卒論のための参考文献の検索のしかた
──人文科学(特に中国学)を中心に
0. はじめに
論文やレポートを書く上で、必要となる準備や基礎作業がいくつかあります。その中でも最も重要なものの一つが、先行研究の調査・把握です。
論文もレポートも、原則として「新たなる知見を述べたもの」でなければなりません。そのためには、先行研究を調査し、何がどこまで明らかになっているのかを把握した上で、それを補足したり、反論したりして自らの論とする必要があります。
また、論文やレポートの中で、自分の意見・主張が正しいことを検証・証明するためにも、先行研究の調査が絶対に必要になります。つまり、先行研究を自説の論拠に使うわけですね。
では、先行研究の調査とは、一体何をすればいいのでしょうか?
一言でいえば、自分が書こうとしている論文やレポートのテーマに関して、これまでにどこかの誰か(たいていは研究者です)が発表した、論文や単行本(「専著」と言います)などの参考文献を読むことです。
そういうと、「要は、ただ読めばいいんでしょ?」といわれそうですが、それほど簡単な話ではありません。参考文献を読むためには、まずその前段階として、「誰が、いつ、どのような本や雑誌に、どのような内容の研究成果を発表したのか」ということを知らなければならないからです。
つまり一言でいえば、「参考文献の検索のしかた」を知っておく必要があるのです。
このページでは、そういった参考文献の検索方法について、人文学(特に中国学)を中心に解説します。中国学を専門とする大学生は言うまでもなく、高等学校の卒論作成にも役立つよう心がけました。
1. 論文のための資料って、何があるの?
さて、ここで質問です。論文やレポートに使う参考文献や資料には、一体どのようなものがあるのでしょうか?
人文科学(特に中国学)の場合ですと、大体以下の3つに大きく分類できます。
1、専著
単行本(普通に出版されている本)のこと。日本語と外国語があります。
2、論文
多くは雑誌(学術雑誌)に収録されています。やはり日本語と外国語があります。
3、その他
専著と論文以外の資料です。高等学校の卒論(特に社会科学系のテーマ)ですと、例えば白書などの政府刊行物や新聞記事、統計資料、六法全書……などがよく使われます。
以下、特に「1、専著」と「2、論文」を取りあげ、詳しく解説します。
2. 専著を検索する
2.1. 専著を借りる
2.1.1. 専著を大学図書館で借りる
まずは、専著を図書館等で借りる場合の検索方法について説明します。
この場合、一番簡単な検索方法は、所属する大学図書館の蔵書検索システム(OPACと呼ばれます)を利用することです。
例えば、私の出身校である慶應義塾大学の図書館には、以下のOPACがあります。
(1)KOSMOS(http://kosmos.lib.keio.ac.jp/primo_library/libweb/action/search.do?vid=KEIO)
また、私の勤務校である早稲田大学にも、以下のOPACがあります。
(2)WINE(多言語版)(http://wine.wul.waseda.ac.jp:1085/)
これらのOPACで、書名検索や著者名検索、キーワード検索などを駆使して必要な専著を探し、それらを図書館で借りればよいのです。
2.1.2. 専著を地方自治体の図書館で借りる
各地方自治体は、必ず公立図書館を持っています。自分の住んでいる街の公立図書館で専著を借りる方法もあります。
公立図書館でも、蔵書検索システム(OPAC)をインターネットで利用できることが一般的です。自分の住んでいる街の図書館をGoogle で検索すると、OPACのURLがわかりますので、利用しましょう。
また、Firefoxのスクリプトである“Libron”を使用すれば、Amazonで東京・神奈川・千葉および埼玉の一部など、様々な公立図書館の蔵書を検索することができるようになります。大変便利ですので、こちらも利用するとよいでしょう。
※補足:“Libron”はWEBブラウザFirefox用のスクリプトで、使用するには“Greasemonkey”というアドオン(プログラムのようなもの)をインストールする必要があります。以下のURLを参照してください。
http://www.forest.impress.co.jp/docs/serial/okiniiri/20100106_340586.html
なお、自治体の図書館を利用する場合、(当然のことですが)自治体の規模の大きい図書館の方が蔵書数も多いということを知っておきましょう。つまり、町や区の図書館よりは市の図書館の方が、市の図書館よりは都道府県の図書館の方が、蔵書が多いのです。
さらに、同じ自治体の図書館でも、(これまた当然のことですが)一般に周辺の図書館よりも中央図書館の方が蔵書数が多いことも知っておくべきです。
