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「truetearsVSプレデター2」(2008/03/26 (水) 20:20:40) の最新版変更点
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意外にも、怯える比呂美にかけられたのは暖かい厚手のコートだった。こんなにいい生地はみたことがない。
「目標と一次接触を持ったと思われる民間人を発見。処理を問いたい」
「詳しい情報を聞きたい。慎重に保護した後、厳重に監視せよ。しかし抵抗したら射殺も許可する」
全身をプレデターの通常視野に移らないようコーティングされたスーツで包んだ兵士がマスクの下で無線通話する。
大金のかかった任務中とはいえ、成功が確定した今、全裸の美少女をうまく料理する方法はないものか思案する。
もっともそんな会話も思惑も比呂美には伝わらないし、考えも及ばない。
「さぁ、立って。もう安全だから」
「・・・あ、ありがと・・・」
グチャッ。
比呂美が安堵した顔を上げると、すぐ眼前にその男の顔があった。
より正確には、マンホールから上半身だけ出したように胴体があったのだ。下半身とは別々に。
空気が凍ったのち、一瞬で氷解する。
「ぎゃあああああああっ!!!」
完全に焼け死んだと思われたプレデターが懐から円盤上のレイザー・ディスクを飛ばし、身を縛っていた網もろとも周囲の兵隊を、
バターのようにスライスした。屈んでいた比呂美はまさに幸運の一言。
「撃て撃てぇ!」
地面にトランポリンでも仕込んだようにプレデターが跳ね起きると、一番近くにいた兵士にダンプカーのように体当たりをかけ折り曲げる。
あっけにとられた左右の兵士に両腕から生えたリスト・ブレイドをぶち込むと、まだ息のある彼らを前後に掲げる。
「構わん!攻撃しろぉ!」
100キロはある兵士の楯が味方の放火で雑巾のようになる間にはプレデターが覚醒していた。
ブレイドを収納すると肉片をボールのようにブン投げて、運悪くブチ当たった兵士の肋骨をグチャグチャにする。
「ヴオオオオオンンンッッッ!!!」
プラズマキャノンを照準もあわせず前後左右に降り注いだ。武装チームが結集していたのが不幸、
そこいら中で灼熱の花火があがり、鉄は溶け、人が弾ける。車両は次々に爆発してアスファルトは剥がれる。
ガガガガガガガガガガ!
プレデターに戦車も貫く鉄鋼弾が雨のように降り注ぐ。当然その傍にいる味方にも。
黄緑の体液が全身を染めるが、大木のような巨体からは想像もつかない俊敏さで兵士を積み木のように薙ぎ倒し、
縮めていたスピアを解放すると団子のように人体を貫いては、あたりに撒き散らし死体の山を築いていく。
「グゥオゥオアアアアッ・・・!」
一瞬で混戦と化し、ミキサーの中のように肉と銃弾、液体と炎、悲鳴と金属音がぶつかり合って弾き飛ぶ。
その中心にいる刃は宇宙の狩人だ。しかし重症を負った肉体の疲労は蓄積され、地上と空からの包囲網を突破できずにいた。
一方、比呂美は戦場が奏でる轟音のハンマーで鼓膜が割れそうになりながらも、火の海、血の海、死体の山の戦場を
トカゲのように這いずり回っていた。全身は擦り傷と火傷でボロボロだが、手足が?がれても今は気付かなかっただろう。
燃え、砕け、ドロドロに溶けた屍に怖がる暇もない。とにかく安全な場所を探していると、レイプ集団の乗ってきたバンが目に留まった。
(あれだ!)
死体と瓦礫の丘を超えるのに四苦八苦していると、最後に闘った男が使っていた金属バットが手の届くところにあったので、
それを使って邪魔な肉塊や鉄くずを壊して進んでいく。
(車を運転できる?大砲で吹き飛ばされるかも?そもそも壊れてない?)
不安に限りはないが、といって選択肢があるわけもなく、
たかだか10数メートルを万里の長城でも渡った気持ちで(行ったことはないが)ようやくバンまで辿りついた。
頭上を銃弾が行き来しているのに、立ち上がるのはギロチンの振り子の間から首を出す心境だったが、
思い切ってジャンプするように運転席に飛び込んだ。ドアを開けたまま車から降りたレイプ犯に比呂美は心中で礼をいった。
ギアを直し、キーを回してエンジンを始動させる。ホラー映画だと直ぐにはかからないものだが、幸い心配はなかった。
運転席からこっそりと覗くように周囲を伺い、アクセルに足をかける。
(おねがい・・・うまくいって!)
ギュッウゥゥ!!!
当然比呂美は世界中から押し潰されたような圧力を感じた!脳に血液が回らず、肺に酸素が届かない。
目を一杯に見開いてあちこち泳がせると、バックミラーが事態を教えてくれた。
助手席に置いた筈の金属バットが自分の首に添えられ、それを座席の後ろから伸びた太い腕が両端から後ろにひぱって、
全力で比呂美を絞殺しようとしていたのだ。
「ひひひひひひひひいひひい」
レイプ集団の中で唯一比呂美と直接肌を合わせ、睾丸を潰されて失神していた男だった。
病院で治療を受けるべき損傷を負った筈だが、周囲の喧騒に半分起こされた形で、運転席にいた比呂美を見つけ、
狂乱したままに襲い掛かってきた。まともな思考だったら、一旦水に流して共に逃走を図っただろうがそんな希望はなかった。
「がっ・・・はっ・・・こっかっ、・・・っっ!」
比呂美の手が虚空を引っかき、下半身が浮きあってフロントガラスをがむしゃらに蹴り上げる。
座席を挟んだ後方から締め上げられては、百年経っても手は届かない。
ガチャンッ
眞一郎の母が受話器を置く。比呂美を使い先に出した顧客から、彼女の対応を褒める電話を受けたのだ。
途中で急に切れてしまったが、何か急ぎの用事でも入ったのだろう。かけ直す気もない。
しかし連絡どおりなら比呂美はもうとっくに戻っていい時間である。
(馬鹿な子・・・。車で送ってもらえばいいのに)
そしたらそうで何かしら野次るのだが、そんな省みる真似はしない。
まさか眞一郎と逢引でもと勘繰ったが、息子は部屋でウンウンと唸って何か励んでいるらしい。思春期はいろいろだ。
「全く・・・世話のかかる・・・」
自分では気付かぬほど焦りながら上着を羽織ると、こっそりと戸口を開け、車を出す。
夫は酒蔵で熱心に作業中で気付く気配もない。言っておくべきだと思ったが、
(どうせ私を困らせようとしてるのよ)
刻限を破るような子ではないと分かっているが、不審が先立って正常な判断を妨げていた。
「あ、ちょっとあなた。少し付き合ってくれない?」
仕事の上がった酒蔵の少年の坊主頭が目についたので声をかける。男手ならこの程度で十分だろう。
「え、あの、ダメですよご主人の前でそんな」
「バカね、いいから乗りなさい」
「不味いな・・・。あと3分で片付けろ。でなきゃ撤退だ、人生からもな」
プレデターの射程範囲外から状況を観測しているユタニ実働部隊の指揮官は毒づいた。
既に物質的にも人的にも被害は数百億を下らない損害を出している。
無論目標さえ捕らえてしまえば、その損失は帳消しにして余りある、生涯使い切れない報酬が約束されるが、
