あさみの願い1

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朋与の部屋で月に何回か女の子だけで集まり くだらない話を延々と繰り返すだけの夜 多感な少女達はそれが楽しかった。 あさみもそんな1人だった。 「停学明けてから比呂美変わったよねぇ~」 「なんつーか・・・女らしくなった?とかそういう感じ。よく分からないんだけどさ」 朋与が停学明けの比呂美の事を話す。 「そぉ?いつもとあんま変わんなかったような・・・」 別の少女がそれを否定する。 「いーや!きっと何かあったんだよ!私には分かる!だって比呂美の親友だもん」 「きっと石動さんと・・・したんだよ・・・」 「えー!?マジ?」 「絶対そうだって!二人でデートしてたの見たって言ってる人居たし!」 「比呂美に先越されたかぁ・・・いいなぁ・・・カッコいいもんなぁ・・・石動さん」 「朋与先越されっぱなしじゃん!」 「うるさいなぁ!」 そんな憶測だらけの話をあさみは黙って聞いていた。 「でさ?あさみはそういうの無いの?」 朋与が急にあさみに話を振った。 「え!?私?無い無い!」 驚きながらあさみは否定する。 「あさみ可愛いし、告白されたりとか無いの?言ってみ?この朋与さんが相談に乗ってあげる!」 その自信はどこから来るのだろうか?と思ったが、 「えー何人かは居たけど・・・全部断った」 「何でー?勿体ないじゃん!まさか好きな人が居るとか・・・?誰?ねぇ誰よ?」 朋与を筆頭にみんな興味津々といった目であさみを見つめる。 「言わないよー!絶対言わない!」 「分かった!じゃあこのサイコロ振って「好きばな」出なかったらそれでいいよ!」 バラエティ番組などでよくあるサイコロを振ってその目が出たらその話をするというヤツである。 「えー?やるの?」 「やるの!」 こうなった朋与は止まらない。 仕方なくあさみはサイコロを振った。 あさみは「好きばな」が出ない事を祈った。 しかし無常にもサイコロは「好きばな」を上にして止まった。 「えー?」 「やった!」 あさみの思いとは裏腹に朋与も他の少女達も喜ぶ 「えー?言わなきゃダメ?」 「ダメ!ルールだもん!」 「どうしても?」 「どうしても!」 「諦めが悪いぞ!あさみ」 仕方ないと諦めの表情を浮かべながらあさみは 「私は・・・仲上君が好き・・・」 「え!?」 朋与を含めた全員が驚きの表情を表す。 「それマジ?」 「・・・うん」 その場に少し重苦しい雰囲気が漂う。 「仲上君ってたぶん比呂美の事が好きだと思うよ?」 「うん知ってる・・・」 授業中に三代吉を間に挟んで後ろから眞一郎の事を見ると 眞一郎が比呂美の事を気にしているのは明らかだったのをあさみは知っている。 多分眞一郎は比呂美が好きなんだと薄々感じていた。 それと同時に比呂美と自分を比べると比呂美の方が可愛いから、 自分は眞一郎に選ばれないだろうと思っていた。 「そ・・・それにアイツC組の石動乃絵と付き合ってるって噂だよ?」 「そうなの?」 それはあさみも知らなかったが、今度は石動乃絵か・・・とも思った。 少し幼いところもあるが、可愛い子だと思う。 男子の中には乃絵のファンがいるという話を耳にしたことがある。 比呂美は年齢の割りに大人っぽく、乃絵は比呂美とは対象的に逆のタイプだが 可愛い。きっと眞一郎の女の子を選ぶ目は確かなんだとあさみは思った。 「まぁ・・・私が勝手に好きになっただけだし!比呂美だったら良いよ!うん!」 「ほら?初恋って成就しないって言うしさ・・・あはは」 無理に作り笑いをしたあさみと少女達の夜は更けていった。 朋与たちに自分の好きな人を告げた以降も あさみは何事も無かったかのように学校へ通い、普通に授業を受けた。 しかしあさみの目は自然と眞一郎の行動を追う。 眞一郎は廊下側の前の席に座っている比呂美を見ている。 『やっぱり仲上君比呂美の事好きなんだ・・・』 分かっていても、キツイ・・・あさみはそう思った。 