こんな恋いつか私もしてみたい

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こんな恋いつか私もしてみたい - (2008/04/05 (土) 23:54:09) のソース

負けるな比呂美たんっ! 応援SS第36弾

『こんな恋いつか私もしてみたい』



昼休みも もう終わる
学食で部の子達と時間をつぶしてから教室に戻った
これからはこんな日が増えるかも…
寂しいような
嬉しいような
複雑な思い
まあ今は報告が楽しみだ

お姫さまは… 居ない
なんだ、ギリギリまで粘ってるんだ
って、あれ、王子さまは居るのにね
ああ、一緒に戻るのが恥ずかしくて
時間差にしてるんだ
芸が細かいね
今更なのに…

あ、戻ってきた

「比呂美、どうだった?」

期待してインタビュー
これも親友の大事な勤め

「えへへ」

そう笑う比呂美の顔
何かヘン
あれ?
嫌な予感…

「どした?」

何で嬉しそうじゃないの?
比呂美の持ってる弁当箱
結び目が綺麗なまま…
ちょっと まさか!

立ち上がり比呂美の手を取り廊下へ出る
比呂美は抵抗せずについてくる
力が入ってない証拠だ
何があった!

少しうつむき加減で微笑んでる比呂美の真正面に立った
顔を近づけて
小さな声で訊く

「ねえ、どうだったの?」

比呂美は私と目を合わせた後、すぐにそらしてから
答えだした

「うん、食欲なくて…」

比呂美のぶら下げている弁当箱
私もそっと手を添える
…重い

「ね、何があったの?」

比呂美は困ったような顔をしながら

「ううん、なんにもないよ…」

そう答える声が震えてる

「ね、教えて?」

なかなか答えてくれない

「ハッキリ… 約束した… わけじゃないから…」

小さな声でやっと答えてくれた

「じゃ…」

これ… 待ちぼうけ?

「うん、いいの…」

比呂美
私なんかに気を使って
無理に笑おうとさえしてる

「…いい訳ないじゃない!」

無性に腹が立った
比呂美こんなに元気ないのに
あのバカ何考えてんだか

「ちょっと、仲上君っ!」

戸口から呼びかける

「朋与っ!」

比呂美が止めようとするけど

「いいからっ!」

ほっとけるもんか
こんな事

「いいの」

比呂美はなおも止めようとする

「仲上君!」

近づいてくる彼

「なに?」

少し驚いているようだ

「眞一郎くん、なんでもないから…」

比呂美が必死に間にはいる

「ね、何があったの?」

構わず彼に問い詰める

「何って?」

何の事か分らない?
比呂美をほったらかしといて…

「いいんだからっ」

比呂美が少し大きな声を出す
彼はそんな比呂美に驚いているようだ
そりゃ人の恋路に首突っ込むのもなんだけど
今日のコレはあんまりだ

「比呂美、お弁当食べてないじゃない」

単刀直入に切り出す

「え? そうなのか? なんで?」

彼は比呂美に顔をむけた
意外そうな顔してる

「なんでって?」

少しあきれた

「私が悪いの…」

比呂美は私に取りすがる
あれ? 私そんなに怒ってるように見えるのかな

「ごめん、比呂美の作ってくれた弁当、有り難くいただいた」

彼 まだ意味が分らないのか少しズレた事を言い出した

「本当?」

比呂美は顔を上げ彼に振り向いてから
心配そうな声でそう訊いた

「ああ、おいしかった」

あれ? 手渡した弁当は食べたのか?

「…ありがとう」

比呂美はうれしそうな声だ

「え?」

なに? これ?

「あの? 何で弁当食べてないんだ?」

彼は私を無視して比呂美に訊いている

「なんで一緒に食べてあげなかったの?」

比呂美が遠慮してハッキリしないかもしれないと思って
答えを兼ねて問い詰める

「一緒?」

まだ分らないのか?

