コミュニカティブ・アプローチの概説書・研究書ガイド

(中国語教授法に関するブックガイド その(6)) 

 

 ここでは、コミュニカティブ・アプローチ(Communicative Approach)に関する、概説書および研究書を紹介します。

 

 なお、コミュニカティブ・アプローチとは、外国語・第二言語の教授法の一つです。

 

 ひと言で「こういうもの」と定義するのは難しいのですが、下の(1)によれば、従来のオーディオリンガル・メソッドが言語の構造や型の習得に重点を置いていたのに対して、言語学習が本来目指している「コミュニケーション能力」を養成するために開発された教授理論のことを言います。

 

 

(1)岡崎敏雄・岡崎眸著、日本語教育学会編 『日本語教育におけるコミュニカティブ・アプローチ』 凡人社 1990年12月

 

 詳しいコメントはいずれまた書きますが、いわゆるコミュニカティブ・アプローチに関する実践的な知識を知りたい場合に、大変有用な本です。

 

 特に、同アプローチを具体的にどのように授業に導入していくか、具体的にどのようなタスク(教室活動)があり得るか、などが詳しく紹介されています。

 

 外国語教授法の概説書(例えば、こちらで紹介した(1)(3)など)を読んでコミュニカティブ・アプローチの概要をざっと理解したあと、さらに詳しいことを知りたいという人に、お勧めできると思います。

 

 ただし、私自身はコミュニカティブ・アプローチに対して、全面的に賛同しているわけではありません。むしろ、

 

「コミュニカティブ・アプローチはアウトプット能力の養成にややウェイトを置きすぎていないか?だとすれば、それでは高い教育効果はかえって望めないのではないか?」

 

という疑問も感じています。

 

 何故かと言えば、第二言語習得理論研究において、アウトプットのトレーニングそのものが言語能力の向上につながったという研究成果が、あまりないからです。

 

 また、特に学習歴が短い学習者に対してアウトプットを強要しすぎると、負の言語転移がおこってしまい(特に文法面)、そのまま学習を続けると、それが固定化してしまうとも言われています。

 

 ですから、むしろインプット理論に基づいた教室活動をベースにし、学習者の自動化を主眼においたメソッドを取り入れたほうが、最終的な学習効果は高いのではないかとも思うのです。

 

※補足:ただし、インプットのトレーニングだけでも、受容型理解が出来るようになるだけで、発信型の能力は養成しがたいこともわかっています。ですから、私がここで言っている「インプット理論に基づいた教室活動」とは、あくまでもインプットを主としつつ、それにアウトプットを絡めていくということです。

 

 もっとも、私の疑問が正しいのかどうかは、最終的には実験をしてみないと何とも言えないのですが……。

 

 

(2)吉島茂・大橋理枝訳 『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠』 朝日出版社 2004年10月

 

 EU(欧州連合)のCounsil of Europe(欧州会議)のModern Languages Division(現代語部門)が2001年に作成した'''Common European Framework of Reference for Languages : Learning, teaching, assessment’’’(略称CEFまたはCEFR)の日本語訳です。

 

 一言で説明すれば、ヨーロッパで策定された、第二言語教育および学習のための指標です。言語行為論(“Speech Act Theory”)の考え方を背景に、「何をどこまでできるのか(can-do)」の観点から、第二言語学習の到達目標を状況ごとに設置している点が特徴です。コミュニカティブ・アプローチに基づいた授業を行う際の指標として、大いに参考になると思います。

 

※補足:「言語行為(“Speech Act”。発話行為とも言う)」については、例えば冨田恭彦『科学哲学者柏木達彦の秋物語 【事実・対象・言葉をめぐる四つの話、の巻】』(ナカニシヤ出版 1998年05月)「第三話 公開講座」(P113~P130)を参照してください。比較的わかりやすい解説が載っています。

 

また、CEFRの概要を知りたいという方は、藤原三枝子「ヨーロッパにおける言語運用能力評価の共通フレームワーク──コミュニケーション能力の新しい理解をめぐって」(『言語と文化』第7号 2003年 甲南大学国際言語文化センター) をご一読ください。こちらはCiNiihttp://ci.nii.ac.jp/cinii/servlet/CiNiiTop#)からPDFをダウンロードできます。

 

 中国語教授法を専門としている私の知人曰く、「大変に役立つ。アメリカではなく、ヨーロッパの教授法の歴史に簡単に触れてあるので、英語一辺倒のめりこみ防止になりそう」とのことです。

 

 ただし、私自身はいくつか疑問を感じないわけではありません。具体的には、

 

「ヨーロッパにおけるコミュニケーション能力の考え方を、日本の第二言語教育や学習にそのまま援用できるのか?」、

 

「そもそも、第二言語習得(SLA)や第二言語としての中国語(MSL)と、外国語習得(FLA)や外国語としての中国語(MFL)とを、同一視してよいのか?少なくとも教育の現場では、両者は異なる概念として扱うべきではないか?」

 

※補足:実際、英語教育の世界では、第二言語としての英語(ESL)ないしは英語教育(TESL)と、外国語としての英語(EFL)ないしは英語教育(TEFL)とは、異なる概念であるという認識もあるようです。(Oxford, L. Rececca “Language Learning Strategies” Newbury House Publishers, 1990)

 

そして、

 

「日本の教育の現場においては、むしろ中国語を外国語としてとらえた方が(MFL)、結局は教育的効果が高いのではないか?」、 

 

あるいは、

 

「CEFが設定するコミュニケーションの場面(状況)およびその段階は、ヨーロッパにおける政治的、経済的、社会的、文化的な状況を背景としており、日本の一般的な中国語学習者にとってはリアリティーに乏しい面があるため、学習効果が低くなるのではないか?むしろ日本の中国語学習者には、別の場面(状況)を設定するべきではないか?」 

 

などのことなんですが……。これについては、かなり本質的な疑問なので長くなりますし、私自身の考えもまだ整理できていない部分があるので、後日改めて書きたいと思います。

 

 

(3)高島英幸 『実践的コミュニケーション能力のための英語のタスク活動と文法指導』(大修館書店 2000年)

 

(4)高橋正夫ほか 『高校英語のコミュニカティヴプラクティス』 中教 2000年04月(絶版)

 

  コメントはもう少し待ってね……。 

 

 

 

 

 

 

最終更新:2009年04月08日 11:11