放課後あさみは校舎裏の鶏小屋の前で乃絵と楽しそう会話をしている眞一郎を見た。 それを見てあさみは、 『石動さん・・・可愛い・・・けどダメ・・・仲上くんは比呂美の方が絶対似合ってる』 『比呂美とじゃないなら私が・・・けど・・・石動さんと仲上君付き合ってるって朋与が言ってたし・・・』 『比呂美は石動さんのお兄さんと付き合ってるって・・・』 自分でも良く分からない感情に翻弄されている事に気がついた。 結局二人を見なかった事にして足早に立ち去るあさみだった。 そんな事が何日か続いたいつもの平穏な日々の金曜日 授業も終わろうかというその時、先生の一言で大きく変わった。 「仲上ぃ~お前課題の提出今日までなんだがお前だけ出てねぇぞ」 「げぇ!忘れてた!!」 教室に笑いが起きる。 「今日の日直誰だ?」 「あ!・・・はいっ!」 あさみが返事をする。 「あさみか・・・仲上が課題提出するまで残って面倒みるように」 「えーっ!?何で・・・私が?」 「日直だし・・・頼んだぞ」 不満げなあさみは周りを見る。 朋与が「頑張れ」とでも言いたげな表情をしている。 眞一郎は手を合わせ「悪い」とあさみにジェスチャーをした。 「眞一郎頑張れよー」 「ちきしょー!三代吉手伝え!」 「お前が悪いんだろ?俺あいちゃん行くわ・・・じゃーな!」 「くっそ・・・三代吉のヤツ・・・」 そんな男同士のやりとりを見つつあさみは愚痴っぽく 「愚痴愚痴言わない!さっさとやる!」 「はいはい・・・」 「じゃーね!あさみ!頑張って」 「ハイハイ・・・」 あさみの友達たちもあさみに一言声をかけて帰っていった。 そうして放課後の教室は二人だけになった。 「お互い冷たい友人を持つと大変だね」 「ああ・・・そうだな・・・」 そう言いながら眞一郎は必死にノートに向かって課題を片付けている。 「あーあ・・・カラオケ行きたかったなぁ・・・」 「・・・悪かったな・・・俺のせいで」 「いいよ・・・この後私の用事にちょっと付き合ってくれたら」 「ああ・・・分かった」 大した用事じゃないんだろうと眞一郎は安請け合いの返事をした。 黙々と眞一郎が課題をやっている。 あさみは携帯をいじりながら 「仲上くんさ・・・比呂美の事好きでしょ?」 「なっ!」 あさみの言葉に眞一郎は驚いた。 「赤くなったー!やっぱりそうなんだ・・・」 「うるさいな!」 分かっていても事実を確認するとショックである。 「じゃあ何で石動さんと付き合ってるの?」 「お前には関係ないよ」 眞一郎の機嫌が少し悪くなったようだと感じた。 きっと触れられたくない問題なんだろう。 「仲上くんさ・・・」 そう言いかけた時 「終わったー!悪かったなあさみ!ちょっと先生のところに課題提出してくる!!」 そういうと足早に眞一郎は職員室に向かった。 あさみが一人教室で待っていると、眞一郎がもどってきた。 「先生okだってさ。ごめん悪かったな。」 「珍しいよね。仲上君が課題忘れるなんて」 「そうか?」 「そうだよ。野伏君と違って真面目にやってる感じだと思ってた」 「そんな事ねーよ」 二人はそんな他愛の無い会話をする。 「あさみ・・・お前の用事ってなんだっけ?待たせた分、俺に出来ることなら何でもするよ」 「その前に質問なんだけど・・・」 「ん?何だよ?質問って・・・」 「じゃあ聞くね・・・」 あさみは顔を赤らめながら眞一郎に聞いた。 「仲上君・・・キスしたことある?」 「はぁ!?いきなり何言い出すんだよ?お前・・・」 「あるの?無いの?その感じだとした事ないのかなぁ?」 あさみは無理に、眞一郎をからかうような素振りをしたが、当の眞一郎はその様子を見抜くだけの 余裕は無かった。 「あるよ!」 眞一郎があさみのからかいをかわすように答えた。 嘘ではない。ただし、自分から自発的に女の子に対してキスをしたわけでもないが・・・ 「へぇ・・・どんな感じ?聞きたい聞きたい!誰としたの?」 まるでおもちゃに興味を持った子供のようにあさみが眞一郎を見つめる。 「関係ないだろ。