入れ替わりネタ

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入れ替わりネタ」(2008/03/26 (水) 18:39:01) の最新版変更点

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それでは、せっかく書いてしまったので、お言葉に甘えまして。 パラレルワールドっていうより、もともとファンタジーなんですが。 当方原作を5話までしかみていません。(ていうか、今何話まできてるんでしょう?) 以下の作品は私が4話を見終わった時点で書き始めたものです。 ですので、5話以降の放送内容と若干(?)ずれている部分があります。 ・非エロなんて作者のオナニーいらん! ・おい、原作と設定が違うじゃないか! ・そもそも設定破綻してるじゃねーかよ! ・おい、下手な文章だな! 以上いずれかに該当する方には不愉快な内容である可能性が極めて高いです。 朝。他の生徒が通学してくる時間より、少しだけ前。 乃絵はいつもの木に登って、眞一郎の餌を収穫していた。 今日はどこに置いておこうかな、机の中?それともロッカーの中? それが眞一郎の迷惑かもしれないなんて、乃絵はまったく考えていない。 朝。他の生徒が通学してくる時間より、ずいぶん前。 比呂美は朋与と一緒にバスケ部の朝練に汗を流していた。 朝練がある日はいいなって比呂美は思う。だってあの家にいなくて済むから。 あの家ではいろいろよくしてもらっているけど、なんだか息苦しく感じるときがあって、 そんなときに朝練があるのは助かる。 朝。他の生徒が通学してくる、まさにその時間。 あいちゃんは他の制服に混じって学校へ向かう坂を上っていた。 心持ち早足で。二度寝した割には余裕があるな、だなんて、思っているかどうかは知らない。 そして、物語は紡がれる。 それは、偶然が運んだ小さな物語。 いたずら好きの天使様が、誰かのために用意した物語。 最後の登場人物、眞一郎の知らないところではじまった、それは喜劇?それとも…… 「っっぃったぁぁぁい!!」 ごつんと大きな音と、目の前に浮かんだ大きな星。 わたしは廊下の角を曲がったところで、向こうから突進してきたなにかとぶつかった。 その勢いで私は突き飛ばされ、尻餅をついてしまう。 「ちょっと、ちゃんと前を見て歩きなさいよ!」 わたしが文句を言おうと思っていたら目の前からわたしの声がした。 だれかがわたしのかわりにわたしの気持ちを代弁してくれたみたい。 わたしの声で。 わたしの声…… 「えっ!?」 わたしがびっくりして目を開けると、そこには尻餅をついているわたしがいた。 わたしはわたしの方をみて、やっぱりとってもびっくりしていて、 それはもちろんわたしだって同じで、えっと、こういうときは…… 転んでるわたしを見たわたしは、どう反応すればいいのかなって…… 「「えええええ~~~~~~~~~~~~!!!!」」 大きな声が、廊下に響きわたった。 眞一郎がいつも通りに教室に向かう途中、廊下を歩く乃絵の姿を見かけた。 元気にぴょこんと跳ねた短めの髪は、彼女の普段を表しているかのようだ。 しかし今日の乃絵は、ふだんのぴょんぴょんした感じがなくて、なんだか落ち着いて見える。 「よう、乃絵。おはよう!」 眞一郎がそういって、あいさつ代わりに乃絵の頭をくしゃくしゃする。 すると乃絵の口から「きゃ」っとかわいらしい声が漏れ出た。 「きゃ、ってお前、似合わねー」 眞一郎はそういって腹を抱えて笑う。 乃絵はしばらく、それをぼーっと眺めていた。 