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・''出典''
《文選/卷二十九(近デジ)》/
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*其の十一 迴車駕言邁
迴車駕言邁。悠悠涉長道。
四顧何茫茫。東風搖百草。
所遇無故物。焉得不速老。
盛衰各有時。立身苦不早。
人生非金石。豈能長壽考。
奄忽隨物化。榮名以為寶。
#region(単語解説)
【東風】春風、春になって新芽が出る
【邁】あしをふみだす、突き進む、老いる
#endregion
・''訳''
車をめぐらせ牛馬に引かせ、さぁ走り出そう。悠々と長道を渡るのだ。
四方を見渡せば何とも延々と果てしなく。東風は緑なす百草を揺らし。
会うところに故(ふる)き物はなく。どうして生命は速やかに老いずにいられるだろうか。
盛衰おのおの時あり。身をたて名をあげることの早からざる(難しさ)に苦しむ。
人生は金石にあらず。どうして老後を考えるのか。
命は天に随いたちまち移り化すもの。ただ栄名をもって実を残そう。
>馬車による景色の流れと、人生のときの流れを重ね合わせている様子。
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*其の十二 東城高且長
東城高且長。逶迤自相屬。
迴風動地起。秋草萋已緑。
四時更変化。歲暮一何速。
晨風懐苦心。蟋蟀傷局促。
蕩滌放情志。何為自結束。
燕趙多佳人。美者顏如玉。
被服羅裳衣。當戸理清曲。
音響一何悲。絃急知柱促。
馳情整巾帯。沈吟聊躑躅。
思為雙飛燕。銜泥巣君屋。
#region(単語解説)
【逶迤】うねうねと続く、曲がりくねった
【属】つらなり
【萋】盛ん
【晨風】《詩経 唐風》内の作品。礼楽を棄てた晋7代目を皮肉ったものという。
【蟋蟀】《詩経 秦風》内の作品。先代の招いた賢人を棄てたという秦王を皮肉ったものという。
【局促】こせこせする
【巾帯】巾はかんむり、帯はかんむりの紐
#endregion
・''訳''
東城は高く且つ長く。長遠として相連なる。
強風が竜巻のように地を巡り。秋草は盛り育ち緑なす。
四時は更に変化し。歲が暮れるのは何と速いことか。
「晨風」に苦心を抱き。「蟋蟀」に堅苦しさをいだく。
そんな情志は大いに洗い流せ。何が為に自らを束縛するのか。
燕趙には佳人が多く。美者の顏は玉のよう。
服の上にうすあみの裳衣を羽織り。戸に当たりて清曲を整える。
音響の一に何ぞ悲しき。絃急にして柱の促すを知る。
(楽人への)情を馳せ巾帯を整え。沈吟して僅かに進み出るも躊躇(ためら)う。
つがいの飛燕となりて。泥を銜えて君が屋に巣くわんとぞ思う。
>「巾帯」が、維基では「中帯」(帯の中心をとめる帯?)。
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*其の十三 驅車上東門
驅車上東門。遙望郭北墓。
白楊何蕭蕭。松栢夾廣路。
下有陳死人。杳杳即長暮。
潜寐黄泉下。千載永不寤。
浩浩陰陽移。年命如朝露。
人生忽如寄。壽無金石固。
萬歲更相送。聖賢莫能度。
服食求神仙。多為薬所誤。
不如飲美酒。被服紈與素。
#region(単語解説)
【上東門】洛陽の東三門のうち、北東にあるひとつ
【陳】久しい
【杳杳】幽暗
【長暮】終わりの無いたそがれ、長い墓路、墓中
【千載】千の史書で語られたのち。とおい未来。
【寤】うかんむりに悟る。目覚める。
【紈】しろぎぬ。[[goo辞典「紈」>http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/cj/27509/m0u/]]
【素】生
#endregion
・''訳''
車を上東門に馳せて。郭北の墓を遥かに望めば。
