたのはコードの方だった。
側転から跳躍で上空へと跳び上がり、今度は上空からバスターの掃射をお見舞いする。
「はぁぁぁ!!」
 バスターの光弾は、その殆どがフラットの抜いたビーム・セイバーによって阻まれたようだったが、
方向移動の出来ない空中で追撃を受けるという最悪の事態だけは、なんとか切り抜けることが出来た。
 着地すると同時に真横へと跳び、続けざまにウォーター・サイクロンを二発。
薄く笑ったフラットは、それに一撃のチャージ・ショットで応戦した。
 高出力のエネルギーを圧縮したチャージ・ショットは、二発連続で直進するウォーター・サイクロンと直撃した瞬間、
一瞬にしてその二発を蒸発させる。
そして、そのエネルギー弾はそのままコードに直撃するコースで空を裂いていく。
「っ!」 
 避けきれないと判断したコードは、すぐにユニットチップを変換すると、
スパークの盾で、紅の光弾を受け止めた。
が、その威力が余りにも高過ぎて、コードの両足ががりがりと床を掻く。
 それでもなんとか盾の角度を変え、エネルギー弾を頭上へと逃がす。
天井を突き破ったエネルギー弾は、そのまま空へと消える。
 コードは、斬り掛かってきたフラットの一撃を真横へ一歩跳んで躱すと、
離脱ざまに回し蹴りを叩き込み、続けて後方へ跳躍すると同時に、
エレクトリック・アートによって発生させたスパーク・ボールを、フラット目掛けて蹴り跳ばした。
「ふんっ」
 回し蹴りのダメージはほぼ零。
コードがエレクトリック・アートを発生させた時には、既にフラットは体制を立て直していたらしく、
直進するスパーク・ボールは、フラットが上から下へと振り下ろして拳によって、地面に叩き付けられ、消滅した。
「どうした、そんなものか?」
 次に攻めに回ったのは、フラットの方だった。
 的確な照準のバスターの連射が、次々とコードを襲う。
脇腹、頭上、足元。連射速度はほぼ同じはずなのに、狙いと次にコードがどう動くかの勘の差で、
コードは躱すのが精一杯。
「くそっ・・!」
 バスターを構える為には、照準を合わせる為に一瞬制止する必要がある。
が、そんなことをすれば、たちまちあの光弾の雨に呑まれ、一瞬にしてズタボロにされるだろう。
走りながら撃つことは出来ない。照準の的確さで劣るコードでは、幾ら撃ったところで読まれているだろうし、
何よりやはり突き出されたバスターは、躱す為の障害へと成り下がる
 どうすればいい-思考しながら、コードは大胆にも、スライディングと云う形で光弾の足元を潜り抜けた。
ここまでは読みきれなかったのか、フラットの放つ光弾は、全てコードの頭上を擦り抜けていく。
 一気に懐まで滑り込んだコードは、ハンドスプリングの形で起き上がり、
そのバネを利用して、二発の蹴りをフラットの顔面へと見舞った。
「はぁっ!」