その視線はそんなにおかしいことだろうか、とでもいいたげで、 「おい、どうしたんだ、元気ないけど、なんかあったのか?」 バカみたいに笑っていた眞一郎も、さすがに乃絵の様子がおかしいことに気づいた。 「悪いもんでも食ったんじゃねーか? なあ、保健室行くか?」 それにようやく乃絵の目が正気に戻る。 「ごめん、そうじゃなくて、ちょっといろいろあって……」 「いろいろって、なんだよ?」 「えっとね、あまりにばかばかしいから信じてもらえないかもしれないんだけど」 「何だよ言ってみろよ」 眞一郎がせかすのに押されて、乃絵がようやく口を開く。 「えっとね、わたし、比呂美なの」 「……は?」 乃絵の非常識な言葉に、眞一郎はただただ絶句するしかなかった。 「えっと、つまりお前は乃絵に見えるけど実は中身は比呂美で、 その原因として考えられるのは廊下でぶつかったこと。 その時に中身が入れ替わったに違いない、と?」 「うん、そうなの。わたしも信じられないけど」 乃絵は、(いや比呂美は、というべきだろうか)そう言って自嘲気味にほほえむ。 そんなの、もちろん眞一郎だって信じられない。 廊下でぶつかって、中身が入れ替わるだなんて、漫画の中じゃ無いんだから。 「で、その乃絵が比呂美だとして、じゃあ比呂美は乃絵なのか? って、ん?」 眞一郎も言っていて訳がわからなくなってきた。 「わからないけど、たぶんそうじゃないかと思う」 乃絵がそう言う。その口調や仕草は、確かに言われてみると比呂美のもののようだった。 「ふーん、じゃあ俺は今日一日、比呂美と乃絵みたいに接してやんなきゃいけないわけか」 「そうね。あんまりべたべたしたらいやだよ」 乃絵の口が、比呂美の気持ちを告げてくる。 「わかってるよ。でもそういうことはむしろあいつに言ってやってくれ」 やっぱり自分の体で好きでもない奴にべたべたされるのは いやだよなぁ、と眞一郎が心の中でため息をつく。 そんな気持ちを知ってか知らずか、 乃絵の中の比呂美はにっこりわらって、「それもそうか」と言った。 教室に入ると、比呂美の姿をした乃絵は、もう自分の席に着いていた。 「ようおはよう乃絵、聞いたぞ、お前ら入れ替わってるんだってな」 眞一郎はできるだけ気さくに、比呂美に声を掛ける。 「え、ああおはよう。その、聞いたんだ……」 比呂美の中の乃絵は、すこしおどおどと答えた。 「あの、あんまり教室の中でその話はやめよう。放課後なら、いいから」 「ん? ああ、そうだよな、気づかなくてごめん」 眞一郎が頭をかく。 それを見た比呂美の姿をした乃絵は、にっこりほほえんで 「じゃあ、放課後ね」 と言った。 それを見た眞一郎は、胸が締め付けられるような、何とも言えない気持ちになった。 比呂美の、笑顔…… 「よう、湯浅比呂美に教室で声かけるなんて、めずらしいじゃん、どうしちゃったのさ?」 眞一郎が席に着くと、ミヨ吉が声を掛けてきた。 「べつに、どうもしてないよ。たいしたことじゃない」 「そうか? それより聞いてくれよ、さいきん愛ちゃんがつれなくてさ、 今朝だって……」 ミヨ吉のノロケ話にいちいちつきあってられない眞一郎は、 適当に聞き流しながら、一限目の準備を始める。 準備をしながらも、放課後のことに気持ちは飛んでいた。 ――比呂美の恰好をした、乃絵と一緒に、か。 比呂美の背中に目をやる。 やはり複雑な気分だった。 「ねえねえ、次どこ行く?」 放課後、比呂美と一緒に眞一郎はいろんなところに遊びに行った。 繁華街に行って服を見たり、露天でアクセサリーを見たり、カラオケ屋に行ったり。 まさか比呂美の財布を使うわけにはいかないので、そのお金は全部眞一郎が出した。 今目の前には、二人分のラーメンどんぶり。 