白楊は何とも寂しげに柳絮をあらわし。松栢は広い路地を挟んでいる。
その下には、久しき昔に死せる人あり。薄暗い夕陰は長く傾き。
黄泉下の寝床に潜り。千載の末も永く目覚めることはない。
大海の波のように陰陽は移ろい。年命は朝露の如し。
人生はすなわち寄せては帰すがごとく。壽に金石の固さはなく
よろずの歲を更に相送る。聖賢の士といえど、歴史にまさることはできず
服食して、神仙の生を求めるものも。多くは薬のために身を誤った。
美酒を飲むにこしたことはない。さぁ高級な薄絹の衣をまとおうか。
>人は長暮の後に死して永遠に目覚めることはなく、されど生死を繰り返して、万の歴史を積み重ねてきた。
>その偉業は、いかな聖人の行いにもまさる。人は今を楽しみ、生を楽しみ、文化を育てていけばいい。
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*其の十四 去者日以疎
去者日以疎。生者日以親。
出郭門直視。但見丘與墳。
古墓犁為田。松栢摧為薪。
白楊多悲風。蕭蕭愁殺人。
思還故里閭。欲歸道無因。
#region(単語解説)
【閭】路の入り口にある門。昔の行政単位。村。
#endregion
・''訳''
去る者は日々に疎くなり。生まれる者は日々に親しくなる。
郭門を出て直視すれば。但、丘と墳とを見るのみ。
去りし者の古墓は、耕されて田畑となり。松栢はひかれて生者の使う薪となる。
白楊、悲風多し。ものさびしき愁(うれい)は、人をも殺す。
故郷の門をくぐり(生者の世界へ)還ろうと思っても。死へと至る道を逆戻りできることは決してないのだ。
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*其の十五 生年不満百
生年不満百。常懷千歲憂。
晝短苦夜長。何不秉燭遊。
為樂當及時。何能待來茲。
愚者愛惜費。但為後世嗤。
仙人王子喬。難可與等期。
#region(単語解説)
【晝】昼
【茲】これ、ここでは時を指す
#endregion
・''訳''
人の生年は百に満たずして。常に千歲の憂いを抱く。
昼は短かく夜の長きに苦しむ。どうして燭をとり遊ばずにはおれようか。
楽しみを為すに及ぶなら、まさに今。どうして時が来るのを待つのかね。
愚か者は、けちけちと費用を惜しむが。ただ後世の嗤いものとなるだけよ。
仙人王子喬。彼と同じときを、凡人が過ごすことは難しいのだから。
関連:
[[西門行>http://www39.atwiki.jp/sangokushi7/pages/57.html#id_145ea8ce]]
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*其の十六 凜凜歲雲暮
凜凜歲云暮。螻蛄夕鳴悲。
涼風率已厲。遊子寒無衣。
錦衾遺洛浦。同袍與我違。
獨宿累長夜。夢想見容輝。
良人惟古歡。枉駕恵前綏。
願得常巧笑。攜手同車歸。
既來不須臾。又不處重闈。
亮無晨風翼。焉能凌風飛。
眄睞以適意。引領遙相睎。
徒倚懷感傷。垂涕沾雙扉。
#region(単語解説)
【率】にわかに
【洛浦】妃、美人のたとえ
【古権】昔なじみ。
【綏】車のひきなわ。
早稲田によると、「初婚の礼に、夫が新妻を迎えに行き、妻の車を御する。
このとき婦人に紐を授け、輪を御すること三周?する儀式のこと」らしい。
【闈】閨門
【晨風】ここでは鳥の別名
【眄睞】よこしまに見る
【領】くびす。きびす。足の向き。
#endregion
・''訳''
凛々として歲は暮れ。螻蛄の夕べに鳴くや悲しき。
涼風、にわかに厲(きび)しくおこり。遊子は寒くして衣無し。
いにしえの物語に「錦衾を洛浦に遺す夫あり」というが。同じ夫婦でも、我らは違う。
独り宿のまま長夜をかさね。ついには夫の容輝を、夢に想い見る。
