ロクノベ小説保管庫 ロックマンコードⅡ 第壱章~発端~

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プロローグ

   何故・・人類とレプリロイドは闘う運命になったと思う?

・・・さぁね・・

  わからないか?『心を持ったロボット』が生まれたからだよ

・・・どう言うこと・・?

  最初に大規模な『ロボット犯罪』を起こした者がいたからだよ

・・・上手く話が呑み込めない・・

  そして・・その人物をその行為に走らせた者がいるからだよ

・・・・・・・

  その人物の行為を・・止めようとする者が現れたからだよ


ロックマンコードⅡ~新たなる決意~ 第壱章~発端~

 最近はやたらと雨天が続くな。
 自室の窓から見える、薄暗い空を見上げて、松浦 輝-ロックマン・コードはボンヤリと思った。
 いつからだろうか・・。随分前からだったと思う。
随分前から・・輝く太陽の姿を見ていない。
 天気予報も、今週はずっと雨マーク。
 最近はイレギュラーも発生していないため、別に問題は無いが。
「異常気象、かな。こういうのは」
 窓枠に頬杖を突いて、輝は呟いた。
「何をボーッとしているんだ?」
「あ、響」
 ドアの開く音が聞えて、輝が多少面倒臭そうに振り返ると、そこには「よっ」と右手を上げた、
長い紅髪の青年が立っていた。
 青年の名は師道 響。またの名をロックマン・フラット。
 一年程前の闘い-今は『地球の逆襲』と呼ばれている闘いを引き起こした、ある意味での張本人。
 しかし、こう言う言い方をするのは得策ではない。
 一年前の闘いで、『フラットとして』輝と闘ったのは、『響』では無いからだ。
響は元々、輝と同じ、『ROCKMAN復活計画』によって生まれた存在だ。
しかし、そのバランスの悪さから、日々遺伝子改造を施しながら、カプセルの中で眠らせている間に、
正体不明のウィルスが響に感染し、人類とレプリロイドに宣戦布告したのだ。
 響には、その記憶は全く無い。
あるのは、輝よりも前に創られたときの記憶と、響となって復活した後の記憶だけだ。
「いい天気とはお世辞でも云えないな」
「うん、そうだね」
「引っ掛かるな。最近」
 響は、ポリポリと後頭部を掻きながら、数歩進んで、輝の隣に腰かけた。
「何が?」
「いや、一ヶ月以上も続くような異常気象だ。自然界でそんなことが有り得ると思うか?」
 輝は無言で首を横に振った。
 一週間はまだ聞いたことがある。
しかし、流石に一ヶ月も続くような異常気象は、ベースのデータには残っていない。
「また何か、おかしな事が起こらなければいいがな」
「・・・そうだね」
「そういえば、海の奴がトレーニングルームで呼んでたぞ。トレーニングの相手をしろってな。
 行ってこい。最近は身体がなまってるだろう」
「うん。じゃあちょっと行ってくるよ。トレーニング・ルームだね」
 髪をグシャグシャと掻き乱して、輝は立ち上がった。
 ここ最近は必要最低限以上のトレーニングをしていなかったっけ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 頭上から連続的に降りかかってくる、蒼いエネルギー弾を、オルティーガで叩き落としながら、
輝-ロックマン・コードはバック転で間合を広げた。
 跳躍の推力が切れ、地面に着地したのは、もう一人-コードを鏡に映したような少年だった。
彼の名は松浦 海。本名はロックマン・カイト。
数ヶ月前、コードに起こった謎の発作によって生まれた、彼の分身だ。
分身と一口で言っても、その真意は未だにわからないし、海も輝も知ろうともしない。
 既に輝も海も、お互いを本体だの分身だのと言うものではなく、『仲間』と捉えているからだ。
 数回バック転をした後、コードは跳躍してチャージ・ショットを放った。
 蒼くスパークする光弾を、カイトは寸での所で躱す。
が、バーチャル・トレーニング用の仮想ボディの右肩アーマーが、見事なまでに吹き飛んだ。
 コードのΦ《ファイ》・バスターの連続的な光弾と、カイトのδ《デルタ》・バスターの光弾は、
次々と空中で激突し、拡散する。
 そして、最後の一発が互いに打ち消し合ったところで、コードとカイトは、同時に互いの懐に飛び込んだ。
 交差。
「危なかった・・」
 先に幕を切ったのは、コードの方だった。
 仮想ボディの胸部に、巨大なエネルギーの傷跡がクッキリ残っている。
「こっちもさ」
 振り返ったカイトにも、同じく傷跡が残っていた。
 一瞬の交差の際、ビーム・セイバー同士の斬り合いが発生した。
その本当の一瞬の中、二人は互いの致命傷となる様な攻撃を繰り出した。
 互いがもし・・・敵同士になったらと思うと・・・ゾッとする。
 コードは、軽く手で合図を送って、仮想ボディのメットを外した。
バーチャル・トレーニング内でヘルメットを外すことは、トレーニング終了を意味する。