自分はともかく、乃絵の奴、比呂美の体だってことわかってるんだろうか。眞一郎がそんな心配をする。 眞一郎は今日一日、比呂美っぽくない比呂美と、ずっとデートのまねごとをした。 もちろんずっと好きな女の子のそばにいられるから、眞一郎もそのことはうれしかった。 でもそれ以上に、微妙な気分になっていることは間違いない。 「べつに、行きたいとこなんて、特にねえよ。それよりそろそろうちに帰らないと」 だんだんどういう風に反応すればいいのかわからなくなっていた眞一郎は、ぶっきらぼうに返事をする。 それを見て、比呂美の顔にすこしだけ寂しそうな顔が浮かぶ。 そう、今日一日、ずっとこれだった。 眞一郎が乃絵を傷つけるようなことをすると、比呂美が悲しそうな顔をする。 ――乃絵のやつ、わざとやってるんじゃないだろうな 一瞬そんな疑いが頭によぎるが、すぐにあいつにそんな器用なことが出来るわけがないと否定する。 眞一郎は、しかたないなぁと頭をかきながら、言った。 「わかったよ、じゃあ次で最後だ。お前の好きなとこ、どこでもついて行ってやるよ」 それを聞いた比呂美の顔は、うれしそうでもなく、悲しそうでもなく、 何というか、何かを決心したような表情だった。 「じゃあ、海を見に行きたいな」 しばらくして、比呂美がつぶやく。 そうして今日の、へんてこりんなデートの終着点は、海の見える堤防に決まった。 夕日が沈む海。橙色の波が、橙色のテトラポットと戯れている。 眞一郎と比呂美は堤防に腰掛け、その橙色の世界を眺めていた。 「わたしね、眞一郎のこと、好きだよ。本当に」 不意に比呂美の口から、そんな言葉が漏れる。 比呂美の口から、もう一生聞くことができない言葉。 だって、彼女が本当に好きなのは、螢川の四番だから。 胸が痛い。眞一郎は肩を軽くすくめて、それでもなんとか、「そうか」と返した。 「えっとね、わたし、実は感謝してるんだ。今の、この状況」 「比呂美とお前が入れ替わってるってことか?」 眞一郎のその問いかけに、こんどは比呂美の体が、肩をすくめて返した。 「こんなことでもなかったら、自分の気持ちはっきり眞一郎に言えなかったと思うから。 そりゃ、廊下でぶつかったときは痛かったよ。 このやろーって思って、相手をなぐりとばしちゃおうって思って、 それで目開けたら、目の前にわたしがいるの。おかしいでしょ。 あ、この顔にそんなこと言われても困るよね」 堤防の上で、比呂美の笑顔からころころとした笑い声が転がってくる。 ああ、やっぱり比呂美はかわいいんだなって、眞一郎は思う。 思いながら、この中に乃絵が入っていると思うと、 乃絵が比呂美にこんなことを言わせてると思うと、無性に腹が立ってきた。 「そうだな、俺だって感謝してるぜ。 なんてったってそのおかげで俺は比呂美とデートみたいなことができてるんだから」 だから、これは眞一郎なりの乃絵への嫌がらせ。 「好きだ」って言ってくれた相手への、子供じみた仕返し。 比呂美の顔が一瞬悲しそうな寂しそうな、そんな色に染まる。 眞一郎の心に生まれる、小さな達成感と少しの後悔。 そう、今日一日の比呂美の顔は、全部乃絵が作ったもの。 だから、今の悲しそうな顔も、比呂美が悲しんだわけじゃない。 わかっては、いるけど…… 眞一郎の胸が、また小さく痛んだ。 今日だけで、どれだけ胸を痛めただろう。 天使のいたずらか、それとも悪魔の遊び心か。 どちらにせよ眞一郎にとって地獄のような一日が、ようやく終わった どんなからくりかはわからないけど、 眞一郎の気持ちをもてあそんだ喜劇の幕は、一日経ってあっさり下りてしまっていた。 次の日の朝。 