良き人は昔なじみに満足し。駕を引いて私を迎えに来て、前綏を譲ってくださる。
願わくば常なる巧笑を得て。手に手を取って同車にて帰らんことを。
すでに同乗したと思えば。夫は思わぬうちに去り、閨を重ねることもない。
亮らかに朝風の翼なく。どうして能く風を凌ぎ飛びされるというのか。
よこしまに見ては渇愛の情をゆるめ。あるいは領を引き遙かに愛を望む。
進退窮まり門に寄りかかっては昔を懐かしみ。涙垂れて双扉を潤す。
>伝説上の、繋がりが強い夫婦は服装も暖かいが、作者の夫婦は、服装も繋がりも冷え切っている。
>「古権」は、維基では「古歓」。
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*其の十七 孟冬寒気至
孟冬寒気至。北風何惨慄。
愁多知夜長。仰観衆星列。
三五明月満。四五蟾兔缺。
客従遠方來。遺我一書札。
上言長相思。下言久離別。
置書懷袖中。三歲字不滅。
一心抱區區。懼君不識察。
#region(単語解説)
【惨慄】ものすごく身に染み渡る
【三五】3×5=15日、満月の日
【四五】4×5=20日
【蟾兔】月に住むウサギ
【書札】手紙
【下】手紙の終わり
【區區】くよくよ思う
#endregion
・''訳''
秋もいつしか過ぎ初冬となり、にわかに寒くなった。北風は吹きすさび、見もよだつほど。
冬の夜長に、悲しみはいよいよ深く。ふと仰ぎ見れば、幾万の星がまたたいている。
すぎし15日には、満月が中天に。二十日には、うっすらと月は欠けていく。
遠方より、お客様がいらっしゃって。私に手紙ひとふみを残してくださった。
手紙の始めには、長く相覚えようと。手紙の末尾には、久しき離別が辛いと。
頂いた文を、懐や袖の中に大切にしまい置けば。三年たった後も字は消えることなく。
かくも私の心は、ただ一途なままであり。この思いが、夫に届かぬことを恐れるのです。
>三五、四五で、時の流れを表している。
>これも[[蔡邕?の飲馬長城窟行>http://www39.atwiki.jp/sangokushi7/pages/56.html#id_dbcb48c7]]に影響あり。
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*其の十八 客従遠方来
客従遠方来。遺我一端綺。
相去萬餘里。故人心尚爾。
文彩雙鴛鴦。裁為合歡被。
著以長相思。縁以結不解。
以膠投漆中。誰能別離此。
・''訳''
遠方よりお客様がいらっしゃって。私にひとおりの綺羅布を残してくださった。
相去ること万里を超え。故人のこころは、ついに私から離れていったのか。
あや絹の模様を見れば、鴛鴦がむつまじく並ぶ。私はこれを裁ち、相被せよう。
綿をつめるときは、相思の意思を共にいれ。縁を縫うときは頑丈に結び、糸がほつれぬようにしよう。
私たちの仲は、膠と漆を合わせた様に硬く。誰に、私たちを別れさせることができましょうぞ!
・コメント
早稲田は大幅に意訳した上で、「愛に焦がれるあまり狂気に陥りながら、なおも品の良さを失っていない作品」と解釈している。
最後の膠(にかわ)、漆(うるし)が唐突かもしれないが、古代、大陸から日本に渡ってきた漆加工技術のひとつに、麻布を貼り重ねた生地に漆を塗る「夾紵(きょうちょ)」という手法がある。
ここでは「貰った布で着物を作る」というより、すぐに汚れ破れてしまう綺羅布を何らかの形で残そうと、「本来なら使わない綺羅布を生地に、漆の作品を作る」「もうまともな理性がなく、ただ愛を形に残そうとあがく様を表した」かもしれない。
ちなみに夾紵については、日本でも遺跡から夾紵による棺が出土していた(と思う)し、奈良時代になると「
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