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第一話『満月の下で餅つくウサギ』


「やっと今週のゲームもおしまいか」
 学生服姿の少年は、公園に突っ立つ電子時計の針を見ながらそう感慨深げに――というよりも疲れ果てた顔でそう言った。
 かちり、と時計の長針が12を指し、一週間が終り、世界が『更新』される。
 崩れたビルは崩れては『いない』ことになり、少年の目の前にあったクレーターのような大きい穴は『無かった』ことになる。
 今まで非日常の世界だったのが、普通の世界になるこの瞬間が、少年にとっては堪らなく気持ち悪い時だった。
『ゲームクリア、おめでとうございます!』
 と同時に、少年の脳内にきんきんと高い少女の声が響く。
「はいはい、ありがとう」
 はああ、と大きなため息をつく。
 空を見上げた。
 満月だった。
 太陽の影で光るもう一つの世界では、ウサギがせっせとモチをついている。
 まるで俺たちだな、と少年は独り言。
 さてと、と少年は立ち上がり、次のゲームの内容を聞きに噴水へと向かった。


 公園の噴水の縁に立つ、小学生低学年ほどの少女が大きな声で知らせる。
「今回のゲームもご苦労だった! クリアできた者も、クリアできなかった者も、次のゲームでも頑張って欲しい」
 妙に偉そうな口振りの少女は、服装の面でも普通ではなかった。
 日本神話に出てくる女性の神様の天衣と、江戸以降の着物を混ぜた服装で、可愛らしいには可愛らしいが、現代の少女が着るようなものではなかった。
 その上、暗色系の赤色――小豆色を基調としたその服は、明らかに袖のあたりが大きすぎて、彼女が思いっきり手を伸ばしても、中指ですら見えないくらいだろう。
 髪色は濃い茶色、その髪を後頭部あたりで団子にして、金のカンザシを刺している。身体が揺れる度、月に照らされてそのカンザシがゆらゆらと光っていた。
「では、次の『ゲーム』のクリア条件を発表する」
 ちっさい身体で大きな声を出す。こんなことをしなくともFPが全部教えてくれるのにと少年は思いつつも、きっと真面目な主催者なんだろうと自分を納得させた。
「次のクリア条件は、この光るビー玉を5つ集めること」
 少女……いや、ゲームの『主催者』は大きい袖をたぐり寄せ、必死にたぐり寄せ、腕が袖でだぼだぼになりながらもたぐり寄せ、光るビー玉を見せた。まるで蛍の光を思わせる、冷たい光を放つビー玉だった。
「ビー玉はこの町の至る所に隠されている。これを探して集めることが今回のゲームだ」
 ビー玉をひょいと上に投げ、再びつかみ、ずるずると袖を戻す。服自体に構造的な欠陥があるのではないかと少年は思ったが、別に良いかと脳内の追求を諦めた。可愛いなら全ては許されるのだ。
「集め方に手段は問わない。期限は次の同期更新の時まで」
 きりり、と鋭い目になり、その場にいた他の連中も身体を強張せる。
「では、ゲームスタート!」
 こうして、新しいゲームの始まりを少女――『主催者 カンナ』が告げた。


――第一話『満月の下で餅つくウサギ』 終

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