 不意に目の前の空間が消え去り、次に飛び込んできたのは、無機質なベースの天井だった。
 バーチャル・トレーニングは便利だけど、こういう感覚がたまに嫌になる。
 バーチャル用トレース・マシンから、少しゆっくりめに起き上がり、コード・・いや輝はふぅ・・と息をついた。
 海の傍に寄ろうと思って、足を二、三歩進めると、海が「よぉ」と起き上がった。
軽く掛け声をかけて、海はトレース・マシンから身体を外す。
 色々なコード類――無論整理はされているが――や、催眠用のメットが取りつけられているこの機器に、
いつまでもくっつけているのは、輝も海も本能的に嫌悪感があるのだ。
「最近あんましイレギュラーも出ねぇけど、いや出ねぇのが一番なんだろうけど、
 もしまた闘いが起こったとき、俺達が弱かったら意味がないだろ。だから、な?」
「・・・うん」
 これ以上、輝は言葉を紡ごうとはしなかった。
 『地球の逆襲』までの記憶は、海にも受け継がれたはずだから、あの時自分が何を思っていたか、話さずともわかるはずだ。
「でも大丈夫だよね、だって、僕はもう一人じゃない」
「えっ?」
 輝は頬笑んで、自分と海と、そして丁度トレーニング・ルームに入ってきた響を、順々に指さした。
「僕には海と響がいる。ねっ?」
「・・あぁ!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 輝は、外の景色が一望できる、二十階の端っこに座っていた。
 外は雨。未だに。
 もう何日降り続いたかわからない。
そろそろ何か問題が出てきそうな勢いだ。
 そして嫌な予感もした。
得体の知れない嫌な予感。『地球の逆襲』の時とはまた違った、圧倒的な。
 もしまた、闘いが始まったら――
「その時、僕はどうすればいいのだろう」
「とりふえずこれでも飲んで、落ち着いたらどうだ」
 ヒヤリとした感覚が、頬に伝わってきた。
 「うわっ!」と軽く声を上げて、目線を上げると、自分の頬に、缶ジュースを押しつけて笑っている、響の姿があった。
「もぉ」
 呟きつつ、渡された缶ジュースを受け取る。
「ありがとう」
「チェレスタの嬢ちゃんが心配していたから、様子を見に来ただけだ」
 タブを開き、中の炭酸飲料を一口だけ食道に流し込み、コードは「うん・・」と返した。
 ヒカル・チェレスタ。『地球の逆襲』の際、偶然であった少女。
それだけなのに、離れ難くなった少女。自分も相手も。
 今は輝の権限で、輝の自室の隣に住んでいる。
いつまでも無人の街に住み続けるのは酷だと言う、輝の気配りだった。
 そうか――彼女にも心配かけてたのか。
「ただ」
「えっ?」
「お前の『嫌な予感』が当たるのは、オレも海もチェレスタの嬢ちゃんだって知っている。
 そっちも心配なんだろうさ。特に嬢ちゃんの方はな。」
 響は、自分の飲んでいた缶を握りつぶして、近くのクズ入れに綺麗に投げ込んだ。
 カラァンと小気味の良い音が響く。
「嬢ちゃんはまたお前がボロボロになるところを見たら、哀しむだろう」
 今まで座っていた輝は、ゆっくりと立ち上がって、響の目を見詰めた。
と、言っても、身長差が大きいので、必然的に輝が見上げる形になる。
「泣かれるのは嫌だろう?元気な姿を見せてやった方がいい」
「うっ、うん。わかった」
 響も結構色んな事考えてるんだな――
 輝は思った。
 でも流石にヒカルに泣かれるのはマズイ。本当に。
これからはなるべく元気でいるとしよう。

『緊急指令。登録No.641、642、643。ロックマン・コード、カイト、フラットはただちに指令室に移動願う。
 繰り返す――』
 突然、余り使われていないスピ-カーが、その存在意義を果たした。
 丁度輝も缶をクズ入れに放り込んでいた所だったから、輝も響も顔を見合わせた。
「なんだろう、響?緊急指令って」
「さぁな。だが、行かないわけにはいかないだろう?」
 響と輝が指令室の前に差しかかったとき、丁度海も走り寄ってきた。
 海も、余り良い予感はしていない様子だった。
「なんだろうな。俺達三人に緊急指令って」
「判らない。だけど、行こう。とりあえず」
 輝はそう答えて、指令室のドアに、そっと右手を当てた。
 素早く反応して開く自動ドアも、輝達からは焦れったく見える。
常人離れした動体視力のせいかもしれないが。

「来たか。コード。カイト。フラット」
 完全にドアが開ききると、苦悶するような表情で、ブリエス総監が腕組みをしていた。
 真横では数人のオペレータが、何やらブツブツと呟きながら、キーボードに指を走らせている。
「ブリエス、何があった」
 ボリボリと頭を掻きながら、響はブリエスに問うた。
 慌てて横から、輝が注意を入れる。
「総監呼び捨てにしたら駄目だってば、響」
 ブリエスは「いや構わんよ」と呟くと、丁度部屋の中央の大型スクリーンに、
見るだけで目が痛くなりそうなデータの羅列が表示された。
 それを見て、輝は「っ・・」と苦い表情を作った。
 戦闘は免れられない任務だ。
「今回の任務を説明いたします。」
 数秒間待ってから、オペレータの一人が、そう切り出した。
 輝と海は無言で視線を戻し、響は「あぁ」と小さく応答を返す。