さもなきゃクビでは到底済まない。この世の地獄で朽ちて果てようというものだ。
行くも地獄、戻るも地獄。潜った先にある極楽には未だ届かない。
「化け物が・・・っ何故死なん?」
付近一帯にジャミングと停電、交通規制、周到な情報操作をかけて人手を払っているが時期限界になる。
だが宇宙ハンターをここまで追い詰めたのは初めてだ。この機を逃せば余命までにまたチャンスが来るとは思えない。
一方で、追い詰められた獣が大規模な原子爆発を起こすというのは重要な注意事項だった。
まぁこのまま逃げられるくらいならいっそ全て灰になってもらうほうが、事後処理もせずにいいというものだ。
もちろん自分たちは安全圏まで離脱した後だが。
「近隣の住民は災難だな」
あとコンマ数秒で比呂美の脳が走馬灯に入ろうというとき,それでも脱出方法を探ることを諦めなかった。
兵隊から貰った高級コートのポケットを無我夢中で漁り、広げ、かき回して‘それ‘を掴む。
グチュッ
「ずぅうっ!」
プレデターから贈られたライフルの弾丸を見つけると、
バットを握り締めた男の手甲に先端を添えて、その上から手を重ねて握り締め突き刺したのだ。
が、相手もアドレナリンが分泌されてるせいで、苦痛をものともせずに締め上げる。
「ふっ!」
しかし、それで十分。意思とは関係なく、力が弱まった隙に体を前に倒し、僅かに椅子に沈み込む。
強靭な圧迫から逃れるには至らないが、指先がやっと座席の傾斜レバーに届き前後構わず引っ張った。
ガクンッ
急に椅子が倒れたので相手も力のまま後方にのけぞって尻餅をつく。が、それでも男は比呂美の顎にかけたバットを外さない。
その勢いで比呂美は舌を噛みそうになったが、なんとか奥歯をかみ締めて踏みとどまる。
そして相手が上から覆いかぶさって体重をかけようとするより速く、指先を刀のようにピンと伸ばして、
男の手首の付け根の骨を斬るようにして、叩いた。
「っぐ!?」
衝撃で腕から力が抜けバットから指が離れる。その期を逃さず、比呂美は首の下から肘を入れてバットを掴むと一気に奪った。
そして寝転がった状態のままバットを縦に握りなおすと、顔面に拳が落とされるより速く、傘をさすようにバットを真上、
重力からすると横に向かって突き伸ばし、男の鼻と前歯を砕いたまま吹き飛ばす。
「ぷっぶぅっっ!!」
寝転んだ状態の戦闘なら既に経験済みだ。鼻血と唾液が降り注ぐのをかわしひっくり返って膝立ちになると、
男が反撃に出した左フックを薙刀のようにバットで防いで、その柄で顎を抉る。
「ごぁっ!」
続く反撃も矢継ぎ早に防いではその度に金属バットをバトンのように回して、男の急所を次々と痛めつけていった。
狭い車内における戦闘も経験済みであり、比呂美は高度な身体操作で体力差を圧倒していた。
「ごっ、ひゃあっ、げぇ・・・、も、もうゆる、許してぇ、ひいい」
いくら殴りかかろうと比呂美に指一本触れられず、全身を釘で刺されたような激痛で覆われ、
醜い痣で膨れるに至って男は降参する。親に叱られた少年のように丸まって命乞いするがもちろん比呂美は容赦しない。
「げっっっ!!!」
もはや比呂美は因縁などどーだって良くなっていたが、生かしといて+になるとも思えないので、
丸まった背中から突き出た背骨に向かってバットを振り下ろすと、胸椎が肉から見えるほど殴りつけ、
失禁した男を不法投棄でもするように車から蹴落とした。殺す気も起きない。
「ふぅ・・・」
チュンッ
前を向いて一息ついたとき、ビニールが破れるような音がした。
お腹の辺りが急速に温かくなってきたので、咄嗟に手を添えてそこに目を向けると黒いのか赤いのか分からない水が滴っている。
ふと伝説的刑事ドラマの伝説的俳優の伝説的殉職シーンがよぎる。
よもやこの死地に至ってさえ、自分はこの事態を想定していなかった。いや、受け入れていなかったのだ。
「う・・・うぅ、う~~っ」
現実に、耐え難い事実に対して比呂美は張り裂けるような怒りと悲しみを抑えきれず唸った。
唇を噛み切らんばかりに閉め、ただ唸るしかなかった。
どこから迷い込んだのか知れぬ一発の弾丸が脇腹を通り抜け、比呂美の血液をトクトクと外に零していた。
「あぁ、・・・お、奥さん、オ、オレもぉ、・・・もぉ駄目です!」
腰まで捲り上げられたスカートから伸びる白い太股が蛇のように腰を絡めてリズムよく上下に揺れる。
「しっかりなさい!あんっ、そんなことで・・・うちの仕事が、んっ、・・・勤まるとぉ・・・思ってるの!」
彼女の平手が勢いよく少年の頬を叩く。そして紅く腫れ上がった頬に舌をべったり這わせ唾液を塗りたくる。
「だ、だってぇ、・・・もう3回も・・・、あぅっ、枯れちゃいますよぉ」
上着から飛び出した白桃のような乳房の片方をを少年の顔で押し潰すと、その薄黒い先端を舐めるように誘導する。
「そうよ・・・もっと強く吸って、・・・はぁあ・・・千切れるように」
彼女の胎内が若い肉棹にきつく吸い付き、掃除機のようにグイグイと引き込むと、
たまらず少年の手が女性の背中を引っ掻きまわし、暴れるように腰を引いて、喰いつかれるのから逃れようともがく。
「もっと・・・もっと耐えなさいっ!・・・あぁんっ!」
結合部からは肉が擦れ合うが音がパンパンと響き、愛液と精液が交じった水溜りが溢れてグッチョリと太股を汚す。
比呂美を探しに夜の闇に出た眞一郎の母と酒蔵の少年だったが、途中で急な交通規制に遭い、
しばらく揉めたものの、ガードマンが軍人のように筋骨逞しい大男だったこともあってやむなく引き返したのだ。
伺う限りでは比呂美は通らなかったようだし、この人の多さなら何か事件があったということもないだろう。
天候の影響か携帯もカーナビも通じず、付近が都合よく停電だったこともあって、
暗い路肩に停車するとたちまち狭い車内での淫らな交合、はやくいえばカーセックスへなだれ込んだ。
今夜が初めてではない。というより少年は予期していたし、女も暗に期待していた。
「全く・・・んんぅっ、つくづく・・・あっ・・・使えない子ねぇ!眞ちゃんなら・・・きっと・・・あんっ!」
劣勢だった少年が突如、女性の柔らかい尻に指を食い込ませ、ムニムニとこね回しながら、
ロデオのように腰を振り上げ、子宮を突き上げる。技と力の合わさったダイナミックなテクニックだ。
(オレが!オレがあんなフラフラしたフリーター予備軍の七光りエロゲー小僧に負けるかよ!)
決して口には出せぬ叫びを熱き男根に込めて、猥らな口に叩きつける。
「なに?眞ちゃんと・・・あっ、比べられて・・・っ、悔しいの?ほんとに子どんんっっ!」
それ以上は許さぬと唇を重ねて繋ぎとめる。捩る首を押さえつけ、喉奥まで舌を入れると、
唾液をたっぷり流し込んで、吐き出そうと伸びた舌を軽く噛んで飲み込み、ディープキスを強制する。
(覚悟もなく!道理もなく!己の欲望のままに親の金を使い、女の優しさに溺れる!
それが仲上眞一郎の限界!だからこそ、奥さんはオレのものだあああぁぁぁ!!!)