第七話

 瞬時に身を捩ったフラットの眼前を、コードの二発の蹴りが擦り抜けていく。
そして、完全に無防備へと陥ったコードの片足は、がしりとフラットの右腕に掴まれた。
「しまっ・・!」
「飛べ」
 そのまま勢いよく上空へと投げられたコードを、彼が体制を整える間もなく、バスターの嵐が襲う。
狙いの良さは相変わらずのフラットの射撃は、反射的に身を捩ったコードの、背中、右肩、左足を諸に直撃した。
「っ・・!」
 身体が灼けるような感覚に、思わず呻くコード。
 と、天井へと向いているコードの視線の先に、不意に拳を握り締めたフラットが現れた。
フラットは、タンッと天井を蹴って勢いをつけ、そのままコードの胴に、回転を加えたブロウを叩き込む。
「っ!」
 その不意な打撃に、コードは思い切り床へと激突し、呻いた。
が、余裕の笑みを浮かべるフラットの全身を、その刹那、蒼く輝くエネルギー波が飲み込み、コードとは逆に、
天井へと彼の身体を叩き付けた。
 狼煙を上げるバスターを片手に、コードはフラリと立ち上がる。
ダメージ覚悟で受け止めた拳。防御を無視して、落下までにチャージ・ショットをつくっておいたのだ。
そして、激突と同時に油断するであろうフラットへ、思い切りバスターを叩き付ける。
 ダメ-ジは思いの外大きかった。が、フラットにもかなりのダメージを与えられた筈だ。
 コードは、コホッと未だに噎せ返りそうになる喉を無理矢理に抑えつけて、
天井の瓦礫と共に視線の先に着地したフラットに、チャキリとバスターを構え直した。
「なかなかやるじゃないか。今のはなかなかに効いたぞ」
 そう云うフラットの表情。余裕の二文字だった。
ダメージを受けても、自分程度を倒すことくらい、わけないと云っているのだ。
 コードは、そんなフラットの余裕に再び奥歯を噛み締めると、
ゆっくりと右手のバスターに、レーザー・ブレードの刃を発生させた。
「随分強くなったなコード。これはお世辞じゃない」
 フラットも楽しそうな表情で、バックパックのビーム・セイバーを抜く。
出力自体はオルティーガと変わらない筈なのに、オルティーガとは正反対の紅い色をした光の刃は、
コードにはどうしても鮮血の色に映ってしまう。
 コードは、ようやく自分の右手-レーザー・ブレードが小刻みに震えていることに気が付いた。
よくよく考えれば、身体も酷く怠い。
 これは、恐怖-?
 それとも、ただの疲労-?
 両方だった。
 闘うごとに威圧感を増していくような、グングンと差が開いていくようなフラットとの闘いに、
自分は少なからず臆している。恐怖しているのだ。
未だに、自分は初めてフラットと闘った時の恐怖が拭いきれないのだ。
一撃も入れられずに沈められた、初めての敵。刺し殺すような視線を持った、紅の髪の青年。
心の何処かが、自分は彼を怖がっている。
 そして、この度重なる一ヶ月間の闘いで、自分の疲労は確実に溜まっていることに気付く。
 四体の刺客とアンダンテ、そしてベルザとライツ。更に何体倒したか判らない戦闘型メカニロイド達。
そんな闘いの中で、自分は休息を得たことがあっただろう。
 あった-本当に短い時間だったけれど、本当に少しだけの休息と安堵が。
 ヴェルカノ火山のふもとの街だった。あの不思議な少女との出逢い。
彼女と共に過ごした一瞬の時間だけは、何もかも忘れ、安堵することが出来た。
 だから、自分は-
「フラット・・!」
 腕の震えが止まった。不思議と身体の怠さも消えた気がしてくる。
自分は勝たなくてはならないのだ。負けることは絶対に許されない。
 いや、負けて、負けて溜まるか-
「だが」
 しかし、コードが決意を奮い立たせたのも束の間だった。
「サービスタイムは終わりだコード」
 -ザシュ-
 紅の閃光剣は、その斬撃を蒼の閃光剣が阻むよりも前に、真っ白な鎧にザックリと斬り込まれていた。
 噴水の様に一気に吹き出した真っ赤な鮮血と共に、部屋全体に少年の悲鳴が響いた。
「ぐっ、ぁぁぁぁぁぁっ!!」