眞一郎が見かけた学校に向かう石動乃絵は、すっかりいつも通りの彼女だった。 しんいちろー、おはよー、と手を振ってくる彼女は、間違っても比呂美ではないだろう。 「おはよう。おれは昨日のお前のいたずらのせいで寝不足だよ」 「昨日? なんのこと?」 「だって、昨日お前、俺のこと放課後あちこち連れ回しただろ」 しかし、乃絵のその次の発言は、眞一郎にとってにわかには信じられないものだった。 「え、昨日? わたしはずっと保健室で寝てたよ」 昨日一日、比呂美の中には乃絵が入っていた。 眞一郎は少なくとも、そう信じていた。 「なんか、廊下走ってたらがつんって誰かにぶつかっちゃって、 で、気づいたらお昼過ぎで保健室だったの。 それでね、とりあえず顔洗おうって洗面台まで行ったら、 鏡に湯浅比呂美の友達の顔が映ってたんだ。びっくりしちゃった」 なのに、乃絵は今、比呂美の中にはいなかったと言った。 乃絵が楽しそうに話している言葉は、眞一郎には現実離れしたこと。 ――乃絵じゃ、なかった? 昨日、少なくとも乃絵の中には比呂美が入っていた筈だ。 だから比呂美の中には乃絵が入ってるって、ずっと思ってたんだ。 でも、乃絵は自分は黒部(のことだろう)の中に入っていたと言う。 そういえば、たしかに昨日黒部は教室に来てなかった。 だとすると、昨日比呂美に入っていたのは、黒部だったってことになるのか? ――わたしね、眞一郎のこと、本当に好きだよ ――こんなことでもなかったら、自分の気持ちをはっきり眞一郎に言えなかったと思うから あれは、じゃあ乃絵じゃなくて…… 「だから昨日はごめんね。赤い実、取ってこれなくて。 おなかすいてたでしょ、って、しんいちろー!」 気づいたら俺は駆けだしていた。 いま教室に戻ったら、まだ黒部はいるかもしれない。 会って、どうしてもたしかめないといけないことがあった。 ――そうだな、俺だって感謝してるぜ。 乃絵だと思ってた。 小さな仕返しのつもりだった。 乃絵の子供じみたいたずらへの、子供じみた仕返しのつもりだった。 ――なんてったってそのおかげで俺は比呂美とデートみたいなことができてるんだから でも、それを聞いていたのは乃絵じゃなくって…… 「黒部、いるか!」 教室に入るなり、眞一郎は叫んでいた。 教室にはまだちらほら人影があって、 その全員分の視線が教室の入り口に向けられる。 息を切らせながら教室に飛び込んできた男子生徒に、 なにごとだという無言を投げかける。 「いるけど、どうしたの仲上君?」 それを聞いた眞一郎はほっとした表情で、 息を整えながら黒部朋与のところまで歩いていく。 「ちょっと、聞きたいことがあるんだ。その、昨日のことで……」 眞一郎は、ずっと比呂美の中には乃絵が入っていると信じていた。 でも、それは違った。なぜなら、乃絵は黒部朋与の中に入っていたから。 「ああ、昨日はわたしもびっくりしたわ。 でも普段あんまりできない経験が出来て楽しかった」 黒部朋与が笑う。 昨日の比呂美の笑顔とはまたちがった、屈託のない、楽しそうな笑顔。 聞くのには、勇気がいった。 聞いてはいけないことじゃないかとも思った。 朋与が、自分にそんな気持ちを抱いてるだなんて、とても信じられなかった。 それでもやっぱり、たしかめなきゃいけないことだった。 だから眞一郎は、目の前のショートカットの女の子に尋ねる。 なけなしの勇気を、拾い集めて…… 「あの……」 「知ってるんだ? 誰に聞いたの?」 眞一郎が言うより、ほんの少し速く、黒部朋与が口を開いていた。 さっきと同じ、無邪気な笑顔。 とても、昨日あんな告白をした後の女の子の顔ではなくて、 それはむしろ、遊園地のアトラクションを楽しんでいる子供のような…… 眞一郎の頭に、小さな疑問が浮かんでくる。 