※補足:ただし、地方自治体の図書館が使えるのは、せいぜい大学の卒論レベルまでだということに注意してください。研究の内容が高度になるにつれて、自治体の図書館の蔵書は役に立たなくなります。一般に、地方自治体の図書館は、大学図書館に比べて専門書(学術書)の蔵書が少ないからです。また、学術雑誌や外国語の文献の蔵書も、大学図書館には遥かに及びません。
また、特定の専門に関する専著を中心に集めている専門図書館というのもあります。例えば、児童書を集めた東京子ども図書館や、気象学関係の本を集めた気象庁図書館などが、そうです。
こうした専門図書館も、自分の専門とするテーマに応じて積極的に利用しましょう。一般の公立図書館よりも専門書を多く所有していますので、うまく利用すれば研究に大いに役立ちます。
どういう専門図書館があるのかについては、下記のURLを参照してください。
(3)ACADEMIC RESOURCE GUIDE リンク集-専門図書館(http://www.ne.jp/asahi/coffee/house/ARG/library.html)
また、以下の書籍も専門図書館やの情報が詳しく載っています(公立図書館や書店の情報も詳しいです)。
(4)東京ブックマップ編集委員会編 『東京ブックマップ─―東京23区書店・図書館徹底ガイド(ネット対応版)〈2005‐2006年版〉』 (書籍情報社 2005年02月)
2.2. 専著の書誌情報や所蔵情報を検索する
書誌情報にも色々ありますが、専著を検索するうえで特に大事なものは書名、著者名、出版社名、出版年の4つです。所蔵情報とは、わかりやすく言えば「どこの図書館にあるのか」ということです。
(5)NACSIS Webcat(http://webcat.nii.ac.jp/webcat.html)
(6)NACSIS Webcat(英語版)(http://webcat.nii.ac.jp/webcat.html)
(7)Webcat Plus(http://webcatplus.nii.ac.jp/)
以上3つは、国立情報学研究所(NII)が運営する専著(書籍)検索データベースです。専著の所蔵情報、つまり「探したい本がどの大学図書館にあるのか」を調べることができます。また、著者名や出版社名、出版年などの書誌情報もわかります。
(5)と(6)の違いについてですが、(6)はUnicodeに対応しているので、多言語で書籍を検索できます。もちろん、大陸や台湾で出版された簡体字や繁体字の書籍も検索できます。
また(7)は、検索語に文章を使用できます。例えば「漢詩が和歌に対して与えた影響について」など、文章を入力して連想変換で書籍を検索可能です。また、(5)、(6)に比べて検索結果に一般書がかなりヒットする点も特徴です。
※補足:Webcatは、2012年度末をもってサービス終了となる予定です。後継の検索サービスとして、「CiNii 図書・雑誌検索(Books)」が提供される予定です。なお(7)Webcat Plusは、2012年度末以降も引き続き利用できるみたいです。
ここでついでに、以下のWebサイトも紹介しておきます。
(8)GeNii(ジーニィ http://ge.nii.ac.jp/genii/jsp/index.jsp)
非常に有用なポータルサイトなので、文献検索の起点として活用してもらいたいですね。なおこちらも、国立情報学研究所(NII)が運営しています。
ここから(↓)は現在まだ編集中です。完成までもう少し待ってください……。
2.3. 専著を買う
サブカルチャーに関する本など、大学図書館に入ってない本の場合は、自分で買うしかない。
(9)Amazon(http://www.amazon.co.jp/)
言わずと知れた大手通販サイト。本の書誌情報も調べられる。
3. 論文を調べる
3.1. 論文を検索する
では、以下に論文の検索方法を説明する。
(10)CiNii(サイニィ Nii論文情報ナビゲータ http://ci.nii.ac.jp/)
以下に紹介するNDL-OPACなど様々な論文情報データベース(学術雑誌も大学等で発行された研究紀要も含む)を串刺し検索できる。(8)のGeNiiからもアクセス可能。
※補足:以下は(10)CiNiiで検索可能なデータベース一覧。
①国会図書館雑誌記事索引データベース(NDL http://opac.ndl.go.jp/)
Webサイトでも検索可能。キーワードやタイトル、著者名で論文を検索できる。
②電子図書館サービス(NII-ELS)学協会誌全文情報
③研究紀要目次速報データベース(NII-ELS)
④引用文献索引データベース(CJP)
………など
また、論文の引用文献情報(ある論文がどのような論文を引用しているか、また、どのような論文に引用されているか)も調べられるので、発展的調査も可能。
以上のように、非常に有用なデータベースである。論文検索の起点としてぜひ活用してもらいたい。
●NICHIGAI MagazinePlus
早稲田大学の図書室で検索可能(早稲田大学ホームページ→左下にある「学術情報検索システム」をクリック→「論文・記事(新聞/雑誌)」の「すべて見る」をクリック)。以下のデータベースも、これでアクセス可能。