第八話

「サービスタイムはこれで終わりだコード」
 なんとか両足を踏ん張って、後に倒れ込まないように身体を持ち上げる。
至近距離でセイバーを薙いだままの姿勢のフラットは、そんなコードの抵抗とも呼べない些細な踏ん張りに、
更にニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
 コードは、そんな彼を、苦痛にぼやける瞳で、必死で睨み返すことでしか、抵抗を示す事が出来なかった。
ナノマシンが必死で傷口を塞いでくれていることが実感出来る。だが、ほんの一瞬で修復が完了するほど、
フラットの放った斬撃の傷跡は、浅くなかった。
ナノマシンが傷口を修復するまでの短い時間が命取りになるやもしれない。
「くっ・・」
 ようやく痛みが抜けてきたコードは、薙いだ姿勢そのままを維持続けるフラットに向けて、
至近距離でバスターを見舞った。
が、まだ少しだけ動きのぎこちないコードの射撃は読まれていたのか、蒼の光弾が撃ち抜いたのは、
足元の床だけだった。
「まだだ。まだ・・」
 慌てて頭を伏せると、その一瞬後にフラットの蹴りが今までコードの頭部が存在していた場所を貫く。
コードは起き上がりざまにフレイム・ストライクによるアッパー・カットを殴り上げたが、
コードの拳が叩いたのは、やはり何も無い空間だけだった。
「弱者は弱者なりに頑張ってくれるじゃないか」
「黙れ・・っ!」
 部屋の隅っこへと向けてバスターを散まくコード。
だが、広範囲に連続的に掃射されたバスターは、まるでスローモーションのようなフラットの動きに、
全弾壁に衝突し、その役目を終える。
 それでも諦めずにバスターを散まくコードだったが、瞬間的に懐にまで飛び込んできたフラットの膝蹴りを受け、
大きく怯むと同時に浴びせ蹴りを叩き込まれ、床に頭部から叩き付けられた。
「かはっ・・」
 両腕を床に突いて上半身を持ち上げるコードは、不意な催しに、
口から大量の鮮血を吐き出した。
止めどなく吐き出される真っ赤な血は、ポタポタとコードの足元を濡らし、
跳ね返ったそれは、ぴちゃっとコードの頬を紅く染めた。
 フラットは、コードのそんな様子を至近距離で見詰めながら、一頻り満足そうにそれを眺めた後、
見切りをつけたように、チャキッとバスターの銃口をコードへと突き付けた。
「っ・・!?」
 銃口には、既に紫色の光がはやく解放してくれといわんばかりに暴れていた。
至近距離でこんな出力のエネルギー波を受けたら-!
「消えろ」
「くっ!!」
 一瞬の発光。
紫の光は首輪が外れた猛犬の如く、一斉にコードへと食らい付く。
抵抗力を持たない子供は、荒れ狂う猛犬の前には、成す術もなく、噛み付かれるしか道はなかった。
 バラバラと周囲に飛び散る純白の鎧。
ガシャリとフラットの後方に突起物だらけのヘルメットが落下したとき、彼は低く喉で笑いながら、振り返った。
「なかなか面白い勝負だったが、正直期待外れだったなコード」
 フラットは完全に油断していた。
あれほどのチャージ・ショットを間近で受けて、もはや生きていられるはずもない、と。
 だからこそ、後方からエネルギー充填時の独特な音が響いたことにも、気付いていなかった。
もはやそんな音など、彼の笑い声に掻き消され、フラットの耳には全く届いていなかったのだから。
 フラットがようやく事の異変に気が付いたのは、蒼の光が爆裂した瞬間だった。
「なにっ!?」
 彼が初めて驚愕に声を荒げた瞬間には、彼は猛犬を硬直させた蒼のドラゴンの口に飲み込まれていた。
 瞬間的に両腕が全身を庇ったのか、光が晴れたフラットのアーマーは、
ところどころが欠けてきているが、まだしぶとく機能しているようだった。
 ゆっくりと身体を庇っていた両腕を降ろした彼は、今さっき葬ったばかりの少年の姿に、
大きく目を見開いた。
 少年の姿は変わっていた。傷つき頼りなくなった姿は相変わらずだが、
データにはない流線型の漆黒の鎧へと。
 報告では、彼が所持しているのは格闘戦を特化した鎧・ブレード・アーマーだけだった筈。
つい最近入手したのか-フラットは、もう少し闘いを楽しめるかもしれないという高揚感と、
しぶとく生きている彼に対する驚愕に、複雑な表情を醸し出した。
「まだだ。まだ。まだ、負けて溜まるか・・っ!」