最初に眞一郎の母親から関係を強要されたのは彼が中学に上がる少し前だ。
はじめは性への興味と熟れた美貌の魅力から、やがて事の重大さが分かっても、
奉公先という上下関係に逆らえぬままに、また過ちを重ねた。
しかし、そうして毎日影に隠れ肌を重ねてくうち、彼女の瞳が自分を通して何かを見つめていることに気付く。
ひとつの事実に気付けば、あとは糸を手繰るようにして簡単に真実が浮き上がってきた。
いたいけな少年への肉欲など及ばぬ罪、禁じられた恋心がそこにはあった。
彼女が息子を見つめるときの哀しく、しかし艶かしく濡れた瞳をみたとき、
その情欲が決して適わぬこと、それを年近い自分に重ねていることに気付いたのだ。
そうして初めて彼女を上司でも、母でも、女でもなく、一個の恋に身を焦がす可憐な少女として遠くから見たとき、
感情的で過保護なだけの小うるさいセックスだけの付き合いだった女性の別の側面が見えてきた。
不器用になってしまう優しさ、意固地なばかりのプライド、裏目に出てしまう気遣いの数々がどれも溶けるように可愛いかった。
髪を上げるときの薬指、振り返ったときの首筋、困ったときの眉根に胸が歌うように高鳴った。
ほぼ同時に自分とは別モノとして意識もしなかった坊ちゃん、眞一郎に腹が煮えてきた。
愚鈍にして勘違い、優柔不断で視野狭窄、周囲の愛情に気付かずひたすら恩人を翻弄し、不幸に染める呆れた軟弱。
彼が幾人かの少女からの好意に懊悩していることはなんとなしに知ってはいたが、
少年から言わせれば全て眞一郎の不甲斐がなせる惨状、無能極まる小人の、それすら認められぬ大罪だ。
母の想いに気付けなどという無茶はいわんが、どうせ結果は決まっているのに、矮小な精神をひたすら守らんがために、
自他共に言い訳を重ね、いたいけな少女たちの魂を混迷させ、浪費するなど男子の風上にもおけぬ。
「あんっ・・・!今日は・・・くっ・・・激しいわっ!ねぇ、んっ、んんっっ、んああああああぁぁぁぁ!!!」
少年は女性の胎内に秘めたる滾る愛情と憎しみを解き放った。
「救護班ーっ!救護班ーっ!」
「いでぇえええええ!だずげでぐれええ!」
「ここだぁぁぁ!だれかぁぁぁぁぁ!!!」
硝煙と銃弾の立ち込める闇の中で絶え間なく悲鳴が続き、禍々しい合唱を奏でていた。
皮膚は爛れ、肉は裂け、骨が露出してなお、死ぬこともできず苦痛に苛まれる兵士たち。
かれらの助けを請う呻きを無視して、新たな兵力が突入してくる。
「どこだぁあああ!!このクソッタぐあっ!?」
サクッ
空間を切り裂いたように、なにもない場所からスピアが現れると、怒声を撒き散らす兵士の両眼を削った。
「うわぁああああ!ちくしょおおおお!!!」
光を奪ったプレデターは錯乱した男を味方に向け突進させると、再び瓦礫の隙間に沈む。
シュバァッ
遠くから狙撃の体勢を図っていたスナイパーの胸をプラズマキャノンで風通しよくする。
シュカァッ
空けた場所で待ち伏せていた集団の真ん中にレイザーディスクを送り、背を低くしてやる。
グチャッ
地面に転がる負傷兵を泥のように踏み潰す。
「ぎゃあぁぁああああ!!!」
幅の広い道路にユタニの装甲車両が幾重にもバリケードを築き、整然とした包囲網を敷き詰めてもなお、
プレデターは的確に狩りを進めていた。
高所や遠距離からの攻撃には灼熱のビーム、中距離には鋭利な円盤、傍にくるものは槍で叩き、両椀の剣で刻んでやる。
恐れをなして逃げた者の先には透明なワイヤーと破片を切り出したギロチンの罠が待っている。
激しく炎を絡め、鉄を振り、冷静に血を抜き、肉を分けていく作業はさながら名シェフの調理場のようだ。
大切なのはそこそこに殺すことだ。そこそこに。
半死の兵隊の終わらない悲鳴と傷跡は、これから来るものたちの心に恐怖を撒き散らす。
心理効果だけでなく、泣き声は忍び寄る足音を隠し、腐臭は強い体臭を打ち消す。
地に転がる負傷者そのものも巨体を誇るプレデターにとってはぬかるみ程度だが、
人間には足を滑らせ、車両を躓かせ、行く手を遮る沼となる。
プレデターは逃げ回るように見せて、破壊された車両と人間を捏ね混ぜて壁を建て、深い迷路を作っていた。
迷い込んだ者の光と音を遮り、動きを封じ、痛みを引き伸ばす堅牢で邪悪な要塞だ。
ユタニの特殊兵士たちも紛れないエキスパート、勝ち抜いてきた一流だったが、人間相手の殺し屋である彼らと、
生まれながらの捕食獣、狩人、戦士であるプレデターとでは生物としての格が違う。
脅威の運動能力と人間心理まで計算した巧みな攻防に、兵士たちは翻弄されるしかなかった。
だがそれでも、プレデターの不利は変わらない。
戦闘が続けば体力は消耗し、武器も疲弊し、長引くほどにより蓄積される。
続々と新しい兵力が投入されるなかでは、傷を癒す暇もない。
次第に足腰は衰え、砲の出力は弱まり、刃は零れていく。
「グウオオオオオオオオオオオオッッ!!」
それでも生ある限りは生を奪わんと大気の震えるような咆哮で己を鼓舞し、敵を戦慄させる。
未だ死んではいないのだ。自分も、そして彼女も。
ドンドンドンドンッ!
「比呂美ー!比呂美ー!」
石動と書かれた戸を何度も叩き、声も枯れんばかりに叫ぶ。
母が車を出した音に気付いたことがきっかけで、家のどこにも彼女がいないこと、
どれほど待てども彼女が戻らないことに焦った眞一郎は、自転車ひとつで飛び出したのだ。
「・・・今何時だと思ってる」
髪もパジャマも顔もクチャクチャにして、不快感を隠そうともしない石動純が戸を開ける。
誰が来たかは分かっている。こんな近所迷惑甚だしい無礼者は妹を除けば一人しかいない。
「あの女はいない」
「比呂美が来てるんだろ!?どこにいるんだ!」
仲上眞一郎はそんな態度も気付かず、食いつかんばかりに詰め寄って、家のなかに入ってくる。
自転車を玄関に横倒しにし、寝巻きの上からジャケットだけ羽織って、息も絶え絶えで駆けてきたのが伺える。
「出て行け」
額を歪ませて吐き捨てると、感情そのままに眞一郎を押し出して戸を閉める。
「ま、待ってくれ!随分前に出たきり帰ってこないんだ。何か、何か知らないのか?なぁ!」
構わず戸に張り付きながら眞一郎は問う。二度と見失うわけにはいかないのだ。
「・・・こっちは本当に忙しいんだがな、おまえらのおかげで」
これ以上騒がれるならと、ウンザリした表情で純は眞一郎を家に入れる。
ただでさえ肩身の狭い家庭なのだ。夜の夜中に女がらみで大騒ぎなど、近所の恰好の噂だ。
万が一にも学校や世間の心証を損ねないためにも、品行方正な生活が望まれるというのに、
どうしてこう恥知らずな輩ばかり絡んでくるのか。
「乃絵が寝てるから静かにな。それとも・・・本当は夜這いに来たか?俺はその辺を一回りしてくっ!」
玄関口で純が零した悪意の冗談に眞一郎が掴みかかる。
「こっちは本気なんだ!母さんも探しにいったきり戻らないし・・・ぐぁっ?」
純が襟首を掴んでいた眞一郎の手首を捻り上げると、不自然な方向に間接を曲げ押さえつける。
「なんでここに来てるんて考えたんだ?こっちはあのトラブルメーカーのせいで・・・関わりたくもない」
痛みにたまらず眞一郎は膝をつきながらも訴える。
「け、携帯も通じないし・・・、あちこち急に道路封鎖してて、きっと何か・・・トラブルにっ!」
純は憮然としたまま、体を後ろに折り曲げて耐える眞一郎を突き飛ばして解放する。