 三本の閃光がハイウェイに差し込む。
 それはアスファルトの地面に着弾すると同時に、三体の人型を象った。
 ロックマン・コード。ロックマン・カイト。ロックマン・フラットの三人だ。
「コード。俺とフラットでザコを蹴散らす。お前は頭を叩いてくれ、頼んだ!」
「うん。了解」
「行くぞ!」
 フラットの掛け声が引き金となって、三人は同時に散開した。
 一見平凡に見えるハイウェイだが、至る所に配置されているメカニロイドからは、
多数の、それでいて強力なウィルス反応がある。
 元々防衛用も兼ねているので始末が悪い。
 カイトとフラットが放った閃光弾が開いた突破口を、コードは全力で駆け抜ける。
 一瞬、目の前で一回り巨大なメカニロイドが道を塞いだが、コードの進行を止めることなど不可能だった。
 オルティーガの蒼い刃に真っ二つにされ、銃口を開く暇もなく、メカニロイドは爆裂した。
 今回の任務は何異様だった。
 一年前の闘い以来、目立ったイレギュラーも出現していない世の中で、突如として現れた大量のイレギュラー。
 余りにも人為的すぎる。
今コード達が立っているハイウェイを中心に、次々とメカニロイドとレプリロイドがイレギュラー化を始めている。
 一年前の闘いで弱体化したネオ・イレギュラー・ハンター。
 そんな中で、この三百六十度敵だらけの包囲網を突破できるのは、彼ら三人だけだった。

 回転様にバスターを連射して、周りのイレギュラーを一掃する。
 躱したのか、上空から飛び込んできたイレギュラーを、アッパー・カットで貫き、
直ぐ様跳躍する。
 跳躍寸前-約0.三秒前のコードの身体を、灼熱の線が突き抜けていく。
 イレギュラー達の上空からバスターを乱射して、少しでも撃墜数を稼ぐ。
 数が多すぎる――!!
 コードは内心で唇を噛み締めながら、そう愚痴った。
 着地すると同時にバック転で体制を立て直し、前方に向かって、右手の人指し指と中指を突き出す。
 その瞬間、蒼の色彩を放っていたコードのアーマーは、一瞬にして黄の輝きを放ち始めた。
「っ!」
 コードの右掌で激しくスパークする電撃。
 それは一瞬にしてその形を、まるで鎖のごとく形成させ、
コードが右手を左から右へ払うと同時に、目の前の大量のメカニロイド達に浴びせ掛けられた。
 高圧のエレクトリック・アートを流し込まれたメカニロイド達の内、
脆い者は既に爆裂してしまっている。
強度の高い者は、辛うじて形を保っていたが、続けて放たれたコードの蒼い閃光によって、
その全てが一瞬の内に蒸発した。
 あらたか片づいたかな・・!?
 ハイウェイの砕けた道を走りながら、コードは心で呟いた。
 ここらに来て敵の出現頻度が増え始めている。
指令を送っている箇所は近いはずだ。
 飛びかかってきた人型メカニロイドをオルティーガで真っ二つに斬り裂いて、
コードは一瞬だけ足を止めた。
 何か気配がする。ただのメカニロイドや自動攻撃機の気配じゃない。
もっと巨大な何か。
「くっ!?」
 咄嗟に地面を蹴って跳躍すると、タイミングぴったり、目の前に巨大メカニロイドが飛び込んできた。
 体高はコードよりも三倍は大きい。見た目は簡単に言うとカブト虫。
軍事用メカニロイドだと言うことは、高出力ブラスターとバルカンの武装から判断できるが、
コードの記憶の中に、これと同じタイプのメカニロイドの姿は無かった。
 落下様にオルティーガで一閃し、背中の装甲を削り取る。
 そして着地すると共に真横にダッシュして間合を広げる。
 さっきからしつこく自分を狙うバルカンを、全てエレクトリック・アートで防ぎながら、
コードは歯軋りをした。
 この攻撃パターン、尋常じゃない。
 絶対に通常のメカニロイドなら、ここまで高度な戦闘パターンは組めないはずだ。
しかも初撃よりも攻撃が的確になりつつある学習型。
 こんなスピードで成長する学習プログラムなんて見たことが無い。
 Φ・バスターの閃光でバルカン・ポッドを撃ち落とし、一気に距離を詰め、
焔の拳を叩き込む。
 フレイム・ストライクだ。
 しかし、思いの外堅い。フレイム・ストライクですら貫くことが出来ない・・!?
 至近距離で高出力ブラスターがチャージされ始めた。
チャージが完了するまで、経験から見て、あと三秒と言った所だ。
 すぐに拳を引き抜いて、真後ろに逃れるが、それを予測していたのかブラスターの銃口は、
完全にコードの胴を目指していた。
「しまっ・・・!!」
 発砲。
 手で片目を庇ったコードの視界に入ったのは、巨大なブラスターのエネルギーでは無かった。
 真横から紅い閃光が放たれ、一瞬にして巨大メカニロイドを破壊した。
「あっ・・!?」
 コードが言葉を紡ごうとした瞬間、メカニロイドの残骸が放つ煙の中から、二人の人影が垣間見えた。
 右手のバスターから煙を立ち昇らせる紫のアーマーの青年と、
未だに周囲を警戒する自分とそっくりの少年。
「油断するな、コード」
「ひび・・フラット」
 バスターを元の素手に戻して、フラットは「やれやれ」と肩を竦めた。
「こっちにもいやがったか。コイツ」
「こっちにも?」
 破壊されたばかりの残骸を横目で流し、カイトは少し面倒くさそうに呟いた。
 このハイウェイ内に出現するメカニロイド達。
それは全て尋常では無い。
 攻撃力・思考力共に強化された防衛メカニロイド。
どこから引っ張ってきたのかわからないが、高度な学習力を持つ巨大メカニロイド。
 それは全て、単なるイレギュラー化では無い。
 明らかに人為的な操作が施されている。
 大体からして、このハイウェイにいるメカニロイド全てがイレギュラー化していると言う事実だ。
「俺達の方にもいた。片付けたけどよ。大丈夫か、コード?」
「うん、僕は大丈夫。だけど」
「あぁ」
 それ以上先の言葉を紡ごうとしないコードに対して、フラットはそうとだけ返した。
「一体誰がこんな事を」それは三人全員が同じく考えていることだからだ。
「そして――」
 フラットは再び右手をバスターの銃口へと変化させた。
 コードとカイトも小さく頷く。
「それで隠れているつもりか!?」
 フラットは振り返ると、そう叫び、バスターから真っ赤な閃光を発射した。
 一片の狂いも無く真っ直ぐに飛翔する閃光は、何も無い筈の瓦礫の束に直撃し、
それらを見事なまでに粉砕してみせた。
「くっ・・!」
 コードとカイトも咄嗟に身構えた。
 本当に微かな気配しかしない。
 瓦礫の影になっていて見えなかった箇所。
そこに一体のレプリロイドは立っていた。
 まるで幽霊のように気配が薄い。
全体的に銀色のアーマーに身を包み、身長はフラットと同程度。
顔はいわゆる『美形』。しかしどこか影がある。
「よく私の気配を掴むことが出来たな。ロックマン・フラット」
 レプリロイドは低く笑って、人指し指でフラットを指さした。
 指を指されたフラットは、面白く無さそうに舌打ちをする。
「そしてロックマン・コード、ロックマンカイト」
 クルクルと指さす方向を変えながら、レプリロイドはニヤリと笑う。
 コードは内心で溜め息をついてから、ゆっくりと左手を上げ、
バスターの銃口を目の前のレプリロイドに向けた。
「悪いけど、君を味方として見ることは出来そうにない。何者なのか、教えてもらいたい」
 隣に立ったカイトは、既にチャージを始めている。
 何の武装も持たず、チャージされたバスターを向けられても、
目の前のレプリロイドは微動だにしない。
 相変わらずの低い笑い声を上げた後、ゆっくりと口を開いた。
「私の名はミュート。以後、宜しく」
「目的はなんだ」
 コードに代わって、フラットが問うた。
 その言葉の要所要所に殺気を含んで。
「今日は君達の実力を見せてもらおうと思ってね。
 簡単なイレギュラーを襲わせてみた。結果は見ての通り」
 大きな隙を作るというのに、ミュートはバッと両手を広げた。
「予想以上だったよ。コード、カイト、フラット」
 ミュートの放つ妙なプレッシャーに、三人は構えを崩すことが出来なかった。
 一片でも隙を見せれば、忽ち叩き潰されてしまいそうだ。
「この星はいいところだ。フェルマータ様はこの地球をお気に召された。大いにな。
 しかし――フェルマータ様の作る究極の世界に対して、どうしても君達が邪魔なのだよ。」
「フェル・・マータ・・!?」
 コードには、その名前を反芻するのがやっとだった。
 闘わなくてもわかる。コイツは――強い。
「そこで、我々は宣戦布告をすると言うわけだ。当然君達は止めに入るだろうが。
 我々はただ放っておけばいいだけなのだから楽だよ」
 何を言ってるんだ、コイツ――!
「我々は、この地球に四つ、この異常気象を発生させることの出来る機器を設置した。
 今はまだいいだろう。雨がただ降っているだけなのだから。
 しかし、そんな状態が二ヶ月、半年、一年と続けば、結果はどうなるか君達でもわかるだろう?」
 ミュートがさこまで言ったところで、コードとカイトの銃口が爆ぜた。
 近距離から放たれた蒼と紺の閃光は、ミュートに避ける暇すら与えない。
――筈だった。
「健闘を祈っているよ、ROCKMAN」
 蒼と紺の閃光。それは、ミュートの足元の地面を大きく抉り返した。
 直撃する瞬間、ミュートが素手でバスターの閃光二発分を、地面に叩き付けたからだ。
「拠点の場所は自分達で見つけるのだな。そして、全ての拠点を潰すことが出来たら、我々は本格的に始動するとしようか」
「待てっ!」
 一瞬で懐に入ったフラットが、エルティーグを振り下ろした時には既に遅かった。
 元々そこには何の存在も無かったかのように、紅い光剣は虚しく空を斬り裂いた。
「ちっ」
 エルティーグをバックパックに納め、フラットは舌打ちした。
「フェルマータ・・ミュート・・拠点・・」
 バスターを素手の状態に戻し、コードは静かに眼を閉じた。
 また闘いが始まるのか・・。
 自分達に護りきることが出来るだろうか。
この地球を。
「コード」
 苦悶の表情を浮かべるコードの肩に、カイトはそっと手を置いた。
 ミュートのかけたプレッシャーによって流れた汗を拭って、
元気付けるように笑う。
「大丈夫だ。さっきも言ったろう?もうコード一人じゃない。俺もフラットもいる。
 それに、お前が諦めなければ、絶対に大丈夫だ!」
「うん、闘うよ。何度でも何度でも闘ってやるさ」
 その二人の様子を見て、フラットは小さく「フッ」と微笑を作った。
「僕達がいるから。絶対地球は護る!」