第九話

 ブレード・アーマーの時とは比べ物にならない瞬発力で、コードは一気にフラットの懐まで飛び込んだ。
急激な回転を与えたフレイム・ストライク。飛行速度を添加したこの一撃なら、フラットにも致命傷を与えられるはずだ。
「はぁっ!」
「ふんっ」
 フラットの掌が、コードの拳を横からはたくように軌道を逸らした。
そして続けざまにもう片方の腕のバスターを至近距離で突き付けられる。
 が、紅の閃光が貫いたのは、足元の地面だけだった。
ぽっかりと胸に風穴を空けたコードは、爆発するでもなく、フッとその場でその姿を消した。
 フラットが即座に振り返ろうとした時には、彼は背中に高出力のエネルギー波を叩き付けられていた後だった。
「ぬぐっ・・!?」
「ここっ!!」
 よろぬいたフラットの背を、更に滞空した状態のままのコードの回し蹴りが捉える。
フラットが体制を立て直しつつセイバーを薙いでも、それはギリギリのところで、コードの装甲を掠るだけだった。
「っ・・!」
 空中で姿勢修正を強いられるコード。
そんな一瞬の隙を、フラットが許そう筈もなかった。
 コードが投げつけたオルティーガも難なく躱し、紅の光剣を携えて、
コードの一瞬の隙に向けて、殺人的な斬撃を浴びせる!
が、不意にフラットの腹部に走った衝撃が、それを阻止した。
「なにっ・・!?」
 よく見れば、フラットの腹部には小型のライドメカが減り込んでいた。
飛行タイプのライドメカだ。機体の形状からして、上に誰かが乗ることで、操縦者を高速移動させることの出来る。
 そして、続けざまに蒼の装甲を持つ拳に殴り飛ばされた。
その正体を一瞬でも眼に捉えて、フラットは瞬時に理解した。
 奴はヴァルキリー・アーマーを咄嗟に分離させ-そして元々あの鎧にはライドメカモードが存在した-、
自分にぶつけてきたのだ。一瞬だけ自分の基本能力が低下することも省みずに。
「まだまだぁぁぁっ!!」
 もう一撃加えようとするコードの拳は、激突する瞬間に、それと同じモノに正面から受け止められた。
顔を上げたフラットは、ニヤリと至近距離で笑みを浮かべながら、ギリギリと自分の拳でコードの拳を押し込む。
 基本腕力では、アーマーの無いコードは、フラットよりも格段に下だ。
ぐんぐんと押し込まれる。ビキッと関節が音を立てた。
「くっそ・・!」
 止むなくバスターを向け、撃つ。だが、その蒼い光弾は、少しだけ首を傾けたフラットの顔の横を擦り抜けるだけだった。
そして、それを放ったことでさに隙が生まれたコードは、
フラットが大胆にも姿勢を変えたことによる打ち上げ蹴りを諸に顎に叩き付けられて、
そのまま空へと投げ出された。
「砕けろ」
 追い打ちとしてフラットが乱射するバスター。
広範囲に広がっていく紅の光弾がコードを射止める寸前に、
コードはさっき投げ捨てた筈のオルティーガを展開すると同時に空中で制止し、
自身に迫り来る光弾を叩き落とした。
 バスターが直撃する寸前に、オルティーガを回収してきたヴァルキリー・アーマーが装着されたのだ。
「お返しだっ!」
 チャキリともう片方の手のバスターを向ける。
チャージは既に完了だ。ヴァルキリー・アーマーが戻ってくる際に既にチャージしていてくれた。
 この広範囲に拡がるショットなら!-
 一気に爆裂した蒼の閃光の前に、フラットは避ける暇もなく飲み込まれた。
辺り一面には煙と光の粒が飛び散って、彼の姿を確認することは出来ないが、
コードは再びオルティーガを握り締め直した。
 この程度のことで倒せるような敵ではない。これで勝てる相手だったら、今までの闘い、
何度もコイツに勝利している筈だ。
 コードは、アーマーのブースターを思い切り噴かすと、
煙の咲き乱れる中心に向かって、蒼の光剣を振り下ろした。
 ばちぃぃぃぃっ!!