それにそんな思ってるほどのモンじゃないし」 「そうなんだ・・・私・・・した事ないからわかんないよ・・・教えてよ?いいでしょ?」 「あさみ・・・お前なぁ・・・」 「私の用事に付き合ってくれるんでしょ?キスして」 眞一郎はすっかりあさみに主導権を握られてしまった。 「分かったよ」 「やった!」 あさみの喜びようは本心だった。 自分が好きな人とキスをする。女の子にとってこれほど嬉しいことは無いだろう。 誰も居ない薄暗くなった教室で二人の唇が重なった。 「んっ・・・」 (私・・・仲上君とキスしてる・・・比呂美ごめん・・・) 心の中であさみは比呂美に謝りつつも眞一郎とのキスに夢中になった。 そうしてお互いいつの間にか舌を絡ませるほどになっていた。 そして眞一郎に堅く抱きしめられていた。 眞一郎に抱きしめられているという事実も心地良いスパイスとなって更にあさみを 夢中にさせた。 ほんの何秒かの時間だったが、あさみにはとても長い時間に感じた。 そして二人の唇が離れる・・・ 「な?思ってるほどじゃないだろ?」 (すごい・・・気持ちよかった・・・ウソ?濡れてる・・・) あさみは自分の生理現象に驚きながらも、眞一郎の言葉にうなずく 「そだね・・・レモンの味とかイチゴの味がするって言うのもウソなんだね」 「当たり前だろ?そんな訳ないじゃん」 髪を触りながらあさみがつぶやく 「でも仲上君の味がした・・・これが仲上君の味なんだね」 「えっ?」 眞一郎は少女が見せた女の仕草に驚いた。 「そうだ!仲上君!今日家来ない?」 あさみは思い出したように突然眞一郎を家に誘った。 「はぁ?何でだよ・・・別に行かなくても」 眞一郎の言い分はもっともである。 「うち、今日誰も居ないし、一人でご飯食べるのって何か寂しくない?そう思うでしょ?」 「そりゃあ・・・まぁな・・・」 「それにうち昨日カレーだったから一晩経って美味しくなってるし!うちのカレー美味しいんだよ!」 「ほら、仲上君、私の用事に付き合ってくれるって言ったじゃん!」 あさみが強引に眞一郎を誘う。 意外に眞一郎は女の子の押しに弱い事をさっきのキスであさみは見抜いた。 だから多少強引にでも誘えば眞一郎は断らないとふんだ。 「はぁ・・・しょうがないな・・・でも今日だけだぜ?」 「うん!今日だけ!」 そう言うと二人は薄暗くなった教室を後にした。 学校からあさみの家に向かう途中、二人は色々他愛のない事を話した。 そんな中で、あさみは石動乃絵の事、比呂美の事にだけは極力触れないように気をつけた。 眞一郎の心の中にはきっと比呂美が住んでいて、そこに石動乃絵も住もうとしていると言う事は 女の勘で分かった。自分が眞一郎の心の中に住むことは絶対に無いという事も・・・ それでも、あさみは眞一郎に気づいて欲しくてキスをせがんだ。 それがあさみにもたらしたモノは、眞一郎に自分の初めてを捧げたいという、淡く儚い願い・・・ もしかすると眞一郎は拒むかもしれない・・・そう思いながら二人はあさみの家へ向かって歩き続けた。 手が触れそうで触れない距離を保ちながら・・・ それでもあさみはその自分と眞一郎との間にある見えない壁を乗り越えて 眞一郎の手を握る。 眞一郎は一瞬驚いた表情を見せたが、あさみの手を優しく握り返す。 そんなささやかな幸せをあさみは充分に感じていた。 「ここが私の家。今日誰も居ないから気兼ねしないで入って!」 「へぇ・・・綺麗な家だな」 「仲上くんの家より狭いかもしれないけど・・・」 「そんな事無いよ。うちなんてボロだしな・・・」 「えーっ古い格式のある家って感じでいいじゃん」 「そうかな?」 「そうだよ」 「ちょっと待っててね。すぐ温まるから」 そういうとあさみはガスコンロに火をつけカレーを温めはじめる。 リビングにあるソファーに腰掛ける。 「女の子の家って緊張するなぁ」 「そんな事ないよ~仲上くん意識しすぎ~」 「緊張するもんなんだって!」 「出来たよー」 そういうとあさみはカレー皿に二人分のご飯を盛りつけ、カレーをかける。 そのカレーの横にはシチューもあった。 「シチューもあるのかよ・・・」 「うん・・・うちカレーの時にはシチューも作るんだ。ルーが違うだけだから簡単だよ?」 「そっか・・・でもシチューとカレーって合わないんじゃ?」 「そんな事無いよ!食べてみればわかるって!」 あさみは自分の家の食生活を眞一郎に強要する。 「わかったよ・・・食べるって」 「なら良い」 二人は向かい合わせでカレーとシチューを食べ始めた。 「ん?結構合うな・・・カレーとシチューって」 「でしょ?」 そんな他愛の無い会話でもあさみは擬似夫婦みたいで楽しかった。