 ミュートが宣言した『四つの拠点』。
 大して隠蔽もされていないそれらは、たったの二日でその大体の所在が明らかになった。
 しかし、前回の闘いで大幅に隊員の減ったネオ・イレギュラー・ハンターには、
拠点を潰すことが出来るだろう戦力は、余りにも僅かしか残っていなかった。
 しかも残った戦力は殆ど実戦経験の無い隊員ばかり。
 頭を悩ませるブリエスに、輝はこう言い放った。
「四つの拠点は僕達三人だけで破壊します。」
 全く未知の拠点に経験の無いハンターを送れば、逆に被害が多くなるのは目に見えている。
 しかし、輝達は別だ。
 三人が三人、前回の戦闘を経験している。
 更に今回は三人だ。
前回は輝一人で闘っていたも同然だったの対して、今回は同程度の戦力を持つ者が二人増えている。
 今回もやはり単独潜入型の任務が採用されることとなった。

――――――――――――――――――――――――――――――――

 ベースから南西へ四〇〇km。
 最初の拠点はそこだった。
 大量のエネルゲン水晶が発掘させると言う、好成績を持つ、通称エネルゲンの海。
「深い――」
 発掘所が大きく開いた口の目の前に着地したコードが放った第一声だった。
 本当に深い。入り口の穴に入って十mもしない内に、そこは暗闇に塗りつぶされた世界。
正直迷ってしまいそうだ。
 しかし、確かに異常気象発生装置はこの中にあるはずなんだ。
 嫌だと言っても行くしかない。そう決意したから。
 ヘルメットに装着してきたライトを照らして、コードはゴクッと唾を飲み下した。
 すぐに敵の攻撃に対応できるように、肩のオルティーガを左手で握りしめる。
「よしっ」
 呟き、気合を入れ直すと、コードはゆっくりと夜以上の闇に食い尽くされた空間へと足を進めた。