第十話

 蒼の光剣を受け止めた紅の光剣。
フラットは立ち上がり様にセイバーを押し込みつつ、斬り上げる。
 コードは、それを身を捩って剣芯をずらし、流すと、
余った拳で思い切りフラットへと打撃を加える。
「ぐっ!!」
 直撃。が、コードの拳がフラットの頬に激突した瞬間、コードの腹部にも突然の衝撃が走っていた。
フラットの放った膝蹴り。拳を受けることを覚悟しての一撃だった。
 だが、コードは怯まなかった。
オルティーガを再び投げ捨てて、腹部に減り込んだ膝に拳を叩き込んで、体制を立て直し、
それと同時に身を回転させつつの裏拳の追撃!
 フラットは、コードの裏拳を片手で流すように受け止めると、
もう片方の腕でコードの頭部を鷲掴みにし、そのまま勢いよく床に叩き付けた。
「っ・・そっ!」
「っ!?」
 コードが叩き付けられたまま放った光弾は、不意を突かれたフラットの額に直撃すると、
首を支点に彼の身体を後方へと持っていった。
 コードは、両腕のバネを使って起き上がりつつ、フラついたフラットの腹部にフレイム・ストライクの打撃を叩き込んだ。
 フラリとフラつくフラット。そして、手首に異様な痛みを覚えつつ、その場に留まったコード。
これ以上追撃するのは危険だ。自分の体力は元々限界だったし、そこを突かれて反撃を受ける危険性がある。
 顔を上げたフラットに、コードは再びバスターを構え直すが、
フラットはバスターを構えつつも、薄らと口元に笑みを浮かべた。
「なかなかやるな。まさかここまでの底力があるとは思わなかった」
 そう云うフラットの表情に、さっきまでの余裕は無い。
そう、これはフラットが初めて勝敗の判らない闘いへ赴くことへの笑み。
 そして-
「当たり前だっ」
 ここまで来て、もう諦められるものか-コードは、ズッシリと重い身体に心で鞭を打ちつつ、
既に持ち上げているだけでも辛いバスターの銃口を降ろそうとはしなかった。
 息が、荒い。何度呼吸しても一向に治まろうとしてくれない。
全身が酸素と休息を求めて、意識をシャットアウトしようとする。
だが、コードはそれに精神で抗った。
 あと少しだから-
 負けたくないから-
 勝ってみせるから-
 そう自分の身体に言い聞かせて。
「俺は、絶対負けないためにここまで来たんだ・・!」
 息が整わない為に途切れ途切れの言葉ながらも、コードは叫ぶように云う。
 フラットは、場違いに微笑を浮かべた顔で、それを見詰める。
そんな彼の表情にあるのは、不思議と憎悪ではなかった。
まるで、弟の頑張りを見詰める兄のような、そんな瞳を一瞬だけ-
「いいだろう」
 フッと再び余裕の笑みを浮かべ直したフラットは、
不意にパチリと右手の指を鳴らしてみせた。
 それに反応するかのように、既にズタボロと化している室内の四方に、ガシャンと何かの装置が現れた。
 それを横目で確認したコードは、それを一瞬で映写機、つまりカメラだということを理解した。
「お前の根性は評価に値する」
「・・・何・・っ?」
「これからこの闘いを全世界に衛星放送で流そうではないか」
「何のつもりだ・・・!」
「全世界に希望の光《ROCKMAN》が消える瞬間を生放送で届けてやろうというのだ」
 フラットが言い終わると同時に、四方のカメラが低い起動音を発し始めた。
 合計八機のカメラは、それぞれ別の方向を向いていたが、
起動が開始したと同時に、一気に一点にその照準を集中させた。
ロックオンされたのは、既に立っているのもやっとの状態のコードの姿。
それが、四方の床と天井に設置されたカメラが、全ての視点から捉えた。
「フラット・・!」
「さぞかし絶望することだろうな。お前の死ぬ瞬間を目の当たりにした愚か者たちは」
「貴様っ・・!!」
 堪らなくなって、バスターに光を収束させ始めるコード。
残りエネルギーは既に殆ど残っていない。チャージ・ショットを全開で放てば、撃ててあと五発が限界だ。
同時に体力も無い。武器ユニットチップも全力で連射してきた為、もう頼りにはならないだろう。
オルティーガは-さっき投げ捨てたため、部屋の隅に転がっている。
しかし、既にあれを取りに行く意味はない。あれを拾ったところで、ビーム・セイバーの刃はすぐに消え失せる筈なのだから。
 頼れるのは、あと数発分のチャージ・ショットのエネルギーと、底を突いた全身の体力のみ。
「さぁ最終ラウンドだコード。志し半ばにして死ぬがいい!」
「勝つのは・・っ!」
 チャージが完了した。
照準に狂いは無い。このまま正面に向かって放つ!
「勝つのは、お前じゃないっ!俺は絶対に負けないからなっ!!」