論文を、キーワードやタイトル、著者名で検索できる。「論文がどの雑誌に収録されているのか」、「その雑誌がどの大学図書館に入っているのか」もわかる。学術雑誌以外の一般的な雑誌も検索可能。
●大宅壮一文庫雑誌記事索引(Web OYA-bunko )
早稲田大学の図書室で検索可能。大宅壮一文庫に収められている雑誌の記事索引を検索できる。
大学図書館には普通収められない一般的な雑誌(非学術的なもの。例えばサブカルチャーや時事ネタなど)の雑誌記事を調査したい時は、これを使う。同文庫独特の記事分類方法が極めて有用だけに、利用価値は高い。
※補足:大宅壮一文庫については、大串夏身「大宅壮一文庫雑誌記事索引活用のすすめ」(http://www.kinokuniya.co.jp/03f/kinoline/0501_02.pdf)も参照。
3.2. 論文が収録されている雑誌が、どの大学図書館に入っているか調べる
●NACSIS Webcat(http://webcat.nii.ac.jp/webcat.html)
●Webcat Plus(http://webcatplus.nii.ac.jp/)
↑図書館は、普通雑誌の貸出はしてくれない。しかし、どの図書館に入っているのかがわかれば、その図書館へ行ってコピーすることができる。
3.3. 論文の現物を読む
●CiNii(http://ci.nii.ac.jp/)
↑比較的最近の論文(2000年以降?)なら、PDFをダウンロードできるかも。
●政府刊行物等総合目録
↓ここから下は、旧バージョンです。よろしければ参考にしてください。
論文やレポートを書く上で、必要とな る準備や基礎作業がいくつかあります。その中でも最も重要なものの一つが、先行研究の調査・把握です。
論文もレポートも、原則として「新たなる知見を述べたもの」でなければなりません。そ のためには、先行研究を調査し、何がどこまで明らかになっているのかを把握した上で、それを補足したり、反論したりして自らの論とする必要があります。
また、論文やレポートの中で、自分の意見・主張が正しいことを検証・証明するためにも、先行研究の調査が絶対に必要になります。つ まり、先行研究を自説の論拠に使うわけですね。
では、先行研究の調査 とは、一体何をすればいいのでしょうか?
一言でいえば、自分が書こうとし ている論文やレポートのテーマに関して、これまでにどこかの誰か(たいていは研究者です)が発表した、論文や単行本(「専著」と言います)などの参考文献 を読むことです。
そういうと、「要は、ただ読めばいいんでしょ?」といわ れそうですが、それほど簡単な話ではありません。参考文献を読むためには、まずその前段階として、「誰が、いつ、どのような本や雑誌に、どのような 内容の研究成果を発表したのか」ということを知らなければならないからです。
この中でも特に重要なのが、論文の検索です。というのも、論文は基本的に、雑誌に収録されるものだからです。
※補足:雑誌に収録されるものですので、論文のことを「雑誌記事」ともいいます。
(ただし正確には、論文と雑誌記事とは完全にイコールではありません。雑誌には、エッセイや小説など論文以外の記事が多く載っていますし、逆に、専著(単行本)に載っている論文も、結構あります。しかし一方で、学問の世界ではかなり多くの場合、論文と雑誌記事とは同じ意味で使われることも多いようです)
雑誌といっても、普通の書店やコンビニエンスストアに売っているような、よく名前の知られている一般的なものではありません。普通は、いわゆる学術雑誌に収録されていることがほとんどです。
※補足:学術雑誌(定期刊行物)の中でも、大学・研究所・博物館などの研究機関が発行するものを、特に「紀要」とよびます。
つまり、専著の場合なら、図書館のOPACなどで検索して自分に必要な専著のタイトルや請求記号を確認すれば、簡単にその本を探し出すことができますが、論文の場合は、自分が必要とする論文のタイトルを知るだけでは足りません。
それらの情報に加えて、さらにその論文が何年何月に発行された何という名前の雑誌に掲載されているのかを、知らなければならないのです。それがわからないと、そもそも必要な論文にたどり着けません。
こういった情報を要領よく知るためには、専著や雑誌記事の検索方法を知っておく必要があります。
では、専著の検索方法について紹介します。
専著の場合は、図書館のOPACを利用する事は当然として、その他にもいくつかの方法があります。その中でも特に有用なのが、Webサイトを利用した検索です。
は、様々な大学図書館や専門図書館(含国立国会図書館)の蔵書を串刺し検索することができます。
探している本がどの大学図書館にあるのかが一瞬にしてわかるので、大変便利です。
それさえわかれば、あとは直接その図書館に見に行くなり、必要な部分の複写を自分の大学の図書館を通じて頼めばいいだけです。