 ライトで辺りを照らしているというのに、全く意味がない。
 朧気にしか照らされない広い闇。
 その中で、コードは一人、突然に現れるメカニロイドに警戒していた。
 既に三、四体はバスターで撃ち落としたが、これはあくまで一体ずつの話だ。
 こんな位置感覚の麻痺した暗闇の中で、大量のメカニロイドに襲われれば、
いつものように無傷で闘い抜く自信は無い。
 しかも、今回のメカニロイドは前回のものよりも格段に性能が高いと来ている。
 地面が爆ぜる音が耳を叩く。咄嗟に気配を感じとり、伏せ、打ち上げ蹴りを振り上げると、
-形は上手く確認できないが――見事にコードの左足がメカニロイドを打ち抜いた。
「全く、こう暗いと上手く闘えやしない」
 額に滑る汗を拭い取り、コードは一人愚痴った。
 そして迂闊には動けない。
敵は今のメカニロイドだけじゃない。
四体――いや六体はいる。
 ハッキリ言って場所は上手く特定できない。
 無闇にバスターを連射するのも得策ではない。下手に天井などに当たれば、落盤が発生しかねないからだ。
 オルティーガと体術。今の状況で使えるのはその二つのみ。
《輝君!左後方四十五度に二体。今だよ!》
「えっ・・!?」
 唐突にヘルメットの中に響いた声。
 混乱はしたものの、すぐに指示通り振り返り、オルティーガで一閃する。
確かな手応えと破壊音。倒した――!
《それから真っ直ぐ右に三体・・!》
 オルティーガを宙に投げ、右一直線に拳でラッシュを叩き込む。
 一発、二発、三発、四発ヒットした。
 拳でメカニロイドを破壊すると、
今まで周囲を囲んでいた気配が消えうせた。
 どうやら全員片付けたようだが。
 コードは、メットの右耳の部分にそっと手を当て、
思いついた名前を小さく呟いてみた。
「ヒ、ヒカル?」
《もう反応ないよ。大丈夫》
「ありがとう。だけど、どうしてヒカルがオペレーション?」
《なんか輝君のオペレータ出来る人の余りがいなかったらしくて。一応私がオペレータなんだ。宜しくね》
 一体誰にオペレータを回してるんだろう――。
 ふとそんな考えが浮かんだが、すぐに頭の中で打ち消した。
ヒカルがオペレータか。少し不安が残るが、それでも少し安心出来る。
 それに先程の的確な指示。簡単な講義を受けたのかもしれないが。
「わかった。宜しくね。早速だけど、次はどっちへ行けばいい?」
《んと、左の壁沿いにずっと歩いて》
「了解」
 ヒカルにオペレーションしてもらうと言うのは、何か妙な感じがする。
コードは小さくクスッと笑うと、指示通り左の壁に手を当て、
そのまま壁沿いにゆっくりと足を進める。
 どうしたの?と問うヒカルに、コードはなんでもないよと返す。
 そんなコードに、まるで悔しさを憶えたかのように襲いかかってきたメカニロイドも、
ヒカルの的確な位置確認と、コードの正確な攻撃によって、
いともあっさりと崩れ去った。
《まだ中心部まであるけど、敵が出てきたら教えるね》
「うん、お願い。こっちは薄暗くて闘いにくいから」
 そう言えば『ロックマン・コード』の状態で、ヒカルと会話したのはこれで数えて二回目だ。
 いつも『松浦 輝』の姿をしていた。初めて逢ったときも。
戦闘に行く時、ヒカルは必ず自室にいたし、この姿で逢うのはなんとなく気が引けた。
 まさかこんな状況になるなんて――
 出来ればこの姿でヒカルとは逢いたくない。
 地球の逆襲の最後の闘いの際、スクリーンに映った戦闘の光景の中で、
自分はこれでもかと言うほど血塗れになったし、輝の時とは思えないほどの気性を見せた。
もうあんな状態をヒカルに見せたくは無いと言うのが本音だった。
《・・・ん・・・く君・・・輝君・・?》
「えっ?な、何?」
 暫く進むのを止めて、物思いにふけっていたのがいけなかったのようだ。
 コードの意識は不意に現実に引き戻された。
 駄目だな・・とコツンと自分のメットを自分の手で叩く。
《どうしたの?怪我とかしてる?こっちからは何も見えないけど》
「いや、何でもないよ。ただちょっとライトの調子が悪いだけ」
《もう、心配させないでよね》
「ごめん」
 本当には任務中にこんなに会話しちゃいけないのにな。
コードは苦笑した。
 でも他のオペレータとだったら、逆にこう言う会話は成り立たないのだ。
少しでもお堅い淡々としたオペレータよりも、こっちの方がいいと思う自分は、
不謹慎だろうか。
 本当に少し調子の悪いライトを調節しながら、コードは再び左手を壁に添え、
一歩一歩確かめるように足を進めた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ヒカルの《中心部まで少し》と言う言葉を聴いてから、僅か一分しか経っていない。
 採掘場の最深部だろうか。明らかに人為的な巨大な扉がそびえ立っている。
 扉のデザインから考えて、フェルマータの部隊の後付けだろう。
扉に『F』のロゴが入っている。
《扉の向こうにエネルギー反応。結構大きいよ》
「多分、リーダーがいると思う。ヒカル、オペレーション出来るだけ頼める?」
《うん》
 声だけで、ヒカルが神妙な面持ちをしているのがわかる。ヒカルにとってこれは練習無しの初陣だ。