「どこかで股でも開いてるんだろう。あれは好きモノだからなぁ兄さん?」
胸をつららで刺されたように眞一郎の顔が青ざめる。
「まだ寝てないのか?じゃあ初めてっていうのは・・・本当だったんだな、くくっ」
「おまえぇ!」
怒りで心臓を焼かれた眞一郎が飛び掛る。が、合わせて跳んできた純のつま先が腹にカウンターで突き刺さった。
「ゲェフッ!ぐぅああ!」
夕食の中身を廊下に戻しながら眞一郎がバタバタとのた打ち回る。その頭を踏みつけながら純が嗤う。
「きったないなぁ・・・ほら、ちゃんと綺麗にしてくれよ?坊・っ・ち・ゃ・ん☆」
眞一郎の頬を床にゴシゴシと擦り付けて、無理やりに吐しゃ物を拭わせていく。
「あっちから誘ったのに怒るのは筋違いだな。そういえばスポーツやってる子が締まりがいいって知ってたか?」
足を引き剥がそうと伸ばされた指を踵で踏みつけ、頭を転がすと喉をつま先の指で押さえつけて息をさせない。
「真面目な子ほどなんとやらってな。動物園の猿のようにキーキー啼いて乱れて・・・」
もがく眞一郎のこめかみをサッカーボールのように蹴り上て吹き飛ばし、狭い玄関先にすっ転がす。
「なかでもあれは格別だったけどな、並べて比べたから本当だよ」
固い靴箱の角に眞一郎の額がぶつかって割れ、ドクドクと流れた血が歌舞伎のように顔を染める。
「あーらら・・・やっちゃたか」
蹲る眞一郎を侮蔑すると、純は洗面台から水で濡らしたタオルを持ってきてその顔に落とす。
「ここにいないのは本当だ。手がかりもない。手伝う気もない。分かったら帰ってくれ」
竜巻に上げられたように眞一郎は純に投げ飛ばされると、石動邸前の道路を飛び越えて電柱に激突し、
そのまま収集日を守らないゴミ袋の山に落下した。
「ぐぇっ・・・」
生ゴミのクッションで助かったもの、背中には赤紫色の痣が何ヶ月も残るだろう。
しばらくは独特の悪臭と感触にも気付かないまま、腹なり顔なり背中なりの痛みが五体を征服していて、
考えることもままならず丸くなって呻いていた。
(こんな遅くに女がらみで押しかけるのは非常識だったか・・・)
普段の純からおよそ常軌を逸した行動は、まともな暴力に触れたことのない眞一郎に体ばかりでなくショックであった。
(親友ってこともないが、そこそこ繋がりもあったのに・・・どうやらそれも失っちまったらしい)
三代吉や愛子にもそうだが、自分の鈍感は随分ひとを傷つける。となればこれは相応の報いというべきか。
結局、手がかりどころか痛手まで負わされて痛みと後悔の海に浸っていると、頭上から涼やかな声がした。
「そんなとこで寝れるなんて意外と逞しいのね」
「おまえ・・・寝てたんじゃないのか」
石動乃絵。たった今、手酷く自分を痛めつけて追い返した美男子の妹にして、学内きっての変人。
「どこかの常識知らずさんが押しかけるまではね」
人に見られる恥ずかしさから逃れるため、眞一郎は動かすたびに悲鳴を上げる全身を無視してゴミ山から這い出る。
「ぐっ・・・わ、悪かったなぁ・・・ごほっ!」
フラフラとしつつも立ち上がるゴミまみれの少年。皮肉にも純のくれた濡れタオルで汚れた顔や手を拭っていく。
「・・・ごめんなさい」
頭痛と耳鳴りではっきりしない眞一郎にはよく要領を得られない。
「え?あ、あぁ、イツツッ!」
乃絵も別に受け答えは期待してなかったようで話題を切り替える。
「──で、眞一郎はこんな夜更けに湯浅比呂美がいなくなったから探してるのね?」
ゴクリッ
「ん?あ、ああ。母さんも探しに出たみたいだけどずっと戻らないし、携帯も通じないんだ」
「それで、ここにいると思って来たけど、ここにいなかった」
「・・・ごめんな」
「で、どこにいると思う?」
無根拠にここしかないと勝手に決め込んでいたから他に考えもしなかった。
「さぁ・・・えと、友達のとことか?きっとバスケ部の朋与のとこか、もしかして‘あいちゃん‘かも。
ひょっとしたら母さんともう会っててどこかで説教食らってるか・・・」
実際はレイプ集団と殺し合いを演じた挙句、宇宙ハンターと私設軍隊の抗争に巻き込まれて生死の境を彷徨っていた。
などと知る由もない眞一郎の話をじっと聞いていた乃絵は、少し沈黙したまま暗い夜空の向うに眼を向けた。
遠くの彼方で微かに光が瞬くが、地下の送電線の緊急修理という名目で交通封鎖をしているので誰も疑問は抱かない。
「そうね・・・多分、全部外れ。だから一番ありえない・・・ううん、あってほしくないと思うアテを探せばいい」
振り絞った答えをおざなりに否定されたうえ、不明瞭かつ不快な答えに、なんだか腹が立ってきたが、ふと雷轟丸のことが浮かぶ。
あの無鉄砲な黒い羽の最期にはどういった伏線も予報もなく、ただ結果のみが横たわっていた。
となると、この暗闇で影さえ掴めない比呂美にも同じことが起こっている、ということなのか。
ただの偶然、運のツキ。こちらがいくら注意を払っても拭えない現実の隙間に落ちてしまったのならば、どうすればいい?
「どうすればいい?」
「さぁ、私には分からない。でも眞一郎にはきっと分かる」
なんという謎かけか。自分には出来ないといってどうして俺には出来る!?
「どうして!?」
乃絵の瞳が眞一郎を捉えて、煌くように微笑む。
「あなたが彼女を探しているから。どんなに離れていても、想い続ける限り仲上眞一郎と湯浅比呂美の絆は切れないわ」
澄んだ明快な言葉で、彼女は続ける。
「きっと見つかるわ。あなたの足がそこに向かっているのだから」
不安で曇っていた胸のうちに風が吹きぬけた心地になる。
探すしかないのだ。それはきっと自分にしかできないし、ほかにできることもないのだから。
「わかった!ありがとな!」
一旦気持ちが奮い立つと、これ以上の長居は無用とばかり、自転車を立て、よろめく足を踏ん張って駆け出した。
外灯に導かれるように奔っていく眞一郎を静かな笑顔で見送った乃絵は、その背中が見えなくなるとそっと呟く。
「・・・でも、探すことを諦めたら見つからない。どんなに傍にいても絶対に・・・」
つづく
,. - 、 〈〉 毎度ようこそのお運びで厚く御礼申し上げます。
彡`壬ミ || ttパロ書きプレデターでございます。
用ノ哭ヾ二=G <
〈_〉〉=={ || 保守及び新作投下し易い空気を作るためだったのに、
{{{.《_甘.》 || 現行連載最古にして今スレ最長になってしまった「truetearsVSプレデター」。
{_} {_} || おかげで記念すべき‘20‘まで到達。今回は総集編です。
ム' ム
スルーしてたあなたもこれだけ読めば安心!
概要・・・truetearsにプレデターがきたら、というお話。の筈が、もはやプレデターの世界にttが来てる。
あらすじ・・・ある晩比呂美はレイプ集団に襲われる。恐怖の中覚醒した比呂美は、彼らを返り討ちにする。
彼女に敬意をもってプレデターが現れるが、それを追って大企業ユタニの私設軍も登場。
果たして比呂美とプレデターの出会いは何をもたらすのか。
各話紹介
430 ある晩、お使いに出た比呂美は大学生レイプ集団に路上拉致される。
433 一度は屈した比呂美だが、突如反撃にでる。
435 瞬く間に5人を葬り、ついに1対1に。
438 敵の男もとうとう本気になってきた。
441 一進一退の攻防が続くが、男のパワーに叩き潰される比呂美。危うし!
446 危機一髪、少女は生き残る。しかしそれもつかの間、プレデターが現れた!
