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デズムがアレクセイに来て1週間の時が過ぎた。
マルス・ヴォルフラムによる歓迎はデズムが今まで味わったことのない穏やかな一時であった。
そして・・・。
エイス「ねぇ、何か面白い話はない?」
デズム「というと?」
エイス「戦記とか冒険譚よ。そうね、あなた東の国のお話を知っているかしら。1つの国が滅び3つの国が生まれたの。その3つは拮抗してなかなかどちらも滅びない。そんな中、勝ったのは・・・」
デズム「全く新しい国だった」
エイス「へぇやっぱり物知りなのね」
デズム「そのお話はよく聞かせられたからね」
エイス「そういえばあなたの家族って今はどうしているの?さぞかしいい暮らしをしているんでしょ?あ、でも貧乏領主だものね。暮らしは変わらないかしら?」
デズム「・・・俺は戦争孤児なんだ」
エイス「あ・・・」
デズム「戦争で父と母は死んだ。そして唯一の肉親である弟は行方不明だ」
エイス「ごめんなさい・・・あたし・・・」
デズム「いいんだ。そして俺が父のように慕っていた育ての父親も亡くなった。あの人が俺に帝王学を叩き込んだんだ。もっとも、本当に叩き込まれるべきやつはいたんだけどね。あの人は俺を自分の息子の片腕にするつもりだったんだろう。だが俺は・・・そいつを今自分の片腕にしている・・・おかしな話さ」
エイス「後悔してる?自分が領主になったこと」
デズム「後悔はしていないけど・・・。君の父上に会ってみて感じたよ。君の父上はすごい。お世辞じゃなくてね。俺は次に始まる戦争は強い者に従わなければならないと思っていた。自分の意志を通すことを諦めていたんだ」
エイス「自分の意志?」
デズム「この国からもう二度と俺のような人間を出さないってことを。そして正しい力を持った人を王にすることだ。恥ずかしいことに俺はその気持ちを忘れていた。いや、押し殺していたんだ。王家の長子であるミドガルド殿は正しい力を持っているのか?ただ、長男だから、力が強いから、今は領を守ることが大切だ、そんな思いに駆られて自分を見失っていた。君の父上はすべてを見抜いていたんだよ」
エイス「あたしにそんなことを話してもいいの?」
デズム「自分でも不思議だ・・・。こんな弱音は親友にも話したことが少ない」
エイス「あなたは完璧人間じゃない。もっと人に弱いところを見せてもいいわ」
デズム「俺は・・・」
エイス「この1週間・・・あなたと話せて思ったわ。あなたはただの貧乏領主じゃない。心は誰よりも豊かで決して貧しくなんかない」
デズム「エイス・・・俺は」
エイス「デズム、私と来て」
デズム「え・・・おい、ど、どこに?」
マルス・ヴォルフラムの部屋
エイス「お父様、気分はいかがかしら」
マルス「・・・おお、エイスか。デズム殿も一緒か。どうしたのだ?」
エイス「お父様はもう長くないのがわかるの」
ロフ「お嬢様!?」
マルス「・・・よい。事実だ。自分の体のことは自分がよくわかっている。エイス、何が言いたい」
エイス「このままお父様が死んだら誰がこの国を継ぐことになるの?」
マルス「それは・・・そうだな。自分が死んだ後のこと・・・考えてもいなかった。もう子供も望めまい。男子は生まれず・・・家臣も1つにまとまってはおらぬ」
ロフ「マルス様・・・」
エイス「私、デズムとデズム様と結婚します」
デズム「・・・!?」
マルス「そうくると思ったぞ。我が娘ながら考えることは同じ・・・か」
デズム「ちょっと待ってください!一体何がなにやら・・・」
ロフ「そうでございます。あまりにも唐突すぎますぞ」
マルス「デズム、私は君の想うような立派な人間ではない。どちらにも加担しないというのは裏を返せば逃げることと同じ。口先でやり過ごしてきたが結局は自分が死ぬということに囚われて後のことを考えてもいなかった。エイスの言葉でそれを痛感したよ・・・」
エイス「お父様・・・」
マルス「だから私はこの領地をよりよき力に変えることのできる人間に譲るのだ。そのための結婚だ」
デズム「エイス、君はそれでいいのか?」
エイス「あなたが嫌じゃなければ・・・私は政略結婚とは思っていません。これは私の意志、あなたという男を惚れこんで決めたことです」
ハロルド「お、お嬢様!考え直してください!この男はあなたを巧みに言いくるめてこのアレクセイをフェーナ同様に自分の物とする気ですぞ!」
エイス「黙りなさい!バーキンス!彼にそのような二心はない!」
マルス「デズム、娘をもらってやってくれ・・・。私の願いだ・・・。君は誰か想い人がいるのかね?」
デズム「いえ・・・しかし・・・これでは私がアレクセイを奪ったも同然。バーキンス殿の言うとおりでしょう」
ハロルド「そうだ!納得がいかん!!」
デズム「私はあくまでもヴォルフラム家に婿として来る。これならば文句はありますまい」
ハロルド「な!?」
マルス「デズム、君も考えたな。で、君はどうする?誰に従い誰と戦う?」
デズム「私の敵はこの国を私利私欲で動かそうとする者たち。再び民を蔑ろにしようとする者たちです。そして今、私を従わせようとしている人間にはそういった人間しかいないと見ています」
マルス「それでいい。私の逃げの口実とは違う君の決意と覚悟が伝わってくる。では君は急ぎ、フェーナに戻りこのことを重臣たちに伝えるのだ」
デズム「わかりました。マルス様、無理はなさらないでください」
マルス「わかっている。嬉しいぞ、君のような若者が我が子となるのが」
ハロルド「くっ・・・」
フェーナ・アレクセイ国境付近
リバティ「しかし驚きましたよ。まさかデズム様がご結婚とは・・・」
デズム「フフッ・・・ビートのやつが聞いたらさぞかし驚くだろうな」
リバティ「そのお嬢さんのことをデズム様は愛してらっしゃるので?」
デズム「この1週間話してみて他の女性にはないものを感じた。それが愛というなら愛しているのかもな」
リバティ「そりゃまた・・・ん?」
デズム「どうした」
デズムの部下「で、デズム様!!前方に・・・!」
デズム「ん!?」
ハロルド「逃がしはしねぇぜ・・・貧乏領主・・・!!!」
第6話【婚約】完