例えそれがオペレーションであっても、いや、逆にオペレーションだからこそ、
そのプレッシャーは大きい筈だ。
 一歩間違えれば、戦闘者に致命的な傷を入れる事になる。
「よし、行くぞ!」
《うん!》
 バスターを巨大な扉に密着させ、躊躇いも無く撃ち抜く。
見事なまでに真ん丸の貫通した穴を空けた扉は、既に鉄の板と化し、
そのまま力無く吹っ飛んだ。
 勢いが失せない内に、前転で室内に転がり込む。
 ただっ広い戦闘室だ。
側壁は鉄板で強化されているが、何故か天井だけは裸のままの奇妙な部屋。
 それ以外に、戦闘室の隅っこ、そこにコードの目を引くモノがあった。
僅かな光を存分に発揮して、自らの価値を主張する大量の金塊。
 これだけあれば、今のハンター隊員全員を強化出来るだろうと言う量のエネルゲン水晶。
 そして、金と水晶の海の中に身を転がした、一体のレプリロイド。
 レプリロイドは、程なくしてコードの存在に気が付いたのか、
少し怠そうに身体を起こした。
「なんでぇテメェは!」
 コードは一瞬だけ崩していた構えを再び固めた。
 オルティーガの蒼色の刃が、ボンヤリと暗闇を照らし出す。
 よく見ればモグラ型レプリロイドだ。
別に不思議じゃない。こんな暗闇の中では、視覚に頼る通常レプリロイドよりも、
聴覚のみをレーダーとするモグラの方が有利に決まっている。
 しかしこのモグラは、大きなサングラスをかけている。
顔の半分を覆ってしまう程の大きさの。
 恐らく視覚も搭載されたレプリロイドなのだろう。
何故こんな暗闇の中でサングラスをかけているのかは不可解だが。
「ネオ・イレギュラー・ハンター所属ロックマン・コード。異常気象の原因となっている機器を停止させる為にきた。
 闘うつもりはない。大人しく投降してくれれば、危害は加えないと約束する」
「てめぇか、ロックマン・コードってのは。なんでぇ、ケツの青いガキじぇねえかよ。
 てやんでい!投降しろって言われて投降する馬鹿がいるかい!」
「くっ・・・!」
 予想通りと言って良いのだろうか。
 一応言ってはみたが、おとなしく投降した敵がいなかったのは、嫌でも記憶にこびり付く。
 闘うしかない。倒すしかない。
「俺ッチの名はグレイヴ・メガモール。光は嫌いだが金は好きだ。
 テメェらの内誰か一人でも殺りゃフェルマータ様からガッポガッポと報酬が貰えんだ。
 気合入るぜ!てやんでい!」
「だったら・・・!」
 オルティーガの構えを防御から攻撃に変え、コードは声を捻り出した。
「俺も退くことは出来ない!君を倒して・・この拠点を破壊する!」
「やれるものならやってみろってんだ!」
 言うが早いが、メガモールは足元の地面を、
発掘用に強化されているだろう両手で掘り返し、その穴の中にすっぽりと身を落とし込んだ。
「なっ・・!?」
《気をつけて!エネルギー反応が凄いスピードで動いてる・・!》
 少し焦ったようなヒカルの声がメット内で響く。
 コードは「うんっ・・!」とだけ返したが、どこから襲いかかってくるかわからない敵に対して、
ただ構える事しか出来なかった。
《輝君後ろ!》
 ヒカルの指示が通った時には、既に遅かった。
 一瞬だけ見えた影に向かって、オルティーガを振るったが、
その高速の剣撃をも跳び越えて、メガモールの爪がコードのアーマーを削り取った。
 幸いやられたのは表面だけだ。生身にダメージは無い。
 だが、こんな攻撃を何度も何度も繰り返されれば、いずれ危ない。
しかも、自分には相手の正確な位置が掴めないのだ。
「くそっ!」
 直ぐ様バスターで追撃するが、蒼い光弾がメガモールを貫くよりもずっと早く、
メガモールは再び地面に穴を拵え、地下に身を潜めていた。
「ぎゃはははは!俺ッチの位置が・・・わかるかなぁ!?」
 足元から聞えてくるメガモールの声。
《右!?違う、後ろ!?》
「ヒカル、ゆっくり落ち着いてレーダーを見てて。次は絶対当ててみせる!」
《う、うん》
 コードは場違いに微笑し、小さく「エレクトリック・アート・・・っ!」と呟いた。
 左掌を地面にあてがい、部屋全体に電気の網を駆け巡らせる。
 ダメージは期待できない。
しかし、これなら出てくる瞬間、盛り上がった感覚で位置が特定出来るはずだ。
 オルティーガを握り直して、左手から伸びる電気の網に、全神経を集中させる。
《なっ、上!?》
「上っ!?」
「ノレぇぜ!」
 エレクトリック・アートが仇になった。
 そうか――だからこの戦闘室は天井が露出してるんだ。
僕がこうする事を知り尽くしていたから。
 メットの左側の突起と共に、左頬が抉られた。
 唐突に押し寄せた痛みを押さえ込んで、フレイム・ストライクの焔の拳を突き出す!
 しかし避けられた。
 焔の拳で一瞬だけ、メガモールの姿が確認できたが、攻撃を受けた一瞬がタイミングをずらした。
《大丈夫!?ヘルメットにダメージ!怪我・・してる!?》
 メガモールが再び地面に潜り込むと、ヒカルが弾けたように声を上げた。
「大丈夫。大した傷じゃない。それより、メガモールの位置がわからない!」
左肩アーマーにまで滑る鮮血を無視して、コードは次の策を練ることに集中した。