457 おわり
466 やはり続く。プレデターとしばし心を通わせる比呂美。
479 メタネタ。いみはない。
485 プレデターに襲い掛かる大企業ユタニの戦術部隊。
487 富山が戦場となる。
488 逃げようとする比呂美を襲うレイプ集団の生き残り。
489 だが修羅場をぬけてきた比呂美の敵ではなかった。しかしその直後、比呂美の脇腹を銃弾が抜けていった。
496-497 カーセックスに励む丁稚とママン。
527 頑張るプレデター。
534 比呂美を探す眞一郎は4番のところに押しかけるが、からかわれて追い返される。
567-568 乃絵は眞一郎を励まし、道を示す。
前[[truetearsVSプレデター2]]
意外にも、怯える比呂美にかけられたのは暖かい厚手のコートだった。こんなにいい生地はみたことがない。
「目標と一次接触を持ったと思われる民間人を発見。処理を問いたい」
「詳しい情報を聞きたい。慎重に保護した後、厳重に監視せよ。しかし抵抗したら射殺も許可する」
全身をプレデターの通常視野に移らないようコーティングされたスーツで包んだ兵士がマスクの下で無線通話する。
大金のかかった任務中とはいえ、成功が確定した今、全裸の美少女をうまく料理する方法はないものか思案する。
もっともそんな会話も思惑も比呂美には伝わらないし、考えも及ばない。
「さぁ、立って。もう安全だから」
「・・・あ、ありがと・・・」
グチャッ。
比呂美が安堵した顔を上げると、すぐ眼前にその男の顔があった。
より正確には、マンホールから上半身だけ出したように胴体があったのだ。下半身とは別々に。
空気が凍ったのち、一瞬で氷解する。
「ぎゃあああああああっ!!!」
完全に焼け死んだと思われたプレデターが懐から円盤上のレイザー・ディスクを飛ばし、身を縛っていた網もろとも周囲の兵隊を、
バターのようにスライスした。屈んでいた比呂美はまさに幸運の一言。
「撃て撃てぇ!」
地面にトランポリンでも仕込んだようにプレデターが跳ね起きると、一番近くにいた兵士にダンプカーのように体当たりをかけ折り曲げる。
あっけにとられた左右の兵士に両腕から生えたリスト・ブレイドをぶち込むと、まだ息のある彼らを前後に掲げる。
「構わん!攻撃しろぉ!」
100キロはある兵士の楯が味方の放火で雑巾のようになる間にはプレデターが覚醒していた。
ブレイドを収納すると肉片をボールのようにブン投げて、運悪くブチ当たった兵士の肋骨をグチャグチャにする。
「ヴオオオオオンンンッッッ!!!」
プラズマキャノンを照準もあわせず前後左右に降り注いだ。武装チームが結集していたのが不幸、
そこいら中で灼熱の花火があがり、鉄は溶け、人が弾ける。車両は次々に爆発してアスファルトは剥がれる。
ガガガガガガガガガガ!
プレデターに戦車も貫く鉄鋼弾が雨のように降り注ぐ。当然その傍にいる味方にも。
黄緑の体液が全身を染めるが、大木のような巨体からは想像もつかない俊敏さで兵士を積み木のように薙ぎ倒し、
縮めていたスピアを解放すると団子のように人体を貫いては、あたりに撒き散らし死体の山を築いていく。
「グゥオゥオアアアアッ・・・!」
一瞬で混戦と化し、ミキサーの中のように肉と銃弾、液体と炎、悲鳴と金属音がぶつかり合って弾き飛ぶ。
その中心にいる刃は宇宙の狩人だ。しかし重症を負った肉体の疲労は蓄積され、地上と空からの包囲網を突破できずにいた。
一方、比呂美は戦場が奏でる轟音のハンマーで鼓膜が割れそうになりながらも、火の海、血の海、死体の山の戦場を
トカゲのように這いずり回っていた。全身は擦り傷と火傷でボロボロだが、手足が?がれても今は気付かなかっただろう。
燃え、砕け、ドロドロに溶けた屍に怖がる暇もない。とにかく安全な場所を探していると、レイプ集団の乗ってきたバンが目に留まった。
(あれだ!)
死体と瓦礫の丘を超えるのに四苦八苦していると、最後に闘った男が使っていた金属バットが手の届くところにあったので、
それを使って邪魔な肉塊や鉄くずを壊して進んでいく。
(車を運転できる?大砲で吹き飛ばされるかも?そもそも壊れてない?)
不安に限りはないが、といって選択肢があるわけもなく、
たかだか10数メートルを万里の長城でも渡った気持ちで(行ったことはないが)ようやくバンまで辿りついた。
頭上を銃弾が行き来しているのに、立ち上がるのはギロチンの振り子の間から首を出す心境だったが、
思い切ってジャンプするように運転席に飛び込んだ。ドアを開けたまま車から降りたレイプ犯に比呂美は心中で礼をいった。
ギアを直し、キーを回してエンジンを始動させる。ホラー映画だと直ぐにはかからないものだが、幸い心配はなかった。
運転席からこっそりと覗くように周囲を伺い、アクセルに足をかける。
(おねがい・・・うまくいって!)
ギュッウゥゥ!!!
当然比呂美は世界中から押し潰されたような圧力を感じた!脳に血液が回らず、肺に酸素が届かない。
目を一杯に見開いてあちこち泳がせると、バックミラーが事態を教えてくれた。
助手席に置いた筈の金属バットが自分の首に添えられ、それを座席の後ろから伸びた太い腕が両端から後ろにひぱって、
全力で比呂美を絞殺しようとしていたのだ。
「ひひひひひひひひいひひい」
レイプ集団の中で唯一比呂美と直接肌を合わせ、睾丸を潰されて失神していた男だった。
病院で治療を受けるべき損傷を負った筈だが、周囲の喧騒に半分起こされた形で、運転席にいた比呂美を見つけ、
狂乱したままに襲い掛かってきた。まともな思考だったら、一旦水に流して共に逃走を図っただろうがそんな希望はなかった。
「がっ・・・はっ・・・こっかっ、・・・っっ!」
比呂美の手が虚空を引っかき、下半身が浮きあってフロントガラスをがむしゃらに蹴り上げる。
座席を挟んだ後方から締め上げられては、百年経っても手は届かない。
ガチャンッ
眞一郎の母が受話器を置く。比呂美を使い先に出した顧客から、彼女の対応を褒める電話を受けたのだ。
途中で急に切れてしまったが、何か急ぎの用事でも入ったのだろう。かけ直す気もない。
しかし連絡どおりなら比呂美はもうとっくに戻っていい時間である。
(馬鹿な子・・・。車で送ってもらえばいいのに)
そしたらそうで何かしら野次るのだが、そんな省みる真似はしない。
まさか眞一郎と逢引でもと勘繰ったが、息子は部屋でウンウンと唸って何か励んでいるらしい。思春期はいろいろだ。
「全く・・・世話のかかる・・・」
自分では気付かぬほど焦りながら上着を羽織ると、こっそりと戸口を開け、車を出す。
夫は酒蔵で熱心に作業中で気付く気配もない。言っておくべきだと思ったが、
(どうせ私を困らせようとしてるのよ)
刻限を破るような子ではないと分かっているが、不審が先立って正常な判断を妨げていた。
「あ、ちょっとあなた。少し付き合ってくれない?」
仕事の上がった酒蔵の少年の坊主頭が目についたので声をかける。男手ならこの程度で十分だろう。
「え、あの、ダメですよご主人の前でそんな」
「バカね、いいから乗りなさい」
「不味いな・・・。あと3分で片付けろ。でなきゃ撤退だ、人生からもな」
プレデターの射程範囲外から状況を観測しているユタニ実働部隊の指揮官は毒づいた。
