セミの声が聞こえるある夏の日。  一人の喪服の少女が椎名の家の前でウロウロしてた。 「お姉さん、誰ですか?」  柄にもなく敬語で話しかけた私に彼女は困った顔を向けた。  実は、彼女が誰なのかはわかっていた。というか彼女の顔を見て思い出した。  そして私は珍しく悩んだ。 彼女に私のことを告げるのは簡単だ。だが、彼女は私との約束を守れなかったことに 責任を感じるのは心苦しいのではないかと。  結局、話しかけて数秒後に解決策を思いつく。  そうだ。絵本にサインをしてもらおう。  世界で唯一の直筆サインを貰えるのだ。ファンとしてこれほど嬉しいことはない。  二人いるけど一人の人物。  尊敬する中条未来、憧れるルシア=マーベリック。  我が親友の母にして、私のもう一人のお母さま。  あなたの娘になれなかったことは残念ですが、私は幸せな人生を歩んでいます。