昨日夕焼けを見ながら話した相手だとすると、どうしても違和感がある。 そもそも、昨日一日の過剰なまでのスキンシップだって、 あまり彼女の雰囲気に似つかわしくない気がしてくる。 考えれば考えるほど、違和感はどんどんふくらんでいく。 「……黒部、昨日お前、誰の中にいた?」 だからこれは、違和感の原因を確かめる、本質的な質問。 「あれ、知らないんだ?」 そう言って、黒部朋与が口を開く。 その答えは、眞一郎にとって驚くべきものだった。 昨日と同じ、夕焼けの堤防。 昨日と同じところに、昨日とは違う姿で、昨日の彼女は腰掛けていた。 昨日より短いその赤みがかった髪の毛は、 夕日に染められていつもよりちょっとだけ黒く見える。 そして、昨日よりもちょっとだけ低いところから、 昨日と同じ橙色、遠くの赤い水平線を眺めていた。 「えっと……」 眞一郎が声を掛ける。彼女は振り向いて、小さな声で「来てたんだ」と言った。 眞一郎は、だまって彼女の隣りに腰掛ける。 昨日より低い肩、昨日より元気のない背中、昨日よりずっと悲しそうな瞳。 「知ってるんだよね、ここに来たってことは」 しばらく二人が静かに海を眺めていたあと、女の子が口を開く。 眞一郎はただ、「ああ」とだけ答える。 そして訪れる、ふたたびの静寂。 波の音をカモメの鳴き声だけが、橙色の世界を彩る音となった。 「……ごめんね」 静寂を破ったのは、また女の子。 「謝るようなことじゃ、ないって。たぶん。 ほら、こんなことになるなんて、誰も思ってなかったわけだし、それに」 「ううん、でも私はやっちゃいけないことをしちゃったの」 眞一郎のとってつけたような言葉に「やさしいんだね」って返した後、女の子は言った。 「こんなどさくさに紛れて、告白なんかしちゃったの」 眞一郎は言葉に詰まる。 やっぱり、昨日比呂美の中に入っていたのは、 今目の前で小さく肩をふるわせている女の子だった。 女の子は、うつむいていた。 女の子は、泣きそうだった。 女の子は、きっととても後悔していた。 「ほんとは、ずっと言うつもりなんか無かったんだ。知られたくもなかった。でもね、」 顔を上げた女の子の目には、もう涙が浮かんでいた。 女の子は、泣きそうだったんじゃなくて、実際に泣いていた。 眞一郎は思う。誰が、こいつをこんなに追い詰めちゃったんだろう、って。 「昨日一日眞一郎とデートみたいなことして、眞一郎の目がずっとわたしの方見てくれてて、 うれしくて、うれしくて、でもその目が見てるのはわたしじゃなくて、 あんたの瞳に映ってる姿はわたしのものじゃなくて……」 そこまで一気にまくした後、女の子は一度息をつく。 そして、いたずらが見つかって怒られる前の子供みたいな顔をした。 「なんか夕日見て、ノスタルジックになっちゃったら、気づいたら言っちゃってた」 こんな形で、知られたくなかったな、って、寂しそうに夕焼けを見ている女の子。 いつも元気で、小さくてもビールケースに乗って家の手伝いをして、 眞一郎が失恋したときは慰めてもくれた、眞一郎にとって本当の姉弟みたいな、 そんな幼なじみの女の子。 ――なんてったってそのおかげで俺は比呂美とデートみたいなことができてるんだから どう考えても、この子をここまで追い詰めていたのは、眞一郎自身だった。 あのとき、眞一郎が乃絵に言ったつもりだった言葉。 それを、この女の子は、安藤愛子は、どんな気持ちで聞いていたんだろう。 「最初ね、あんたわたしのこと石動乃絵と勘違いしたでしょ。 