既に物質的にも人的にも被害は数百億を下らない損害を出している。
無論目標さえ捕らえてしまえば、その損失は帳消しにして余りある、生涯使い切れない報酬が約束されるが、
さもなきゃクビでは到底済まない。この世の地獄で朽ちて果てようというものだ。
行くも地獄、戻るも地獄。潜った先にある極楽には未だ届かない。
「化け物が・・・っ何故死なん?」
付近一帯にジャミングと停電、交通規制、周到な情報操作をかけて人手を払っているが時期限界になる。
だが宇宙ハンターをここまで追い詰めたのは初めてだ。この機を逃せば余命までにまたチャンスが来るとは思えない。
一方で、追い詰められた獣が大規模な原子爆発を起こすというのは重要な注意事項だった。
まぁこのまま逃げられるくらいならいっそ全て灰になってもらうほうが、事後処理もせずにいいというものだ。
もちろん自分たちは安全圏まで離脱した後だが。
「近隣の住民は災難だな」
あとコンマ数秒で比呂美の脳が走馬灯に入ろうというとき,それでも脱出方法を探ることを諦めなかった。
兵隊から貰った高級コートのポケットを無我夢中で漁り、広げ、かき回して‘それ‘を掴む。
グチュッ
「ずぅうっ!」
プレデターから贈られたライフルの弾丸を見つけると、
バットを握り締めた男の手甲に先端を添えて、その上から手を重ねて握り締め突き刺したのだ。
が、相手もアドレナリンが分泌されてるせいで、苦痛をものともせずに締め上げる。
「ふっ!」
しかし、それで十分。意思とは関係なく、力が弱まった隙に体を前に倒し、僅かに椅子に沈み込む。
強靭な圧迫から逃れるには至らないが、指先がやっと座席の傾斜レバーに届き前後構わず引っ張った。
ガクンッ
急に椅子が倒れたので相手も力のまま後方にのけぞって尻餅をつく。が、それでも男は比呂美の顎にかけたバットを外さない。
その勢いで比呂美は舌を噛みそうになったが、なんとか奥歯をかみ締めて踏みとどまる。
そして相手が上から覆いかぶさって体重をかけようとするより速く、指先を刀のようにピンと伸ばして、
男の手首の付け根の骨を斬るようにして、叩いた。
「っぐ!?」
衝撃で腕から力が抜けバットから指が離れる。その期を逃さず、比呂美は首の下から肘を入れてバットを掴むと一気に奪った。
そして寝転がった状態のままバットを縦に握りなおすと、顔面に拳が落とされるより速く、傘をさすようにバットを真上、
重力からすると横に向かって突き伸ばし、男の鼻と前歯を砕いたまま吹き飛ばす。
「ぷっぶぅっっ!!」
寝転んだ状態の戦闘なら既に経験済みだ。鼻血と唾液が降り注ぐのをかわしひっくり返って膝立ちになると、
男が反撃に出した左フックを薙刀のようにバットで防いで、その柄で顎を抉る。
「ごぁっ!」
続く反撃も矢継ぎ早に防いではその度に金属バットをバトンのように回して、男の急所を次々と痛めつけていった。
狭い車内における戦闘も経験済みであり、比呂美は高度な身体操作で体力差を圧倒していた。
「ごっ、ひゃあっ、げぇ・・・、も、もうゆる、許してぇ、ひいい」
いくら殴りかかろうと比呂美に指一本触れられず、全身を釘で刺されたような激痛で覆われ、
醜い痣で膨れるに至って男は降参する。親に叱られた少年のように丸まって命乞いするがもちろん比呂美は容赦しない。
「げっっっ!!!」
もはや比呂美は因縁などどーだって良くなっていたが、生かしといて+になるとも思えないので、
丸まった背中から突き出た背骨に向かってバットを振り下ろすと、胸椎が肉から見えるほど殴りつけ、
失禁した男を不法投棄でもするように車から蹴落とした。殺す気も起きない。
「ふぅ・・・」
チュンッ
前を向いて一息ついたとき、ビニールが破れるような音がした。
お腹の辺りが急速に温かくなってきたので、咄嗟に手を添えてそこに目を向けると黒いのか赤いのか分からない水が滴っている。
ふと伝説的刑事ドラマの伝説的俳優の伝説的殉職シーンがよぎる。
よもやこの死地に至ってさえ、自分はこの事態を想定していなかった。いや、受け入れていなかったのだ。
「う・・・うぅ、う~~っ」
現実に、耐え難い事実に対して比呂美は張り裂けるような怒りと悲しみを抑えきれず唸った。
唇を噛み切らんばかりに閉め、ただ唸るしかなかった。
どこから迷い込んだのか知れぬ一発の弾丸が脇腹を通り抜け、比呂美の血液をトクトクと外に零していた。
「あぁ、・・・お、奥さん、オ、オレもぉ、・・・もぉ駄目です!」
腰まで捲り上げられたスカートから伸びる白い太股が蛇のように腰を絡めてリズムよく上下に揺れる。
「しっかりなさい!あんっ、そんなことで・・・うちの仕事が、んっ、・・・勤まるとぉ・・・思ってるの!」
彼女の平手が勢いよく少年の頬を叩く。そして紅く腫れ上がった頬に舌をべったり這わせ唾液を塗りたくる。
「だ、だってぇ、・・・もう3回も・・・、あぅっ、枯れちゃいますよぉ」
上着から飛び出した白桃のような乳房の片方をを少年の顔で押し潰すと、その薄黒い先端を舐めるように誘導する。
「そうよ・・・もっと強く吸って、・・・はぁあ・・・千切れるように」
彼女の胎内が若い肉棹にきつく吸い付き、掃除機のようにグイグイと引き込むと、
たまらず少年の手が女性の背中を引っ掻きまわし、暴れるように腰を引いて、喰いつかれるのから逃れようともがく。
「もっと・・・もっと耐えなさいっ!・・・あぁんっ!」
結合部からは肉が擦れ合うが音がパンパンと響き、愛液と精液が交じった水溜りが溢れてグッチョリと太股を汚す。
比呂美を探しに夜の闇に出た眞一郎の母と酒蔵の少年だったが、途中で急な交通規制に遭い、
しばらく揉めたものの、ガードマンが軍人のように筋骨逞しい大男だったこともあってやむなく引き返したのだ。
伺う限りでは比呂美は通らなかったようだし、この人の多さなら何か事件があったということもないだろう。
天候の影響か携帯もカーナビも通じず、付近が都合よく停電だったこともあって、
暗い路肩に停車するとたちまち狭い車内での淫らな交合、はやくいえばカーセックスへなだれ込んだ。
今夜が初めてではない。というより少年は予期していたし、女も暗に期待していた。
「全く・・・んんぅっ、つくづく・・・あっ・・・使えない子ねぇ!眞ちゃんなら・・・きっと・・・あんっ!」
劣勢だった少年が突如、女性の柔らかい尻に指を食い込ませ、ムニムニとこね回しながら、
ロデオのように腰を振り上げ、子宮を突き上げる。技と力の合わさったダイナミックなテクニックだ。
(オレが!オレがあんなフラフラしたフリーター予備軍の七光りエロゲー小僧に負けるかよ!)
決して口には出せぬ叫びを熱き男根に込めて、猥らな口に叩きつける。
「なに?眞ちゃんと・・・あっ、比べられて・・・っ、悔しいの?ほんとに子どんんっっ!」
それ以上は許さぬと唇を重ねて繋ぎとめる。捩る首を押さえつけ、喉奥まで舌を入れると、
唾液をたっぷり流し込んで、吐き出そうと伸びた舌を軽く噛んで飲み込み、ディープキスを強制する。
(覚悟もなく!道理もなく!己の欲望のままに親の金を使い、女の優しさに溺れる!
それが仲上眞一郎の限界!だからこそ、奥さんはオレのものだあああぁぁぁ!!!)