朋与の部屋で月に何回か女の子だけで集まり くだらない話を延々と繰り返すだけの夜 多感な少女達はそれが楽しかった。 あさみもそんな1人だった。 「停学明けてから比呂美変わったよねぇ~」 「なんつーか・・・女らしくなった?とかそういう感じ。よく分からないんだけどさ」 朋与が停学明けの比呂美の事を話す。 「そぉ?いつもとあんま変わんなかったような・・・」 別の少女がそれを否定する。 「いーや!きっと何かあったんだよ!私には分かる!だって比呂美の親友だもん」 「きっと石動さんと・・・したんだよ・・・」 「えー!?マジ?」 「絶対そうだって!二人でデートしてたの見たって言ってる人居たし!」 「比呂美に先越されたかぁ・・・いいなぁ・・・カッコいいもんなぁ・・・石動さん」 「朋与先越されっぱなしじゃん!」 「うるさいなぁ!」 そんな憶測だらけの話をあさみは黙って聞いていた。 「でさ?あさみはそういうの無いの?」 朋与が急にあさみに話を振った。 「え!?私?無い無い!」 驚きながらあさみは否定する。 「あさみ可愛いし、告白されたりとか無いの?言ってみ?この朋与さんが相談に乗ってあげる!」 その自信はどこから来るのだろうか?と思ったが、 「えー何人かは居たけど・・・全部断った」 「何でー?勿体ないじゃん!まさか好きな人が居るとか・・・?誰?ねぇ誰よ?」 朋与を筆頭にみんな興味津々といった目であさみを見つめる。 「言わないよー!絶対言わない!」 「分かった!じゃあこのサイコロ振って「好きばな」出なかったらそれでいいよ!」 バラエティ番組などでよくあるサイコロを振ってその目が出たらその話をするというヤツである。 「えー?やるの?」 「やるの!」 こうなった朋与は止まらない。 仕方なくあさみはサイコロを振った。 あさみは「好きばな」が出ない事を祈った。 しかし無常にもサイコロは「好きばな」を上にして止まった。 「えー?」 「やった!」 あさみの思いとは裏腹に朋与も他の少女達も喜ぶ 「えー?言わなきゃダメ?」 「ダメ!ルールだもん!」 「どうしても?」 「どうしても!」 「諦めが悪いぞ!あさみ」 仕方ないと諦めの表情を浮かべながらあさみは 「私は・・・仲上君が好き・・・」 「え!?」 朋与を含めた全員が驚きの表情を表す。 「それマジ?」 「・・・うん」 その場に少し重苦しい雰囲気が漂う。 「仲上君ってたぶん比呂美の事が好きだと思うよ?」 「うん知ってる・・・」 授業中に三代吉を間に挟んで後ろから眞一郎の事を見ると 眞一郎が比呂美の事を気にしているのは明らかだったのをあさみは知っている。 多分眞一郎は比呂美が好きなんだと薄々感じていた。 それと同時に比呂美と自分を比べると比呂美の方が可愛いから、 自分は眞一郎に選ばれないだろうと思っていた。 「そ・・・それにアイツC組の石動乃絵と付き合ってるって噂だよ?」 「そうなの?」 それはあさみも知らなかったが、今度は石動乃絵か・・・とも思った。 少し幼いところもあるが、可愛い子だと思う。 男子の中には乃絵のファンがいるという話を耳にしたことがある。 比呂美は年齢の割りに大人っぽく、乃絵は比呂美とは対象的に逆のタイプだが 可愛い。きっと眞一郎の女の子を選ぶ目は確かなんだとあさみは思った。 「まぁ・・・私が勝手に好きになっただけだし!比呂美だったら良いよ!うん!」 「ほら?初恋って成就しないって言うしさ・・・あはは」 無理に作り笑いをしたあさみと少女達の夜は更けていった。 