「ごめんなさい、私がはっきりしなかったから…」

比呂美が困惑して彼と私の間でおろおろしてる

「仲上君? 比呂美から誘われたでしょ お弁当一緒にって」

ここは はっきりと問いただす

「俺が?」

「そう」

「あの…、私がきちんと約束しなかったから…」

「あー、今朝弁当もらったとき… ひょっとして あれかな?」

彼は何か思い出したのか

「なに?」

「確か 『今日は晴れてるからグラウンド階段の所で
 食べたらきもち良いかも…』って」

「私が勝手に待ってただけだから…」

「比呂美? あれ俺の事だったのか? 
 てっきり黒部達といつも一緒だからその話かと」

あー まったく このバカは

「仲上君っ! いーい、ふつう 女の子がお弁当作って
『何処其処で食べたらきもちいい』って言ったら
 一緒に食べようって事じゃない!
 少しは想像できないの?」

気が付け! そのくらい!

「じゃあ、比呂美 俺が行くの待ってて それで 食べてないのか?」

やっと分ったのか
彼は比呂美に問いかける

「そうよ、いーい? 比呂美はね、一週間以上前から献立考えて、
 栄養のバランスまで計算して、 仲上君の好みまで考えて、
 きのうの夜なんかね、比呂美に電話したら、
 天気予報で晴れって分ってんのに てるてる坊主まで作ってて… 
 仲上君に弁当作ってあげられるのは 朝練の無い週に一度だけだからって、
 初めてのお弁当 すっごい楽しみにしてたのに… 」

比呂美のこんな姿
あんた知らないでしょ
どーすんのよ

「朋与…、恥ずかしいから…」

比呂美は小さな声で私の袖を掴んで俯きだした

「そか、気がついてやれなかったのは悪い ごめんな」

やっと事態が理解できたらしい
比呂美の顔を覗き込んで話し出した

「ううん、お弁当食べてもらえただけで… うれしい」

比呂美も身振りも交えて『気にしないで』と答えてる
そろそろ私はお邪魔かな?

「よしっ、いまからグラウンド階段行くか?」

「え? でも、もうお昼休み終わっちゃうよ」

「あ、そうだな…」

「いまの言葉だけでうれしいから… ありがとう」

「…なあ、サボるか?」

「え?」

「俺はグラウンド階段で、今、比呂美と弁当一緒に食べたい、ダメかな?」

「え? あの…」

「グラウンド階段で 来ない俺をずっと待っててくれた比呂美を想像したら
 俺、もうどうしていいかわかんなくなった。
 比呂美の時間、少し俺にくれないか?」

「…うん、いいの?」

「ああ、比呂美に授業サボらせるのもなんだけど」

「私は構わないけど… 眞一郎くん 迷惑じゃない?」

「そんな事あるもんか 比呂美と一緒に、弁当、食べたい」

「…うん」

「よし、じゃ 黒部、俺達サボるんで 後、よろしく」

すっかりふたりの世界にあてられてた

「あ… うん」

我に返る

「行こ」

彼は比呂美の手を引いて歩き出す

「うん、…朋与、ありがと」

比呂美は振り返り
そう言ってくれた
目尻が少し光ってた



5限目の授業が始まった
空席がふたつ
ふたりの行き先を知っているのは私だけ
この時間 ふたりはひみつの場所で
ふたりだけのひと時を過ごしているのだろう
今日の仲上君はちょっと大胆
だけどあんな彼なら比呂美を大切にしてくれるだろう

30分程するとふたりが戻ってきた
教師に遅れた理由を尋ねられるふたり
比呂美を庇うようにして立つ彼が
『申し訳ありませんでした』
ひたすら謝って理由は追求されずに済んだ
その代わり ふたりそろって廊下で反省を命じられた

結局、授業の残りの時間
廊下で教室に背を向けて立つふたりは
お互いを見詰め合う顔を
ただのひと時もそらしていない

ふたりは気付いているだろうか
そんなふたりはガラス張りの教室から
丸見えだという事を…

少なくとも今見詰め合っているふたりには
お互い以外の存在は何も見えてはいなさそうだ

こんな恋いつか私もしてみたい


了





●あとがき
9話まで視聴済み


今回はいちどやってみたかった、ベタなラブコメ調です。
難点はttらしい縛りが無い事ですね。
こんなすれ違いなら大歓迎です。
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