 今使える特殊武器はエレクトリック・アートとフレイム・ストライクのみだ。
ウォーター・サイクロンとブラスト・レーザーでは、下手をするとこの部屋で落盤を発生させる可能性がある。
 フレイム・ストライクを右手に灯し、照明代わりにする。
 特殊武器は二つ同時使用は出来ないので、左手のオルティーガに頼るしかない。
《敵の反応、目の前だよ!》
「今だっ!」
 地面が爆ぜると同時に、左手のオルティーガを振り下ろす。
 糸状に走ったオルティーガの刃には、小さくだが、確かに手ごたえがあった。
 同時にメガモールの絶叫が響く。
何やら「俺っちのグラサン・・!」と叫びながら、辺りを手探りしている。
 ゆっくりと歩み寄って、右手の焔を近づけると、
メガモールは「ひぃぃ!」と怯えきったような声を上げた。
 こいつ、火――じゃない。光に弱い?
だったら倒すのは今しかない!
「喰らえーっ!!」
 思い切りフレイム・ストライクの拳を叩き込もうとした瞬間、
メガモールはようやく探し物が見つかったのか、「けっ」と元の調子の声を紡いだ。
 再びひび割れたサングラスをかけ直したメガモール。
直進する焔の拳が掠めたが、逆に大きなお釣りをもらってしまった。
 オルティーガを握っていた腕のアーマーが、生身が露出する程抉り取られた。
 恐ろしい奴だ。この暗闇の中、聴覚だけを頼りにここまで動くことが出来る。
更に、その鋭利な爪は、強化された自分のアーマーですら、いつも簡単にこそぎ取る。
 弱点は光だ。
 しかし今の攻撃で、こちらの策は感づかれた筈だ。
もうフレイム・ストライクは松明代わりにしか使う事が出来ない。
 いや、いっその事照明は諦めて、エレクトリック・アートを使った方がいいだろうか?
《大丈夫!?》
「なんとか、ね。けどコイツの弱点は見つけた!」
《えっ?》
「あいつは極端に光に弱いんだ!」
 そこまで言ったところで、コードの眼前に、巨大な岩の塊が落下してきた。
《敵の反応、輝君の頭の上にいるよ!》
 続けて落下してくる岩の塊をオルティーガで分解しながら、コードは歯軋りをした。
 近づかずに抹殺する方法。まさかここまでやるとは。
 一瞬の衝撃が大きく頭部に響き渡った。破壊しきれなかった岩塊が当たったのだとすぐに理解する。
「くっ!」
 軽い脳震盪を起こし、一瞬だがフラつく。
その一瞬の隙に、雨のように降りかかる岩塊が、一気にコードを攻めたてた。
 ヒカルが何か叫んだようだが、今のコードには上手く聞き取ることが出来無かった。
 程なくして落盤が止んだ。放っておいても危ないのだが、直接止めを刺すつもりなのだろう。
《輝君!輝君!?聞える!?大丈夫!?》
「平、気。頭が少しボーッとするけどっ・・」
 メットが少し破損したようだ。聞こえが悪い。それとも自分の意識が遠のいているのだろうか。
 メガモールのものだろう着地音が耳を打った。
 急いで立ち上がろうとするが、全身が岩に埋もれていて、今すぐには立ち上がれない。
「ぎゃははは!どうでい!てこずらせやがって」
 コードの露出した頭部を鷲掴みにして、メガモールは「キヒヒ」と笑った。
 一発。コードのメットを爪で抉り取る。
「くっ・・・!」
「どうだぁ?動けねぇだろ?キヒヒ、良い様だぜ。」
 メットが完全にイカレたようだ。もうヒカルの声が聞えない。
「さぁて、テメェの負け面もたっぷり拝んだことだし。
 そろそろ、死ねぇぇぇ!!」
 やられる――!
 そう覚悟した瞬間、ピーピーと言う甲高い音が、唐突に響いた。
 こっちの通信じゃない。
それ以前にメットは壊れたのだから。
「おっ!?おぉぉぉ!?」
 今まで腰にぶら下げていて気付かなかったが、メガモールの腰にはレーダーらしきものが装着されていた。
 言葉にならない歓喜の声を上げながら、メガモールはレーダーを引っ手繰るように自分の耳にあてがった。
「この反響音・・間違いねぇ!特大のエネルゲン水晶だ!!」
「なっ・・・?」
 何を言ってるんだコイツは――
「やいテメェ!ちゃんとここで待ってろよ!すぐに戻ってきてやるからな!」
「なんだって・・?」
 そうとだけ残して、メガモールは埋もれたままのコードをよそに、
足元に巨大な穴を掘り起こし、その内部へと消えた。
「今しかない・・!」
 とりあえず今がチャンスだ。
 今のうちにここから脱出しなければ。
 少しダメージが来るけど仕方がない。
埋もれたままの腕をバスターに変換し、そのままの状態で放つ。
 ドンッ!と言う小さな音と同時に、コードの全身を埋めていた岩が、ゴロゴロと辺りへ拡散した。
 この様に積まれ込んだ岩を外すのは、そう難しいことじゃない。
一つでも粉々に砕いてやれば、それに連鎖して、全ての岩がバランスを崩す。
 まだ鈍痛の残る身体を引きずって、コードは岩の中心から軽く跳躍し、
今メガモールが潜っていったばかりの穴の前に身を寄せた。
 この穴の先にメガモールはいる。
「お前の穴を利用するっ!」
 エレクトリック・アートを発生させ、そっと腕を穴の内部に差し込む。
「俺のエレクトリック・アートで!」
 コードの声が引き金となって、電気の波は一斉に穴の内部へと殺到した。
電気の波は穴の先でメガモールを捉えるだろう。