第十一話

 洗濯を終えて、ヒカル・チェレスタは何の気なしにリビングへと戻る。
つい最近買い物に出掛けた時に買いだめしてきた紅茶の葉を使って、綺麗な色の紅茶を飲んでいた。
 一人分の洗濯物。いつも三日に一回くらいの間隔で一気に洗濯をしている。
今日は丁度そんな日で、天気が良かったため、すぐに乾くだろう。
 一応乾燥機も家にあるが、ヒカルは太陽に晒して乾かす方が、なんとなく好きだった。
人工的に乾かされたものよりも、太陽の光を浴びて、暖かな温もりを宿して乾いた洗濯物は、
なんとなく優しい感じがする。
 布団も本来なら一瞬で洗濯・乾燥を済ませられるところだが、敢えて太陽に晒している。
たった一人で眠る夜も、暖かな布団に包まれば、少しだけ寂しさを紛らわすことが出来るから。
 一口紅茶を啜りながら、ヒカルはフと干してきた洗濯物の中の一着を思い出す。
蒼色をしたパーカー。肩の部分に少しだけ血の跡と、繕った跡があった。
 これが残っていた事に気が付いたのは今朝だった。
あの蒼の髪の少年が使っていた部屋に、数日ぶりに入ったとき、ベッドの上に放りっぱなしになっていたのだ。
 これまでの数日間、なんとなく入る気になれなかった部屋。
それでも掃除くらいは、と思い入った時のこと。
 捨ててしまっても良かったが、ヒカルはそれを取っておくことにした。
彼が戻ってきた時に返せる様に。そして、それまでの間、勝手に心の支えにさせてもらえるように。
「輝君・・」
 彼の名を呼んでみる。返事が来ないことは承知だった。
それでも、もう少しの間だけはこの名を呼んでいれば、一人でいても耐えられるような、そんな気がした。
 両親は、数年前に死んだ。
街でイレギュラーが発生したのだ。
 たまたま近くを散歩に来ていた自分達三人は、作業用に強化されているそれに鉢合わせになってしまった。
すぐにネオ・イレギュラー・ハンターが派遣されたようだったが、遅かった。
彼等の射撃がイレギュラーを貫いたとき、両親は既に動かなくなっていたのだ。
かくいうヒカルも父と母の腕に抱かれたまま気を失っていた為、
その事実を知ったのはハンター・ベースの医療室のベッドの上だったが。
 両親は自分を庇って死んだ。
今は大分その時のショックも落ち着いてきたが、やはり心の底での引っ掛かりは取れなかった。
 あの時散歩に行こうと誘ったのは自分で、自分がいたから両親は死んでしまった。
親戚もいないヒカルは、ただ一人、誰も居ない家の中での生活を強いられた。
 料理も洗濯も得意ではなかった。けれど、結局は一人でやるしかなかった。
同年代の子供は周りに居なかったから、友達もいない。いつも、たった一人でここに住んでいた。
 生きることの意味について、考えていたのはつい最近のことだった。
ボンヤリとリビングでニュースわ見ていたとき、突然のロックマン・フラットによる宣戦布告。
人々は大騒ぎだったようだが、ヒカルは不思議と落ち着いていた。
 生きることに意味なんて、なかったのだから-
 危険だと云われながらも隣街に買い物に行こうとした時、フラット側のメカニロイド達が街を襲った。
運良く、自分は最後まで残っていたようだったが、すぐに見つかった。相手は中型のメカニロイド。
人間の少女であるヒカルには、どうすることも出来ない相手だった。
 久しぶりに感じた恐怖と、別に死んでもいいだろうと云う複雑な感情の中、
不意に現れたのは蒼の髪の少年。
その外見とは裏腹に、素手でメカニロイドを倒してみせた。
 彼が「大丈夫?」と向けてくれた笑顔が、なんだかとても眩しくて、泣きたくなった。
 彼は怪我をしていた。助けてもらった御礼に、手当てをする。
そして、気が付いたら彼は余りきった部屋の一つのベッドで、酷く静かな寝息を立てていた。
 心の何処が、彼に縋っていたのだと、今更に気付いた。
「ー・・・?」
 不意にヒカルの思考を遮ったのは、突然電源の入ったTVモニタだった。
最近はどのチャンネルを映してもニュースか、或いは砂嵐しか映らないものだから、暫く使っていなかったというのに。
 不思議に思って画面を覗き込むと、そこには予想だにしない光景が広がっていた。
 半壊した部屋の中心で、二人の人影が絶えず動いている。
よく見えないが、元々動体視力には自信があったヒカルには、辛うじて見ることが出来た。
 片方は紫色の鎧に身を包んだ男。身長からして、青年だろう。
後姿になびく紅色の髪がとても目に付く。
 そしてもう一人は、漆黒の鎧に身を包んだ、青年との身長差から、少年と思われる影。
「あ・・ー」
 画面の中で踊り狂う二つの影のウチ、一人は誰だかすぐに判った。
つい先日TV放送で全世界に宣戦布告をした張本人。ロックマン・フラットだ。
 そして、もう一人。もう一人の影も、少しだけ見覚えがあるような錯覚に襲われた。
だが、すぐには誰だか思い出すことが出来ない。
 画面の中で轟音が響く。漆黒の少年がフラットの一撃で壁に叩き付けられたのだ。
頭部を覆っていたメットが砕けた少年は、額から血が滑り落ちてくるのを気にも留めずに立ち上がる。
「・・!」
 顔を上げた彼を目の当たりにして、ヒカルは思わず声にならない声を上げた。
 少しだけ紅く染まってしまったが、間違いなく蒼色の髪。
顔も、かなり疲れているし、薄汚れてしまっているが、先日目にした物と、全く同じだった。
「輝君・・」
 ヒカルは、彼の名を思い出す様に呟きながら、画面を食い入るように見詰める。
 ほとんど互角に見える闘いだが、輝は劣勢だ。
互角の撃ち合いをしているように見えても、明らかに疲労しているし、ダメージも大きい。
 何故彼がフラットと闘っているか-そんなことはどうでもよかった。
ただ判るのは、彼はフラットを止めようとしている。そして、命をかけて闘っているということだ。
「・・・負けないで・・!」
 ボソリと、ヒカルは呟く。
少しずつ追い込まれていく彼の姿に、祈るように両の掌を組みながら。
 彼は云っていた。必ず戻ってくる、と。
そして、彼は嘘をつける人間では、無い!
「頑張って輝君!負けちゃ駄目っ!!」