朋与たちに自分の好きな人を告げた以降も あさみは何事も無かったかのように学校へ通い、普通に授業を受けた。 しかしあさみの目は自然と眞一郎の行動を追う。 眞一郎は廊下側の前の席に座っている比呂美を見ている。 『やっぱり仲上君比呂美の事好きなんだ・・・』 分かっていても、キツイ・・・あさみはそう思った。 放課後あさみは校舎裏の鶏小屋の前で乃絵と楽しそう会話をしている眞一郎を見た。 それを見てあさみは、 『石動さん・・・可愛い・・・けどダメ・・・仲上くんは比呂美の方が絶対似合ってる』 『比呂美とじゃないなら私が・・・けど・・・石動さんと仲上君付き合ってるって朋与が言ってたし・・・』 『比呂美は石動さんのお兄さんと付き合ってるって・・・』 自分でも良く分からない感情に翻弄されている事に気がついた。 結局二人を見なかった事にして足早に立ち去るあさみだった。 そんな事が何日か続いたいつもの平穏な日々の金曜日 授業も終わろうかというその時、先生の一言で大きく変わった。 「仲上ぃ~お前課題の提出今日までなんだがお前だけ出てねぇぞ」 「げぇ!忘れてた!!」 教室に笑いが起きる。 「今日の日直誰だ?」 「あ!・・・はいっ!」 あさみが返事をする。 「あさみか・・・仲上が課題提出するまで残って面倒みるように」 「えーっ!?何で・・・私が?」 「日直だし・・・頼んだぞ」 不満げなあさみは周りを見る。 朋与が「頑張れ」とでも言いたげな表情をしている。 眞一郎は手を合わせ「悪い」とあさみにジェスチャーをした。 「眞一郎頑張れよー」 「ちきしょー!三代吉手伝え!」 「お前が悪いんだろ?俺あいちゃん行くわ・・・じゃーな!」 「くっそ・・・三代吉のヤツ・・・」 そんな男同士のやりとりを見つつあさみは愚痴っぽく 「愚痴愚痴言わない!さっさとやる!」 「はいはい・・・」 「じゃーね!あさみ!頑張って」 「ハイハイ・・・」 あさみの友達たちもあさみに一言声をかけて帰っていった。 そうして放課後の教室は二人だけになった。 「お互い冷たい友人を持つと大変だね」 「ああ・・・そうだな・・・」 そう言いながら眞一郎は必死にノートに向かって課題を片付けている。 「あーあ・・・カラオケ行きたかったなぁ・・・」 「・・・悪かったな・・・俺のせいで」 「いいよ・・・この後私の用事にちょっと付き合ってくれたら」 「ああ・・・分かった」 大した用事じゃないんだろうと眞一郎は安請け合いの返事をした。 黙々と眞一郎が課題をやっている。 あさみは携帯をいじりながら 「仲上くんさ・・・比呂美の事好きでしょ?」 「なっ!」 あさみの言葉に眞一郎は驚いた。 「赤くなったー!やっぱりそうなんだ・・・」 「うるさいな!」 分かっていても事実を確認するとショックである。 「じゃあ何で石動さんと付き合ってるの?」 「お前には関係ないよ」 眞一郎の機嫌が少し悪くなったようだと感じた。 きっと触れられたくない問題なんだろう。 「仲上くんさ・・・」 そう言いかけた時 「終わったー!悪かったなあさみ!ちょっと先生のところに課題提出してくる!!」 そういうと足早に眞一郎は職員室に向かった。 あさみが一人教室で待っていると、眞一郎がもどってきた。 「先生okだってさ。ごめん悪かったな。」 「珍しいよね。仲上君が課題忘れるなんて」 「そうか?」 「そうだよ。野伏君と違って真面目にやってる感じだと思ってた」 「そんな事ねーよ」 二人はそんな他愛の無い会話をする。 「あさみ・・・お前の用事ってなんだっけ?待たせた分、俺に出来ることなら何でもするよ」 「その前に質問なんだけど・・・」 「ん?何だよ?質問って・・・」 「じゃあ聞くね・・・」 あさみは顔を赤らめながら眞一郎に聞いた。 「仲上君・・・キスしたことある?」 「はぁ!?いきなり何言い出すんだよ?お前・・・」 「あるの?無いの?その感じだとした事ないのかなぁ?」 あさみは無理に、眞一郎をからかうような素振りをしたが、当の眞一郎はその様子を見抜くだけの 余裕は無かった。 