最初に眞一郎の母親から関係を強要されたのは彼が中学に上がる少し前だ。
はじめは性への興味と熟れた美貌の魅力から、やがて事の重大さが分かっても、
奉公先という上下関係に逆らえぬままに、また過ちを重ねた。
しかし、そうして毎日影に隠れ肌を重ねてくうち、彼女の瞳が自分を通して何かを見つめていることに気付く。
ひとつの事実に気付けば、あとは糸を手繰るようにして簡単に真実が浮き上がってきた。
いたいけな少年への肉欲など及ばぬ罪、禁じられた恋心がそこにはあった。
彼女が息子を見つめるときの哀しく、しかし艶かしく濡れた瞳をみたとき、
その情欲が決して適わぬこと、それを年近い自分に重ねていることに気付いたのだ。
そうして初めて彼女を上司でも、母でも、女でもなく、一個の恋に身を焦がす可憐な少女として遠くから見たとき、
感情的で過保護なだけの小うるさいセックスだけの付き合いだった女性の別の側面が見えてきた。
不器用になってしまう優しさ、意固地なばかりのプライド、裏目に出てしまう気遣いの数々がどれも溶けるように可愛いかった。
髪を上げるときの薬指、振り返ったときの首筋、困ったときの眉根に胸が歌うように高鳴った。
ほぼ同時に自分とは別モノとして意識もしなかった坊ちゃん、眞一郎に腹が煮えてきた。
愚鈍にして勘違い、優柔不断で視野狭窄、周囲の愛情に気付かずひたすら恩人を翻弄し、不幸に染める呆れた軟弱。
彼が幾人かの少女からの好意に懊悩していることはなんとなしに知ってはいたが、
少年から言わせれば全て眞一郎の不甲斐がなせる惨状、無能極まる小人の、それすら認められぬ大罪だ。
母の想いに気付けなどという無茶はいわんが、どうせ結果は決まっているのに、矮小な精神をひたすら守らんがために、
自他共に言い訳を重ね、いたいけな少女たちの魂を混迷させ、浪費するなど男子の風上にもおけぬ。
「あんっ・・・!今日は・・・くっ・・・激しいわっ!ねぇ、んっ、んんっっ、んああああああぁぁぁぁ!!!」
少年は女性の胎内に秘めたる滾る愛情と憎しみを解き放った。
「救護班ーっ!救護班ーっ!」
「いでぇえええええ!だずげでぐれええ!」
「ここだぁぁぁ!だれかぁぁぁぁぁ!!!」
硝煙と銃弾の立ち込める闇の中で絶え間なく悲鳴が続き、禍々しい合唱を奏でていた。
皮膚は爛れ、肉は裂け、骨が露出してなお、死ぬこともできず苦痛に苛まれる兵士たち。
かれらの助けを請う呻きを無視して、新たな兵力が突入してくる。
「どこだぁあああ!!このクソッタぐあっ!?」
サクッ
空間を切り裂いたように、なにもない場所からスピアが現れると、怒声を撒き散らす兵士の両眼を削った。
「うわぁああああ!ちくしょおおおお!!!」
光を奪ったプレデターは錯乱した男を味方に向け突進させると、再び瓦礫の隙間に沈む。
シュバァッ
遠くから狙撃の体勢を図っていたスナイパーの胸をプラズマキャノンで風通しよくする。
シュカァッ
空けた場所で待ち伏せていた集団の真ん中にレイザーディスクを送り、背を低くしてやる。
グチャッ
地面に転がる負傷兵を泥のように踏み潰す。
「ぎゃあぁぁああああ!!!」
幅の広い道路にユタニの装甲車両が幾重にもバリケードを築き、整然とした包囲網を敷き詰めてもなお、
プレデターは的確に狩りを進めていた。
高所や遠距離からの攻撃には灼熱のビーム、中距離には鋭利な円盤、傍にくるものは槍で叩き、両椀の剣で刻んでやる。
恐れをなして逃げた者の先には透明なワイヤーと破片を切り出したギロチンの罠が待っている。
激しく炎を絡め、鉄を振り、冷静に血を抜き、肉を分けていく作業はさながら名シェフの調理場のようだ。
大切なのはそこそこに殺すことだ。そこそこに。
半死の兵隊の終わらない悲鳴と傷跡は、これから来るものたちの心に恐怖を撒き散らす。
心理効果だけでなく、泣き声は忍び寄る足音を隠し、腐臭は強い体臭を打ち消す。
地に転がる負傷者そのものも巨体を誇るプレデターにとってはぬかるみ程度だが、
人間には足を滑らせ、車両を躓かせ、行く手を遮る沼となる。
プレデターは逃げ回るように見せて、破壊された車両と人間を捏ね混ぜて壁を建て、深い迷路を作っていた。
迷い込んだ者の光と音を遮り、動きを封じ、痛みを引き伸ばす堅牢で邪悪な要塞だ。
ユタニの特殊兵士たちも紛れないエキスパート、勝ち抜いてきた一流だったが、人間相手の殺し屋である彼らと、
生まれながらの捕食獣、狩人、戦士であるプレデターとでは生物としての格が違う。
脅威の運動能力と人間心理まで計算した巧みな攻防に、兵士たちは翻弄されるしかなかった。
だがそれでも、プレデターの不利は変わらない。
戦闘が続けば体力は消耗し、武器も疲弊し、長引くほどにより蓄積される。
続々と新しい兵力が投入されるなかでは、傷を癒す暇もない。
次第に足腰は衰え、砲の出力は弱まり、刃は零れていく。
「グウオオオオオオオオオオオオッッ!!」
それでも生ある限りは生を奪わんと大気の震えるような咆哮で己を鼓舞し、敵を戦慄させる。
未だ死んではいないのだ。自分も、そして彼女も。
ドンドンドンドンッ!
「比呂美ー!比呂美ー!」
石動と書かれた戸を何度も叩き、声も枯れんばかりに叫ぶ。
母が車を出した音に気付いたことがきっかけで、家のどこにも彼女がいないこと、
どれほど待てども彼女が戻らないことに焦った眞一郎は、自転車ひとつで飛び出したのだ。
「・・・今何時だと思ってる」
髪もパジャマも顔もクチャクチャにして、不快感を隠そうともしない石動純が戸を開ける。
誰が来たかは分かっている。こんな近所迷惑甚だしい無礼者は妹を除けば一人しかいない。
「あの女はいない」
「比呂美が来てるんだろ!?どこにいるんだ!」
仲上眞一郎はそんな態度も気付かず、食いつかんばかりに詰め寄って、家のなかに入ってくる。
自転車を玄関に横倒しにし、寝巻きの上からジャケットだけ羽織って、息も絶え絶えで駆けてきたのが伺える。
「出て行け」
額を歪ませて吐き捨てると、感情そのままに眞一郎を押し出して戸を閉める。
「ま、待ってくれ!随分前に出たきり帰ってこないんだ。何か、何か知らないのか?なぁ!」
構わず戸に張り付きながら眞一郎は問う。二度と見失うわけにはいかないのだ。
「・・・こっちは本当に忙しいんだがな、おまえらのおかげで」
これ以上騒がれるならと、ウンザリした表情で純は眞一郎を家に入れる。
ただでさえ肩身の狭い家庭なのだ。夜の夜中に女がらみで大騒ぎなど、近所の恰好の噂だ。
万が一にも学校や世間の心証を損ねないためにも、品行方正な生活が望まれるというのに、
どうしてこう恥知らずな輩ばかり絡んでくるのか。
「乃絵が寝てるから静かにな。それとも・・・本当は夜這いに来たか?俺はその辺を一回りしてくっ!」
玄関口で純が零した悪意の冗談に眞一郎が掴みかかる。
「こっちは本気なんだ!母さんも探しにいったきり戻らないし・・・ぐぁっ?」
純が襟首を掴んでいた眞一郎の手首を捻り上げると、不自然な方向に間接を曲げ押さえつける。
「なんでここに来てるんて考えたんだ?こっちはあのトラブルメーカーのせいで・・・関わりたくもない」
痛みにたまらず眞一郎は膝をつきながらも訴える。
「け、携帯も通じないし・・・、あちこち急に道路封鎖してて、きっと何か・・・トラブルにっ!」
純は憮然としたまま、体を後ろに折り曲げて耐える眞一郎を突き飛ばして解放する。
「どこかで股でも開いてるんだろう。あれは好きモノだからなぁ兄さん?」
胸をつららで刺されたように眞一郎の顔が青ざめる。
「まだ寝てないのか?じゃあ初めてっていうのは・・・本当だったんだな、くくっ」
「おまえぇ!」
怒りで心臓を焼かれた眞一郎が飛び掛る。が、合わせて跳んできた純のつま先が腹にカウンターで突き刺さった。