 見事なまでのエネルゲン水晶だった。
 今までメガモールが出会った何よりも美しく、巨大な水晶。
 サングラスを外し、本当に僅かな光の反射で水晶を直視する。
これを売り捌けば一体いくらの値がつくのだろうか。
 それとも自分の傍において、一生観賞用にしてしまおうか。
 考えただけでも口元が緩む。
「おっと・・いけねぇいけねぇ・・あのガキに止めを刺すのが先だった。
あのガキを殺しての報酬とこのエネルゲン水晶・・・。」
 「ケヒヒ」と笑いながら、再び走ってきた穴に潜ろうとした瞬間、
メガモールは信じられないモノを見た。
 サングラスをかけ忘れていた為、鮮明に見えた。
 黄のスパークを帯びた波。
先程から聞えていた轟音はこれだったのだ。
 どこかで落盤でも起きているのだと簡単に考えていたが、
よくよく考えれば全く違う音だった。
 しかし後悔してももう遅い。
後悔した時には、メガモールは己のサングラスごと、電気の波に覆われていた。

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 初めに降り立った所から、少し離れた所で、コードはエネルゲンの海に向かってバスターを構えていた。
 エレクトリック・アートから手応えが伝わった時には、辺りの安定が悪く、
いつ本当の落盤が起きても不思議では無い状況だった。
そんな中で異常気象発生装置を捜すことなど出来ない。
 コードはちらっと、絶え間なく雷の鳴り響く空を仰ぎ見てから、
たっぷりとエネルギーを注ぎ込んだバスターの照準を合わせた。
 心の中でメガモールに「ゴメンね」と呟く。
僕はこうするしか無いんだ。君もそうするしかなかった筈だ。
 だから――ごめんね。
 コードはバスターの閃光を解放した。
 コードの身長ほどある巨大な光の帯は、そのままエネルゲンの海に直撃し、
見事に崩壊を始めさせる。
「どうして・・。どうしてこんな闘いがまた始まっちやうんだよぉっ!!」
 耐えきれなくなって、コードは誰に言うでもなく叫んだ。
 情けない。俺は――
「何度でも闘ってやるって言ったのに!」
 僕は情けなさすぎる――
「結局おれは、何も成長なんかしてないんだ!」
 グッと拳を握りしめて、コードは唇を噛み締めた。
 殺すことでしか倒すことが出来なかった自分が憎い。
前の闘いで犯した過ちを、結局また繰り返してしまった。
 半壊したメットから、微かに音が聞えてくる。
壊れたと思っていたが、少し不調子だっただけなのかもしれない。
 メットのイヤー部分に掌を当てて、聞えてくる音を注意深く聞き取る。
《・・・君・・・ら君・・・!輝君聞える?》
「聞えるよ」
 少しノイズが残っている。
《良かった。いきなり通信切断されちゃうから吃驚しちゃった》
「ごめん。でも任務は完了したよ。今から帰る」
《ご苦労様。早く帰ってきて傷の手当てしてね》
「うん」
 そこまで会話して、コードは「切るよ」と呟き、ヒカルの「うん」と言う応答の後、
ゆっくりと通信を切断した。
 帰ろう。
今ここでウジウジしていたって、おれがやった事が変わるわけじゃないし、
いつまでもここにいるわけにもいかない。
 コードは、ふと崩壊したエネルゲンの海の中に、金属の残骸のようなモノを見つけて、
ゆっくりと歩み寄ってみた。
 少し砕けているが、これは確かにグレイヴ・メガモールの残骸だ。
 それを直視して、コードは少し表情を曇らせた。
 そして、散らばったチップ類の中から、一際目を引く一枚を取り出し、
強く拳に握りしめた。
 これは武器ユニットチップ。
前回の闘いでサンダー・スネーキングやスクリュー・フロッグスなどからも入手した物だ。
「君を殺したおれの罪が変わるわけじゃないけど・・一緒に行こうグレイヴ・メガモール。」
 いつの間にか流れていた一滴の涙を拭い取って、コードは少し寂しそうに微笑すると、
転送装置を使用し、光の帯びとなって、その場から消えうせた。

次回予告

唐突に始まった新たなる闘い。
僕と海と響の三人は、全力で闘う!
次は海と響の出撃。この間よりも格段に強い敵を相手に、海も響も苦戦を強いられることになる。
次回 ロックマンコードⅡ第弐章~激戦~
「何度でも闘ってやるさ」