現在のところ、Webcatの英語版ページ(http://webcat.nii.ac.jp/webcat.html)がUnicodeに対応しているので、簡体字・繁体字の専著も検索可能です。
(12)中央研究院図書館目録(http://las.sinica.edu.tw/)
(13)全国図書書目資訊網(NBINet http://nbinet1.ncl.edu.tw/)
両者とも、Webcatと同様に、書誌情報だけでなく蔵書情報も知ることができます。
さらにすごいのは、両サイトともに、
1、その本が叢書(アンソロジー)の一部である場合、叢書名も記されている、
2、古典籍(含線裝本・影印本)の書誌情報も収録されている、
3、古典籍の場合、版本情報も記されている、
ということです。
学部生の卒論にはあまり関係しないかもしれませんが、中国古典学を専攻するものにとって、自分が扱う古典籍の版本情報は、極めて重要かつ必須の知識です。
この両サイトで検索すれば、それらについて相当程度の知識を簡単に得ることができるのです。
特に、「この古典籍がどの叢書に収録されているのか」があっという間にわかるのは、大変便利です。少なくとも『中国叢書叢録』の代用は、十分につとまります。
一度使うと、その便利さにやみつきになるでしょう。
(14)『中国文学語学文献案内』(前掲)
を参照してください。
続いて、雑誌記事(論文)の検索方法について説明します。
日本の雑誌記事を検索したい場合は、
(1)国立国会図書館の雑誌記事索引
を利用するのがよいでしょう。大学図書館であれば、必ずレファレンスのコーナーにおいてあるはずです。
複数年度ごとに、刊行された論文がテーマ別に載っており、論文のタイトル・掲載雑誌名・発行年月日を知ることができます。
1975年以降のものは、CD-ROMもあります。CD-ROMなら、自分の研究テーマなどでキーワード検索をすることができますので、こちらを使った方が便利です。
という電子データベースを端末で利用できます。
こちらは、国会図書館の雑誌記事索引のデータベースに加え、より一般的な雑誌の記事も検索できます。
一般的な雑誌も含まれますので、純粋に学術論文だけを検索したい場合には、ノイズ(余分な情報)が多くて面倒な場合もあります。しかし、逆に一般的な雑誌の記事も検索したい場合には、こちらを使うしかありません。
そのほかに、WEBで公開されているオンライン・データベースを使って論文を検索することもできます。自宅で検索できるので、こちらの方が便利かもしれません。
代表的なものとしては、
(3)国立国会図書館 NDL-OPAC 雑誌記事索引検索
(http://opac.ndl.go.jp/)
(4)GeNii(国立情報学研究所 学術コンテンツ・ポータル)
(5)CiNii(国立情報学研究所 論文情報ナビゲータ)
などがあります。どれも大変有用なのですが、詳しいコメントはもうちょっと待ってください……。
(6)東洋学文献類目検索[第 4.6 版]
(http://kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/db/CHINA3/index.html.ja.utf-8)
(7)東洋学文献類目検索[第 6.0α 版]
(http://mousai.kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/ruimoku/index.html.ja)
の1981年以降のデータを電子化したものです。
論文だけでなく専著も検索できますし、また、中国語で書かれた文献や、そのほかの外国語(含韓国語)で書かれた文献も収録されています。
特に、中国語の文献を調べたい場合は、現時点ではこれを使うのがもっとも便利だと思います。
なお、利用の際は、なるべく新しいバージョンを使うようにしてください。最新の情報が反映されていますから。
※補足:
ただし、WEB版は、(8)の書籍版(『東洋学文献類目』)に比べて、データの反映が若干遅くなることに注意してください。したがって、最新の情報については、書籍版を調べるしかありません(もっとも、書籍版でも大体2~3年ほどのタイムラグが生じていますが)。
さらに、1980年以前の文献についても、データが電子化されていないので、書籍版で調べるしかありません。書籍版『東洋学文献類目』は、大学図書館のリファレンス・コーナーに置いてあるはずです。
が便利です。
これは、1994年以降に中国の主要雑誌5400余種に掲載された人文・社会・自然科学に関する論文の全文が、PDF形式などで公開されているものです。論文の中身も見られるので、極めて有用です。
東方書店で利用カードが販売されていますが、値段はなかなかに高いので、学部生にはちょっと手が出ないかもしれません。
早稲田大学や慶應義塾大学など、学校が契約して学内で使用できるようになっている大学もありますので、図書館のレファレンス・コーナーに聞いてみてください。