第十二話

「しぶといな」
 壁にめり込みながら、立ち上がろうと試みるコードの姿に、
フラットは少し皮肉混じりにそう呟いた。
「まだ、だ・・・まだ・・」
 ばさりと前髪が降りてきて、視界を狭める。
もう気力も尽きかけだ。膝が笑い始めて上手く立つことすら出来ない。
バスターのエネルギーも、もうあと二発撃てば限界だろう。しかし、恐らく撃つことは出来ない。
「まだ・・」
「もうお終いのようだな」
 フラットのバスターの照準が、完全にコードをロックオンする。
 この距離からフルチャージ・ショットを叩き込まれれば、もう立ち上がることは出来ないだろう。
いや、立ち上がれないどころか、自分は-死ぬ。
 総仕上げとでも云わんばかりに、フラットのバスターにはゆっくりとエネルギーが集まっていく。
コードは、もはや撃たれるのを待つことしか出来ない自分に、思い切り歯軋りをした。
 床に突いていた腕の力が抜け、掌があらぬ方向へと滑る。
膝も完全に爆笑していて、全く云うことを聞いてくれなかった。
 身体が動かない。もう潮時か。
悔しい。ここまで来たのに、自分が負ければ、後がないのに-なのに。
 情けない。
「死ね」
 嫌だ。