それで、すぐ言おうとおもったんだけど、 でもこのまま勘違いさせておけば今日一日一緒にいられるなって思ったら、 言えなくなっちゃった」 堤防の上に立ち上がり、それでも視線は遠く水平線のままで、あいちゃんは話し始める。 「そうしたらあんたがどれだけ比呂美ちゃんのこと好きなのか、 昨日一日で思い知らされちゃって、それでもわたしの気持ちも知らないで 一人浮かれてるあんたに、無性に腹が立ったから、 困らせちゃえって、そんな軽い気持ちだったの」 「でも、おまえはミヨ吉のことが……」 「いつだったかな、言わなかったっけ。好きな人の近くにいられないなら……」 ――わかる気がする。どうしてそんなこと言ったのか ――でも教えない 眞一郎は思い出す。 比呂美が乃絵を紹介してほしいって言った時のこと。 それが実は友達になりたいからじゃなくって、それを見抜かれちゃったって、そう言ってた時のこと。 そして、そのことをあいちゃんに相談したときのこと。 昼下がりの、神社での出来事。 ――人って、だれかを好きになるとその人にもっと近寄りたいっておもうよね。もっともっとその人に。 ――でもそれがかなわないとき、その人のちかくにいるだれかのそばに…… だれかの、近く。 ミヨ吉の近くには、いつも誰がいた? そういう、ことなのか?なあ、あいちゃん。 眞一郎はそのことに気づき、愕然とする。 ――あんたみたいなやつを好きになった女の子、大変だよ あの言葉も、実はそんな思いが込められていたって? そんなこと、そんなこと、気づくわけ無いじゃないか。 「それで、あんたのこと困らせようって思って、 比呂美ちゃんの顔に告白されたら、やっぱり困るだろうなって思って、だから……」 ごめんなさい、とあいちゃんは続けた。 「傷ついたよね、あのとき以上に。ほんとにごめん、こんどこそ、わたしのせいだ」 あいちゃんの目から、どんどん涙がこぼれ落ちていく。 自分ばかりを責め続けて。でも、その涙は彼女も同じくらい傷ついたって意味で。 呆然とその涙を見送りながら、眞一郎はようやく言葉を返す。 「……ミヨ吉はそのこと」 「……知らないと思う。わたし、ミヨ吉にもほんとにひどいことしてるよね」 あふれ出る涙を、あいちゃんはぬぐおうともしない。 眞一郎は、こんなときどうすればいいのかわからずとまどうしかなかった。 「わかってるんだ、ひどい女だって。 あんなにわたしのこと好きだって言ってくれてるミヨ吉に、こんな秘密持ってたり。 今度のことだって、きっと神様がわたしにくれたチャンスだったんだはずなのに、 眞一郎のことはやくあきらめろって、そういうことだったと思うのに。 あんたとデートして、そこですっきり諦めればよかったのに、なのに……」 そうしてようやく、涙をいっぱいにためた二つの瞳を眞一郎に向けて、あいちゃんは言った。 「あんなこと言って、眞一郎にまで迷惑かけちゃった」 肩の少し上で切りそろえられた髪の毛と、私服のデニムスカートが海風にのせられてひらりと流れる。 眞一郎が見上げたその小さな体は、どこかで見たことのあるセーターにつつまれていた。 「お前、そのセーター……」 「やっぱり、気づくよね。そう、あのとき、買ったんだよ。あんたがトイレ行ってる間に」 それはきっと、眞一郎の取った何気ない行動の結果。 目の前の女の子の普段着に比べて、ちょっと地味すぎる服装。 そのとき眞一郎が誰のことを考えていたのか、そんなことは関係なく、 そのとき隣にいた女の子は誰かのためにその服を買った。 眞一郎が思っているより、そしてミヨ吉が思っているより、 それよりずっとずっと、安藤愛子は女の子だった。 普通に男の子を好きになって、それでも素直に気持ちをあらわせない、 ちょっと内気な女の子だった。 