「あるよ!」 眞一郎があさみのからかいをかわすように答えた。 嘘ではない。ただし、自分から自発的に女の子に対してキスをしたわけでもないが・・・ 「へぇ・・・どんな感じ?聞きたい聞きたい!誰としたの?」 まるでおもちゃに興味を持った子供のようにあさみが眞一郎を見つめる。 「関係ないだろ。それにそんな思ってるほどのモンじゃないし」 「そうなんだ・・・私・・・した事ないからわかんないよ・・・教えてよ?いいでしょ?」 「あさみ・・・お前なぁ・・・」 「私の用事に付き合ってくれるんでしょ?キスして」 眞一郎はすっかりあさみに主導権を握られてしまった。 「分かったよ」 「やった!」 あさみの喜びようは本心だった。 自分が好きな人とキスをする。女の子にとってこれほど嬉しいことは無いだろう。 誰も居ない薄暗くなった教室で二人の唇が重なった。 「んっ・・・」 (私・・・仲上君とキスしてる・・・比呂美ごめん・・・) 心の中であさみは比呂美に謝りつつも眞一郎とのキスに夢中になった。 そうしてお互いいつの間にか舌を絡ませるほどになっていた。 そして眞一郎に堅く抱きしめられていた。 眞一郎に抱きしめられているという事実も心地良いスパイスとなって更にあさみを 夢中にさせた。 ほんの何秒かの時間だったが、あさみにはとても長い時間に感じた。 そして二人の唇が離れる・・・ 「な?思ってるほどじゃないだろ?」 (すごい・・・気持ちよかった・・・ウソ?濡れてる・・・) あさみは自分の生理現象に驚きながらも、眞一郎の言葉にうなずく 「そだね・・・レモンの味とかイチゴの味がするって言うのもウソなんだね」 「当たり前だろ?そんな訳ないじゃん」 髪を触りながらあさみがつぶやく 「でも仲上君の味がした・・・これが仲上君の味なんだね」 「えっ?」 眞一郎は少女が見せた女の仕草に驚いた。 「そうだ!仲上君!今日家来ない?」 あさみは思い出したように突然眞一郎を家に誘った。 「はぁ?何でだよ・・・別に行かなくても」 眞一郎の言い分はもっともである。 「うち、今日誰も居ないし、一人でご飯食べるのって何か寂しくない?そう思うでしょ?」 「そりゃあ・・・まぁな・・・」 「それにうち昨日カレーだったから一晩経って美味しくなってるし!うちのカレー美味しいんだよ!」 「ほら、仲上君、私の用事に付き合ってくれるって言ったじゃん!」 あさみが強引に眞一郎を誘う。 意外に眞一郎は女の子の押しに弱い事をさっきのキスであさみは見抜いた。 だから多少強引にでも誘えば眞一郎は断らないとふんだ。 「はぁ・・・しょうがないな・・・でも今日だけだぜ?」 「うん!今日だけ!」 そう言うと二人は薄暗くなった教室を後にした。 学校からあさみの家に向かう途中、二人は色々他愛のない事を話した。 そんな中で、あさみは石動乃絵の事、比呂美の事にだけは極力触れないように気をつけた。 眞一郎の心の中にはきっと比呂美が住んでいて、そこに石動乃絵も住もうとしていると言う事は 女の勘で分かった。自分が眞一郎の心の中に住むことは絶対に無いという事も・・・ それでも、あさみは眞一郎に気づいて欲しくてキスをせがんだ。 それがあさみにもたらしたモノは、眞一郎に自分の初めてを捧げたいという、淡く儚い願い・・・ もしかすると眞一郎は拒むかもしれない・・・そう思いながら二人はあさみの家へ向かって歩き続けた。 手が触れそうで触れない距離を保ちながら・・・ それでもあさみはその自分と眞一郎との間にある見えない壁を乗り越えて 眞一郎の手を握る。 眞一郎は一瞬驚いた表情を見せたが、あさみの手を優しく握り返す。 そんなささやかな幸せをあさみは充分に感じていた。 「ここが私の家。今日誰も居ないから気兼ねしないで入って!」 「へぇ・・・綺麗な家だな」 「仲上くんの家より狭いかもしれないけど・・・」 「そんな事無いよ。うちなんてボロだしな・・・」 「えーっ古い格式のある家って感じでいいじゃん」 「そうかな?」 