 嫌だ。


『頑張って輝君!負けちゃ駄目っ!!』


「っ!!」
 不意に冷水をかけられたように、ボンヤリとし始めていた意識が急激に鮮明さを増した。
 同時に、目の前で紅い光が真っ二つに斬り裂かれた。
斬り裂いたのは、右手に握られた蒼色の光剣。
 パキンと甲高い音を立てながら砕け散ったのは、そうオルティーガだ。
さっき体制を崩したとき、たまたま手元に転がっていた。運が良かったのだ。
「はぁぁぁぁっ!!」
 残る全ての力を込めて立ち上がる。
もう痛みも苦しみもなかった。あるのは、内から込み上げてくるように熱い力。
 残ったエネルギーはチャージ・ショット数発分。
その全てのエネルギーを、この一撃。一発の射撃に込める!
「うぉぉぉっ!俺はっ!!」
 グングンと膨れ上がっていく光。
銃口内に納まりきらなくなったそれを、コードはジャキリと頭上へと向けた。
「俺は、この手でみんなを護ってみせるっ!!人間も!レプリロイドも!!そして地球もだっ!!」
 バスターの銃口が爆ぜた。
「なにぃっ!?」
「喰らえーっ!!ヴァルキリー・レインっ!!」
 コードの叫びが引き金となった瞬間、
フラットの頭上から無数の光弾が降り注ぎ、彼を抵抗する暇もなく、一気に打ちのめした。
 静寂。
壮絶な爆裂音が響いた後に残ったのは、それだけだった。
 ゆっくりと煙が晴れていく。
床にひれ伏したフラットと、アーマーの大半が衝撃で吹き飛びながらも、二の足で立っているコード。
二人は、少しの間だけ見つめ合っていたが、すぐに静寂は斬り裂かれた。
「何故だ」
「フラット」
「貴様は結局人間の道具なのか。地球は結局、人間共のオモチャにされて崩壊していくのか」
 今まで見たことも無い程、寂しそうに、哀しそうに云うフラットに、
コードは感覚が戻り始めた全身の激痛も忘れて、それに見入る。
「結局は・・・!」
「フラット、それは違うよ」
「何っ・・」
「僕がフラットと闘おうと決めたのは、確かに最初は任務だとか、そういう類のことだった。
 でもね、今は違うよ」
 不思議と口調が荒れなかった。
友達の悩みごとを聞いてやるかのように、優しく、ゆっくりと。
「今は違うんだ。俺はフラットを殺したいわけじゃない」
「なんだと?」
「この一ヶ月間闘ってきて、判ったんだ。世の中には地球を大事に思っている人もいる。
 思い出せば、地球を再生しようと計画している研究チームもあったんだよ?」
「嘘をつくな。人間達は地球を道具程度に思っていない!」
 ブンブンと首を横に振るフラット。
艶やかだった髪は、鮮血で固まって、今はすっかりバサバサになってしまっていた。
 コードは、思わず声を太くした。
「違うっ!」
 声を荒げたコードに、フラットは驚いたように静止した。
コードは、ゆくっりと一呼吸置いてから続ける。
「違うよ。人間達は君の思ってる程愚かじゃない」
「嘘・・」
「フラット。僕のやり方が正しいと思ってない。だけど、君のやり方も間違ってると思うんだ」
「・・・・」
「手が無いわけじゃないよ。人間もレプリロイドも、そして自然もみんなが共存する道を探すことだって」
 少しの沈黙の後、フラットはフッと口元に笑みを浮かべた。
それはさっきまでの嫌らしい皮肉な笑みではなく、ただ少しだけの純粋なもの。
「やはりお前は甘ちゃんだ」
「フラット・・?」
「どっちにしろオレの負けだ。お前はオレを殺すだって出来る」
「フラット、僕は・・!」
「判っている」
 微笑を、フラットはコードへと向けた。
その笑みに、コードは少しだけパチパチと瞬きをしていたが、すぐにパッと頬笑んでみせた。
「一緒に帰ろうフラット」
「・・・・・それも悪くないな」
「一緒に、来て欲しいんだ」
「いつまた裏切るかもしれんぞ?」
「その時は」
 コードは、未だバスター形態を保っていたままの右腕を素手へと戻しつつ、云った。
「僕が君を止める」
「大した甘ちゃんだ」
「みんな怒るかもしれないけど、大丈夫だよ。手はいくらでもあるんだから」
 すっと手を差し伸べたコードに、
フラットは慣れない手つきで、そっとそれを掴む。
 今まで闘ってきた猛者とは思えない程、純粋な笑みを浮かべるコードに、いつしかフラットも吊られて笑む。
さっきまでのどす黒い気持ちは、不思議とどこにも残っていなかった。
驚くくらいに。殺意や憎悪などといった感情は、全く。
「ジーロン弾を解除して、ルビウスさんを連れて帰るんだ。ベースに」
 ドンッ。
 笑顔を浮かべたままの少年の胸を、不意に紅の閃光が貫いた。


次回予告

終わった筈の闘い。それは、真の敵が姿を現すと共に再始動する。
体力の底をついた僕。それでも闘わなければ・・!
ここまで来て負けられるか!みんな、ヒカル!そしてフラット!僕に最後の力を分けてくれっ!!
次回「ロックマンコードⅠ最終章~決着~」
「みんな!僕に力を分けてくれっ!最後の力を!!」