「ゲェフッ!ぐぅああ!」
夕食の中身を廊下に戻しながら眞一郎がバタバタとのた打ち回る。その頭を踏みつけながら純が嗤う。
「きったないなぁ・・・ほら、ちゃんと綺麗にしてくれよ?坊・っ・ち・ゃ・ん☆」
眞一郎の頬を床にゴシゴシと擦り付けて、無理やりに吐しゃ物を拭わせていく。
「あっちから誘ったのに怒るのは筋違いだな。そういえばスポーツやってる子が締まりがいいって知ってたか?」
足を引き剥がそうと伸ばされた指を踵で踏みつけ、頭を転がすと喉をつま先の指で押さえつけて息をさせない。
「真面目な子ほどなんとやらってな。動物園の猿のようにキーキー啼いて乱れて・・・」
もがく眞一郎のこめかみをサッカーボールのように蹴り上て吹き飛ばし、狭い玄関先にすっ転がす。
「なかでもあれは格別だったけどな、並べて比べたから本当だよ」
固い靴箱の角に眞一郎の額がぶつかって割れ、ドクドクと流れた血が歌舞伎のように顔を染める。
「あーらら・・・やっちゃたか」
蹲る眞一郎を侮蔑すると、純は洗面台から水で濡らしたタオルを持ってきてその顔に落とす。
「ここにいないのは本当だ。手がかりもない。手伝う気もない。分かったら帰ってくれ」
竜巻に上げられたように眞一郎は純に投げ飛ばされると、石動邸前の道路を飛び越えて電柱に激突し、
そのまま収集日を守らないゴミ袋の山に落下した。
「ぐぇっ・・・」
生ゴミのクッションで助かったもの、背中には赤紫色の痣が何ヶ月も残るだろう。
しばらくは独特の悪臭と感触にも気付かないまま、腹なり顔なり背中なりの痛みが五体を征服していて、
考えることもままならず丸くなって呻いていた。
(こんな遅くに女がらみで押しかけるのは非常識だったか・・・)
普段の純からおよそ常軌を逸した行動は、まともな暴力に触れたことのない眞一郎に体ばかりでなくショックであった。
(親友ってこともないが、そこそこ繋がりもあったのに・・・どうやらそれも失っちまったらしい)
三代吉や愛子にもそうだが、自分の鈍感は随分ひとを傷つける。となればこれは相応の報いというべきか。
結局、手がかりどころか痛手まで負わされて痛みと後悔の海に浸っていると、頭上から涼やかな声がした。
「そんなとこで寝れるなんて意外と逞しいのね」
「おまえ・・・寝てたんじゃないのか」
石動乃絵。たった今、手酷く自分を痛めつけて追い返した美男子の妹にして、学内きっての変人。
「どこかの常識知らずさんが押しかけるまではね」
人に見られる恥ずかしさから逃れるため、眞一郎は動かすたびに悲鳴を上げる全身を無視してゴミ山から這い出る。
「ぐっ・・・わ、悪かったなぁ・・・ごほっ!」
フラフラとしつつも立ち上がるゴミまみれの少年。皮肉にも純のくれた濡れタオルで汚れた顔や手を拭っていく。
「・・・ごめんなさい」
頭痛と耳鳴りではっきりしない眞一郎にはよく要領を得られない。
「え?あ、あぁ、イツツッ!」
乃絵も別に受け答えは期待してなかったようで話題を切り替える。
「──で、眞一郎はこんな夜更けに湯浅比呂美がいなくなったから探してるのね?」
ゴクリッ
「ん?あ、ああ。母さんも探しに出たみたいだけどずっと戻らないし、携帯も通じないんだ」
「それで、ここにいると思って来たけど、ここにいなかった」
「・・・ごめんな」
「で、どこにいると思う?」
無根拠にここしかないと勝手に決め込んでいたから他に考えもしなかった。
「さぁ・・・えと、友達のとことか?きっとバスケ部の朋与のとこか、もしかして‘あいちゃん‘かも。
ひょっとしたら母さんともう会っててどこかで説教食らってるか・・・」
実際はレイプ集団と殺し合いを演じた挙句、宇宙ハンターと私設軍隊の抗争に巻き込まれて生死の境を彷徨っていた。
などと知る由もない眞一郎の話をじっと聞いていた乃絵は、少し沈黙したまま暗い夜空の向うに眼を向けた。
遠くの彼方で微かに光が瞬くが、地下の送電線の緊急修理という名目で交通封鎖をしているので誰も疑問は抱かない。
「そうね・・・多分、全部外れ。だから一番ありえない・・・ううん、あってほしくないと思うアテを探せばいい」
振り絞った答えをおざなりに否定されたうえ、不明瞭かつ不快な答えに、なんだか腹が立ってきたが、ふと雷轟丸のことが浮かぶ。
あの無鉄砲な黒い羽の最期にはどういった伏線も予報もなく、ただ結果のみが横たわっていた。
となると、この暗闇で影さえ掴めない比呂美にも同じことが起こっている、ということなのか。
ただの偶然、運のツキ。こちらがいくら注意を払っても拭えない現実の隙間に落ちてしまったのならば、どうすればいい?
「どうすればいい?」
「さぁ、私には分からない。でも眞一郎にはきっと分かる」
なんという謎かけか。自分には出来ないといってどうして俺には出来る!?
「どうして!?」
乃絵の瞳が眞一郎を捉えて、煌くように微笑む。
「あなたが彼女を探しているから。どんなに離れていても、想い続ける限り仲上眞一郎と湯浅比呂美の絆は切れないわ」
澄んだ明快な言葉で、彼女は続ける。
「きっと見つかるわ。あなたの足がそこに向かっているのだから」
不安で曇っていた胸のうちに風が吹きぬけた心地になる。
探すしかないのだ。それはきっと自分にしかできないし、ほかにできることもないのだから。
「わかった!ありがとな!」
一旦気持ちが奮い立つと、これ以上の長居は無用とばかり、自転車を立て、よろめく足を踏ん張って駆け出した。
外灯に導かれるように奔っていく眞一郎を静かな笑顔で見送った乃絵は、その背中が見えなくなるとそっと呟く。
「・・・でも、探すことを諦めたら見つからない。どんなに傍にいても絶対に・・・」
つづく
[[truetearsVSプレデター3]]
,. - 、 〈〉 毎度ようこそのお運びで厚く御礼申し上げます。
彡`壬ミ || ttパロ書きプレデターでございます。
用ノ哭ヾ二=G <
〈_〉〉=={ || 保守及び新作投下し易い空気を作るためだったのに、
{{{.《_甘.》 || 現行連載最古にして今スレ最長になってしまった「truetearsVSプレデター」。
{_} {_} || おかげで記念すべき‘20‘まで到達。今回は総集編です。
ム' ム
スルーしてたあなたもこれだけ読めば安心!
概要・・・truetearsにプレデターがきたら、というお話。の筈が、もはやプレデターの世界にttが来てる。
あらすじ・・・ある晩比呂美はレイプ集団に襲われる。恐怖の中覚醒した比呂美は、彼らを返り討ちにする。
彼女に敬意をもってプレデターが現れるが、それを追って大企業ユタニの私設軍も登場。
果たして比呂美とプレデターの出会いは何をもたらすのか。
各話紹介
430 ある晩、お使いに出た比呂美は大学生レイプ集団に路上拉致される。
433 一度は屈した比呂美だが、突如反撃にでる。
435 瞬く間に5人を葬り、ついに1対1に。
438 敵の男もとうとう本気になってきた。
441 一進一退の攻防が続くが、男のパワーに叩き潰される比呂美。危うし!
446 危機一髪、少女は生き残る。しかしそれもつかの間、プレデターが現れた!
457 おわり
466 やはり続く。プレデターとしばし心を通わせる比呂美。
479 メタネタ。いみはない。
485 プレデターに襲い掛かる大企業ユタニの戦術部隊。
487 富山が戦場となる。
488 逃げようとする比呂美を襲うレイプ集団の生き残り。
489 だが修羅場をぬけてきた比呂美の敵ではなかった。しかしその直後、比呂美の脇腹を銃弾が抜けていった。
496-497 カーセックスに励む丁稚とママン。
527 頑張るプレデター。
534 比呂美を探す眞一郎は4番のところに押しかけるが、からかわれて追い返される。
567-568 乃絵は眞一郎を励まし、道を示す。