「そうだよ」 「ちょっと待っててね。すぐ温まるから」 そういうとあさみはガスコンロに火をつけカレーを温めはじめる。 リビングにあるソファーに腰掛ける。 「女の子の家って緊張するなぁ」 「そんな事ないよ~仲上くん意識しすぎ~」 「緊張するもんなんだって!」 「出来たよー」 そういうとあさみはカレー皿に二人分のご飯を盛りつけ、カレーをかける。 そのカレーの横にはシチューもあった。 「シチューもあるのかよ・・・」 「うん・・・うちカレーの時にはシチューも作るんだ。ルーが違うだけだから簡単だよ?」 「そっか・・・でもシチューとカレーって合わないんじゃ?」 「そんな事無いよ!食べてみればわかるって!」 あさみは自分の家の食生活を眞一郎に強要する。 「わかったよ・・・食べるって」 「なら良い」 二人は向かい合わせでカレーとシチューを食べ始めた。 「ん?結構合うな・・・カレーとシチューって」 「でしょ?」 そんな他愛の無い会話でもあさみは擬似夫婦みたいで楽しかった。 二人はカレーとシチューを食べ終わると、お茶を飲みながらくつろぐ 「ふぅー食った・・・食った。旨かったよ」 「でしょ?でもさ・・・カレーって何で二日目が美味しいのかな?」 「知らないよ・・・多分野菜から旨みが出て来るとかそんな感じかな?」 「ふ~ん・・・」 あさみは自分から話を振っておきながら興味無さげといった感じで眞一郎を見つめる。 「ねぇ・・・最近比呂美の感じが変わったんだけど仲上君・・・比呂美に何かした?」 「いや・・・特に何も・・・」 眞一郎はあさみの質問をはぐらかすように答えた。 竹林で告白したその日のうちに眞一郎と比呂美はお互いの思いをぶつけ合い結ばれていた。 眞一郎も比呂美も初めてと言うこともあり、ぎこちないものであったが互いに満足していた。 それからはどちらからとも無く何度もお互いを求め合う関係になっていたのだった。 「ふーん・・・比呂美何か変わったんだよねぇ・・・何て言ったら良いかよくわかんないけど」 「そうか?」 「実は二人は付き合ってるとかそんな感じ?」 あさみが、茶化すように眞一郎を問い詰める・・・ 「なっ・・・んなわけねぇだろ!」 眞一郎がムキになる。 それを見たあさみは直感で眞一郎と比呂美は付き合っている事を見抜いた。 「やっぱり・・・そうなんだ・・・」 「違うって!お前・・・今日なんか変だぞ?キスしてくれとか言い出すし・・・」 「別に・・・変じゃないよ」 あさみは眞一郎と比呂美が仲良くなってくれれば良いと思う反面、 自分が比呂美から眞一郎を奪いたいという相反する欲求を持っていて、それが今、 自分の心の中でせめぎあっているのを感じた。 それが今眞一郎を目の前にして爆発しそうになっている。 「仲上くん・・・比呂美・・・良かった?」 「何言ってんだよお前・・・だからそんなんじゃ・・・」 不意にあさみが眞一郎の唇を奪う。 あさみにとって2度目のキス・・・ 「仲上くんが・・・比呂美と付き合っててもいい・・・私の初めての人になって欲しい・・・」 「これで私・・・諦めるから・・・」 そういうとあさみは眞一郎の前で制服を脱ぎ始めた・・・ 「待てって・・・少し落ち着こうぜ・・・」 眞一郎が慌てて自分の制服の上着をあさみの肩にかける。 「ごめん・・・やっぱ仲上くん優しいんだね・・・だから比呂美が好きになっちゃうのかも・・・」 「いや・・・だから・・・比呂美は・・・」 「ちょっと前仲上くん3組の石動さんと仲良かったじゃない?比呂美・・・あんなに怒るの見たこと無かったから  比呂美は仲上くんが好きなんじゃないかな?って・・・思ったの・・・」 あさみは尚も続けた。 「最近仲上くんと比呂美仲が良くなったなぁって思ってて・・・そしたら仲上くん石動さんとあんま話さなくなったから・・・」 そう言うあさみの目から自然と涙がこぼれてしまい、あさみは眞一郎に抱きついて泣いてしまった。

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