夕日は、しばらく前に沈んでしまった。 堤防にいる二人を残して、太陽は一足先に海に帰っていった。 「このセーターのこと、ほんとは気づいてほしくなかった。 気づかれたらばれるかもって、そう思ったから。 でも、でもね、わたし、あんたの前でもこのセーター着続けてた。 せっかく買っちゃったから着ないともったいないよね、とか、 寒いけど他に着る服もないし、金欠だし、とか、自分への言い訳はいっぱいあったけど、でもね、 心の底では、気づいてもらえたらって、思ってたんだと、そう思う」 ずるいんだ、わたしって。 そういってうつむくあいちゃんの表情は、どんどん暗くなっていく海辺の空気に隠されてはっきりとはわからない。 それでも、きっと涙でくちゃくちゃになってるんだろうってことくらいは、眞一郎にも想像できた。 何か言わなきゃ、この、目の前でいつも以上に小さく背中を丸めている女の子に。 そんな眞一郎の気持ちとは裏腹に、のどからはどんなに絞っても一言もこぼれてこなかった。 「あのね、お願いがあるんだ」 すっかり暗くなった堤防の上で、あいちゃんが言った。 「ああ、なんだよ」 それを聞いて、眞一郎が言葉を発する。 「えっとね、三つあるんだけど」 「三つか、多いな」 「ごめんね、わたしってばこんな時までわがままだから」 あいちゃんが自嘲する。 そうしてしゃがみ込んで眞一郎と同じ高さに目をおろしてきて、あいちゃんは言った。 「まず、一つ目。えっと、ミヨ吉には、ナイショにしててくれないかな。 わたしはひどい女だし、そのことはよくわかってるけど、 そのせいであいつに悲しい思いさせたくないから」 「お前……」 暗闇の中遠くの街灯に照らされて、この距離だとようやくあいちゃんの表情がわかる。 その顔は、やはり後悔と悲しみと、涙でしわくちゃにされていた。 「お願い。ちゃんとあんたのこと諦めるから、だから、お願い。 ミヨ吉、あいついい奴だから、わたしの都合で悲しんでほしくない」 わたしがひどい女だってのは変わりないけど、でもちゃんと諦めるから、 あいちゃんは必死になって頼み込んできた。 「わかったよ。お前がそれでいいなら」 だから、眞一郎は、そう答えるしかなかった。 そうだよな、いいんだよな、お前はそれで。 あいちゃんは一言、ありがとうと言った。 小さな声だった。 「次、二つ目。ちょっと、目を閉じてて」 「え、うん、わかった」 言われるままに、眞一郎は目を閉じる。 暗闇に染まった海の景色が、本当に真っ黒になる。 「ちゃんと閉じてるでしょうね、暗いからばれないだろって、目開けてたりしない?」 「するわけないだろ、そんなこと」 「そう、ありがとう。じゃあ、三つ目」 目を閉じさせた上で、なにかあるんだと思っていた。 でも何もなくて眞一郎が拍子抜けしていた、矢先だった。 頬に触れる小さくて、あたたかくて、冷たい手のひら。 そして、     唇に触れる、やわらかい感触。 いままで、ずっと、好きだったよ。 ありがとう、眞一郎。約束は、ちゃんと守るから。 これで、ちゃんと守れるから…… そう言ったあいちゃんの声はとてもちいさくて、 だからきっと、隣にいた男の子にしか聞こえなかっただろう。 それは、ちいさな女の子の、ながいながいかたおもいの、終わりを知らせる音。 いたずら好きの天使様が、彼女のために用意した、ちいさなおせっかいの物語が、幕を閉じた音。 波がしずかに、そしてやさしく、その音を包み込んで、消えていった。 ◆l5uYUz79nM 以上です。 特に最初の方ぐだぐだでごめんなさい。

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